海外情報  畜産の情報 2013年7月号

豪州における牧草肥育牛の生産実態

調査情報部(現 特産調整部輸入調整課) 前田 昌宏




【要約】

 我が国における豪州産牧草肥育牛肉(グラスフェッドビーフ)への需要は、消費者の低価格志向を反映して底堅く推移しており、2012年度の牛肉輸入量のうち約4割を占めた。

 牧草肥育牛の生産体系は、我が国の穀物肥育によるそれと異なっていることから、感覚的に理解しにくい、という声も聞かれる。そこで、豪州では牧草肥育牛がどのように生産されているのか報告する。

 実態を端的に表しているのは、「牧草肥育牛生産者にとって、最も重要なのは牛ではなく牧草。」という言葉である。生産者は、自らの牧草地に適合するように飼養頭数(家畜密度)や品種を柔軟にコントロールしている。このような生産体系を可能としているのは、多様な品種や出荷月齢を受け入れられる牛肉産業の懐の深さである。この懐の深さは、さまざまなタイプの牛肉を仕向けられるように、国内・輸出向けを問わず販売先を確保していることによるものである。

はじめに

 豪州は、我が国にとって最大の牛肉輸入先国である。2012年の日本の牛肉輸入量51万5000トンのうち、豪州産は31万9000トンと、約6割を占めた。

 豪州産牛肉はその飼料給与体系により、フィードロットで穀物肥育された牛肉(グレインフェッドビーフ)と、放牧で牧草肥育された牛肉(グラスフェッドビーフ)に大別できるが、豪州の牛肉生産の根幹をなすのは牧草肥育である。

 牧草肥育牛の生産実態については、我が国の穀物肥育による生産体系と異なっていることから、感覚的に理解しにくい、という声を聞くことがある。そこで本稿では、豪州の牧草肥育牛がどのように生産されているのか、基本的事項を整理しながら、生産実態について報告する。また、豪州国内での流通において、牧草肥育牛肉の付加価値向上の一助となり、かつ、生産者の経営改善にも役立っている食味を基準とした格付け制度(Meat Standard Australia、以下「MSA」という。)についても併せて紹介する。

1.日本における豪州産牧草肥育牛の位置づけ

〜豪州からの輸入量が減少する中で、牧草肥育冷凍牛肉は底堅く推移〜

 豪州の日本向け牛肉輸出量は、豪ドル高で推移する為替相場の影響や、それに伴う米国産との競合の激化などにより、ここ最近減少傾向で推移している。2012年の日本向け牛肉輸出量は、2007年比18.3パーセント減の30万9000トン(前年比9.8%減)となっている。この内訳を冷蔵、冷凍の別に見てみると、冷蔵が12万9000トンと、2007年の水準から30.2パーセントの大幅減となっているのに対し、冷凍は17万9000トンと、7.0パーセントの減少にとどまっている。さらに冷凍の内訳を穀物肥育と牧草肥育の別に見ると、穀物肥育は2007年比21.1パーセント減の3万8000トンであるのに対し、牧草肥育は同2.2パーセント減の14万1000トンと、わずかな減少にとどまった。

図1 日本向け豪州牛肉輸出量の推移
資料:MLA
 豪州産牧草肥育牛肉は、安価であることを特徴の一つとしている。2012年度の仲間相場におけるグレインショートフェッドフルセット(短期穀物肥育牛1頭分の部位がセットになった販売形式)の価格は、キログラム当たり853円、グラスフルセット(牧草肥育牛1頭分の部位がセットになった販売形式)の価格は同746円であり、グラスはグレインショートフェッドよりも約13%安価であった(ALIC調べ)。牧草肥育牛肉への需要は、日本の低価格志向を反映し、比較的底堅く推移しており、2012年度における日本の牛肉輸入量に占める豪州産牧草肥育牛肉の割合は、約4割と推計され、一定の位置を占めている。なお、豪州産牧草肥育牛肉は、外食産業などでの加工用として利用されることが多い。

 2012/13年度(7月〜翌6月)の豪州における牧草肥育牛のと畜頭数は、485万頭と、豪州全体(735万頭)の約2/3を占めている。なお、牧草肥育牛のと畜頭数は、2000年になって以降、2002年の600万頭をピークに減少傾向で推移しているが、これは、2002/03年度、2006/07年度、2007/08年度の3度の干ばつの影響によるものである。
図2 豪州のと畜頭数の推移とその内訳
資料:MLA

2.牧草肥育牛の生産実態

 それでは豪州において、牧草肥育牛はどのように生産されているのか。ここでは、生産からと畜までの牧草肥育牛の実態について述べていきたい。

(1)多種多様な豪州の牛肉生産

(1)品種

 豪州で肉牛として主に飼養されている品種は、アンガス種、ヘレフォード種、ブラーマン種などであるが、このほかの品種やこれらの交雑種なども混在している。品種ごとの形質の特徴を数値化したのが表1である。あくまでも目安ということにご留意いただきたい。

表1 品種ごとの形質の特徴(1:悪い〜5:良い)
資料:MLA「Heifer management in northern beef herds 2nd edition」
  注:英国種はアンガス種、ヘルフォード種、ショートホーン種など、欧州種はシャロレー種など、
     熱帯種はブラーマン種など
 肉質の面では、アンガス種、ヘレフォード種などの英国種が優れており、豪州南部で多く飼養されている。しかしながら、熱帯・亜熱帯地域である豪州北部においては、酷暑への耐性やダニの抵抗性(南緯24°以北の沿岸部にはマダニが棲息している)が低いことから、英国種や欧州種の飼養は難しく、主にブラーマン種などの熱帯種や、英国種との交雑種が飼養されている。ただし熱帯種は、肉質の面で英国種と比べて劣っており、ストリップロインやキューブロール、ブリスケットなど、多くの部位で食味にマイナスの影響を与えると言われている。
アンガス種(英国種)
ブラーマン種(インド種)
(2)サプライチェーン

 非常に広大な豪州では、品種間の違いよりも、気象や土壌など、飼養環境の差異が肉質に大きな影響を与える。

 図3に、豪州における肉牛の代表的なサプライチェーンを示した。放牧型の肉牛生産を行っている豪州では、まき牛による自然交配が一般的であり、そのため、一貫生産者や肥育素牛生産者は、繁殖雌牛40〜50頭に1頭程度の割合で種雄牛を所有している。なお、分娩時の事故率低下のため、種牛選定の際には、出生時体重が低いものが重要視される。

 種牛の流通以外では、と畜されるまでの牛の流れとしては、我が国とそれほど大きな違いはない。
図3 豪州における肉牛の代表的なサプライチェーン
資料:ALIC作成
  注:各段階で廃用となった繁殖雌牛(Cow)もと畜される。
 市場取引において、我が国と大きく異なる点は、と畜場への出荷体重の範囲が広いことである。家畜市場(Saleyard)におけるタイプ別の出荷体重の範囲を表2に示した。豪州国内向けの主力となるのは、イヤリング(Yearling)と呼ばれる18カ月齢以下(永久門歯数は0)で枝肉重量が150キログラム以上のものである。イヤリングの出荷体重は、生体重330〜400キログラムのミディアムクラスか、400キログラム以上(おおむね400〜500キログラム)のヘビークラスが大半である。ここからさらに肥育された牛(月齢18〜42カ月齢。さらに細かい月齢の区分けは永久門歯で判別される)の出荷体重の範囲は、400キログラムから750キログラムまでと幅広い。
表2 家畜市場におけるタイプ別の出荷体重の範囲
資料:MLA資料からALIC作成
 こうした出荷体重の違いは、生産者ごとの飼養環境、すなわち牧草の生育状況によるところが大きい。降雨や土壌に恵まれ、牧草の生育状況が良好であれば、肥育期間を十分にとることができるが、土地がやせている場合や干ばつなどにより牧草の生育が悪ければ、出荷体重に達していなくても出荷せざるを得ない。

(2)牧草管理

 豪州における牧草管理の指標については、図4のとおりである。ヘクタール当たりの可食可能な牧草の単収(乾燥重量ベース)が、1,500〜2,500キログラムの状態が放牧には最適であるとされている。1,000キログラム以下の場合は葉の量が少ないため、3,000キログラム以上の場合は枯れた部分が日光を遮るため、牧草の生育が鈍化する。
図4 豪州における牧草管理の目安
資料:MLA
  注:数値は乾燥重量ベース
 生産者は、1,000〜3,000キログラムの範囲を維持していくため、牧草地を(1)放牧に利用する牧区、(2)牛を放さずに牧草の成長を促す牧区に分け、ローテーションで牛群を移動させていく。牛の採食量が牧草の成長速度を上回る場合は、早期出荷(淘汰)や購入飼料の利用などが必要となる。また、ほかの生産者に料金を支払い、草地を間借りして、飼育を委託することがある(アジストメントと呼ばれる)。この料金は季節や降雨量によって変動するが、2013年3月時点の聞き取りによれば、ニューサウスウェールズ州北部において、9−18カ月齢の肉牛1頭につき、週当たり4豪ドル(400円:1豪ドル=99.93円、5月末日TTS相場)、18カ月齢以上の牛につき同5〜6豪ドル(500〜600円)であった。
(参考) Pasture Ruler :牧草の長さから単収を予測するキット
資料:MLA

(3)肉牛価格の季節性

 前述のとおり、牧草の生育状況が肉牛の出荷時期を大きく左右することから、肉牛価格には季節性がみられる。図5は、豪州の肉牛価格の指標として用いられている東部地区若齢牛指標(EYCI)価格※の過去15年平均を示したものである。3〜5月(秋から冬にかけて)と9〜12月(春から夏にかけて)に、EYCI価格は弱含みで推移することがわかる。これは、分娩期の前後であることや、牧草の成長が季節的に鈍化するためである。一方で、5月〜8月までは春に向けて牧草の生育状況が良化することから、生産者間の牛への引き合いが強まり価格は上昇する。生産者は、こうした価格の季節性による変動を織り込んだ経営を行っている。

*EYCI価格は東部3州(QLD州、NSW集、VIC州)の主要家畜市場における若齢牛の加
  重平均取引価格(枝肉重量ベース)。家畜市場の指標価格となっており、肥育牛や経産
  牛の家畜市場価格などとも9割近い相関関係にある。

図5 EYCI価格の過去15年の平均値
資料:MLA

(4)生産コスト

 牧草肥育牛の生産コストは、豪州農業資源経済科学局(ABARES)の資料によると、2007/08年度の牧草肥育牛の生体重1キログラム当たり、豪州南部で154.6豪セント(154円)、北部で170.1豪セント(170円)であった。(表3参照)

 注目すべきは、肉牛生産コストに占める飼料費の割合である。我が国では、生産コストのうち飼料費が4〜5割を占めるが、放牧による生産体型をとっている豪州では1割以下と、非常に安価になっている。

 一方、我が国と比較して金利が高い豪州では、支払利息(表3では「その他」に含まれる)がコストの中で大きな割合を占めている。

 豪州における生産コスト低減の取り組みについては、適正な飼養頭数規模を維持することが挙げられる。すなわち、1頭当たりに要する家族労働費を含む人件費を最小化することである。聞き取りによれば、夫婦2名での家族経営の場合、肉牛1,000頭程度(繁殖牛500頭、肥育牛500頭)飼養できるとのこと。また、肥料を活用して、牧草地を最大限に利用することも重要である。
表3 豪州の肉牛生産コスト(2007/08年度)
資料:ABARES

3.牧草肥育牛の価値向上をサポートするMSA

(1)MSAの概要
 〜期待される食味で格付け〜

 多くの品種が混在することに加え、牧草肥育牛肉は、牧草の量や品質に左右されるため、肉質を一定に保つことが難しい。多様性に富む牧草肥育牛肉を選ぶ際に、消費者にとってわかりやすい基準を提供し、牛肉消費の拡大に資するために実施されているのが、MSA(Meat Standard Australia)という取り組みである。

 MSAを一言で表すと、「食味を基準とした枝肉および部分肉の格付け」となる。

(1)枝肉の評価

 各枝肉について、表4の項目の測定を行う。これらの総合評価により、枝肉は1(良い)〜14(悪い)段階のボーニンググループ(Boning Group)という格付けで評価される。これはブランド牛肉の裏付けに使用される。例えば、ある食肉加工業者では、最上級のブランドをボーニンググループ1〜4、次級のブランドをボーニンググループ5〜8というように整理している。

表4 MSAにおける枝肉の評価項目
資料:MLA

(2)部分肉の評価

 この枝肉評価に基づき、MSAの基準を満たした部分肉ごとに、3から5までの3段階の評価(3:Good、4:Better、5:Premium、MSAグレードと呼ばれる)が付けられる。当然ボーニンググループが良いほど高いMSAグレードを得やすいが、MSAグレードは、部位、エイジング(熟成)日数、調理法にも左右される。興味深いのは、同一の枝肉であっても部位ごとにMSAグレードが異なるという点である。テンダーロインのような高級部位は高いMSAグレードを得やすい。MSAグレードは期待される食味を表しているため、高級部位ほどおいしいということをわかりやすく消費者に伝えることが必要だからである。

 なお、MSAについてのさらに詳細な情報については、畜産の情報2012年10月号「牛肉の付加価値を高めるMSAプログラム」を参照されたい。

(2)肉牛農家にとってのMSA
 〜飼養管理改善、収益向上に寄与〜

 肉牛生産者にとって、MSAプログラムの利点は、良質な肉牛を生産すれば、それに見合った対価が支払われるようになったところにある。MSAの対象となった枝肉には、そのボーニンググループに応じてプレミアが支払われる。2011/12年度のニューサウスウェールズ(NSW)州およびクイーンズランド(QLD)州におけるMSAプレミアの平均額を性別、枝肉重量ごとに図6に示した。例えば180〜220キログラムの去勢牛であれば、MSA取得によるプレミアの額は、NSW州でキログラム当たり14豪セント、QLD州で同20豪セントとなる。これは、通常の枝肉価格の約4〜6パーセントに相当すると推計され、生産者にとっては魅力的なインセンティブである。なお、QLD州のプレミアがNSW州に比べて高いのは、QLD州では熱帯種の割合が高いため、MSAの取得がNSW州よりも難しいためである。
図6 MSA若齢牛の平均プレミア価格(2011/12年度)
資料:MLA
 MSAは任意の登録制度となっており、出荷した枝肉がMSAの対象となるためには、生産者はMSAへの登録が必要となる(登録料は無料)。MSA取得のためには、ストレスなどによる肉質の低下を防ぐため、表5に掲げられた点について遵守する必要がある。また、肉質を良くするために、成長ホルモンの使用を控えることや、多少の穀物を給与する場合もある。そのため、通常よりもコストは高くなるが、プレミアがコスト上昇分を上回れば、生産者の収益性向上に寄与することとなる。
表5 肉牛の飼養管理や出荷における注意点・遵守事項
資料:MLA
※MSA VDとは肉牛出荷者証明書のことであり、生産者が自ら肉牛の品種を保証するもの。
 生産者情報(名前、電話番号、MSA登録番号)、出荷日、輸送時間、熱帯種の血統割合などが
  記載される。
 肉牛出荷の際に、家畜生産保証制度の全国肉牛出荷者証明書(LPA NVD)と共に提出する
 こととなっている。
 NSW州北部の生産者A氏を例に挙げたい。A氏は、約500頭規模の繁殖一貫農家であり、10カ月齢程度の肉牛を出荷している。2011/12年度に出荷した180頭のうち、MSAを取得できなかったのはわずか1頭のみであった。

 A氏はまず、MSAの取得率を高めるため、品種改良に着手した。それに役立ったのが、図7のフィードバックシートである。MSAの肉質評価を受けた枝肉については、表4の項目を網羅したフィードバックシートが生産者に対して交付される。A氏は肋骨部の脂肪厚に着目し、それまで利用していたシャロレー系からマリーグレー系の種牛に切り替えを行った。シャロレー種は脂肪厚が薄くなる特徴を有し、脂肪厚が2mmのものが出荷頭数の10〜15%程度発生し、MSAの不適合となっていたためである。

 さらにより脂肪交雑を高めてより高いプレミアを得るために、7カ月齢程度から出荷まで、自由採食による濃厚飼料の給与を行っている。この結果、ボーニンググループはコンスタントに1〜4を取得できるようになり、さらに安定的に高品質の牛肉を提供できるということで、小売店からの引き合いも強まった。この結果、一頭当たりの未経産牛(Heifer)販売額は、濃厚飼料給与前は約550豪ドル(約5万5000円)であったが、給与後の現在は、枝肉重量の増加もあるため、約210豪ドル高い約760豪ドル(約7万6000円)となっている。濃厚飼料給与に要する一頭当たりの割増経費は約120豪ドル(約1万2000円)である(濃厚飼料代金:450豪ドル/トン、1頭当たり給与量:約250キログラム/2.5〜3カ月)ため、一頭当たりの収益性は約90豪ドル向上することとなった。
図7 MSAによる肉牛農家へのフィードバックシート
注:評価項目の内容については表4参照
 MSAについては、飼養管理の改善などを図った生産者が報われる制度として、生産者からの評価は高い。MSAの肉質評価を受けた肉牛の頭数は、最近大手スーパーマーケットがMSA牛肉の取扱いを始めたことなどから増加傾向にあり、2012/13年度で220万頭と、全と畜頭数の約3割を占めている。

 2005年、MLAは外部のコンサルタントである国際経済センター(Centre for International Economics)に依頼して、MSAの費用対効果について測定を行った。この結果について、MSA開始から2026年までの30年間に2億1000万豪ドル(210億円)の経費を要するが、牛肉の付加価値向上による業界の利益は9億3200万豪ドル(932億円)に上ると試算されている。

豪州国内の牛肉流通コスト

 MSAは、「Paddock to Plate(農場から食卓まで)」を標語としている。豪州国内において、生産者から出荷された肉牛が牛肉となって小売店に並ぶまでに、どのように価格形成されていくのであろうか。牛肉の流通コストについて、豪州農漁林業省がモデルの一つとして試算したものがあったので紹介したい。

(参考) 図 豪州国内の牛肉流通とそのコスト
(参考)食肉小売店における販売コスト算出基礎
資料:豪州農漁林業省資料などからALIC作成
 本試算は、一般的な精肉店(経営者1名、従業員3名)を想定したものとなっており、大手スーパーマーケットなどの大規模な販売店ではこれを下回るコストとなることに留意されたい。温と体枝肉1キログラム当たり3.26豪ドル(2011/12年度における生体重400〜500キログラムの去勢牛の平均価格)の場合、卸売までのコストはキログラム当たり6.13豪ドル(613円)、小売までのコストが11.68豪ドル(1,167円)と推計される

おわりに

 「我々にとって、最も重要なのは牛ではなく牧草。」と語る牧草肥育牛生産者は多い。この言葉は、牧草肥育の特徴を端的に表現していると考えられる。牧草肥育牛生産者は、自らの牧草地に適合するように飼養頭数(家畜密度)や品種を柔軟にコントロールしていく必要がある。このような生産体系を可能としているのは、多様な品種や出荷月齢を受け入れられる牛肉産業の懐の深さである。

 この懐の深さは、さまざまなタイプの牛肉を仕向けられるように、国内・輸出向けを問わず販売先を確保していることによるものであろう。これはすなわち、豪州にとって、販売先の維持・拡大が常に牛肉産業にとっての課題、と言い換えることができる。その課題に向けた取り組みの一つとして実施されているMSAは、生産者と販売先の連携を図り、ともに利益を得ているという点で注目に値する。

 我が国においても、販売先のニーズにあわせた生産現場の取り組みが課題となっているという点で、こうした豪州の事例が参考になる点もあるのではないだろうか。


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