調査・報告  畜産の情報 2014年5月号

米国西海岸サンフランシスコで和牛の魅力をアピール

公益社団法人中央畜産会 経営支援部(情報)主幹 砺波 謙吏

【要約】

 平成26年1月19日〜21日の3日間、米国カリフォルニア州サンフランシスコの国際展示場Moscone Centerにおいて、同国西海岸最大級の食品・飲料見本市「Winter Fancy Food Show 2014」が開催された。このイベントに、(公社)中央畜産会(以下「中央畜産会」)が事務局となり、国内の食肉事業者らが共同で参加し、和牛のプロモーション活動を実施した。

 本稿では、平成25年度における中央畜産会の牛肉輸出拡大に向けた取り組みの概要を報告するとともに、(独)農畜産業振興機構の協力も得て実施したサンフランシスコでのプロモーション活動を報告する。

1.平成25年度における中央畜産会の和牛輸出促進のための取り組み

 農林水産省では、平成25年4月に策定・公表した「農林水産物・食品の輸出促進のための具体的戦略」の中で、農林水産物・食品の輸出金額を2020年までに1兆円規模にすることを目標としている。この中で畜産物は、「牛肉」が重点品目の1つとして位置づけられ、その輸出金額を平成24年の50億円から、平成32年には5倍の250億円に拡大させることが掲げられている。

 中央畜産会では、平成25年度において農林水産省の補助事業「輸出拡大及び日本食・食文化発信緊急対策事業(輸出に取り組む農林事業者等のきめ細かな支援)」に取り組み、牛肉品目の目標達成にむけて、[1]牛肉輸出の安定的な拡大を図るために必要な課題の抽出と対応方策の検討・とりまとめ、[2]日本産和牛(以下「和牛」という。)の普及啓発と利用拡大に向けたオールジャパンでのプロモーション活動、を実施してきた。

 このうち[1]では、学識経験者、食肉流通事業者、農業・畜産関係団体の代表等12名からなる「輸出戦略検討委員会」(座長:櫻井研氏)を設置し、わが国の牛肉輸出に係る現状の把握、課題の整理を行うとともに、国内先進産地での聞き取り、和牛の需要が見込まれる有望国の海外現地状況の分析等を行い、現在の和牛輸出を取り巻く現状・課題ごとに8つの対応方策をとりまとめた。

 一方、[2]では、和牛の魅力と使用した料理、部位別の特徴と利用方法を伝えるための統一的な普及宣伝用媒体(小冊子2種、DVD)を作成し、各方面に利用の呼びかけと広報活動を行った(写真1)。これら媒体は、われわれの活動での利用はもちろんのこと、国が農産物の輸出に向けて推進する日本食・食文化の普及活動、公的機関や各事業者が企画する海外各地でのプロモーションなどで大いに利用されるなど、今回の取組みは和牛の輸出に際して関係者が統一的な普及媒体を共有する第一歩となった。

 加えて、牛肉素材を扱う際の教材等としても有効とのことであり、この媒体を食に携わる人材育成活動に対しても提供した。

 また、シンガポール、米国のニューヨークとサンフランシスコの計3カ所で開催された食料品展示会やネットワーキングのイベントにおいては、統一看板「JAPAN WAGYU BEEF EXPORT PROMOTION COMMITTEE」を掲げて出展し、和牛セミナーの開催や展示ブースでの和牛の魅力を伝えるPRなどを行い、和牛のプロモーションを実施してきた。

写真1 中央畜産会が平成25年度に作成した普及宣伝用媒体(小冊子、DVD)

2.サンフランシスコでのプロモーション活動

 米国・サンフランシスコでは、1月19日から21日まで開催されたイベント「Winter Fancy Food Show 2014(WFFS2014)」に出展し、和牛肉を持ち込んでの実演セミナーおよび展示ブースでのPRを実施した。

 なお、参加にあたっては、日本産農林水産物を一体的に情報発信するために、(独)日本貿易振興機構(JETRO)が設置するジャパンパビリオンの展示ブースを活用し、来場者の効率的な参集を図った。

(1)Winter Fancy Food Show 2014の概要

 WFFS2014は、米国西海岸で冬季に開催される食品・飲料見本市の中で最大規模の展示会である。今年はサンフランシスコの国際展示場Moscone Centerで3日間開催され、35カ国・地域の1,350社が出展し、延べ32,265人が来場した(来場者数前年比+2.0%)。

 来場者は出展者を除くと22,211人。これらの内訳は図1のとおりであり、BtoBの展示会らしく、小売、食品流通事業者、レストラン、ケータリングサービス等が4分の3を占める。国別内訳は図2のとおりで、米国内が約95パーセントを占め、残りはカナダ2パーセント、その他3パーセントとなっている。

 出展者10,054人の中には各国の特色ある食品を輸出入している流通事業者が多くあり、彼らは出展を兼ねて新たなビジネスの模索もしている。実際に当展示ブースへの訪問者の約1割は、中南米(メキシコ、パナマ、アルゼンチン)、ヨーロッパ(フランス、スペイン、スイス、アイルランド)、アジア(中国、フィリピン、インドネシア)といった世界各国のバイヤー等であった。
図1 WFFS2014の来場者の属性
資料:WFFS2014主催者発表資料
  注:出展者を除く集計
図2 WFFS2014の国別来場者の内訳

資料:WFFS2014主催者発表資料
  注:出展者を除く集計

(2)プロモーションの実施内容

 プロモーション活動は、オールジャパンで和牛の魅力を伝えるため、輸出戦略検討委員会のメンバーのうち、食肉事業者5社(全国農業協同組合連合会、日本ハム(株)、伊藤ハム(株)、スターゼンミートプロセッサー(株)、(株)ミートコンパニオン)の委員、および若干の学識者で構成され、(独)農畜産業振興機構や現地で和牛を販売している食肉各社からも協力を得て実施した。  その内容は、ジャパンパビリオンの実演スペースを活用したミニセミナーの開催と展示ブースを活用した和牛のPRの2つの取組みを主体とした。

 前者は、和牛の解説と調理実演および試食提供を行い、30分のミニセミナーを1日1回、計3回実施した(写真2)。各日の内容は以下のとおりであり、試食後に実施したアンケート結果は図3〜5のとおりである。
写真2 和牛の調理実演をする植村光一郎講師((株)ミートコンパニオン)
図3 和牛肉(ステーキ)の試食後の感想

図4 和牛肉(焼きしゃぶ)の試食後の感想

図5 和牛肉(すき焼き)の試食後に感じた感想

・初日:「サーロイン」を用いて和牛の特徴を紹介した後、カットし、ステーキの本場米国でもっとも
 一般的な牛肉料理である「ステーキ」を調理・提供した。

・2日目:「ランイチ」を用いて和牛のモモの特徴を解説した後、分割、商品化の過程を実演。
 この後、サッと焼いた肉をあっさりポン酢で食してもらう「焼きしゃぶ」を提供した。

・3日目:日本のスライス肉の食し方・調理法の解説という考えに基づき企画したもので、大皿に
 スライス肉を花びら模様に盛り付けた「華盛り」を紹介した後、割りしたと砂糖で調味した
 「すき焼き」を試食提供した。特に、和牛を食した場合に感じられる香りの解説も実施。
 「和牛香」が70℃ぐらいで調理した場合に最も発せられることから、この温度帯の調理となる
 「すき焼き」を選択した。部位はサーロインとリブロースを使用した。

 後者の和牛のPRは、展示ブースを2小間(18u)借り上げ、前述した小冊子の内容の一部をポスター化して装飾するとともに、テレビモニターを設置して、DVDを適宜放映し、併せて2種類の小冊子を配布して和牛についての説明を実施した。また、トーヨーライスなど他の日本食材(米やしょうゆなど)の出展者とコラボレーションして、牛丼や和風ステーキも提供した(写真3)。
写真3 「Winter Fancy Food Show 2014(WFFS2014)」会場内
写真4 WFFS2014に出展した「JAPAN WAGYU BEEF EXPORT
PROMOTION COMMITTEE」の展示ブース

(3)成果と課題

 ミニセミナーに対する評価は、アンケートの結果、「非常に満足している」が87パーセントであり、「満足している」を合わせると97パーセントに及び、一定の成果を納めることができたと言える(図6)。
図6 和牛ミニセミナーを受講しての感想

 展示ブースには「どこでいくらで買えるのか」と和牛の購買に意欲的なバイヤー等が多数来場した。前述した委員である食肉事業者5社には、現地の関係者にも同行してもらい、具体的な商談等の要請があった場合の対応を依頼した。常時5〜6人ほど配置していたにもかかわらず、時間帯によっては対応者が不足したほどである(写真5)。米国に拠点を展開する食肉各社は、西海岸を拠点に活動しているところが多いが、さらなる普及啓蒙活動の必要性を感じる結果となった。
写真5 来場者に取引について説明をする関係者
 一方で、ミニセミナーのアンケート結果は、日本産と外国産にかかわらず、「WAGYUを知らない」という者が27パーセント存在し(図7)、また、WAGYUを知っている者の中でも「外国産Wagyuと和牛の違いを知らない」という者が49パーセントを占めた(図8)。業界関係者が多い食品展示会にあって、さらにはジャパンパビリオンという日本食品を掲げる場所での結果に、和牛の良さを正しく伝えることの必要性が浮き彫りとなった。このことは、今回のサンフランシスコに限らず、今後の和牛の輸出拡大のためにも重要な視点である。

 また、セミナー受講者がどの国の産地の和牛(WAGYU)を扱っているかを質問した結果が図9であり、さらに和牛を取り扱う(あるいは取り扱いたいと希望する)に当たって重視している点を質問した結果が図10である。「高い品質管理」、「安定した品質」が高く評価されており、和牛の強みとして大いにアピールすべき点である。
図7 WAGYUを知っているか

図8 WAGYUを知っている者の中で、日本産と外国産に
違いがあることを知っている者

図9 どの国のWAGYUを取り扱っているか

図10 日本産和牛の重視するポイント

3.日本の調理法「TEPPANYAKI」を世界に広めたチェーン「BENIHANA」でのPR

 WFFS2014でのプロモーションの一環として、会期中・開催後に現地レストランおよび小売・流通事業者等を計6カ所訪問し、和牛の普及・定着のために、和牛の特徴の説明と試食を通じた意見交換会を実施した(写真6)。その中から、「BENIHANA」での活動を紹介する。
写真6 鉄板焼レストラン「BENIHANA」店内
 BENIHANAは、基幹ブランドの鉄板焼チェーン「BENIHANA」をはじめ、「HARU」や「RA」などの和食店など、北米、南米、EU、アジア、オセアニア地域の22カ国に約120店舗を展開し、米国では25州に74店舗を展開する(フランチャイズ経営を含む)。

 「お客様に楽しんでもらうこと」が経営理念で、シェフが客の目の前で、ナイフを使ったパフォーマンスを行いながら調理し食事を提供する。

 BENIHANAサンフランシスコ店に和牛肉のランイチを持ち込んでの普及啓蒙を実施した。

 BENIHANAはカリフォルニア州に17店舗あるが、このうち北カリフォルニアエリアを統括するGM(General Manager)および同店の店長John Ward氏に対して、和牛肉の説明とともに、実際にランプとイチボそれぞれを鉄板焼きで試食してもらったところ、どちらも「こんなにやわらかく、おいしい牛肉を食べたことがない」という感想であった。

 同店におけるUS産牛肉のアラカルトメニューは、8.5オンス(約227g)のテンダーロインのガーリックバター焼きが33.75ドル、12オンス(約340g)のニューヨークストリップロインのマッシュルーム添えが36ドルである。ヒレの中心部分であるシャトーブリアン8.5オンス(約241g)にロブスターのテール部分を添えたメニューが最も高く45.25ドルであった。

 一方、日本酒は提供される6種類全てが日本からの輸入もので、720mlボトルで40〜70ドルという価格設定であるが、平均価格は限りなく60ドルに近い。

 BENIHANAはそもそも日本人のロッキー青木氏が1964年に渡米し、ニューヨークで1号店を開店し徐々に拡大してきた。同店がエンターテイメント性のある日本料理「鉄板焼」を、日本国内よりもむしろ海外において有名にしたことは言うまでもない。

 その後、米国法人が主導するようになり、2000年代になってからは創業家から完全に資本分離され、さらに2012年には投資会社の所有に移行した。同店の日本人シェフは、「近年、経営のほか、各エリアや店舗運営も米国人主導の体制になりつつある」と語ったが、資本と経営が移っても、「鉄板焼」の機能性とエンターテイメント性をコンセプトに展開しているのである。店内には、日本の人形や創業者からの沿革・歴史を掲げてBENIHANAストーリーを連綿と語り継いでいる。

 GMや店長が和牛のランイチについて一定の評価をしたこと、また、通常、和牛のランイチがロイン系よりも安価で販売(輸出)されること、さらには鉄板焼がもともと和牛の産地から発祥したものと言われていることもあり、ランイチのBENIHANAなど全米各地で見られる「鉄板焼レストラン」を通じた和牛輸出展開の可能性があると思われた。

 そしてこれらに期待できるのは、全米を含む全世界で店舗展開していることである。販売に加え、和牛の宣伝効果につながるものとして興味深い。

4.まとめにかえて

 以上のとおり本稿では、サンフランシスコでのプロモーションを中心とした活動内容と今後の課題を紹介してきた。サンフランシスコはグルメの街であり、カリフォルニア州の中でも高級レストランが多いとされ、現在、いくつかのステーキレストランで最高級のメニューとして和牛肉が提供されている。

 一方で、西海岸には日本食レストランも多いとされるが、その中心はすし、天ぷらとラーメンである。和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、和牛肉も和食と一体にしたPRをしたいところだが、アジア圏に比べて圧倒的に和牛肉を提供する和食店が少ない。「すき焼き」、「しゃぶしゃぶ」店でさえもである。

 そのうえ、今回訪問したジャパニーズレストラン「Yoshi's」では、30人ほどいる調理スタッフのうち、牛肉のカッティングとスライス、さらに「たたき」の料理を行えるのは、日本人シェフ1名のみであった。同店では最大400席あるなかで専門・分業体系が進んでいるという理由もあるが、当シェフが言うには、「日本人の調理人ならば持っている、煮る、焼く、蒸すなどの基本動作を必ずしも全員が習得しているわけではない」とのことである。

 このことから、同地における今後の普及に向けては、他国と同様、調理法を含めての利用方法の普及、日本食と一層の連携による和牛肉の利用推進が必要に思うと同時に、普及にあたってのシェフの基本的な教育の実態についても把握する必要があるのだろうと感じた。また、「BENIHANA」ではロイン系に限らず、モモ系についても一定の評価が得られたが、今後の輸出戦略の中では、多様な部位のマーケティングについて国・地域別にさらに議論を深めていかなければならないことを感じた。

 なお、その前提として、いずれの輸出国にも共通したコンセプトに基づき、国ごとの実情に合わせた拡大方策が必要となる。中央畜産会では平成25年度に今後の牛肉輸出拡大に向けた戦略と活動の方向性のとりまとめを行った。報告における8つの項目を掲げて、結びとしたい。

和牛輸出拡大に向けた8つの活動方策

その1 和牛統一マークの下に輸出事業者が結集し、和牛の価値を高め・維持する行動が必要
その2 和牛の強みを前面に出したPRが必要
その3 新しい国や地域には「JAPANESE 和牛」丸で出航を〜新しい市場の開拓・プロモーションは
      統一看板を掲げて共同で実施すべき
その4 消費者への浸透戦略により日本の和牛を現地で席巻させる
その5 現地での浸透には現地の食文化や食事情との融合が不可欠
その6 日本食・食文化、そして何よりも日本の食肉技術とともに現地で普及を
その7 日本国内からの活動で和牛輸出を活性化させる
その8 輸送・流通構造の改善により次なる強みも確保

 中央畜産会では関係者と今後議論を深め、これらの方策に基づく振興活動を実行し、世界に冠たる日本の和牛が名実ともに世界No.1の食材としての地位を確固たるものとすることを目指す所存である。

写真7 和牛のすき焼き用花盛り


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