畜産の情報−豪州の牛肉の需給動向 と畜頭数の増加により、堅調に推移していた肉牛価格は下落− 2014年12月
需給動向 海外

◆豪 州◆

と畜頭数の増加により、堅調に推移していた肉牛価格は下落


肉牛価格が急落

 豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)によると、肉牛取引価格の指標となる東部地区若齢牛指標(EYCI)価格は、2014年10月上旬に過去2年間で最高水準となる1キログラム当たり368.25豪セント(361円:1豪ドル=98円)を記録した後、下落基調に転じ、11月3日時点では同340.25豪セント(333円)となった(図3)。

 価格が急速に下落した要因として、肉牛主産地のクイーンズランド(QLD)州が依然干ばつ状態にある中、南東部でも非常に乾燥した状況となり、出荷頭数が増していることで、と畜頭数の増加傾向が加速していることが挙げられる。

図3 家畜市場におけるEYCI価格の推移
資料:MLA
注1:枝肉重量ベース
  2:EYCI価格は東部3州(QLD州、NSW州、VIC州)の主要家畜市場の若齢牛の
   加重平均取引価格。家畜市場の指標価格となっており、肥育牛や経産牛の家畜
   市場価格などとも9割近い相関関係にある。

 10月20日からの1週当たりと畜頭数は17万5965頭(前年同期比12.9%増)と過去最高を記録した(図4)。その内訳は、QLD州が8万6170頭(同11.1%増)、ビクトリア(VIC)州が3万3496頭(同23.0%増)などとなっている。と畜頭数に雌牛が占める割合は2014年2月以降、5割を超えており、干ばつによる放牧地の悪化により牛群を維持しきれず、雌牛を出荷せざるを得ない状況がうかがえる。特に、主要酪農地帯であり、乳牛の飼養頭数が全体の4割以上を占めるVIC州では、雌牛のと畜率が6割を超える高水準となっている。

図4 成牛の1週当たりと畜頭数の推移
資料:MLA
  注:QLD州、ニューサウスウェールズ州、VIC州、南オーストラリア州および
   タスマニア州の主要なと畜場における成牛と畜頭数の合計

10月の牛肉輸出量、再び記録を更新

 豪州農漁林業省(DAFF)が11月4日に公表した「Red Meat Statistics」によると、と畜頭数の増加を反映し、2014年10月の牛肉輸出量は12万2455トン(前年同月比17.7%増)と、7月に更新した単月の記録を再び塗り替えた(図5)。また、これにより、2014年1月〜10月の累計は105万9155トン(前年同期比17.2%増)となった(図6)。2014年当初の業界見通しでは、年の後半にと畜頭数が減少し、輸出量は100万トン程度とみられていたが、干ばつの収束がいまだ見られないことに加え南部でも乾燥が続いていることで、2014年の通年の合計では、2013年の記録(109万9484トン)を大きく上回るとみられる。

 この牛肉輸出量の増加分の大半が、米国に仕向けられている。米国向けは、10月が4万2705トン(前年同月比98.8%増)、1月〜10月の累計が31万7987トン(前年同期比79.3%増)となり、通年の合計では米国向けのシェアが高かった2005年以前の水準に達するとみられている。米国内の牛肉の減産に加え、米ドルに対する豪ドルの下落も好調な輸出を支える要因となっている。

 日本向けは、10月は2万8155トン(前年同月比30.9%増)となり、8月以降、前年を大きく上回っていることから、1月〜10月の累計では24万355トン(前年同期比0.2%減)と前年並みまで回復した。また、韓国向けは10月が1万3448トン(前年同月比2.0%減)、1月〜10月の累計が12万2927トン(前年同期比8.6%増)となった。

 一方、中国向けは10月が9008トン(前年同月比46.1%減)、1月〜10月が10万5966トン(前年同期比15.2%増)となった。中国向けの減少は、今年5月以降、成長促進ホルモン(HDP)の使用が禁止されたことや、前年9月から今年7月まで、品質管理上の問題として中国側が冷蔵牛肉の輸入を停止していたことが要因となっている。

図5 主要輸出先別牛肉輸出量の月別推移
資料:DAFF
  注:船積重量ベース
図6 主要輸出先別牛肉輸出量の年別推移
資料:DAFF
  注:船積重量ベース

11月〜翌1月は乾燥状態が続く見通し

 干ばつのQLD州では過去2年、雨季(夏)に十分な降雨が得られなかったことから、今年の雨季に期待されていたが、豪州気象局(BOM)が公表した11月〜翌1月の3カ月間の気象予測によると、豪州北部から東部にかけて、平年よりも乾燥した夏になるとされている。MLAは、QLD州の干ばつや南部の乾燥が続けば、と畜頭数は当面も高い水準を維持するとしている。このため、2015年の飼養頭数は、これまでの雌牛の淘汰により過去20年での最低水準になるとしていた業界の見通しをさらに下回る可能性も否定できない状況となっている。

(調査情報部 伊藤 久美)


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