【要約】
2013年の米国の肉牛生産は、2011年および2012年に発生した干ばつにより、減少に転じた。加えて肉牛生産者は、飼料穀物価格の上昇や子牛生産頭数の減少など厳しい状況に立たされ、多くの生産者が現在も苦しい経営を続けている。
今回、干ばつの影響による米国肉牛生産の変化については、米国農務省などの資料などを基に、また、主要肉牛生産州での干ばつに対する取り組みについては、生産現場の調査を行った。広大な土地を有するテキサス州ではスケールメリットを活かした経営を行う一方、ネブラスカ州では飼料穀物生産地帯という地の利を活かした経営を行う中、干ばつに対する様々な取り組みがみられた。
1.はじめに
2010年以降の米国の肉牛生産は、飼料価格の下落予測や牛群の拡大により増産見通しとなっていたが、2011年に南部を襲った干ばつに加え、2012年に中西部で発生した干ばつにより、肉牛生産は減少見通しに転じた。また、干ばつの影響により飼料穀物価格は上昇し、肉牛生産者の経営に深い爪痕を残す結果となった。一方、2013年は好天に恵まれたことから、放牧環境の回復や飼料穀物価格の下落など、過去2年間と比較して肉牛生産および生産者の経営環境は少しずつ改善されつつある。
本稿では、米国の農業調査会社インフォーマ社および米国農務省(USDA)の資料を基に、現在の肉牛生産状況を整理すると共に、米国の牛肉生産量の約70パーセントを産出する、南部および中西部に位置するテキサス州やネブラスカ州での生産現場の取り組みについて報告する。
なお、本稿中の為替レートとして、1米ドル=100円(2013年10月末TTS)を利用した。
2.米国の肉牛生産の概要
(1)牛の分布状況および飼養頭数
USDAが2007年に公表した農業センサスによると、米国の牛の分布状況は、主に南部から中西部にかけてのコーンベルト地帯に集中しており、特にネブラスカ州、カンザス州、オクラホマ州およびテキサス州の飼養頭数が目立っている(図1)。なお、カリフォルニア州については、主要酪農生産州であることから、乳牛の飼養頭数が中心となっている。
図1 米国の牛の分布状況(2007年) |
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資料:USDA/NASS |
米国の牛の飼養頭数(乳牛も含む)は、1988年以降、1億頭を割り込んだ後、再び増加傾向となり、1997年に再び1億頭に達した。しかし、その後は、8年連続で減少となり、2005年に増加に転じたものの、2006年の干ばつなどにより再び落ち込み、以降、減少傾向で推移している(図2)。
図2 牛飼養頭数の推移 |
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資料:USDA/NASS「Cattle」
注:各年1月1日時点の飼養頭数 |
2013年1月1日時点の牛飼養頭数は、前年同日比1.6パーセント減の8930万頭となり、9000万頭を割り込んだ。牛の構成割合を見ると、牛群拡大に当たって重要となる肉用経産牛の飼養頭数は、全体の約3割を占めているが、直近で牛飼養頭数が増加基調にあった2007年と比べて、360万頭も減少している(図3)。
図3 牛の構成割合(2013年) |
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資料:USDA |
米国の牛飼養頭数は、一般的に約8〜12年の間隔で増減を繰り返す「キャトルサイクル」があるとされており、2010年以降は緩やかながらも増加に転じるとみられていた。しかし、2011年および2012年の2年連続の干ばつの影響により、米国のキャトルサイクルの周期は崩れた状態となった。この結果、今後、数年間は牛の飼養頭数は減少傾向が継続するものとみられている。
他方、牛の飼養農家戸数(育種農家、繁殖農家、育成農家、フィードロットを含む)は、USDAの統計で確認できる2003年以降、減少傾向で推移している(図4)。これは、米国内の牛肉消費量の減少や景気後退などの影響を受け、経営難から離農する農家が増加したためとみられている。一方、1戸当たりの飼養頭数は、2003年以降、増加傾向にあるが、2009年はリーマンショックなどの影響により大きく後退した。また、2012年は飼料価格高騰の影響による経営悪化により、農家が牛の早期とう汰などを行ったため、再び減少に転じている。
図4 牛飼養農家戸数および1戸当たりの飼養頭数の推移 |
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資料:USDA
注:牛には乳用牛を含む |
(2)肉牛生産の流れ
米国の肉牛・牛肉生産の大きな流れとして、大きく分けて2つのパターンがある。1つ目は、育種農家から繁殖農家、フィードロット(肥育)を経由してパッカーへ向かう流れである(図5)。この場合、繁殖農家は、育種農家から購入した種牛や精液を利用し、子牛を生産する。その後、11〜15カ月ほど放牧により育成された後、フィードロットへ販売される。フィードロットで穀物肥育により生産された肉牛はパッカーへ出荷される。
図5 米国の肉牛生産構造 |
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資料:USDAおよび聞き取りにより機構作成
注:上記の他、フィードロットでは肥育もと牛を家畜市場から購入する場合もある |
2つ目は、繁殖農家までの過程は同様であるが、繁殖農家で生産・育成した7〜9カ月齢の子牛をストッカーと呼ばれる育成農家が買い取り、自分たちが所有する草地に放牧させ、約1〜6カ月育成する流れである。育成された肥育もと牛は、肥育部門であるフィードロットに買い取られ、フィードロットで5〜6カ月肥育された後、パッカーへと出荷される。
なお、育成業者は2つに分類され、放牧主体の育成業者を「ストッカー」と呼び、農場内で乾草や飼料穀物などにより飼育する育成業者を「バックグラウンダー」と呼ぶ。また、米国の肉牛生産構造は、繁殖経営は小規模農家が多数を占める一方、大手パッカーなどが運営するフィードロットでは、経営コストの削減などを目的に、大規模化が進んでいる。
3.繁殖経営の生産実態
(1)繁殖雌牛の飼養状況
米国の繁殖経営は、主に放牧主体で繁殖雌牛や子牛を飼養している。このため、干ばつにより放牧環境が悪化した場合、育成が困難な状況となることから、繁殖経営は天候に大きく左右されることになる。また、繁殖雌牛の主要な生産州は、全米各地に点在しているものの、特に南東部および南部などに集中しており(図6)、南部のテキサス州では、全米の肉用繁殖雌牛の13.7パーセントを飼養している(2013年)。
図6 米国の肉用繁殖雌牛の分布状況(2007年)
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資料:USDA/NASS |
(2)繁殖農家の動向
米国の繁殖経営の規模は、前述のとおり50頭未満の繁殖農家が全体の約80パーセントを占めている(一部大手パッカー所有の繁殖経営などは大規模)。
このような中、2012年の繁殖経営1戸当たりの飼養頭数は、前年比1.6パーセント減の41.4頭となっている(図7)。また、繁殖経営戸数は、2003年以降、減少傾向にあるが、2006年〜07年および2011年〜12年の干ばつの影響や景気後退などにより、その減少に拍車がかかっている。
図7 肉用牛繁殖経営戸数および1戸当たりの飼養頭数の推移
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資料:USDA |
また、繁殖雌牛の飼養頭数は、キャトルサイクルに伴い2005年(前年比0.16%増)から2006年(同0.24%増)にかけて回復の兆しを見せたものの、2006年以降は減少傾向で推移している(図8)。2013年の肉用繁殖雌牛頭数は2930万頭となり、飼養頭数が増加した2006年と比べて、11.2パーセント減とかなり大きく減少している。この減少の要因として、干ばつによる放牧環境および農家の収益性の悪化が挙げられる。特に2013年の肉用繁殖雌牛頭数は、前年比2.9パーセント減となっており、2011年および2012年に発生した干ばつの影響を受けて、過去10年間で最大の減少幅となった。
図8 繁殖雌牛頭数の推移
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資料:USDA |
(3)主要肉牛生産州の動向
繁殖農家を多く抱える主な州の繁殖雌牛飼養頭数は、テキサス州が第1位となっており、次いでネブラスカ州、ミズーリ州、オクラホマ州などが続いている(図9)。2013年の飼養頭数は、2012年の干ばつの影響により放牧環境が悪化したことで、農家からの早期出荷が増加し、テキサス州で前年比12.0パーセント減の402万頭、ネブラスカ州で同4.2パーセント減の181万頭、ミズーリ州で同5.4パーセント減の176万頭、カンザス州で同8.2パーセント減の133万頭と、いずれも減少となった。
図9 主要州における繁殖雌牛飼養頭数
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資料:USDA |
4.フィードロット経営の生産実態
(1)フィードロットの概要
米国のフィードロットでは、一部牧草肥育を行う経営もあるが、その大部分は日本と同様にトウモロコシや大豆を用いた濃厚飼料を給餌している。そのため、フィードロットの経営は、干ばつに伴う飼料穀物価格高騰の影響を受けやすい状況にある。また、繁殖農家と対照的に大規模化が進んでおり、企業経営体や大手パッカーが所有する場合が多い。インフォーマーの報告によると、米国の5大フィードロット企業(JBS社、カーギル社など)は、全米に合計34カ所のフィードロットを所有し、約240万頭を飼養している。これは、米国の肉牛飼養頭数の約20パーセントを占めることとなり、今後も経営拡大による効率化を目指した集約化が進むとみられている。
2013年の主要肉牛生産州(200万頭以上)の肥育牛飼養頭数は、主にテキサス州、ネブラスカ州、カンザス州となっており、この3州で全米の肥育牛の約6割を占めている(図10)。テキサス州は、繁殖雌牛と同様に米国の主要肉牛肥育州として首位を維持しているものの、近年ではトウモロコシの主産地であるネブラスカ州の増加が目立っている。ネブラスカ州のフィードロット経営については後述するが、同州では肥育牛の飼料穀物となるトウモロコシおよびトウモロコシとエタノール蒸留かす(DDGS:Distiller's Dried Grains with Solubles)を豊富に有しており、他州に比べてこれらを安価に入手できるメリットがある。
図10 主要生産州における肥育牛飼養頭数の推移
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資料:USDA |
図11 米国の主要肥育牛生産州
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資料:USDA/FAS, NASS「2007 Census of Agriculture」
注:黄色の数値は各州の飼養頭数の全米シェア(%)を表す |
(2)フィードロット飼養頭数の動向
2013年のフィードロットの飼養頭数は、2011年のテキサス州での干ばつにより、繁殖雌牛を中心に早期とう汰が行われた結果、肥育もと牛としてフィードロットに出荷される子牛頭数が減少したことから、前年を下回って推移している(図12)。一方、2013年に入り、徐々に干ばつで被害を受けた放牧環境が改善に向かいつつあることから、今後、繁殖雌牛頭数や子牛生産が順調に増加した場合、フィードロット飼養頭数も増加に転じるものとみられている。
図12 フィードロット飼養頭数の推移
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資料:USDA |
また、フィードロットの飼養頭数には季節性があり、秋頃から春先にかけて肥育もと牛の導入頭数は増加傾向にある。これは、繁殖農家が放牧環境に合わせて春生まれの子牛を供給するためである。
なお、フィードロットへの主な供給元は、米国内の繁殖経営、ストッカー(育成専門農家)に加え、北米自由貿易協定(NAFTA)により隣国(メキシコやカナダ)からの導入も増えている。2013年は、メキシコで発生した干ばつにより、同国からの肥育向け生体牛の輸入は減少したが、カナダは好天に恵まれ放牧環境が良好であったことから、肥育向け生体牛の輸入は増加している。
2013年のフィードロット導入頭数を見ると、干ばつで影響を受けた前年を上回る月が見られる(図13)。直近の数値となる2013年11月の導入頭数は、前年を9.8パーセント上回っており、飼料穀物価格の下落を背景としたフィードロット経営の導入意欲がうかがえる。
しかし、導入頭数を増加させているフィードロット経営体の多くは、大手パッカーの資本が入っており、潤沢な資金を背景に、規模拡大に乗り出していることを忘れてはならない。また、フィードロットに導入する肥育もと牛の多くは、先述した隣国(メキシコおよびカナダ)からの肥育向け生体牛の輸入が多く、米国内での子牛生産頭数の増加とは連動していない。
図13 フィードロット導入頭数の推移
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資料:USDA |
5.生産現場での取り組み状況
繁殖経営やフィードロットでは、2011年、12年と2年続いた干ばつ以降、どのように生産を行っているのか。その状況を探るため、主要肉牛生産州であるテキサス州およびネブラスカ州の生産者の取り組みについて、2013年10月に行った現地調査などを基に報告する。
(1)テキサス州の繁殖経営の取り組み
テキサス肉牛協会の紹介により、テキサス州アマリロ市内から、車で1時間ほどの距離にある企業経営型の繁殖牧場を訪問した。同牧場で産出される子牛は、主に所有する広大な放牧地で育成されている。また、同牧場は肥育部門も有しており、全飼養頭数は12万5000頭と同州でも桁違いの規模を有している。
ア 経営概況
繁殖雌牛4,800頭を飼養する同牧場では、7,000エーカー(2,800ヘクタール)の草地で放牧を行っている。この広大な草地と繁殖雌牛や子牛を15名の従業員で管理している。草地には、放牧している牛が給水できるよう、一定間隔(数キロメートル)で給水場を設置している。この給水場は、風力を利用し、滑車と同様の原理で地下水を汲み上げることで水を供給する。
飼養している品種は、アンガス種、シャロレー種などで、未経産牛の初産月齢は、約2年強(約25カ月齢)で自然交配(雌牛20頭に対し雄牛1頭)を行っている。
繁殖雌牛の供用期間は7〜8産と日本(7産:平成25年度畜産関係指標)と同程度である。1日の増体量(DG)は、約2.0ポンド(0.90キログラム)で、12カ月放牧し、約800ポンド(360キログラム)で出荷する。
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広大な草地で放牧される繁殖雌牛と子牛
(手前は給水場) |
イ 干ばつの影響が残る放牧地
2011年、12年に南部および中西部を襲った干ばつの影響は、同牧場の草地環境に多大な影響を与えた。現地訪問時でも、放牧地は未だ干ばつの影響による乾燥からの回復が遅れており、自然繁茂している野草は痩せ細っている状況であった。繁殖雌牛は、放牧場に繁茂しているマメ科の作物などを粗食するものの、食べることが可能な野草がほとんどないため、現在は、ペレット状の飼料を中心に給餌している。このペレットは、テキサス州で主に生産される綿花かすが20〜30パーセント、その他プロテインなどが配合されており、トウモロコシなどの飼料穀物に比べて安価となっている。テキサス州のように飼料穀物地帯でない地域では、干ばつにより放牧環境が悪化した場合、飼料価格高騰の影響を大きく受けやすい。
同牧場では、土壌の乾燥が続いていることから、は種を行ったとしても十分な牧草の確保ができるわけでないため、2014年の春頃に土壌水分含量が改善し、牧草がは種できるようにならない限り、放牧頭数の維持は厳しい状況とみている。
(2)ネブラスカ州の繁殖経営の取り組み
ネブラスカ州政府の紹介により、ネブラスカ州リンカーンから、車で南東へ1時間ほどの距離にある家族経営型の繁殖牧場を訪問した。同牧場主は日本の繁殖経営を視察した経験があり、日本に習いきめ細やかな飼養管理に努めている。
ア 経営概況
同牧場は、繁殖雌牛を63頭飼養する米国の平均的規模といえる農場であり、草地を500エーカー(200ヘクタール)所有、加えて1,200エーカー(480ヘクタール)の飼料畑も所有している。
草地では、主にフェスク、グラマグラス、ブルーステムおよびライグラス類をは種し、繁殖雌牛を放牧している。飼養品種は、アンガス種、ヘレフォード種、シャロレー種、交雑種(アンガス×シンメンタール)と多岐に渡る。未経産牛の初産月齢は、約2年(24カ月齢)で自然交配(雌牛20頭に対し雄牛1頭)を行っている。また、繁殖雌牛の供用期間は8〜9産と日本(7産)と比べて少し長い。
1日の増体量(DG)は、約2.2ポンド(0.99キログラム)で、9〜11カ月放牧し、約650〜700ポンド(293〜315キログラム)で出荷している。補助飼料として、ペレットフード、ふすまおよびDDGS(水分含量10%)などを自家配合し給餌している。なお、DDGSは近隣のエタノール工場から全量購入している。
イ 2012年の干ばつの影響
当牧場では、2011年、12年の干ばつによる放牧環境の悪化や飼料価格の高騰により、生産費が上昇し経営を圧迫した。また、現在もその影響が残っており、経営は厳しい状況が続いている。2012年の干ばつの下では、85頭いた繁殖雌牛の一部を売却するなどの対応を取らざるを得なかった。2013年に入り、増加する生産費を低減させるため、これまで自然繁茂させていた草地に牧草をは種し、収量の確保に努めたり、これまで草地だったほ場にトウモロコシや大豆を栽培したりするなどの取り組みを行っている。しかしながら、干ばつによる土壌への影響は大きく、一定の成果を上げるまでには至っていない。
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使用している濃厚飼料(左:DDGS、右:ペレット) |
繁殖経営にとって規模拡大の鍵は、草地の確保にある。仮に、繁殖雌牛の頭数を増頭させたとしても、増頭分の飼料などが必要とされるため草地の確保は不可欠である。また、ネブラスカ州のみならず米国では、投資家による農地の買収などにより農地価格が上昇傾向にある。そのため、当該農場のような平均的規模の家族経営の牧場では、草地を新たに拡充させるための資金力が乏しいことから、規模拡大の意思があるものの現実は厳しい状況にあるようだ。
(4)テキサス州のフィードロット経営の取り組み
テキサス肉牛協会の紹介により、テキサス州アマリロ市内から、車で南西へ1時間ほどの距離にある大手パッカーの傘下にあるフィードロットを訪問した。同フィードロットは、全米第4位のフリオナ社(Friona)の傘下の1つで、グループとしてその他3つのフィードロットを所有している。4つのフィードロットの飼養頭数規模は合わせて29万頭となる。
ア 経営概況
同フィードロットは、現在、収容能力と同じ7万5000頭の肉牛を肥育している。品種はアンガス種、シャロレー種、交雑種(アンガス×シャロレー)を中心としており、牧場全体では、アンガスなどの品種が60パーセント、シャロレーなどの品種が40パーセントの割合となっている。また、肥育もと牛は、ストッカーやバイヤーを介して購入し、米国内ではテキサス州、ケンタッキー州、オクラホマ州およびカリフォルニア州などから、国外ではメキシコから導入している。導入時体重は、去勢で700〜750ポンド(315〜338キログラム)、雌牛で600〜650ポンド(270〜293キログラム)を目安とし、肥育日数は約160日(5.3カ月)となっている。
1日当たりの増体重は、去勢で3.75ポンド(1.69キログラム)、雌牛で3.00ポンド(1.35キログラム)と、和牛の増体量(0.72キログラム:家畜改良増殖目標(平成22年7月27日現在)、を大幅に上回っている。平均出荷体重は、去勢で1350〜1400ポンド(608〜630キログラム)、雌牛で1150〜1200ポンド(518〜540キログラム)で、肥育牛はそれぞれ50パーセントずつフリオナ社およびカーギル社向けに出荷される。
イ 肉質の維持は飼料構成から
同フィードロットでは、親会社であるフリオナ社の潤沢な資金を基に、飼料構成の統一化および出荷頭数の維持を図ることで収益を確保している。特に肉質に影響を与える飼料の品質については、牧場に自家配合施設を隣接し、一定の質の維持に努めている。1日当たりの飼料生産量は、350万ポンド(158万トン)で、1頭当たりに換算すると1日当たり46ポンド(約21キログラム)給餌している。飼料の構成内容は、全体の3割をDDGSが占め、2割をスチームフレークコーンとスイートブラン(カーギル社が製造している飼料原料)である(表1)。同フィードロットでは、飼料の品質や構成割合を一定に保つことで、出荷される肥育牛の50パーセントはチョイス級(米国の牛枝肉格付による肉質等級8区分のうち上位3番目)であるとしている。
表1 飼料構成
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資料:聞き取りによりALIC作成
注 1:カーギル社が販売している飼料原料で、トウモロコシを
ウェット・ミリングする過程で製造される副産物
注 2:主に牛の飼料に使用される濃縮たんぱく質補助剤 |
同フィードロットのマネージャーによると、現在は、飼料穀物価格の下落により経営状況は悪くないが、2012年の干ばつは経営を直撃した。干ばつにより飼料穀物価格が高騰したことから、同フィードロットでは、肥育期間の短縮および肉質の維持に重要な飼料穀物割合の変更を強いられた。しかし、これらの取り組みを行ったにもかかわらず、利益は減少したと言う。一方、2013年は飼料穀物価格が下落していることから、規模拡大の機会はあるものの、前年の利益減少により資金繰りに余裕がないため、状況は厳しいとしている。なお、現在の1頭当たりの生産費は、約500〜600ドル(50,000〜60,000円)と前年よりはわずかに改善されてきている。
(5)ネブラスカ州のフィードロット経営の取り組み
ネブラスカ州政府の紹介により、ネブラスカ州リンカーンから車で南西に40分ほどの距離にある独立経営型(大手パッカーの傘下には属さない)のフィードロットを訪問した。当フィードロットでは、飼料価格が高騰した2012年も農場の回転数(出荷頭数)を維持するため、収益の悪化に耐えながら肥育頭数の維持に努めてきた。現在は、飼料穀物価格が下落したことで、収益が回復傾向にある。また、同フィードロットの特徴は、日本と同様に舎飼いを行っている点にある。これは、寒暖の差が激しい同州での牛の健康管理には特に注意が必要なためとしている。
ア 経営概況
同フィードロットは、現在、1万2000頭の肉牛を肥育しているが、フィードロットの収容頭数では3万頭と米国内では中規模に分類される。品種は、アンガス種やシャロレー種などの交雑種が大部分を占めている。肥育もと牛は、繁殖農家およびストッカーから導入しており、導入時体重は約400〜1,000ポンド(180〜450キログラム)を目安としている。肥育日数は、導入したもと牛の体重によって多少増減するものの、約150〜270日の間で、この期間の増体量は800ポンド(360キログラム)となっている。1日当たりの増体量は約3.75ポンド(1.69キログラム)と、和牛と比べて倍以上の増体量を誇っている。平均出荷体重は約1,500ポンド(675キログラム)であり、地元のネブラスカビーフ社や、大手パッカーであるカーギル社、スイフト社などへ出荷している。
イ 出荷体重を重視した経営も、環境に配慮
同フィードロットでは、干ばつによる飼料穀物価格の高騰時には、生産コストが大幅に増加したが、出荷体重を維持し収益を少しでも上げるよう努めていた。
また、飼料は購入したトウモロコシを蒸気で蒸したスチームフレークコーンを主に給餌している。しかしながら、2012年は、トウモロコシの給餌割合をわずかに下げ、他の安価な飼料への代替えや、安価なトウモロコシを各地から買付けるなどして対応してきた。
同フィードロットがスチームフレークコーンにこだわる理由として、通常の乾燥したトウモロコシよりも高値であるが、消化率が高く、増体成績が上がることが挙げられる。また、同牧場では、牛舎の床をコンクリート(簀の子状)にし、隙間から下の貯留槽(深さ1.5メートル)へふん尿が落ちて溜まるように工夫している。これは、環境規制の厳しい米国で、適切かつ簡便に家畜のふん尿処理を行うためである。浴槽から機械で回収されたふん尿は、近隣の農家に1エーカー(0.4ヘクタール)当たり90ドル(9,000円)で販売しており、これも若干ながら、収益の改善に寄与している。
6.今後の見通し
繁殖および肥育現場では、これらの取り組みがなされている中、USDAは現在、豊作により飼料穀物価格が下落しているものの、繁殖雌牛頭数の減少による子牛生産頭数の落ち込みなどにより、2014年の牛肉生産量を前年比5.7パーセント減の1098万トンと見込んでいる。
また、インフォーマ社も、子牛生産頭数の減少や、メキシコなどからの生体牛輸入頭数の減少で肥育牛の供給頭数が減少し、牛肉生産が縮小すると予想しており、牛群の回復には、今後の天候条件が良好となったとしても、少なくとも2〜3年間は必要とみている。加えて、現在の肉牛頭数の減少傾向に歯止めがかかるのは2016年以降とみており、今後、再び干ばつが発生する可能性があることから、繁殖農家の増頭意欲が高まりづらいとしている。この結果、米国の牛肉生産量の増加に関しては、先行きは不透明とみられている。
7.まとめ
今回、訪問した米国の主要肉牛生産州であるネブラスカ州、テキサス州の生産現場では、2012年の干ばつの影響がわずかに改善されてきているという声も聞かれた。この2州では、繁殖牛生産や肥育を行う多くの肉牛生産者が存在するものの、肉牛生産に対する取り組みは様々なものがあった。トウモロコシ主産地でもあるネブラスカ州では、その豊富な飼料穀物資源やDDGSなどの副産物の利用で、安価に飼料を手に入れることができ、飼料価格高騰の影響が他州よりもそれほど大きくなかったとされている。
一方、テキサス州では、ネブラスカ州のように飼料穀物資源が豊富ではなく、飼料価格高騰の影響を受けたが、生産者は、より安価な飼料への代替えや飼料配合割合の変更など独自の取り組みにより、干ばつの影響を低減する動きが見られた。しかしながら、このような生産現場独自の取り組みにも限界があり、特に繁殖農家を中心に農家戸数が減少傾向にある中で、今後、規模拡大を図ることは難しい状況にあるとみられる。
また、牛肉生産量の減少により牛肉価格が上昇する中で、より安価な鶏肉や豚肉の消費が増加しつつある。加えて、肉牛生産者にとっては、干ばつの後遺症ともいえる資金繰りの悪化や肥育もと牛価格の高騰など、懸念材料は山積していることから今後も肉牛生産者にとって、課題の尽きない環境が続くとみられている。 |