調査・報告  畜産の情報 2014年7月号

中小規模養豚における
粗収益の拡大などに向けた取り組み(後編)

畜産経営対策部 養豚経営課


【要約】

 前月号では、中小規模の養豚経営と特色ある豚肉生産を紹介した。今回はその後編として、各経営体における粗収益の拡大に向けた具体的な取り組みについて紹介する。

 今回の調査から、中小規模経営は、差別化した豚肉を生産しやすい環境にあること、消費者と販売者との距離が近く豚肉の特色などをPRしやすい利点があることがわかった。

3.粗収益の拡大に向けた取り組み

(1)安定した販路の確保

 中小規模の養豚経営体における収益の確保や拡大に向けた取り組みとして、より有利な条件での販路の確保がある。ここではその方法として、直接販売ルートの確立やインターネットの活用、そして継続的な販売先の確保について、養豚経営体の事例とともに紹介する(表3)。
表3 各農場における安定した販路の確保

資料:聞き取りをもとに機構作成

ア 直接販売ルートの確立

 食の安心・安全が問われる中、生産者の顔が見える農産物を購入できる手段として、消費者の間で直接販売(以下「直販」という。)の人気が高まっている。直販は、中間マージンが発生しないため、生産者にとっても販売利益が大きいなどのメリットがある。近年、直販ルートの一つとして広く認知されるようになったのが、90年代以降、全国各地に開設された道の駅である。

 白石農場では、平成24年から埼玉県深谷市の「道の駅おかべ」との取引を始めた(写真6)。古代豚商品の価格は自ら設定し、ソーセージなどの加工品の販売を行っている。週末およびイベント時の店頭販売などの継続的な販売促進活動も功を奏し、観光客から地元の人まで幅広い客層に支持され、当初に比べ売れ行きは好調とのことである。

 一方、福まる農場では、自社農場で障害者の方に雇用の場を提供していることが縁となって、沖縄県糸満市の障害者就労支援施設イノーに「 純朴豚じゅんぼくとん」を販売している。イノーは、道の駅構内のレストランで純朴豚を使ったメニューを店頭では「純朴島豚じゅんぼくしまぶた」という銘柄で提供し、修学旅行生やアジアからの団体客に好評を博している。さらに、近隣のビーチの観光客向けのバーベキューセットや隣接するカフェの食材など、無駄の少ない販売を実現している。
写真6 さまざまな商品が並ぶ「道の駅おかべ」にある古代豚専用ブース

イ インターネットによる直販

 インターネットによる直販は、24時間の受注が可能となる上、商品を消費者に届けるだけでなく、生産者が直接消費者の声を聞く機会も得やすいメリットがある。インターネットで受注するための作業や手間、それらにかかるコストなどのデメリットも予想されたが、今回の調査では、インターネットを活用して直販を行う養豚経営体が多く見られた。

 インターネットでの販売を行う上で、課題となるのは経営体の知名度アップである。浅野農場は、札幌市と当別町で直営店を運営するほか、農場のPRのために各地のイベントやデパートでのイベントの出展を積極的に行っている。イベントで同農場を知った消費者が、農場が運営するインターネットショップ「北の風」で商品を購入することがよくあり、北海道フェアなどでのPR活動による知名度アップが同農場ネットショップ「北の風」での売り上げに結び付いている(写真7)。
写真7 昨年10月に開催された東京・代々木公園での北海道フェアに
出展し賑わう浅野農場のブース

 次に、えこふぁーむでは、地産地消と地元鹿児島県肝付町への集客による地域の活性化の取り組みとして運営する直営レストランホテル「森小休しんこきゅう」で豚肉を食べた消費者からのネット注文が堅調であるという。このレストランには平日でも多くの顧客が来店しており、このネットでの購入を含めた「リピーター」の獲得につながる好循環を形成している。

ウ 継続的な販売先の確保

 生産量に見合った安定した販売先が確保されれば、中小規模の養豚経営体であっても、粗収益を安定的に確保することが可能である。さらに、営業活動への労力が軽減され、生産に集中できるという利点もある。以下の2つの経営体は、いずれも安定した販売先を確保していた。

 まず、敬友農場は、自社で生産する全ての肉豚を、主要取引先である大手食品会社の日東ベスト株式会社(以下「日東ベスト」という。)に、自らが直接契約した年間固定価格で販売している。同農場は、同社との取引により、こだわりをもった金華豚の生産と同時に、市場価格の動向に左右されない経営を確立している。同農場は、日東ベストとの取引を継続するため、月に1回程度、同社と需給動向などに関する情報交換の場を開催しているという。

 また、グリーンファーム京都では、生産するほぼ全ての肉豚について、ビジネスパートナーである株式会社サノ・コーポレーション(以下「サノ・コーポレーション」という。)との契約取引により、前週の大阪市場での上規格の平均価格をベースに同社に販売している。さらに、契約取引を始めてからは、同農場の豚肉が京都でも知名度の高い京のもち豚シリーズとして販売されるようになり、販路の拡大にもつながったという。一方、販売先であるサノ・コーポレーションは、一定品質のサシの入った豚肉の安定的な供給を目指して、購買者の声を吸い上げるように努めている。肉質に変化があれば、グリーンファーム京都を訪問し購入者の声をフィードバックするなど、同農場と一体となった販売体制を構築している。

(2)よく売れる、高く売れる仕組み作り

 ここでは、所得向上への取り組みとして、豚肉を自ら加工して付加価値を上げて販売価格のアップにつなげている事例、販売先で農場を宣伝している事例、消費者との交流会を開催している事例を紹介する。

ア 自ら加工品を製造、販売

 白石農場では、所有する加工場「古代豚工房」において、桜の薪を使用した直火製法で、添加物を極力減らした加工品の製造を行い、付加価値を上げ、さらに直接販売することで収益を確保している(写真8)。また、同農場では、平成8年からはレストランへの販売も開始し、現在では一番の収入源となっているという。半丸セットでの販売が基本だが、販売した半丸セットの一部(カタやモモなど)をソーセージなどに加工するほか、加工品の大きさや味を変えるなどレストランのニーズに合わせる努力も行っている。
写真8 古代豚工房では古代豚のみを原料としたハムや
ソーセージを手作りで製造
 次に、えこふぁーむでは、平成18年から自社工房「セラーノ・デ・クニミ」で、安全と安心を求める消費者向けに、無添加で手作りの加工品の販売を始めた(写真9)。価格は、生ハムが700円(50グラム)、フランクソーセージが720円(200グラム)、ベーコンが1575円(300グラム)(いずれも平成25年12月調査時点)である。
写真9 無添加の手作りソーセージなど各種取り揃えている
えこふぁーむの直売所

 白石農場およびえこふぁーむは、共に自社所有の加工場において加工・販売に取り組むことで差別化を図っていた。さらに、生産から販売まで一手に行うことにより価格の決定権を持ち、季節変動が大きい市場価格に左右されず、年間を通して安定した価格で販売していた。このように他の養豚経営体より高い価格水準を維持することで、安定した所得の確保が実現されていた。

イ 販売先での農場の宣伝

 敬友農場では、白石農場やえこふぁーむのように自社での加工品製造は行っておらず、販売先である日東ベストが、同農場の豚肉をロースハムやハンバーグ・ソーセージなどに加工して、贈答用として販売している。最近では、同農場が自らこの加工品を関東のデパートで開催されるイベントなどに出展し、宣伝に取り組んでいる(写真10)。このことによって同農場の名が広まり、同社の同農場の商品が売れることに繋がっている。同農場では、将来、同農場の名前でインターネット販売やレストランに提供できるような流通体制を取りたいと考えており、こういったイベント出展はその取り掛りとのことであった。
写真10 敬友農場では毎月1回開催される東京・玉川高島屋での
タマガワグリーンマーケットに出展

 次に、グリーンファーム京都では、ほぼ全量を買い取っているサノ・コーポレーションが宣伝・販売戦略を取り仕切っている。同社のグループ会社が展開する直営店「さのや」(カナート洛北内:京都市)では、グリーンファーム京都や同農場の銘柄豚である「加都茶豚」の特徴を記載したチラシの店頭配布や、お薦め商品を記載したポップ広告を掲げるなど販売促進を行っている(写真11、12)。これ以外にも、地産地消の活動の一環として、一部地区の学校給食向けに加都茶豚を卸している(主にモモ肉を月に1トン程度)。学校給食のメニュー表に加都茶豚の名前が掲載されることや、学校新聞からの取材を受けることで宣伝効果が期待できるという。
写真11 サノ・コーポレーションのグループ会社が運営する
「さのや」で販売される加都茶豚
写真12 「さのや」では本日のおすすめ商品として加都茶豚を紹介
ウ 消費者との交流会

 今回調査した多くの養豚経営体では、独自の飼料配合や飼育方法に力を入れており、その情報を伝える手段としてホームページやパンフレットが用いられていた。そのほか特徴的な取り組みを実施していたのがえこふぁーむである。えこふぁーむは、スペイン発祥の家畜の解体から消費まで体験できる「マタンサファミリア」というイベントを毎年2月に開催し、食育面からも消費者との関係作りに力を注いでいる(写真13)。
写真13 豚の解体から料理まで体験するえこふぁーむのイベント
「マタンサファミリア」

4.中小規模経営ならではの利点と課題

 中小規模の経営では、これまで触れたように、消費者や販売先との距離が近いこと、特色ある商品を生産から販売まで一貫して行えることなどの長所がある。一方で、資金力、労働力などにおいては大規模経営には及ばないことから、これらをいかにカバーするかが課題となる。

 本項では、調査した養豚経営体の取り組みなどから、中小規模経営ならではの利点と課題について考察する。

(1)中小規模経営ならではの利点

ア 差別化した商品を生産しやすい環境

 養豚経営においても、規模の大きさにかかわらずコストの低減は経営上の課題である。しかしながら、今回調査した養豚経営体では、興味深いことに、肥育期間が長くなる品種を扱ったり、銘柄豚を生産するために飼料にこだわったりするなど、良質な商品を作ることに重点を置き、差別化に取り組んでいた。

 品質が良ければ、高価であってもその価値を認めて買い求める購入者は多数存在する。コスト低減だけに目を向けず、「良いものを自信を持って消費者に届けたい」という視点で経営に取り組んでいくことも大切なのではないだろうか。

イ 消費者や販売先からの要望等への迅速な対応

 消費者や販売先の声は、販売を行う上で重要な情報を含んでおり、これを経営に生かすことで、販路の拡大や販売量の増加につなげることができる。調査先の養豚経営体の中には、紹介したほかに消費者や販売先と直接顔を会わせることにより、細かな要望や商品の品質、評価について、生の声を聞くことを可能としていた。

 例えば、福まる農場では、販売先のレストランの精肉や保管方法に関する細かいリクエストに応えている。消費者にインパクトを与える骨付き肉は、他社との競合がなかったこともあり、販売を行うこととした。また、エージング(0〜10℃の冷蔵下で10日間熟成)という手間がかかる保管方法についても、販売先の要望に応えている。

 このように、直接消費者や販売先の声を受け、迅速に細かな要望に応えられるのは、中小規模ならではの小回りの利く経営によるものと考えられる。

ウ 生産者の「顔の見える関係」を構築

 近年、生産者の顔が見える商品を取り扱う量販店が増えている。しかし、消費者が生産者の顔写真を見るという一方向のものが多く、どのような飼育方法により生産された商品であるかの詳細を知ることは難しい。また、生産者にとっても、どのような消費者が購入しているか知る機会は少ない。

 こうした中、調査先の多くが、店舗販売や道の駅、インターネットを使った直販やイベントへの出展などを通じて、積極的な情報発信を行い、消費者に商品の特色などを伝えていた。これにより、消費者は安心して商品を購入する一方で、生産者は消費者と接することで消費者のニーズを知ることができ、より良い商品開発につながるなど、双方向の情報発信を通じて、両者の利益につながることが期待される。

(2)今後の課題

ア 生産コストの引き下げ

 前編の第1章でも述べたとおり、肥育豚1頭当たりにかかる費用は飼料費が66%を占めている。肉豚の生産に当たって、飼料コストを下げるにはエコフィードの活用が期待されるが、それでもエコフィード導入に当たっては調達先や方法の検討、成分分析や飼料設計を行わなくてはならない。特に、リキッドフィーディングシステムを導入するには数千万円単位の投資が必要となるなど、導入に際して高いハードルがあることも確かである。
(エコフィード利用によるコスト低減については、「畜産の情報」2012年4月号(http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2012/apr/spe-03.htm)を参考にされたい。)

イ 需給バランスへの対応

 中小規模経営の場合、知名度が上がって需要が増えても、生産できる頭数には限りがあり、さらに人員の確保も難しく、需要に見合った供給体制を必ずしも整えることはできない。複数の経営体において、資金力と労働力の面から、規模拡大に踏み切れない様子がうかがえた。規模拡大を図ったとしても、これによって負債を抱える可能性もある。大規模経営の場合、多少の負債を抱えてもそれをカバーできる資金力や、リスク分散ができる体制があるが、中小規模経営ではそのような体力がない経営体が多いと思われる。

 このように、中小規模経営は、課題がある一方でその経営規模から他と差別化した商品を生産しやすい環境にある点や、生産者と消費者や販売者との距離が近く、商品の特色などをPRしやすいなどの利点がある。先に述べたように、コストはかかっても付加価値が上がることにより、安心・安全な商品を販売できるケースも多い。

 今回調査した6つの養豚経営体においても、それぞれに生産面(品種や飼料、飼育方法)にこだわりを持ち、消費者や取引先等の要望にも可能な限り応じながら、加工・販売などへ取り組んでいた。

 無理な規模拡大はせず、生かせる経営資源を最大限有効活用し、ほかにはない特色ある商品の生産により、付加価値を上げる。そして、自らが販売価格を決定し、商品の特色を消費者に直接PRすることで、固定客になってもらう。このような取り組みを継続・維持していくことで、養豚経営体の所得のさらなる向上につながることが期待される。

 最後に、本稿において事例として紹介させていただいた各養豚経営体の方々はもとより、多忙の中、本調査に御協力いただいた関係者の皆様に心より感謝申し上げたい。

(参考資料)
1.農林水産省「畜産統計」(平成25年2月1日現在)
2.農林水産省「畜産物生産費統計」(平成24年度)
3.農林水産省生産局畜産振興課「流通飼料価格等実態調査」
4.公益社団法人配合飼料供給安定機構「国内の飼料価格の動向」


元のページに戻る