海外情報 


 畜産の情報 2014年6月号

フランスの子牛肉の生産実態と市場
〜未利用肉資源としての子牛の可能性〜

調査情報部 宅間 淳

【要約】

 日本では、2013年2月にフランス産牛肉の輸入が解禁され、高級食材として子牛肉の輸入が始まっている。フランスでは、子牛肉は成牛から生産される「牛肉」とは異なる「子牛肉」として市場で認知され、広く流通するとともに、酪農現場から供給される雄子牛の利用手段の一つとして定着している。日本では、子牛肉の生産は限られたものとなっているが、今後、普及する可能性を秘めていると考えられる。

1 はじめに

 日本では2013年2月から、EU産牛肉のうち、フランス産(30カ月齢以下)とオランダ産(12カ月齢以下)の輸入が解禁された。2013年実績でフランスからは57トンの冷蔵牛肉が輸入されており、その単価は、他国産冷蔵牛肉と比較すると3倍程度高く、そのほとんどが空輸された「子牛肉」とみられている(表1)。

 子牛肉は、日本ではなじみの少ない食肉であるが、EUでは食肉の一つとして幅広く利用されている。当レポートでは、その生産と利用について、長い歴史と多様な食文化を有するEUの現地情勢を報告するとともに、日本における利用可能性について整理した。

 なお、本稿中の為替レートは、1ユーロ=143円(4月末日TTS相場:143.24円)を使用した。
表1 日本の牛肉輸入量など(2013年)
資料:GTI社「Global Trade Atras」
HSコード:0201、0202

2 EUの子牛肉生産と消費状況など

(1)子牛肉の生産について

 EU加盟国では、子牛肉は牛、豚、鶏、羊と並び、食肉の一つとして重要な位置を占めている。特に、イタリア料理、フランス料理などでは頻繁に利用される食材であり、一般的な牛肉と同じ部位での流通以外にも、成牛では利用の少ない腎臓、足、顔(頭部)なども消費されている。

ア 子牛肉の分類

 EU規則では、子牛肉(veal)は以下の2種類に分類されている(表2)。
表2 子牛肉の分類
資料:理事会規則EC/1234/2007、EC/566/2008
 分類の違いは、と畜月齢と肉質によるものである。「カテゴリーV」に分類される子牛肉は「ホワイトヴィール(white veal)」あるいは「ヴィール(veal)」と呼ばれ、「カテゴリーZ」に分類される子牛肉は「ロゼヴィール(rosé (pink) veal)」あるいは「ヤングビーフ(young beef)」と呼ばれている。

 欧米では、牛肉を一般的にレッドミート(赤身肉)と呼ぶが、これは、成牛の肉が鉄分を多く含み、筋肉が赤色を呈することに由来している。しかし、8カ月齢以下の子牛(カテゴリーV)では、鉄分の蓄積が少なく肉色が淡いことからホワイトと称される。生産過程は異なるが、その後さらに12カ月齢程度まで育成(カテゴリーZ)されると、やや赤身が増してピンク(ロゼ)色となる。

 また、子牛の飼養にも、家畜に対するアニマルウェルフェアの規制は適用されている。具体的な規制内容は、クレート(檻)を使った飼養の禁止や、1頭当たり飼養面積などについて、下表のように定めている(表3)。
表3 子牛に適用される主なアニマルウェルフェア規制
資料:理事会指令2008/119/EC

イ 子牛の飼養方法

(ア)基本的な飼養方法

 子牛肉の多くは、酪農現場から供給される乳用種の雄子牛が中心となる。また、ホルスタイン種のみならず肉用種との交雑種も多いが、フランスなどでは、肉用種の子牛を用いた高級子牛肉の生産も見られる。

 肉用として育成されるものに限らず、一般的に子牛は、出生後、先ず初乳を飲ませ、次いで生乳と代用乳を給与し、段階を経て配合飼料と粗飼料の給与割合を徐々に増やしていく。離乳までの期間は加盟国によって異なるが、一般的にほとんどの子牛は4〜8週齢で離乳する。

 次に、2種類の子牛肉の特徴的な生産方法を紹介したい。

(イ)ホワイトヴィールの飼養方法

 ホワイトヴィールは、粉乳を主体とした飼料で飼養された子牛であり、6〜7カ月齢でと畜されるものが多い(表4)。主要な生産国はフランス、イタリア、オランダ、ベルギー、ドイツである。
表4 一般的な子牛肉生産の技術指標
資料:農畜産業振興機構調べ
 注:EUの牛肉格付は理事会規則EC1183/2006によって規定されている。
   ・枝肉の形態は、筋肉が発達しているものから順によって、S、E、U、R、O、P
   ・脂肪の付着具合によって、脂肪が少ないものから順に1、2、3、4、5
   ・【各国(地域)における牛肉の格付け制度】
    http://lin.alic.go.jp/alic/month/fore/2007/feb/spe-01.htm
 ホワイトヴィールと呼ばれるその特徴的な肉色は、若齢でと畜することに加え、血中の鉄分量の少なさに起因している。

 一般的に、酪農や肉用肥育もと牛に仕向けられる子牛を育成する場合、鉄分は哺乳時に給与される生乳と離乳段階で給与される牧草類、穀類から摂取される。しかし、ホワイトヴィールの生産方法では、鉄分量を抑える必要があるため、給与されるのは鉄分含有量を抑えた代用乳が主となる。こうした給餌体系のため、ミルクフェッドヴィールと呼ばれることもある。なお、と畜時の血中ヘモグロビンの濃度は、1リットル当たり4.5〜5.0ミリモルが適切とされている。

 なお、子牛生産には、前述の通りアニマルウェルフェアの観点から、血中ヘモグロビン濃度(4.5ミリモル/リットル以上)と、2週齢以降は粗飼料の給与も義務付けられており、生産段階ではこうした点も留意されている。

 また、給与する飼料のうち、粗飼料などの固形分の配合は、生産国によって若干の違いが見られる。フランスとイタリアでは、刻んだワラと乾草・穀物をペレットに成形した配合飼料を併用するのが主体である。一方、オランダでは、鉄分含有量を調整したコーンサイレージを給与するのが一般的であり、最大で1日1頭当たり1.5キログラム(乾物重量500グラム)を給与している。なお、その他の国では、刻んだワラのほか、押し麦を利用する場合もある。

 育成された子牛は、およそ20〜26週齢(140〜182日齢)で出荷される。出荷齢は加盟国間で大きく異なっており、イタリアやオランダでは26週齢が多く、フランスでは20〜22週齢が多い。

(ウ)ロゼヴィールの飼養方法

 ロゼヴィールは、離乳後、粗飼料にトウモロコシを中心とした穀物を与えられた牛であり、10カ月齢程度でと畜されるものが多い。主要な生産国はオランダ、デンマーク、スペインである(表4)。

 ホワイトヴィールの生産過程との大きな違いは、育成期間の長さと固形飼料(粗飼料と配合飼料)の給与量の多さである。この結果、筋肉中のミオグロビンが増加し、肉色は暗赤色を呈するようになる。

 ロゼヴィールの代表的な生産国であるオランダでは、乳用種の雄子牛から生産するのが一般的である。子牛は8〜9週間で離乳した後、コーンサイレージなど繊維質に富んだ飼料を不断給与される。鉄分の給与は特に制限されないことから、ヘモグロビン濃度は通常の状態が維持され、「赤い」肉色になる。

 また、育成期間はホワイトヴィールよりも3カ月ほど長く、10カ月齢程度で出荷される。

(2)子牛肉の生産量

 EU全体の子牛肉の生産量は103万トン(2012年)である(表5)。肉用として育成される雄子牛の多くは、酪農生産現場から供給されることから、生乳生産とも密接に関連しており、特に経産牛飼養頭数の増減に大きく左右される。

 ただし、子牛肉の生産には、もと牛の仕向け先としての肥育牛(成牛)の価格・生産量や、もと牛(ヌレ子)の供給側としての生乳生産量・価格などが複合的に影響するため、増減に関する端的な要因を述べることは難しい。このような複合的な背景により、生体子牛(もと牛)の価格変動は大きなものになっている(表6)。

 子牛肉生産量を国別に見ると、スペイン、フランス、オランダ、イタリアの上位4カ国でEU全体の78.4%を占めており、飼養頭数も同じ4カ国が75.7%を占めている(表7)。

 過去の推移を見ると、歴史的にはフランス、オランダ、イタリアの3カ国が子牛肉の代表的な生産国であったが、2009年以降、スペインが子牛肉の生産を増やし、2011年以降はEU最大の子牛肉生産国となった。
表5 子牛肉生産量の推移(上位10カ国)
資料:欧州委員会
表6 子牛(もと牛)の生産者販売価格

資料:フランス畜産研究所
 注:8日齢の生体子牛価格
表7 子牛飼養頭数の推移(上位10カ国)
資料:欧州委員会
 注:12カ月齢未満の子牛

(3)子牛肉の消費量


 EUでは、子牛肉の消費量は牛肉と合わせて公表されており、単独での把握は困難であるが、フランス畜産研究所(IDELE)の調査によると、EUの子牛肉消費はフランス、ドイツ、イタリアの3カ国に集中し、これらの国でEU全体の約80%が消費されているとしている。フランスとイタリアでは、年間1人当たり消費量は3キログラムを超えているが、ドイツはEU平均とほぼ同量の1キログラムをわずかに上回る程度となっている。
写真1 子牛肉を取り扱う卸売店の様子 (フランス ランジス市場内)
写真2 店内に並ぶ子牛肉製品
子牛の顔部の肉を丸めた伝統的な商品であり、
シラク元仏大統領の好物として知られている
 フランスはEU最大の子牛肉消費国であり、全体の37%の子牛肉が消費されている。 2011年、2012年の消費は減少傾向にあったものの、2013年は回復基調にある。これは、小売り段階の販売促進活動や、オランダやスペインからの輸入量の増加による価格の安定などが要因として挙げられている(表8)。

 一方、イタリアとドイツでは、2013年に入り消費は減少となった。食品全体の価格が上昇する中で、2012年と比べて高値で推移する子牛肉を避ける傾向があったとみられている。
表8 子牛肉の生産者販売価格
資料:フランス畜産研究所

(4)子牛肉の輸出量

 子牛肉は牛肉全般と区別できる関税品目分類番号を持たないため、統計で実態を把握するのは難しい。欧州委員会統計局(eurostat)では、EU規則の定義に基づく統計を収集しているものの、十分なデータ量は蓄積されていない。

 EU全体の状況を見ると、前述の通りフランス、ドイツ、イタリア3カ国の消費が多い。これらの国は子牛肉の国内生産も多いが、オランダなどからの輸入も多いとみられている。

 オランダの食肉生産・流通団体であるオランダ家畜食肉委員会が公表している統計によれば、近年のオランダの子牛肉輸出量は横ばい傾向にあり、主要な輸出国であるフランス向けは減少傾向にあるとしている(表9)。また、もと牛(ヌレ子)は輸入に依存した状況にあり、前掲の表7によれば、2012年のオランダの子牛飼養頭数は142万2400頭と、その6割以上をドイツやポーランドなどからの輸入に頼っている(表10)。
表9 子牛肉輸出量の推移(オランダ)
資料:オランダ家畜食肉委員会
表10 生体子牛輸入頭数の推移(オランダ)
資料:オランダ家畜食肉委員会

3 フランスの子牛肉の特徴と生産現場

 EUの代表的な子牛肉の生産・消費国であり、日本向け最大の子牛肉の輸出国とされるフランスについて、現地の生産状況などの調査を行った。

(1)フランス産子牛肉の特徴

 フランスの子牛肉生産の特徴として挙げられるのは、ホワイトヴィールの生産が主体であることである。12カ月齢以下の子牛飼養頭数を見ると、42%が西部の地域(ペイ・ド・ラロワール、ブルターニュ、ポワトゥー=シャラント)で飼育され、27%が南西部の地域(アキテーヌ、ミディ=ピレネー、リムーザン)である(表11)。
表11 地域別牛飼養頭数(フランス、2012年12月)
資料:欧州委員会
  注:四捨五入により、一部合計が一致しない。
 両地域の特徴を見ると、西部では、乳用種経産牛の飼養頭数が多いため、オランダと同じように、乳用種の雄子牛を肉用に仕向ける割合が多くなっている。一方、南西部では肉用種経産牛の飼養頭数が多く、肉用種の雄子牛を、高級子牛肉として肉用に仕向ける生産方法がとられている(図1)。
図1 地域・品種別飼養頭数

資料:欧州委員会
 子牛肉生産に利用されるのは、乳用種はホルスタイン種がほとんどであるが、肉用種は、シャロレー種やリムーザン種なども用いられている。乳用種と肉用種では、子牛の生体価格、枝肉価格ともに大きく異なる。乳用種に比べ肉用種の子牛は、1頭当たり2〜4倍程度の価格で取引されており(表12)、枝肉価格では、一般的なホルスタイン種などの子牛肉と肉用種によるものでは、20%以上の価格差が見られる(表13)。
表12 雄子牛(もと牛)の生産者販売価格(フランス)
資料:フランス畜産研究所
注 1:8日齢子牛の価格
注 2:2013年は最新値のみ記載
表13 子牛肉の生産者販売価格(フランス)

資料:フランス畜産研究所
注1:「乳のみ子牛肉」とは、自然哺育による伝統的生産方法によって育てられた
   子牛肉
注2:2013年は最新値のみ記載

(2)子牛肉生産の動向

 フランスを含め、EUにおける今後の子牛肉生産に影響を与える要因として、第一に、2015年4月に予定されているEUの生乳生産割当(クオータ)制度廃止の影響が挙げられる。子牛肉のもと牛(ヌレ子)の多くは、酪農現場から供給されているため、生乳生産の動向に大きく影響される。欧州委員会は、クォータ制廃止後の生乳生産量について増加を予測しているが、その要因として、1頭当たり乳量の増加を挙げている(表14)。反面、経産牛飼養頭数は減少するとしており、2023年までに生乳生産量は7.4%増加する一方、経産牛頭数は15.5%減少するとみている。生産される子牛も同程度減少することから、将来的な子牛生産量の減少が懸念されるものとなっている。
表14 酪農生産に関する予測(EU28カ国)

資料:欧州委員会 「Prospects for Agricultural Markets and Income in the EU 2013-2023」

 また、第二に挙げられるのは、アニマルウェルフェアの規制である。前述の通り、EUでは子牛肉生産に関してクレート(檻)の使用禁止や、給餌内容などを既に義務付けている。しかし、一部の活動家や政治家の間では、さらなるアニマルウェルフェア規制の強化を求める意見もあり、今後、子牛肉生産に及ぼす影響は強まる可能性があるとされている。

 なお、消費面としては、フランスの場合、地域により大きく差があるのが特徴である(図2)。2011年の年間1人当たり消費量は3.7キログラムであるが、南西部、中央部は消費量が多く、北部と西部は少ない。南西部と西部は、いずれも主要な子牛肉の生産地域であるが、ブルターニュを含む西部地域は消費量が少なく、南西部は、消費が多い傾向が見られる。
図2 フランスの地域別子牛肉消費量

資料:フランス畜産研究所

(3)子牛肉生産現場の状況

 フランスの牛肉・羊肉・馬肉の生産および流通団体である全国家畜・食肉事業者組合(INTERBEV)の紹介で、フランス南西部ペリグーに本拠地を構える子牛肉専門企業を訪問した(図3)。
図3 ペリグーの位置

場所:アキテーヌ地域圏ドルドーニュ県

ア 子牛肉専門企業「SOVEBAL社」の概要

 SOVEBAL社は、フランス国内で子牛に特化した生産・と畜・販売を一貫して行っている。資本関係としては、オランダVanDrieグループと提携している。同社は以前から現在と同様の事業を展開しており、資本提携により規模の拡大と販売面の強化を行った。

(ア)子牛の生産

 同社の子牛の生産はフランス国内589戸の育成農家との預託契約により生産者にもと牛(ヌレ子)を供給しており、現在の総飼養頭数はおよそ15万頭となっている。

 もと牛は、仲介業者の仲介により、不特定の生産者からSOBEVAL社が運営する国内4カ所の集荷施設に集められる。集荷されたもと牛(ヌレ子)は、同社の担当者が品種に応じて国内市場価格を参考に、肉用種は高く、乳用種は安く値を付けて購入している。購入頭数は、毎週5000頭程度である。

 同施設に搬入されるもと牛(ヌレ子)は、8〜18日齢、生体重60〜70キログラムが中心であり、搬入時に健康状態、耳標とパスポート(個体識別情報(注))が確認され、搬入後、品種による群分けなどが行われる。もと牛の品種により、生産される子牛肉の価格は大きく変動することから、高額なもと牛(肉用種のヌレ子)を飼養する生産者には、一定以上の技術レベルが求められる。このため、預託先の肥育農家(契約農家)、導入品種はSOBEVAL社が決定している。

 なお、技術レベルに応じて若干の差があるものの、預託料はほぼ同額であり、飼養する頭数に応じて支払われている。

 契約農家に対しては、もと牛(ヌレ子)以外にも、飼料(粉乳と配合飼料)を供給している。また、技術指導員の巡回や、飼養マニュアルの提供、畜舎建設などに係る融資に際して金融機関の紹介と債務保証を行うなど、生産者を全面的に支える体制となっている。

(注)フランスの牛個体識別システムについては、次のレポートを参照
「伝統的な家庭料理を通じて内臓肉が復権〜BSE発生後のフランス内臓肉組合の消費回復活動〜」
http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2008/nov/gravure02.htm

(イ)食肉加工と販売

 SOVEBAL社では、フランス国内の5カ所の直営食肉処理場と2カ所の契約食肉処理場で、毎週3300〜3500頭程度の子牛をと畜している。と畜される子牛は、全て契約農家で生産されている。なお、契約農家で育成された子牛の一部(1500頭程度)は、生体で他の食肉企業に販売されている。

写真3 SOVEBAL社コレクトセンターに集荷された子牛(ヌレ子)
多様な品種が購入されている

写真4 と畜処理された子牛

写真5 冷蔵庫で保管される子牛の枝肉

 直営の処理場では、部分肉への加工、小売店向けのパッキングまで一貫して行われる。販売先は、卸売、専門小売店、量販店、外食産業など多様である。また、輸出も多く、日本、ベルギー、スイス、イタリアなどのほか、イタリアを経由して、エジプトやイスラエルにも輸出されている。日本向け輸出商品として多いのは、ロイン系の部位と、リードヴォー(子牛の胸腺)であり、毎月空輸により冷蔵で輸出される(表15)。

表15 SOVEBAL社 日本向け子牛肉カタログ
資料:SOVEBAL社提供資料より、農畜産業振興機構作成
イ 子牛生産農家の実態(現地事例)

 SOVEBAL社の契約農家の一つを訪問した。同農家は預託契約して6年目であり、子牛肉生産のほか、独自にリムーザン種など肉用種の成牛肥育と飼料穀物の生産も行う複合経営である。

 契約に基づく子牛生産については、飼養可能頭数400頭の牛舎(200頭牛舎×2棟)を有しており、約6カ月齢の子牛を年間約800頭出荷している。子牛はオールイン・オールアウト方式で飼養されており、出荷後、フランス国内法の規定に基づき、2週間は畜舎を空ける。飼養方法は品種による生産マニュアルがあり、生産者はマニュアルに記載されている飼養管理を行っている。

 飼料となる粉乳は、哺乳ロボットにより個体別に自動給与(3回/日・頭)される。粉乳には、成育ステージにあわせ2種類が用意され、赤いパッケージに入った哺育用と、育成期に給与する白いパッケージに分けられる。色で判別することで、経験の少ない生産者でも間違いのないように考慮されている。導入後50日までに、哺育用(赤)を1頭当たり60キログラム、出荷時(同180日)までに育成用(白)を1頭当たり220キログラム給与する。

 また、配合飼料は導入後8日から毎日給与し、1日1頭当たり150グラムから、同1〜2キログラムまで段階的に増やして、出荷時までに80キログラム給与している。全体の割合として、穀物と粉乳の比率は、穀物3:粉乳7となっている。配合飼料の構成は、トウモロコシ(フレーク)と豆類(ソラマメ中心)のペレットである。

 なお、約6カ月齢という若齢で出荷することもあり、去勢、除角は行われていない。牛房毎に雌雄を分けて飼養しており、基本的にはほとんど雄である。1房40頭で管理しており、1頭当たり1.8平方メートル以上の飼養面積を確保している。敷ワラは2日に1回追加し、オールアウト時に清掃する方式をとっている。

写真6 牛舎の外観
契約農家の標準的な牛舎
1棟で5房×40頭(計200頭)を育成している。

写真7 契約農家で育成される子牛
敷料にワラを敷き詰め、アニマルウェルフェア基準に沿った
十分な面積で飼養されている。

 生産者にとって契約生産は、次のような利点があると考えられる。子牛の飼養管理については、詳細なマニュアルが提供されるとともに、企業から獣医師と技術指導員が派遣されている。このため、子牛の飼養経験が無い生産者にとっても、参入しやすい環境にある。また、資金面でも、企業が金融機関の紹介と債務保証を行い、生産資材(もと牛と飼料)の供給を担うため、多額の準備金を必要としない。

 一方、生産技術が向上しても、1頭当たりの預託額がほぼ固定されているため、大きな報酬増は望めない。また、生産牛の規格が固定されることから、飼料構成や管理方法など独自に改善をし、高付加価値化を図るなど創意を活かしたい経営には向かない。

4 まとめ

 フランスなどのEU諸国では、子牛肉は、酪農現場から供給される雄子牛の利用手段としての側面が強いものの、一般的な食肉として広く定着し、生産体制も確立している。今般の現地調査で明らかとなったのは、欧州における「子牛肉」が牛肉の一つではなく、別の食肉として捉えられている点である。これは特に、胸腺や頭部の肉など、牛海綿状脳症(BSE)問題の発生により、成牛から利用出来なくなった部位を広く使用していることからも明らかである。

 下表の通り、EU基準では、12カ月齢超の牛の頭蓋を特定危険部位(SRM)として除去しており、食用として利用できなくなっている(表16)。また、英国など一部の国では、12カ月齢超の胸腺も除去している。このため、ほほ肉や胸腺など、伝統料理にも利用される部位を調達するためには、12カ月齢未満の子牛から生産する必要がある。

 EUは、BSEが問題となった最初の地域であり、国際獣疫事務局(OIE)基準よりも厳格な基準を適用している。このような歴史的な背景もあり、子牛肉が成牛の牛肉とは別の食肉と消費者に認知されており、安定的な需要が確保されているものとみられる。

表16 特定危険部位(SRM)の除去基準
資料:厚生労働省ホームページ「牛海綿状脳症(BSE)について」
 注:「頭蓋」とは、頭部の骨格、脳、眼などを含む部位のこと

5 日本の子牛肉生産の可能性

 最後に、日本の子牛肉生産の現状と可能性について整理したい。

(1)日本の子牛と畜の状況

 日本では、黒毛和種の成牛肥育に見られるように、子牛肉がブランド化されているとは言い難く、その生産量、流通量ともに限られたものとなっている。

 EU同様に、我が国でも子牛を明確に区別した統計は作成されていないが、独立行政法人家畜改良センター(NLBC)の個体識別番号集計統計から、生産状況を推測したい。

 NLBCが集計した「全国及び都道府県別の牛の種別・性別・月齢別のと畜頭数」によると、EU基準に沿うと畜月齢12カ月までの総数は9617頭であり、そのうち7284頭(占有率75.7%)をホルスタイン種が占めている(図4)。
図4 0〜12カ月齢の品種別と畜頭数(平成24年度)
資料:独立行政法人家畜改良センター 個体識別番号集計統計
 さらに、同種の性別を見ると、雄が5974頭(同82.0%)と太宗を占めている。なお、月齢別に見ると、6カ月齢から頭数が大きく増えていることから、日本でもEU諸国同様に6〜12カ月齢を中心に、子牛肉の生産が行われていることが推察される。また、ホルスタイン種雄(0〜12カ月齢)の都道府県別の状況を見ると、北海道が最も多く3552頭(同59.5%)となっている(図5)。
図5 0〜12カ月齢ホル雄と畜頭数の分布(平成24年度)
資料:独立行政法人家畜改良センター 個体識別番号集計統計
 なお、子牛肉として利用されていると推察されるホルスタイン種雄の6〜12カ月齢のと畜頭数の推移を見ると、近年は減少傾向にある(図6)。減少の要因としては、近年のホルスタイン飼養頭数の減少が考えられる。
図6 ホル雄6〜12カ月齢のと畜頭数の推移(全国)
資料:独立行政法人家畜改良センター 個体識別番号集計統計
  以上から、年間4000頭程度が子牛肉として利用されているものとみられる。

(2)日本における子牛肉生産の展望

 日本での子牛肉生産の取り組みを考えると、以下のようにメリットとデメリットを整理できる(表17)。
表17 日本における子牛肉生産のメリットとデメリット
資料:聞き取りなどにより、農畜産業振興機構作成
 メリットとしては、必要とされる飼養面積が小さい点や、短い育成期間による早い回転と安価なもと牛(ヌレ子)価格により経費の節減が期待できる点が挙げられる。一方、デメリットとしては、市場規模の小ささをはじめとする流通面の諸課題が挙げられる。

 健康志向の進展により牛肉の消費量が伸び悩む中、低カロリー高タンパクな食材である子牛肉は、栄養学的に見ても利用価値が高い食肉になると考えられる。また、子牛肉生産は、精肉に限らず副産物の内臓肉(胸腺、腎臓など)や足など、子牛としての特徴的な可食部位部位も多く、高付加価値化商品となりうる未利用肉資源としての潜在的可能性を有している。

 今後、市場の開拓とともに我が国に適した生産技術、流通体系の整備が進められれば、ホルスタイン雄子牛の利用用途の一つとして、国内の食肉産業と畜産経営にとって、子牛肉は有望な生産物になる可能性を秘めている。


《参考文献》

・『新編 飼料ハンドブック(改訂第2版)』
一般社団法人日本科学飼料協会

・独立行政法人家畜改良センター(NLBC)
牛個体識別全国データベースの集計結果
https://www.id.nlbc.go.jp/data/toukei.html
(2014年4月25日アクセス)

・厚生労働省
牛海綿状脳症(BSE)について
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/bse
(2014年5月8日アクセス)

 
元のページに戻る