調査・報告 学術調査  畜産の情報 2014年1月号

飼料用米の耕畜連携によるコスト低減、付加価値化および
飼料用米利用畜産物の消費者評価
〜飼料用米生産主要県の山形県(養豚業)と青森県(養鶏業)を対象に〜

山形大学農学部 教授 小沢 亙、同准教授 藤科 智海
弘前大学農学生命科学部 助教 吉仲 怜


【要約】

 畜産業者は、飼料用米給与を付加価値の源泉と位置づけ、販売では市場流通を避け、生協等との直接取引や自ら物販や飲食業展開を行っている。これに対して、飼料用米を供給する耕種農家は、生産意欲にばらつきが見られる。

 この連携の取り組みを消費者は「食料自給率向上につながっている」、「稲作農家の経営安定につながっている」、「飼料の安定確保や安全性の向上につながっている」と評価している。そして、飼料用米利用豚肉の販売促進のためには、豚肉に直接的な効果があるとイメージさせる表現でPRする方が効果は大きい。

1.はじめに

 本学術研究委託調査では、先駆的と評価される山形県の養豚業者および青森県の養鶏業者を対象に聞き取り調査を行う。また、これらの業者に飼料用米を提供する耕種農家の調査を行い、生産コスト低減の取り組み、飼料用米生産者との連携方法、飼料用米の具体的な流れなどを明らかにする。さらに、消費者アンケートによって、飼料の国産化による「食料自給率への貢献」や、食料安全保障などの情報による飼料用米利用畜産物への消費者評価の変化を明らかにすることを目的とした。

2.調査事例の取り組み概要

1)山形県の養豚業(H牧場)の取り組み

 H牧場の事例は、耕種農家による飼料用米生産と畜産業との結び付きのパイオニアともいえる取り組みで、遊佐町(飼料用米生産)、H牧場(養豚業)、生活クラブ生協(消費者)による飼料用米プロジェクトとして、2004年に始まった注1)。三者はそれぞれに特徴的な取り組みを行っており、その特殊な提携によって連携が構築されている。

 H牧場は、現会長N氏が1953年、20歳の時に始めた養豚業がスタートである。無添加・無着色のハム・ソーセージの生産販売、L(ランドレース:母)とD(デュロック:父)の交配種(母)とB(バークシャー:父)の交配という独特の「H牧場三元豚」の開発と常に高品質にこだわってきた。これを持続・発展させてきた背景には、1972年から始まる生活クラブ生協との提携がある。あまたの生協がそうであるように、生活クラブ生協も高度成長期に噴出した公害問題、食品添加物問題等から、消費者が自らを守るために始まった。しかし、生活クラブ生協のこだわりは異彩を放ち、消費者である組合員の成長はもとより、消費材注2)の提供者である生産者の成長をも求めるものである。このようなH牧場のこだわりと生活クラブ生協のこだわりが、通常の三元豚(LWD)よりも成長が遅いという、通常であれば不利な条件を持つ「H牧三元豚」をブランド化したといえよう。

 このような両者の関係は、次に飼料問題に直面する。効率的生産と病虫害対策として進んだ遺伝子組換え技術によって、配合飼料の主原料であるトウモロコシ、大豆などの穀物も大半が遺伝子組換えとなった。これに対して、安全性を危惧する両者は、非遺伝子組換えの飼料原料の確保に奔走する。その結果、主要な生産国であるアメリカでの非遺伝子組換え原料の確保はできたものの、その生産は減少の一途であり、加えてエネルギー問題などによる穀物の他用途需要の増加による価格の乱高下は、飼料原料確保を不安定なものとしていた。

 一方で、食料自給率は回復の兆しもなく、農地の荒廃が進む現実に危機感を募らせた生活クラブ生協は、2003年末、連合会会長K氏が遊佐町の米生産者に向かって強く飼料用米への取り組みを要請することにより、遊佐町(飼料用米生産)、H牧場(飼料用米利用と豚肉生産)、生活クラブ生協(米と豚肉の消費)の連携による飼料用米プロジェクトが開始された。

 2004年の国際穀物相場は軟調で、代替するトウモロコシの価格と主食用米との価格差は絶望的な格差があった。しかし、飼料用米を配合した飼料を給与した豚の評価は高く、直営の飲食店、物販を展開しつつあるH牧場は、かなり魅力的な取り組みと評価したようである。また、生産原価保証方式を取引価格の基本とする生活クラブ生協との提携においては、生活クラブ生協が認めれば、豚肉価格に飼料価格差を転嫁することも可能であった。その結果、飼料用米価格を46円/kgまで上昇させた。しかし、石油価格高騰が引き金となって、2008年には穀物価格が暴騰し、飼料用米価格46円はそれほど異常な高額ではなくなった。それよりも輸入による飼料原料確保に対する危機感は大きく、耕作放棄地対策、食料自給率向上と相まって、政府は、飼料用米を主要な生産調整品目に位置づけるに至った。その結果、飼料用米に対する生産調整補助金単価が引き上げられ、飼料用米生産者の所得確保にメドが立ったことで、輸入穀物価格と遜色のない価格でも生産が可能となり、全国に飼料用米生産が広まった。

 その流れの中で、三者による飼料用米プロジェクトは、先駆的な取り組みとして高い評価を得た。特異なLDB交配による「H牧三元豚」というブランドに、飼料用米給与による食料自給率向上への貢献という付加価値が加わったのである。そして、H牧場は、それまで直営農場と遊佐町及び酒田市の耕種農家との連携に限定してきた取り組みを提携農場にも拡大し、取り扱う全ての豚(20万頭)に対し、飼料用米10パーセントを使用した配合飼料給与に踏み切る。H牧場と異なる配合飼料会社を使っている提携農場に対しては、代替する輸入トウモロコシと同じ価格を保証することとして、直接的な価格差補填も行った。

2)青森県の養鶏業(T養鶏)の取り組み

 T養鶏は、1960年に養鶏専門農協として設立された。現在では、育雛から育成段階、養豚、ハム・ソーセージ等加工、耕種(リンゴ、トマト)等の事業を多角的に取り組んでいる。現在T養鶏は、2地域にまたがって採卵鶏生産を行っており、ここ5年ほどで大きく生産規模を拡大している。

 飼料用米に取り組むきっかけとなったのは、飼料調達環境の変化である。以前は、中国産トウモロコシに依存していた。しかし、中国国内での飼料需要の増加や1994年から続いた水害により、1996年には中国からの輸出がストップした。そのため、代替品として当時は、米国産に加えて、国内での飼料生産も視野に入れていた。ただし、この頃は飼料用米という発想ではなく、年間2万トンにのぼるトウモロコシの栽培可能な地域として、青森県内をはじめとして北海道道南にまで活路を求めたという。

 2005年、アメリカで発生したハリケーン(カトリーナ)の影響により、黒く変色したトウモロコシを見て以降、海外への食糧依存の危険性を感じ、改めて自分たちの目に見える方法で飼料を確保する必要性と感じたという。そしてその矢先、原油の高騰と米国のエタノール政策による穀物の高騰が、中小家畜生産者の経営を圧迫し始めた。そういったとき、日本鶏卵生産者協会より、養鶏業界で飼料用米の取り組みの研究を始めよう、との呼びかけがあったという。

 2006年春に、べこあおばの種子を入手したため検討が始まった。当初1.1ヘクタールの圃場で試験的に導入され、鶏糞堆肥1トンのみ、除草剤以外の農薬の使用は一切無し、という条件で栽培が始まった。栽培は、地元の農家3名の0.9ヘクタール(むつほまれ)と、不作付地0.2ヘクタール(べこあおば)で実施された。べこあおばの収量は16.2俵(972kg)と、予想を超えた作柄となり、その結果が飼料用米栽培への糸口となった。

 T養鶏では、耕種農家と飼料用米による耕畜連携・循環型農業を推進するため、T養鶏の鶏舎で採れた鶏糞堆肥を施用すること、コスト削減のためにもみの状態で出荷すること、除草剤以外の農薬は原則使用しないこと、などの契約を結んでいる。特に品種は限定していないが、栽培方法も慣行栽培に準じている。鶏糞堆肥の値段などは、年によって若干変動するものの、基本的に耕種農家は、この契約内容で飼料用米生産に取り組んでいる。

 飼料用米を利用した鶏卵「こめたまご」の販売先は、パルシステムを通した首都圏生協を中心に、宅配業者、インターネット販売が中心となっており、県内では、直売所やスーパーマーケットのインショップで販売されている。そのうち、パルシステムを通じての販売が、売り上げの約7割を占める。

3.耕種農家と養豚業(H牧場)、養鶏業(T養鶏)の連携

 2004年から開始したH牧場の事例は、現在の耕種農家による飼料用米生産と畜産業との結び付きのパイオニアともいえる。これに対してT養鶏は、若干遅れて2006年から取り組みを開始する。いずれも付加価値獲得を目指し、「こめ育ち豚」、「こめたまご」の名称で取り組んでいる。付加価値獲得には、両者ともに、生協との販売に関する連携が大きく寄与している。その一方、H牧場は飲食業と独自の物販店展開、T養鶏は直売所や総合スーパー(GMS)、地域スーパー(MS)のインショップでの展開と、異なる方法での付加価値獲得を目指している。

 連携する耕種農家の飼料用米作付け開始年別戸数比率は、H牧場の場合には漸増であるが、T養鶏は急増している(図1)注3)。H牧場の場合には、今回対象とした地域では2004年から開始し、2009年にほぼ体系を確立したことが漸増の要因といえよう。一方、T養鶏は、2006年から試験的に開始し、その後飼料用米に対する助成制度が充実するのと歩を一にして取り組みを強化したことがこのような動きになっている。
図1 飼料用米作付け開始年別耕種農家戸数比率

 飼料用米は、そのコスト高が問題として喧伝される。これに対しての耕種農家の対応は、十分とはいえない。H牧場の事例の場合には、耕種農家による低コスト化への取り組みはわずかであり、約半数が何も取り組んでいない(図2)。これに対して、T養鶏の事例では、半数を超えて直播や疎植に取り組むものの、やはり約4割が何も取り組んでいない(図3)。特にH牧場の事例で「手間を省かずに主食用米同様の栽培体系を採る」が3割もいることは驚きである。耕種農家にとって、飼料用といえども米作りに対する考え方は変わりがない、といえるのではないだろうか。

 以上のように、両者の生産開始の違いには政策が大きく寄与しているものの、低コストへの取り組みに大きな違いがなく、その上あまり積極的とはいえない状況である。
図2 飼料用米部門確立のための取組み(H牧場の事例)

図3 飼料用米に取り組むにあたっての技術的対応(T養鶏の事例)

注:複数回答
 また、飼料用米生産における課題を見ると、H牧場の事例、T養鶏の事例のどちらにおいても、収入が低いこと(単価が低い)、コストの削減方法が難しいこと(低コスト栽培技術の確立)、政策の行方(補助金がどうなるのかはっきりしない)を問題点として指摘している(図4、図5)。
図4 飼料用米の問題点(H牧場の事例)

注:複数回答
図5 飼料用米に取り組むにあたっての課題(T養鶏の事例)

注:複数回答

4.飼料用米利用豚肉の消費者の評価

 飼料用米利用畜産物は、消費者にどのように受け止められているのであろうか。これを明らかにするため、飼料用米を利用した豚肉に対する消費者アンケートを実施した注4)

 現在、飼料の一部として米(飼料用米)が使用されている豚が生産され始めていることを知っているかどうか、をたずねたところ、図6に示すように、「知っていた」と24.6パーセントが答えている。続けて、飼料の一部に飼料用米を使った豚肉について食べたことがあるかどうかをたずねたところ、図7に示すように、「食べたことがある」はわずかに5.7パーセントである。
図6 飼料の一部に米が利用されていることの認知

図7 飼料用米を利用した豚肉を食べた経験

 これから飼料用米を使用した豚肉を食べたいと思うかどうかをたずねたところ、図8に示すように、「食べたい」という回答者が12.1パーセント、「どちらかといえば食べたい」が30.5パーセントであった。「どちらともいえない」が51.1パーセントと判断を迷っている消費者が多い。「食べたい」とする理由は、「食料自給率の向上につながる」、「美味しかった、または美味しそうだから」、「遺伝子組み換えの飼料が使われる心配がなくなる」、「減反水田の有効活用になる」が主なものであった。一方、「食べたくない」とする理由は、「どのようなものかよくわからないから」が過半を占めた。これらの結果から、「食べたい」という人の飼料用米利用豚肉に対する知識と、「食べたくない」という人の知識に、大きな開きがあるように思われる。
図8 飼料用米を利用した豚肉を食べる意向

 国産の飼料用米を使用した国産豚肉については、「飼料を輸入トウモロコシから国産の飼料用米に一部代替することで、安全・安心な食料確保につながる」、「食料自給率の向上につながる」など、安全・安心に関して高く評価され、また「油があっさりして食味が向上する」といった、食味に関しても評価されている。しかし、これらは飼料用米を使用した国産豚肉を購入する時に、それらが商品に表示されているわけではないので、意識して購入している人は少ない。これらの効果のうち何に消費者は惹かれるのか、またその効果はどの程度の価値があるか、を明らかにすることは重要である。そこで、選択型コンジョイント分析を用いて、これらの点の分析を行った。

 選択型コンジョイントとは、異なる要素の2つの国産豚肉があるとき、どちらの豚肉を買いたいと思うかを選んでもらう方法である。消費者に提示したのは、表1に示す5つの要素である。
表1 豚肉を評価するための5つの要素

 調査対象者に、5つの要素の内容が異なる国産豚肉の選択肢を2つ並べて、2つの豚肉の内、どちらを買いたいと思うかを選択させる。提示された2つの豚肉では選びようがないという場合も考え、「どちらも買いたくない」という選択肢も作成した。この選択型コンジョイント分析は、実際に消費者の購買行動に近い状況を作って回答を得る表明選好法の一種である。選択肢集合の作成およびデータ分析は、合崎〔1〕の開発した「RExcelによる選択実験向けマクロ・プログラム」によって行った。この方法で作成した全選択肢集合(直交計画)を表2に示す。
表2 全選択肢集合(「どちらも買いたくない」を除く)

 データ分析は、合崎〔1〕のプログラムで使用されている条件付きロジット・モデルで計測した。プログラム上の限界があり、2,500サンプル全てを分析に使用することができなかったため、ランダムサンプリングによって抽出したプログラム限界値までの682サンプルを分析した。その計測結果を表3に示す。
表3 コンジョイント分析の計測結果

注:限界支払意思額とは、各要素(変数)が1単位変化した場合の支払意思額を示す。
   計測結果では、例えば食料自給率向上につながっている豚肉に対し、つながっていない
   豚肉よりも34.06708円多い支払意思額を示している。
 分析の結果、飼料用米を豚の配合飼料に用いることは、「食料自給率向上につながっている」、「稲作農家の経営安定につながっている」、「飼料の安定確保や安全性の向上につながっている」のいずれの要素でも消費者の効用を増加させることが明らかになった。そして、その評価額は、「食料自給率の向上につながっている」34円、「稲作農家の経営安定につながっている」37円、「飼料の安定確保や安全性の向上につながっている」57円、「国産の飼料用米を使用している」56円であり、前2項目は価格の1〜1.5割程度と評価し、後2項目は価格の2割程度と評価している。豚肉の品質に直接的に影響を与える要素である「飼料の安定確保や安全性の向上につながっている」や、「国産の飼料用米を使用している」の方が高い価値と評価しており、飼料用米利用豚肉の販売促進のためには、豚肉に直接的な効果があるとイメージさせる表現でPRする方が効果は大きい。

5.おわりに

 調査の結果、畜産業者は、飼料用米給与を付加価値の源泉と位置づけ、販売では市場流通を避け、生協等との直接取引や自ら物販や飲食業展開を行っている。これに対して、飼料用米を供給する耕種農家は、生産意欲にばらつきがみられる。

 この連携の取り組みを消費者は、「食料自給率向上につながっている」、「稲作農家の経営安定につながっている」、「飼料の安定確保や安全性の向上につながっている」と評価している。そして、どちらかといえば豚肉の品質に直接的に影響を与える要素である「飼料の安定確保や安全性の向上につながっている」や、「国産の飼料用米を使用している」の方が高い価値と評価しており、飼料用米利用豚肉の販売促進のためには、豚肉に直接的な効果があるとイメージさせる表現でPRする方が効果は大きい。

注1)小沢・吉田〔2〕に詳しい。

注2)生活クラブ生協では、取り扱う商品をあえて消費材という。それは単なる商品(財)ではなく、
   信頼のおける生産者を探し出し、自分たちが本当に納得し、安心して食べることのできる
   食品作りをもとにしている。

注3)H牧場と連携する耕種農家については、遊佐町の7集落の耕種農家59戸を対象に、飼料
   用米の取り組みの現状について聞き取り調査を行った結果である。T養鶏と連携する耕種
   農家については、相対契約農家に対して、飼料用米とT養鶏の契約内容に関するアンケー
   ト調査を行った結果である(相対契約農家131件の中から無作為抽出した50件)。アンケー
   トの回収率は50件中28件(56%)であった。

注4)飼料用米を利用した豚肉に対する消費者の評価に関し、楽天リサーチのモニターを活用した
   Web調査を行った。回答者数は2,500名で、20代、30代、40代、50代、60代の各年代の男女
   について、人口比率による割り付けを行った。

引用文献

〔1〕合崎英男「Rを活用した選択
   実験向け選択肢集合の作成およびデータ分析用アプリケーションの開発」『行動計量学』
   第36巻第1号、2009年、pp.35-46.

〔2〕小沢亙・吉田宣夫編『飼料用米に栽培・利用』創森社、2009年.

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