調査・報告 専門調査  畜産の情報 2014年1月号

つるい牛のホクチクファームと
コープ中国四国事業連合との産直取引

宮城学院女子大学 教授 安部 新一



【要約】

 つるい牛の産直取引は、産地側である北海道のホクチクファームとホクレン、消費地側である広島の全農ミート、コープCSネットおよび3生協を結ぶルートで行われている。つるい牛の特徴は、哺育・育成から肥育まで一貫生産され、産地と生産過程が明らかな安全性に重点を置いた飼養管理により生産されている点である。また、フルセット取引や生協の共同購入という販売形態により、牛肉の安定供給体制を確立している。さらに、販売計画と販売実績の乖離をなくすため、全農ミート、コープCSネット、3生協が参加し、部位別調整やメニュー開発を行うなど産直取引の推進を図るための積極的な取り組みが行われている。

はじめに

 乳用種肥育経営は、飼料価格高騰や、肥育もと牛となる乳用種おす子牛の市場価格の高値推移など、生産コストの上昇により、厳しい環境下に置かれている。また、米国産牛肉の輸入条件緩和などにより、輸入牛肉と競合関係にあるとみられる乳用種牛肉への影響も懸念されている。

 一方、近年のスーパーなどの量販店では、業態間での競争も厳しさを増していることから、生活協同組合(以下、生協)もそうした販売競争の中で厳しい経営を強いられているところも多い。生協や量販店の中には、生産履歴を消費者に開示し、安全性を訴求した商品を販売し、他店との差別化を図っているところも見られる。こうした意識をもつ生産者・出荷者側と小売側が結びつくことにより、産地と生産過程が明らかな安心・安全をセールスポイントの1つにした産直取引が注目されている。

 本稿では、北海道にある株式会社ホクチクファーム(以下、ホクチクファーム)における「つるい牛」の生産と、生活協同組合連合会コープ中国四国連合会(以下、コープCSネット)との産直取引事例を取り上げ、ホクチクファームでの育成牛、肥育牛の衛生管理や生産性の向上を含めた飼養管理の取組み、また、流通・販売過程でのコープCSネットやJA全農ミートフーズ株式会社(以下、全農ミート)の仕入れ・販売方法や販売促進活動、さらには今後の取扱い拡大を図るための課題などを明らかにする。

1.つるい牛の産直取引

(1)産直取引の経緯

 平成13年9月に千葉県で国内初のBSE感染牛が発見された。牛肉の安全性に対する消費者の不安の高まりを受けて、同年10月からBSE全頭検査が開始された。こうした動きの中、生活協同組合ひろしま(以下、生協ひろしま)では、牛肉に対する消費者の安全・安心に対する関心の高まりを受け、産直取引による安全・安心な商品を組合員に提供する取組みを模索し、全農ミートに対して安全で安心して食べられる牛肉の産地紹介を依頼した。そこで産直取引として候補に挙がったのが、乳用おす子牛の産地と育成・肥育方法が明らかな「つるい牛」であった。このことがきっかけとなって産直取引が始まった。生産者であるホクチクファーム、と畜・解体、部分肉加工、流通を管理するホクレン農業協同組合連合会(以下、ホクレン)、消費地段階におけるスライスなどの精肉加工、商品管理に携わる全農ミート、販売側である生協ひろしまとの4者による「産直事業協定」が14年12月5日に調印され、具体的な産直事業の取組みが15年4月より開始された。

(2)産直取引の担い手と取引ルート

 つるい牛は、ホクチクファームが子牛を導入し、育成から肥育までの一貫生産が行われていることが大きな特徴である。肥育もと牛となる育成牛は達古武タッコブ分場、肥育牛は鶴居分場でそれぞれ飼育されている(図1)。育成牛を飼育する達古武分場では、釧路管内の釧路丹頂農業協同組合(以下、JAくしろ丹頂)、計根別農業協同組合(以下、JA計根別)などの指定農協管内から生後約7〜30日の仔牛・スモール(40kg〜59kg)を導入し、約6〜7カ月齢まで飼育(約280kg〜300kg)している。その後、鶴居分場に移動し生後約21カ月齢まで肥育(約750kg〜800kg)される。出荷後、釧路管内にある株式会社北海道畜産公社(以下、畜産公社)根釧工場において、と畜解体から枝肉、部分肉加工処理まで行われ、チルドの状態で出荷される。

図1 つるい牛の物流システム

資料:(株)ホクチクファーム、ホクレン、JA全農ミートフーズでのヒアリング調査により作成。
  注: 生体流通、部分肉流通、精肉流通(パック加工)

 出荷されたつるい牛は、毎週金曜日に畜産公社から陸路をトラックで北海道内の苫小牧港まで輸送された後、フェリーで舞鶴港(京都府)まで輸送され、その後、トラック便により広島県五日市市の営業冷蔵庫(協和冷蔵)へ翌週の火曜日に到着する。消費地における受発注システムと配送ルートは、図2の通りである。営業冷蔵庫に入庫されたつるい牛は、生協宅配事業分については営業冷蔵庫において冷凍保管され、生協ひろしまの店舗分は輸送過程と同じチルド状態で保管される。

 その後、コープCSネットから全農ミートに対してEOS(電子発注システム)により出荷指示が行われる。原料の出荷には2つのルートがあり、ヒレ、サーロインといったステーキ向け原料は株式会社一弘(佐賀県)に送られ、ステーキカット形態に加工包装される。その他の原料部位は、全農ミート加工処理施設に送られ、スライス、こま切れなどのパック加工包装された後、尾道にあるCXカーゴに集められる。その後、全農ミートからCXカーゴに対し製品出荷を連絡し、ひろしま、島根、山口の各生協へ配送されるシステムとなっている。また、生協ひろしまの店舗分(チルド)については、営業冷蔵庫から直接生協ひろしまのセンターに配送され、その施設でスライスなどにパックされ、各店舗へ配送される。
図2 消費地段階での受発注システムと加工包装作業および配送システム

資料:JA全農ミートフーズ中国営業所およびコープCSネット本部からのヒアリング調査により作成。

 商流については、枝肉段階でホクチクファームからホクレンが仕入れを行う。次に、ホクレンは部分肉の委託加工を行い、部分肉加工費と手数料を加えて全農ミートへ販売する。ホクレンから全農ミートへの年間販売頭数は約600頭であり、そのうちの400頭はフルセット販売である。この400頭分については、「産直取引価格」として生産費などの積み上げにより算出した年間取引価格(固定)による取引となっている。その他の200頭分もセットでの取引であるが、取引価格はパーツごとの取引価格設定となっている。このため、全農ミートからコープCSネットへの販売価格も400頭分は産直取引価格によるが、コープCSネットとの取引は、全農ミートが仕入れた200頭分の中から必要とする部位を取引するものも一部みられる。

2.つるい牛を生産するホクチクファームの取組み

(1)ホクチクファームの経営概況と発展経緯

 ホクチクファームの前身は、旧北海道畜産振興公社と旧根室畜産振興公社であった。ホクチクファームのある根釧地方は酪農地帯であることから、地域内の酪農家から派生する乳用おす子牛の肉用資源としての有効活用と操業率向上を目的として、公社が直営牧場を所有していた。平成8年10月に北海道内の7畜産公社合併した際、国の補助事業対象の要件を満たすため、肉牛・肉豚生産部門を新たに別会社として分離独立させ、平成9年10月にホクチクファームを設立した。会社の理念は、「すべての消費者に安全・安心な牛肉を供給するため、限りない探求と挑戦を続け、関係する業界と共に信頼され親しまれる生産者を目指す」ことにある。また、ホクチクファームは産直提携事業を展開し、「健康で安心な暮らしに貢献し、生産者と消費者が共に生活者として農業の持つ多様な価値を見直し、環境保全や資源循環型の食と農をつなげた豊かな地域社会をつくること」を目的として、生産者と消費者のコラボレーションによる地域社会作りを目指す、としている。

 ホクチクファームの経営概況は表1の通りである。ホクチクファームは、肥育もと牛生産部門と養豚生産部門を担う達古武分場、肥育生産部門を担う鶴居分場、武佐分場、および標茶分場の4分場を所有している(図3)。達古武分場において肥育もと牛生産を行い、肥育牛生産分場である鶴居分場、武佐分場肥育もと牛の全頭を供給し、標茶分場にも肥育もと牛の約半数を供給している。
表1 株式会社ホクチクファーム

資料:(株)ホクチクファーム内部資料より作成。
図3 ホクチクファームにおける肉牛生産体系

資料:(株)ホクチクファーム内部資料により作成。

(2)達古武分場における肥育もと牛生産の取り組み

(1)地域内からの子牛導入と哺育・育成施設

 達古武分場では、乳用種おす子牛を月間280頭、年間では3,360頭、さらに、めす(フリーマーチン)を月間12頭、年間では144頭導入し、最大飼養頭数2,100頭を従業員10名で飼養管理している。場内には、哺育施設として哺育牛舎(ビニールハウスを含む)やスーパーハッチなど14棟、育成牛舎9棟、乾草収納庫、敷料庫、堆肥舎、患畜舎の他に、ホクチクファーム診療所などの施設が整備されている。

 達古武分場における乳用種おす子牛は、主に前述の釧路管内の指定農協から導入している。直近3年間における乳用種おす子牛の導入頭数は3,000〜3,300頭台で推移している(表2)。主な導入先であるJA計根別とJAくしろ丹頂からの導入頭数は、平成22年2,946頭、23年2,742頭、24年2,730頭と減少している一方、その他からの導入頭数は23年の336頭から24年には649頭へと増加していることが注目される。
表2 初生犢の導入先別県入頭数

資料:(株)ホクチクファーム内部資料により作成。
 導入価格は、中標津と釧路の2家畜市場の前週の平均価格による。導入に当たり、指定農協管内で生まれた子牛について、酪農家段階で選別を行い、さらにホクチクファーム側でも、分場に導入するに当たって選別を行う。チェックポイントは、第1に健康体であり、風邪などの疾病にかかっておらず、正常に発育していること、第2に正常に歩行し足の繋ぎに問題がないなど四肢に異常がないこと、第3にヘルニアなどに該当しないこと、である。さらに、導入時に生後7〜30日齢の子牛である確認も行っている。また、分場への子牛搬入時には、導入車両の消毒の他に子牛の生体消毒を行うとともに、外部寄生虫駆除を行うなど、衛生管理に注意を払っていることが特筆される。

(2)3期に分けたきめ細かな哺育・育成管理

 哺育・育成段階の飼養管理は、3期に分けて実施されている。第1期の哺育期は導入時から40日、体重50キログラム前後までであり、導入後はミルクの他に粗飼料も給与(生後16日〜)している。これは、育成段階で粗飼料の食い込みを良くするためである。通常、小さい子牛は哺育ハッチで1頭ごとに個体管理を行うことにより、病気発生を早期にチェックし、他の子牛へ蔓延防止に努めている。一方、大きい子牛は哺育牛舎において哺乳ロボットを利用した群管理を行っている。また、導入後10〜20日の期間に5種混合生ワクチンの接種を行い疾病予防に努めている。

 第2期の育成前期(生後41〜100日)には、平均体重150キログラムを目標に育成を行っている。飼養方法は、スーパーハッチと呼ばれる育成舎で1群5〜6頭での飼養管理となる。この段階で離乳を行い、粗飼料の給与量を増やすと共に、徐々に栄養価の高い配合飼料の給与量を増やすことにより大きく増体を伸ばす。また、導入後90〜100日の期間に2回目の5種混合生ワクチン接種を実施している。

 第3期の育成後期(101〜190日)には、平均体重278キログラムを目標に育成している。後期は、1群5〜6頭での飼育から群構成を変えて、1群15頭で飼養管理をしている。飼料給与は、粗飼料の他に肥育前期に近い成分の配合飼料を給与し、月齢が進むに従い給与量を増やしている。また、粗飼料については、育成期間の終わりに当たる5.7〜6.7カ月齢の期間に、不断給与による自由採食としている。疾病対策としては、導入後130〜150日の期間に牛嫌気性3種ワクチンを接種している。
哺育牛舎(達古武分場)
育成牛舎(達古武分場)

(3)鶴居分場における肥育牛生産への取り組み

 達古武分場において生産される育成牛は、月間280頭、年間3,360頭であり、そのうち鶴居分場には月間56頭、年間672頭を供給している。鶴居分場で肥育する牛はすべて達古武分場からの内部導入である。当分場は牛房数50、最大飼養頭数は700頭であり、これを従業員3人で管理している。

 鶴居分場における肥育もと牛導入時の生体重は290キログラム、平均月齢は6.7カ月であり、出荷時には生体重825キログラム、目標の肥育月齢は約20カ月齢である。鶴居分場において肥育されたつるい牛の出荷頭数は、平成20年には542頭であったものが、直近3年間では22年557頭、23年612頭、24年593頭と増加傾向にある(表3)。
表3 つるい牛出荷頭数と平均枝肉重量

資料:(株)ホクチクファーム内部資料により作成。
 鶴居分場では、1房につき14頭を上限に飼養管理を行っているが、その理由としては、増頭すると個体管理が不十分となり、餌槽から十分に採食できない牛が出るなど、生産性が落ちる、ということが挙げられる。飼料は、肥育期間を通じて、ホクチクビーフ1、粗飼料のデントコーンサイレージと乾牧草細断を給与している。つるい牛の肥育期間は、導入時(6.7カ月齢)〜12.7カ月齢までの肥育前期と、12.7カ月齢〜約20カ月齢の肥育後期に分かれている。さらに肥育前期の期間を6区分に分け、肥育月齢が進むごとに、ホクチクビーフ1、粗飼料のデントコーンサイレージと乾牧草細断の飼料給与量を段階ごとに増加させている。

 また、10カ月齢までは粗飼料給与量が不足しないように、良質の乾牧草を飽食にしている。粗飼料給与量を増やす理由としては、肥育牛が健康に育つための骨格や内臓、特に第一胃内の微生物の発酵・増殖が促進される環境を整え、胃を丈夫にして、肥育中期の体重と採食量の増大の維持・継続を図るためである。
肥育牛舎(鶴居分場)
 肥育後期も期間を8区分に分け、それぞれの段階ごとに目標体重を設定している。飼料は、配合飼料としてのホクチクビーフ1、粗飼料は乾牧草である。ただし、肥育前期とは異なり、給与量は全期間を通じて仕上げの20カ月齢まで同じである。

(4)ホクチクファームにおける飼養管理の特徴

 ホクチクファームの特徴は、哺育・育成から肥育まで一貫生産であり、安全性に重点を置いた飼養管理が行われている点である。特に消毒マニュアルについては詳細な規定があり、それに基づき哺育舎、スーパーハッチ、育成舎、その他の施設ごとに日々の消毒作業が行われている。哺育舎においては、導入受入れ前に牛舎内の液体消毒(グルタクリーン)、生石灰散布、ハッチの洗浄、およびハッチ内の生石灰乳の吹付作業を行う。さらに、哺育用ボトル、乳首の殺菌ゾールでの漬け置き消毒が行われている。また定期的に行われる哺育舎内の清掃時には、ハッチ内床面の液体消毒(ロンテクト)を行い、各牛舎内に踏込槽を設置している。同様の作業は、スーパーハッチと育成舎でも行われている。また、スーパーハッチと育成舎でも、受け入れに際して、牛舎内の液体消毒(グリタクリーン)、生石灰の吹付(育成舎では生石灰の散布も行う)が行われている。その他、哺乳ロボットの日々の清掃・消毒についても詳細な「哺乳ロボット清掃・洗浄マニュアル」があり、ミキサー部の洗浄、ゴム乳首とミルクチューブ、哺乳チューブの洗浄まで、細かな洗浄作業内容がマニュアル化されている。哺乳ロボットを日々衛生的に使用するためのチェック項目は18項目にものぼり、それぞれの器具などの清掃、消毒、点検などが事細かに決められている。さらに、哺育から育成、肥育までのそれぞれの飼育段階別疾病ごとに使用する医薬品の種類、使用量、投与法、使用禁止期間および休薬期間についての詳細な処置対応が決められている。

 日々の飼養管理においては、哺育段階は風邪などに感染しやすい時期であることから、哺乳ロボットに1人専従職員を配置し、1日2回の給与状況を確認するなどの個体管理が行われている。また、朝の出勤時と午後1時に担当職員3名が哺育舎を全頭見て回り、それぞれの眼で個体ごとの健康状態の観察を行うなど、きめ細かな管理が行われている。餌槽の管理にも重点を置いており、食い込み状況の確認と共に、夏場は餌槽にカビなどが繁殖しないように注意深く管理を行っている。

 肥育もと牛については、導入後90日、180日、300日に、肥育マニュアルに基づいた増体が図られているか、1頭ごとに確認作業を行っており、個体ごとのきめ細かな飼養管理が行われている。また、牛房の管理についても、週に1回のオガクズの交換や、飲水用の水槽の管理にも気を配っている。なお、平成22年の淘汰やへい死などの発生頭数は49頭であり、期首在庫頭数と導入頭数合計は1,320頭であることから、死亡牛等の発生割合は3.7パーセントである。その後の死亡牛などの発生割合は、23年は4.0パーセントであったが、24年は2.3パーセントへと低下し、25年(4〜7月)では1.8パーセントとなっている。常日頃から職員がそれぞれの眼で個体ごとの状態を観察するなど、日々のきめ細かな飼養管理が、死亡牛などの発生割合を低下させている要因の1つとして考えられる。

3.産直取引におけるホクレン、全農ミートおよびコープCSネットの機能と役割

(1)ホクレンと全農ミートの機能と役割

 産地側の窓口として、取引先となる全農ミートおよびコープCSネットとの取引数量と取引価格の交渉は、ホクレン帯広支所が担っている。また、物流面では枝肉から部分肉への委託加工、広島までの輸送・配車の手配までを担っている。さらに、生産段階においても、ホクレンはホクチクファームに対して飼養管理などの技術指導も行っている。

 一方で、消費地側での窓口の1つとして重要な役割を果たしているのが全農ミートである。産直取引を推進するため、販売側と産地側の間に立ち、双方の意見を聴取し調整する機能と役割を果たすとともに、原料管理と部位別調整を行っている。さらに、新たな商品開発として、メニューの開発も担っている。

(2)コープCSネットの機能と役割

 コープCSネットは、中国・四国エリアの生協運動を深耕するために、これまでの連帯活動と協議を通じて、「連帯の目的は、参加生協の組合員要求実現と生協経営強化に役立つものであること」、「1生協の規模では実現できない業態や事業の展開を可能にできるものであること」などの5項目の基本認識のもと、事業連帯の促進を図ることを目的に平成17年10月に設立された。つるい牛の産直取引においては、生協ひろしまなど3生協の消費地側の窓口として、取引数量と取引価格の交渉を行っている。また、全農ミートと同様に原料と製品の管理、さらに新たな商品開発の役割も担っている。さらに、生協組合員に対してつるい牛産直取引の広報宣伝活動も行っている。

 産直取引を開始する上で厳守すべき基本的な考え方として「産直5原則」が挙げられる。第1に産地、生産者が明確であること、第2に生産方法がはっきりしていること、第3に生産者と組合員が交流でき、環境づくりを進めていること、第4に事業として成り立ち継続できること、第5に生産者と組合員が対等、平等なこと、である。

 つるい牛の販売方法は、店舗での販売も見られるが、圧倒的に無店舗事業(共同購入)が多い。生協の共同購入方法は、毎週組合員に配布されるカタログから商品を注文し、毎週1回決まった曜日に指定の場所に商品を配達するシステムである(表4)。完全なオーダー制のため、事前の安定的な原料確保と綿密な販売計画が求められている。また、現物を見ずにカタログによる購入であることから、均一な品質の商品であることも求められる。このため、原料の仕入価格と品質が一定であることが必須要件となる。

 また、事前の販売計画と販売実績に乖離が見られることから、日頃から検証し、過不足の対応と調整が必要となる。産直取引を推進していく上で、前述の事柄は極めて大切であり、このため、産直取引におけるコープCSネットの役割もきわめて重要である。こうした原料の過不足の対応と調整、商品開発を含めた販売計画については、全農ミートを含めた検討会議などで話し合われている。
表4 産直つるい牛共同購入商品アイテム

資料:JA全農ミートフーズ中国営業所資料による。

(3)「つるい牛会議」および「作業部会」による部位別調整と商品開発

 つるい牛の取引は、フルセットによる取引である(表5)。このため、季節によりセット部位のバランスが崩れ、過不足が生じることから、これをいかに解消していくのかが産直取引を発展的に継続していく上で重要な問題である。この部位別の過不足を半年単位で予測し、過剰部位の振り分け調整作業とともに、新たな商品開発(当初、ロイン系はステーキ商材、その他の部位はこま切れ商材向け)に向けての検討会議の場として、毎月開催するのが「つるい牛会議」である。会議の構成員は、全農ミートの他に生協ひろしま、生協しまね、コープやまぐちの各生協の宅配業務バイヤーと生協ひろしま、コープ山口の店舗バイヤーなどである。部位別の販売バランスの調整を図るための具体的なメニュー開発の検討の場が「作業部会」であり、構成員は、全農ミートを中心に生協ひろしまなどが参画している。具体的な例を見ると、「かたロース」は夏場に販売せず、冬場まで保管し、スライス形態の「すき焼き用」として冬期間にすべてを販売する。常時売れ行きの悪い「うちもも」は、「ローストビーフ」に加工して宅配事業向け商品として利用する。また、「そともも」と「しんたま」の各部位は「ランプステーキ」、「三角バラ」と「カイノミ(なかばら)」は「焼き肉」商材として、店舗販売に仕向けている。さらに、こま切れにも向けられない「カッパ」や「コニク」などの部位が発生するため、これらを利用したレトルトカレー「つるい牛カレー」などの商品開発も行っている。
表5 つるい牛のフルセット規格部位

資料:JA全農ミートフーズ中国営業所資料による。

(4)つるい牛の産直活動における組合員への理解促進のための取り組み

 一般のスーパーなど小売業の直接取引と生協による産直取引との大きな違いは、産直取引は消費者である組合員と産地生産者側との相互交流により、お互いの立場を理解し取引していることである。ホクチクファーム、ホクレン、全農ミートが中心となり、生協組合員に対してつるい牛がどのように生産され、と畜・解体されているのかを実際に見て触って体験し、きめ細かな衛生管理と個体管理により生産されている現場を見て、理解を深めてもらう活動として、「産地体験学習会」が行われている。さらに、ホクチクファームの職員が生協へ出向き、組合員に対してつるい牛の飼養管理や産地でのと畜・解体、部分肉加工、さらには組合員まで届けられる流通ルートなどについての「学習会」を開催して、理解を深める活動を行っている。また、生協組合員に対し、つるい牛を利用した料理講習会を開催して、肉の上手な解凍方法やそれぞれの部位にあった調理・食べ方の提案などを行い、購入利用拡大を図る活動も行っている。販売促進活動では、つるい牛フェアの開催(年3回)とともに、店頭での「細切れ」や「かたロース」の試食を実施している。そこではエリア役員(理事)なども売り場に立ち、つるい牛の認知とともに、消費拡大に生産側と販売する側の双方が協力して強化に努めていることが特筆される。
生協店舗における牛肉の販売状況と「つるい牛」のパック

まとめ〜今後の取引拡大のための課題〜

 つるい牛は、哺育・育成から肥育までの一貫生産であることから、飼育方法が明らかで、飼料給与、医薬品の使用量・投与方法、休薬期間など、安全・安心を訴求した飼養管理を行っていることが評価されている。さらに、販売する側から要望の強いロース芯の大きさやきめ、しまりが良く、また生協組合員からの味についての評価も高い。

 今後の産直取引を継続発展させていくためには、生産者側が生産費コスト削減や飼養管理に関する情報提供の努力を続けていくことが必要であり、こうした努力により、消費地側からも産直取引に対する理解が深まると考えられる。その努力の1つとして、飼料給与マニュアルの変更により、変更前(平成22、23年)に比べ、変更後の24年、25年には増体が良くなったことから、従来の肥育日数が430日から410日へ短縮した実績が見られる。

 また、配合飼料の価格上昇を受けて飼料費が高騰していることから、生産コスト削減を図るため、粗飼料の増産により生産費コストを下げる方向を目指している。粗飼料はデントコーンサイレージと乾牧草を利用しているが、近年では管内から購入している乾牧草の品質が一定せず、また生産コストの高まりから購入価格が上昇している。このため、3年ほど前から、自社で生産しているデントコーンの作付面積を拡大しており、25年度は50.2ヘクタールとなっているが、現状では各分場で給与する必要量には達していない。このため、今後とも作付面積を拡大していくなどの取り組みを継続して行っていくことが求められる。

 肥育もと牛となる育成牛の安定供給するためには、子牛・スモールの安定確保がきわめて重要である。このため、これまでホクチクファームでは、根釧地域の指定農協を通じて管内の酪農家から安定的な供給を受けてきた。しかし、近年、ホルスタイン種による雌雄産み分け技術の確立などにより、おす子牛の安定供給に不安が生じている。また、酪農家の減少もあり、ホクチクファームにおける指定農協からの子牛導入頭数割合はやや低下傾向にある。さらに、25年には子牛市場価格が高値で推移している。生産コストにおいて、飼料費や敷料費の他に肥育もと牛代は極めて大きな比重を占めている。健康で安全な子牛の確保のためにも、安定した子牛価格とともに安定した供給先の確保がきわめて大きな課題となっている。

 一方で、生産された牛肉はフルセットで取引されることから、消費地側での部位別の販売バランスの調整が重要となる。特に、今後の取引拡大を図っていく上で、不需要部位を中心にメニューを作成し、調理・食べ方の提案活動をこれからも強めていくことが是非とも必要となる。こうした課題は見られるが、ホクチクファーム、ホクレン、全農ミート、コープCSネット、3生協および生協組合員に至るまで、つるい牛の産直取引推進のための活動をそれぞれの立場から積極的に行っていることが特筆される好事例である。

 産地・供給側では、生産コストの削減を図るとともに、今後とも消費地側の生協・組合員への情報提供と相互交流の促進および新たな商品開発、販売促進活動などにより、今後更に取引拡大が図られることを期待したい。
 

 


元のページに戻る