【要約】
ブエノスアイレス穀物取引所(BOLSA)が公表したレポートによると、2012/13年度のトウモロコシの生産は、2486万トン(前年度比15%増)となった。この豊作を受け、輸出許可数量も当初の1500万トンから1950万トンに拡大され、その後さらに2100万トンに引き上げられたとも報じられている。
2013/14年度については、8月後半からは種が開始されるが、現状では作付面積が前年を下回る見込みとなっている。一方で、大半の生産者が借地を利用していることから、土壌の保全よりも単年度収益の確保を優先する傾向にあり、種子代が安く、初期費用を低く抑えることができる大豆の作付けは、今後も増加が見込まれる。
1.2012/13年度のトウモロコシ生産動向
ブエノスアイレス穀物取引所(BOLSA)が8月29日に公表したレポートによると、2012/13年度(3月〜翌2月)のトウモロコシの生産は、収穫面積が342万ヘクタール、収穫量は2486万トンとなった。同年度の生産量は、2011/12年度と比較して15.3パーセント上回ることとなる。これは、1ヘクタール当たりの収量が良好となり、全国平均の数値が向上したためとみられる。今年度の1ヘクタール当たりの単収は7.27トンとなり、2009/10年度の8.64トン、2006/07年度の8.00トン、2004/05年度の7.70トンに次ぐ歴代4位の記録が見込まれている。
BOLSAによると、2012/13年度は、さまざまな気象現象が単収に大きな影響を与えたとしている。トウモロコシの主産地であるブエノスアイレス州西部・中央部、コルドバ州南部、南コア地域では、農期の始めに続いた降雨により土壌水分が過剰となり、は種時期の遅れを招いた(図1)。また、2013年1月から2月の深刻な干ばつは、農業地域の大部分、特に北西地域に被害を及ぼし、生産性を低下させた。さらに、コルドバ州中部・北部での遅霜やサンタフェ州中部・東部、エントレリオス州中部・東部での早霜など、国内の特定の地域での低温が、冠水や干ばつに劣らないトウモロコシへの被害を及ぼしたとしている。これらの影響がなければ、単収はさらに増加したものと考えられる。
図1 アルゼンチン州別地域 |
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2.生産農家の状況(2013年5月訪問時)
ブエノスアイレス市から北西170キロメートルのSan Pedro地区にある生産農場を、トウモロコシ収穫期を迎える2013年5月に訪問した。農場主は10年前に友人2人と起業し、6,000ヘクタールの農地を借り上げ、うち3,000ヘクタールの耕作地で、トウモロコシ600ヘクタールのほか、大麦400ヘクタール、大豆2,000ヘクタールを栽培している。コントラクターの場合であれば、機材を動かす関係で1か所に集中した方が効率的であるが、彼の場合は必要に応じて機材を調達するため、リスク分散の観点からも農地は点在している。従業員は2人おり、経理、取引をそれぞれ担当、は種・収穫時にはさらにもう1人が加わり、農場の管理を行う。
今年度のトウモロコシの単収見込みは、1ヘクタール当たり8トンとしており、同地域の平均7.5トンを上回る。
一般的に農地を借り入れる場合、土地所有者には、1ヘクタール当たりの大豆収穫量に基づき、一定割合の借地料を支払っている。同農場の場合は、1ヘクタール当たり1,200キログラムを基本としているが、例えば、サンタフェ州南部では1,800キログラムと、土地の生産力により支払いベースは異なる。また、借地に何を植えるかという判断は借主側にあるが、契約時に一定割合をトウモロコシの作付けとするなどの条件を所有者が付ける場合が多い。なお、同農場では、作付品目の条件なしで、土地を借りているとのことであった。
訪問時の5月は、次年度の作付面積を判断する時期であった。農場主によると、2012年は、米国の干ばつの影響を受け、トウモロコシ価格が急騰し、さらに12月は多雨という予報が出ていたため、多くの生産者がトウモロコシの作付面積を増加させた。今年については、価格もひと段落し、また天候もあまり良くないとの見通しのため、トウモロコシの作付面積は少なくなると見込んでいる。
同氏自身も、今年のトウモロコシ作付面積を3割程度減少させ、その分を大豆に転換する見込みとしており、同様の判断をする生産者は多いとみている。
また、9月までに米国で何らかの問題が発生し、トウモロコシの価格が上昇すれば、トウモロコシの作付けを増やすかもしれないが、訪問時点(5月)では、大豆70パーセント、トウモロコシ15パーセント、小麦15パーセントの配分で作付けを考えているとしていた。
3.国内の飼料向け需要の動向
アルゼンチンで生産されるトウモロコシの国内消費量は、生産量の約4割を占め、ここ数年800万トンと、一定の水準で推移している。業界関係者によれば、2012/13年度の国内需要は、800万トンから850万トンと見込まれている。数字に表れない自家生産分や自家利用分もあるため、正確な数値を示すことは困難であるが、国内消費量の内訳として、養鶏用が一番多く350万トン、養豚用が70〜80万トン、食用・工業用で100万トン程度、肉牛のフィードロットで300万トン程度が使用されるとみられている(図2)。ただし、フィードロットでは、飼料コストや素牛価格によって収容率が変わるため、消費の変動が一番大きいとされている。
一方、養鶏・養豚用としての飼料向け需要は、消費の拡大に伴い上向きにあることから、今後、飼料需要は増加していくものとみられる。また、トウモロコシの代替とされるソルガムの生産量は、毎年400〜450万トン、輸出量は250〜300万トン程度で推移している。ソルガムは、トウモロコシほど干ばつなどの気候の変化に左右されず、生産は安定していることから、トウモロコシの生産コストや価格次第では、今後、ソルガムに生産をシフトする可能性もある。
図2 トウモロコシの国内消費量割合(2012/13年度) |
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資料:アルゼンチン地域畜産者連盟(AACREA) |
4.貯蔵キャパシティの状況
収穫した穀物の保管には、ほ場での袋サイロ(ポリエチレン製の袋で直径3メートル、長さ60メートルの袋サイロの場合、約200トンのトウモロコシを保管)が広く普及している。増産となっても保管への対応は十分可能であり、穀物(大豆、トウモロコシ)の生産量全体の約5割が袋サイロで保管されているとみられる。
5.拡大された輸出許可数量
2012/13年度のトウモロコシの輸出許可数量は、当初の1500万トンから1950万トンまで拡大された。ただし、政府と関係団体との交渉結果によるもので、公式な発表は行われていない。1950万トンの内訳については、アルゼンチン油産業会議所(CIARA-CEC)の加盟企業に1500万トン、残りの450万トンがアルゼンチン穀物・油糧作物生産者および輸出業者会議所(Capeco)にそれぞれ配分されたとしている。CECでは、各会員への配分率を定めておらず、申請順に企業に割り当てる仕組みであり、3月末時点で1500万トンが申請済みとのことであった。
また、2480万トンの生産見込数量のうち、国内需要向けとして800万トンを確保する必要があり、輸出許可数量まで達するかは疑問視されている。このため、収穫量が確定する8、9月に、許可数量の見直しが行われるとの見方も出ている。
一方、政府は2013年6月26日、2013/14年度のトウモロコシ輸出許可数量を1600万トンにすると発表した。今回の公表時期は、昨年(2012年7月)より早く、8月からの作付けを前に昨年(1500万トン)を上回る数量を打ち出すことで、生産者への作付意欲を高めることが背景にあるとみられている。
トウモロコシの輸出先国については、2013年上半期は、韓国が全体の14パーセントを占め、次いでコロンビアが11パーセント、日本が10パーセントと続いた(表1)。
日本や韓国向けの大幅な増加は、米国産からのシフトによるものとみられる。
表1 トウモロコシの国別輸出
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資料:アルゼンチン国家動植物衛生機構(SENASA)、GTI社「Global Trade Atlas」
注:2012年(1〜6月)および2013年(1〜6月)の輸出量・輸出額はGTI社のデータを使用 |
6.今後の見通し
BOLSAの見通しによると、2013/14年度のは種は、8月後半にサンタフェ州北部、エントレリオス州中部・東部で開始されるとしている。
トウモロコシの先物市場の価格は、生産者の作付決定時の主要な要素の一つであるが、他方、この時期は、土地所有者と、この土地を借りて農業を行う生産者との間での賃貸契約や支払い方法が確定していないという事実もある。
また、トウモロコシは大豆と比較して高い作付けコストや、トウモロコシにとって不利な1年を予測させる長期的な気候見通しは、同様に作付け決定をする際のマイナスポイントとされている。
一方で、ここ数年の傾向として、生産者が遅まきのは種面積や二毛作の割合を増やしたことが挙げられる。生産者が選択できるこの手法は、リスク分散の観点からきわめて良好な結果を生んでいる。これまでは、早まきのトウモロコシと遅まき、または、二毛作の割合は8:2であったが、現在ではその比率は6:4まで近づいている。遅まきの場合、害虫の被害が大きかったが、耐性のある遺伝子組み換え種子を利用することで、単収の向上が図られている。新年度には、さらに多くの地域で小麦と遅まきトウモロコシの二毛作を計画している生産者が、かなりの割合を占めていることが明らかとなっている。
(1)2013/14年度のトウモロコシ作付面積は前年を下回る見込み
BOLSAによると、南部および北部の主要生産地やブエノスアイレス州西部でのトウモロコシ作付面積は、減少の見通しにもかかわらず、コルドバ州中部・北部やエントレリオス州中東部、サンルイス州と、北東地域など残りの地域では、面積の減少が緩和されている。こうしたことから、2013/14年度のトウモロコシ作付面積は、昨年度(367.8万ha)と比較し、わずか3パーセント減の356万ヘクタールと予測されている。これは、過去5年間の平均(2008/09年度〜2012/13年度:349万ha)を2パーセント上回り、過去13年間の平均(2000/01年度から2012/13年度:300.6万ha)を15.5パーセント上回るものである。BOLSAでは、全国レベルでのトウモロコシの最適なは種期が、8月末から1月後半までに拡大されていることから、今後、見通しの修正が何度となく行われることが示唆されている。
(2)大豆の作付面積増の傾向は継続
一般的に土壌の保全を考える上では、大豆の連作障害を避けるため、理想として3年に1回はトウモロコシの作付けを行うことが望ましいとされる。しかしながら、全国的な傾向として、アルゼンチンでは現在、トウモロコシの作付けは6〜7年に1回と見られる。10年後を考えると、土壌にとって大きな問題となり得るが、全国の農地のうち60〜70パーセントが借地であり、大半の生産者にとっては自身の所有する土地ではないため、土壌のことを考慮して生産物を決定する農家は少なく、目先の利益を確保する傾向にある。さらに、大豆は肥料を必要とせず、種子代が安く、初期費用を低く抑えることができるというメリットもあり、大豆の作付けは今後も増える傾向にあるとみられる。
政府は2013年7月16日、大統領自らが2012/13年度の穀物の総収穫量について、過去最高の1億540万トンを記録する見込みであることを公表した。このうち、トウモロコシが3210万トンと過去最大の収穫量が見込まれるとしている。
これを受けて9月初旬に政府は輸出許可数量を2100万トンに拡大したとも報じられている。
輸出許可制度が廃止されれば、対象品目であるトウモロコシと小麦の作付面積は2倍に増加するともいわれているが、現政権が続く限り、この制度が廃止されることはないとみられる。外貨獲得のためには、輸出を拡大する必要があるものの、国内供給を優先させたい政府の思惑もあり、今後の輸出動向は引き続き不安定さを残している。
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