平成24年9月6日の「第5回バイオマス活用推進会議」(内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省の7府省の担当政務で構成)において、バイオマス事業化戦略(http://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/bioi/120906.html:農林水産省ホームページ)が決定された。この中で、家畜排せつ物については、「(1)主に農村部における貴重なバイオマスであり、約90%が周辺農地の堆肥等に利用されているが、メタン発酵による多段階利用を推進するとともに、家畜排せつ物が需要量を超えて過剰に発生している地域等では、直接燃焼・固体燃料化等の堆肥化以外の方法により家畜排せつ物の処理・利用を図ることが重要である。(2)このため、地域の実情に応じて、関係府省・自治体・事業者が連携し、FIT制度(電力の固定価格買取制度)も活用しつつ、メタン発酵と直接燃焼によるエネルギー利用を強力に推進する。(3)その際、自治体・事業者による食品廃棄物の分別回収の徹底・強化と効率的な収集・運搬システムの構築を図り、家畜排せつ物と食品廃棄物の混合消化・利用によるエネルギー回収効率の向上を積極的に推進する。(4)メタン発酵における発酵消化液の肥料としての利用技術の開発と利用を推進する。」とされている。
(1)バイオマス資源の多段階利用(カスケード利用)
地球温暖化問題との関係でバイオマスのエネルギー化が注目されているが、販売価格が高い利用用途を優先すべきで、一般に優先順位は(1)医薬品・化粧品、(2)食料、(3)飼料、(4)肥料(堆肥・液肥)、(5)エネルギー原料となる。焼却・埋設処分や浄化処理といったエネルギーを投入して資源を廃棄することは極力避けるべきとされている。
養豚におけるリキッドフィーディングの導入は、食品廃棄物を資源化する非常に有効な手段である。一方で、稲わらからのバイオエタノール生産の研究も行われているが、畜産地帯においては飼料化を優先すべきで、地域の実情にあった利用法にする必要がある。木質バイオマス発電については、製材や製紙等の用途とエネルギー用途との競合が生じる懸念がある。縦割り行政の弊害であるが、畜産関係者は不利な状態にならないよう常にこういったことに注意を払う必要がある。バイオマス事業化戦略の(1)で直接燃焼や固体燃料化を「家畜排せつ物が需要量を超えて過剰に発生している地域」に限定しているのも資源利用の優先順位に配慮したものである。
(2)畜産における再生可能エネルギーの利用
畜産における再生可能エネルギーの利用としては、(1)自前の資源である家畜排せつ物をメタン発酵や燃焼による発電や熱利用、(2)屠畜廃棄物のメタン発酵や燃焼利用、(3)太陽熱・風力などの自然エネルギーの利用、(4)堆肥発酵熱や牛乳冷却熱の利用、などがあげられる。このなかで、家畜排せつ物の発電への利用に結びつくのは、メタン発酵と鶏ふんの燃焼発電であるので、この二つについて解説する。
(3)メタン発酵
メタン発酵は、家畜排せつ物を嫌気状態(空気を遮断した状態)で貯蔵すると、メタン細菌などの働きにより、有機物がメタンと炭酸ガスに分解される発酵で、タンパク質は即効性のアンモニア態窒素に変わる。発酵の過程で悪臭成分も分解されるため、液肥散布に伴う悪臭公害が防止できるというメリットがある。エネルギーの発生量は中程度で、ほとんど減量しないため、発酵残さである消化液の液肥利用が前提条件となる。また、豚尿の浄化処理の窒素基準が厳しくなり、浄化処理継続の可否判断を迫られた際には、簡易型のメタン発酵設備の導入による液肥利用を考慮すべきである。液肥利用には北海道型と九州型があり、北海道型は飼料畑と畑作への利用、九州型では飼料畑以外に水稲・麦などへの元肥・追肥利用をしていることが特徴である。水稲の場合、表面散布以外に流し込み施用(写真1)が可能で、前日に落水し、給水と同時に液肥施用し、40〜50ミリメートルまで湛水する。この処理方式は、耕種農家が水稲の減化学肥料栽培を行うために要望された液肥利用方式であり、熊本県山鹿市で最初に普及した。九州地域や京都府八木町以外に水稲への利用はほとんど行われていないが、水稲の栽培コストを大幅に削減できる可能性を秘めており(表1)、今後の消化液の液肥利用が期待できる。なお、FIT制度では40.95円/キロワット時(税込み)と高い価格設定がなされているが、メタンガスの発生量を増加させる観点からは、家畜排せつ物のみのメタン発酵よりも、廃棄生乳、生ゴミ、食品残さ等との合併処理が有効である。
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写真1 メタン発酵消化液の水稲への流し込み追肥
(約4トンを20分以内で注入する)
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表1 メタン発酵消化液を活用した水稲・麦栽培のコスト比較(10a当たり) |
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水稲の苗箱施肥を含まず 液肥代には散布料を含む(山鹿市バイオマスセンター)
注:平成22年度の水稲生産における全国平均の肥料代は9,388円/10a |
(4)鶏ふん発電
ブロイラー鶏ふんを主原料に、300トン/日以上の処理量の鶏ふん発電所が宮崎県で3基、鹿児島県で1基稼働している。これらの鶏ふん発電所を建設したのは、畜産集中地域でブロイラー鶏ふん堆肥の流通が困難だったことが主要因である。燃焼発電の場合、1万キロワット時(燃焼規模300トン/日以上)で発電効率は25%程度であり、余剰熱をいかに有効利用するかがエネルギー利用面での課題である。排蒸気を利用できると熱効率は50%まで向上できる。発電効率を上げるには、乾燥した家畜排せつ物を燃焼すると共に、煙突排熱を利用して地域の食品残さを乾燥処理させて飼料化に結びつけるなど、熱利用の改善に努める必要がある。また、毎日発生する焼却灰はリン、カリ肥料として販売できるが、畜産農家が灰の買取経費を一部負担するなどして経費分担の適正化を図る必要がある(図1)。FIT制度では17.85円/キロワット時(税込み)の価格設定がなされており、従来、バイオマス発電の売電価格が平均でおよそ10円/キロワット時前後だった状況と比較して、相当程度、事業性は改善されている。
図1 みやざきバイオマスリサイクル(株)の鶏ふん発電における事業スキーム |
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(5)終わりに
家畜排せつ物のエネルギー利用に関しては、家畜衛生問題の影響を直接受けることになる。鳥インフルエンザが発生した場合、鶏ふん発電所は操業停止を余儀なくされる。大規模化が発電の前提条件となるが、畜産の安定経営と常に板挟みの状態にあることを考慮すべきである。一方で、メタン発酵は消化液利用による耕種農家の所得改善に貢献できる面も多いことから、関東地域などメタン発酵消化液の利用の遅れからメタン発酵の普及が進まない地域についても、利用の促進が望まれる。
(プロフィール)
薬師堂 謙一(やくしどう けんいち)
1978年北海道大学農学部農業工学科卒。同年農林水産省へ入省、農業機械化研究所、草地試験場、九州沖縄農業研究センター、中央農業総合研究センターを経て現職に至る。専門は家畜排せつ物の処理・利用、バイオマスの固形燃料化・ガス化・燃焼処理技術 |
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