調査・報告 専門調査  畜産の情報 2014年11月号

成長産業化支援ファンドを活用した
地鶏新品種「黒さつま鶏」の生販直結6次産業化

筑波大学 名誉教授 永木 正和


【要約】

 従来の補助金や融資ではなく、「出資」という手法で、成長発展が見込まれる6次産業を形成する企業の誕生と初期の活動を強力に後押ししようという政策が動き始めた。実践主体として「株式会社農林漁業成長産業化支援機構」(A−FIVE)がその政策使命を担っている。ここでは、A−FIVEが出資して、鹿児島県で「黒さつま鶏」を飼養する農家と川下に位置する外食チェーン店とのコラボレーションで、肉用鶏処理加工と素ひなを供給する企業を立ち上げた事例を紹介し、その意義、期待される効果などを考察した。

1 はじめに

 川上から川下までを視野に入れて地域に6次産業を創生し、成長産業化させて農林漁業を振興・活性化させようという発想は、従来の農林漁業のフレームでのみ考えてきた発想とは大きく異なる。なお、6次産業とは、地場農林漁業をベースにした農林漁業者主導で、地域資源や地域の立地特性を生かして時期、品質、加工などにおいて、消費者需要に応じた生産、加工・製造、販売、サービスのバリュー・チェーンを形成してマーケットインする産業活動の体系である。農林水産省は、この施策を推進するエンジンとして、平成25年に「株式会社農林漁業成長産業化支援機構」を設立した(なお、略称として、同社の英語名の頭文字をとった「A−FIVE」が使われている。以下、本稿でも当該略称を使うことにする)。ここで、もう1つ画期的な点は、農林水産省が“出資”という政策手段を現場向け施策に初めて採用したことである。地場農林漁業をベースにした6次産業の成長支援としての出資という政策手法に、高い期待と関心が寄せられている。

 しかし、この出資によってどういうことができるのか、どのような効果が期待できるのかなど、まだまだ知りたいことが多い。そこで、本稿は、畜産分野の先行事例として、鹿児島県の地鶏生産農家と外食チェーン企業がジョイントしてA−FIVEのファンドを活用し、新たな食肉処理・加工会社を創設し、川上から川下までがつながった6次産業を形成した事例を紹介する。スタートしたばかりの事例であるので、暫くは冷静に見守りつつ、しっかり応援もしていきたいが、とりあえずこれまでの経過や期待される効果を概説する。

2 農林漁業の6次産業化

 地方・農村の再生・活性化の1つとされている「6次産業化」であるが、「6次産業化」の前に冠すべき“農林漁業と農漁村を基軸とした”が覆い隠されていることを看過してはならない。6次産業とは、農林漁業・食品関連業に付加価値向上を図れる範囲内で、(1)川上産業が主導し、(2)主たる活動が川上地域で展開する経済活動である。さらに、もう1つ付け加えるなら、(3) 既存の第2次・3次産業が真似できない地域に生産される農林水産物、地域に賦存する資源(バイオマス、再生可能エネルギー資源、農村景観、農村の伝統文化・技術など)を活用する(生かした)活動である。

 地方・農村から若者が出て行き過疎化・高齢化が進み、農業経営の後継者がいなくなり、地域農業の衰退・地域経済の停滞、若者の流出が加速…という負の経済スパイラルを阻止する1つの政策手法が、川上に位置する地方で内発的に組み立てる6次産業化である。“内発”という観点で、既に各地で広がっている地産地消は有効である。しかし、地産地消では地域に回る財や額は大きくなく、地域経済への寄与は限定的である。その限界を突破するには、「地産都消」、あるいは「地産外消」として大消費地を含めて市場展開する必要がある。基幹産業の農林水産業の生産物を加工、製造、付随するサービス(輸送、貯蔵、情報収集と発信)、ならびにこれらに必要な研究や学校・研修所などを集積し、食を中心とする総合産業拠点を目指すべきである。連携と集積によるバリュー・チェーンの形成である。“フード・バレー”はこれを具現する1つのコンセプトである。

 ただし、付加価値を川下産業に流れさせてしまわないことが重要で、そのためには“地域内発的”な発想と主体的活動が不可欠である。これを「地域内発的な6次産業化」と言おう。筆者は、地域内発型の6次産業化は、地場市場へ販売する地産地消の発展型と解している。地産地消と異なるのは、川中・川下との多様なコラボレーションである。川上から川下までの全体でバリュー・チェーンが形成され、(1)共に出資し、(2)共同して経営に参画し、(3)共同して市場リスクを負う“イコール・パートナー”とならなければならない。

 なお、遠隔大消費地向けの販売は激しい産地間競争を強いられ、産地間の“価格引き下げ競争の罠”に陥っていた。そして、やがては産地を崩壊させた。悲惨な結末を招く過当競争に陥らないためには、出口の川下産業までの活動フローを6次産業化して内部化・一体連携することである。その観点からも、地域内発的な6次産業化には深い含意がある。

3 農林漁業の6次産業化を支援するA−FIVE

 A−FIVEは、国と民間の共同出資(資本金318億円:政府出資300億円、民間出資18億円)によって、平成25年2月に設立された。農林水産業を基幹産業とし、地域を拠点にして芽生えた6次産業が成長産業として発展していく初期段階を、「出資」という手法で支援し、ひいては地域農業や農村地域経済を活性化するのが狙いである。いわゆる「官製ファンド」である。運営期間は15年とされている。

 根拠法である「株式会社農林漁業成長産業化支援機構法」によると、「農林漁業者が主体となって新たな事業分野を開拓する事業活動等に・・・・」と明記されている。投資対象は前節で論じた「地域内発的な6次産業化」に整合しており、事業体の実質的な経営権は農林漁業者側が確保している。具体的には、「農林漁業者と6次産業化パートナー企業(第2次・第3次産業の事業者)とが連携して共同出資して設立した会社で、6次産業化・地産地消法の認定事業者」を「6次産業化事業体」とし、出資対象としている。

 従来の農林水産省の政策遂行ツールは、補助金と長期低利融資が中心であった。A−FIVEは、「出資」という新しいツールを活用する。「出資」は、使途の自由、担保や保証が不要、事業の成長性と経営手腕が見込めるなら、多額の資金を調達できる。加えて、官製ファンドは自己資金に準ずる安定資金であり、民間からの出資や融資を誘発する。官製ファンドには多くの長所がある。

 A−FIVEは官製ファンドであり、一般のファンドとは異なって、出資先への配慮があるのも大きな特質である。列挙しておこう。

 (1) 農山漁村の活性化と、地域に雇用創出という政策目的を達成できるかどうかが
   基本的な出資基準である。

 (2) 6次産業化・地産地消法に基づく認定を受けた6次産業化事業体を出資対象とする。

 (3) 農林漁業・食品産業の事業サイクルに配慮して(農林漁業の新技術、新品種などの
   普及と定着までの年数など)、最長15年までとしている(一般的なファンドは3〜5年)。

 (4) 投資実績、経費支払実績の都度、必要額を払い込む「キャピタル・コール」を採用。

 (5) 出資金の回収は、事業体の継続性や地域の雇用に十分配慮する。

 また、A−FIVEは、地方金融機関などと協調して設立した「サブファンド」からの出資を基本としている。これは、投資案件発掘の効率化を図るとともに、出資後の6次産業化事業体に対して、きめ細かな経営支援を提供するためである。9月末までに49件のサブファンドが設立されており、その資金規模は733億円となっている。なお、この中にはテーマファンドと称して、食材調達などに対象を特化して全国展開するものも含まれており、本稿で取りあげるカゴシマバンズに出資した「エーピー投資事業有限責任組合」が、まさにこれに該当する。

 実際の出資は、サブファンドからの申請にA−FIVEが同意するとともに、農林水産大臣が法律に基づく総合化事業計画を承認することによって決定されるが、6次産業化事業体の「議決権のある株式」のうち、農林漁業者の持ち分が6次産業化パートナー企業の持ち分を上回らなければならない。これは、新たに設置される6次産業化事業体の実質的な経営権を農林漁業者が確保するためであり、地域の農林漁業の健全な発展に寄与することを第一義としている。

 なお、A−FIVEは出資とともに、この6次産業化事業体に対して経営アドバイスや情報提供などによる経営支援も行う。さらにもう1つの役割として、必要と認めたら「資本性劣後ローン」の融資も行う。劣後ローンは、民間金融機関が自己資本としてみなすことができるため、民間金融機関が融資を出しやすくなる呼び水効果を期待できる。資金も信用も不足している立ち上げ当初には有益な資金である。

4 鹿児島県の地鶏「黒さつま鶏」の産地化と事業展開

 A−FIVEのそうした活動によって、全国で35件の6次産業事業体が設立されている(平成26年9月末現在)。分野別に見ると、米・野菜・果樹などの耕種関係が多く、畜産関係は8事例にとどまっている。これは、畜産は加工・製造の工程や流通過程の管理に法規定への熟知も含めて、高い専門知識・技術、資本額を要することなどからであろう。

 そんな中にあって、畜産部門で新しいビジネス・モデルとも言える事業体を立ち上げた会社がある。それは、昨年の25年10月に設立された「潟Jゴシマバンズ」(以下「カゴシマバンズ」という。)である。カゴシマバンズは、「塚田農場」をはじめとして、多数のブランドの外食チェーンを全国展開する「潟Gー・ピーカンパニー」(以下「APC」という。)と、鹿児島県の地鶏生産者とのマッチングによって生まれた6次産業化事業体で、鹿児島県霧島市に立地する(設立時の資本金は、300万円)。産地と外食業界をつなぐ新しいビジネス・モデルとして注目されている。

 カゴシマバンズは鹿児島県が開発した新品種「黒さつま鶏」を加工処理し、共同経営者であり外食チェーンを展開するAPCの飲食店「塚田農場」を中心に食材出荷販売する。併せて鹿児島県産の農林水産物も出荷販売する。また、黒さつま鶏の生産拡大で素ひなの安定供給(リスク分散)が必要となるので、素ひなを繁殖・供給する種鶏事業を行う。

 本年4月、A−FIVEは前述のエーピー投資事業有限責任組合がカゴシマバンズへ出資することに同意した。図1にカゴシマバンズの役割、同社への出資者、ならびに関係者の役割、そして同社が担う3つの6次産業化効果(期待)を図示している。この効果は、(1)黒さつま鶏の生産拡大、(2)地域の雇用創出、そして(3)黒さつま鶏以外の地域農産物や地場加工食品の生産拡大である。

 図2にサブファンドからの出資受入後(増資後)のカゴシマバンズの資本構成を示す。新会社の議決権のある株式構成を見ると、1次生産者と実需者であるAPCが2000万円を共同で出資した。この際、1次生産者がパートナー(実需者)の出資比率を上回る資本構成とし、実質的な経営権を掌握している。これにA−FIVEとAPCが設立したサブファンド「エー・ピー投資事業有限責任組合」が2000万円を出資し、合計で4000万円を確保している。

図1 黒さつま鶏を生産、加工販売するカゴシマバンズ(6次産業化事業体)
図2 カゴシマバンズの資本出資の構造

 産地・鹿児島県側の背景は次の通りである。鹿児島県には古くから鶏肉を刺身にして楽しむ食文化があり、脂ののった地鶏は重宝されてきた。その食文化の継承と養鶏産業の振興を目指し、鹿児島県農業開発総合センターが刺身用品種としての改良を手掛け、「さつま地鶏」を12年作出した。旨味があり、歯ごたえもよい刺身用品種であったが、長期間飼養しないと刺身用の特徴を出せないという生産効率性に課題があって、飼養羽数は伸び悩んだ。そこで、あらためてセンターが開発研究に努めて、18年に作出したのが「黒さつま鶏」であった。天然記念物である薩摩鶏をベースに改良した新品種である。肉質は柔らかで、旨味成分を多く含み、脂の乗ったジューシーな味わいで、若い世代にも好まれる味と食感の品種である。同品種は鹿児島県の暑さ、湿度にも適応力高く、比較的飼養し易い品種であった。

 折しも、昭和末期から静かに地鶏ブームが広がっており、愛知県をはじめとして各地で地鶏養鶏が広がった。鹿児島県も、このブームに乗って「黒さつま鶏」を、鹿児島黒牛、かごしま黒豚、黒酢に続く“黒シリーズ”の鹿児島ブランドとして全国に売り出そうとしていた。しかし、もともと、地場販売用の小規模飼養経営が大半の地鶏養鶏であったため、県外出荷するための体制と量の確保、安定した種鶏ひなの供給、成鶏の効率的な処理・加工、そして何よりも競争が激しい市場での安定的な販売先の確保課題山積であった。大消費地への展開を模索していた時、都合よくAPCに出会った。

5 APCの特長ある食材調達方法“生販直結モデル”

 本社を東京に置く飲食フランチャイズ型チェーン会社APCの創業は平成13年10月と新しいが、この激しい競争業界で、特徴ある流通システムとメニューで全国にチェーン展開(4月現在、15業態直営132店、ライセンス45店の177店舗を経営)して、着実に実績を挙げてきている。特長は、産地名を前面に出して来店客の心をくすぐり、しかも既存の流通業を介さず、短絡化し、食材を看板名の産地から直送する。「塚田農場」というブランドには、そのような戦略コンセプトが込められている。

 APCは産地に直営農場を持つ。産地の養鶏農家からも契約生産方式で仕入れる。そして、産地で処理・加工・配送の一貫処理する。末端のチェーン店では、火を通し、味付けし、盛り皿するだけのほぼレディ・メードが届く。つまり“生販直結”である。

 どこの取引産地でも直営農場を経営していることは、消費者需要観点からの品質づくり、経営観点からの生産合理化を主体的に追求すること(体験的情報収集)や、契約農家に対する模範農場の役割を担い、産地融和にも寄与している。

 風味・食味を劣化させない急速冷凍により、出荷から消費までの時間をかけない受発注システムを確立している。店舗での調理工程数も削減され、コストを削減し、店舗間格差を防いでいる。

 なお、今回、APCが鹿児島に立ち上げたカゴシマバンズへの事業と出資は、平成18年からの宮崎県の「みやざき地頭鶏(じとっこ)」(写真1)として流通チャネル確立している「宮崎県日南市塚田農場」がモデルになっている。

写真1 手際よく解体、部位別に分類して真空パック詰め (樺n頭鶏ランド日南)

6 APCによる「黒さつま鶏」の生販直結モデルの展開

 APCは看板事業「塚田農場」の店舗拡大を模索する過程で、隣県・鹿児島県の「黒さつま鶏」に白羽の矢を立てた。都合よく、鹿児島県側の地鶏新品種「黒さつま鶏」の産地化へのもくろみと合致した。実は、黒さつま鶏をAPCに契約販売していた鹿児島県内の大口生産者がいた。新保哲志氏(カゴシマバンズ設立時に取締役に就任)と大山茂樹氏である。従来、みやざき地頭鶏を処理するAPCの施設(樺n頭鶏ランド日南)を共用して対応してきた。しかし、これでは、黒さつま鶏のライン拡大には限界がある。かくして、みやざき地頭鶏の生産流通の仕組みをモデルにして“鹿児島版・塚田農場”の生販直結モデルの構築を目指した(写真2)。

写真2 農場正面に「鹿児島県霧島市 塚田農場」の看板を掲げる新保農園(左)と
育成中の黒さつま鶏(右)

(1)「黒さつま鶏」安定産地化への課題

 新保氏と大山氏は、APCからの出荷拡大要請に応じて、鹿児島県地鶏振興協議会に相談しながら生産拡大を模索した。この中で、将来の生産拡大のためには、以下の課題解決が前提であることが明らかになった。

 (1) 種鶏の安定供給:鹿児島くみあいチキンフーズ且鶏場の1カ所で
   生産を行っているため、今後の安定供給のためにはリスク分散が必要。

 (2) 食鳥処理加工能力:当時、樺n頭鶏ランド日南で食鳥処理していたが、処理能力は限界。

 (3) 養鶏場のある鹿児島県下から樺n頭鶏ランド日南までの長時間輸送は、
   輸送コスト負担だけでなく、鶏へのストレスで、品質劣化や死へいロスを発生させている。

(2)課題の解決方策

 飼養羽数の拡大、産地化への検討の結果、次の課題解決策にたどり着いた。

 (1) 食鳥処理能力の拡大と輸送距離の短縮のために、地元に新たに処理工場を建設する。

 (2) 公共性と採算面のリスクに配慮して、これまで一元的に種鶏供給を担ってきた
   「鹿児島くみあいチキンフーズ梶vとは別に、独立した種鶏場を建設する。

 これによって、鹿児島産・黒さつま鶏供給量の拡大のみならず、生産の効率化や安定化にも大きく貢献することが明らかである。種鶏場の複数化は、リスク低減にも貢献する。

(3)6次産業化支援ファンドの活用

 課題の解決方策の実現に必要な資金調達法として、6次産業化の促進を目的としたA−FIVEからの出資という方法に出会った。そこでの考え方は、1次側の黒さつま鶏生産者と需要者側のAPCが共同出資して、県内に集荷・処理・加工・包装・冷凍・出荷を一手に担う会社を設立することである。大原則は、会社経営を川上側の農林漁業者(=黒さつま鶏出荷者)が主導することである。つまり、地域内発的な6次産業化の体系が構築されることである。この考え方に基づき、川中企業であり、バリューチェーンの要の役割を担う「カゴシマバンズ」を新たに設立した。出資者は原料の黒さつま鶏を計画に基づいて出荷、販売する川上側の新保氏と大山氏、そして、製品買取り先であり、製品化技術を有し、市場情報を有する川下側のAPC(=6次産業化パートナー)である。A−FIVEの出資を受け入れたことで、生産者は少額の出資金で地域内発型6次産業化の核となる会社設立にこぎ着けたのである。

(4)カゴシマバンズの運営状況と今後の取り組み

 カゴシマバンズは、出資決定後、直ちに、総工費1億4000万円で本社屋と併設の霧島加工センターなどを建設し、26年10月1日からは本格操業を開始している。パートの従業員30名雇用でスタートさせた。環境・臭気・騒音が居住地区に及ばない場所に立地しているが、最新鋭の設備で環境対策を実施している(排水は、近接の市営下水処理場へ地下配管で直接送水)。こうして、関係者が念願していた黒さつま鶏を鹿児島で飼育し、鹿児島で処理・製品化して出荷する体制が実現した。併せて、鹿児島県産の青果物、黒豚加工品、さつまあげ、味噌、しょうゆ、黒酢などの出荷も開始した。APCは新たに「鹿児島県霧島市塚田農場」というブランドの系列店を首都圏に20店舗出店している(26年9月末現在)。3年後までに50店舗まで拡大する計画である。

 現在のカゴシマバンズへの黒さつま鶏の出荷者は、新保氏と大山氏の2戸である。初年度の計画出荷羽数は7万2000羽であるが、3年後には3戸の増加を計画している。今後の産地化に向けての当面の最大課題は、種鶏場の増設である。現在、鹿児島県農業開発総合センターで原種を繁殖し、姶良市の鹿児島くみあいチキンフーズ鰍フ「種鶏センター」で素ひなの繁殖・供給を行っている。しかし、今後のひなの安定供給のために、カゴシマバンズは曽於市に用地を確保し、26年度中に鹿児島県から補助を受け、県下2カ所目の黒さつま鶏の種鶏センター建設し、直ちに操業を開始する計画を立てている。素ひな供給が軌道にれば、それに合わせて飼養羽数を増羽する。

(5)黒さつま鶏出荷農場・新保農園(姶良市)

 ここで、今回の調査にて訪問した新保農園について紹介したい。経営者の新保氏はカゴシマバンズの株主で取締役(非常勤)である(写真3)。31歳で脱サラ、Uターンした後継者である(43歳:調査時点)。祖父より養鶏経営(姶良市で肉用種の名古屋コーチンを飼養)を引き継いだ。広い敷地は、防疫、環境問題を考えて、23年に平場から離れた山地の元園芸農園跡地を施設一体で購入して入植した。購入時は14棟であったが、これをそのまま鶏舎に利用した(その後、順次、鶏舎を増築して飼養羽数を拡大)。鶏舎内の床はシラス土またはコンクリートである。

写真3 新保哲志農場長(兼カゴシマバンズ取締役)(右)と
樋渡隆 同社流通部長(左)(新保農園)

 入植と同時に生産規模を拡大してAPCへの出荷を開始した。24年に「株式会社新保農園」を設立した。社員は、正社員1名、臨時雇用の作業員5名である。飼養方法は、1棟に1500羽(成鶏)を飼養(5羽/m2)、 現在は19棟で年2回転させている。飼料給与は1日2回(前期は手動給与、後期は自動給餌機)である。飼養期間は雄125日〜130日、雌150日〜160日で仕上げ体重は3.7キログラムである。新保農園の特長は育成率が89%と高いことである(県平均:82%)。

 APCへの販売単価は市場相場を参考にして、もう一人の出荷者の大山氏、そしてAPC担当者と協議し、出荷数量と合わせて事前合議する契約生産販売により決めている。経営者としての最大の課題は安定販売できることであると強調し、現在、県内最大規模まで飼養羽数規模を拡大できたのは、「販売先が確定しているから」であり、「APCとの契約生産で安定経営ができている」とし(年間出荷羽数:4万8000羽(注、「今はAPCへの安定出荷を経営者の責務として強く認識している」と話している。カゴシマバンズの設立に伴い、取締役に就任したが、安定的な販売先を確保することができることから、安心して本務の養鶏経営に専念できることになった効果を強調した。

注)大山氏の養鶏場(鹿屋市)の26年度のカゴシマバンズへの計画出荷羽数は2万4000羽で、全生産羽数が買い上げられている。

7 おわりに

 西欧では「成長企業に投資する」というのがビジネス界の一般的な考え方であり、成長の見込めそうな有望企業にはドンドン資金が集まる。一方、日本は伝統的に「信用ある人にカネを貸す(融資)」考えが根強く、有望であっても、よそ者、新顔のベンチャーには資金が集まりにくい。そんな土壌にあって、成長発展の見込めそうな地域内発型の6次産業化事業体を立ち上げる構想があれば、A−FIVEが共同出資して民間の出融資を誘発して実際に成長させ、見返りとして地域に雇用を創出させ、農林漁業に活力をもたらせようという農林水産省の新しい政策−出資事業−に高い関心と期待が寄せられている。本稿は、地鶏を産地地場で処理し、外食店に出荷する生販直結ビジネスで、しかも産地を前面に出して消費をプロモーションする特長的なビジネス・モデルの6次産業バリュー・チェーンを形成する事業体に投資する事例を紹介した。

 ここに取り上げた6次産業事業体の事例は立ち上がったばかりであるので、実態としての成果を評価するのは尚早である。しかし、想定できそうな効果が透けて見える。A−FIVEの出資が官製ファンドたる特性を踏まえて、それがもたらすであろう効果を、ここに紹介した1事例からであるが、一般化して要約的に列挙して本稿を結ぶこととする。

● 農林漁業者に還元される効果

 (1) 地域の農林漁業の活性化(販売の見込みが保証されての生産拡大、商品性や
   品質向上による所得増大、耕作放棄地の発生防止などの地域資源保全)  

 (2) 経営意欲の向上、若くして優秀な農林漁業後継人材の確保

● 地場6次産業企業、地場地域経済に還元される効果

 (3) 地域の雇用機会の創出 

 (4) 商品化目的に沿った安定・良質な地場の農林水産物原料受け入れによる
   計画的な加工・製造、そして持続的な地域事業体の成長

 (5) 信用力の向上や呼び水効果によって、より一層の技術力向上、販売拡大、
   優秀な人材や関連ビジネスの集積

● 川中・川下の企業、消費者に還元される効果

 (6) 流通の合理化、流通過程ロスの縮減

 (7) 多様な消費者ニーズに合わせた品そろえによる新規顧客需要の掘り起こし

【謝辞】

 本専門調査報告の執筆にあたって、特に株式会社農林漁業成長産業化支援機構・投融資本部マネージングディレクター(畜産部長)の岩波道生氏には、調査の企画段階で有益なご示唆を頂き、現地ヒアリング調査の便宜も図って頂いたことに対してお礼申し上げます。

 また、現地調査で多くの方々に御世話になったが、とり分け、株式会社エー・ピーカンパニー・常務取締役流通本部長の吉野勝己氏、株式会社カゴシマバンズ取締役で黒さつま鶏出荷者の新保哲志氏、同社常務取締役製造部長の川田陽氏、同社流通部長の樋渡隆氏、並びに鹿児島県農政部畜産課中小家畜係長の新小田修一氏、同畜産課企画経営係技術主査の田島あゆみ氏には、ご懇切な説明を頂いた。ここに記して、厚くお礼を申し上げます。


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