需給動向 海外

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生乳生産の増加により乳製品生産・輸出ともに増加


乳価は引き続き堅調も今後の下落を懸念

 オランダ農業園芸組織連合会(LTO)によると、EU域内主要乳業メーカー17社の2014年3月の平均乳価(生産者乳価)は、100キログラム当たり39.98ユーロ(5717円:1ユーロ=143円)となり、前年同月比16.2%高となった。例年、生乳生産量が増加し始める3月は、乳価が下がる傾向にあるが2月に比べて若干の下げとなったものの依然として高水準を維持している。しかし、主要乳業メーカー各社は、今後のさらなる引き下げを公表しており、4月は一層の下落が見込まれている。なお、今年の生乳生産量は増加傾向で推移するとの予測から、生産者団体などからは、乳価の大幅な下落を懸念する声も挙がっている(図22)。

生乳出荷量は引き続き増加

 ドイツ乳製品市場価格情報センター(ZMB)によると、2014年2月のEUの生乳出荷量は、前年同月比4.7%増の1128万6000トンとなり、2013年下半期からの増加基調が続いている(図23)。同年1月から2月までの生乳出荷量を加盟国別に見ると、ブルガリア、チェコなど一部の東欧諸国を除いてほとんどの加盟国が前年同期を上回った(表4)。特に、主要酪農生産国のドイツが同4.2%増の506万6000トン、英国が同11.9%増の234万8000トン、オランダが同4.7%増の205万3000トンとなった。
 増加の要因としてZMBでは以下の3点を挙げている。(1)2015年3月末の生乳クオータ制度廃止に向けて、酪農生産者が増産に向けた体制を整え始めていること。(2)昨年の秋から冬にかけて温暖な気候により牧草の生育が良好だったこと。(3)国際的な乳製品需要の高まりを背景に乳製品の国際価格が高水準で推移しており、EU産乳製品の国際競争力の上昇により生産者の増産意欲が高まっていること、である。
図22 EUの平均乳価の推移

資料:LTO
  注:域内主要乳業17社の平均値
表4 国別生乳出荷量(1〜2月)
                                   (単位:千トン)

資料:ZMB
注1:2014年は暫定値である。
注2:閏年調整済み
注3:フランスは統計手法変更により数値掲載なし。
図23 EU(28ヵ国)の生乳出荷量

資料:ZMB
  注:2014年は暫定数値

生乳生産の増加で粉乳生産・輸出は増加

 2014年1月のEUの乳製品生産量は、脱脂粉乳および全粉乳でいずれも大幅な伸びを示した(表5)。2013年は、前年秋から春先にかけて天候不良に見舞われたことから、上半期の生乳生産は前年割れで推移し、需給のひっ迫により乳価および乳製品価格は高水準で推移した。このため、EU域内で主に消費される飲用乳や、利益率の高いチーズなどが優先的に生産され、輸出に仕向けられる粉乳の生産は抑えられていた。しかし、2013年下半期から生乳生産が回復したことに加え、バターやクリームの最需要期であるクリスマスシーズンが終了したことで粉乳の生産が回復し始め、同年1月の脱脂粉乳の生産量は前年同月比12.7%増の10万8000トン、全粉乳は同10.9%増の5万3000トンとなった。これら粉乳生産の回復により輸出も増加しており、同年1月の脱脂粉乳輸出量は同42.9%増の5万トン、全粉乳は同26.9%増の3万3000トンとなった(図24)。

 ZMBでは、今後の見通しとして、生乳生産が増加傾向で推移していることや、生乳クオータ廃止に伴う生乳増産に向けた粉乳工場の増設などが進んでいることから、粉乳生産は増加傾向を維持し、輸出も拡大するとしている。
表5 品目別乳製品生産量
                                   (単位:千トン)
資料:ZMB
  注:2014年は暫定値
図24 乳製品輸出量(1月)
資料:ZMB
  注:2012年はEU27、2013年以降はEU28

生乳クオータ廃止後を見据え、牛乳・乳製品市場観測サイトを設置

 EUでは、2015年3月末の生乳クオータ制度廃止を控え、各加盟国は増産に向けて体制を整え始めており、乳牛の飼養頭数も増加している。この状況についてイタリアなど一部加盟国は、EU域内の共通市場で資金投資が可能な国(旧加盟国のうちオランダ、フランス、ドイツなど)が市場を占有し、その他の経済的に弱い国の酪農が衰退するとして、生乳クオータの存続もしくは廃止後の激変緩和措置などを欧州委員会に求めている。

 このような状況を背景に欧州委員会は2014年4月16日、過去30年にわたりEUで運営されていた生乳クオータ制度の廃止後、域内の需給に見合った生乳や乳製品の生産が行われるよう、EUの生乳生産量、生乳価格、乳製品のスポット市場価格、乳製品価格などのデータなどをインターネットで提供する牛乳・乳製品市場観測サイト(MMO:Milk Market Observatory)を立ち上げた。
 (http://ec.europa.eu/agriculture/milk-market-observatory/index_en.htm)

 MMOは欧州委員会の農業・農村開発総局(DG AGRI)に設置され、生乳生産量などの公表に加え、DG AGRIおよび同市場に関係する8団体:欧州若年農業者会議(CEJA)、欧州農業者・農業協同組合(Copa-Cogeca)、欧州酪農委員会(EMB)、農民運動ネットワーク(ECVC)、欧州乳業協会(EDA)、欧州乳製品輸出入・販売業者連合(Eucolait)、欧州商工会(Eurocommerce)による短期的見通しの提供を予定している。

(調査情報部 矢野 麻未子)

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