【要約】
牛肉生産量は、天候の回復を前提とした牛群再構築から、2016/17年度まで減少する見込み。一方、海外からの需要は堅調であり、牛肉輸出量は100万トン超の高水準を維持する見通し。
生乳生産量は、国際価格の上昇に伴う乳価の上昇から、2014/15年度以降、増加の見通し。乳製品輸出量は、生産増加に伴い、チーズ、粉乳類、バターのいずれも中期的に増加を見込む。
2014/15年度の冬作物生産量は、前年度の高水準の反動から減少。一方、干ばつの影響を受け、前年度に大幅な減産となった夏作物のソルガムは、2014/15年度に増加の見通し。
1 はじめに
豪州では、2012年後半以降、東部を中心に気候が高温乾燥となり、牛肉や生乳、農作物の生産に様々な影響を及ぼしている。肉用牛の主産地であるクイーンズランド(QLD)州の州政府は、現在も、州内の約7割の地域の干ばつ宣言を出しており、干ばつによると畜頭数の増加によって、2013年の牛肉輸出が過去最高となったのは記憶に新しい。また、2013年の生乳生産は、前年同月を下回って推移し、さらに、東部州を中心に生産される夏作物も、2013/14年度は2年連続での減産となることが見込まれている。
こうした中、2014年3月4日から5日にかけて豪州農業資源経済科学局(ABARES)は、首都キャンベラで農業観測会議(以下「アウトルック」という。)を開催し、2018/19年度までの豪州の農畜産物需給見通しを発表した。本稿では、アウトルックの報告内容の中から、日本の主要輸入品目である牛肉および乳製品と、同国の畜産物生産に大きな影響を与える穀物について、短中期の需給見通しを紹介する。
なお、本稿中の為替レートは1豪ドル=97円(2014年3月末日TTS相場97.19円)を使用した。
2 牛肉産業の見通し
(1)肉用牛飼養頭数
〜干ばつによると畜頭数の増加から、飼養頭数は減少〜
2014年6月末時点の肉用牛飼養頭数は、2451万頭(前年同期比3.8%減)と前年から約100万頭の減少が見込まれている(図1)。肉用牛の約半数が飼養されるQLD州を中心とした干ばつにより放牧環境が悪化し、と畜頭数が増加したことを、頭数減少の要因としている。
2015年の肉用牛飼養頭数は、天候の改善を前提に、2420万頭(同1.3%減)とわずかな減少にとどまる見込みであり、2016年以降は増加に転じ、2019年まで2500万頭程度での推移が見込まれている。
図1 肉用牛飼養頭数の見通し
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資料:ABARES
注 1:各年6月末時点
注 2:2013年は推計値、2014年以降は予測値 |
(2)牛肉生産
〜牛群再構築により2016/17年度までと畜頭数は減少〜
2013/14年度(7月〜翌6月)のと畜頭数は917万5000頭(前年度比8.5%増)と、かなりの程度の増加が見込まれており、牛肉生産量は236万5000トン(同5.3%増)と過去最大になる見込みである(図2)。
2014/15年度のと畜頭数は、870万頭(同5.2%減)と減少に転じる見込みである。これは、天候回復により、牛群の拡大を図ろうとする生産者が肉用牛を保留するとみられることや、過去2年の繁殖雌牛のとう汰による出生頭数の減少から、と畜適期の肉用牛の減少が見込まれることを要因としている。
中期的には、2016/17年度まで牛群再構築によりと畜頭数は減少するとみているが、その後は増加に転じ、2018/19年度のと畜頭数は870万頭(2012/13年度比2.9%増)、牛肉生産量は225万7000トン(同0.5%増)と予測している。
図2 と畜頭数と牛肉生産量の見通し
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資料:ABARES
注:2013/14年度以降は予測値 |
(3)肉用牛価格
〜牛群再構築に伴って価格の上昇が見込まれる〜
2013/14年度の家畜市場の肉用牛平均取引価格(加重平均、枝肉重量ベース)は、キログラム当たり290豪セント(前年度比2.5%安、281円)と見込まれている(図3)。価格下落の要因として、家畜市場への出荷頭数が増加する上、品質の低い肉用牛や経産牛の出荷割合が増えていること、また、放牧が困難なことで肥育もと牛需要が低下していることなどを挙げている。
2014/15年度以降は、牛群再構築による出荷頭数の減少と肥育もと牛需要の増加が見込まれることで、取引価格は上昇し、2016/17年度まで高値を維持するとの見通しである。2017/18年度以降は、と畜頭数と牛肉生産量の増加に伴って下落に転じるとしている。
図3 家畜市場における肉用牛平均取引価格の見通し
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資料:ABARES
注 1:枝肉重量ベース
注 2:2013/14年度以降は予測値
注 3:2014/15年度以降の実線は実質ベース(2013/14年度の為替ベース)、
点線は名目ベース
注 4:5カ年平均は2008/09〜2012/13年度の平均 |
(4)牛肉輸出
〜海外市場からの堅調な需要から、牛肉輸出は好調を維持〜
干ばつによると畜頭数の増加と中国などからの強い需要が相まって、2012/13年度の牛肉輸出量(船積重量ベース)は初めて100万トンを上回り、過去最高を更新した。2013/14年度も、継続する干ばつから牛肉生産量が増加することで、牛肉輸出量は111万5000トン(前年度比10.0%増)と、2年連続の記録更新が見込まれている(図4)。また、海外市場からの強い引き合いにより輸出単価(FOB)も上昇し、2013/14年度はトン当たり5,156豪ドル(同7.3%高、50万円)と見込んでいる。
2014/15年度は、と畜頭数および牛肉生産量の減少に伴い、輸出量は104万トン(同6.7%減)に減少すると見込んでおり、輸出需要が強まる中で輸出単価は同5,250豪ドル(同1.8%高、51万円)と、さらなる上昇が見込まれる。
中期的にも、米国や中国、韓国などの主要市場を中心とした堅調な需要により、輸出量は100万トン台の高水準を維持するとみている。また、輸出単価は、牛肉生産が底を打つ2016/17年度まで堅調な推移を見込んでいる。このため、多くの牛肉輸出業者は、国内向けよりも収益性の高い海外市場を優先するとみており、国内仕向け割合は、2013/14年度の32パーセント(国内仕向量75万7000トン)から、2018/19年度には30パーセント(同67万7000トン)に減少するとしている。
図4 牛肉輸出量および輸出単価の見通し
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資料:ABARES
注 1:船積重量ベース
注 2:2013/14年度以降は予測値
注 3:輸出単価の2014/15年度以降の実線は実質ベース(2013/14年度の
為替ベース)、点線は名目ベース |
ア 日本向け
日本向け輸出は、日本市場における2013年2月の米国産月齢制限緩和以降、豪州産の減少および米国産増加の動きが加速した。ABARESは、短期的には日本全体の牛肉輸入量に大きな変化はないとみており、その中で豪州産の割合の低下は継続するとしている。このため、2013/14年度の輸出量は28万トン(同6.3%減)、2014/15年度は26万6000トン(同5.0%減)と見込んでいる(図5)。ただし、米国産と競合するのは、冷蔵牛肉やグレインフェッド牛肉など高価格帯としており、加工用などの低価格帯は、外食産業からの安定した引き合いがあることから、影響は小さいとしている。
中期的には、2016/17年度に24万トンまで減少した後、横ばいで推移するとみているが、米国産の輸入増が続くことで、2018/19年度には日本の最大の輸入相手先が豪州から米国に置き換わると予測している。
図5 主要輸出先別輸出量の見通し
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資料:ABARES
注:船積重量ベース |
イ 米国向け
米国向け輸出量については、2013/14年度を23万トン(同11.3%増)、2014/15年度を24万トン(同4.3%増)と見込んでいる(図5)。米国では2011年および2012年の干ばつ後、肉用牛の生産地の多くで天候が回復し、牛群再構築の動きがみられることや、飼料穀物価格の下落による酪農家の収益改善により、肉用および乳用経産牛のと畜頭数減少が見込まれており、これが、豪州産の加工用牛肉への引き合いにつながるとしている。また、競合相手であるニュージーランド(NZ)では、天候に恵まれ経産牛のとう汰減少が見込まれることも、豪州産の輸出を後押しする材料になるとしている。
米国の肉用牛飼養頭数は2014年1月現在、1951年以降での最低水準となっており、豪州産牛肉への強い引き合いは、当面続くとみられている。このため、米国向けは、2016/17年度に日本向けを上回り、2018/19年度には28万トン(2012/13年度比35.5%増)に達する見通しである。
ウ 中国向け
中国向け輸出については、同国の牛肉消費が国内生産を上回るペースで拡大しているため、2013/14年度の輸出量は16万5000トン(同78.8%増)と、2年連続の急伸を見込んでいる(図5)。しかしながら、2014/15年度は17万5000トン(同6.1%増)にとどまるとみている。これは、中国が、2014年半ばを目途に米国産牛肉の輸入再開に向けた交渉を進めていることや、インドからの水牛肉の輸入に基本合意したことなどを受けて、今後は中国市場での競合が強まると見込んでいるためである。
中国の牛肉消費量は中期的にも増加が見込まれるものの、豪州の輸出の伸びは緩やかなものとなり、2018/19年度の輸出量を20万トン(2012/13年度比2.1倍)と見込んでいる。
エ 韓国向け
韓国では、国内の牛肉生産量の減少から、豪州産に対する堅調な需要がみられることから、2013/14年度の輸出量を15万トン(同8.9%増)、2014/15年度を15万5000トン(同3.3%増)と見込んでいる(図5)。
韓国は2014年4月8日、米国に続き豪州との自由貿易協定(FTA)を締結し、豪州産牛肉は米国産と同等の位置に立った。また、現在は、米国国内の牛肉減産によって、米国産牛肉は高値を維持しており、豪州産が価格優位性を保つ状況にある。これにより、中期的にも、豪州産に対する強い引き合いを示すとみており、2018/19年度には17万トン(2012/13年度比23.5%増)に達する見通しである。
(5)生体牛輸出
〜インドネシア、ベトナム向けの増加を見込む〜
生体牛の輸出頭数は、2013/14年度が75万頭(前年度比46.2%増)、2014/15年度が77万5000頭(同3.3%増)と見込んでいる(図6)。これは、東南アジアからの堅調な需要によるもので、特に、最大の輸出市場であるインドネシア向けと、ベトナム向けの増加を見込んでいることによる。
インドネシアでは、政府が推進する牛肉自給率向上プログラムの一環により、2012年から生体牛および牛肉の輸入を規制した結果、牛肉需給がひっ迫し、牛肉価格の高騰などを招いた。このため、2013年7月に豪州から追加輸入を行い、また、同年9月には輸入制度を変更したことで、生体牛と牛肉の輸入量は2013年後半以降増加している。ABARESは、インドネシアの国産牛の供給量は今後数年間、低水準にあるとみており、牛肉消費の拡大が見込まれる中で、当面は豪州からの生体牛の輸入に頼る状況が続くとみている。
図6 生体牛輸出頭数の見通し
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資料:ABARES
注:2013/14年度以降は予測値 |
一方、ベトナムは、生体牛輸出の急成長市場であり、2013年には前年の20倍となる6万7000頭が輸出された(図7)。インドネシアとは異なり、輸出頭数や出荷体重などに制限のないベトナムなどの市場は、豪州にとって今後も重要な市場になるとしている。
堅調な需要が続くことで、生体牛輸出は年3パーセント程度の伸び率で推移し、2018/19年度には87万5000頭(2012/13年度比70.5%増)に達すると見込んでいる。
図7 生体牛輸出頭数の国別推移
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資料:豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)
注:乳牛を含む |
3 酪農産業の見通し
(1)乳製品の国際価格の動向
〜2014/15年度まで上昇基調、中期的には軟化傾向〜 2013/14年度の乳製品の国際価格は、中国を中心とした輸入国からの強い需要に対し、EUや米国など主要輸出国での増産が限定的であることから、堅調に推移し、バター、粉乳類、チーズなど主要乳製品価格は、前年度から16〜33パーセント上昇するとみられている(図8)。
図8 国際乳製品価格の見通し
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資料:ABARES
注 1:2012/13年度はABARESによる推計値、2013/14年度以降は予測値
注 2:2014/15年度以降の実線は実質ベース(2013/14年度の為替ベース)、
点線は名目ベース |
2014/15年度は、国際価格の上昇に伴う各国での乳価の上昇や、飼料穀物価格の下落が見込まれていることから増産意欲が高まるとみられ、NZ、EU、米国など主要輸出国のほか、インドやブラジル、アルゼンチンなどで生乳生産は増加するとしている。一方、アジアや中東、北アフリカでは、世界の増産の伸びを上回る需要の高まりが予測されることから、国際価格(名目ベース)はさらに上昇するとの見込みである。
中期的には、堅調に推移する国際価格に応えて、主要輸出国で引き続き増産が見込まれ、その増産のペースは、新興市場での需要の伸びを上回ると予測されることから、世界的に需給は緩和に向かい、国際価格(実質ベース)は軟化するとみている。
(2)乳価
〜堅調な国際価格により2014/15年度まで上昇〜 2014/15年度(7月〜翌6月)の豪州の乳価(生産者乳価)は、堅調な国際価格や豪ドルの下落を反映し、1リットル当たり50.0豪セント(前年度比4.8%高、49円)と2年連続の上昇を見込んでいる(図9)。
中期的には、国際価格の下落に伴い、豪州の乳価(実質ベース)は下落に転じるとみられ、2018/19年度には同46.5豪セント(2012/13年度比13.1%高、45円)との見込みである。しかし、2012/13年度までの5年平均と比べると、なお高値の水準にある。
図9 乳価の見通し
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資料:ABARES
注 1:2012/13年度は推計値、2013/14年度以降は予測値
注 2:2014/15年度以降の実線は実質ベース(2013/14年度の為替ベース)、
点線は名目ベース
注 3:5カ年平均は2008/09〜2012/13年度の平均 |
(3) 経産牛飼養頭数
〜2016年までわずかながらも増加傾向〜
乳用経産牛の飼養頭数は、2010年から2012年にかけての東部での良好な天候条件の下、主に、かんがい酪農が行われるビクトリア(VIC)州北部やニューサウスウェールズ(NSW)州南部、生乳生産が急速に拡大するタスマニア(TAS)州などでの飼養規模拡大により、増加傾向にあった。しかしながら、2012年後半から東部で広範囲に発生した高温乾燥により、飼養頭数の増加の伸びは減速し、2014年6月末時点では、171万頭(前年同期比0.2%増)と見込まれている(図10)。
中期的には、乳価の上昇に伴う増頭意欲の高まりから、2016年まで飼養頭数はわずかながらも増加が見込まれるものの、2017年以降、乳価の下落に伴い横ばいで推移するとしている。
図10 乳用経産牛飼養頭数の見通し
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資料:ABARES
注 1:各年6月末時点
注 2:2013年は推計値、2014年以降は予測値 |
(4)生乳生産
〜乳価の上昇を反映し、2014/15年度に増加に転じる〜
生乳生産は干ばつの影響により、2013/14年度まで2年連続で減少したが、2014/15年度は925万キロリットル(前年度比1.6%増)と増加に転じる見通しである(図11)。これは、輸出仕向け(加工向け)の多いVIC州を中心に、堅調な国際価格を反映した乳価の上昇に伴い、増産が見込まれることによる。一方、国内仕向け(飲用向け)の多いQLD州などでは、現在、干ばつによる飼養環境の悪化や飼料価格の高騰による酪農家の収益性悪化が、増産の制限要因となっている。
中期的には、生乳生産は2018/19年度に1015万キロリットル(2012/13年度比10.3%増)に達するとみている。これは、増頭がわずかにとどまるとみられる中、1頭当たり乳量の着実な増加を要因としている。1頭当たり乳量は、2012/13年度までの10年間で10パーセント増加しており、今後も乳牛の遺伝的改良や補助飼料の給与量増加、牧草の品質改善やかんがい用水使用など放牧環境の改善により、2018/19年度には1頭当たり5,910リットル(同9.5%増)になると見込んでいる。
図11 生乳生産量の見通し
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資料:ABARES
注 1:2012/13年度は推計値、2013/14年度以降は予測値
注 2:点線は2003/04〜2012/13年度の1頭当たり乳量の伸びの傾きを示すもの |
(5)乳製品輸出
〜生乳生産の増加に伴いチーズ、粉乳類、チーズのいずれも増加〜
中期的に見ると、世界の乳製品貿易量の伸びは、人口や所得が増加し、食の西洋化が進むアジアや中東、北アフリカ市場に左右されるとしている。これらの地域では、自国での生産が限られており、今後も、還元乳など様々な用途に利用される粉乳類の堅調な需要が見込まれると同時に、チーズなど高価な乳製品への需要も増加するとみられる。また、中国に次ぐ乳製品の輸入大国であるロシアでは、国内生産が需要に追いつかないことで、バターやチーズへの引き合いが堅調に推移するとみている。
豪州の乳製品輸出量については、生乳生産の増加に伴い、チーズ、粉乳類、バターのいずれも短中期的な増加を見込んでいる。品目別では、輸出の最も多くを占めるチーズは、2014/15年度が16万6000トン(前年度比3.0%増)、2018/19年度には18万7000トン(2012/13年度比7.5%増)に達する見込みである(図12)。図13に示すとおり、日本向けは、近年、増加傾向にある。ABARESは、日本のチーズ需要について今後も景気回復による伸びを見込んでおり、豪州が日本の最大の輸入相手先の地位を保つとしている。
インドネシアやシンガポール、マレーシアなどを主な輸出先とする脱脂粉乳は、2014/15年度の輸出量が13万9000トン(前年度比3.0%増)、2018/19年度が15万6000トン(2012/13年度比6.3%増)と見込んでいる。
全粉乳は、近年、中国とFTAを締結したNZが中国の需要増に伴って輸出を拡大する一方、豪州産は、NZ産と比べて価格優位性が低いことなどが要因となり、輸出量は減少傾向で推移していた。しかしながら、2013/14年度以降は、全粉乳の国際価格が高止まりで推移していることを反映し、増加に転じるとみており、2014/15年度の輸出量は9万2000トン(前年度比3.0%増)、2018/19年度は10万3000トン(2012/13年度比18.9%増)と見込んでいる。
図12 乳製品輸出量の見通し
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資料:ABARES
注:2013/14年度以降は予測値 |
図13 日本向けチーズ輸出の推移
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資料:ABARES |
4 穀物の生産見通し
(1) 生産
〜2014/15年度の冬作物生産は、高水準の前年度から減少〜
2013/14年度(7月〜翌6月)の冬作物生産は、主要生産地である西オーストラリア(WA)州や南オーストラリア(SA)州で降雨に恵まれたことから、過去2番目となる生産量を記録し、うち主要作物である小麦は、過去3番目となる2701万3000トン(前年度比20.3%増)、大麦は、過去2番目の954万5000トン(同27.8%増)となった(図14、図15)。
図14 小麦の生産見通し
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資料:ABARES
注:2013/14年度は推計値、2015/16年度以降は予測値 |
図15 大麦の生産見通し
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資料:ABARES
注:2013/14年度は推計値、2015/16年度以降は予測値 |
その一方で、QLD州やNSW州北部を中心とする東部の干ばつは、同地域の農作物生産にも影響を及ぼしている。QLD州の2013/14年度の冬作物生産は前年度から大幅な減産となり、これから収穫が行われる夏作物のソルガムも、QLD州やNSW州が主産地であることから、2013/14年度の生産量は127万8000トン(同36.2%減)と、大幅な減産見込みとなっている(図16)。
図16 ソルガムの生産見通し
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資料:ABARES
注:2013/14年度以降は予測値 |
2014/15年度は、小麦の作付面積が前年度から1パーセントの増加と見込んでいるものの、単収が平年の水準とみられることから、生産量は2479万5000トン(同8.2%減)にとどまる見通しである。大麦は、作付面積の減少と単収の低下から、生産量は767万5000トン(同19.6%減)と大幅な減少を見込んでいる。一方、ソルガムは、天候の回復を見込んだ上で、作付面積は前年度比36.6パーセント増、生産量は227万トン(同77.6%増)としている。
穀物生産の動向に影響を及ぼす世界の中期的な穀物需要を見ると、発展途上国での畜産物の消費拡大に伴う飼料需要から、トウモロコシや油糧種子の消費の伸びは、小麦の伸びを上回るとみている。特に、先進国の経済回復や発展途上国の経済成長が2016年頃にかけて強まるとの見通しの下、トウモロコシや油糧種子の需要は2016/17年度にかけて増加するとみられ、それに伴い、国際価格の上昇を見込んでいる(図17)。2017/18年度以降は、需要を上回るペースで増産が見込まれることから、国際価格は下落基調で推移する見通しである。
豪州では中期的に、粗粒穀物に比べて油糧種子の収益性が良いため、カノーラとの競合が強まるとの見通しから、小麦の作付面積は微増にとどまり、大麦は減少と見込んでおり、小麦生産量が2500万トン前後、大麦生産量が780万トン前後、ソルガム生産量は230万トン前後で推移すると見込まれている。
図17 穀物および油糧種子の国際価格の見通し
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資料:ABARES
注 1:小麦はUSガルフ・NO2.硬質レッド冬小麦FOB価格、トウモロコシは
USガルフ・コーンFOB価格、大麦は仏ルーアン・飼料用大麦FOB
価格、油糧種子はUSガルフ・大豆FOB価格
注 2:年度は7月〜翌6月
注 3:2013/14年度以降は予測値
注 4:2015/16年度以降は2013/14年度の米ドル為替ベースの実質価格 |
(2) 輸出
〜2014/15年度の小麦輸出は増加、粗粒穀物は国内需要の高まりで減少〜
2014/15年度の小麦輸出量は、減産にもかかわらず、1909万9000トン(前年度比3.3%増)と増加が見込まれる(図18)。これは、豊作となった2013/14年度産の在庫が取り崩されることによる。
一方、大麦やソルガムなど粗粒穀物の2014/15年度の輸出量は、550万8000トン(同25.4%減)と大幅な減少を見込んでいる(図19)。これは、QLD州を中心とした干ばつや乳価の上昇を背景に、国内で堅調な飼料需要が見込まれることによる。
図18 小麦の輸出見通し
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資料:ABARES
注:2013/14年度以降は予測値 |
図19 粗粒穀物の輸出見通し
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資料:ABARES
注:2013/14年度以降は予測値 |
2012年後半頃から始まった高温乾燥は、QLD州や北部準州の内陸部で深刻な干ばつとなり、QLD州では2014年3月現在でも州内の7割の地域で干ばつ宣言がなされている。
QLD州は、豪州の肉牛の約5割が飼養されており、特に、州南部は、肥沃な土壌を有し夏期の降雨も多いため、小麦など冬作物のみならず、夏作物の栽培が可能な豪州有数の穀倉地帯となっている。このため、この辺りには、フィードロットも多く、穀物肥育(グレインフェッド)牛の6割近くがこの地域で飼養されている。
2014年3月上旬に、同州南部にある西ダーリングダウンの農場を訪れた。同農場の土地は乾燥し、牛は補助飼料を与えられているものの、非常に痩せていた。同農場では種雄牛を15頭、繁殖雌牛を330頭飼養しているが、干ばつによって放牧が困難となり、牛を飼養できなくなったことから、すでに100頭の雌牛をとう汰した。冬作物を生産する別の農場では、2013/14年度は、300ヘクタールの土地で100トンの小麦しか収穫できなかったという。今回の干ばつは、2002/03年度や2006/07年度よりもひどいとの声が強かった。
2年連続の減産により、QLD州の穀物価格は高騰している。飼料用小麦の価格は今年1月以降、トン当たり300豪ドル(2万9000円)を超える水準で取引され、3月以降は350豪ドル(3万4000円)の高値をつけている。これはVIC州よりもトン当たり70〜90豪ドル(6,800〜8,700円)近く高い水準である。こうしたことから、同地区のフィードロットでは、VIC州やSA州から穀物を調達しているとのことである。
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補助飼料を与えられる肉用牛 ひび割れた土壌
(2014年3月上旬にQLD州西ダーリングダウンで撮影) |
一方、同じ3月にNSW州中央部の農場を訪れた際には、草の背丈は低いものの、まぶしい緑が目についた。この周辺地域でも、やはり夏の降雨がほとんど得られず、1月以降、訪問した日までに降雨があったのは、たったの6日のみであった。しかしながら、2月の終わりに1日で300ミリ近い降雨があり、牧草地の改善につながったとのことである。また、今年度の冬作物生産は、春にまとまった降雨があったことから、かんがい用水も利用した上で小麦の単収は1ヘクタール当たり5トン程度となり、非常に良いシーズンだったとのことである。
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緑がまぶしいNSW州の牧草地
(2014年3月中旬にNSW州中央部Forbcs周辺で撮影) |
このように、州や地域によって、干ばつによる農業被害の状況は異なっている。豪州政府は2月末に、干ばつ被害を受けた農家を対象に、総額3億2000万豪ドル(310億円)の支援策を発表した。低利融資や水インフラの施設整備への補助、またストレスを抱えた農家に対するメンタルヘルス向上のプログラムなどが用意されている。しかしながら、連邦政府のジョイス農相は、政府支援は今回のみの緊急対策であり、恒久的な措置ではないとしている。
肉用牛の主産地を襲う干ばつの一刻も早い終息が待たれている。
5 おわりに
2012/13年度からの干ばつの影響が各地に多く残る中で行われた今回のアウトルックでは、中国やASEAN諸国、中東などからの堅調な畜産物需要や、豪ドルの下落も後押しし、牛肉産業では過去最高の牛肉輸出量を記録、酪農産業では乳価の上昇などが報告されるなど、今後の見通しは明るいものと感じられた。特に、牛肉については、米国の国内生産の減少が予測されることや、2014年4月に締結された韓豪FTAが、今後も輸出を後押ししていくものとみられている。
今回のアウトルックの冒頭に行われたスピーチの中で、ジョイス農相は、今後、農業分野を強化していくことが、豪州にとってより強固な経済や雇用創出の機会をもたらす重要な事項の一つであるとし、今後、長きに渡る農業の成長を確保するために、政府がすべきこととして、生産および流通基盤の改善や研究開発への投資、市場アクセスの改善などを挙げた。この背景には、2050年までに75パーセント増加すると試算される世界の食料需要を取り込んでいくという目標があり、その増加に貢献する中国やアジア、中東などの市場獲得の機会を目指している。
しかしながら、豪州は干ばつなどの気象条件を始め、流通インフラの老朽化、人件費の上昇など課題もたくさんある。今後、インドや南米、黒海地域などとの競合の高まりが予測される中、こうした国との競争力を維持するための改革が急務となっている。
なお、2014年4月7日に日豪EPAは大筋合意がなされ、牛肉やチーズなどの関税が削減されることとなったが、今回のアウトルックは3月に実施されたため、日豪EPAの影響は見通しに反映されていない。 |