需給動向 海外

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生乳生産増加、需要とのバランスに注目


ロシアとの関係の悪化による輸出減で、乳価下落を懸念する声も

 オランダ農業園芸組織連合会(LTO)によると、2014年4月のEU域内主要乳業メーカー17社の平均乳価(生産者乳価)は、100キログラム当たり39.09ユーロ(5473円:1ユーロ=140円)となり、前年同月比14.4%高となった(図16)。EUの生乳生産が増加する中で乳価は軟調を示しているものの、依然として高水準にある。今年は冬季が温暖であったことから牧草の生育状況は良好にスタートし、今後も生乳生産の増加が見込まれている。また、昨年、乳製品価格を下支えしたとされるチーズなどの輸出は、主要輸出国であるロシア向けがウクライナ危機により停滞する可能性が指摘されており、輸出減による乳価への影響も懸念されている。

 ドイツ乳製品市場価格情報センター(ZMB)によると、2014年3月のEUの生乳出荷量は前年同月比5.6%増の1287万3500トンとなり、増加基調が続いている(図17)。また、同年第1四半期(1〜3月)では、前年同期比5.3%増の3628万8000トンと前年同期から200万トン弱の増産となった。この主な要因として、ZMBは、暖冬により牧草の生育状況が良好にスタートしたこと、2015年生乳クオータ廃止に向けて、主要酪農国で飼養頭数が維持もしくは増加していることを挙げている。

 また、ZMBでは、この出荷量は、EU全体の生乳処理能力の限界に達する数値であり、新設された乳製品工場が出荷最盛期である4月、5月までに本格稼動できるかが重要になるとコメントしている。
図16 EUの平均乳価の推移
資料:LTO
  注:域内主要乳業17社の平均値
図17 EU(28カ国)の生乳出荷量
資料:ZMB
  注:2014年は暫定数値

生乳生産の増加分は、粉乳およびバターで吸収

 ZMBによると、2014年1〜2月までの乳製品生産量は、脱脂粉乳および全粉乳でいずれも大幅な伸びを示した(表13)。特に脱脂粉乳は、前年同期比18.0%増の21万1000トンとなった。国別に見ると、主要生産国であるドイツで同5.0%増の5万8900トン、フランスで同25.5%増の6万2400トン、ポーランドで同52.5%増の1万8500トンとなった(表14)。

 2013年は、天候不良による生乳生産減少の結果、域内で主に消費される飲用乳や発酵乳への仕向けが優先され、輸出製品である粉乳生産は、前年を下回った。しかし、2014年は、生乳生産が増加傾向で推移していること、ロシアとの関係悪化などの影響により、同国への輸出減が見込まれるチーズからシフトするとみられること、2015年の生乳クオータ廃止に向け、主要酪農国で粉乳加工場が新たに稼働し始め、生産能力が拡大していること、主な輸出先である中国向けが引き続き堅調であることなどから粉乳生産量は前年を大幅に上回るとみられる。

 また、ZMBは、粉乳生産量の公表が遅れているアイルランドでも前年を上回る生産量を見込んでおり、各国の数値が確定した際には、EUの粉乳生産のさらなる増加が明らかになるとコメントしている。
表13 乳製品生産量(1〜2月)

資料:ZMB
  注:2014年は暫定値
表14 主要生産国における脱脂粉乳生産量(1〜2月)

資料:ZMB
注1:2014年は暫定値
注2:フランスは統計手法変更により暫定数値

Eucolait総会が開催、生乳クオータ廃止後の動向に注目が集まる

 欧州乳製品輸出入・販売業者連合(Eucolait)の総会が6月5、6日の両日、ポルトガルのリスボンにて開催された。同組織は、EUの乳製品輸出を促進するための機関であり、乳業メーカー、輸出業者、酪農組合などEUの酪農業界に関係する主要企業・団体で構成されている。

 本総会では、2015年3月末に廃止が決定している生乳クオータ廃止に向けた各国の動向および2013年、2014年の牛乳・乳製品の需給について報告が行われた。特に今回は、生乳クオータ廃止に向けた各国の対応に注目が集まった。主要生産国であるドイツ、フランス、英国およびデンマークなどは「生乳クオータ廃止に向けた準備は整った」との報告が行われ、生乳生産の増産体制および乳製品工場の増設がすでに完了していることが述べられた。一方、廃止を目前に控え未だ生乳生産の経営規模が小さく、競争力の低いポルトガルからは「酪農の地域社会における重要性をEUレベルで認識し、EU域内での競争を回避すべき」との見解が示され、イタリア、ギリシャおよびエストニアなどからも同様の意見が述べられた。

 ZMBは、生乳クオータ廃止の影響について、EUの生乳生産は主要生産国の比重が大きくなるとともに、これら主要生産国の中でも生産地域が再編されるとの予測を発表した。また、牛乳・乳製品の需給は世界規模でひっ迫しており、今後の乳製品輸出は促進される可能性は高いものの、主要輸出先国であるロシアとの関係悪化、中国の自給率の向上など輸出に対する不確定要素も大きいことが指摘された。

(調査情報部 矢野 麻未子)

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