海外情報  畜産の情報 2014年11月号


デンマークの生体豚輸出の現状
〜養豚産業の効率化と収益性向上に向けた動向〜

調査情報部 宅間 淳


【要約】

 デンマークは、日本にとって重要な豚肉供給国であるとともに、世界有数の豚肉輸出国である。近年、同国からの生体豚輸出が盛んになっている。

 生体豚の輸出先には、枝肉価格上昇によるもと畜需要の増加や、豚肉生産の効率化などの背景があり、引き続き需要は増していく可能性が高い。一方、デンマーク国内では、最終生産物である豚肉の生産が漸減するなど、負の面も確認された。ただし、こうした負の面に対し、業界として独自の解決策を模索する動きも見られている。

 国際的な需給に柔軟に対処するデンマーク養豚産業の取り組みは、世界的な需給を把握する上で、引き続き重要であると考えられる。

1 はじめに

 デンマークは、日本にとって第3位の豚肉輸入相手国であり、平成25年度実績では、輸入量全体の16%を占めた(図1)。また、デンマークにとって日本は、第3位(EU域外では1位)の豚肉輸出先国であり、2013年の実績では輸出量全体の11%を占めており、双方の国にとって重要な貿易品目となっている(図2)。

図1 日本の豚肉輸入割合(国別、平成25年度)
資料:財務省 貿易統計
図2 デンマークの豚肉輸出割合(国別、2013年)
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード0203

 世界の豚肉市場から見ても、デンマークはドイツ、米国に次ぐ世界第3位の豚肉輸出国であり、高い競争力を備えている。同国に見る豚肉産業の優位性として、農家と支援組織の連携により発展してきたハイレベルな「経営管理」と「飼養管理技術」や、輸出先の要望に柔軟に対処できる「食肉加工技術」などが挙げられる。「飼養管理技術」の中でも、「育種改良」と「繁殖技術」は、米国やカナダなどの豚肉輸出国よりも抜きんでた優位性を持つとされる(表1)。

表1 繁殖母豚成績の国別比較(平均値)
資料:INTERPIG2012、農林水産省「家畜改良増殖目標」平成22年7月

 「育種改良」と「繁殖技術」の優位性を背景とした繁殖母豚の高い能力(産子数)は、子豚の生産性に直結し、商品としての母豚自体の価値を高めるだけでなく、養豚産業の最終的な生産物である豚肉(肉豚)生産の成績を左右するものである。

 このため、以前からデンマークでは、繁殖豚や肥育もと畜としての子豚の需要が以前より少なくなかった。ところが、世界的な豚肉消費の拡大に伴い、生産性の高い繁殖豚の重要性が高まったこと、また、EUのアニマルウェルフェア規制強化により繁殖豚の減少を発端とする子豚不足などが生じたことから、デンマーク養豚産業が作り上げてきた生体豚(繁殖豚と子豚)への国外からの需要が、一層強まってきている。

 このような状況下で、同国において、豚肉生産の生産性向上を図る中で改良されてきた繁殖用雌豚に加え、高能力の雌豚と効率的な飼養管理体系から生産される子豚の両面で、生体豚としての輸出も盛んになっている。

 また、28カ国から構成されるEUでは、域内貿易は関税なしで、資金や物資は自由に往来できる。このため、デンマークはEUの「子豚供給地」として、ドイツ、ポーランドなど他国の豚肉生産を決定付ける影響力を持ちつつある。

 本稿では、デンマーク養豚産業のもう一つの側面である、生体豚輸出について、現地調査を踏まえ現状を報告する。

 なお、本稿中の為替レートは、1ユーロ=140円(9月末日TTS相場:140.37円)を使用した。

2 生体豚輸出のこれまでの状況

 デンマークの生体豚輸出頭数は、域内からの需要を中心に年々増加し、10年間で約5倍の1038万4000頭(2013年)に達している(図3)。過去から現在に至るまで、その過半数をドイツ向けが占めているが、ここ数年では豚肉生産を拡大させるポーランド向けへの増加が特徴的である。

図3 生体豚の輸出頭数の推移
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード0103

 輸出されている生体豚の内訳を、関税コードに基づき(1)繁殖用の純粋種(HSコード:010310)、(2)生体重が50キログラム未満のもの(同:010391)、(3)生体重が50キログラム以上のもの(同:010392)の3つのタイプ別に見てみる。

 (1)は、輸出先の農場で、原種豚として親豚の生産、あるいは親豚として肉豚の生産に当てられる豚である。(2)と(3)は、ともに肉豚として利用されるものであるが、(2)は、輸出先の肥育農場で肉豚生産に用いられる肥育もと畜であると考えられ、一方、(3)は、その多くが肥育された豚であり、と畜場に運ばれると場直行豚であるとみられる。

 まず、(1)の繁殖用の生体豚について見ると、直近2年間で3.3倍と急激に増加しており、10年前と比較すると12倍の増加となっている(図4)。輸出相手国は、過半数をドイツが占めるものの、自国内の生産拡大を目指すロシア、ウクライナ向けも増えてきている。

図4 生体豚(繁殖用)の輸出頭数の推移
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード010310

 次に、(2)の生体重が50キログラム未満の生体豚について見ると、このタイプが生体豚全体の頭数の過半数を占めており、一貫した増加を続けている(図5)。最大の輸出先はドイツであるが、ここ数年では、繁殖母豚の減少により肥育もと畜を国外に求めるポーランド向けが大幅に増加している(13年/09年:5.7倍)。

図5 生体豚(50kg未満)の輸出頭数の推移
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード010391

 最後に、(3)の生体重が50キログラム以上の生体豚について見ると、他の生体豚とは異なり、このタイプのみ近年減少傾向にある。2009年に最大(116万1000頭)の輸出頭数となったが、翌年から減少をはじめ、2013年には30万2000頭と、ピーク時の四分の一程度まで減少している(図6)。

図6 生体豚(50kg以上)の輸出頭数の推移
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード010392

 つまり、生体豚輸出は全体としては増加基調にあるものの、内訳をみると大きく構成を変化させてきた(図7)。肥育豚(50キログラム以上の生体)から、肥育もと畜としての子豚(50キログラム未満)の輸出への移行と、繁殖用生体豚の増加である。

 これは、デンマークの養豚経営が繁殖主体に転換し、子豚段階での販売頭数を増加させたことと、デンマーク産繁殖豚に対する外部からの需要が伸びてきていることによると理解できる。

図7 輸出生体豚の構成割合の推移
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード010310、010391、010392
写真1 アニマルウェルフェアに配慮した環境で
育てられる子豚(繁殖農家)

 デンマークからドイツなどへの肥育豚の輸出の増加については、ヨーロッパの養豚産業にとって、これまでも注目されてきた点である。その要因としてデンマーク国内の(1)環境規制による飼養可能頭数の制限、(2)人件費高を原因とする高いと畜経費、などが挙げられてきた。

 しかし、現時点において、輸出される生体が肥育豚から子豚と繁殖豚に移行していることは、新たな局面を迎えているとされることから、次章では子豚と繁殖豚それぞれについて、輸出増加の要因とその結果もたらされた課題について考察したい。

注)デンマークの肥育豚輸出の増加に係る分析については、畜産の情報2011年6月号「デンマークにおける
  生体豚取引の活性化と日本への影響」を参照。
  http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2011/jun/wrepo01.htm

3 繁殖用生体豚輸出の状況

(1)現状の分析

 デンマークの繁殖用雌豚の飼養頭数の推移を見ると、2003年の142万4000頭をピークにやや減少基調にあるが、近年は横ばいで推移しており、2013年には前年比2.4%増とわずかに増加傾向にある。内訳を見ると、未経産雌豚が同10.0%増、初産母豚が同3.1%増とやや増加傾向にあり、子豚生産を維持する傾向が読み取れる(図8)。

 一方、EU全体で見れば、EU15カ国(注)(13年/03年:15.3%減)、EU28カ国(注)(同20.6%減)とも減少傾向で推移している。しかし、豚肉生産量は横ばいで推移していることから、EU全体の繁殖用雌豚頭数の減少の要因としては、母豚能力の向上(多産化)による肉豚生産の効率化が進んだと考えられる(表2)。

 また、2013年1月より施行されたアニマルウェルフェア規制の強化による妊娠豚のストール飼い禁止の影響も大きいと見られている。

図8 繁殖母豚飼養頭数の推移
資料:デンマーク統計局、EUROSTAT
  注:各年12月現在
表2 豚肉生産量およびと畜頭数の推移
資料:EUROSTAT
  注:データ欠損のためEU28カ国増減率は、生産量は2005年比、と畜頭数は2007年比とした。

注:EU15カ国とは、1995年までに加盟した国々を指し、西ヨーロッパの国が中心。(フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、英国、 デンマーク、アイルランド、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、フィンランド、スウェーデン、オーストリア)
 また、EU28カ国は2014年現在のEU加盟国全てを指し、2004年以降に加盟した次の国を含む。(キプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ルーマニア、クロアチア)

 繁殖豚の輸出が増加している要因として、世界的に豚肉需要が拡大する中で、高い生産性を持つ同国産繁殖豚への需要が高まっていること、また、新たな輸出先の台頭が挙げられる。

 前述の通り、繁殖用生体豚の輸出頭数は、近年大きく増加し、10年前と比べ12倍に増加した。輸出先の9割近くは近隣のEU加盟国であるが、それ以外の輸出先は変化を見せている。5パーセント程度のシェアを持っていた北米とアジア地域は、占有率を下げ、代わってCIS諸国(ロシア、ベラルーシ、モルドバ)、東欧諸国(ウクライナ、グルジア、セルビア、マケドニア)が大きく伸びている(図9)。

 なお、北米向けはシェアとともに輸出頭数も減少しているが、アジア向けはシェアを下げたものの、急速に進む豚肉消費の拡大に伴い、輸出頭数は10年前の4.2倍と大幅に増加している。

図9 繁殖用生体豚の輸出先(頭数、2003年)
繁殖用生体豚の輸出先(頭数、2013年)
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード010310

(2)課題と今後の展望

 このように、顕著な成長を見せる繁殖豚輸出の今後の戦略などについて、デンマーク最大手の農協系種豚企業に話を聞いた。

 デンマーク産繁殖豚の輸出頭数は、地理的な条件からEU域内が多い。この傾向は今後とも変わらないが、豚肉生産を増加させているアジアや南米の国々を有望な輸出先と捉えている。その理由として、単価の高い繁殖豚を輸出できることにある。

 EU域内向けは頭数は多いものの、親豚(PS)がほとんどを占めるため、単価は安い。一方、アジア向けは流通コストがかさむことから、現地でPSを生産する体制をとっている。このため、アジアなどの国々(農家)は、原原種豚(GGP)や原種豚(GP)を購入しており、単価は高くなっている。

 この結果、輸出頭数ではEU向けが前述の通り9割近くを占めるが、輸出額では6割程度に下がり、反面、頭数では2%程度であったアジア向けが輸出額の15%を占めている(図10)。

図10 繁殖用生体豚の輸出先(輸出額、2013年)
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード010310

 しかし、EUやロシアをはじめとしたCIS諸国には陸路での輸送が可能であるが、アジアや南米などへの出荷は空路での輸送となるため、コスト面と数量面での制約を受けることとなる。

 現在、デンマークから空路を利用する際には、コペンハーゲン空港からスカンジナビア航空(SAS)により輸送している。しかし、SASは貨物機を所有しておらず、旅客機での運用となるため、一度に輸送できる頭数は80〜100頭程度に限定される。こうした事態を解決するため、貨物機が運航されているアムステルダム空港からの輸出を検討しているが、同空港までの陸路での輸送に係る衛生上の課題などにより、まだ実現には至っていない。

 日本への繁殖豚輸出も増加しており、この5年間で輸出された頭数は5倍の397頭になった(図11)。なお、輸出に当たっては、発注から最短で3カ月程度を要し、出荷時の生体重は40〜50キログラム程度である(図12)。

 また、新たな輸出先として、インドとの交渉を行っており、衛生条件について合意するまで、まだ半年程度はかかる見込みとしている。

図11 日本への繁殖豚輸出の推移
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード010310
図12 デンマークから日本への生体豚輸出経路
資料:現地関係者からの聞き取り及び動物検疫所ホームページ
   (http://www.maff.go.jp/aqs/tetuzuki/animal/40.html
   平成26年10月8日アクセス)
○輸出先により異なるタイプの繁殖豚を輸出

 デンマークから輸出される繁殖豚は、輸出先によってそのタイプが異なっている。アジアなど遠方にあり、多額の輸送コストを要する地域は現地で親豚(PS)を生産するため、原原種豚(GGP)や原種豚(GP)が輸出されている。一方、近隣のベルギーなどには、陸路によって随時導入するため安価な親豚(PS)を輸出している。

 なお、寒冷地(ロシアなど)と熱帯地(タイなど)に輸出される生体豚は、同一品種である。輸出先により異なる生育環境については、換気技術などの飼養管理に関する技術支援を行うことで解決している。

写真 広々とした明るい豚舎で育てられる繁殖豚(GP農場)

○ロシア禁輸措置への影響

 ロシアは、2014年1月下旬以降、リトアニア、ポーランドでのアフリカ豚コレラ(ASF)の発生を理由に、EU全域からの豚および豚肉製品を禁輸している。2013年のデンマークからロシアへの繁殖豚輸出は、頭数で全体の4.7%、金額で同15.0%を占めていた。現地関係者の反応は、影響はゼロではないがロシア以外にも輸出先は多いため、深刻な状況ではないとの見方が多い。

 また、ロシアはウクライナ問題に関連した経済制裁措置への報復として、EUや米国等からの農畜産物禁輸措置を8月から実施している。同禁輸措置の対象とならなかったブラジルから、豚肉などの輸出が拡大するとみられているが、同国の生産拡大に伴う影響はまだ具体的には見られないとしている。

4 子豚輸出の状況

(1)現状の分析

 大幅な頭数の増加を見せる子豚輸出であるが、供給サイド(デンマーク)と需要サイド(ドイツ、ポーランドなど)の養豚産業を巡る環境に、複数の要因を見いだすことが出来る。

 子豚を輸出するデンマーク側としては、前述の通り効率的な子豚生産が可能であることに加え、厳しい環境規制による飼養可能頭数の抑制、飼料穀物価格の上昇によるコストの増加、運営資金の調達が困難さを増したことなど、肥育豚経営が継続的かつ安定的な収益をあげることが難しくなっていた。

 一方、子豚を輸入するドイツ、ポーランドなどの国々では、EU域内の豚肉価格が高水準を維持するものの、アニマルウェルフェア規制により繁殖母豚が減少したため、十分な量の肥育もと畜を賄うことが出来なくなっていた。

ア アニマルウェルフェア規制強化による母豚の減少

 2013年1月から施行されたアニマルウェルフェア規制の強化(EU指令2008/120/EC)により、妊娠母豚のストール飼いが禁止された。このため、繁殖豚の飼養には、これまで以上の飼養面積と、群飼育に対応した畜舎の改築などが必要となった。改築に要する資金を調達できない農家は肥育専門経営への転換や廃業を余儀なくされ、既に養豚農家の集約化が進んでいたEUの養豚産業では、一層の繁殖母豚の減少が進むこととなった。

写真2 アニマルウェルフェア規制への対応(群飼い)には、
従前より広い面積が必要(繁殖農家)

 主要な豚肉生産国の状況を見ると、最大の繁殖母豚保有国であったドイツは、2007年から2013年までの6年間で母豚飼養頭数を15%減少させた(図13)。ドイツに代わり母豚保有1位となったスペインでも、同15%の減少となっている。最も減少が著しいのはポーランドであり、同40%もの減少となっている。一方、英国などアニマルウェルフェアに関心の高い輸出先国の市場を見据え、早期にアニマルウェルフェア対応を進めてきたデンマーク(同7%減)やオランダ(同3.3%増)では、その影響は限定的なものとなっている。

図13 繁殖母豚飼養頭数の増減(2013年/07年、増減率)
資料:EUROSTAT

イ 豚肉価格に連動した子豚価格の上昇

 アニマルウェルフェア規制強化により、繁殖母豚頭数が減少傾向にあったため、EUでは、域内の豚肉供給量のひっ迫を懸念する意見も少なからずあった。

 このような不安感と、2013年の第1四半期(1〜3月)は豚肉生産量が前年を下回った(前年同期比1.2%減)ことから、豚肉価格は大きく上昇した(図14、15)。ただし、2013年通年の生産量は、前年並みとなり、豚肉市場に大きな混乱は生じなかった。

図14 豚肉生産量(EU)
資料:欧州委員会
図15 豚枝肉価格の推移(EU)
資料:欧州委員会

 繁殖母豚が減少する中、豚枝肉価格は上昇したことから、肥育農家の導入意欲は高まり、子豚に対する需要が伸びた。このため、EUの子豚価格は上昇基調となり、2013年の年間平均価格は1頭当たり47.9ユーロ(6,706円)と、2007年と比べて24%高となった(図16)。

図16 子豚価格の推移(EU)
資料:欧州委員会

ウ 飼料穀物価格の上昇

 高水準にある子豚価格に加え、飼料穀物価格の高騰も子豚輸出をけん引したものと考えられる。飼料穀物価格は、世界的な需要増加と天候不順などによる供給不足を受けて高騰した。デンマークで豚用の飼料として利用されている飼料用小麦の2013年の年間平均価格は、トン当たり206.22ユーロ(28,871円)と、2007年と比べて16%高となった(図17)。

図17 飼料用小麦価格の推移(EU)
資料:欧州委員会

エ デンマーク側の状況(環境規制と経済不況)

 デンマークでは、飼料価格の高騰と子豚価格の上昇によって生産コストが増加することとなった。これに加え、既に制定されていた厳しい環境規制により、規模拡大による経営の集約化、効率化が進められなかった。

 同国の環境規制では、経営耕地面積当たりの飼養可能頭数が制限されている。このため、規模拡大を図るには、増頭とともに経営耕地面積の拡大が必要だが、国内経済の不景気により金融機関からの資金調達は困難さを増していた。

 こうした中、他国よりも競争力があり、収益性も安定している子豚繁殖に特化した繁殖専門経営への転換や、子豚の販売(輸出)に注力することで資本生産性を上げ、収益性の向上を図る方向に動いた(図18)。

図18 豚1頭当たりの収益の構成
資料:ピッグリサーチセンター

 この結果、子豚輸出が右肩上がりに伸びる一方、国内でのと畜頭数は減少に転じることとなった(図19)。

図19 肥育豚と畜と子豚輸出の推移
資料:デンマーク統計局、「Global Trade Atlas」
  注:子豚は、HSコード010391

(2)課題と今後の展望

 子豚輸出の増加によって国内の肥育豚飼養頭数が減少し、その結果、豚肉の生産量、輸出量は漸減している(図20)。

図20 豚肉の生産・輸出量の推移
資料:デンマーク統計局、デンマーク農業理事会
  注:輸出量には、加工品などを含む

 豚肉生産と輸出の減少は、養豚経営のみならず、食肉処理場や食肉加工業などの養豚関連産業全体に影響を与える。このため、こうした傾向に歯止めをかけるため、大手食肉企業では対策に乗り出している。

 デンマークを代表するミートパッカーであるデニッシュ・クラウンは、従業員給与の一部を財源として、肥育豚生産経営への融資を目的とした基金造成へ回す計画を打ち出した。同社のホームページや現地報道によると、その仕組みは、従業員に支払う給与を一部減らし、減少分を従業員組合が運営する組織に積み立て、資金繰りに苦しむ肥育豚経営に対し融資を行う、というものである。

 関係者によれば、同社の支出額は変わらず、従業員給与は実際に減少する。しかし、融資が養豚経営より利子付きで返済されれば、企業にとっては安定的な肉豚調達が可能となり、従業員にとっては給与相当分に加え利子分が利益となる。

 なお、今回の取り組みで不利益を被るのは、課税対象額が減少する税務当局であるが、行政からの指導で進められている取り組みであり、この点について大きな問題は起きないと見られている。

 この融資制度はまだ計画の段階とされ、さらに、従業員が組織する労働組合の反対を受けて白紙状態になっているとする関係者もおり、効果のほどは未知数である。しかしながら、養豚産業の内部から発生した自助努力的な取り組みとしての新たな動きであり、今後の動向が注目されている。

5 まとめ

 デンマーク養豚産業は、生産の効率性を高めることで、収益の最大化を目指してきた。この結果、最終製品である豚肉のみならず、その途中工程にある繁殖豚や子豚にも商品としての価値を高めるに至った。もう一つの収入源として認識された生体豚は、国外からの需要の高まりも追い風となって、順調に輸出頭数を伸ばしている。

 一方、豚の国内と畜が減少するという、豚肉産業における空洞化とも言うべき負の影響が生じた。

 国内において、豚肉生産を重要な産業と捉え、養豚経営と食肉業界は一体となって効率化を推進してきた。ところが、EU加盟国の拡大、豚肉需給の変化など、国内外の情勢変化により、養豚経営が効率的に収益を得られる商品は、豚肉(肉豚)から子豚へ移り変わってきた。この結果、国内では肥育豚頭数が減少し、多額の投資を行った食肉施設の稼働率が低下するという皮肉な事態に陥ってしまった。しかし、こうした状況に至っても、同国の養豚産業は、行政の支援を得つつも、自主的な解決策を模索していることが興味深い点である。

 デンマークと日本は、豚肉取引において、長期にわたり重要かつ安定的な関係を築いてきた。輸入側である日本からの視点では、安全性が高く、一定の品質を定量的に輸入することのできる他と代え難い取引先として位置づけられている。輸出側であるデンマークも、日本を良質な商品(豚肉)を適正な価格で販売可能な信頼できる顧客と評価している。しかし、同国の養豚産業あるいはその根底を担う養豚経営は、多様に変化する国際需要に適応し、その生産構造を変容させてきている。

 デンマークの豚肉生産は、わずかに減少傾向を示しているものの、十分な輸出量を確保しており、わが国にとって引き続き重要な豚肉供給元国であることに変わりはない。なおかつ、デンマーク国内の生産体制と収益構造は、国際的な豚肉需給に対応し、絶えず試行錯誤を繰り返している。こうした、多面的な取組は絶えず注目をあつめており、生産体制、生産物の両面で、今後とも世界の養豚産業の中心に位置していくと考えられる。


 
元のページに戻る