調査・報告  畜産の情報 2014年8月号

最近の肉用子牛取引価格の動向とその要因
−平成25年度を中心に−

畜産経営対策部 肉用子牛課


【要約】

 最近の肉用子牛の取引価格は、口蹄疫の発生や東日本大震災などの影響により肉用子牛の出荷頭数が減少したことなどから、高値で推移している。本稿では、当機構が収集した家畜市場取引データなどを活用し、市場の取引割合が高い黒毛和種の肉用子牛を対象に、平成25年度を中心とした最近の取引状況や価格動向、これらの要因について報告する。

1 はじめに

  当機構では、肉用子牛生産安定等特別措置法(昭和63年法律第98号)に基づき、都道府県知事が指定した肉用子牛価格安定基金協会などを通じて全国の家畜市場から提供された肉用子牛の取引データを集計し、ホームページなどで「肉用子牛取引情報」(以下「取引情報」という。)として公表している。

 本稿では、取引情報を活用し、市場の取引割合が高い黒毛和種の肉用子牛(以下「黒毛和種子牛」という。)を対象に、平成25年度の肉用子牛の取引状況や価格動向、これらの要因について報告する。

 なお、本稿で扱う取引情報で対象とする家畜市場および肉用子牛の規格条件は、農林水産大臣が四半期ごとに告示する平均売買価格の対象となる指定肉用子牛とは異なる。

2 平成25年度の黒毛和種子牛の取引価格などの動向について

(1)取引頭数

 平成25年度の黒毛和種子牛の取引頭数(雌雄平均。以下同じ。)は、各月において、おおむね前年同月を下回り、年度計では前年度比2.9%減の35万1119頭となった(図1)。

 取引頭数減少の背景には、全国的な繁殖雌牛の減少が挙げられる。農林水産省の畜産統計(各年2月1日調査)によると、肉専用種の子取り用雌牛の飼養戸数は、20年から年平均で5.0%程度減少して推移しており、25年は前年比5.5%減の5万3000戸となった。また、繁殖が可能な2歳以上の子取り用雌牛の飼養頭数を見ると、23年に前年比2.3%減の57万4600頭となり、その後は年平均で2.7%減で推移し、25年は54万1100頭となった(図2)。
図1 黒毛和種子牛の取引頭数と取引価格の推移
資料:農畜産業振興機構「肉用子牛取引情報」
図2 子取り用雌牛の飼養頭数および飼養戸数の推移
資料:農林水産省「畜産統計」
  注:各年2月1日時点
 肉用牛の繁殖経営の約7割は、繁殖雌牛の飼養頭数が10頭未満の小規模経営であり、高齢者による経営が多くを占める。高齢化や後継者不足から離農が進み、繁殖基盤が急激に縮小したことが、肉用子牛の出荷頭数の減少につながった。

 さらに、22年4月の口蹄疫の発生や23年3月の東日本大震災、同年8月の大規模畜産業者の経営破綻は、繁殖雌牛の減少に大きく影響を与えた。21年度に38万8234頭だった黒毛和種子牛の取引頭数は、口蹄疫発生後の22年度には前年度に比べて10.7%減の34万6596頭まで落ち込んだ。その後、23年度から24年度には36万頭前後まで回復したものの、25年度に35万頭台に低下した。26年度に入ってからも4月から5月の取引頭数は前年と比べて減少が続いており、繁殖雌牛頭数の動向からこの傾向は当面継続するものと推測される。

 なお、口蹄疫発生の影響を受けた宮崎県の2歳以上の子取り用雌牛頭数は、口蹄疫が発生した22年は8万6200頭だったが、23年は前年比18.6%減の7万160頭となり、さらに、直近の25年では6万9550頭まで減少した。

(2)取引価格

 黒毛和種子牛の取引頭数の減少などにより、取引価格は上昇傾向にある。全国の家畜市場で取引される黒毛和種子牛の1頭当たり取引価格(雌雄平均。以下同じ。)は、平成24年10月以降、右肩上がりで推移し、25年7月から12月にかけては、いずれも前年同月に比べて20%以上の高値となった。また、同年10月からは6カ月連続で50万円を上回り、需要期ということもあり、12月には年度内最高値の54万8776円を記録した(図3)。

 この結果、25年度の全国平均価格は50万3407円(前年度比20.0%高)と、取引情報の収集を開始した2年度以降では、18年度の50万8742円に次ぐ高い水準となった(図1)。
 特に、全国平均に比べて高値で取引される鹿児島県の薩摩中央家畜市場では、12月に60万1049円(前年同月比16.8%高)と60万円超えの値を付け、当機構が収集を開始した2年度以降において例がないものとなった。

 肉用子牛価格の上昇は黒毛和種子牛以外も同様で、交雑種(肉専用種と乳用種の交雑の品種をいう。以下同じ。)が、25年度の全国平均で前年度比31.2%高の29万6514万円、乳用種(ホルスタイン種)が同34.0%高の12万7305万円となるなど、軒並み高値を記録する状況となった。

 黒毛和種子牛の取引価格が高騰している中で、25年度の枝肉価格(東京市場、去勢A‐4)を見ると、7月から上昇し、年度平均では前年度比10.8%高の1888円となった。子牛の取引関係者によると、枝肉相場が堅調だったことで、肥育経営者の肉用子牛の導入意欲が高まり、取引価格の上昇に影響を与えた。
図3  黒毛和種子牛の平均取引価格の推移
資料:農畜産業振興機構「肉用子牛取引情報」
表1 黒毛和種のもと畜の購入価格感
資料:農畜産業振興機構「平成24年度大規模肉用牛経営動向に関する調査報告書」
 子牛の取引関係者の見方に関連して、肥育経営者にとっての肉用子牛の値頃感を調査したデータがある。当機構の「平成24年度大規模肉用牛経営動向に関する調査報告書」によると、肥育経営者に対して実施した、もと牛(黒毛和種)を外部から導入する場合の購入価格イメージを調査したアンケート(24年10〜11月実施)では、「高い」と感じる価格の平均は41.3万円、「安い」と感じる価格の平均は31.7万円であった。また、「高過ぎて買えない」と感じる価格の平均は46.0万円だった。黒毛和種子牛の取引価格は25年4月から13カ月連続で46万円を上回っており、肥育経営者にとっては高過ぎて躊躇(ちゅうちょ)する価格帯で黒毛和種子牛を購入しているといえる(表1)。

(3)家畜市場別の取引状況について

 黒毛和種子牛の年間取引頭数が5000頭以上の家畜市場は全国25カ所あり、このうち前年度に比べて取引頭数が増加したのは、福島県家畜市場(全農)、児湯地域家畜市場、宮崎中央農業協同組合家畜市場の3市場のみであった。取引頭数が前年度並みであった徳之島家畜市場を除く21市場は、取引頭数が前年度を下回り、特に豊後豊肥家畜市場、全農岩手県本部県南家畜市場および青森県家畜市場で減少率が高かった(表2、3)。

 前年度に比べて黒毛和種子牛の取引頭数が増加および減少した6市場に注目し、その概要を以下に述べる。

ア 増加

(ア) 福島県家畜市場(全農)

 平成25年度の取引頭数は、前年度比37.2%増の9696頭となった。増加の主な要因として、出荷頭数の減少により県内の石川家畜市場が24年度末に閉鎖されたことが挙げられるが、24年度の両市場の合計取引頭数(1万96頭)と比較した場合、25年度は4.0%減とやや減少した。

(イ) 児湯地域家畜市場および宮崎中央農業協同組合家畜市場

 平成25年度の取引頭数は児湯地域家畜市場が前年度比13.5%増の5795頭、宮崎中央農業協同組合家畜市場が同0.6%増の7673頭となった。増加の主な要因として、22年の口蹄疫発生の影響により減少した取引頭数が回復途上にあることが挙げられる。口蹄疫発生前の取引頭数は、児湯地域家畜市場で9000頭、宮崎中央農業協同組合家畜市場で8000頭をそれぞれ超えていたが、平成25年度は、口蹄疫発生前の21年度に比べ、それぞれ63%、95%まで回復している。

イ 減少

(ア) 豊後豊肥家畜市場

 平成25年度の取引頭数は、前年度比9.3%減の5709頭となった。同じ大分県内の豊後玖珠家畜市場(25年度取引頭数4000頭強)でも同9.9%減となっており、県内全域で減少がみられた。

(イ) 全農岩手県本部県南家畜市場および青森県家畜市場

 平成25年度の取引頭数は、全農岩手県本部県南家畜市場が前年度比6.8%減の6960頭、青森県家畜市場が同6.4%減の5680頭となった。

 これら3市場の子牛取引の主な減少要因として、離農等により繁殖雌牛が減少したことが挙げられる。
表2 黒毛和種の市場取引頭数増加率上位3市場(5000頭以上)
資料:農畜産業振興機構「肉用子牛取引情報」
表3 黒毛和種の市場取引頭数減少率上位3市場(5000頭以上)
資料:農畜産業振興機構「肉用子牛取引情報」

3 おわりに

 平成25年度の黒毛和種子牛取引価格の上昇の要因は、先に述べたとおり、繁殖基盤の縮小により取引頭数が減少しているためである。繁殖雌牛頭数が年々減少していることから、当面、子牛価格は高水準で推移するものと考えられる。

 一方で、今回の子牛価格の上昇は、肥育経営者の経営に大きな影響を与えている。肥育経営と繁殖経営は肉用牛振興の両輪であり、どちらも欠くことができない密接なものであるが、子牛の取引価格がこのまま高水準で推移し、肥育経営者の経営が成り立たなくなれば、やがては繁殖経営者の経営にもはね返ってくることが懸念される。

 このため、早急な繁殖基盤の再構築が必要であり、当機構では、繁殖経営への新規参入や繁殖雌牛の増頭に向けた取り組みなどへの支援を実施しているので、積極的な活用をお願いしたい。詳しくは、当機構のホームページに登載されている平成26年度の畜産業振興事業の項を参照されたい(http://www.alic.go.jp/c-kanri/shinko01_000092.html)。


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