需給動向 海外

◆米 国◆

鶏肉生産の増加傾向が継続の見込み

◇絵でみる需給動向◇


 米国農務省経済調査局(USAD/ERS)が4月16日に公表した「Livestock, Dairy, and Poultry Outlook」によると、2013年第1四半期の鶏肉生産量は、415万5000トンと、前年同期をわずかに上回る見込みとなった。この数量は、当初の予想を下回っているが、これは、1月、2月の処理羽数が見込みよりわずかに減少したことが要因となっている。1月の鶏肉生産量は、前年同月比5.7パーセント増の、149万7000トンとなったが、2月は131万5000トン(同2.6%減)となった。2月の処理羽数は、同3.6パーセント減と鶏肉生産量の減少幅を上回ったが、ブロイラーの処理時生体重が、1羽当たり2.68キログラム(同1.4%増)となったため、鶏肉生産量の減少は抑えられた。なお、3月は、前年より休日が1日多いため、処理羽数は前年をわずかに下回ることが見込まれるが、2月と同様の要因により、鶏肉生産量の減少はごくわずかになると見込まれている。このため、四半期でみると、前年同期比でわずかに増加するとの見込みとなっている。

 年間の鶏肉生産量が前年をわずかに上回るという見込みは、ブロイラー用種卵生産個数と、雛の発生状況によっても裏付けられている(米国農務省農業統計局(USDA/NASS)「Broiler Hatchery Report」)。3月9日から4月6日の5週間でみると、主要19州のふ卵器への設置卵数は、週平均で2億個となっており、前年同期比で1パーセント増加している。また、5月中旬以降、第2四半期末にかけて処理されることになる、同期間に養鶏場へ送られた雛の数は、同0.2パーセント増加しており、第2四半期以降も、鶏肉生産量の増加が見込まれる。

 今後の鶏肉生産動向に影響を与える要因としては、(1)飼料費に大きく影響する今年のトウモロコシと大豆の作柄を、インテグレーターがどのように予測するか、(2)食肉の消費動向に直結する米国の景気動向、(3)米国産鶏肉の輸入需要−が挙げられる。なお、飼料費の関連では、米国国内の生産状況だけでなく、昨年の干ばつによるトウモロコシの不作の影響により大規模な輸入が開始された南米産トウモロコシの生産・価格動向も、インテグレーターの判断に影響するものとみられる。

鶏肉在庫は積み増し

 一方、鶏肉の在庫は、2012年第4四半期の鶏肉生産が増加傾向で推移したことや、2013年第1四半期の生産量が前年比で微増となったことにより、前期から積み増した。2月末時点での鶏肉在庫量は、前年同月比8パーセント増の27万9000トンとなった。部位別にみると、もも肉などのいわゆる「ダークミート」は、ドラムスティックともも肉(骨なし)がともに同15パーセント減と大幅に減少している(ただし、骨付きもも肉の在庫は増加。)。

 食肉では、在庫数量の増減が価格に影響を与えることが通例となっているが、第1四半期の鶏肉については、部位によって価格動向が異なっている。例えば、2月末現在の卸売段階での丸どりの在庫は、7,257トンと前年同月比で17パーセント増加しているが、卸売価格も上昇している。一方、手羽の在庫は、同86パーセント増の2万8576トンまで急増し、価格は2月中旬から低下し始めた。今後は、経済の回復により国内消費が増加すると見込まれていることから、2013年の期末在庫は、前年比では2パーセントの減少となることが見込まれている。

むね肉価格が回復、手羽の価格は急落

 2013年第1四半期の丸どりの卸売価格は、全国平均で前年同期より18パーセント高い、キログラム当たり2.29ドルとなった。3月最終金曜日のジョージア港積み出し価格では、丸どり価格は2.25ドルとなっており、前年同期より9.9パーセント高くなっている(米国農務省農業流通局(USDA/AMS)「Broiler Market News Report」)。丸どり価格は高くなったが、部位別の価格動向にはばらつきがある(図11)。
図11 鶏肉部位別価格の推移

資料:USDA/AMS「Broiler Market News Report」
  注:各月6日の価格
 むね肉(骨、皮なし)は、年明けに前年同期比10.1パーセント高のキログラム当たり3.62ドルを付けた後、四半期を通じて高値で推移し、3月最終金曜日も同10.2パーセント高の3.94ドルとなった。さらに、4月以降も値を上げ続け、5月3日には同24.9パーセント高の4.53ドルとなった。価格上昇の要因として、高値で推移している牛肉からの振り替え需要が発生していることが考えられる。一方、もも肉(骨、皮なし)は、年明けに同14.9パーセント高の2.98ドルとなった後、3月最終金曜日の3.10ドルまで3ドル以上の価格を維持しているものの、前年同期比では6.5パーセント高まで緩んだ。さらに、手羽については、2011年9月上旬までは2ドル以下で推移していたが、同月中旬以降急速に値を上げ、同年末には3.53ドルとなった。その後、2012年は年間を通じて4ドル以上の高値を維持した。2013年は4.21ドル、前年同期比12.4パーセント高で始まったが、2月最終週から急速に値を下げ始め、3月最終金曜日には同7.7パーセント安の3.84ドルとなった。手羽は、ブロイラーの大型化による供給不足とスポーツ観戦の際のスナックとしての人気の高まりによって、2012年中はむね肉の価格を上回る高価格が続いていたが、3月以降の荷動きが悪く、4月に入っても急速に価格が低下しており、5月3日には同23.3パーセント安の3.04ドルとバブルがはじけた感がある。

第1四半期の輸出は前年同期から増加するも、さらなる輸出増を画策

 米国農務省海外農業局(USDA/FAS)によれば、米国産鶏肉の輸出は、2月に前年同月比8パーセントの減少となったが、これはアンゴラ(同35%減)、台湾(同49%減)、香港(同60%減)向けが大幅に減少したことが原因となっている(図12)。しかし、3月の輸出量は、アンゴラ、ロシア、メキシコ、中国、イラク向けが増加したことにより、同9.5パーセント増まで回復しており、第1四半期の輸出量は、前年同期を1.3パーセント上回る79万8000トンとなった。

 輸出先国別では、メキシコが前年同期比13.1パーセント増の14万5110トン、ロシアが同35.7パーセント増の7万1894トン、アンゴラが同74.2パーセント増の4万6260トン、中国が同106.3パーセント増の4万1476トンと輸出先上位が大幅に増加した。

図12 鶏肉輸出量の推移
資料:USDA/FAS「Global Agricultural Trade Statistics」

 このように順調に輸出量を拡大している米国産鶏肉だが、人口2億4000万人(2012年推計)を有するイスラム教国であり、鶏肉の消費が多いインドネシアに対しては、2011年が62トン、2012年が35トンとほとんど輸出実績がないに等しい状況が続いている。米国通商代表部(USTR)は、同国の鶏肉を含む園芸作物および動物・動物生産品の輸入許可制度が煩雑で恣意的な規制が行われているとして、2013年1月10日にWTO協定に基づき、同国に対して改善のための協議を申し入れたが、同国はこれを拒否した。このため、USTRは、WTOに対し、本件に係る裁定パネルの設置を求め、4月24日に、紛争解決のためのパネル設置が決定された。同パネルには、日本のほか、豪州、中国、韓国、台湾、カナダ、EUが第三者として参加することとなっている。輸出は、米国の食肉業界にとって国内生産をけん引する大きな要因となっていることから、米国としては、プロモーション活動では解消できないインドネシアの非関税障壁に業を煮やした結果となった。


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