高齢者への肉食の勧め! |
|
日本獣医生命科学大学 応用生命科学部 教授 西村 敏英 |
日本は、超高齢化が進んでおり、国民の健康への関心は益々高まっている。最近、食肉は、タンパク質の重要な供給源であることから、高齢者でも毎日食肉を適量食べることが大切であると言われるようになってきた。本稿では、食肉が健康に寄与する要因を説明し、健康維持における食肉摂取の重要性を解説したい。1.平均寿命と食生活1900年(明治33年)には、日本人の平均寿命は、男女共に約35歳であった(図1)。その時、酪農国であるスウェーデンの男女の平均寿命は、共に50歳を超えていた。日本人の平均寿命は、第二次世界大戦後の1947年(昭和22年)に、ようやく50歳を超えた。その後、日本人の平均寿命は急激に伸び、1980年(昭和55年)には、男女共に70歳を超え、スウェーデン人の平均寿命を追い越した。昨年発表された日本人の平均寿命は、男性が79.4歳で世界8位、女性が85.9歳で世界2位であり、世界に例のない長寿国となった。このように、戦後、日本人の平均寿命が急速に伸びた理由の1つとして、日本人の食生活の変化がある。第二次世界大戦までは、穀類中心の食生活で、栄養素の中では炭水化物の摂取量が高かった。しかし、戦後は、炭水化物の摂取量が少しずつ減少し、食肉、乳、卵などの動物性タンパク質と脂質の摂取量が増加した。この食生活の変化が、平均寿命が延びた1つの要因であるといわれている。食事から摂るタンパク質は、生体タンパク質の原料となるアミノ酸を供給するために必要で、健康維持には不可欠である。また、脂質はエネルギー源となるだけでなく、生体を構成する細胞膜の原料ならびに血圧や免疫力を調整する生理活性物質イコサノイドの原料となることから、脂質の不足も、健康を損なう原因となる。
2.食肉はタンパク質の宝庫タンパク質の摂取量が不足すると、病気に対する抵抗力が落ちて感染症にかかりやすく、回復力も低下する。また、高血圧を促し、血管を弱め、脳卒中を招きやすくなることも知られている。なぜ、タンパク質の摂取量が不足すると、病気になる確率が高くなるのであろうか。私たちの生体内には、ヘモグロビン、コラーゲン、ペプシンなど約3万種類のタンパク質が存在している。これらのタンパク質は、一定期間経つと常に新しいタンパク質へと作り替えられる。これを「タンパク質の代謝」という。車でいう「車検」に相当する。車検では、車の悪くなった部品だけを交換するが、タンパク質の代謝は、古いタンパク質が壊れていなくても、新しいタンパク質に作り替えられる機能であり、毎日行われている。この時に、生体は食事に含まれるタンパク質のアミノ酸を原料としている。そのため、私たちは、毎日食べ物からタンパク質を摂らなければならない。特に、生体では合成できない必須アミノ酸は、食品から摂取する必要がある。摂取量が不足すると、健康維持に必要なタンパク質が作られず、病気を引き起こす可能性が高くなるのである。 1日に食事から摂るべき推奨タンパク質量は、成人男性が60グラム、成人女性が50グラムである。この推奨量は、高齢者である70歳以上でも同じである。その理由として、高齢になると、消化機能が低下するため、タンパク質の摂取量を低く設定すると、吸収されるアミノ酸量が生体での必要量を下回ってしまうからである。 食品100グラム(あるいはミリリットル)当たりに含まれるタンパク質含有量を比較すると、食肉で約30グラム、牛乳で約3.3グラム、ご飯で約2.5グラム、茹でた大豆で約16グラムである。成人男性の推奨量60グラムをこれらの食品1つで満たす場合、食肉では約200グラムを食べれば十分である。一方、牛乳だけでは1.8リットル、ご飯では2.4キログラム、茹でた大豆では約400グラムを食べなければならない。 また、食肉のタンパク質を構成するアミノ酸は、その組成が生体内タンパク質を構成するアミノ酸組成に近いので、生体内タンパク質の生合成に効率的に利用される。必須アミノ酸のバランスの良否から評価されるアミノ酸スコアは100であり、植物性食品のタンパク質よりも高い。これらのことから、食肉は、生体のタンパク質を作るために必要な良質のタンパク質を供給する優れた食品といえる。 高齢になると、食が細くなり1日に食べられる量は少なくなるが、摂取するタンパク質の量を減らしてしまうと、健康を損ねることに繋がる。このことから、高齢者は、少量でもよいので良質のタンパク質を豊富に含む食肉を食べることが、必要なタンパク質摂取量を効率的に確保できる有効な方法である。 3.食肉のもつ“病気を予防する効果” 食肉は、重要なタンパク質の供給源であるだけでなく、最近、病気を予防する効果を有することもわかってきた。 4.健康維持につながる食肉の食べ方これまで述べたように、食肉は、タンパク質の重要な供給源であるだけでなく、多くの病気予防効果を有することが明らかとなってきた。これらの効果をよく理解して、毎日の食事のメニューに食肉を取り入れることは、健康維持に大切である。特に、食が細くなった高齢者が食肉を食べることは、健康維持に大変重要である。一日に推奨される食肉摂取量は、正確に決められているわけではないが、約100グラムが適切であると思われる。また、現在、1日当たり、約350グラムの野菜摂取が奨められている。食肉を食べたときには、必ず、それに応じた量の野菜を取ることを心掛けることも大切である。
|
元のページに戻る