特集:飼料生産の効率化、低コスト化に向けた取り組み  畜産の情報 2014年2月号

地域資源活用型TMRを利用した
大規模肉用牛一貫経営の取り組み

九州大学大学院農学研究院 教授 福田 晋

【要約】

 鹿児島県南さつま市に立地する有限会社錦江ファームでは、九州管内の水田から供給される稲発酵粗飼料、飼料米と食品産業から供給される食品残さを原料とするTMRセンターを設置し、地域資源の活用、飼料自給率の向上を図っている。また、当該ファームは、直営牧場と委託牧場による多頭化、酪農部門と人工授精所を取り込むことで、徹底した低コスト和牛生産を行っている。さらに、食肉加工・卸売業を営むグループ企業の肉牛生産部門を担っていることで、牛肉マーケットを意識した製品づくりを可能としており、今後の和牛経営のモデルとして位置づけられる。

1.はじめに

 今日の畜産経営における飼料自給問題は、畜産経営自らの取り組みに完結しない段階に来ている。すでに、畑地や草地を抱える畜産経営においては、機械と労働力装備の制約から、飼料生産コントラクターへの委託が進み、外部化、分業化の走りとなったことは周知の事実である。次のステージとして、水田生産調整推進の支援措置もあって、水田を利用した稲発酵粗飼料(以下、「稲WCS」と称す)の導入が増えてきた。この段階になると、水田を所有する耕種農家が作付し、コントラクター等を利用して収穫・調製を行い、畜産経営へ販売するという契約取引方式にウエイトが置かれてきた。稲WCSは地域内で取引され、流通してきたのである。一方で、地域資源を利用したTMRセンターが北海道を中心に設立され、TMR給餌体系が採用されるようになってきた。昨今の飼料高は、この動きを促進していると思われる。

 そのような中で、水田における稲WCSや食品産業から供給される食品残さを原料としてTMRセンターを稼働させる取り組みが増えてきつつある。本稿では、鹿児島県の大規模肉用牛経営の取り組みを対象に、TMRセンターのみならず、生産から最終商品まで供給する仕組みを構築している事例について紹介し、その意義と展望について考察する。

 対象とする事例は、食肉加工処理及び卸売業を行う株式会社カミチクのグループ会社で鹿児島県南さつま市に立地する有限会社錦江ファームである。

2.カミチクグループの理念と組織

 錦江ファームの考察をするとき、その母体であるカミチクの話を取り上げないわけにはいかない。カミチクグループは、牛に食べさせるエサ作り〜人工授精所・受精卵移殖研究〜牛の飼育〜牛肉の製造加工〜販売〜焼肉店経営までを行なう牛肉産業の一貫経営を行っている。畜産経営とりわけ肉牛経営において、繁殖と肥育の経営分離と統合の課題は、古くて容易に解決できない問題である。個別一貫、地域一貫などの試みは数多くなされ、そのメリットやデメリットも指摘されてきた。しかし、このカミチクグループの取り組みは、肉牛経営の一貫問題を超えた、まさに餌から牛肉消費までの一貫経営である。

 カミチクの創業は1985年にさかのぼる。食肉卸売業としてスタートした同社は、「安心・安全で、安くて、おいしい牛肉を届けたい。」という思いで、エサづくりから子牛の生産、肥育、製造、販売、外食までをすべて自分たちで手がける一貫体制をめざしてきた。これまでの畜産や食肉業界の常識では無理だろうといわれてきた仕組みである。肉牛生産の一貫経営問題が、経営効率の観点から議論されてきたように、飼料自給問題も飼料自給率の向上とコスト削減という観点から議論されることが多かった。地域資源を活用した国産飼料の利用が、消費者にとっての価値や信頼という観点から把握されることはほとんどなく、それを踏まえた商品作りも意識されることは少なかった。それは、肉牛生産と牛肉という最終商品作りの連携の構築ができていなかったという点に帰着する。それをひとつの企業グループが取り組むことによって克服してきたのがカミチクの取り組みである。

 図1に、カミチクグループの組織図を示している。

図1 カミチクグループの組織図


資料:現地調査で収集した資料より作成。
 (株)カミチクは、食肉加工処理と食肉卸売を担当する本部であり、商品企画提案、品質管理、食肉製造、原料調達窓口の機能を持つ。株式会社ケイフーズは、多様な実需者のニーズに応えるべく東京食肉市場内で全国の銘柄牛を調達する機能を持つ。カミチクグループでは、元来、鹿児島県産の牛肉を提供することを目的としてきた。しかし、鹿児島や鳥栖といった各地に営業所を開設し、外食産業へ参入する過程で、鹿児島県産にとどまらず、いろいろな牛肉を扱う必要性がでてきたことが背景にある。株式会社アンドワークスは、外食部門の経営と外食産業へのコンサルティング業務を担当している。外食店舗は、都内に4店舗を展開する「薩摩牛の蔵」と2店舗を展開する「薩摩丹田」がある。そして、これらの牛肉産業部門に肉牛を提供する生産事業を行っているのが錦江ファームであり、その傘下にある株式会社ケイミルクである。

3.錦江ファームの概要

 錦江ファームは、1993年に設立され、現在、63牧場(鹿児島県:50(直営11、預託39)、宮崎:11(直営4、預託7)、大分:1(直営)、熊本:1(直営))を有し、肥育牛1万4000頭、繁殖メス牛4,000頭を飼養するカミチクグループの大規模肉牛経営法人である(写真1、2)。
写真1:錦江ファーム入口の説明看板
写真2:肥育牛舎の様子
 当該ファームの子会社として2012年にケイミルクを設立し、酪農事業を行っている(写真3)。乳牛に和牛の受精卵を移植することで、母牛から和牛の子牛が生まれ、生乳生産も行う「乳肉一貫経営」の取り組みである。グループ企業のケイミルクでは、体外受精の技術を生かし、鹿児島県初の「乳肉一貫」の酪農に取り組んでいる。この究極の和牛コスト低減方策では、子牛の原価が抑えられ、生乳生産により収益が得られるなど、さまざまなメリットがある。
写真3:搾乳牛舎の様子
 当該牧場の特徴は、まず第1に、稲WCSや食品残さなどの地域資源を利用するTMRセンターを2009年に設置し、飼料自給率を高める取り組みを行っていることである。この点については、後ほど詳述する。

 第2に、2008年に人工授精所を開設し、自ら繁殖、育成、肥育仕上げまで行う一貫経営を実践しており、2008年10月には受精卵研究所も設置している。肉質のよい牛を生産するには、血統のよさが重要なポイントになる。錦江ファームの「家畜人工授精所」では、自社牧場の優秀な種牛を使って人工授精を行っている。高価な精液を外部から購入する必要がなく、よい牛をより低コストで生産できる。

 子牛価格が高騰しており、外部からの導入を抑えて、自社育成比率を50パーセント程度にもっていくという構想がある。そのために、繁殖メス牛を増頭するとともに、従来の体内受精に加え、高度な繁殖技術である「体外授精」にも取り組んでいる。また、優秀な子牛を作るための母牛と種牛の組み合わせなどの研究も受精卵研究所を開設して行われ、供卵牛100頭を飼養しており、育種価を把握しながら、より肉質のよい牛づくりが追求されている。

 第3に、繁殖段階から牛肉提供まで、一貫したシステムをカミチクグループで構築しており、その生産部門を錦江ファームが担当しているという事業インテグレーションの考えが貫徹していることである。また、耕作放棄地の利用にとどまらず、公共牧場など地域の遊休資源を活用する意識が極めて高いことである。阿蘇瀬田地区で2010年から自然放牧事業に取り組んでおり、子牛の低コスト生産に努めている。


4.TMRセンターの操業と効果

 TMRセンターは、補助事業「効率的飼料生産促進事業(強い農業づくり交付金)」を活用し、総事業費約2億6000万円(うち37%は国庫補助金)を投資して2009年10月に完成している(写真4)。
写真4:TMRセンター内部
 TMRの原料となる食品残さは、県内外から集荷されている。県内からは、焼酎粕(焼酎メーカー)、豆腐粕(スーパーマーケットの所有する直営工場)、パイナップル粕(スーパーマーケット)を集荷し、県外から醤油粕(醤油メーカーから業者を介して)、ビール粕(メーカー)を集荷している。これらの食品残さ原料は、四半期ごとに条件等を見直す年間契約による安定取引を行っている。当初は、取引先の依頼で始まったが、安定取引ができるところとの契約に絞り込んできている。

 TMRセンターは、9月頃から12月頃までのピーク時には日量100トンを生産し、年間平均90トン程度生産している(写真5)。TMRは、繁殖、育成、肥育前期、肥育後期、酪農向け、に製造されている。このTMR飼料は、肥育牛には全農場で給与されており、繁殖牛、育成牛は希望農場が利用している。繁殖牛は放牧を行っており、夏冬で飼養体系が異なっている。肥育後期は従来の濃厚飼料と稲わら給与に加えてTMRを給与しており、さらには肥育後期に飼料用米(玄米)を使った試験を行っている。これらのTMRは製造後1年以内には利用されるが、品質的には問題がなく、長期保存のメリットがある。
写真5:TMR製造の様子
 TMRを給与し始めてからは濃厚飼料の使用量は確実に減少しており、稲WCSの利用により、オーツヘイやチモシーなどの輸入粗飼料を代替している。その結果、繁殖用TMRはほぼ国産飼料となっている。この点をみても飼料自給率は確実に上がっていることがわかる。

 TMRを給与して以降、肉質(格付け)、枝肉重量に関しては従来と劣ることはないという結果が出ている。したがって、生産の質・量ともに変化がなく、コスト低下ができれば収益増大につながることになる。

 TMRを生産し利用することの効果として、以下の4点を指摘しておこう。まず第1に、地域連携による食品残さの活用という点であり、南九州地域で出た焼酎粕などの食品副産物を活用しているという点である。第2に、農耕連携による耕作放棄地(田・畑・山)の活用であり、地域の荒地を活用し、飼料用作物の生産に活かしている。第3に、地域の建築・土木業者に飼料用作物を作ってもらうことにより、地域産業の活性化に結び付けている。第4に、従来の梱包商品だけでなく、30キログラム梱包のTMR商品パックを製造することにより、小規模畜産農家に利用しやすくしている。これらの取り組みは、大規模一貫牛肉経営が地域との連携を図りながら循環型畜産を目指しているゆえの効果といえよう。

5.稲WCS供給システム

1)供給主体と仕組み

 稲WCSは熊本県八代地域2組織、阿蘇地域1組織、大分県北地域2組織、宇土地域1組織の、合計4地域6組織から購入している。最初に取り組んだのは、阿蘇地域のA組合である。以降、八代地域のB組織、C組織が取り組み、その後大分県北地域のD、E組織の2組織が連携を始め、2013年から宇土地域のF組合が取り組みを始めており、耕畜連携の輪が広がっている。

 連携方式は大きく2つのタイプからなる。大分県の2組織は収穫機を揃えているため、ラップサイレージにして水分55パーセント程度、22〜23円程度/kgで買い取っている。他の地域では専用収穫期等を揃えることができないため、錦江ファームが収穫機等を貸し出して地元オペレータが収穫以降を担当する。2010年と13年の収穫実績を表1に示している。
表1 稲発酵粗飼料の供給組織別作付面積

資料:現地調査で収集した資料より作成。
  注:A組合にはその他野草、稲わら、麦わらの取引があり、D、E組織には飼料米も含み、
    F組合には別途飼料米が30haある。
 この実績によると、作付面積は2010年から約2.2倍に増大している。この間、稲WCSに対する手厚い助成措置が取られたとはいえ、組織、地域の広がりだけでなく、面積でも著しく増大していることがわかる。この事例でもわかるように、専用機械の投資ができない組織に機械を貸し付けることで取り組みが広がったといえる。そして、稲WCS作付面積の増大には、この事例のような、県域を越えた広域連携が含まれていることに注目すべきである。鹿児島県内は水田地帯が少なく、圃場条件に恵まれず団地化したまとまった取り組みがないことで連携につながっていない。

 この稲WCSの供給主体である連携組織の中には、大分県宇佐市のE組織のように、異業種からの参入者もいる。E組織は、1973年に土建会社を設立し、97年に農業生産法人フラワーうさを創業。2002年に有限会社化している。コメ、麦、大豆の土地利用型部門に稲WCSが加わったものである。このような異業種からの農業生産法人が、土建業の機械装備と労働力を活かして担い手となり、錦江ファームのような大規模肉用牛経営と連携している構造は、国内粗飼料需給をめぐる新たなモデルとなるであろう。

2)圃場段階の品質チェックと稲WCS生産組織との情報交換

 稲WCSの製品化は水分調整が最大のポイントであり、適期刈取を励行している。圃場での水分チェックは、ラップサイレージ製造まで産地組織単独で行う大分地域を除いて、錦江ファーム側が現地に赴いて水分チェックを行っている。

 現地では、稲WCS管理番号がラップに記載される。更なる品質の向上・安定を図るため、今後は、生産台帳とラップの管理番号をもとにした、現地でのチェック体制の強化が必要である。

 稲WCSラップロールは、直径が110センチメートルタイプで、なるべく多くの個数を一車に積み込むことでラップ1個当たりのコスト削減に努めている。広域流通になると、輸送段階のコスト削減は重要な課題であり、今後は、現地で稲WCS以外の原料を混ぜてラップして輸送することにより、TMRセンターにおける作業の効率化も検討されている。

 輸送されたラップはTMRセンター横の保管スペースに積まれているが、産地でのストックポイントは、現地責任で整備してもらっており、この整備は今後の課題でもある(写真6)。
写真6:TMR製品置き場
 農場では、稲WCS生産者組織、機械メーカー、運送業者、県行政機関をメンバーとした「稲WCS協議会」を組織し、年3回程度の情報交換を行っている。ここでは水分調整などの品質問題、推奨品種の作付要請などが行われている。このような情報交換が行われることにより、稲WCS生産流通に関わるメンバーの相互の信頼関係が構築されることで、当初の稲WCSの物損事故等に関わるクレームなどもなくなり、事故自体も少なくなっている。

6.生産から販売までの一貫システムのメリット

1)生産プロセスを持った強みとしてのブランド構築

 当該農場で生産された肉牛は、と畜解体された後に自社で部分肉処理されて、以下のような独自
 のブランド牛肉となっている。

 (1)薩摩牛(品評会受賞歴のある牛飼い名人が育てた、A4等級以上の鹿児島黒毛和牛)、

 (2)ヘルシークイーンビーフ(低脂肪・低カロリーで、ヘルシー。カルニチンやビタミンEなど老化防止
  成分が豊富な経産肥育牛。ヘルシーで安価を好む消費者や脂肪や肥満が気になるからと、肉食
  を控えている消費者向けのポジショニングを考えている。)

 (3)元米牛(玄米を加えた自社開発のTMR発酵飼料を与えて育てた牛からできた牛肉)

 (4)4%の奇跡(A5でBMS10番以上。最高の肉質できめ細かなサシの入った牛肉の中でも
  4パーセントしか出ないという超プレミアムな牛肉)

 これらは、多様なニーズを持つ消費者をセグメント化し、ターゲットを決めて、同一品種の黒毛和牛の中で複数の差別化を図った製品ブランドを形成して、ポジショニングを形成するというマーケティング戦略を構築している。あらためて、資源循環を消費者に伝えるための、入口から出口までの統合の重要性が示唆される。

2)徹底した資源循環体制と衛生管理体制の構築

 これほどの大規模経営で、自ら還元する圃場がない場合、多くの畜産経営は堆肥処理に苦労する。当該農場では、ケイミルクの畜舎に戻し堆肥を利用することによって、堆肥処理を強みに変えている。一般的に、酪農の牛舎は床がコンクリート製であり、牛の蹄に負担がかかるが、ケイミルクは牛舎に鹿児島初のコンポストバーン方式を採用することで、病気を防いだり、ストレスを軽減している。あたたかい床を使用することで雑菌の増殖を抑え、乳牛がかかりやすい乳房炎を防いでいる(写真7)。また、一部は近隣の耕種農家に販売することで循環の輪を保っている。
写真7:コンポストバーン牛舎
 2010年6月、カミチクグループとして錦江ファーム金峰農場、錦江ファームTMRセンター、カミチク本社・加工センターという、農場・エサ作りから加工・販売まで、日本の食肉業界で初めて、ISO9001とISO22000の同時認定を取得している。

 また、鹿児島食肉センターで食肉処理をした牛を対象に放射性物質の全頭検査を行っており、放射線量の測定結果は、食肉センターを管理している、ミートセンターかごしまが「報告書」を発行している。

 以上のような生産過程の管理徹底のほか、「どこで生まれ、誰がどんなふうに育てたか」を確認できるトレーサビリティの仕組みが徹底できるのも完全一貫体制の強みである。薬を使った治療履歴も詳細に記入した1頭ずつの管理表を作成し、農場を訪れる流通や外食関係の方にも提示できる体制を採用している。また、抗生物質はなるべく使わず、スタッフや獣医が頻繁に観察するなど病気予防を徹底させている。

 このような農場レベルでの衛生管理体制やトレーサビリティーシステムの徹底は、当該農場が完全一貫経営を行っているからこそ可能となっている。

3)産官学連携の実践

 当該農場の取り組みで特筆すべきは、実践的な試験研究を行う九州沖縄農業研究センターと、機械開発をビジネスとする機械メーカーとの連携であろう。カミチクの上村社長は、九州沖縄農業研究センターの研究協力員という肩書を持ち、数々の共同研究に取り組んできた。

 新たに取り組み始めた飼料米については、玄米を破砕してTMR原料として酪農、肉用牛肥育後期用に利用を始めており、九州沖縄農業研究センターとの共同研究の下に飼料設計を行っている。ちなみに、仕上げ期5カ月間に、従来同様の配合飼料と稲わらを給与した肥育牛と玄米、甘藷焼酎粕濃縮液、乾燥豆腐粕、ふすまなどの発酵TMR、配合飼料、稲わらを給与した肥育牛との比較試験の結果、枝肉重量、BMS(牛脂肪交雑基準)、BFS(牛脂肪色基準)、肉の光沢、締まり、きめ、脂肪の光沢と質等に有意差はない、という試験結果が得られている。したがって、玄米などを混合したこの発酵TMRを、肉用牛の仕上げ期5カ月間に乾物ベースで配合飼料の60パーセント程度代替給与しても枝肉成績や肉質に問題がないとしている 。

 このような、産官学連携にも極めて積極的に取り組み、科学的な裏付けがあって実践していることも今後の畜産経営にとって示唆に富むことである。従来、勘と経験に基づいた畜産が多い中で、試験研究の共同研究機関となって実践的課題解決に取り組むことが今後も求められよう。

7.むすびにかえて

 以上、地域資源を利用した低コスト国産牛肉作りのモデルとなるような、カミチクと錦江ファームの取り組みを紹介してきた。資源活用型TMRセンターを持続させるためには、耕畜連携システム作りであり、食品産業との食畜連携システム作りが必要である。同時に、生産から繁殖までの一貫体制作りが改めて問われることになる。最後に、今後の展開に向けた課題について触れておこう。

 第1に、TMRの安定的供給体制に欠かせない広域連携における輸送システムの課題である。現在、最も遠方の大分県北地域からの稲WCSのラップ輸送は、コスト面での決定的なネックである。なるべくTMRセンター近隣での水田を確保した供給システムが第1に望まれる。さらに、稲WCS単体を供給するのではなく、何らかの付加価値をつけた輸送や現地での加工システムの検討も必要であろう。

 第2に、稲WCSや飼料米を給与したブランド牛肉を安定した品質で一定ロットを供給できる体制の構築が欠かせない。そのための販売促進や販売チャネルの確保などのマーケティング戦略が生産現場の錦江ファームと本社との連携で行われるべきであろう。

 第3に、今後、水田を利用した安定的な耕畜連携システムによる、稲WCSや飼料米の供給を続けるには、単に水田調整政策としての支援措置ではなく、地域資源を活用した国産飼料の需給システムの構築といった政策理念を持ち続けることが重要である。その意味から、飼料米や稲WCSの支援を畜産政策、飼料政策として確固として位置付ける必要がある。

注:神谷充ほか「黒毛和種肥育牛の仕上げ期における玄米と食品残さの発酵TMR給与が飼養
  成績、血漿中成分、枝肉成績、および肉質に及ぼす影響」『日本畜産学会報』81(4)、481-
  488,2010を参考されたい。なお、本研究の共同執筆者に上村社長が加わっていることを記して
  おく。

元のページに戻る