調査・報告  畜産の情報 2014年6月号

中小規模養豚における
粗収益の拡大などに向けた取り組み(前編)

畜産経営対策部 養豚経営課


【要約】

 わが国の養豚経営は、輸入原料に多くを依存する配合飼料価格の動きなどにより、生産コストが大きく変動する一方、豚枝肉価格についても国内外の市場動向に左右されることから、その収益は大きく変動する不安定な状況にある。

 畜産経営対策部養豚経営課では、養豚経営の7割を占める中小規模のうち、粗収益を向上させる取り組みについて、特色ある生産や販売を行う6つの養豚経営体を対象に調査を行った。

 前編では、(1)品種、(2)飼料、(3)飼育方法の違いに着目して、特色ある豚肉を生産しているこれら経営体の概要について報告する。

1.養豚経営の概要と粗収益の状況

(1)飼養頭数2000頭未満の経営体が約7割

 わが国における肥育豚飼養戸数は年々減少しており、平成5年の1万6960戸から平成25年の5642戸と、20年間で3分の1程度まで減少した(図1)。
図1 肥育豚飼養戸数の推移

資料:農林水産省「畜産統計」
  注:各年2月1日時点
 1戸当たりの肥育豚飼養頭数について見ると、平成5年は1戸当たり426頭であったが、平成25年は1739頭に増加している。また、飼養規模別に肥育豚飼養戸数の推移を見ると、統計上の規模階層が最大の2000頭以上の経営体の割合は、平成5年の4%から平成25年の29%と大きく増加している。このことから、1戸当たりの肥育豚飼養頭数の増加には、この階層の経営体の割合の増加が寄与しているといえる。

 一方、2000頭未満の飼養を行う経営体が占める割合は、平成5年の96%からは減少したものの、現在も約7割を占めており、わが国における養豚経営は、依然として中小規模が中心となっている。

(2)不安定な飼料価格

 平成24年度の肥育豚1頭当たりの生産費の内訳を見ると、飼料費が66%と生産費の大半を占めている(図2)。肥育豚に給与する飼料の9割以上は配合飼料である。配合飼料の工場渡価格は、平成17年度頃までは1トン当たり3〜4万円程度で推移していたが、穀物の国際相場や為替変動の影響を受けて徐々に上昇し、平成20年度には6万円弱の水準となった(図3)。
図2 肥育豚1頭当たりの生産費の内訳(平成24年度)

資料:農林水産省「畜産物生産費統計」
図3 配合飼料工場渡価格の推移

資料:農林水産省生産局畜産振興課「流通飼料価格等実態調査」
  注:消費税を含まない。
 配合飼料価格の上昇に対しては、配合飼料価格安定制度による補塡金が交付されているが、上記のような飼料費の価格動向は、養豚経営に大きな影響を与える要因となっている。

(3)粗収益の確保が経営を安定化

 養豚経営の所得を上げるには、生産コストの低減と粗収益の確保の2つの方向性がある。なお、生産コストの低減などの調査については、2012年4月号および2013年8月号にて報告しているので、参考にされたい。

 一般的に、経営規模が大きいほど生産性や経済効率が向上し、原材料や調達資材のボリュームディスカウントが可能であり、養豚経営においても、ある程度規模が大きな経営体では、飼料や資材などを大量に購入することで生産コストを低減することが可能であるが、中小規模の経営体ではそれが困難な面がある(表1)。したがって、中小規模の経営体が経営を強化・維持するためには、粗収益の確保に向けた取り組みが必要である。

 次項以降では、特色ある生産や販売の取り組みを行い、粗収益を維持・拡大している経営体について紹介する。

表1 肥育豚1頭当たり生産費 (飼養規模別、平成24年度)

資料:農林水産省「畜産物生産費統計」

2.特色ある豚肉生産

 特色ある生産方法による差別化の取り組みとして、(1)品種、(2)飼料、(3)飼育方法の違いに着目して調査を行った。以下に調査先である6つの経営体について表にまとめた(表2)。
表2 各農場における特色ある豚肉の生産

資料:聞き取りをもとに機構作成
  注:品種のLはランドレース種、Wは大ヨークシャー種、Dはデュロック種、Bはバークシャー種
    である。

ア 品種の希少性

 現在のわが国で飼育されている豚には、主に繁殖豚(種雄豚および母豚)を生産するために飼育されている純粋種と、消費者が豚肉として購入する交雑種(肉豚)の豚がいる。肉豚は、繁殖性、産肉性、肉質のバランスをとり、加えて雑種強勢効果(親よりも良い性質を有する子が生まれる効果)を期待し、それぞれの品種の特徴を生かした交雑種として生産、飼育される。中でも、最も繁殖性が高いとされるランドレース種(L)と産肉性が高い大ヨークシャー種(W)を交配した交雑種を母豚とし、それに肉質に優れた特徴を持つデュロック種(D)の雄を交配する三元豚(LWDまたはWLD)が主流となっている。

 このような中、交雑種ではなく、あえて希少価値の高い品種の肉豚生産を行うことにより、他との差別化を図っているのが有限会社敬友農場(以下「敬友農場」という。)と白石農場である。

(1)有限会社敬友農場(山形県東根市)…中国原産の金華豚

 まず、敬友農場では、世界3大ハムのひとつとされる金華ハムで有名な中国原産の金華豚を生産している(写真1)。金華豚の生産を始めたのは昭和63年で、肉豚の販売先である日東ベスト株式会社(以下「日東ベスト」という。)を介し、中国から金華豚を導入した。なお、日東ベストは、業務用のトンカツ、ハンバーグやデザートなどを主力に全国展開している大手食品会社である。
図4 敬友農場の概要

資料:聞き取りをもとに機構作成
 金華豚は、時間とコストがかかる小型品種である。金華豚の子豚は、一般的な豚の半分程度の大きさである500〜800グラムで生まれる。その後の肥育も、一般的な豚が約6カ月かけて生体約110キログラムで出荷されるのに比べ、金華豚は約1年かけて70〜80キログラムで出荷する。さらに、小型のため、事故率も高く、豚舎の設備も豚の体格に合うようオーダーメイドで作成するなど、生産コストも割高となる。それにもかかわらず、敬友農場が金華豚の生産に取り組むのは、金華豚の特徴である肉質に魅力があるからである。金華豚の肉質は、筋繊維が細く、脂肪が多いが、金華豚の脂肪は融点が低いため、溶けやすく甘いと言われている。敬友農場では、そのほかブリティッシュバークシャー直系の黒豚と金華豚を自然交配(黒豚メス×金華豚オス)させた山形敬友農場金華豚(敬華豚)も生産している。

 敬友農場が生産する金華豚は、東京のデパートにおいて、100グラム当たりロースが1000円、切り落としは580円で販売されている(平成25年11月調査時点の価格)。
写真1 敬友農場の敬友農場金華豚

(2)白石農場(埼玉県美里町)…中ヨークシャー種で「古代豚」

 次に、白石農場では、肉のきめが細かく、臭みがなく旨味の成分や栄養価も高いとされる中ヨークシャー種を飼育し、これに繁殖能力に優れる大ヨークシャー種と交配させ、「古代豚」という登録商標で生産・販売している(写真2)。戦前のわが国においては、中ヨークシャー種の飼育は多かったものの、現在飼養されている頭数はごくわずかである。白石農場では、美味しさの8割は品種、2割は飼料で決まると考え、昭和55年に、「よりおいしく、より安全・安心」と「貴重な中ヨークシャー種の保存」をモットーに、古代豚の生産の取り組みを開始した。
図5 白石農場の概要

資料:聞き取りをもとに機構作成
 中ヨークシャー種は、旨味の成分や栄養価が高いといった肉質に特徴がある一方で発育が遅く、出荷までに7〜8カ月かかり、一般的な豚の1.3倍程の肥育期間を要する。また、白石農場では、非遺伝子組み換え飼料を用いているため、さらに通常以上の生産コストがかかるが、こだわりの肉豚としての銘柄豚生産に必要だと考え、希少品種の肉豚生産に取り組んでいる。

 白石農場が生産する古代豚は、宅配やインターネット販売において、モモ、バラ、ロース、肩ロースなどの8部位のうち3部位を組み合わせた「お楽しみセット」が、750グラムで3150円(100グラム当たり420円)で販売されている(平成25年11月調査時点の価格)。

 以上のように、敬友農場と白石農場は、生産の手間とコストがかかるものの、品質とその希少性に着目した品種の選択により、特色ある豚肉の生産に取り組み、一般豚よりも高値で取引ができているという。
写真2 白石農場の古代豚

イ バイオマス利用飼料による付加価値化

 多くの経営体では、原料を輸入に依存するトウモロコシや大豆油粕などを主とする配合飼料を給与している。飼料原料の輸入価格の高騰がそのまま生産コストの上昇につながり、所得の減少などをもたらすことは前述の通りである。

 このような中、食品残さなどを飼料として再活用するバイオマス資源の活用に、近年、注目と期待が集まっている。ここでは、バイオマス資源を飼料に利用することで粗収益を確保し、さらには高付加価値化に取り組む株式会社グリーンファーム京都(以下「グリーンファーム京都」という。)と農業生産法人株式会社福まる農場(以下「福まる農場」という。)の2つの事例について紹介する。

(3)株式会社グリーンファーム京都(京都府南山城村)…菓子パン粉や茶葉を給与

 グリーンファーム京都では、販売先である株式会社サノ・コーポレーション(以下「サノ・コーポレーション」という。)と契約し、同社の独自ブランドである「京のもち豚」の生産を行っている。京のもち豚とは、菓子パン粉を40〜42%配合した飼料の給与により、赤身や脂肪の旨味を向上させ、肉色が薄くピンク色でサシが入りやすいよう飼育した京都産の銘柄豚である。これは、地元京都の消費者は豚肉の脂を好むという背景から、サシが入るよう飼料を工夫して生産したものである(写真3)。
写真3 京都の消費者が好むピンク色でサシが入った肉
 さらに、お茶業と養豚業の複合経営を行っているグリーンファーム京都では、その特徴を生かして前述の飼料に、独自に自家生産の宇治茶の茶葉を配合した飼料を給与している。これにより、京のもち豚シリーズにサブタイトル「加都茶豚(かとちゃとん)」という名前を付け、差別化を図っている。茶葉は生後10日目から0.2%、肥育期には3.0%の割合で配合される。茶葉の給与により、臭気の低減や豚の疾病予防が期待できることに加え、自家製の宇治茶を給与しているということで、さらに豚肉に付加価値を与えている。
図6 グリーンファーム京都の概要

資料:聞き取りをもとに機構作成

(4)農業生産法人株式会社福まる農場(沖縄県南風原町)…地元の素材を活用

 次に、福まる農場では、飼料製造から肉豚生産、精肉加工、販売までの一貫した工程を自社で行っており、地元沖縄産の素材を給与することで特色を出している。近隣の給食センターで発生する食品残さに、紅芋やEM菌のぼかし液を合わせた飼料を給与した豚を「純朴豚(じゅんぼくとん)」として、また、サトウキビのしぼり汁や糖蜜を飲料水に混ぜて与えたり、配合飼料に紅芋や薬草を合わせた飼料を給与した豚を「キビまる豚」としてブランド化している(写真4)。豚に糖蜜を与えると、豚肉独自の臭みが抑えられ、脂身はさらりとほんのり甘くなるという。さらに、いずれも出荷月齢を8カ月と通常より長期肥育し、肉質の旨味を追求している。
写真4 福まる農場のキビまる豚 (飲料水に糖蜜などを混合)
 このように、飼料に地元の特産物を利用するなどの取り組みを行った結果、キビまる豚は、レストランなどと直接契約取引を行うことにより、通常より高価格での取引を実現している。
図7 福まる農場の概要

資料:聞き取りをもとに機構作成

ウ 飼育方法による高付加価値化

 次に、特徴のある飼育方法により豚を飼養することで、付加価値を生み出している有限会社浅野農場(以下「浅野農場」という。)と農業生産法人有限会社えこふぁーむ(以下「えこふぁーむ」という。)について紹介する。

(5)有限会社浅野農場(北海道石狩郡当別町)…安心・安全な豚をアピール

 浅野農場は、SPF認定農場である。SPF豚とは、豚の健康に悪影響を与える特定の疾病が存在しない豚のことを指し、日本SPF豚協会が定めた基準に基づき、生産から育成、肥育まで徹底管理された環境のもとで飼育された肉豚である。SPF認定を受けた農場は、豚を健康に飼育するシステムを整え、防疫管理のもと外部から病原菌を農場内に持ち込まないよう徹底されている。さらに人工乳に含まれる必要最低限のもの以外抗生物質は使用しないことで、より安心・安全な豚肉として消費者にアピールしている。
図8 浅野農場の概要

資料:聞き取りをもとに機構作成
 また、同農場では、近隣の米の出荷施設から購入した籾殻を豚舎に90センチメートルほど敷き詰めたバイオベッドを利用している。バイオベッドは、自然に近い足場の感触を実現できるため、コンクリートよりストレスの少ない環境で飼育できるという。また、微生物がふん尿を分解するため、豚舎の中を清潔な環境に保って豚を飼育できるという効果もある。

 このほかにも、飲料水にはアルカリイオン水を給与し、飼料には地元当別産の圧ぺん小麦を配合し給与するなど、地域資源を生かした飼育にも取り組んでいる。

(6)農業生産法人有限会社えこふぁーむ(鹿児島県肝付町など)…耕作放棄地での放牧

 次に、えこふぁーむは、地域に点在していた耕作放棄地に豚を放牧し、農地として再生させた土地を活用して飼料作物や西洋野菜の生産を行っている(写真5)。また、自社農場で生産したトウモロコシなどの飼料を給与することにより、飼料費の低減を実現している。
写真5 えこふぁーむでの放牧の様子
 放牧豚は、免疫力が高く、最低限のワクチンを除いて抗生物質などの治療や添加剤の投与の機会が少ないという。人の手をかけずに経営することができるだけでなく、運動量が増えて肉質が引き締まるなどの効果もあるとしている。さらに、放牧、自然交配、自然分娩のほか、切歯や断尾をしないなどアニマルウェルフェアの考えのもとに飼育管理を行い、ストレスをかけない飼育に徹底して取り組んでいる。

 出荷時期にもこだわり、社内で80〜160キログラムまで飼育した豚肉を試食した結果、一番美味しいタイミングであった140キログラム前後での出荷を行っているという。
図9 えこふぁーむの概要

資料 :聞き取りをもとに機構作成
※1:そのほか配合飼料も一部外部より購入
※2:%は取扱割合
 養豚経営は、環境問題や防疫などの問題に配慮した対応が必要とされ、豚の飼育には厳しい管理が必要である。そのような点に留意しつつ、豚が健康的で伸び伸びと育つことができる環境を提供することは容易ではない。しかしながら、浅野農場やえこふぁーむは、SPF認定農場や放牧という独自の飼育環境に対する取り組みを行うことで、豚にとって居心地の良い環境を整え、健康的に飼育していることをアピールして、安心・安全な豚肉を消費者に提供している。

 次号では、特色ある方法で生産された豚肉を各経営体がどのように販売して、粗収益の拡大などにつなげているかについて報告する。


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