【要約】
ブラジルの鶏肉産業は、ブラジル国民の所得向上を背景とした内需拡大と、鳥インフルエンザ発生を契機としたタイ産鶏肉の世界的な輸出禁止による外需拡大により、著しい成長を見せた。成長の背景には、飼料原料の調達の容易さ、インテグレーションの進展などによる価格優位性が挙げられている。一方では、ロジスティックスや労働力不足などが課題とされている。国内第2位の生産量、同第1位の輸出量でブラジル鶏肉産業をけん引するサンタカタリーナ州における現地調査を基に、これらブラジル産鶏肉の優位性および課題、今後の見通しについて報告する。
1.はじめに
ブラジルの鶏肉産業は、ブラジル国民の所得向上を背景とした内需拡大と、2004年以降の鳥インフルエンザ発生を契機としたタイ産生鮮鶏肉の世界的な輸出禁止による外需拡大により、著しい成長を見せた(表1)。
表1 ブラジルの国別輸出量(冷凍鶏肉) |
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資料:GTI社“Global Trade Atlas” |
ブラジルの鶏肉産業の成長は、トウモロコシおよび大豆の生産地の広がりに関係している(図1)。トウモロコシの生産地が伝統的な南部からマットグロッソなど中西部にも拡大したことにより、養鶏産業は比較的安価に飼料原料の調達が可能となった。このことが、ブラジル産鶏肉の価格優位性を高め、生産規模拡大を可能とした要因となっている。もう一つの重要な要因は、生産と加工・輸出に係る業態の垂直統合である。ブラジルでは生産と食鳥処理・加工企業(以下「パッカー」という。)の垂直統合(以下「インテグレーション」という。)が進展し続けてきた。零細な生産者では、輸出国が求める厳格な衛生管理基準に適応する能力に劣るが、インテグレーションにより厳しい衛生管理基準が満たされ、スケールメリットを享受することで価格優位性を有する大量生産が可能となっている。
図1 地図 |
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資料:機構作成 |
このような状況が顕著に見られるのは、サンタカタリーナ州である(表2、3)。同州の鶏肉産業は国内第2位の生産量、同第1位の輸出量で、ブラジルの鶏肉産業をけん引する。
このため、本稿では、このような6万人の直接雇用、80万人の間接雇用を創出する基幹産業に成長したサンタカタリーナ州の鶏肉産業の現状と課題を現地調査を基に紹介し、ブラジル産鶏肉の優位性および同国の鶏肉産業の課題と今後の見通しについて考察するものである。
なお、本稿では為替レートとして1レアル=50円とした。
表2 地域別・州別ひな飼養羽数 |
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資料:APINCO(ブラジルブロイラー用ひな生産者協会) |
表3 地域別・州別鶏肉生産量 |
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資料:FNP社 |
2.サンタカタリーナ州産鶏肉の優位性
サンタカタリーナ州の農業の特徴は、大規模生産者が少なく、家族経営体中心であることが挙げられる。1戸当たりの農場面積50ヘクタール以下の小規模農家が9割以上を占めており、養鶏業も家族経営が主体である。
南部地域は同国のブロイラー飼養羽数の6割弱を占め、サンタカタリーナ州は、パラナ州に次いで2番目の位置にある。
(1)スケールメリット
まず、最も注目すべき優位性は、インテグレーションの進展に伴う生産規模の拡大である。ここでのインテグレーションの形態は、通常、パッカーが生産施設などを所有するのではなく、生産者と生産契約を交わすものである。この契約に基づき、生産者が鶏舎、農業機械、労働力などを負担し、パッカーが素ひな、飼料、農業資材などを生産者に対し提供している。
この形態による生産者のメリットは、収益が安定し、経営リスクが低減できることであり、パッカーのメリットは計画生産と費用の効率化である。パッカーの計画生産の方針の下、生産者は自らの意思に基づく生産拡大は困難である。
しかし、ブラジル産鶏肉の内需・外需拡大と相まった需要に支えられ、パッカーの計画生産が増産傾向で推移したことで、双方のメリットが最大限発揮され、インテグレーションの加速化とともに、生産規模の拡大に寄与することとなったと考えられる。
サンタカタリーナ州養鶏協会(ACAV)によると、家族経営体は、担保資産がないため資金力には制約があった。しかしここ数年、大手パッカーなどがインテグレーションを進展させたことにより、生産者はパッカーの支援を受けて短期資金の調達が容易となり、生産効率を向上させることができ、さらに、生産者は売渡先も確保されることで、経営が安定することになった。
大手パッカー関係者の話によると、契約している生産者では疾病の発生率も低下し、飼料の同一化によりほぼ均一な鶏肉生産が実現している。パッカーからの生産規模拡大の意向も強く、調査したある大手パッカーでは、9カ所の契約農場で、1カ月当たり51万個の種卵が委託生産され、週当たり302万羽の素ひなが出荷される。また、162戸の生産者が素ひなを導入し、932カ所の鶏舎で生産している。このパッカーだけで飼養可能羽数は2227万羽であった。環境問題(騒音・悪臭など)の規制も徐々に厳しくなってきてはいるものの、広大な土地の恩恵もあり、規模拡大を可能としている。
パッカーでの1日当たりの処理羽数は40万5000羽である。月曜日から土曜日まで操業し、稼働時間は午前4時〜午後2時、午後2時〜午前0時の2交代制をとっている。労働に関する規制は日本とは異なり、シフトの機動的な変更も可能で、これによる処理羽数の調整も容易であることから、パッカーは相当程度の増産があっても、それに応える柔軟な体制が構築されていた。こうした点も、鶏肉産業発展の要因といえよう。
サンタカタリーナ州では、日本とは異なるこのような特徴を生かして、生産規模拡大と処理能力向上を実現させ、歩留まりを高めるよりも、処理羽数を増やすことで、実需者の求める規格と量に応える形で収益があげられることがブラジル鶏肉産業の大きな強みといえよう。
(2)良好な輸出インフラ
サンタカタリーナ州で生産された鶏肉は、主にイタジャイ港から輸出される(図2)。イタジャイ港は、ブラジル鶏肉輸出の約4割を担う主要輸出港であり、州都フロリアノポリスから北へ94キロメートルに位置する。国道101号線(BR101)と国道470号線(BR470)の2つの国道に面しており、リオグランデドスル州、パラナ州やサンパウロ州といった主要生産州の首都やその他州内の主要都市から、道路輸送が可能な半径600キロ圏内にある。
図2 イタジャイ港周辺地図 |
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資料:イタジャイ港湾管理局 |
同港の管理・運営はすでに民営化されており、州政府が管理・運営するサントス港とは異なり、滞船や港湾手続きの遅延は見られない。州の港湾管理局から委託を受けた企業は、2048年までの管理許可を得ている。また、長期的な管理契約を締結しているため、積極的な設備投資も可能で、1時間に40台のコンテナを積める最新のガントリークレーンが導入されるなど施設も更新されている。
ただし、船舶の大型化に伴って、港湾の大幅な改修も必要で、遅くとも2015年には長さ366メートルX幅51メートル級の船舶も入港できるように、港湾施設の改修が課題となっている。もっとも、これによる鶏肉輸出への影響は限定的である。
なお、食肉の主要産地であるサンタカタリーナ州西部からイタジャイ港までの道路輸送については、現在国道(BR470号線)を片側2車線に拡張する工事が進められている。また、現在、連邦政府からの着工許可を待っている西部とイタジャイ港を結ぶ鉄道敷設プロジェクト(通称ブロイラー鉄道)が実現されれば、輸送コストがさらに低減され、鶏肉の価格優位性がさらにが高まるものと考えられる。
(3)トウモロコシの調達の容易さ
ブラジルの鶏肉産業は、トウモロコシの伝統的な生産地である南部を中心に発展してきた。90年代に入り、大豆やトウモロコシの生産が中西部に拡大するにつれて、鶏肉産業も中西部に拡大したが、南部での生産は依然として大きい。ブラジルフーズ社の資料によると、2000年の南部3州(パラナ州、リオグランデドスル州、サンタカタリーナ州)の鶏肉生産(と体ベース)のシェアは5割であったが、2012年には6割とシェアを伸ばしている。
2011年のトウモロコシ生産量は、全国の上位9州で全生産量の9割を占める(表4)。州別生産量を見ると、南部のパラナ州が第1位(全生産量に占める割合:22.4%)で、サンタカタリーナ州は第6位(6.6%)となる。サンタカタリーナ州の作付面積は第9位で全国の1.1パーセントを占めるにすぎないが、同州は海抜1,882メートルと高地にあり、降水量は年間2,000〜3,000ミリメートルと、トウモロコシの生産に適しており、その生産力の高さに特徴がある。単収で比較すると、国内平均は1ヘクタール当たり4.1トンで、南部のパラナ州でも5.0トンだが、サンタカタリーナ州は6.7トンと平均を6割上回り、トップクラスの水準となっている。
表4 州別トウモロコシ生産量など(2011年) |
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資料:ブラジル統計院(IBGE) |
鶏肉輸出で競合するタイと比較すると、タイは、養鶏に必要なトウモロコシの需要量はほぼ自給できているものの、大豆かすはほとんど賄いきれていない。タイ政府は大豆かすの関税率を引き下げるなど対応しているが、タイ産鶏肉の価格優位性を失わせる要因となっていることが明らかである(機構調べ)。
他方ブラジルは、トウモロコシと大豆かすともに自給できる状況で、飼料コストの面ではブラジル産に優位性がある。
この傾向は、今後とも変わらないものとみられ、2012年のように世界的な飼料穀物価格の高騰という事態になると、タイ産とブラジル産の農場出荷価格の格差が拡大し、ブラジル産の価格優位性がよりいっそう鮮明となる。
(4)徹底した衛生管理
ブラジルでは、鳥インフルエンザの発生が確認されていない。ブラジル農務省(MAPA)による取り組みはもちろんのこと、ブラジル養鶏連合(UBABEF)でも、昨今の南アフリカ、メキシコなどでの鳥インフルエンザ発生を受け、あらためて2013年4月以降、導入ひなの隔離条件を厳格化し、衛生管理マニュアルを刷新している。
サンタカタリーナ州は国内でも特に家畜疾病の清浄性が高く、ニューカッスル病や鳥インフルエンザは清浄性が確保されている。なお、2007年に国際獣疫事務局(OIE)により口蹄疫ワクチン非接種清浄地域と認定され、2013年5月には日本向けに同州からの豚肉輸出が解禁されたことは記憶に新しい。
3.サンタカタリーナ州産鶏肉の課題
サンタカタリーナ州の鶏肉は、生産、流通などの分野で優位性を有していることが、増産の要因となっている。では、課題は何か。ここでは、関係者のヒアリングや現地調査を基に、サンタカタリーナ州の鶏肉生産等の課題を整理する。
(1)ロジスティックス
サンタカタリーナ州では、道路の舗装が修復されていない箇所が多い。道路が中心部と辺縁に高低差があり、定期的な補修が実施されていない状況であった。関係者によると、交通インフラ整備の予算は必ずしも潤沢に確保されていないことが原因として挙げている。
サンタカリーナ州の養鶏の生産地は、州内の西部に集中している。現地で、州西部を陸路でたどったが、山沿いの曲がりくねった1車線の道路が続き、標高差もあることから、前方にトラックなどが走っていると、追い越しをすることが困難であり、必ずしも安定した運転ができる状況ではなかった。このような道路事情の悪さも輸送コスト高を招いている。複数の関係者からは、鶏肉生産・流通において最大の課題はロジスティックスであるとの指摘があった。
また、最近のガソリン価格の引き上げも輸送コストや物流コストの上昇要因となり、特にトウモロコシ価格に影響を及ぼしている。
サンタカタリーナ州では、州内の養豚・養鶏生産の増加を背景にトウモロコシの消費が伸びている(表5)。しかし、州内では必要量の4割程度しか手当てができないため、他州から調達せざるを得ない。主な調達先であるマットグロッソ州からサンタカタリーナ州へトウモロコシを輸送すると、マットグロッソ州では1キログラム当たり10〜12レアル(約500円〜600円)であったものが、サンタカタリーナ州では同23〜24レアル(1,150円〜1,200円)と価格は2倍に上昇する。飼料価格に着目すると生産コストでの優位性は、他州と比べて必ずしも高くなかった。
表5 サンタカタリーナ州におけるトウモロコシ生産量等 |
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資料:EPAGRI(サンタカリーナ州農政普及研究公社) |
(2)労働力不足と労働コスト高
サンタカタリーナ州でも出生率の低下、高齢化が進んでおり、農業の後継者不足、廃業などが顕在化している。1950年には雇用の8割を占めていた農業従事者は現在、2割弱まで減少している。総人口の減少と相まって、農村人口も減少傾向となっている。
養鶏業は、輸出が好調で利益水準が比較的高いこと、インテグレーションの進展により経営が安定していることなどから、生産段階で労働力不足は深刻ではない。
しかしながら、労働力不足が今後の安定生産に影響を及ぼすことを懸念し、生産者は鶏舎の拡張など施設整備によって生産規模を拡大している。ブラジルの一般的な鶏舎は管理者1名に対し、100メートルX12メートルの1,200平方メートルのサイズが主流であるが、最近では、150メートルX16メートルの2,400平方メートルのサイズも主流となりつつあり、この傾向は今後強まるものとみられる。
また、鶏肉の加工処理は、細かな規格を要求される日本向けなどでは、手作業で行われることが多いが、工場での労働を希望する者は必ずしも多くない。このため、大手パッカーでは、高価な脱骨機械を導入するとともに、海外からの労働者も受入れている。
調査したパッカーでは8,000人の従業員を抱えており、労働者の男女比率は男性がやや多かった。容姿からの判断では、南アジア、東南アジアなどの出身者も相当程度従事していた。ここでは、離職率が3〜4パーセント、月に200人程度が入れ替わるとのことであった。日本のパッカーでは処理工程は、地元の女性が中心で定着率も高く、脱骨作業や規格に合わせた調整など細かな対応を可能としている。しかし、ブラジルでは、細かな規格を要求される加工工程では、男性を中心とした離職が加工技術の平準化の支障となっているものと考えられる。この点はタイでは、地元出身の女性が中心で、手先の器用さが求められる作業が的確に実施され、技術の水準も一定に保たれている(機構調べ)。
ブラジルの最低賃金は、2000年から2012年の間に80パーセント上昇しており(図3)、生産コストに占める人件費の割合は上昇傾向にある。
パッカーでも人材確保のために様々な手当を用意している。直接の給与は、1月当たり500〜550米ドルに、ボーナスとして1月分の給与が支給される。その他、健康保険、必需品バスケットと呼ばれる米、豆、油などの食料品も支給され、その費用は企業が負担する。さらに工場内で提供している1日に2回の食事は本人負担が1食につき、1レアルから1.5レアル(約50〜70円)程度であり、通勤用バスも本人負担は少なく、これらを含めると企業側の間接的負担はかなり大きいものとなっている。これも、従業員の定着率を上げるためにはやむを得ないのかもしれない。
図3 最低賃金の推移 |
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資料:大統領府文管庁 |
(3)資金調達難
ブラジルの農協の中央組織であるアウロラによると、インテグレーションされていない生産者は生産調整されず、需要に応じて生産することになるが、鶏肉は内需・外需とも好調なことから、生産者の増産意欲は高い。しかし、このような生産者は比較的規模が小さいことから、短期的資金調達が課題である。
アウロラは生産者向けの融資は行っておらず、インテグレーションされていない小規模生産者は、鶏舎の増改築などの際に土地を担保に自力で短期的資金の借り入れを行う必要がある。しかし、小規模生産者の場合、15ヘクタール程度の土地しか所有しておらず、増産を図るにしても、土地以外に十分な担保資産がなく、生産者は新たな借り入れができない状況にある。
このため、このような生産者は経営基盤がぜい弱であり、需要が高いときは良いが、需要の変動幅が大きくなると、経営状況に大きく影響するものと考えられる。
(4)輸出品の多角化の課題
鶏肉の主要輸出国を見ると、ブラジルは生鮮が主体、タイや中国は調製品が主体となる。調製品と生鮮を比べると、調製品の利益率の方が高い。では、ブラジルで鶏肉調製品の輸出は可能なのか。
最近、欧州向けに加えて中東向けなど、数量こそ少ないものの、ブラジル産の鶏肉調製品が輸出されている(表6)。
表6 ブラジルの鶏肉調製品国別輸出量等
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資料:GTI社“Global Trade Atlas” |
関係者からのコメントを総合すると、調味料の調達の問題、サンプルをすぐに日本で確認できないことなどから、少なくとも日本向けに調製品の輸出が拡大する可能性は低い。特に、タイや中国では日本の独特の調味料である多様なみそ、しょうゆなどの入手が容易であるが、ブラジルでは調達が難しく、食文化も異なることから、微妙な味付けなど課題となる。また、圧倒的なシェアを有するタイや中国との競合では、コストが見合わないため、冷凍鶏肉の輸出が好調である間は本腰を入れることはないであろう(表7、8)。
表7 日本の鶏肉調製品の国別輸入量
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資料:GTI社“Global Trade Atlas” |
表8 中国の国別鶏肉輸入量(冷凍鶏肉)
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資料:GTI社“Global Trade Atlas” |
4.まとめ
2004年、タイでの鳥インフルエンザ発生以降、我が国は鶏肉調製品の調達をタイや中国に依存させている。すでに生産システムも構築されており、また、調製品はより利益を見込めるため、衛生条件をクリアしてもこれらの国からの生鮮品の急激な輸出拡大は考えにくい。このため、当面、日本の生鮮鶏肉輸入量に占めるブラジル産のシェアに大きな変化はないものと考えられる。しかし、タイがブラジルとの差別化を図るためにブラジルでは対応できない規格で対抗することは考えられる。実際、ブラジルよりもタイの方が細かな規格に対応する能力は長けており、ブラジルの労働コストの上昇も影響するであろう。
また、日本との取引においては、日本からブラジル産の鶏肉を調達するには半年前に注文を出す必要があるが、この間に日本の需給が変化し、余剰在庫を抱えるリスクが大きい。さらに船積みから日本到着までに、ブラジルの場合は60日を要する一方、タイでは2週間程度と距離的には圧倒的に劣勢である。これに対応するため、最近では、契約期間を比較的短くすることで日本の需給の変化による影響を軽減するところもみられてきた。
さらに、最近ではアジア、中東向けのブラジル産生鮮鶏肉の輸出が増加しており、中でも中国向けの増加要因として、中国国内における鳥インフルエンザの発生による国内供給不足も影響しているとみられるが、経済成長が続く中にあって、今後も輸出拡大が見込まれ、部位によっては日本との競合も懸念される。中国向けは日本ほど規格の水準が高くないため、同じ部位でも日本向けの価格と比較し、中国向けの価格が低くなる傾向にある。また、中国市場では、ほかに競争相手があるため、価格面での競合となり、輸出価格を下げざるを得ないと言う一面もある。しかし、現在は、中国は手羽、モミジなどが主流であり、日本向けの主要輸出部位であるモモの需要は少ないことから、当面、中国向けとの競合は限定的とみられる。
ブラジル農務省が公表した2022/23年度までの生産予測によると、ブロイラーの生産量は、現在の1.5倍まで拡大し、牛肉や豚肉を大きく上回る見通しとなっている。この背景には、生産コストが低く、また、第2期作トウモロコシの増産が可能な中西部における鶏肉生産増加への期待がある。こうしたことから、ブラジルの鶏肉産業は今後も圧倒的な生産量を背景としたスケールメリットを活かし、成長を続けていくものとみられる。
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