需給動向 海外

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生乳の増産基調が続く中、価格はわずかに下落


2014年6月の生乳出荷量、前年同月比4.3%増

 ドイツ乳製品市場価格情報センター(ZMB)によると、2014年6月のEUの生乳出荷量は、前年同月比4.3%増の1281万トンとなり、2014年上半期では、前年同期比5.4%増の7577万トンと前年同期を385万トン上回った(図26)。増加の要因として、天候に恵まれ放牧環境が良好であったことに加え、2015年3月で終了するクオータ制度を見据えて生産者が増産体制を整える中にあって、旺盛な輸出需要に支えられた高い乳価が生産者の増産意欲をさらにかき立てたことが挙げられる。

 一方、2014年下半期の生乳出荷量は、輸出需要も一服し、伸び率も鈍化するとみられている。7月に公表された短期見通しによると、2014年通年では前年を400万トン上回る1億4530万トンと見込まれている。
図26 生乳出荷量の推移
資料:ZMB
  注:2014年は暫定数値

2014年7月の生乳価格、前年同月比1.7%高

 オランダ農業園芸組織連合会(LTO)によると、2014年7月のEU域内主要乳業メーカー16社の平均生乳買取価格は、100キログラム当たり38.65ユーロ(5334円:1ユーロ=138円)となり、前月からわずかに値を下げ、前年同月比1.7%高となった(図27)。
図27 生乳価格の推移
資料:LTO
  注:域内主要乳業16社の平均値
 乳業メーカー16社の生乳買取価格の動向を見ると、英国のデイリークレスト社は、季節調整などから7月はわずかに値を上げたが、9月、10月には引き下げを公表している。同じく英国のファーストミルク社は、7月に引き下げを行い、さらに今後数カ月にわたって減額すると公表している。オランダのフリースランドカンピーナ社は、7月に引き下げを行い、8月は若干値を戻すものの、再び9月は引き下げるとしている。

 個々の企業の動きには若干の違いがあるが、総じて秋に向けて値を下げる傾向にある。これは、輸出需要に支えられてEUの生乳生産が増産傾向にある中で、中国の粉乳在庫量に余剰感が出てきたとの観測もあり、今後の輸出需要が緩むとの見方が強くなっていることによるものである。中国の在庫状況が、今後の国際乳製品需給を大きく動かす鍵になるとみられている。

好調な乳製品輸出

 欧州委員会によると、2014年上半期(1〜6月)のEU乳製品の域外輸出量は、脱脂粉乳が前年同期比61.7%増、全粉乳が同19%増となるなど、粉乳類を中心に好調となった(表4)。中でも、最大の輸出先であるアルジェリア向けが脱脂粉乳で前年同期の2倍、全粉乳で3倍以上を記録し、脱脂粉乳ではアルジェリアに次ぐ中国も前年同期の2倍以上となっている(表5、6)。

 また、バターも同24.6%増と大幅に域外輸出を伸ばす中、チーズは同1.0%減と主要乳製品輸出の中で唯一前年を下回った(表7、8)。このバターとチーズの最大の輸出先はロシアであり、それぞれの全輸出量に占めるロシアの割合(2014年上半期)は、バターが29.5%、チーズは28.5%となる。このため、今年8月7日に表明されたロシアのEU産乳製品禁輸措置により、最も影響を受ける品目となるとみられていた。

 欧州委員会は8月28日、ロシアの輸入禁止措置によるEU域内市場への影響を最小限に食い止めるため、共通農業政策(CAP)の民間在庫補助制度(PSA)を通じてバター、脱脂粉乳、チーズの市場隔離を行うと発表した。このため、今後、これら乳製品の価格動向が注目されている。
表4 EU域外への乳製品輸出量
資料:欧州委員会
  注:その他乳製品とは、HSコード「040390」を指す
表5 国別内訳(脱脂粉乳)
資料:欧州委員会
表6 国別内訳(全粉乳)
資料:欧州委員会
表7 国別内訳(バター)
資料:欧州委員会
表8 国別内訳(チーズ)
資料:欧州委員会
(調査情報部 中野 貴史)

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