特集:飼料生産の効率化、低コスト化に向けた取り組み  畜産の情報 2014年2月号

輸入飼料からの脱却に向けた
自給飼料生産の拡大

農林水産省生産局畜産部畜産振興課 草地整備推進室



【要約】

 自給飼料生産の振興により、生産コストの低減と飼料自給率の向上を図り、海外の作況や経済環境の影響を受け難い足腰の強い酪農・畜産経営の確立を目指すことが重要な課題となっている。このため、平成26年度予算案等に盛り込まれた、草地の生産性の向上、優良品種の導入、高栄養粗飼料の増産、コントラクター・TMRセンターの普及定着、粗飼料の生産利用技術の高度化、公共牧場の機能強化等の施策を総合的に活用し、自給飼料の生産・利用の拡大に取り組み、輸入飼料からの脱却を図る必要がある。

1.はじめに

 近年は、飼料穀物の国際価格の高騰と円安の進展により、配合飼料価格が高い水準に留まるとともに、輸入粗飼料価格も日本向けの主産地である北米の天候不順等から高値で推移している。自給飼料の生産・利用の拡大により、生産コストの低減と飼料自給率の向上を図るとともに、海外の作況や経済環境の影響を受け難い足腰の強い酪農・畜産経営の確立を目指し、農林水産省では多様な施策を展開している。本稿では、自給飼料生産をめぐる現状と輸入飼料からの脱却に向けた自給飼料生産・利用の振興施策について概説する。

2.自給飼料生産の動向

 飼料作物作付面積は、平成3年に最大の105万ヘクタールに達した後、減少傾向で推移し、19年には約90万ヘクタールとなった。その後、上昇に転じたものの、増えているのは、支援水準が高まった飼料用米と稲WCS(図1の薄緑色の部分)によるものである(図1)。
図1 飼料作物作付面積と配合飼料価格の推移

資料:農林水産省「作物統計」、畜産振興課「流通飼料価格等実態調査」

 他方、牧草やトウモロコシ等の飼料作物の作付面積は、離農した畜産経営の草地等を円滑に継承できなかったこと等により、緩やかに減少傾向で推移している。本来、大家畜経営では、人の食用に適さない粗飼料から牛乳や食肉を生産できることに意義があるのであり、いま一度、自給飼料中心の給与体系への転換を図り、国土を有効活用していくことを考え直さなければならない。

 また、自給飼料生産に要する費用(生産費調査の費用価)は、43円/kg・TDN(平成22年)であり、配合飼料の価格72円/kg・TDN(同)や輸入乾牧草の価格 87円/kg・TDN(同)と比較しても明らかに優位性がある。しかしながら、現実的には、配合飼料価格が上昇傾向に転じた平成12年以降も、飼料作物の作付面積は減少傾向が継続してきた。平成19年以降、配合飼料価格はさらに高水準で推移する一方で、前述のように飼料用米と稲WCSへの支援が強化されたことにより、飼料作物の作付面積が増加傾向に転じたというのが実態である。

3.飼料の給与実態

 酪農経営を例に飼料給与の実態をみると、北海道においては、粗飼料が54.3パーセント、濃厚飼料が45.7パーセントとなっており、このうち粗飼料の自給率は89パーセント、濃厚飼料は12パーセントとなっている。都府県においては、粗飼料37.0パーセントに対して濃厚飼料が63.0パーセントと、全体の2/3を占めている。粗飼料の自給率は37パーセント、濃厚飼料は12パーセントとなっている。これらから、酪農経営の飼料自給率を計算すると、北海道では53パーセントとかろうじて過半を占めているが、都府県では21パーセントしか自給できていない(図2)。
図2 酪農おける飼料給与の実態

資料:平成23年度畜産物生産費調査、農水省畜産振興課草地整備推進室調べ

4.自給飼料の生産拡大に向けた現状と課題

(1)草地等の生産性向上

 飼料作物の作付面積は平成24年度で約93万ヘクタールとなっているが、このうち北海道が60万ヘクタールと65パーセントを占めている。北海道に多く見られる永年生の牧草地においては、雑草の侵入や裸地化などによって経時的に生産性が低下することから、定期的に耕起、再播種等の改良を行い、優良な草地基盤を維持することが重要である。

 このため、草地基盤の整備や改良(更新)を推進し、自給飼料生産の拡大と品質の向上に努める必要がある。これにより、濃厚飼料の給与量の削減を通じた生産コストの縮減と所得拡大が可能となり、その結果、大家畜経営の収益性の改善が期待できる。

(2)優良な品種の導入による単収向上

 飼料作物の生産性を向上させるには、わが国の多様な気候風土に対応した高能力な品種の利用が必要であり、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構や都道府県の試験場などが品種育成を行い、優良品種の開発を推進している。優良品種の導入により、単収向上と品質(TDN等)や耐病性、耐倒伏性についても改善され、TDNベースでの収量が2〜3割アップする例も見られ、経営コストの削減や所得の拡大が可能となっている。

 優良な品種に切り替えるだけで、栽培方法や技術体系を大きく変えることなく、たちどころに増収等の効果が得られるので、目先の費用負担に惑わされることなく、是非とも実施していただきたい。特に、都府県で広く栽培されているイタリアンライグラスは、都道府県が指定する奨励品種の利用割合が4割程度と低く、優良な品種に切り替えていく必要がある。

(3)高栄養粗飼料の増産

 土地資源に恵まれないわが国においては、飼料基盤に制約がある中で、自給飼料の増産を図るためには、栄養価の高い良質な粗飼料である青刈りトウモロコシ、ソルゴー、アルファルファ等への転換が重要な課題となっている。最近では、寒冷地でも生産が可能な青刈りトウモロコシの品種が開発・普及してきており、気象条件に恵まれない北海道においても活用の可能性が高まっている。配合飼料価格が高騰した平成20年度以降、北海道では青刈りとうもろこしの作付け面積は増加傾向で推移しているが、都府県では逆に減少しており、平成26年度新規予算(後述)で作付拡大に取り組むこととしている。

(4)コントラクター・TMRセンターの普及・定着

 飼料作物の作付面積は減少傾向が続いているが、農家戸数も減少してきたため、一戸当たりの作付面積は増加している。その結果、畜産経営の高齢化や経営規模拡大も相まって、自給飼料生産にかかる家族労働力の不足が深刻化している。こうした中、コントラクターやTMRセンター等の飼料生産作業の外部化は、畜産経営の労働力不足を補うだけではなく、均一化された良質な飼料を供給できる機能を有しており、平成24年度にはコントラクターが605カ所、TMRセンターが109カ所と着実に定着しつつある。

(5)粗飼料の生産技術の高度化と公共牧場の機能強化

 栄養価の高い粗飼料給与量の拡大やこれを高度に活用することなどによって配合飼料の削減が可能であり、事例としては、稲WCSの多給、稲わらと粕類の組み合わせ、昼夜放牧などの取組が挙げられる。しかしながら、これら取組は点的なものにとどまり、広がりをもって取り組まれているとはいえないことから、全国的な実証によりデータを集積し、これらの情報が広く畜産経営に共有されることが課題となっている。

 また、地域には優良な粗飼料基盤として公共牧場があるが、飼料生産や家畜管理などの技術力や草地・施設などの機能を十分に発揮していない事例も多く、畜産農家が利用しやすい公共牧場に変革するための機能強化が必要となっている。

5.飼料用米、稲WCSの推進

 飼料用米や稲WCSについては、生産者に対し10アール当たり8万円の助成が行われること等により、近年、作付面積が急増している。また、利用する畜産農家にとっても、地域による差はあるものの、飼料用米では輸入トウモロコシに近い価格で、稲WCSについては他の粗飼料と比べて利用しやすい価格での供給が可能となってきているところである。

 他方、水稲の作付をみると、主食用米の需要減による作付面積の減少分は、飼料用米や稲WCS等の非主食用の水稲の作付拡大によって補われている状況にある。わが国の食料自給率・飼料自給率の向上を図るためには、引き続き、需要に即した主食用米の生産を進めるとともに、需要の見込める飼料用米や稲WCS等の生産・利用の拡大による水田フル活用を推進する必要がある。

 このため、飼料用米について、これまでの面積払いによる助成方法から、生産数量に応じて交付金を支払う数量払いが26年度から導入され、生産拡大に向けた取組の強化が図られることとなった。

 畜産側としても、飼料用米の利用拡大は、輸入穀物に依存しない、自給飼料に立脚した畜産経営の実現を図る上で重要であり、また、堆肥や稲わら等の耕畜連携や地域の飼料用米を活用した畜産物のブランド化など、地域活性化にも繋がりうる取組と考えている。

 このため、一層の利用拡大を図るため、

(1)共同利用する乾燥・調製・保管施設の整備
(2)飼料用米の利用に必要となる粉砕機、混合機、飼料保管タンク等のリース導入
(3)稲WCSの収穫・調製に必要な機械のリース導入
(4)耕種農家と畜産農家のマッチング

等を支援することにより、引き続き畜産農家が利用しやすい環境の整備を進めることとしている。

6.具体的な施策の展開方向(平成26年度の支援措置)

 今般、平成26年度当初予算、25年度補正予算、24年度補正予算の延長と見直しなどが措置されたところであり、これらの施策を総合的に活用し、自給飼料の生産・利用の拡大に取り組むこととしている。これらの事業内容は、まもなく全国会議等を通じて明らかになる予定であり、事業の活用推進のため、行政や地域の畜産団体は、スピード感をもって情報を畜産農家に伝える必要がある。

(1)平成26年度当初予算の確保・拡充

 平成26年度の飼料増産対策事業(予算額:14億円)においては、輸入飼料原料に過度に依存した畜産から、国内の飼料基盤に立脚した畜産への転換を速やかに行うため、以下の予算を拡充した。

 (1)草地の生産性向上を図るための事業では、ア.高能力な飼料作物の新品種を国主導で迅速に
   畜産現場へ普及促進、イ.配合飼料給与量を低減させる粗飼料生産・給与技術(スマート・
   フィーデイング)の実証、ウ.大家畜生産のハブとしての公共牧場の機能強化、などの取組を
   新たに支援することとしている。

 (2)国産粗飼料の増産を図るための事業では、コントラクターやTMRセンターによる青刈りトウモロ
   コシやマメ科作物等栄養価の高い良質な粗飼料の作付・利用拡大等の取組に対して新たに
   支援することとしている。

 また、飼料基盤の整備を行う農業農村整備事業、農山漁村地域整備交付金などの公共事業(農林水産省農村振興局計上)についても、大幅に増加した前年度並みの予算額が確保された(図3)。
図3 飼料増産総合対策事業の概要(拡充)

(2)平成26年度価格関連対策

 輸入飼料穀物や粗飼料の価格が高騰する中で、一層の国産粗飼料の利用拡大を推進するために、平成24年度補正予算で措置した飼料自給力強化支援事業の実施期間を延長し、以下の事業メニューを新設した(26年度予算額に127億円:独立行政法人農畜産業振興機構事業)。

(1)都府県の酪農経営が効率的な国産粗飼料の利用・定着を推進するための取組に対して、
  経産牛1頭当たり6,100円を交付。

(2)国産粗飼料(稲わらを除く)の広域流通を促進するため、コントラクター等が地域の自給飼料を
  収集・保管などを行う際に必要となる資材などの掛かり増し経費相当に対し、広域流通する
  粗飼料の拡大数量に応じて奨励金を交付(奨励金単価20円/kg)。

(3)TMRセンターやコントラクターなどが利用する機械等のリース導入への支援
  (補助率1/2以内)。

 また、一層取り組みやすい事業とするため、事業要件等を抜本的に見直した。

(3)平成25年度補正予算の措置

 飼料用米を利用する畜産サイドにおける円滑な活用等を推進するため、その利用・保管に係る機械・施設等のリースによる支援として、畜産収益力向上緊急支援リース事業(予算額70億円:独立行政法人農畜産業振興機構事業)を措置した。
 

 


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