【要約】
世界最大の乳製品輸出国ニュージーランド(NZ)の生乳生産は、前年度の干ばつから回復し、増加傾向にある。また、乳製品の国際価格は、中国など新興国の乳製品需要の高まりを受け記録的な高水準となっており、それに伴い、NZの乳製品輸出は、全粉乳を中心に増加し、生産者乳価も上昇している。生産者乳価の上昇は、NZの酪農家に補助飼料の投入やかんがいの整備を促しており、NZの生乳生産、乳製品輸出の当面の見通しは明るいものと言える。
1 はじめに
2013年3月以降、乳製品の国際価格は記録的な高水準にある。ニュージーランド(NZ)は2012/13年度(6月〜翌5月)に深刻な干ばつに見舞われ、生乳生産が減少した。一方で、中国をはじめ、東南アジア、インド、中東・北アフリカなど新興国の経済成長に伴い、急速に高まる乳製品需要を背景として、世界最大の乳製品輸出国であるNZの生乳生産と乳製品輸出の動向に、世界的な注目が集まっている。また、日本にとってもNZは金額ベースで最大の乳製品輸入先であり、NZの生乳需給動向は日本の乳製品需給、ひいては生乳需給に少なからず影響を与えるものとなっている。
こうしたことから、本稿では、干ばつから回復するNZの生乳生産と中国向け乳製品輸出の増加に焦点をあて、現地調査を踏まえつつ、現状と今後の見通しについて、報告する。
なお、本稿中の為替レートは、1NZドル=91円(2014年3月末TTS)を利用した。
2 生乳生産動向
(1)NZの酪農乳業の特徴
NZの酪農乳業の特徴は、放牧主体の生産体系と輸出向けに特化した乳製品生産にある。
NZでは、放牧酪農が基本であるため、牧草の生育に合わせ搾乳期を設定する。そのため、生乳生産に明確な季節変動があり、8月〜翌5月にかけて集中的に生乳を生産し、6〜7月は乾乳期とする生産体系が一般的である。こうした「季節搾乳」は、人口440万人と国内市場が小さく、生乳生産の95パーセントを乳製品として世界各国に輸出しているNZであるがゆえに可能な生産体系でもある。
NZの主要酪農地域は、北島のワイカト地方と南島のカンタベリー地方である(図1)。ワイカト地方は伝統的な酪農地域であり、NZ全体の生乳生産の約4分の1を占めている。しかし、すでに多くの土地を牧草地として利用しているため、さらなる生産拡大が難しく、今後の増産余地は限定的とみられている。一方、南島のカンタベリー地方は、本来降雨量が少なく、酪農には不向きな地域とされていたが、近年、かんがい施設の整備に伴い生産を拡大しており、NZ全体の生乳生産の約2割を占めている。カンタベリー地方は、ワイカト地方よりも大規模な経営体が多く、牧草地として新たに利用できる土地も存在することから、今後も生産拡大が見込まれており、将来的にはワイカト地方を抜き、最大の酪農地域となることが予想されている。
図1 NZの主要酪農地域 |
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資料:NZ一次産業省 |
(2)近年の生産動向
NZの酪農家戸数は、減少傾向で推移していたものの、乳製品国際価格の上昇に伴う生産者乳価の上昇により、2007年に底を打ち、それ以降は横ばいで推移している。また、2012年の乳牛飼養頭数および1戸当たり乳牛飼養頭数は、ともに増加傾向にあり、ここ10年間において、飼養頭数は27.9パーセント増加し478万頭、1戸当たり飼養頭数は41.2パーセント増加し402頭となっている(図2)。
図2 NZの酪農家戸数および乳牛飼養頭数の推移
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資料:Livestock Improvement Corporatio(LIC)、
Dairy NZ
注:各年12月現在 |
この結果、生乳生産量も増加傾向となっており、ここ10年間で35.8パーセント増加し、2012/13年度は1888万キロリットルとなっている。また、1頭当たり乳量については、横ばいで推移していたものの、2007/08年度以降、増加傾向に転じている。これは、放牧主体のNZでも、輸出需要を背景に飼料穀物などの補助飼料を投入し、1頭当たり乳量を増加させる傾向にあるためである(図3)。
図3 NZの生乳生産量の推移
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資料:LIC、 Dairy NZ
注:年度は6月〜翌5月 |
(3)最近の干ばつとその対応
これまで順調に生乳生産を増加させてきたNZであるが、2012/13年度の生乳生産は、北島を中心とした深刻な干ばつの影響により、5年ぶりに前年を下回った。
NZ一次産業省では、同年度の干ばつは、国土全体の27パーセントに当たる地域で発生し、過去40年間で最悪の規模になったとしている。
干ばつ時の酪農家の対応は様々であるが、基本的な考え方として、現地の酪農団体は、(1)補助飼料の確保および(2)乳牛飼養管理の変更による飼料需要の抑制を挙げている。
ア 補助飼料の確保
NZの酪農は放牧が基本であるが、多くの酪農家は牧草やトウモロコシのサイレージ、パーム油かす(PKE:Palm Kernel Extract、搾油後のやしの実のかす)を補助飼料として与え、牧草供給量の不足を補っている。トウモロコシは自家栽培が多いが、近隣の農家から購入する場合もある。一方、PKEは主にマレーシアやインドネシアから輸入しているが、近年、需要の高まりから価格が上昇しており、生乳生産コストの上昇を招いている。NZの酪農経営では、牧草給与の管理の徹底が基本とされているが、このように、補助飼料を積極的に与え、1頭当たり乳量の確保を目指す酪農家が増加している。
イ 乳牛飼養管理の変更
一方、干ばつ下において、十分な飼料が確保できない場合は、乳牛の飼養管理を変更し、飼料需要そのものを抑制する対応もとられている。具体的な手段としては、乾乳期への早期移行、1日当たり搾乳回数の削減および乳牛のとう汰が挙げられる。
現地の酪農団体によると、2012/13年度は、干ばつの影響により、早めに乾乳期へ移行し、通常より乾乳期間を長期化した酪農家が多かったとしている。乾乳期への早期移行は、搾乳期ほど飼料供給の必要がなくなるだけでなく、牧草地および乳牛を十分休ませ、翌シーズンの生乳生産に備えられるメリットがあることから、季節搾乳体系のNZにおいて有効な手段とされている。
また、NZでは、日本同様1日2回の搾乳が一般的であるが、放牧酪農であるため、乳牛は搾乳時にかなりの距離の歩行を強いられる。このため、干ばつ時には搾乳回数を減らし、乳牛の負担を軽減することで、飼料給与量を削減させるという方法もとられている。搾乳回数の削減は、酪農家にとっても労働時間の減少や、他の飼養管理に時間を割けるといったメリットがあるため、現地の酪農団体では干ばつ時の1日1回搾乳を推奨している。
乳牛のとう汰も干ばつへの対応策の一つであるが、次年度以降の生乳生産の減少を招くことから、現地の酪農団体は、飼料の確保が極めて困難な場合に限り、かつ計画的に行うべきとしている。
(4)干ばつからの回復と今後の生産見通し
以上の干ばつ対策に加え、2013年の冬から春にかけての温暖な気温や適度な降雨など良好な気象条件が重なり、2013年6〜12月の生乳生産量は、前年同期を5.4パーセント上回った。NZ一次産業省は、南島での生産規模拡大および補助飼料の投入による1頭当たり乳量の増加が今後も見込まれるため、生乳生産は2016/17年度まで増加傾向で推移すると見込んでいる。
3 輸出動向
(1)品目別輸出動向
NZは生乳生産量は世界第8位であるが、生乳の9割以上を乳製品として輸出に仕向けるため、世界最大の乳製品輸出国となっている。
品目別輸出動向を見ると、全粉乳が全体の約4割と圧倒的でる(図4)。1960年代頃までは、NZは特恵市場であった英国向けにバターやチーズを大量に輸出していた。しかし、1970年代以降、英国向け輸出が同国のEC(現在のEU。以下同じ。)加盟により減少したことに加え、1980年代にはNZ政府の輸出補助金などが大幅に削減されたことを受け、NZ乳業界は厳しい国際競争の波にさらされることとなった。そうした環境の変化を受け、NZの乳業は、主にアジア諸国で需要の強い粉乳類の生産・輸出に重点を置いてきた。
図4 NZの主な乳製品の輸出量の推移
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資料:Statistics NZ |
(2)国別輸出動向
国別輸出動向の特徴は、中国向けが大きな比重を占めていることである。この背景にあるのは、2008年に締結された両国の自由貿易協定(FTA)である。これは、中国が初めて先進国と締結したFTAであり、締結後、NZから中国への乳製品輸出は急増している。
一方で、世界各国に輸出展開していることも注目すべきである。NZは英国のEC加盟後、輸出先の多様化に努めてきた歴史があり、現在は、主要市場である中国、米国、日本や、地理的に近い豪州、東南アジア、オセアニアの国々に加え、経済成長が進む中東・北アフリカ、さらには中南米諸国と文字通り世界各国に輸出展開している。また、中国向けは全粉乳が中心であるが、米国にはカゼイン、日本にはチーズなど、国によりその輸出品目は大きく異なっており、市場ニーズに対応して、輸出品目も多様化されている(図5、6)。
図5 NZの国別輸出動向
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資料:NZ一次産業省 |
図6 NZの主な乳製品の中国向け輸出量の推移
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資料:Statistics NZ |
(3)巨大酪農協系乳業「フォンテラ」
NZでは、生乳の約9割が、巨大酪農協系乳業「フォンテラ」に集まり、様々な乳製品となり世界各国に輸出されている。そのため、NZの乳製品輸出動向はフォンテラの市場戦略に左右されるといっても過言ではない。
ア フォンテラの概要
フォンテラは、乳製品輸出の一元管理を行っていたニュージーランドデーリーボード(NZDB)と2大酪農協同組合の合併により2001年に設立された。傘下組合員による生乳生産から、乳製品の製造・輸出、関連食品の販売まで、一連のサプライチェーンを有する、巨大乳業経営体である。また、フォンテラは乳業メーカーである一方、酪農協同組合でもあり、組合員である酪農家はフォンテラの株主でもある。すなわち、フォンテラは世界各国への輸出展開による利益を乳価および株式配当という形で、組合員である酪農家に還元するという仕組みになっており、組合員はNZ全体の酪農家の約9割に及ぶ。
表1 フォンテラの概要(2012/13年度)
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資料:フォンテラ
注:年度は8月〜翌7月 |
イ フォンテラの乳製品生産・輸出動向
フォンテラの主な輸出品目は、当然ながらNZ全体の動向と同じく、全粉乳を中心とした粉乳類である(図7)。用途として最近重視されているのは、アジアや中東の新興国を中心に急速に需要が高まっている消費者向けの栄養関連商品とフードサービス部門である。
フォンテラはこれら需要に対応すべく国内の乳業工場の新・増設に積極的に投資している。北島ではワイカト地方ワイトアのUHT(超高温殺菌)牛乳工場新設や、ハミルトン郊外におけるクリームチーズ工場増設、南島ではカンタベリー地方の2つの粉乳工場増設などが挙げられる。特に総事業費5億NZドル(455億円)に及ぶ大規模投資により、2013年8月に完成した南島のダーフィールド工場の粉乳製造施設は、増設後年間処理能力が22万トンと世界最大規模となり、繁忙期には休日返上で粉乳の製造を行うとされている。
ウ 世界各国への輸出展開
フォンテラの世界各国への乳製品輸出について、日本および重要性が増している地域の概要を見ていきたい。
(ア)日本市場
NZにとって日本は、中国、豪州、米国に次ぐ4番目の乳製品輸出市場である。フォンテラは、設立とほぼ同時期に日本法人を立ち上げ、チーズや機能性食品の原料乳製品を中心にビジネスを展開している。フォンテラにとって日本は安定的な市場であり、今後は、日本の高齢化を見据え機能性を訴求した栄養関連食品を重視していくとしている。
しかしながら、フォンテラの各種資料などを見ると、日本の存在感はそれほど大きくないというのが実態のようである。人口減少局面にある日本市場に比べ、中国など新興国市場の拡大余地が圧倒的に大きいことが背景にあるとみられている。
図7 フォンテラの品目別販売数量
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資料:フォンテラ
注 1:2012/13年度(8月〜翌7月)
注 2:製品重量ベース
注 3:NZ国内で生産された生乳を原料とした製品に限る。 |
(イ)中国市場
フォンテラは、近年著しく牛乳乳製品需要が増加している中国を最も重要な市場と位置づけており、香港、上海、北京、広州に事務所を設け、育児用粉乳やUHT牛乳など消費者向け製品や、パン業界やホテル業界などフードサービス業界用のバターやチーズなどを中心に販路拡大を図っている。フォンテラによると、特に消費者向けのブランド製品は、上海や広州でナンバー1ブランドの地位を確立しており、成都、重慶でも広がりをみせている。
さらに特筆すべきは、中国国内に酪農場を設立し、生乳生産を拡大していることである。2007年、フォンテラは将来的な牛乳乳製品需要の高まりを見込み、北京市から東に150キロメートルほどの河北省唐山市に試験的に酪農場を設立した。その後、同省での酪農場整備は拡大を続け、2014年3月現在、5つの酪農場を運営しており、フォンテラは2013/14年度だけでも4800万NZドル(43億6800万円)を中国の酪農場に投資している。さらに、2014年中に新たに山東省においても、酪農場の設立を進める予定である。フォンテラは、これらの酪農場で、安全で高品質な生乳を生産することで、中国国内の牛乳乳製品需要に応えるとともに、酪農の発展にも貢献するとしている。こうしたフォンテラの酪農場への投資を背景に、NZから中国への乳用牛の輸出頭数も増加傾向にある。2013年のNZから中国への乳用牛輸出頭数は、導入先農場の収容能力不足などにより、前年から減少したものの、2万8846頭と、5年前の10倍以上になっている(図8)。将来的には2020年までに年間10億リットルの生乳生産を目標としており、今後もフォンテラの積極的な酪農場への投資は継続するとみられている。
図8 NZの中国向け乳用牛輸出頭数の推移
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資料:Statistics NZ |
(ウ)東南アジア、中東・北アフリカ市場
東南アジアから中東・北アフリカにかけての地域もフォンテラは重要な市場と位置づけている。マレーシアやインドネシア向けの栄養関連食品や、UAE(アラブ首長国連邦)やサウジアラビア向けのバターやチーズなどのブランド製品が主な輸出品目である。また、タイやベトナム、スリランカでもフードサービス関連を中心に輸出の拡大を図っている。
一方、中国と並ぶ巨大市場であるインドについては、フォンテラは将来的には有望な市場と見ているものの、現在は関税が高く閉鎖的であるため、短期的には輸出、投資の増加は限定的であるとしている。
(エ)豪州市場
フォンテラにとって隣国の豪州は、本国と一体的にビジネスを行う場であり、輸出向け乳製品の主要生産州であるビクトリア州、タスマニア州を中心に10の乳業工場を有している。豪州国内1300戸の酪農家から豪州の年間生乳生産の約2割に相当する160万キロリットルの生乳を集め、栄養関連商品を中心に新興国に輸出している。
しかしながら、現在フォンテラは豪州事業の見直しに取り組んでいる。これは、近年豪州の生乳生産が伸び悩んでいること、豪州最大手マレーゴールバンなど他の乳業メーカーとの激しい生乳獲得競争にさらされていること、豪州国内市場で、低価格のPBチーズとの競合から苦戦が続いていることが背景にある。そのため、乱立していたブランド製品の合理化を進め、新興国市場への輸出強化を図っている。
(オ)中南米市場
さらに、フォンテラは高まる乳製品需要を背景に中南米でも一定の市場を確立している。チリを拠点とした飲用乳、熟成チーズ、バターなどブランド製品の販売や、ネスレとの合弁事業であるDPA(Dairy Partners Americas)を通じた経済成長が続くブラジルやベネズエラ、エクアドル、コロンビアなどでの事業展開が中心となっている。
(4)今後の見通し
以上のとおり、NZは世界各国に輸出展開しており、中でも輸出額のおよそ4分の1を占める中国向けを最も重視している。一方、日本については、将来的に有望な市場という見方は大きくないとされている。NZの酪農乳業関係者が今後の輸出戦略について語るときには、「需要に応じた生産」と「輸出先の多様化」という言葉がキーワードとして出てくる。これは、現在は中国の全粉乳需要が増加しているため、それに応じた生産を進めているが、今後の中国の需要動向や対外政策には不透明な面もあることから、柔軟に対応していけるよう輸出先の多様化を進め、リスクを分散していくということである。
フォンテラの2020年までの予測を見ると、中国は重要な市場であるものの、インドが最大の市場であるとしている。また、東南アジアや中東・北アフリカについても供給を上回る需要の伸びが期待できるとしている。以上から、NZの乳製品輸出は、当面は中国への輸出を中心としつつも、中長期的にはインドや、インドネシアなど東南アジア、さらにはサウジアラビアなど中東諸国へと輸出先のさらなる多様化を目指していくと思われる。
図9 フォンテラの2020年までの需給見通し
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資料:フォンテラ |
中国企業のNZへの投資状況
フォンテラが中国の酪農場に積極的な投資を行っている一方、中国企業もNZ酪農乳業への投資を活発化している。主なものを挙げると、表2のとおりである。
表2 中国企業のNZへの投資状況
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資料:機構作成 |
こうした中国資本の積極的な投資について、NZ国内の産業や雇用との関係から懸念を示す声も一部で聞かれるが、NZ政府関係者は、基本的にどこの国であろうと投資は歓迎すべきことという姿勢である。国内市場が小さく、貿易や人的交流で豊かになったNZは、国土の開発や雇用の促進などのメリットを重視し、外国からの輸入や投資の急増についても、比較的寛容であるため、中国資本の積極的な投資は当面は継続するものと見込まれている。
4 価格動向
(1)乳製品国際価格―GDT
近年、乳製品国際価格の指標となりつつあるGDT(Global Dairy Trade)の価格動向を見ていく。
ア GDTの概要と価格決定の仕組み
GDTは、フォンテラ主催の乳製品電子オークションである。月に2回取引が行われており、年々、入札参加者は増加している。
GDTで取引される品目は、全粉乳が全体の約6割、脱脂粉乳が約2割となっている。一方、バターやチーズ(チェダー)はともに全体の5パーセント前後である(図10)。GDTにおける売り手はフォンテラやデンマーク・スウェーデン資本のアーラフーズ、豪州資本のマレーゴールバンなど、世界的な7つの乳業メーカーである(表3)。一方、買い手は世界90カ国以上185の企業であり、乳業、流通業など業種は多岐にわたる(図11)。
図10 2013年のGDTの品目別取引数量
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資料:GDT |
図11 2013年のGDTの入札参加者の地域別割合
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資料:GDT |
表3 GDTに参加している乳業メーカー
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資料:GDT、現地聞き取りなどより機構作成 |
イ 落札価格の推移
GDTの落札価格の推移を見ると、2013年3月以降価格は高騰し、その後高水準で推移している(図12)。この要因として、2012年から13年にかけての主要輸出国NZ、米国、豪州の干ばつによる影響と、中国、東南アジア、中東など新興国の乳製品需要の高まりが重なったことが挙げられる。2014年の生乳生産は、NZ、EU、米国いずれも増加が見込まれている一方、新興国の需要は今後も堅調な推移が見込まれている。今後、生乳供給の回復により乳製品の国際価格が多少下落する可能性はあるが、フォンテラの予測する世界の乳製品需要見通しなどを勘案すると、当面は比較的高い水準での推移が予想されている。
図12 GDTにおける落札価格の推移
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資料:GDT |
(2)生産者乳価
NZは生乳の95パーセントが乳製品として輸出されるため、生産者乳価は、生産コストではなく、乳製品国際価格や今後の需要により決定される。国際的に食料価格が高騰した2007/08年度、乳製品の国際価格も高騰し、これに伴い生産者乳価も大きく上昇し、また生産コストも増加している。これは乳価の上昇により、酪農家は補助飼料の投入やかんがい施設の整備などの投資が可能となったためである。
2013/14年度の生産者乳価は、最近の国際価格の高騰を受け、記録的な高水準となっている(図13)。このため、酪農家の増産意欲も高く、干ばつからわずか1年で、NZの生乳生産が大きく回復した一つの要因とみられている。現地の酪農団体や酪農家においても、今年度の生産者乳価については満足しており、今後の生乳増産への意欲がみられる。今後も乳製品国際価格は高止まりが予想されており、それに伴い生産者乳価についても比較的高水準での推移が見込まれている。
図13 NZの生産者乳価および生産コストの推移
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資料:DairyNZ、フォンテラ
注 1:2013/14年度は、フォンテラの支払乳価見込み
注 2:年度は6月〜翌5月 |
5 終わりに
2014年4月現在、乳製品国際価格は一時期より下落しているものの、依然として高止まりを続けている。主要国の生乳生産はおおむね増加傾向にあるが、現在の中国をはじめとした新興国の経済成長を踏まえると、供給余力よりも需要の伸びの方が相対的に大きいとの見方が多く出ている。今後も国際価格が高止まりを維持すれば、NZの生産者乳価も高水準で推移することとなり、NZの酪農家は、補助飼料の購入やかんがい施設の整備への投資が可能になる。そうなると、1頭当たり乳量が増加し、気象変動に対する経営リスクも低減するため、生乳生産は一層増加することとなる。また、中国との近年の経済連携などに見られるように、モノの貿易にとどまらず、投資の活発化もNZの酪農業の発展に寄与するところが大きいとみられ、NZの酪農業の当面の見通しは明るいものと言える。 |