調査・報告 共同調査  畜産の情報 2013年6月号

先進国におけるバイオガスプラントの利用実態に学ぶ
〜北海道における再生可能エネルギーの利用促進に関する共同調査報告書〜

帯広畜産大学大学院畜産学研究科 教 授 梅津 一孝
北海道バイオマスリサーチ株式会社 取締役 竹内 良曜
調査情報部長 岩波 道生
(現 農林水産省生産局畜産部畜産振興課 草地整備推進室長)


【要約】

 平成24年7月から再生可能エネルギーの固定買い取り制度が開始され、買電価格・期間の面では投資環境が整備されたが、家畜ふん尿等を原料とするバイオガス発電は当初期待されていたほど増えていない。
 固定買い取り制度の先行国であるドイツの調査から、バイオガス発電普及のためには、(1)施設の建設コスト低減、(2)施設の維持管理に関するノウハウの蓄積、運転管理者の教育、トラブル発生時の緊急支援体制の構築、(3)送電線網への円滑な接続、などが課題と考えられる。

1.調査の目的

 再生可能エネルギーの関心が高まりを見せる中、平成24年7月1日に施行された「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(以下、本稿では「FIT法」と表記する。)」により、電力会社に対して太陽光、風力、バイオマス、地熱、中小水力等に由来する電気を一定期間、固定価格で買い取ることが義務付けられた。これにより、再生可能エネルギーを活用した発電事業に対する新規参入を増やし、国内総発電量の1.4%にとどまる再生エネルギーの導入促進が図られることとなった。

 酪農・乳業においても多数のバイオガスプラントがすでに導入あるいは計画されているが、多額の資金を要し、技術的にも複雑なことから、最新のノウハウを活用して最善のプラントを建設することが特に重要となっている。

 このため、独立行政法人農畜産業振興機構では、酪農専業地域である北海道を念頭にバイオガスプラントの専門家と共同で、ドイツ・バイエルン州において酪農・乳業が有するバイオマスの効率的活用のための技術を調査し、国内への導入の可能性を検討したので、その概要を報告する。

2.北海道のバイオガスプラントの現状と課題

(1)バイオガスプラントの稼働実態

ア.設置・稼動の現状と導入目的

 北海道内では、平成7〜23年の間に54基の家畜ふん尿を原料とするバイオガスプラントが建設された。建設された54基のうち、41基が稼働しており(24年3月時点)、残りの13基は停止中、もしくは施設が撤去されている。実験施設として建設されたプラントの多くは、実験期間の終了に伴い撤去された。

 建設年次別に見ると、16年の9基を最大として、17年以降の建設数は減少傾向となっている(図1)。
図1 バイオガスプラント建設数の推移

出典:「バイオガスプラントの稼働実績調査業務」
    帯広市(平成24年2月)
 プラント導入の目的と効果について見ると、導入前の目的としては、(1)悪臭汚染対策が最も多い20パーセントを占め、続いて(7)消化液の自家利用が15パーセント以上を占めている。この2つの項目は、導入後も効果があったとの回答も多く、衛生的な家畜ふん尿の管理・処理とふん尿肥料分の有効活用に貢献している。

 導入後の効果としては、(1)悪臭対策が30パーセントと最も多く、続いて(7)消化液の自家利用が25パーセント以上を占めているのに加えて、(9)ふん尿処理作業の軽減が20パーセント、(2)環境汚染対策と(5)熱の自家利用がそれぞれ15パーセントと、導入前の目的では指摘が少なかった項目においてもプラント導入の効果が確認された(図2)。
図2 バイオガスプラント導入の目的と効果

出典:「バイオガスプラントの稼働実績調査業務」
    帯広市(平成24年2月)
イ.施設の概要等

 処理頭数は、対象38施設のうち、100頭未満が13パーセントであり、平均処理量は1日当たり3トンである。100〜200頭規模が42パーセント、200〜300頭規模が24パーセント、300頭以上が21パーセントで、平均処理量はそれぞれ同12トン、同23トン、同43トンであった。プラントの安定稼働のためにはある程度の規模が必要なことを示唆している。

 道内の乳牛ふん尿を原料とするバイオガスプラント44基のうち、高温発酵は6基の14パーセントであり、中温発酵が38基の86パーセントとなっている。滞留日数は、中温発酵で13〜37日(平均30.2日)、高温発酵で12〜17日(平均14.1日)となっている。

 鋼板製の発酵槽の平均容量は約380立方メートルなのに対してコンクリート製は約870立方メートルとなっており、大規模施設では強度、建設費の面でコンクリート製が採用されているケースが多い。

 調査対象の施設におけるふん尿1トン当たりのバイオガス発生量は26立方メートルであり、乳牛ふん尿からの一般的なガス発生量(25立方メートル)を上回っていた。  

 発生したバイオガスの脱硫設備は、乾式脱硫方式が38パーセント、生物脱硫方式が30パーセント、乾式・生物脱硫方式併用が26パーセントとなっている。

 バイオガスの貯留設備は、乾式ガスバッグ式が最も多い43パーセントであり、続いて湿式ドーム式が26パーセントとなっている。

 北海道では、冬期は積雪や土壌凍結により、消化液のほ場散布ができないため、冬期間に発生する消化液を貯留できる貯留槽が必要である。調査対象の平均では、153日分の消化液貯留槽を有していることがわかった。

 バイオガスの利用状況を見ると、プラントに設置される発電機の出力は25キロワットと30キロワットが最も多く、合わせて全体の19パーセントを占め、次いで40キロワットと50キロワットが10パーセントとなっている。また、ガスを燃焼させるボイラーの出力は30メガカロリーから200メガカロリーの範囲であり、60メガカロリーと100メガカロリーがそれぞれ20パーセントと最も多い。

 バイオガスプラントのランニングコストを規模別に見ると、処理頭数100頭未満では、乳牛1頭当たり2万9400円なのに対し300頭以上では1万3800円と、頭数が増加するほどコストが低下する傾向にあることがわかる。

 技術的なトラブルの発生状況を見ると、発酵槽に関するものが全体の47パーセントを占め、その内、配管などの閉塞が33パーセントと一番多かった。理由としては、原料への敷料混入や厳冬期の凍結が挙げられている。

(2)バイオガスプラントの活用に当たっての課題

ア.消化液の有効活用

 牛ふん尿を原料とするバイオガスプラントからの消化液は、アンモニア態窒素の割合が多く、施肥効果が高く土壌・水質汚染を低減させる効果がある。また、総有機酸量が大幅に減少するため、スラリーに比べ汚臭が軽減される。さらに、消化液中には土壌改良効果を持つ腐植酸が多く含まれ、発酵過程で熱を発生し雑草の種子や病原菌が死滅するため、有用な有機質肥料であると言える。

 なお、バイオガスの消化液は、化学肥料換算で1トン当たり2,600円程度の肥料成分(N・P・K)が含まれている有用な有機肥料であり、乳牛1頭当たりに換算すると、1年間に窒素8,120円、リン7,080円、カリ48,200円、合計63,400円の経済価値があると試算されている。

 酪農家がバイオガスプラントを利用するメリットは金銭面に表すことが難しいが、ふん尿処理・散布作業や悪臭に対する苦情からの解放といった定性的な効果が大きい。他方、消化液を利用することによる効果としては、肥料費の削減といった直接的な効果に加え、食の安全、有機質肥料に対する安心感、消化液が持つ化学肥料にはない効果などが耕種農家にも理解・認知されつつあるものと推測される。

 しかしながら、消化液を耕種農家、もしくは酪農家のほ場に散布している場合の散布料金は1トン当たり300〜600円と散布手間賃程度にとどまっており、肥料としての価値を反映したものとはなっていない。バイオガス事業を推進するためには、消化液の価値を適正に評価すると共に、畜産分野のみならず、家庭菜園や園芸作物用の開発、海洋性植物や森林への施肥などにより、流通・利用を促進する仕組み作りが重要である。

イ.バイオガスの有効利用

 生産したバイオガスの利用率は96パーセントであり、4パーセントは余剰ガス燃焼装置で焼却処分されている。調査施設のほとんどが生産したガスをボイラーの燃料として使用している。他方、発電を行っているプラントは、売電単価が低いことや発電機のイニシャル・ランニングコストが高いとの理由から3割弱にとどまっている。さらに売電事業を行っているのは2割となっている(FIT法施行前の調査結果)。

(3)バイオガスプラントの普及に向けた課題

 今後、バイオガスプラントの普及に向けては、地域への啓発、技術開発、プラント運転に対する支援組織構築など、ソフト・ハード両面での取り組みが必要となる。

 家畜ふん尿を原料とするバイオガスプラントが集中する十勝地域のバイオマス系廃棄物量は年間920万4000トンであり、十勝地域が大規模な畑作・酪農地帯であることを背景に、バイオマス系廃棄物全体に占める農業残さや家畜ふん尿の割合は高い。バイオマス系廃棄物全体の76パーセントが製品・堆肥等として利用されているものの、24パーセントが未利用であり、その大分部が「ほ場における農業残さ」である。

 プラント利用者の要望を見ると、イニシャルコストとランニングコストの低減を望む声が最も多い26パーセントを占め、続いて売電価格の引上げが21パーセント、機械トラブルの解消が18パーセント、ガスの有効利用が15パーセントであった。これらのことからも分かるように、バイオガスプラントの普及に向けては、プラント建設費の低コスト化が最大の課題であり、FIT法施行以前に導入されたバイオガスプラントは、ハイスペックな発電・売電施設を導入したことによるランニングコストの高額化などがプラントの運営に悪影響を及ぼしている。このため、低コスト化と共に、地域、農家の現状に見合った施設・機器の設計や管理・運営をサポートする体制の構築がプラントの普及に必要である。

3.ドイツの再生可能エネルギー法の概要等

(1)EEG法の概要

 ドイツの再生可能エネルギー法(以下、「EEG法」という。)は、1991年に制定された電力供給法を引き継いで2000年4月1日に施行された。EEG法は、日本を含む40以上の国において、再生可能エネルギーの利用に関する法体系のひな形として利用されたと言われている。

 EEG法は、エネルギー源の多様化・国産化による安全保障、地球温暖化の防止等の環境保護等を目的として電力供給の大部分を再生可能エネルギーによる電力に転換することを目指しており、本法の下で再生可能エネルギーの利用が急速に進展した。

 ドイツが世界に先駆けてEEG法を制定した背景としては、京都議定書において温室効果ガスを8パーセント削減することを約束したこと、2002年に「電力の営業的生産に向けての核エネルギーの利用の整然とした終結に関する法律」を制定し、すべての原子力発電所を順次閉鎖することを決定したことなどが挙げられている。

 EEG法では、再生可能エネルギー利用の目標(第1条)として、電力供給に占める再生可能エネルギーの割合をそれぞれ遅くとも、2020年までに35パーセント以上、2030年までに50パーセント以上、2040年までに65パーセント以上、2050年までに80パーセント以上に引き上げることを目標として明定している。

 さらに、EEG法では、再生可能エネルギーによる発電設備の送配電網への優先的接続、電力網運営事業者による当該電力の優先的引き取り、送電、配電と法律で定められた補償金の支払い、補償金を支払って引き取られた電力を電力市場において差別なく販売することなどが規定されている。

(2)EEG法改正の推移

 EEG法は2000年4月に施行され、その後2004年8月1日と2009年1月1日の全面改正を経て、2012年1月1日の一部改正により最終版となっている。この間の改正点としては、当初は作付面積の拡大に向けて振興対象であったエネルギー作物が一転してこれ以上の拡大を抑制する方向に転じたこと、変化する経済諸情勢に対応して、各種のプレミアムを変更・新設してきたことなどが挙げられる。EEG法の改正に伴ってバイオガスプラントの新設数も大きく変化している(図3)。
図3 EEG法の変遷とメタンガスプラント設置数等の推移

出典:ドイツ・バイオマス連盟資料を基に作成。

(3)2012年EEG法

 ドイツのバイオガスプラントの特徴として、原料に占めるエネルギー作物の割合が高いことが挙げられる。エネルギー作物は、バイオガスプラントの原料とするために栽培されるトウモロコシ、小麦、てん菜と定義されており、バイオガスプラントが急速に普及する原動力となっている。以前は主な原料であった家畜ふん尿や有機廃棄物などはマイナーな存在となった。

 日本の感覚からすると、トウモロコシや小麦を食用や家畜の飼料にせずにメタン発酵の原料とすることに違和感を覚えるが、ドイツでは、CAP(欧州の共通農業政策)改革による農産物価格の低下と生産調整による不作付面積の増加、農村地域の活力の低下などを背景に、2004年8月のEEG法改正により、エネルギー作物の利用に対して買電価格の上乗せ(プレミアム)を導入し、その生産・利用が積極的に推奨されることとなった。これにより、2004年以降エネルギー作物に依存したバイオガスプラントが急増し、エネルギー作物の作付面積が急速に増加することとなった。

 ところがトウモロコシを中心とするエネルギー作物の急増によって、地域の輪作体系に歪みが発生したり、借地料の上昇により他作物の収益性が圧迫されるなどの弊害も顕在化した。このため、2012年EEG法においては、エネルギー作物を原料とする場合には、原料に占める割合が60パーセント未満の場合に限ってプレミアムが支払われるように改正し、これ以上のエネルギー作物の作付拡大に歯止めをかけることとした。

 また、買電価格の設定方法を見直し、プラントの規模によって買電価格を変化させたこと、エネルギー作物を原料とする場合(カテゴリーT)と家畜ふん尿などを原料とする場合(カテゴリーU)とに分けてプレミアムを設定したことなどがその特徴となっている(図4)。
図4 2012年EEG法における買電価格

出典:ドイツ・バイオマス連盟資料を基に作成。
注 1:カテゴリーTは、バイオマスプラントの原料とするために栽培するトウモロコシ、小麦、てん菜
    (「エネルギー作物」と総称。)が60%未満の場合に加算。
注 2:カテゴリーUは、それ以外のバイオマスプラントの原料であって、食品廃棄物、ふん尿、敷料、植物の
    残渣、自然景観の維持のために刈り取った芝などが60%以上の場合に加算。
注 3:生分解可能な廃棄物及び混合一般廃棄物
注 4:樹皮又は森林残材の場合。
注 5:特定のふん尿の場合。

(4)2012年EEG法におけるプレミアム制度

 EEG法では、かねてより社会・経済状況の変化に応じて、バイオガスプラントの運転方法等を政策的に誘導するため、各種のプレミアムを設定している。以下は主要なプレミアムであるが、その効果は大きく、今後、日本においてもプレミアムを活用した政策誘導が期待される。

ア.廃熱利用

 これまでも発電と同時に発生する廃熱の利用を促進するためのプレミアムを設定してきた。2012年の改正ではプレミアムは廃止したが、これまでと同じ廃熱利用の要件を残したまま、基本価格に上乗せ(2セント/kwh)している。

 農村地域に立地するメタンガスプラントでは熱の需要先開拓が課題となっており、発電用のウッドチップの乾燥や穀物の乾燥、地域暖房等が有力な需要先となっている。廃熱を利用して消化液を乾燥させてペレット化している例もある。

イ.天然ガス網への接続

 欧州では天然ガスパイプラインが発達していることから、パイプラインを通じて電気+熱の需要がある都市地域にメタンガスを搬送することにより、廃熱の利用可能性が向上する。2012年改正では、新たにパイプラインへの接続を奨励するためのプレミアムを措置した。

 なお、パイプラインに接続するためには、発生したメタンガスから二酸化炭素などを除去する施設が必要となる。

ウ.不安定な再生利用エネルギーの補完

 ドイツでは太陽光、風力の発電量が急速に拡大しているが、天候条件などにより発電量が不安定であるため、始動・停止が容易なメタンガスプラントはこれを補完することが期待されている。

 このため、2012年改正では、需要に応じた発電のために行った施設容量の増設についてプレミアムを設定した。なお、土日や夜間などの風力や太陽光発電による余剰電力を使って、水を電気分解して水素ガスを製造する技術を開発している。

4.ドイツ・バイエルン州におけるバイオガスプラントの調査結果

(1)調査結果概要

 調査を行ったバイオガスプラントの運営状況、仕様などの概要は(表1)のとおり。
表1 バイオガスプラントの概要

(2)ドイツにおけるバイオマスプラントの特徴

 ドイツのバイオガスプラントはEEG法と関連する政策に連動して技術革新が行われ、発酵槽の構造、断熱・保温対策、発酵槽の温度管理、攪拌、嫌気条件の維持、原料の投入、消化液の排出などの技術的水準は高い。エネルギーの利用方法は発電主体から天然ガス網との接続によるガス利用、コジェネの熱利用の促進へと発展してきた。また、投入原料の主体が家畜ふん尿主体から有機廃棄物、さらにエネルギー作物へと変化したことが施設の形態を変化させた。ドイツ国内では、既に8000弱のプラントが稼働中であるが、新設数は大きく減少すると見込まれることから、メーカー各社は輸出に注力しつつある。なお、建設費は、日本と比べて大幅に低廉との印象を受けた。

ア.発酵槽の形状

 メタン発酵槽は、最低条件として嫌気状態が保たれればよく、さまざまな形式のものがあるが、一般に回分式、連続式、貯留式に大別することができる。処理施設数は回分式が少なく、発酵原料の評価試験のための手法として用いられる連続式が多い。また、発酵槽の数から一槽式、二槽式、多槽式に分けられ、貯留槽とメタン発酵槽を兼ねた形式もある。

 日本における代表的プラントは、円筒縦型、円筒横型、箱型の3種類に分類できる。発酵槽形式によるガス生成量に大きな違いはなく、コストと管理面からの検討が必要となる。発酵槽のコストはその材質と施工法に起因し、発酵槽の材質は鉄およびコンクリートが一般的だが、近年、強化塩化ビニール製バッグを発酵槽とした例もある。

 ドイツにおいて近年建設されている発酵槽は、円錐柱型が主体である(写真1)。これは建設コストが安いことと、原料である固形分の高いサイレージの槽内流動を考慮したためと考えられる。発酵槽の加温は温水循環方式が圧倒的に多く、断熱材には発砲ウレタン材や吹き付けの発泡ウレタンが用いられ保温が徹底している。発酵槽内の攪拌は、菌体と投入原料の接触、槽内温度の均一化、スカム形成の防止、ガス抜きを目的とした重要な技術であるが、ドイツで普及している円錐柱型発酵槽では側面からの機械攪拌が用いられ、連続または間欠で運転されていた(写真2)。ドイツにおいては酸性雨の関係で150日未満の原料を貯留するタンクは屋根掛けが必要なため、貯留槽からもガスを採取しており、加温設備をもった貯留槽も見受けられた。
写真1
写真2
イ.発酵温度

 メタン発酵は一般に中温発酵と高温発酵に適温が分かれ、それらの最適温度の範囲は、それぞれ30〜45度、50〜60度の範囲にあり、現行のメタン発酵施設は下水やし尿処理施設も含めると95パーセント以上が中温発酵法を採用しており信頼性は極めて高い。その理由として加温熱量と発酵槽からの熱放射が高温に比べて少なくて済むこと、また、温度変動に対しての緩衝性が高いことなどが挙げられる。さらに毒性や阻害物質に対しての耐性も強いことが知られている。

 ドイツにおいても発酵温度は中温が主流であるが、35〜38度が主である日本に対してドイツでは40〜45度が主であり、原料のコーンサイレージや油脂系、タンパク系廃棄物の発酵促進を狙ったものと考える。滞留日数は長く70日程度で、貯留槽滞留日数も加えると150日以上が確保されている。

ウ.ガス貯留

 バイオガスの貯留設備はガスバッグによるバッグ式(乾式)と水面あるいは消化液面上にタンクを浮かせる水封式に大別される。ドイツにおけるガス貯留は発酵槽の上部をガス貯留に利用する形態が多く、発酵槽と一体となったガスバッグ式が主流となっている。

エ.脱硫・ガス精製

 脱硫法には湿式法、乾式法、微生物法がある。湿式法は水やアルカリ水溶液に硫化水素を溶解させる方法であり、大量のバイオガスを処理する場合に経済的であると言われているが、装置は大型でイニシャルコストは高い。乾式法は、水酸化鉄などを含む脱硫剤と反応させる方法で、装置は比較的簡易であるが、脱硫剤の交換が必要でランニングコストがかかる。また、微生物法はエアーゾンニング法とも呼ばれ、微生物の働きにより硫化水素を除去する方法であり、排水処理や脱硫剤を必要としないため最近のドイツのバイオガスプラントで盛んに採用されている。

オ.プラントの制御

 集中処理(共同利用)型の大型プラントでは投入原料の搬送車両の運転手も含め専従のオペレ−タ−が必要となるが、個別型のプラントにおいては無人で自動運転が可能なものでなければならない。ドイツで近年建設されたバイオガスプラントの多くはタッチパネルによる運転状況の監視、異常検出、遠隔操作等の自動制御が完備している(写真3)。
写真3
カ.天然ガス網への接続

 欧州では天然ガスパイプラインが発達しているため、これを通じて電気+熱の需要がある都市地域にバイオガスを搬送し、集中的にコジェネを行い、廃熱の利用可能性を高める試みが進んでいる。パイプラインにガスを注入する場合、発生ガスを脱硫し、PSA(Pressure Swing Absorption)法などにより二酸化炭素除去を行う必要があるが、複数のバイオガスプラントの発生ガスを集め、集中的に処理を行う精製施設(写真4)も増えている。2012年EEG法では、新たにパイプラインへの接続を奨励するためのプレミアムを措置しており、遠隔地でガスを利用した場合であってもプレミアムの対象とされている。
写真4

5.バイオガス発電の導入促進に向けた課題

 日本ではFIT法施行により、再生可能エネルギーによる発電に必要なコストの回収の見込みを立てやすくなり、新たな取り組みが加速することが期待されている。北海道内でも太陽光発電を中心に参入事例が増えているが、農山漁村地域での発生量が多く、エネルギー化が期待されている家畜ふん尿や木質系バイオマス、水産系廃棄物を原料とする発電は当初期待されていたほど増えていない。

 家畜ふん尿を原料とした売電事業の立ち上げのためには、既存の処理方法との収益性比較に加え、原料の発生量や運搬体制、施設の規模・形態、地域の合意形成など複雑な検討が必要となる。さらに、膨大な資金が必要なこと、ふん尿処理というオンゴーイングの業務に障害を与えてはならないという課題が加わり、参入障壁は低くない。しかしながら、搾乳牛150〜250頭のふん尿を原料として運転可能な30キロワットの発電機を安定的に稼働した場合、年間1000万円弱の売電収入が期待できることを考えれば、挑戦する価値は大きい。

 以下、ドイツにおける現地調査結果も参考に、ふん尿等の地域に賦存するバイオマス資源を積極的に活用するための課題を提起して本稿のまとめとしたい。

(1)施設の建設コストの低減

 FIT法の施行により、発電事業に参入する環境は大きく改善されたが、特にふん尿を原料に発電する場合、投資額の大きさが課題となっている。事業参入の促進のためには、長期・低利資金の融通などの支援が効果的と考えられる。

 また、ドイツにおける現地調査で明らかとなったのが建設費の格差である。聞き取り調査のレベルであり、具体的な比較は困難ながら、日本の半分程度という感触を受けた。この背景には各種規制の違いはもとより、耐震強度の差や建設件数の多寡などが複合的に影響していると考えられるが、建設コストの低減に向けた官民の協力が必要と考えられる。

(2)技術的な支援

 メタンガスプラントは微生物相の微妙なバランスが重要で、運転管理には高度なスキルが必要である。また、施設の維持管理、原料の調達・貯蔵・品質管理なども運転成績に直結する重要な指標となっている。

 このため、これらの事項に関するノウハウの蓄積、運転管理者の教育、トラブル発生時の緊急支援体制の構築等に官民が協力して取り組むことが重要である。

(3)送電線網への接続

 変電所の容量には限りがあり、新たな発電施設を送電線網に接続する際には、容量の拡大等の投資が必要となることがある。このため、発電施設が完成してもすぐに許可されない、あるいは接続容量・時間を制限され得るといった事例が見られる。現実に短期間に設置できる太陽光発電施設に送電容量を抑えられ、メタンガスプラントが売電できるのは夜間のみなどという事例も発生している。

 ドイツでは発電と送電がすでに分離されているものの、日本と同じ課題がある。しかしながら、調査実施地点に限れば、日本と比べて送電線網がより高い密度で整備され、かつ容量に余裕があるようだった。

 この課題の解決のためには、送電線網の整備・拡充を進めることのみならず、容易に発電を停止・再開できるというメタンガス発電の長所を活用する観点から検討することが重要と考えられる。このため、太陽光や風力発電との役割分担のためのガスタンクや発電機の大型化、さらには大容量で低コストな蓄電池の開発・整備等に積極に取り組むことが必要と考えられる。

 また、ドイツでもすでに導入が進んでいる各種のプレミアムの導入により、総合的な電力需給調整の強化などに向けて、再生可能エネルギーの活用施策全般の中で取り組むことが課題と考えられる。

 なお、日本では経済産業省において、変電所間での容量の融通が可能となるような関係規定の改正に向け手続き中である。

参考文献

「バイオガスプラントの稼働実績調査業務」 帯広市(平成24年2月)

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