海外情報  畜産の情報 2013年7月号


ミャンマーにおける飼料原料生産の展望
〜油糧作物と搾油かすの輸出可能性〜

調査情報部 山ア 博之、木下 瞬

【要約】

 ミャンマーの農業分野は、広大な未利用地や豊富で低廉な労働力などを活かし、政情の安定と経済改革の進展を前提に、農産物の生産拡大が見込まれ、輸出の主力品目である落花生やゴマなどの油糧作物も増産が期待される。一方、飼料原料となる搾油かすは、国産豆類油の価格低迷で減産傾向にあり、当面の増産見通しは厳しい。しかし、中長期的には、油糧作物の増産を背景に、農地基盤などのインフラ整備の促進と国内の諸課題の解決が進むことで、有望な飼料輸出国の1つへと発展を遂げる可能性を有している。

〜はじめに〜

 2012年、飼料穀物価格の高騰を背景に、世界規模で飼料用穀物の調達先の多角化が進み、より安価で安定的な調達先を探る動きは、我が国における食料安全保障上の観点からも加速化していくものとみられる。

 このような情勢のもと、日本の1.8倍(68万平方キロメートル)の肥沃な国土と、隣国タイと同規模の人口6200万人を有するミャンマー連邦共和国(以下「ミャンマー」という。)では、2011年3月に発足したテイン・セイン新大統領率いる文民政府の下で、経済の自由化や市場開放に向けた様々な経済改革が進められている。特に農業分野では、広大な未利用地や低廉な労働力などを積極的に活用した農産物の生産拡大に取り組んでおり、その行方については各国の注目を浴びている。

 本稿では、ミャンマーの主要輸出品目として増産が期待される油糧作物のうち、搾油かすの原料となる落花生やゴマの生産状況を通じて、同国の飼料原料の生産・流通事情について報告する。

 なお、本稿中の為替レートは、1ミャンマー・チャット=0.11円、1中国元=16円(2013年4月末TTSレート)を使用した。

1.ミャンマー農業における油糧作物

 ミャンマーにおいて、農業分野は国内総生産(GDP)の4割を占める主要な産業である(図1)。ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国のCLMV(注1)の中においてもその割合は高く(表1)、国民の7割程度が農業に従事しているとされ、農業への依存が大きいことが、ミャンマーの経済構造の特徴の1つとして挙げられる。

注1:ASEANのうち、1995年以降、新たに加盟した4カ国(カンボジア(C)、ラオス(L)、ミャンマー(M)およびベトナム(V))を指す。

図1 産業別GDP構成割合(2010/11年度)
資料:Myanmar Statistical Yearbook 2011より機構作成
    (国家計画経済開発省:Ministry of National Planning and Economic Development)
表1 ASEAN諸国のGDPにおける農業分野の構成比と一人当たりGDP
資料:ミャンマーの構成比は、Myanmar Statistical Yearbook 2011(2010/11年度)。その他の構成比
    と一人当たりGDPは、ASEAN-JAPAN Statistics 2011(国際機関日本アセアンセンター
    (2009年))、耕地面積割合は、Myanmar Agriculture at a Glance(農業灌漑省:Ministry of
    Agriculture and Irrigation(2009年))より機構作成
 2009/10年度(4月〜翌3月)の耕地面積は、国土面積の約4分の1となる1782万6000ヘクタール(日本の耕地面積の3.9倍)となっており(表2)、ASEAN諸国の中において、その割合は低い(表1)。中部乾燥地域や南部多湿地域における耕作地の割合が概ね8〜9割程度であるのに対し、北部・高原地域のカチン州やチン州では、荒廃地が8割以上、また、全耕地面積の1割を占めるシャン州では、未利用地が6割存在するなど、ミャンマーには広大な未利用地が残されている(表2)。今後、これらの州を中心に、農地基盤やかんがい施設の整備が進むことでさらなる増産が期待できる。
表2 国土利用状況(2009/10年度)
資料:Myanmar Agriculture Statistics (1997-98 to 2009-2010) より機構作成
    (中央統計局:Central Statistical Organization)
  注:年度は会計年度(4月〜翌3月)、以下同じ

【参考】

 ミャンマーの国土は、その気候と地形から大きく3つに分類することができる(図2)。

 1つが、シャン高原をはじめとした国境エリアの北部・高原地域。2つ目が、首都ネーピードーやミャンマー第2の経済都市マンダレーを中心とする中部乾燥地域。もう1つが、タイ南部と長い国境を有するタニンダーリ管区およびエーヤワディー川などの主要河川の下流域を中心とし、旧首都ヤンゴンを有するデルタ地帯で構成される南部多湿地域である。中部乾燥地域や北部・高原地域のシャン州は、油糧作物や豆類といった畑作物が主流となっており、南部多湿地域では、稲作が中心である。

○地域分類(州・管区別)
 ・北部・高原地域:カチン州・カヤー州・カリン州・チン州・シャン州
 中部乾燥地域:ザガイン管区・マグウェイ管区・マンダレー管区
 南部多湿地域:タニンダーリ管区・バゴー管区・モン州・ヤカイン州・ヤンゴン管区、
  エーヤワディー管区

図2 ミャンマーの地域分類
資料:機構作成
  注:北部・高原地域:緑色、中部乾燥地域:黄色、
    南部多湿地域:水色
 ミャンマーの主な作物の生産状況は、図3および表3、表4のとおりである。
図3 作物分類別の作付延べ面積(2010/11年度)
資料:Myanmar Agriculture at a Glanceより機構作成
  注:「その他」には、野菜や果実、香辛料、飲料作物、繊維作物などが
    含まれる。
表3 ASEAN諸国における主な作物の生産量(2009年)
資料:Myanmar Agriculture at a Glanceより機構作成
表4 主な作物の作付延べ面積と生産量の推移
資料:Myanmar Agriculture at a Glanceより機構作成
 ミャンマーでは、稲作を中心に、油糧作物や豆類が重要作物として生産されている。作付面積は、コメやトウモロコシなどの穀物が全体の4割を占めるほか、落花生、ゴマ、ひまわりなどの油糧作物と、大豆や緑豆などの豆類を合わせると、全体の7割強を占める(図3)。生産量では、主食であるコメがASEAN諸国の主要輸出国であるタイやベトナムと同規模であるほか、大豆などの豆類や落花生、トウモロコシの生産量も比較的多い。

 ミャンマーでは、国民の食生活に欠かすことができない食用油を確保するため、旧軍事政権下において、落花生やゴマなどの油糧作物を自給する政策がとられ、これらの作物はミャンマーの風土にも適合していたことから、生産量は年々順調に増加し、今日では外貨獲得のための主要輸出品目となるまで成長した。

2.油糧作物をめぐる事情

(1)油糧作物の生産動向

 落花生は、全体の7割弱が中部乾燥地域で生産され、同地域では2期作による栽培が可能である(表5、図4)。ゴマの生産も全体の9割が同地域で生産され、水源を確保できれば3期作も可能である(表6、図4)。これらの作物は、天水田の裏作でも栽培可能であり、政府も単収を高めるために優良種子の供給を進めるとともに、かんがい設備を要しない同地域のエーヤワディー川流域において生産奨励を行っている。

 生産者は、近隣市場の市況動向を踏まえて、翌期の作付は収益性のより高い作物を選定する傾向にあるが、落花生やゴマについては市場価格が堅調なため、作付面積、生産量ともに増加傾向にある。この背景には、中国が国産よりも安価で良質なミャンマー産の引き合いを強めていることが挙げられる。落花生を例にとると、2010年における中国産との価格差はキログラム当たり70円ほど(図5)であり、その価格優位性から中国への輸出量は増加傾向にある。

市場で取引される豆類

表5 州・管区別落花生生産量(2009/10年度)
資料:Myanmar Agriculture Statistics (1997-98 to 2009-2010) より機構作成
表6 州・管区別ゴマ生産量(2009/10年度)
資料:Myanmar Agriculture Statistics (1997-98 to 2009-2010) より機構作成
図4 作物別の栽培歴
資料:聞き取りにより機構作成(調査時点:2013年4月。以下同じ)
表7 モンユア・セントラルマーケット(マンダレー市近郊)における卸売価格の例
資料:聞き取りにより機構作成
  注:1ビス=1.63kg(以下同じ)
図5 落花生の平均価格の推移
資料:ミャンマー価格はMyanmar Statistical Yearbook 2011、雲南省価格は
    中国農産品価格調査年鑑(中国国家統計局)より機構作成
  注:ミャンマー価格はそれぞれヤンゴン市における平均卸売価格。
    雲南省価格は、地方市場(集貿市場)における平均価格。
 また、近年では、トウモロコシ価格も堅調であることから、栽培時期の重なる大豆などからの作付転換が一部進んでいるものとみられる(表4)。

 マンダレー近郊の地場商社からの聞き取りによると、ミャンマー東北部と国境を接する雲南省の商社や企業は、上海をはじめとした中国沿岸部よりもミャンマー北部地域のほうが距離的に近いという利点から、従来から両地域間において積極的な交易を行ってきた。中国の調達規模は年々拡大傾向にあり、ミャンマー国内の市場価格の変動に大きな影響を及ぼしている。

(2)国産豆類油および搾油かすの動向

ア.国産豆類油の生産動向

 従来、国内の食用油マーケットにおいては、輸入食用油よりも相対的に安価であった落花生油やゴマ油などの国産豆類油が主流であり、増産の傾向にあった。これは、旧軍事政権下において、国産と競合するマレーシア産などの輸入パーム油に対して輸入制限をかけていたため、ミャンマーの国内取引では、輸入パーム油の価格が高値で維持されていたことが背景にある。

 しかし、2011年4月の新政権発足以降、パーム油の輸入は自由化され、マレーシア産をはじめとした輸入パーム油は低廉な価格を武器に市場を席巻した。このため、それまで主流であった国産豆類油の消費は低迷し、国内マーケットは、国産豆類油から輸入パーム油へとシフトした。

 地場商社などからの聞き取りによると、最近の市況では、輸入パーム油の市場価格は、国産豆類油の3分の1程度にまで下落し、市場シェアの8割が輸入パーム油となっている(図6、表9)。その結果、国内製油工場の稼働率は低下し、各地で工場閉鎖や廃業が続発している。
表8 食用油の生産量および輸入量の推移
資料:Myanmar Agriculture Statistics (1997-98 to 2009-2010) より機構作成
図6 食用油平均価格の推移
資料:ミャンマー価格はMyanmar Statistical Yearbook 2011、
    雲南省価格は中国農産品価格調査年鑑より機構作成
  注:ミャンマー価格はそれぞれヤンゴン市の平均卸売価格。
    雲南省価格は、地方市場(集貿市場)における平均価格。
表9 マンダレー市内商社の食用油卸売価格の例
資料:聞き取りにより機構作成

ミャンマー産落花生油

イ.搾油かすの生産動向

 ミャンマー国内の搾油かすの生産も、これまで国産豆類油の生産とともに増産傾向にあったが、2011年以降、国産豆類油の消費・生産の低迷とあわせて減産傾向にある。このため、国産搾油かす類の価格は上昇傾向にあり、関係者によると、この1年で2割から5割程度上昇した。また、経済成長に伴う国内の食肉消費の増加により飼料需要が拡大していることから、政府は、現在、飼料原料となる搾油かすなどの食品製造副産物の輸出を禁止している。関係者からの聞き取りでは、関係業界も現状の輸出禁止政策の維持を強く要望しており、今後の食肉需要の高まりを想定すると、ここしばらくは、飼料や食品製造副産物の輸出を禁止する政府方針が継続される見通しである。
表10 マンダレー市内商社の搾油かす卸売価格の例
資料:聞き取りにより機構作成

ローカル・トレーダーに併設の小規模搾油工場
(モンユア市)
表11 搾油かす類の成分比較
資料:(公社)中央畜産会「日本標準飼料成分表(2009年版)」
注 1:すべて乾物中
注 2:TDNは、上段:牛、中段:豚、下段:鶏

ミャンマー製搾油機による落花生かす、
中国製と比べ粕塊が大きいのが特徴

(3)配合飼料の動向

 ミャンマーの畜産における飼料利用は、牛が概ね粗飼料のみ給与されるのに対し、豚および鶏は濃厚飼料中心である。落花生かすなどの食品製造副産物は粗タンパク質が高く(表11)、濃厚飼料の原料として配合飼料に広く利用されてきた。さらに、国内最大の生産を誇る米作から発生する砕米を始め、トウモロコシ、魚粉、干し魚などの飼料原料は自給が可能となっている。

 一方、飼料原料のうち近年、輸入割合が高まっているのが、大豆や大豆かすである。トウモロコシ生産との競合を理由に国産大豆の供給量が安定しないため、配合飼料メーカーは廉価で調達可能なインド産を多用する状況にある。ただし、インド産の価格は、国際需給のひっ迫を背景に上昇基調にあるため、一部の飼料メーカーでは米国産を調達するなどの輸入先の多角化を検討している。

 飼料原料の配合割合は、飼料成分を基に各メーカーの基準で配合しているが(表12)、最近の搾油かす類の価格高騰を受けて、配合割合を変更するなどの対応がとられている。配合飼料の生産量は、毎年5〜10パーセントの割合で増加を続けており、今後もこの増産傾向は持続するとされる。さらに、メーカーの中には、アフラトキシン(カビ毒の一種)の発生を嫌って、高グレードな飼料原料を求める動きもあるなど、メーカー間の競争は激化している。
表12 飼料の配合割合(養鶏用)
資料:聞き取りにより機構作成

ヤンゴン市内飼料工場

低グレードのトウモロコシ、損壊やコンタミも多い

大豆かすの比較(写真左がミャンマー産、右がインド産)

(4)油糧作物の流通

 油糧作物は主に中部乾燥地域で生産され、主要マーケットであるヤンゴンやマンダレーに集約される。

 生産者からマンダレーなどの主要市場までは、地元の一次集荷者(産地:ローカル・トレーダー)から二次集荷者(産地集荷市場:シティ・トレーダー)を経て、市場取引業者(主要市場:セントラルマーケット・トレーダー)という流通過程をたどる。

 その後、一部は製油工場などの需要者に直接販売されるとともに、残りの多くは、中国との国境貿易を中心に事業展開している国境付近の商社(ボーダー・トレーダー)や中国系商社の代理取引(注2)を行うシティ・トレーダーやセントラルマーケット・トレーダーなどにより、マンダレーから、途中、シャン州の地方市場で集荷されたものとあわせて、主にシャン州北部の国境都市ムセ市を経由し、中国雲南省へ輸出される(図7、図8)。

 このように、マンダレーは油糧作物の主産地であるとともに、流通上の集積基地でもあることから、油糧作物を取引する際には、マンダレーの市況が中心となる。また、マンダレーのシティ・トレーダーやセントラルマーケット・トレーダーは、生産者の作付動向や中国系企業の調達状況を把握できるポジションにあり、これらの者から提供される情報が市況に大きな影響を与える構図となっている。

注2:中国系商社は、市場の会員資格を保有できないため、地場のトレーダーに調達を委託するケースが多い。

セントラルマーケットにおける取引状況
図7 落花生の主な流通経路
資料:聞き取りにより機構作成
図8 ゴマの主な流通経路
資料:聞き取りにより機構作成

3.輸出上の課題

(1)周辺国がミャンマーに与える影響

 ここでミャンマーの地理的状況を確認すると、ミャンマーは中国、インドの2大マーケットと長い国境を有するとともに、タイをはじめとしたASEAN諸国や南アジアのバングラデシュと接するなど、アジア圏の結節点となっている(図9)。このため、主な輸出先も中国、タイ、インド、シンガポールなどの周辺国であり、これらの国々は、ミャンマーに対する欧米の経済制裁が緩和される以前からミャンマーと根強い関係にあった。特に中国とは、1948年の独立以降、1962年の社会主義政権成立を経て、国際社会・経済の両面において親密・依存的な関係にあり、新政権発足以降、外交の多角化が進むものの、依然、その存在は大きい(図10)。
図9 アジア圏におけるミャンマーの地理的優位性
資料:Transport and Trade Facilitation in the Greater Mekong Subregion - Time to Shift
    Gears(アジア開発銀行)より機構作成。
図10 輸出先別輸出総額の割合(2010/11年度)
資料:Myanmar Statistical Yearbook 2011より機構作成
 農業分野における中国との関係では、ミャンマー側が油糧作物やトウモロコシなどの飼料原料を多く中国に輸出する一方、中国側は、肥料や農業機械などの農業資材を供給している。特に雲南省と隣接するシャン州では、トウモロコシや大豆などの主産地であるため、従来からその地理的優位性を活かした国境貿易が盛んであった。

 例えば、シャン州から雲南省までの陸送には半日程度と、ヤンゴンなど沿岸部と比べて短時間で済む。また、決済は、その場で即時、現金で精算されるのが基本で、国内為替・決済事情がまだ発展段階にあるミャンマーにおいて、このように即時決済を行える中国企業には大きな優位性がある。

 一方で、中国の存在感や影響の大きさを懸念する関係者の声も多い。例えば、2011年には、中国による大豆の大量調達により国内供給量が不足し、インドから緊急的に輸入せざるを得ない状況となった。これは、これまでの交易が最近の経済自由化や市場開放により変化し、現在では、ミャンマー政府によるコントロールが難しく、中国側に市場をグリップされる状況が常体化していることを現している。

 その影響の大きさは、直接投資にも現れており、2012年の新外国投資法制定以前から、中国からの投資実績は豊富でその累計額も多い(図11)。今般、同法が施行されたことによって、周辺国以外の国からの投資拡大も予想されたが、依然、中国のシェアは大きい。なお、投資の分野については、電力や石油・ガス、鉱業といったインフラや資源産業への投資が中心で(図12)、調査時点では、飼料原料などの農業分野に対する投資はまだ進展していない状況にあった。また、2010年ごろから中国系企業が、自国に繋がる幹線道路沿いの土地を買収している(注3)という話も聞かれるなど、統計上に現れない投資や支援が実態としてあるとみられる。

注3:ミャンマーでは、法律上、土地は国家が所有することと定められているため、実際には所有権ではなく土地使用権が付与される。
           図11 国別外国投資認可額
               (2011年3月末時点、累計ベース)
資料:Myanmar Statistical Yearbook 2011より機構作成
     図12 セクター別外国投資認可額
         (2011年3月末時点、累計ベース)
資料:Myanmar Statistical Yearbook 2011より機構作成
 一方、タイとの関係においては、バンコクまでの陸送に3〜4日程度要し、入金までに2〜3週間かかる状況にある。海上輸送の場合においては、港での保管コストも発生するなど、中国との取引に比べると、その利便性・優位性に欠けるものがある。しかし、図10や図12のとおり、ミャンマーはタイとも密接な関係にあり、2015年のASEAN経済共同体(AEC)の実現を見据え、中国やCLMV各国とともに、今後より活発な交易が行われるものと考えられ、南北、東西、南部の経済3回廊を中心に、ミャンマー側の道路整備の加速化に期待がかかる(図9)。

 また、インドとの交易においては、インド-ミャンマー間の道路整備が遅れている上、そのルートが国境付近の紛争地域を通過することになるため、隣接国の中国やタイに比べると活発には行われていない。インド側は、ミャンマー経由によるASEAN諸国や中国との交易を見据え、自国内の道路整備などの先行投資を進めているが、ここしばらくは海上輸送が中心になるとの見方が大勢を占める。

(2)輸送インフラの整備状況

 輸送インフラについて、水運はミャンマーを南北に横断し、デルタ地帯を流れるエーヤワディー川がその要となる。しかし、輸送は小型のボートを利用して行われるのが一般的で、はしけが発達していないため、長距離、大量輸送には向いていない。鉄道についても、既存設備が物資の輸送に十分活用されていないため、大量輸送はトラックによる陸送がメインとなる。しかしながら、未舗装や簡易舗装の道路も多く、車両総重量に制限があるなど、輸送量の増加には限界がある。ヤンゴンなどの経済特区を中心とした工業化は急激に進展しており、今後、物流の活性化と地方部からの人口流入による渋滞悪化も懸念される。

 また、輸出の主要港ヤンゴン港は河川港であるため水深が浅く、大型船の入港は不可である。さらに、港の収容能力も小さく、最大のターミナルで1,200TEU(20フィートコンテナ換算単位)となっている。港湾サイロなどはトレーダーを中心に設備の拡充が図られつつあるが、不足感は否めない。このため、輸出の際にはバンコクまで陸送して、バンコク港から出したり、ヤンゴン港から一旦シンガポールまで運び、積み替えたうえで再度、輸送を行う必要がある(図13)。

 こうした中、ミャンマー政府は2015年を目途に南東のダウェー(ヤンゴンから南東に600km)に、大型船の接岸が可能な深海港湾設備の建設計画を有している。さらに、バングラデシュとの国境付近のヤカイン州においても、インドなどの投資により大規模な港を建設する計画があるほか、日本政府も2013年5月に安倍首相が訪緬し、日緬共同声明において、ヤンゴン近郊のティラワ湾の拡張に向けての調査の実施を表明している。

 以上のように、大量輸送を行うために必要な輸送インフラの脆弱性がネックとなって、輸送環境は非効率な状況にあるものの、経済3回廊の進展や港湾設備の拡充などを通して、周辺国とのアクセスについては、徐々に改善される見込みである。

水運のボート、積載量は10袋ほど

中国に通じる幹線道路、
幅も広く舗装状態も比較的良好
図13 ヤンゴンから日本への主な輸送経路
資料:JETRO資料より機構作成

4.今後の見通し

 民主化によって国際社会への復帰を果たしたミャンマーは、海外直接投資の受け入れが容易となり、実体的な成長期に移行しつつある。一方、農業分野においては、投資リターンの長期性やそれに対するカントリーリスクなどに加え、各種国内統計に対する信頼性の欠如や、政府の公式見解、長期計画に対する疑念などが遠因となり、他分野に比べると出遅れ感がある。

 しかし、2015年のAECを控え、ミャンマーはアジアの食料供給基地として一翼を担うことが期待されており、農業分野への投資は、政情の安定と経済改革の進展を前提に、今後、増加していくと考えられる。油糧作物についても、海外直接投資を通じた農業技術の移転や豊富で廉価な労働力の活用、未利用地の利用促進などにより、生産量の増大が見込まれる。

 一方、国産食用油が輸入パーム油に市場を席捲されている現況やAECによる貿易自由化などを考慮すると、飼料原料となる搾油かすが増産に転じるには、困難な環境にあるといえる。換言すると、国産食用油の生産回復のためには、輸入パーム油の輸出競争力に対抗すべく、国内の製油産業に対して何らかの措置が講じられる必要があり、国産食用油、搾油かすともに、この減産傾向はしばらく持続するものと思われる。また、仮に生産量が復調したとしても、輸出禁止品目である搾油かすの輸出解禁には、ミャンマー国内の畜産関係者などの理解を得る必要があり、輸出解禁には、時間をかけた対応が肝要な状況となっている。

 以上をまとめると、短期的な視点では、油糧作物の生産量は増加するものの、それらは国内の豆類油向けとしてではなく、主に油糧種子として中国など海外に多く流通するため、豆類油の製造副産物である国産搾油かす類の増産への寄与は限定的である。搾油かすの生産量の回復や輸出そのものについても、輸出解禁に対する国内関係者の理解醸成など、問題解消に時間を要するのは必至であり、ここしばらくの間は厳しい状況にあると考えられる。

おわりに

 ミャンマーでは、経済成長が進む華やかさの一方で、各種政策の実行段階において、細部の詰めの甘さを露呈しており、政府の計画が画餅となってしまうことを危惧する声も出始めている。投資においては、どの部門にどれだけの額を認可するかといった成長ビジョンを政府が具体的に描けていないため、各国・各企業の思惑により、秩序なき開発に陥る危険性もはらんでいる。

 しかし、2011年3月に発足した現政権は、政策目標に掲げた国民生活の向上を実現させるために、外資誘導や輸出志向型の成長戦略を選択し、これまで一定の成果を残してきた。これに対する国際的な評価は高く、受けた恩恵も計り知れない。また、2015年には総選挙を控えており、今後の政治・経済情勢を予測することは困難ではあるが、これまでの実績や最近の外交姿勢などをみると、現在の方向性を大きく転換する可能性は低くなりつつあると言えよう。

 これまで政府は、外貨獲得のために農産物を輸出に回してきた経緯もあり、同国が飼料及び食品製造副産物の輸出を解禁するか否かは、最終的には政府の采配によるところが大きい。現状においては、様々な懸念材料や課題があるものの、これらの制約が少しずつ解消され、さらには農地基盤などのインフラ整備が促進されることにより、中長期的には、ミャンマーは有望な飼料輸出国の1つとして発展を遂げる可能性を秘めている。

最近のミャンマーの畜産事情

 ミャンマーの畜産業がGDPに占める割合は、水産業とあわせて10パーセント程度にすぎないが、増加傾向にある。畜種別に飼養頭数を見ると、いずれの畜種も増加傾向にあり、畜産業の発展がうかがえる。しかし、口蹄疫やPRRS(豚繁殖・呼吸障害症候群)、鳥インフルエンザなどの各種家畜伝染病が蔓延しているため、飼養頭数の確保のためには、衛生環境の改善が最重要課題である。

表12 飼養頭羽数の推移
資料:畜水省家畜改良・獣医局
○肉牛:ミャンマーでは農業の機械化はほとんど進展しておらず、役畜として牛や
     水牛は重宝されている。このため、肉資源となるのは役用の廃用牛であり、
     肥育はもとより肉牛産業という分野は成立していない状況にある。

○酪農:乳牛の多くは交雑種であり、最近では人工授精(AI)によってホルスタインの
     血統を強めた品種改良が行われている。精液は輸入しているが、統計上、
     AIの増加には現れていない。最近では粗飼料中心の飼料メニューからトウ
     モロコシなど濃厚飼料を給与する動きも見られ、乳量の向上が期待される。
     目下の課題はサイレージ化技術を普及させ、通年で給与する飼料の品質を
     安定させることである。

○養豚:小頭数飼養の庭先経営から近代化する動きが見られ、商業規模でバイオ
     セキュリティ−を徹底した農場も出現しつつある。また、大規模農場は繁殖
     母豚をタイから導入しており、生産性の向上を図っている。

○養鶏:飼料生産から鶏肉販売までを行う外資系インテグレーターと、庭先で飼養
     する零細農家に2極化する動きが見られる。前者は、民主化によって政府
     系の農場が民間に売却される動きが強まり、その割合を年々増加させて
     いる。原種鶏(GP)や種鶏(PS)は米国やフランスなどから輸入しており、
     それぞれの品種に適合した飼料を給与している。また、後者は低廉で低品
     質なトウモロコシを使う傾向にあるため、仕上がりに差が生じる状況にある。
手作業による搾乳の様子、
牛群の乳量は6〜7kg/日(ピンウールィン)
大規模酪農家(100頭規模)の木造牛舎
(ピンウールィン)
 食肉生産においては、鶏肉の占める割合が最も高く、近年の増羽によって急速に生産量が増加した。畜水省家畜改良・獣医局によると、国民一人当たりの食肉消費量も、32.1キログラム(2011年)と、年々着実に増加している。畜産物の生産量は、全体として増加傾向にあるが、品目によってはいまだ不足している状況にあること、恒常的に発生する家畜伝染病の問題があることなどから、国内で生産した畜産物のほぼ全量が、国内で消費されている。また、畜産物の輸出入については限定的である。輸入はホテル消費用に牛肉が少量輸入されている程度であり、輸出はマレーシアや中東向けに冷凍の牛肉や羊肉などの実績があるほか、生体豚が中国やタイに輸出されている。さらに、最近では、中国の旺盛な牛肉需要を受けて、役牛が生体で流出し、ミャンマーの農業生産に影響を与えているという話も聞かれた。
表13 畜産物生産量の推移
資料:畜水省家畜改良・獣医局
出荷前のもと雛(ヤンゴン)

乳用に供されるゼブ種(ヤンゴン)


 
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