調査・報告  畜産の情報 2013年10月号

食肉の消費・販売動向調査の結果(平成25年度下半期)について

畜産需給部 需給業務課


【要約】

 全国の食肉販売業者を対象として、食肉の消費・販売動向について調査を実施した結果、牛肉・豚肉については国産品・輸入品共に価格が高水準で推移する中、いずれに重点を置くかの選択を迫られている現状が浮き彫りとなった。とりわけ、牛肉については、国産品と輸入品の価格動向の見通しの違いによって、各社の平成25年度下半期の対応方針が分かれることが明らかになった。また、国産牛肉の販売については、輸入動向もさることながら、国産牛そのものの出荷頭数減少の方が影響が大きいと考える企業が多いことも分かった。

1.はじめに

 当機構では、食肉の販売動向を把握するため、年に2回、小売店や卸売業者に対し、食肉の取扱割合や販売見通しに関するアンケート調査を実施している。今回は、平成25年度下半期(10〜翌3月)の食肉、特に牛肉および豚肉の販売動向について、8月中〜下旬に量販店、食肉専門店および卸売業者の協力を得て調査を行った。加えて、本年2月1日に実施された米国産等牛肉の輸入条件緩和に伴う各社の対応や、当該措置を踏まえた今後の販売見通しについてアンケート調査を行ったので、これらの概要について報告する。

2.調査対象先

 当機構では、食肉の小売価格や市況(仲間相場)について調査を実施しており、今回も同調査の対象企業にアンケート調査を行った。

(1)小売店…全国の主要量販店および食肉専門店
 ・量販店…25社のうち24社から回答を得た(回収率96.0%)。
 ・食肉専門店…対象企業60社全てから回答を得た(回収率100%)。

(2)卸売業者…全国の主要卸売業者
 ・牛肉:15社のうち14社から回答を得た(回収率93.3%)
 ・豚肉:15社のうち14社から回答を得た(回収率93.3%)
 
 なお、両畜種の調査協力企業は、一部重複している。

3.調査結果

(1)最近の食肉の取扱割合(重量ベース)

 量販店および食肉専門店(以下、専門店という)における最近の食肉の取扱割合については、量販店では豚肉が約4割と最も多く、牛肉、鶏肉はそれぞれ約3割であった(表1)。

 また専門店では牛肉および豚肉が約4割で、鶏肉は2割弱であった。専門店については、調査対象企業の入れ替えがあったことから、前回の調査結果との単純な比較はできないものの、量販店、専門店とも傾向に大きな変化は見られない。
表1 小売店(量販店・食肉専門店)における食肉の品目別取扱割合

注:( )内は前回調査(平成25年2月実施)の結果
 卸売業者においては、牛肉は前回調査時と比較して国産品の合計の割合が2ポイント低下、逆に輸入品が2ポイント上昇した結果、両者の割合は共に50パーセントとなった(表2)。

 また豚肉に関しては、表3のとおりとなった。輸入品については、合計では1ポイント低下と、大きな変化はないものの、内訳を見ると、冷蔵品が8ポイント上昇した一方、冷凍品が9ポイント低下しており、昨年来の冷凍品輸入量減少の影響が強く表れていることがうかがえる。
表2 卸売業者における牛肉の品目別取扱割合

注:( )内は前回調査(平成25年2月実施)の結果
表3 卸売業者における豚肉の品目別取扱割合

注:( )内は前回調査(平成25年2月実施)の結果

(2)平成25年度下半期の販売見通し

(1)品目別販売見通し

 平成25年度下半期(10〜翌3月)の各品目の販売見通しは、量販店では、和牛肉について「増加」の割合が50パーセントと、前年同期と比較して低下し、「減少」は21パーセントと上昇した(図1)。
図1 量販店における牛肉の品目別販売見通しの推移

 また、輸入牛肉については「同程度」との回答が最も多く、前回調査時に6割を占めた「増加」の見通しは26パーセントであった。季節的に国産品に重点を置く企業が多い他、米国産牛肉の取扱割合を高めたいものの、為替相場の円安傾向および輸入品の現地相場高による輸入コストの上昇から、当面は同割合を据え置く方針を取る企業が見受けられた。

 専門店においては、3畜種とも、輸入品よりも国産品の方が「増加」の見通しがやや多いという結果が得られているものの、量販店と比較して固定客が多く、販売計画を大きく変更しない傾向にあることから、全品目とも「同程度」の見通しの割合が高いことが特徴と言える(図2)。
図2 専門店における食肉の品目別販売見通し

 量販店における豚肉および鶏肉の販売見通しについては、いずれも国産品は「増加」が約6割を占めた一方、輸入豚肉は1割未満、輸入鶏肉に至っては0パーセントと、国産品と輸入品とで見通しの違いが顕著に表れた(図3、4)。牛肉と同様に豚肉、鶏肉も年末に向けて国産品の割合が高まる上に、輸入コスト上昇への対応方針が、このような結果の背景にあるとみられる。
図3 量販店における豚肉の品目別販売見通しの推移

図4 量販店における鶏肉の品目別販売見通しの推移

 卸売業者における牛肉の品目別販売見通しについては、和牛の「増加」の割合が前々回および前回調査の結果を上回っている(図5)。一方、国産牛はと畜頭数の減少傾向が継続するとの見込みが大勢であることから、「増加」の見通しに大きな変化はなく、代わりに「減少」の割合が36パーセントと大きく上昇した。
図5 卸売業者における牛肉の品目別販売見通しの推移

 また、輸入冷凍牛肉は「増加」、「減少」共に10ポイント以上上昇し、方針が大きく2つに分かれた。「増加」と回答した企業は、月齢制限緩和措置による輸入品の供給量増加に対する期待や、国産品の相場高に対する懸念を理由に挙げている。一方、「減少」と回答した企業は、前述の季節的な方針に加え、昨年末からの為替相場の円安傾向や現地相場高が今後も継続するとの見通しから、輸入牛肉の取扱量を減少させる意向を示している。

 卸売業者における豚肉の販売見通しに関しては、小売店と同様に国産品は「増加」の見通しが半数を超え、「減少」が0パーセントであった(図6)。一方、輸入豚肉については、冷蔵品は前々回および前回調査と比較して「増加」と「減少」の割合がそれぞれ上昇した。牛肉と同様に、国産品、輸入品共に仕入れ価格の高止まりが懸念される中、販売戦略上、いずれに重点を置くかの判断を迫られた結果と推測される。
図6 卸売業者における豚肉の品目別販売見通しの推移

(2)部位別販売見通し(卸売業者)

 卸売業者における25年度下半期の牛肉および豚肉の部位別販売見通しについて見ると、和牛肉およびその他国産牛肉においては、年末に向けて需要が高まる「かたロース」、「ヒレ」および「かた」の「増加」の割合が高かった。一方、「ばら」は「減少」の見通しが約5割を占めた。また、輸入牛肉において「増加」の見通しが5割を超えたのは冷蔵品の「かたロース」のみで、特に冷凍品については全般的に「増加」の見通しの割合が低かった(図7)。
図7 卸売業者における牛肉の部位別販売見通し(平成25年度下半期)

 豚肉については、国産品は「かた」、「ばら」および「もも」における「増加」の見通しが半数を超え、また、ほとんどの部位において「減少」の見通しが0パーセントであった(図8)。
図8 卸売業者における豚肉の部位別販売見通し(平成25年度下半期)

(3)販売促進に向けての対応(小売店)

 小売店における平成25年度下半期の販売促進(販促)回数の見通しは、量販店では、牛肉については3品目ともおおむね傾向が似ており、「これまでと同様」、「回数を増やしたい」、「回数を減らしたい」の順となった(図9)。豚肉および鶏肉に関しては、前回調査と同様に輸入品の「販促回数を減らしたい」とする割合が他品目と比較して高く、反対に国産品は「回数を増やしたい」とする割合が高かった。
図9 量販店における販促回数についての見通し(平成25年度下半期)

 専門店では前述のとおり固定客が多いことを反映して、全品目について「これまでと同様」との回答が大半を占めた(図10)。
図10 専門店における販促回数についての見通し(平成25年度下半期)

 また、各畜種の販売拡大に向けた具体的な対応については、量販店では前回調査に引き続き、「惣菜や味付け肉の強化」や「調理方法や食べ方の提案」を実施するとの回答が多かった他、牛肉に関して「販促機会の拡大」や「特定の年齢層・家族形態を対象とした販促の実施」、「低級部位や切り落としの強化」などの対応を取る企業が前回調査よりも増加した(図11、12)。また、前回調査時と比較して、各社とも実施予定の対応の種類が増加した。
図11 量販店における食肉の販売拡大に向けた対応

注:複数回答
図12 専門店における食肉の販売拡大に向けた対応

注:複数回答

(4)消費増減の要因について(卸売業者)

 牛肉、豚肉をそれぞれ扱う卸売業者に対して、各畜種の消費が増減する要因を調査したところ、消費増加を後押しするものとして、牛肉では「原産地価格の低下」や「小売価格の低下」、「豚肉からの代替」、豚肉では「牛肉からの代替」や「他の食品の値上がり」が多く挙げられた(図13)。一方、消費減退の要因となり得るものについては、牛肉、豚肉共に「卸売価格、原産地価格および小売価格の上昇」が多数であった。また、豚肉については、より安価な「鶏肉への代替」も多数挙げられた(図14)。
図13 牛肉および豚肉の消費が増加する要因

注:複数回答
図14 牛肉および豚肉の消費が減少する要因

注:複数回答

(5)米国産等牛肉の輸入月齢制限緩和の影響について

 本年2月1日より、米国産等牛肉の輸入条件が20カ月齢以下から30カ月齢以下へと変更され、半年以上が経過したが、この月齢制限緩和措置に対する各社の対応について、以下のような回答が得られた。

(1)米国産牛肉の取扱割合の実績・見通し

 輸入牛肉を取り扱っている企業において、米国産の取り扱いに関する、平成24年度下半期および25年度上半期の実績、25年度下半期の見通しについては、図15〜17のような結果となった。各社の輸入牛肉に占める米国産の割合は、24年度下半期はいずれの業態においても「0−25%」の区分が半数以上を占めていたが、25年度上半期および下半期(見込み)はその割合が低下している。各社の取扱割合が24年度下半期から25年度上半期にかけて(「24下→25上」)、また25年度上半期から下半期にかけて(「25上→25下」)どのように変動しているかを見ると、いずれの業態においても、「24下→25上」、「25上→25下」共に、米国産の取扱割合が減少した企業は少数であった。また、量販店および卸売業者と、専門店とでは、各区分の割合の大小関係は異なるものの、3業態とも共通して「24下→25上」での「増加」の割合が、「25上→25下」では低下し、逆に「変化なし」の割合は上昇している。

 「25上→25下」で「増加」あるいは高い取扱割合で「変化なし」の見通しを示した企業の多くは、その理由として、国産品や豪州産の供給量減少、米国産牛肉の仕入れ価格低下に対する期待などを挙げている。また、25年度上半期の自社における米国産牛肉の売れ行きや他社の動向を参考に、売上の「増加」が見込めると判断した、といった回答もあった。

 反対に、「減少」あるいは低い取扱割合で「変化なし」の見込みを示した企業については、いずれの業態においても、米国産牛肉の仕入れ価格の低下が見込まれない、という回答が多かった。また、専門店においては、従来から、価格動向に左右されず国産品や豪州産を取り扱ってきたことを理由に挙げる企業も多かった。
図15 量販店における米国産牛肉の取り扱いの動向

図16 専門店における米国産牛肉の取り扱いの動向

図17 卸売業者における米国産牛肉の取り扱いの動向

(2)国産牛の販売に与える影響についての見通し

 輸入牛肉の月齢制限緩和措置が、25年度下半期の国産牛肉(和牛、乳牛おす、交雑牛)の販売に与える影響については、「影響がある」とする回答の割合は、いずれの業態においても、高い順に乳牛おす、交雑牛、和牛となっており、和牛については1割前後と少数であった。また、3品種とも、「国産牛肉の生産量減少の影響がある」とする回答の割合の方が高く、特に乳牛おすの供給量減少を懸念する企業が多かった。

(3)豚肉の販売に与える影響についての見通し


 当該措置が25年度上半期の豚肉の販売へ与えた影響については、小売店、卸売業者ともに8〜9割程度が「影響はなかった」と回答した(図18)。また、25年度下半期の見通しについても、同様にいずれの業態においても大半が「影響はない」との見通しを示した(図19)。前出の図2、3、6では、輸入豚肉の販売見通しについては、「減少」との回答が少なからずあったが、その要因はあくまで原産地価格の高止まりや為替相場の円安傾向であり、輸入牛肉の月齢制限緩和措置が豚肉の販売に与える影響は小さいとの見方が大勢のようである。
図18 月齢制限緩和措置が豚肉販売へ与える影響(平成25年度上半期の実績)

注:1および2は回答が重複している。
図19 月齢制限緩和措置が豚肉販売へ与える影響(平成25年度下半期の見通し)

注:1および2は回答が重複している。

4.おわりに

 前回調査時は、米国産等牛肉の月齢制限緩和措置の実施直後だったことから、多くの企業の回答内容からは、当面の間、輸入牛肉の取り扱いに関して様子見の姿勢で臨む意向がうかがえた。その後およそ半年経過し、同措置実施前と比較して、米国産牛肉の輸入量は確実に増加したが、現地相場の高止まりおよび為替相場の円安傾向から、輸入コストの上昇が懸念材料となっている。一方、国産牛肉は東日本大震災発生後の放射性セシウム検出の影響を受け、卸売価格の低迷が続いていたが、昨年後半以降、回復基調で推移してきた。さらに今年度に入り、出荷頭数の減少傾向が相場を押し上げる要素となり、現在は震災発生前の水準を上回っている。

 今回はこうした状況を踏まえて、前回に引き続き輸入牛肉の取り扱いに焦点を当て、調査を実施した。上述の情勢から、平成25年度下半期の小売店および卸売業者における牛肉の販売活動の方針は、国産品と輸入品のいずれに重点を置くかによって二分されることが予想されたが、既出の図表で示した通り、実際にそのような傾向にあることが見て取れた。また、和牛肉以外の国産牛肉については、輸入牛肉との競合も想定されるが、それ以上に出荷頭数減少の影響が大きいと考える企業が多数であった。

 ただし、小売店の中には、短期的な価格動向には左右されず、消費者の嗜好や経済状況を踏まえて安価な品種の取扱割合を縮小し、国産銘柄牛の販売を強化する企業もあるなど、各社で売り上げの拡大を図るさまざまな策が講じられていることがうかがえた。今後、供給サイドのこうした動きに対して、需要サイドがどのような反応を示すのかが注目される。


元のページに戻る