公益社団法人中央畜産会 経営支援部(情報)主幹 砺波 謙吏
【要約】 平成26年1月19日〜21日の3日間、米国カリフォルニア州サンフランシスコの国際展示場Moscone Centerにおいて、同国西海岸最大級の食品・飲料見本市「Winter Fancy Food Show 2014」が開催された。このイベントに、(公社)中央畜産会(以下「中央畜産会」)が事務局となり、国内の食肉事業者らが共同で参加し、和牛のプロモーション活動を実施した。 1.平成25年度における中央畜産会の和牛輸出促進のための取り組み 農林水産省では、平成25年4月に策定・公表した「農林水産物・食品の輸出促進のための具体的戦略」の中で、農林水産物・食品の輸出金額を2020年までに1兆円規模にすることを目標としている。この中で畜産物は、「牛肉」が重点品目の1つとして位置づけられ、その輸出金額を平成24年の50億円から、平成32年には5倍の250億円に拡大させることが掲げられている。
2.サンフランシスコでのプロモーション活動 米国・サンフランシスコでは、1月19日から21日まで開催されたイベント「Winter Fancy Food Show 2014(WFFS2014)」に出展し、和牛肉を持ち込んでの実演セミナーおよび展示ブースでのPRを実施した。 (1)Winter Fancy Food Show 2014の概要WFFS2014は、米国西海岸で冬季に開催される食品・飲料見本市の中で最大規模の展示会である。今年はサンフランシスコの国際展示場Moscone Centerで3日間開催され、35カ国・地域の1,350社が出展し、延べ32,265人が来場した(来場者数前年比+2.0%)。来場者は出展者を除くと22,211人。これらの内訳は図1のとおりであり、BtoBの展示会らしく、小売、食品流通事業者、レストラン、ケータリングサービス等が4分の3を占める。国別内訳は図2のとおりで、米国内が約95パーセントを占め、残りはカナダ2パーセント、その他3パーセントとなっている。 出展者10,054人の中には各国の特色ある食品を輸出入している流通事業者が多くあり、彼らは出展を兼ねて新たなビジネスの模索もしている。実際に当展示ブースへの訪問者の約1割は、中南米(メキシコ、パナマ、アルゼンチン)、ヨーロッパ(フランス、スペイン、スイス、アイルランド)、アジア(中国、フィリピン、インドネシア)といった世界各国のバイヤー等であった。
(2)プロモーションの実施内容プロモーション活動は、オールジャパンで和牛の魅力を伝えるため、輸出戦略検討委員会のメンバーのうち、食肉事業者5社(全国農業協同組合連合会、日本ハム(株)、伊藤ハム(株)、スターゼンミートプロセッサー(株)、(株)ミートコンパニオン)の委員、および若干の学識者で構成され、(独)農畜産業振興機構や現地で和牛を販売している食肉各社からも協力を得て実施した。 その内容は、ジャパンパビリオンの実演スペースを活用したミニセミナーの開催と展示ブースを活用した和牛のPRの2つの取組みを主体とした。前者は、和牛の解説と調理実演および試食提供を行い、30分のミニセミナーを1日1回、計3回実施した(写真2)。各日の内容は以下のとおりであり、試食後に実施したアンケート結果は図3〜5のとおりである。
一般的な牛肉料理である「ステーキ」を調理・提供した。 ・2日目:「ランイチ」を用いて和牛のモモの特徴を解説した後、分割、商品化の過程を実演。 この後、サッと焼いた肉をあっさりポン酢で食してもらう「焼きしゃぶ」を提供した。 ・3日目:日本のスライス肉の食し方・調理法の解説という考えに基づき企画したもので、大皿に スライス肉を花びら模様に盛り付けた「華盛り」を紹介した後、割りしたと砂糖で調味した 「すき焼き」を試食提供した。特に、和牛を食した場合に感じられる香りの解説も実施。 「和牛香」が70℃ぐらいで調理した場合に最も発せられることから、この温度帯の調理となる 「すき焼き」を選択した。部位はサーロインとリブロースを使用した。 後者の和牛のPRは、展示ブースを2小間(18u)借り上げ、前述した小冊子の内容の一部をポスター化して装飾するとともに、テレビモニターを設置して、DVDを適宜放映し、併せて2種類の小冊子を配布して和牛についての説明を実施した。また、トーヨーライスなど他の日本食材(米やしょうゆなど)の出展者とコラボレーションして、牛丼や和風ステーキも提供した(写真3)。
(3)成果と課題ミニセミナーに対する評価は、アンケートの結果、「非常に満足している」が87パーセントであり、「満足している」を合わせると97パーセントに及び、一定の成果を納めることができたと言える(図6)。
また、セミナー受講者がどの国の産地の和牛(WAGYU)を扱っているかを質問した結果が図9であり、さらに和牛を取り扱う(あるいは取り扱いたいと希望する)に当たって重視している点を質問した結果が図10である。「高い品質管理」、「安定した品質」が高く評価されており、和牛の強みとして大いにアピールすべき点である。
3.日本の調理法「TEPPANYAKI」を世界に広めたチェーン「BENIHANA」でのPRWFFS2014でのプロモーションの一環として、会期中・開催後に現地レストランおよび小売・流通事業者等を計6カ所訪問し、和牛の普及・定着のために、和牛の特徴の説明と試食を通じた意見交換会を実施した(写真6)。その中から、「BENIHANA」での活動を紹介する。
「お客様に楽しんでもらうこと」が経営理念で、シェフが客の目の前で、ナイフを使ったパフォーマンスを行いながら調理し食事を提供する。 BENIHANAサンフランシスコ店に和牛肉のランイチを持ち込んでの普及啓蒙を実施した。 BENIHANAはカリフォルニア州に17店舗あるが、このうち北カリフォルニアエリアを統括するGM(General Manager)および同店の店長John Ward氏に対して、和牛肉の説明とともに、実際にランプとイチボそれぞれを鉄板焼きで試食してもらったところ、どちらも「こんなにやわらかく、おいしい牛肉を食べたことがない」という感想であった。 同店におけるUS産牛肉のアラカルトメニューは、8.5オンス(約227g)のテンダーロインのガーリックバター焼きが33.75ドル、12オンス(約340g)のニューヨークストリップロインのマッシュルーム添えが36ドルである。ヒレの中心部分であるシャトーブリアン8.5オンス(約241g)にロブスターのテール部分を添えたメニューが最も高く45.25ドルであった。 一方、日本酒は提供される6種類全てが日本からの輸入もので、720mlボトルで40〜70ドルという価格設定であるが、平均価格は限りなく60ドルに近い。 BENIHANAはそもそも日本人のロッキー青木氏が1964年に渡米し、ニューヨークで1号店を開店し徐々に拡大してきた。同店がエンターテイメント性のある日本料理「鉄板焼」を、日本国内よりもむしろ海外において有名にしたことは言うまでもない。 その後、米国法人が主導するようになり、2000年代になってからは創業家から完全に資本分離され、さらに2012年には投資会社の所有に移行した。同店の日本人シェフは、「近年、経営のほか、各エリアや店舗運営も米国人主導の体制になりつつある」と語ったが、資本と経営が移っても、「鉄板焼」の機能性とエンターテイメント性をコンセプトに展開しているのである。店内には、日本の人形や創業者からの沿革・歴史を掲げてBENIHANAストーリーを連綿と語り継いでいる。 GMや店長が和牛のランイチについて一定の評価をしたこと、また、通常、和牛のランイチがロイン系よりも安価で販売(輸出)されること、さらには鉄板焼がもともと和牛の産地から発祥したものと言われていることもあり、ランイチのBENIHANAなど全米各地で見られる「鉄板焼レストラン」を通じた和牛輸出展開の可能性があると思われた。 そしてこれらに期待できるのは、全米を含む全世界で店舗展開していることである。販売に加え、和牛の宣伝効果につながるものとして興味深い。 4.まとめにかえて 以上のとおり本稿では、サンフランシスコでのプロモーションを中心とした活動内容と今後の課題を紹介してきた。サンフランシスコはグルメの街であり、カリフォルニア州の中でも高級レストランが多いとされ、現在、いくつかのステーキレストランで最高級のメニューとして和牛肉が提供されている。 和牛輸出拡大に向けた8つの活動方策 中央畜産会では関係者と今後議論を深め、これらの方策に基づく振興活動を実行し、世界に冠たる日本の和牛が名実ともに世界No.1の食材としての地位を確固たるものとすることを目指す所存である。
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