自給飼料生産の現状と今後の方向 |
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一般社団法人日本草地畜産種子協会 会長 野口 政志 |
1.はじめに 配合飼料の主原料となるトウモロコシのシカゴ相場は、平成18年10月からアメリカにおけるトウモロコシのエタノール向け需要の増加に端を発して高騰をはじめ、それまで1ブッシェル当たりおおむね2〜3ドルで推移していたものが、20年6月には1ブッシェル当たり7.55ドルまで高騰した。その後、リーマンショックの影響により4ドル台まで値を下げたが、世界経済の立ち直りと共に、24年の8月には8.31ドルと最高値をつけ、本年8月現在は5ドル台で推移している。 2.自給飼料生産の現状自給飼料の種類は粗飼料といわれる乾草、サイレージ、放牧草、稲わら、濃厚飼料といわれる飼料用米、食品残さ(エコフィード)等があるが、ここではわが国の自給飼料の大宗を占める乾草、サイレージ、放牧草、飼料用米を生産する飼料作物の現状について述べる。飼料の生産量は、飼料作物作付面積×単位面積当たり収量(単収)で表され、飼料の生産量を上げるためには、飼料作物作付面積を増加させ、単収を増加させる必要がある。飼料作物作付面積と牛(乳用牛+肉用牛)飼養頭数の推移を図1に、飼料作物(生草)の平均単収の推移を図2に示す。 飼料作物作付面積が最も多かったのは昭和62年の105万4000ヘクタールで、これ以降減少を続け平成21年には90万2000ヘクタールまで減少し、その後増加に転じ、24年には93万2000ヘクタールまで回復している。 一方、飼料作物(生草)の平均単収は、昭和50年代には1ヘクタール当たり40トンの水準に達し、平成2年には同43.1トンまで増加したが、それ以降は減少傾向で推移している。
3.なぜ、飼料作物作付面積および単収は減少したか? 飼料作物作付面積は、飼養頭数の減少に伴い減少したようにも見えるが、表1に示すように純国内産粗飼料自給率は昭和60年以降も明らかに減少しているので、飼料作物作付面積の減少の原因は他にも考えられる。その一つは、昭和60年代の急激な円高である。つまり、昭和60年に為替の安定化を図るための「プラザ合意」がなされ、合意前1US$=235円であったものが1年後には150円まで円高になり、その後も円高傾向が続き、自給飼料はだんだんと輸入飼料に置き換わっていった。
一方、単収については、輸入飼料への依存が強まるにつれ飼料生産意欲が薄れ、草地更新の遅れや飼養頭数規模拡大による飼料生産労動力の不足により、青刈りトウモロコシ等の高単収飼料作物の作付面積の減少によって減少していった。 これらが相まって、大家畜の飼料自給率は低下の一途をたどり、飼料生産に充当していた労働時間を飼養管理労働に充てるようになり、経営内の頭数規模は拡大し、その結果、資源循環型畜産から遊離し、家畜糞尿問題が惹起し、家畜排泄物法の制定へとつながっていった。 4.飼料増産の課題と対応飼料作物を増産するには、土地、機械・施設、技術、担い手などについての対策が必要である。(1)土地は、最近の都府県の耕地利用率は9割を切り、冬期の水田の利用率はおそらく1割を切っているものと思われ、耕作放棄地は40万ヘクタールも存在しており、土地資源としては十分存在している。これを飼料作物の生産に結びつけていく必要があるが、そのためには現在検討されている農地集積バンク制度に期待するところが大きい。また、耕作放棄地は傾斜地や石れき地などの条件不利地が多く、これらの土地は、放牧を行うことによって、大きな土木工事を行うことなく農地としてよみがえり、飼料基盤に立脚した畜産の場となる。 (2)次に機械・施設であるが、輸入飼料に依存する経営体においては、飼料を生産する機械・施設を所有していない場合が多い。このような農家にとっては、コントラクターあるいはTMRセンターを利用するのも一つの方法である。ただ、これらを利用すると、飼料の調達コストが自家生産と比べ割高となる場合がある。また、コントラクターやTMRセンターが存在しない地域においては、自ら飼料生産せざるを得ないが、このような農家は、1/2補助付リース等の制度を活用して、機械施設を導入する必要がある。 (3)飼料の生産技術であるが、購入飼料に依存する農家は飼料生産機械・施設がほとんど無いことに加え、飼料生産技術を忘れてしまったか、もともと有していないことが多い。更に、農家だけでなく、特に都府県においては農業改良普及センターや試験研究機関も飼料作物の専門家が少なく、農家の指導体制が十分とは言い難い地域もある。粗飼料の輸入依存が始まって25年が経過し、飼料作物の指導体制は大幅に弱体化したと思われるが、平成18年の配合飼料高騰を契機として、一部、強化されつつある。今後、自給飼料増産をせざるを得ない状況がある中にあって、飼料作物の指導体制の強化は必須である。 (4)飼料生産の担い手であるが、これは本来なら畜産農家が自ら行うのが本道であろう。つまり、大家畜畜産は、土、草、家畜という資源循環の中で営まれているのであり、土、草を他人任せにするとどこかに落とし穴が生じる可能性がある。しかし、飼料生産をコントラクターへの作業委託、あるいは飼料をTMRセンターからの供給に頼った方が合理的な面もあり、この場合はコントラクターやTMRセンターと土、草、家畜の情報の共有を行う必要がある。 また、近年、飼料作物作付面積が伸びているが、これは表2に示すように稲WCS(ホールクロップサイレージ)および飼料用米等飼料用イネの作付増加が主な要因である。飼料用イネのほとんどは、耕種農家が自らの転作田において、自らの労力で栽培している。生産した稲WCSは硝酸態窒素含量が少なく、家畜糞尿多投の畑で生産されたイタリアンライグラス等の牧草と混合給与することによって、飼料全体の嗜好性も高まる効果もある。このような飼料用イネの生産拡大は、転作の補助金が耕種農家に飼料用イネを作ろうという大きなインセンティブを与えたことによる。
(6)今後、飼料作物の生産拡大を行うためには、飼料作物を作る人、その飼料作物を使う人に大きなインセンティブを与える必要がある。ここで留意しなければいけないのは、インセンティブを与える施策は仕組みが簡潔明瞭であり、現場の実態に即していることが必要である。また、施策の推進に当たっては、関係者が、その目的を達成するためには何をやれば良いのかをよく理解し、施策の効果を最大限に発揮することを常に留意する必要がある。 以上、飼料作物の生産振興について述べたが、肉用牛の重要な飼料資源である稲わらの確保、豚の飼料であるエコフィードの確保も積極的に進めることが重要である。
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