特集  畜産の情報 2014年10月号

対日牛肉輸出国の生産・輸出状況
(米国、豪州、カナダ)

調査情報部 国際調査グループ


T はじめに

 わが国の牛肉消費量の約6割は海外からの輸入で占められており、主な輸入先は、豪州、米国を中心にニュージーランド(NZ)、カナダと続く(図1)。このうち、米国や豪州では、相次いだ干ばつなどを背景に肉牛飼養頭数は減少を続けており、今後の牛肉生産・輸出への影響が懸念されている。また、豊富な水資源と広大な土地に恵まれたカナダでも、2009年から米国で実施されている農産物・食肉に関する原産国表示(COOL:Country of Origin Labeling)※により、米国向け肥育もと牛の輸出が停滞するなど国内の牛肉生産・輸出構造に変化が表れてきたとされている。

※COOLに関しては、「V各国の状況−2カナダ」で説明。
図1 日本の牛肉輸入量の推移
資料:財務省「貿易統計」
  注:部分肉ベース
 近年は、中国や東南アジア諸国をはじめとした新興国での牛肉消費増加などに伴い、国際的な牛肉需給はひっ迫傾向にあり、主要牛肉生産国の輸出価格は上昇傾向で推移している。

 しかしながら現在、世界の主要牛肉輸出国は、特定の国・地域にとどまっており、増頭には一定の繁殖条件や飼料基盤の確保などが必要とされることで、早急な輸出量の拡大や新たな牛肉輸出国の参入は難しい状況といえる(図2)。このため、世界的な牛肉需要の拡大傾向が続く中で、主要牛肉輸出国の生産・輸出状況は、わが国のみならず世界の牛肉需給に大きな影響を与えることになる。
図2 牛肉の国別輸出量(2014年予測)
資料:USDA「Livestock and Poultry: World Market and Trade」
注1:枝肉重量ベース
  2:赤は対日牛肉輸出国
   ※EUは特定国のみ
 本稿では、世界の牛肉輸出国のうち、主要対日輸出国である米国、豪州およびカナダの生産・輸出状況などについて、現地の情勢を踏まえながら最近の動向を報告する。また、世界の牛肉需給に多大な影響を与える中国、および一定量の対日輸出実績を有するNZについても、その状況を簡単に触れる。

 なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=105円(8月末日TTS相場:104.74円)、1豪ドル=99円(同99.03円)、1カナダドル=97円(同97.13円)、1中国・人民元=17円(同17.17円)を使用した。

〔横田 徹〕

U 全体の状況(米国、豪州、カナダ)

 米国やカナダの牛肉生産は、肥育を含め食肉処理・加工段階での企業買収・統合による大規模化、寡占化が進むとともに、牛肉生産、流通段階での垂直統合も数多く見られる状況にある。これらは、いずれも企業資本による経済効率の追求によるものであるが、結果的に安価な牛肉の安定供給が可能となり、また、北米のみならず世界の食肉消費の拡大にも寄与してきた。

 一方、豪州の牛肉生産は、かつての家族経営を中心としたものから、海外資本の積極的な導入による企業の買収・統合で大規模化が進んでいるが、米国ほどの寡占化は見られない。また、放牧を主体とした安価な牛肉輸出を主体とすることで、国際市場で一定の地位を築き上げている。

 しかし、消費を見ると、米国やカナダが、北米自由貿易協定(NAFTA)による巨大消費市場(加盟国である米国、カナダ、メキシコの3カ国の人口は約5億5000万人とEUの約5億600万人を上回る規模)を抱える一方、豪州では人口が2000万人強と、その規模は大きく異なる。

 対日輸出国の中でも、このような特徴を背景に三者三様の需給バランスが形成されている(図3)。
図3 各国の牛肉需給バランス(2014年予測)
資料:USDA「Livestock and Poultry : World Markets and Trade」を基に
    機構作成
  注:枝肉重量ベース
 米国は、牛肉輸出量が国内牛肉生産量のわずか1割程度にとどまるが、他を圧倒する牛肉生産量と巨大な国内市場を背景に世界最大級の牛肉輸出国・輸入国である。牛肉生産は主に国内市場向けが中心となるが、国内外を問わずより高価格で販売できる市場をターゲットとしていることもあり、価格動向によって輸出と輸入を使い分けている。このため、ファストフード原料向けなど価格の安い部位の多くは、NZや豪州などからの輸入に依存している。また、カナダは、牛肉生産の規模は米国に比べて非常に少ないながらも、基本的に輸出は高価格で販売できるものを米国などに輸出し、ファストフード原料向けに価格の安い部位を輸入するなど、米国と近い牛肉需給バランスとなっている。

 一方、豪州は、牛肉生産量に比べて国内市場規模が小さいことで必然的に輸出市場を念頭に置いた牛肉需給バランスとなる。このため、例えば日本や韓国向けは穀物肥育牛肉を中心に、また、米国向けは牧草肥育牛肉を中心とするなど、牛肉生産は輸出先のニーズに合わせた生産手法が取られている。また、隣国のインドネシアなどへの牛肉用途としての生体牛の輸出も多い。ただし、輸出主体であることから、米国に比べ同一部位のみの大量供給が困難であることと、国際相場の影響を受けやすいのが特徴として挙げられる。

 次に各国の状況を報告する。

〔横田 徹〕

V 各国の状況

米国

(1)概況

 ア 飼養頭数

 米国では1920年以降、8回のキャトルサイクルを経ているとされるが、牛の総飼養頭数は1975年に過去最高となる1億3200万頭を記録した後、周期的な増減を繰り返しながら構造的には減少傾向で推移している(図4)。近年では、2005年に増加に転じたものの、2006年、2007年の干ばつによる放牧環境の悪化や、これに伴う飼料穀物価格の高騰などで繁殖経営の収益性が悪化し、繁殖雌牛のと畜増加により規模拡大が抑制されたことで2008年には再び減少となった。

 また、2011年の南部、2012年に中西部のコーンベルト地帯を襲った干ばつは、再び放牧環境を悪化させるとともに飼料穀物価格の高騰を招き、これが繁殖雌牛などの早期と畜を加速させたことなどから、2014年の牛飼養頭数は前年比2%減の8773万頭と過去最低となった。

 過去には、子牛の価格、肥育期間などがキャトルサイクルに大きな影響を及ぼすとされたが、近年は干ばつなどの気候変動が大きな要因となっている。干ばつで牧草が不足すると、繁殖農家は繁殖雌牛の出荷を増やし、結果的に頭数拡大が先延ばしされることになる。また、穀倉地帯で干ばつが発生した場合、大豆やトウモロコシなどの飼料穀物価格が高騰するため肥育経営への影響も甚大となる。
図4 牛総飼養頭数の推移
資料:USDA
注1:1月1日時点
  2:乳牛、子牛を含む
 米国の繁殖雌牛生産は、1戸当たり平均50頭規模と比較的小規模な経営が大部分を占めており、多くは、穀物生産などとの複合経営を行い、全米各地に分布している。一方、肥育牛生産は、主にトウモロコシなどの飼料穀物生産が盛んなコーンベルト地帯と呼ばれる中西部での大規模肥育(フィードロット)が中心となっている。フィードロットは、主に食肉パッカーと呼ばれる大手食肉加工業者により運営されており、上位4社の牛肉生産量が国内生産の6割以上を占めるとされるなど、繁殖から肥育、牛肉生産段階に従ってボトルネック化が顕著となっている。2014年の州別牛総飼養頭数を見ると、テキサス州が最も多く全米の12%を占め、次いでカンザス州、ネブラスカが7%となり、オクラホマ州や酪農生産が盛んなカリフォルニア州が6%と続いている(図5)。
図5 全米の牛飼養頭数の分布
資料:USDA/FAS, NASS「Census of Agriculture」を基に機構作成
注1:子牛を含む
  2:黄色の数値は各州の飼養頭数の全米シェア(%)
 イ 牛肉生産量

 牛1頭当たりの枝肉重量は、飼料効率の向上や牛の遺伝的改良などに伴い増加傾向で推移しており、2014年(1〜6月平均)は2000年に比べ15.8%増となる1頭当たり855.7ポンド(去勢牛:約388キログラム)となった。

 一方、牛肉生産量は、牛飼養頭数の減少に伴うと畜頭数の減少により2011年以降、前年を下回って推移し、2013年には前年比1%減の1165万6000トンになった。2014年は、と畜頭数が減少基調にある一方、需要は堅調に推移している。こうした中、肉牛の早期出荷傾向は見られず、肥育業者はトウモロコシなど価格が安定している飼料を多給し、1頭当たりの重量確保に努めることで、供給量が確保されている。米国農務省農業経済調査局(USDA/ERS)は、牛飼養頭数の回復が遅れる中で、2014年の牛肉生産量を前年比4.4%減の1114万1000トンと見込んでいる(図6)。
写真1 食肉処理・加工場
図6 牛肉生産量およびと畜頭数の推移
資料:USDA
注1:2014年は予測値
  2:枝肉重量ベース
 ウ 輸出入量

 2013年の牛肉輸入量は、前年比1%増の102万トンとなった。国別輸入量を見ると、

  豪州:28万3000トン(全体の28%)
 カナダ:24万4000トン(同24%)
  NZ:23万9000トン(同23%)
メキシコ:11万4000トン(同11%)

である。豪州やNZからは、主にハンバーガーのパテなどに利用される冷凍の加工向け牛肉の輸入が主流であるのに対し、カナダやメキシコからの輸入量の約8割は、ステーキなどに用いられる冷蔵牛肉となっている。国内の牛肉消費が好調に推移する中で、USDA/ERSは、牛肉生産量が減少し需給がひっ迫傾向にあることで、2014年の牛肉輸入量を前年比14.8%増の117万2000トンと引き続き増加を見込んでいる(図7)。
図7 牛肉輸入量の推移
資料:USDA
注1:2014年は予測値
  2:枝肉重量ベース
 一方、2013年の牛肉輸出量は、前年比6%増の117万トンとなった。国別輸出量(副産物、子牛肉を含む。)を見ると、

  日本:30万4000トン(同26%)
 カナダ:21万2000トン(同18%)
メキシコ:18万3000トン(同16%)
  香港:16万3000トン(同14%)
  韓国:11万5000トン(同10%)

である。2003年に国内で発生した牛海綿状脳症(BSE)の影響により2004年の輸出量は大幅に減少したものの、その後、各国での米国産牛肉の輸入解禁や輸入条件の緩和などにより回復基調に転じており、2011年はBSE発生以前の輸出水準を上回った。

 また、近年では新興国(アジアや中東諸国など)の牛肉需要が高まる中で、主にアジア向け(香港など)の輸出量増加が目立っている。なお、ロシア向けは、米国産牛肉に対するラクトパミン(飼料添加物として用いられる成長促進物質)の問題により、2013年の輸出量は大幅に減少した(図8)。

 牛肉の国際相場が上昇基調にあるとされる中で、USDA/ERSは、2014年の牛肉輸出量について前年比1.2%増の118万8000トンと増加を見込んでいる。
図8 牛肉輸出量の推移
資料:USDA
注1:2014年は予測値
  2:枝肉重量ベース
 エ 牛肉価格

 牛肉卸売価格は、世界的な牛肉需要の増加や国内の牛肉供給量の減少に伴い高値で推移しており、2013年は100ポンド当たり196米ドル(1キログラム当たり453円)となった。また、卸売価格の上昇に伴い牛肉小売価格も高値で推移しており、2014年6月には同594米ドル(100グラム当たり138円)と過去最高値を更新した(図9)。

 牛肉消費が好調に推移する中で、USDA/ERSは、2014年の牛肉小売価格について最終的に前年比6.5〜7.5%程度上昇すると見込んでいる。
図9 牛肉価格の推移
資料:USDA
注1:各月の単純平均
  2:2014年6月は速報値
写真2 スーパーマーケットでの牛肉販売

(2)牛肉生産を取り巻く状況

 ア 気候変動(干ばつ)

 主要生産地域が集中する中南部州では、2011年、2012年と連続して干ばつが発生し、牛の飼養環境や飼料の生育は甚大な影響を被った。2011年の干ばつは、最大の肉牛繁殖地域であるテキサス州などの中南部州を中心に発生し、繁殖経営にとって欠かせない放牧地の環境に深刻な被害をもたらした。また、2012年はコーンベルト地帯(中西部)を中心に干ばつが広がったことで、トウモロコシなどの飼料穀物生産量が減少し、国際的な飼料価格の大幅上昇につながるなど、米国の畜産経営のみならず、わが国の畜産経営にも大きな影響を及ぼした。干ばつの影響は、2013年に入り中西部では軽減されてきたが、2014年6月時点で、依然、テキサス州など南部地域の一部で継続している。また、2014年は、乳用牛を多く飼養するカリフォルニア州南部を中心に異常な干ばつが発生しており、同州の牛飼養頭数減少が懸念されている(図10)。
図10 干ばつの発生状況(2011年から2014年)
資料:Drought monitor
 現在、牛肉価格は上昇基調にあり、牛群再構築に向け肉牛農家の増頭意欲が高まっているとされるが、ここ数年の干ばつによる繁殖雌牛と畜頭数の増加により、早急な頭数回復は困難とみられている。USDAでは、干ばつの影響が緩和され飼料穀物価格が安値で安定したとしても、牛の飼養頭数が回復に転じるのは早くて2016年以降としている。
写真3 繁殖農家:コロラド州
 イ 飼料(トウモロコシ)価格

 フィードロットでは、肉牛にトウモロコシなどの穀物を主体とした飼料が多給される。このため、トウモロコシの価格動向はフィードロット経営に直結することとなり、価格の変動にあわせて肥育期間が調整される。つまり、トウモロコシ価格が牛1頭当たりの枝肉重量や牛肉生産量の増減を左右することとなる。

 トウモロコシ価格は、2006年下半期以降、同年のエタノール振興政策に伴う需要の増加や干ばつの影響などから、上昇基調となった。2009年には、世界的な不況による穀物需要の減退懸念などから下落したが、2010年には再び上昇に転じた。2012年にはコーンベルト地帯を中心とした干ばつによる作柄悪化のため高騰し、同年7月には一時、過去最高の1ブッシェル当たり8.07米ドル(847円)を記録した(図11)。
図11 トウモロコシ価格の推移
資料:日本経済新聞
注1:シカゴ相場の先物、期近価格(当月最終取引日の終値)の平均
  2:2014年は8月の価格
 一般的に米国の肥育経営では、トウモロコシ価格が1ブッシェル当たり6米ドル(630円)を超えると採算ラインを割ると言われており、この時期は全米各地の肥育生産者の経営環境が大きく悪化したとされている。また、米国からトウモロコシを大量に輸入するわが国にとっても深刻な影響が及んだことで、価格面で優位性があったブラジルやアルゼンチンなどからのトウモロコシ輸入を増やすきっかけとなった。

 2013年は、干ばつが解消に向かったことで豊作の見込みが強まったことから価格は下落し、その後も豊作となったことで米国内のみならず国際相場も安値で落ち着いた。また、2014年もトウモロコシの生育は各地で順調と報告されており、9月11日時点のUSDAの予測では前年度比3.4%増の生産が見込まれている。このため、価格は安値基調で維持しており、2014年8月末は同3.59米ドル(376円)となっている(図11)。USDAでは、豊作予測による期末在庫の積み増しが見込まれることで、今後の生産者平均販売価格を1ブッシェル当たり3.20米ドル〜3.80米ドル(335円〜398円)での推移を予測している。
写真4 トウモロコシの収穫:ネブラスカ州
 ウ 国内の食肉需要

 1人当たり年間食肉消費量は、2006年の干ばつ以降のと畜頭数の落ち込みにより牛肉小売価格が上昇したことで、2007年から2011年まで減少傾向で推移した。2012年には6年ぶりに前年を上回ったものの、2013年は2011年、2012年に発生した干ばつによる肉牛頭数のさらなる減少や、飼料穀物価格の高騰により、牛肉価格が過去最高値をつけたことで前年比1.7%減の25.6キログラムと過去最低を記録した(図12)。

 これは、2000年(30.6キログラム)と比べた場合、約5キロの減少となる。また、小売物価上昇率で見ると、牛肉価格の上昇率は他の食肉や食品よりも際立っており、継続的な価格上昇が消費量の減少の一因となっている。
図12 1人当たり牛肉消費量と小売価格の推移
資料:USDA
 注:枝肉重量ベース
 2014年7月の食品の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比2.5%の上昇となった。上昇の主な要因としてUSDA/ERSは、食肉(牛肉、豚肉、鶏肉)の小売価格の上昇を挙げており、牛肉は飼養頭数の減少による供給減、豚肉は豚流行性下痢(PED)による供給減や輸入豚肉の価格上昇が影響したとしている。また、2014年の食品のCPIについて、全食品で前年比2.5〜3.5%上昇すると見込んでおり、牛肉および豚肉については、いずれも同6.5〜7.5%の上昇を予測している(表1)。
表1 食品の物価上昇率の推移
資料:米国労働統計局、USDA/ERS
  注:2014年は予測値
 一方で、牛肉よりも比較的安価な鶏肉の消費量は増加傾向で推移しており、2013年は前年比2%増の同26.0キログラムと牛肉消費量を2%上回った。鶏肉価格も牛肉や豚肉と同様に上昇しているものの、食肉価格の中でも高騰が目立つ牛肉の代替品としての需要が増加している。特にファストフードなどの外食需要が強く、従来のむね肉を中心とした商品提供から、より価格が安いもも肉などを用いた商品(ジューシー感をアピールしたグリル製品など)の提供も広がっている。加えて、人口構成割合の変化(鶏肉を好むヒスパニック人口の増加)や健康志向の高まりも鶏肉消費増加の一因となっている。

 なお、鶏肉に次いで価格が低い豚肉の消費量は同2%増の同20.0キログラムとなり、鶏肉同様2年連続で増加している。

(3)輸出動向

 牛肉生産は国内市場向けを主体としているが、国内外を問わずより高価格で販売できる市場をターゲットとしていることもあり、価格動向によって国内市場に供給せずに輸出に回し、その分輸入を増やすといった使い分けが行われている。最近は海外の需要が高まる中で、輸出は増加傾向で推移している。

 2013年の輸出量(副産物・子牛肉を含む。)は、前年比6%増の117万2000トン、輸出額も需要の高まりによる輸出価格の上昇に伴い前年比11.7%増の60億米ドル(6300億円)と前年からかなり増加した。2014年も、牛肉生産量が減少傾向で推移する中で堅調に推移しており、1〜6月で前年同期比4.7%増の56万7000トンとなった。

 輸出の特徴として、カナダやメキシコは高価格帯とされる冷蔵牛肉が中心であるのに対し、香港、韓国などは価格が安い冷凍牛肉が中心となるなど、輸出市場のニーズにあわせた形となっている。

 ア 日本

 米国にとって日本市場は牛肉輸出量の26%(2013年)を占める最大の輸出先である。2003年12月に米国で発生したBSEによる日本の輸入停止措置などにより、同年以降、日本向け輸出は大きく減少したが、その後、順調に回復に向かい、2013年2月に輸入月齢制限が20カ月齢から30カ月齢に緩和されたことなどを受け、2013年の輸出量は20万トンを超えた(図13)。

 ほかの仕向先と異なり、日本へは、冷蔵・冷凍ともにバランスよく輸出されている。これは、米国産牛肉が同一部位を安定的、かつ、十分に供給する力があるため、テーブルミートから加工用まで幅広い用途に対応できることが大きい。2013年の日本向け冷蔵・冷凍の内訳を見ると、冷蔵牛肉輸出先としては第3位(冷蔵牛肉輸出量全体の24%)と2009年以降、増加傾向で推移している。また、冷凍は同じく第2位(同27%)となった。

 一方、2014年は減産に伴う価格上昇により輸出価格が上昇していることで、1〜6月の日本向け輸出(副産物・子牛肉を除く。)は、前年同期比6.9%減の9万4000トンとなった。市場関係者によると、米国の牛肉生産量が減少する中で一定規模の需要があることから、日本からの需要が多い部位の対応が困難な状況もあるとしている。このため、今後も米国の価格上昇が続いた場合、米国内への供給が優先され、日本向け輸出量は前年の水準を割り込むとの見方も出ている。
図13 日本向け牛肉輸出量の推移
資料:USDA
注1:副産物などを除く
  2:冷蔵はHSコード0201.20、0201.30で集計
    冷凍はHSコード0202.20、0202.30で集計
 イ カナダ

 カナダ向け牛肉輸出量は、1989年の米加自由貿易協定(FTA)発効以降、安定して推移しており、2013年には牛肉輸出量の18%となった。2003年以降は、BSEの発生によりカナダが輸入禁止措置を講じたため大幅に減少したが、2004年以降、順調に回復している。

 2013年のカナダ向け冷蔵・冷凍の牛肉輸出量を見ると、冷蔵牛肉輸出先としては第1位(冷蔵牛肉輸出量全体の30%)となったものの、2011年以降、米国産牛肉の価格高や日本やアジア諸国での需要増により2年連続で減少となった。また、冷凍は同じく7位(同2%)で冷蔵牛肉と同様、2011年以降、減少傾向で推移している(図14)。

 カナダ向け輸出は、高級部位を中心としていることもあり、2013年の輸出額は10億ドル(1050億円)を突破している。
図14 カナダ向け牛肉輸出量の推移
資料:USDA
注1:副産物などを除く
  2:冷蔵はHSコード0201.20、0201.30で集計
    冷凍はHSコード0202.20、0202.30で集計
 ウ メキシコ

 メキシコ向けの牛肉輸出量は、1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)発効以降増加し、2013年には米国の牛肉輸出量の16%を占めるまでになった。2008年以降は、米国の牛飼養頭数減少に伴う減産や牛肉価格の上昇、また、2011年のメキシコでの干ばつによる同国のと畜頭数増加に伴う牛肉生産量の増加などにより、2012年まで輸出は減少傾向で推移した。2013年は、干ばつの緩和に伴う牛群再構築などによりメキシコ国内のと畜頭数が減少したことで牛肉生産量が減少し、同国向け輸出量は増加に転じている。

 2013年のメキシコ向け冷蔵・冷凍の牛肉輸出量を見ると、米国からの冷蔵牛肉の輸出先としては第2位(冷蔵牛肉輸出量全体の29%)となった。また、冷凍牛肉は同じく第6位(同2%)で前年比87%増となったものの、2003年以降、低水準で推移している(図15)。

 2013年のメキシコ経済は、前年後半からの景気後退により1%台の成長率となったが、2014年は公共投資の拡大などにより3%台まで回復すると予想されており、米国からの牛肉輸出増加が期待されている。
図15 メキシコ向け牛肉輸出量の推移
資料:USDA
注1:副産物などを除く
  2:冷蔵はHSコード0201.20、0201.30で集計
    冷凍はHSコード0202.20、0202.30で集計
北米自由貿易協定(NAFTA)の概要

 北米自由貿易協定(NAFTA)は、米国、カナダ、メキシコの3カ国により締結された地域自由貿易協定であり、1994年1月1日に発効した。NAFTAでは一部の例外品目はあるものの、加盟3カ国の関税および非関税障壁を15年間(農作物は10年間)で撤廃し、貿易の拡大と投資の促進を図ろうとするものである。

 NAFTAは、米国およびカナダ間で1989年に発効していた米加自由貿易協定(米加FTA)を包含している。生きた家畜、牛肉、豚肉などの関税については、合意内容が前倒しされ、1993年から無税となっている。


 エ 香港

 香港向け牛肉輸出量は、韓国や日本と同様、2003年以降、米国のBSEの発生により大きく減少したものの、2005年に米国産牛肉の月齢制限が緩和(30カ月齢未満に引き上げ)されたことで、その後は増加傾向で推移している。2013年の輸出量は、牛肉需要の増加などにより前年比90%増と大幅に増加し、輸出先では第4位に躍進した。

 2013年の香港向け冷蔵・冷凍の牛肉輸出量を見ると、冷蔵牛肉は2000年と比べて10倍以上増加しているが、依然、冷蔵牛肉輸出量全体に占める割合は1.7%とわずかである。一方、冷凍牛肉は輸出先としては第1位(冷凍牛肉輸出量全体の28%)となった(図16)。また、最近、輸出単価が上昇しているとのことから、従来スソ物といわれた低価格の製品から、価格の高い部位へと輸出内容に変化が生じてきたことがうかがえる。

 こうした中、香港が2014年6月に、米国産牛肉の輸入月齢制限を撤廃したことで、今後、さらなる輸出量の拡大が見込まれる。

 なお、2013年の香港向け米国産牛肉輸出量(副産物を含む。)16万3000トンを香港の人口711万人(2011年)から算出すると、1人当たり約23キログラムとなり、日本(同約6キログラム)を大幅に上回り、米国の消費水準に匹敵する。このため、相当部分が加工製品などとして中国などに出荷されているとみられている。このようなことから、米国食肉輸出連合会(USMEF)では、香港と中国、さらにマカオとベトナムを加えて大中華圏として市場を捉え、輸出戦略を立てており、他の輸出国にとっても注目に値する動きと言えよう。

 中国の牛肉消費は引き続き拡大が見込まれる中で、今後の香港向けの輸出の動向は、他の米国の輸出先にも大きな影響を及ぼす可能性がある。
図16 香港向け牛肉輸出量の推移
資料:USDA
注1:副産物などを除く
  2:冷蔵はHSコード0201.20、0201.30で集計
    冷凍はHSコード0202.20、0202.30で集計
 オ 韓国

 韓国向け牛肉輸出量は、米国でのBSE発生に伴い、2003年以降大きく減少したものの、その後の輸入月齢制限の緩和などにより、2006年以降増加傾向で推移している。2013年の輸出量は、韓国の牛肉生産量の増加や豪州産牛肉の輸入増により減少となった。

 2013年の韓国向け冷蔵・冷凍の牛肉輸出量を見ると、冷蔵牛肉は、輸出量として第6位(冷蔵牛肉輸出量全体の2.4%)となり、2009年以降、ほぼ横ばいで推移している。一方、冷凍牛肉は同第3位(冷凍牛肉輸出量全体の21%)となったが、米国産牛肉の価格上昇などにより、2011年以降、減少傾向で推移している(図17)。

 米国は、韓国と2011年に自由貿易協定(FTA)を締結し、米国産牛肉に対して2012年から関税を段階的に引き下げ、2026年にはゼロにすることとしている。このため、今後、米国からの牛肉輸出量の増加が見込まれているが、2014年は米国の牛肉価格が高水準にある中で、豪州産牧草肥育牛肉(グラスフェッド)の輸入価格が米国産に比べて割安とされることから、関税削減の効果は発揮されないとの見方も出ている。
図17 韓国向け牛肉輸出量の推移
資料:USDA
注1:副産物などを除く
  2:冷蔵はHSコード0201.20、0201.30で集計
   冷凍はHSコード0202.20、0202.30で集計
 カ その他

 このほか、中東地域向け輸出の伸びも目立っている。原油価格の上昇を背景とした経済成長やドバイなどの観光開発などにより、この地域の牛肉需要は高まっているとみられ、米国からの輸出量も増加基調にある。USMEFによると、2013年の同地域向け輸出量は14万8000トン(2004年比で7倍弱の増加)、輸出額は2.8億ドル(294億円、同2倍弱の増加)となった。輸出は主に価格帯の安い冷凍牛肉が中心とみられている。

 中東地域は、豪州やブラジルなど他の牛肉輸出国と競合するが、一定の需要が見込まれるだけに今後の伸びが期待されている。

(4)まとめ

 日本の牛肉輸入量全体の約4割を供給する米国では、2006年以降の度重なる干ばつの影響を受け、牛飼養頭数が減少したことで2013年の牛肉生産量は3年連続の減少となった。また、USDA/ERSによると、2016年までは牛飼養頭数の減少が続き、牛肉生産量のさらなる減少が見込まれている。

 2013年に入り、一部地域を除いて干ばつの影響が緩和され、放牧環境が改善されつつあることから、繁殖農家を中心に牛群再構築に向けた動きがみられている。このため、繁殖雌牛を中心にと畜頭数が減少しており、肥育牛価格はかつてない高水準で推移している。食肉パッカーの多くは、肥育牛の確保が困難なことでと畜場を閉鎖するなど牛肉生産・供給面での問題も生じてきている。

 また、牛肉生産量の減少に加え、国内の牛肉消費が引き続き好調であることや、中国や香港などの牛肉需要の増加などにより、輸出向け米国産牛肉の価格も高値で推移している。特に、日本向け牛肉輸出量の半分以上を占める冷凍牛肉は、韓国や香港の輸入需要と競合関係にあることから、価格高により商品を確保できない事態も出ているとされる。当面の牛肉生産量が低水準で推移することが予想される中で、輸入国側から見ると、冷凍牛肉を中心に輸入牛肉確保は厳しさを増す可能性がある。

 一方で、10億を超える人口を抱え、世界最大の牛肉消費国とされる中国では、2003年の米国でのBSE発生以来、米国産牛肉の輸入を禁止しているが、豪州やカナダ、南米からの輸入が増加しており、その輸入量は年々拡大している。牛肉輸出国が限られる中で、中国や新興国の牛肉需要の拡大は継続すると見込まれることから、米国産牛肉の輸出価格も上昇基調が続くとみられている。

〔渡邊 陽介、山神 尭基、横田 徹〕


中国の牛肉需給動向
○ 消費

 国際通貨基金(IMF)によると、中国の2011〜13年の実質GDP成長率は8.2%となった。2ケタ成長を誇った時期に比べて景気の失速感はあるものの、いまだに高い水準にある。こうした経済成長に伴い、国民1人当たり所得も2000年に入ってから急速に増加しており、購買力の高まりをみせている(図18)。
図18 人口と国民1人当たり所得の推移
資料:国連統計部(人口)および世界銀行(GNI)より機構作成
  注:2014年以降は予測値
 中国の食肉消費は、豚肉、鶏肉、牛肉の順に多く、牛肉は1人当たり5キログラム程度である。1人当たり消費量については、消費者の購買力の向上によりおおむね増加傾向にある(図19)。特に2013〜14年前半は鳥インフルエンザ(H7N9型)の発生により鶏肉消費が落ち込み、牛肉などほかの食肉消費が増加したとされる。

 米国農務省(USDA)によると、2014年の中国の牛肉消費量は過去最高の626万トン(前年比5.1%増)と見込まれている。国内の牛肉需要は、1人当たり消費量の増加や生産年齢人口の割合が多いこと(人口ボーナス)を考慮すると今後も堅調に増加するとみられる。
図19 食肉の年間消費量の推移
資料:USDA(消費量)、FAO STAT(1人当たり消費量)
写真5 盛況なスーパーの食肉売り場:北京市内
○ 生産

 USDAによると、牛の飼養頭数は、2008年以降緩やかな減少傾向にあり、2014年は1億419万頭(前年比0.02%減)となった(図20)。肉用牛は豚や鶏などに比べて生産サイクルが長いため、飼料費などの投入コストも多くなる。このため、零細経営が依然として多い中で規模拡大に取り組む生産者が少なく、頭数増加には至っていない。
図20 牛の飼養頭数と牛肉生産量の推移
資料:USDA
注1:乳牛を含む
  2:生産量は枝肉重量ベース
 一方、牛肉生産量は、2012年以降緩やかな増加傾向にあり、2014年は576万トン(前年比2.2%増)と見込まれている。これは、国内の旺盛な需要を受けてと畜頭数が増加しているためであり、結果として飼養頭数減少の一因となっている。

 このような中、国家発展改革委員会(中央政府)は2013年9月、「全国牛肉・羊肉生産発展計画(2013−2020年)」を公表した。同計画は、資金面や技術面のサポートを通じて飼養頭数の増加、ひいては牛肉の増産を図るものであり、中央政府が国内の牛肉生産の支援を行うのは初の試みとなる。しかし、養豚や家禽の支援策に比べて融資額などが少ないことや、支援対象農家が限られているため、政策の実効性は不透明である。

 牛肉の国内生産量は緩やかに増加しているものの、需要の伸びに供給が追いつかず牛肉の小売価格は上昇傾向にある(図21)。2014年8月の価格(もも)は、1キログラム当たり66.3元(1127円)とこの5年間で2倍程度値上がりしており、輸入牛肉に対する価格競争力を失っている。
図21 牛肉(もも肉)の小売価格の推移
資料:中国国家統計局
  注:50都市の平均価格
○ 輸入

 増加する国内の牛肉需要を賄うため、牛肉輸入量は近年、急増しており、2013年は前年比約4.8倍の29万4000トンとなった(図22)。2014年に入ってからもこの勢いは衰えず、上半期(1〜6月)は15万6000トン(前年同期比30.9%増)と、大幅に増加している。
図22 牛肉輸入量の推移
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード0201、0202で集計
 現在、中国への牛肉輸出が許可されているのは、豪州、NZ、カナダ、ウルグアイ、ブラジル、アルゼンチン、コスタリカの7カ国である。最大の輸入先は豪州であり、輸入量全体の過半を占める。とりわけ冷蔵牛肉については、ほぼ豪州からの輸入となっている。なお、豪州産冷蔵牛肉については、中国が使用を禁止している成長促進物質が検出されたため、2013年8月に輸入停止となったが、衛生条件の協議の結果、2014年5月に再開された。

 ブラジルについては、2012年にブラジル・パラナ州で発生した非定型BSEにより、中国は2012年12月から輸入を停止していたが、習近平国家主席の訪伯に伴い2014年7月からの輸入再開が決定された。米国については、2003年の同国でのBSE発生以降、輸入停止が続いている。

 中国では、食肉に関する不正事件が幾度となく発生しており、消費者の食の安全への意識は年々高まっている。このため、牛肉の安全性に対する信頼の厚さといった面でも輸入品への需要は今後も高まると見込まれる。

 一方、香港の牛肉輸入量は、中国本土と同様に急増しており、2013年は前年比約2倍の32万9000トンとなった(図23)。また、2014年上半期も19万1000トン(前年同期比38.0%増)と大幅に増加している。主な輸入先は米国とブラジルであり、この2カ国で輸入量全体の9割を占める。米国産牛肉について香港は段階的に輸入制限を緩和しており、2014年6月に月齢制限が撤廃された。これにより輸入可能な製品が拡大するため、米国産牛肉の輸入量は今後も増加すると見込まれる。
図23 香港の牛肉輸入量の推移
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード0201、0202で集計
〔木下 瞬〕

2 豪州

(1)概況

 ア 飼養頭数

 近年、豪州の牛総飼養頭数は2600万頭〜3000万頭で推移し、うち肉牛が2400万頭〜2600万頭程度と、全体の9割弱を占めている(図24)。肉牛の飼養形態は、放牧が主体である。穀物などの濃厚飼料を与え集約的に肥育するフィードロットの飼養頭数は、肉牛全体の3%程度にすぎず、かつ、フィードロットへの導入までは放牧で育成される。したがって、肉牛飼養頭数は気象状況に大きく左右される構造となっており、干ばつにより放牧環境が悪化すると、肉牛は早期出荷・淘汰されるため、飼養頭数は減少に向かう。2000年以降では、2度の大干ばつの発生による頭数の減少があったが、2010年以降は気象状況の改善に伴う牛群再構築により増加に転じ、2013年までのところ高水準を維持している。同年6月末時点の牛総飼養頭数は、1978年に次ぐ高水準の2930万頭、うち肉牛は2650万頭となった。

 一方、2012年後半頃から東部の広範囲で高温乾燥気候に転じ、肉牛主産地のクイーンズランド(QLD)州では干ばつに発展したことから、2013年以降、と畜頭数は増加傾向にある。このことから、豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)は、牛総飼養頭数は2015年まで減少するとみており、同年6月末時点の牛総飼養頭数を、過去20年で最低水準の2610万頭と見込んでいる。
図24 牛飼養頭数の推移
資料:豪州農業資源経済科学局(ABARES)(〜2013年)、MLA(2014年)
  注:6月末時点
 イ 牛と畜頭数・牛肉生産量

 前述のとおり、肉牛のと畜頭数は、気象状況による影響を反映して推移しており、図25からは、干ばつの発生でと畜頭数が増加し、飼養環境の改善に伴う牛群再構築により減少することが見てとれる。2013年のと畜頭数は、前年後半からの干ばつによって836万頭となり、1000万頭を超えていた1978年以来の高水準となった。
図25 牛と畜頭数の推移
資料:豪州統計局(ABS)(〜2013年)、MLA(2014年〜)
  注:子牛を除く
 2014年は、前年並みの高水準とみられるが、2015年は、雌牛の淘汰による出生頭数の減少でと畜適期の肉牛が不足することに加え、干ばつの終息によって牛群再構築が進むことから、740万頭に減少するとみられている。

 一方、牛肉生産量は、と畜頭数の変動に比べて緩やかに推移している。これは、天候に恵まれた年には肥育期間の長期化により1頭当たり枝肉重量は増加するが、干ばつの年には早期出荷により減少する上、雌牛のと畜割合も増加することによる。このため、2011年や2012年は、2010年と比較し、と畜頭数が減少したものの、牛肉生産量はわずかながらも増加している(図26)。

 また、2013年の1頭当たり枝肉重量は前年を下回ったものの、と畜頭数の大幅な増加を受けて生産量は232万4000トンと過去最高記録を更新した。

 なお、長期的に見れば、1頭当たり枝肉重量は出荷体重の増加や牧草の品種改良、牛の遺伝的改良を受けて増加傾向で推移している。
図26 牛肉生産量および1頭当たり枝肉重量の推移
資料:ABS
  注:子牛肉を除く。枝肉重量ベース
 ウ 牛肉輸出量

 生産された牛肉は、全体の約3割が国内消費となり、残りの約7割が輸出に向けられる(図27)。このため、牛肉の生産や価格は海外市場の影響を受けやすい構造にある。
図27 牛肉生産量の仕向けの内訳(2013年)
資料:MLAから機構作成
注1:いずれも子牛肉を含み、枝肉重量ベース
  2:輸出仕向け量は「牛肉生産量−(国内消費量−牛肉輸入量)」で算出し、
   缶製品などを含む
 主な牛肉輸出先は、日本、米国、韓国の3カ国とされ、米国でのBSE発生により日本や韓国向けが増加した2004年には、これら3カ国が輸出量全体に占める割合は91%にまで高まった(図28)。その後、わが国における米国産の輸入解禁や、需要が高まる東南アジアや中東などへの輸出量の増加から、この割合はほぼ一貫して減少している。特に、2013年は、前年後半頃からの中国向けの輸出急増なども加わり、過去最高の109万9484トンとなった一方で、主要3カ国のシェアは前年から9ポイント低下し、59%となった。
図28 牛肉輸出量の推移
資料:豪州農漁林業省(DAFF)
  注:子牛肉含む。船積重量ベース。缶製品などは除く(以下同じ)
 エ 生体輸出頭数

 豪州では、年間肉牛出荷頭数の6〜10%が生体で輸出されている(図29)。特に、北部準州(NT)やQLD州北部、西オーストラリア(WA)州北部では、肥育もと牛や輸出先国の食肉処理・加工施設に直接出荷される肉牛(以下「と場直行牛」という。)の、東南アジアや中東に向けた生体輸出が重要な産業の一つとなっている。
図29 牛の形態別出荷頭数の推移
資料:ABS、MLA
  注:国内と畜には子牛も含む
 生体牛の輸出頭数は、近年50万〜100万頭の間で推移しており、その過半をインドネシア向けが占めている(図30)。このため、生体牛の輸出は、インドネシアの需給動向を強く反映している。インドネシアは、2010年から2012年にかけて、国内の牛肉生産振興のために、豪州からの生体牛輸入の割当頭数を大幅に削減し、このことが、豪州における2013年までの飼養頭数の増加や2013年以降のと畜頭数の増加の要因の一つとなっている。
図30 生体牛輸出頭数の推移
資料:MLA
  注:乳牛を含む
 2013年の生体牛輸出頭数は85万273頭となり、うちインドネシア向けが45万4152頭、イスラエル向けが9万8320頭、ベトナム向けが6万6951頭、中国向けが6万6573頭となった。なお、中国向けは、近年輸出頭数は増加傾向にあるが、その大半を、同国の酪農生産の振興を受けて、乳牛が占めている。

(2)牛肉生産を取り巻く状況

 ア 気候変動(干ばつ)

 豪州東部では、2012年後半以降高温・乾燥が急速に進行した(図31)。2014年以降はニューサウスウェールズ(NSW)州南部やビクトリア(VIC)州などでは改善が見られているが、肉牛の約半数が飼養されるQLD州では、2年連続で雨季(11月〜翌3月:夏)にまとまった降雨がなかったことから、放牧環境が著しく悪化した。2014年8月現在、同州の4分の3が干ばつ宣言地域に指定されている。
図31 2012年8月〜2014年7月の降雨の状況
(左:2012年8月〜2013年7月、 右:2013年8月〜2014年7月)
資料:豪州気象局(BOM)
 2012年以前の豪州東部は、良好な天候に恵まれたことで、飼養頭数は順調に拡大した経緯があり、2011年6月末時点のQLD州の肉牛生産者1戸当たりの肉牛飼養頭数は、1516頭と高い水準となった(図32)。その後、放牧環境が悪化したことで牛群を維持することができず、牛の淘汰は急速に進み、干ばつが長引くにつれて、と畜頭数の増加傾向がさらに強まっている(図33)。干ばつが進行し始めた2012年7月から2014年6月までの24カ月間のと畜頭数は、前の2年間より200万頭多い1657万頭となった。また、と畜頭数に占める雌牛の割合も高まっており、2014年2月以降は50%を上回って推移している。
図32 QLD州の肉牛生産者1戸当たり飼養頭数の推移
資料:ABARES
  注:6月末時点
図33 牛と畜頭数の推移
資料:ABS
  注:子牛を除く
写真6 QLD州南部ダーリングダウンの農場
干ばつによって牧草が減少し、補助飼料を給与している。
 イ 干ばつによる経営への影響

 肉牛価格の指標となる東部地区若齢牛指標(EYCI)価格を見ると、牛群再構築が行われ、肥育もと牛の出荷やと畜頭数が減少した2011年は高水準で推移し、同年12月には1キログラム当たり428豪セント(424円)と過去最高値をつけた。しかしながら、高温・乾燥気候に転じた2012年後半以降、と畜頭数の増加、早期出荷による肉牛の品質低下、牧草肥育牛生産者からの肥育もと牛需要の減少などから右肩下がりとなり、2014年1月下旬には同278.5豪セント(276円)まで下落した(図34)。

 こうした状況を受け、干ばつが長引く北部の肉牛生産者の経営は悪化している。2013/14年度(7月〜翌6月)の北部の肉牛生産者1戸当たり現金所得は4万9000豪ドル(485万円)と、過去10年平均の5割程度にまで減少した(図35)。
図34 EYCI価格の推移
資料:MLA
注1:枝肉重量べ−ス
 2:EYCI価格は東部3州(QLD州、NSW州、VIC州)の主要家畜市場の
   若齢牛加重平均取引価格
  ※家畜市場の指標価格となっており、肥育牛や経産牛の家畜市場価格
   などとも9割近い相関関係にある
図35 肉牛生産者の現金所得の推移
資料:ABARES
注1:2012/13年度は暫定値、2013/14年度は推定値
  2:過去10年平均は、2013/14年度を基準に物価変動の影響を除いて
   算出した実質ベースの値
写真7 家畜市場での肉牛取引
 一方、フィードロットの肉牛生産に影響を与える飼料穀物のうち、冬作物の小麦価格を見ると、フィードロット飼養頭数の6割を占めるQLD州の飼料用小麦価格は、2014年以降、製粉用とほぼ同等まで高騰している(図36)。

 2013/14年度の冬作物の生産量は、最大の生産地域であるWA州や南オーストラリア州の主要生産地帯で生育期の降雨に恵まれたことから、過去2番目の高水準となった。一方、QLD州やNSW州北部では、干ばつにより2年連続の減産となり、同州南部の穀倉地帯ダーリングダウンの周辺に集まるフィードロットとブロイラーなどとの飼料需要が競合したため、QLD州の穀物価格は飼料用を中心に高騰した。現在は、一時期よりも下落しているものの、VIC州などと比べると依然高い水準で推移している。
図36 QLD州の穀物価格の推移
資料:Profarmer
  注:QLD州ブリスベン港およびVIC州Geelong港の生産者
    販売価格
 飼料穀物価格は上昇しているものの、干ばつにより肥育もと牛価格が下落していることから、フィードロット経営は、牧草肥育経営ほど状況が悪化していない。海外市場からの堅調な需要も加わって、肥育もと牛の導入頭数は増加しており、フィードロットの平均飼養頭数は、2013年に前年を7%上回る81万7000頭となり、2014年第1四半期(1〜3月)には87万4000頭と、2006年12月以来の高水準となっている。また、稼働率(収容能力に占める飼養頭数の割合)も79%にまで高まっている(図37)。
写真8 QLD州で生産されるソルガム
降雨不足によるは種の遅れから生育が遅れ、実なりも悪い。
図37 フィードロット平均飼養頭数と稼働率の推移
資料:豪州フィードロット協会(ALFA)
  注:稼働率は収容能力に占める飼養頭数の割合で算出
 肉牛の供給力が、これまでのと畜の増加によって低下しつつあることからも、今後、国内の肉牛価格は上昇するとみられ、肉用牛生産者の経営状況の改善が期待されている。一方、フィードロットについては、肥育もと牛となる若齢牛の出荷が減少し、価格が上昇すると見込まれることから、飼養頭数は現在よりも減少するとみられる。

(3)輸出動向

 干ばつによると畜頭数の増加に海外からの堅調な需要が加わり、牛肉輸出量は2010年以降、増加の一途をたどっている。2013年5月には初めて単月で10万トンを超え、2014年7月までに単月記録は数度更新されており、この輸出増加を米国や韓国、中国、インドネシアなどの堅調な需要が吸収した。

 豪州産の強みとしては、口蹄疫やBSEの未発生国であること、アジアや中東などへのアクセスが良いこと、多様な飼養品種や飼養方法(牧草肥育と穀物肥育、さまざまな出荷月齢)による製品の多様性や価格の柔軟性があること―が挙げられる。

 豪州は、米国でのBSE発生後に日本や韓国への輸出を伸ばしたが、近年は、製品の多様性や価格の柔軟性を活かし、価格の安いインド産や南米産に対抗しつつ東南アジアや中東にも輸出を伸ばしている(図38)。
図38 豪州の主要3カ国以外への牛肉輸出量の推移
資料:DAFF
注1:船積重量ベース
  2:ASEAN5カ国はフィリピン、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、CISはロシア他
 ア 種類別の動向

 現地関係者によると、新たな市場の需要は、主に冷凍牛肉や牧草肥育(グラスフェッド)牛肉に対するものであり、冷蔵牛肉や穀物肥育(グレインフェッド)牛肉への需要はまだ限定的であるという。このことは数値にも表れており、冷蔵および冷凍牛肉の輸出量の推移を見ると、冷蔵牛肉はここ数年25万〜27万トンとほぼ変化が見られない一方、冷凍牛肉は増加を続けており、2010年以降の輸出をけん引している(図39)。また、飼養方法別の輸出動向を見ると、ここ数年、グレインフェッド牛肉輸出量は20万トン前後で推移する一方、グラスフェッドは確実に伸びている(図40)。
図39 冷蔵・冷凍別牛肉輸出量の推移
資料:DAFF
  注:船積重量ベース
図40 飼養方法別牛肉輸出量の推移
資料:DAFF
  注:船積重量ベース
 イ 国別の動向

 (ア) 日本

 日本は2004年以降、最大の輸出先であったが、日本での米国産の輸入再開に伴って、日本向け輸出量は減少傾向にあり、2013年は28万8794トンとなった(図41)。日本での米国産との競合は冷蔵で著しく、冷凍牛肉は一定水準を維持する一方、冷蔵牛肉は右肩下がりの推移となっている。

 2013年の国別牛肉輸出価格を見ると、冷蔵と冷凍のいずれも、日本向けはおおむね他国を下回っており、他国向けとの競合の激化も減少に影響したとみられる(図42)。
図41 日本向け牛肉輸出量の推移
資料:DAFF
  注:船積重量ベース
図42 国別牛肉輸出価格の比較(2013年)
資料:ABSから機構作成
  注:HSコード0201、0202で集計
 2014年1〜7月の輸出量15万8359トンの内訳を見ると、冷凍牛肉は米国向けや中国向けとの競合により8万9547トン(前年同期比14.4%減)と大きく減少した。一方で、冷蔵グレインフェッド牛肉は4万6803トン(同4.6%増)と増加しており、これは、米国産牛肉の価格高騰や日本国内の牛肉生産減少から、豪州産への引合いが強まっていることが要因となっている。

 MLAは、今年7月に調印された日豪EPA(経済連携協定)について、豪州にとっては輸出促進の機会を創出するとしているが、日本にとっては米国向けと主に加工用で、中国向けと冷凍牛肉全般で競合するほか、インドネシアやEU向けなどほかの成長市場との価格競争によって、EPA発効後も厳しい取引環境が続くとみている。

 (イ) 米国

 近年、米国は、豪州の第2位の牛肉輸出先となっている。2013年の輸出内訳は、冷凍牛肉が83%を占め、部位別では、ハンバーガーなどの原料となる加工向けが7割を占めている。

 米国向け輸出量は、米国内の近年の牛肉輸入量の減少に伴って減少傾向で推移し、2013年には21万2702トン(前年比5.1%減)と2001年と比べると半減したが、2014年から好調に推移し、2014年1〜7月では19万595トン(前年同期比1.6倍)と日本向けを超える数量となった(図43)。
図43 米国向け牛肉輸出量の推移
資料:DAFF
  注:船積重量ベース
 米国では、と畜頭数の減少により牛肉価格が高騰しており、2013年後半から、加工向けを中心に豪州産への引き合いが強まっている。このため、豪州産の米国向け輸出価格は上昇しており、加工向け牛肉の輸出価格は8月最終週には1キログラム当たり634豪セント(628円)と最高値をつけた(図44)。米国向け価格の高騰は、日本向け価格の上昇要因の一つにもなっている。
図44 米国向け牛肉輸出価格の推移
資料:MLA
  注:米国向け加工用は経産牛・90CL(赤身率90%の加工用バルクパック)。
   日本向けばらはブリスケット。いずれも豪州の港における船側渡し(FAS)
   価格
 (ウ) 韓国

 米国でBSEが発生する2003年まで、韓国の最大の輸入相手先は米国であったが、米国産の牛肉輸入停止により、豪州の韓国向け輸出量は2004年から2006年にかけて増加した(図45)。
図45 韓国向け牛肉輸出量の推移
資料:DAFF
  注:船積重量ベース
 2007年以降は、米国産の輸入量増加に伴って減少傾向にあったものの、2009年には底を打ち、2013年は14万4364トン(前年比14.6%増)、2014年1〜7月は8万5946トン(前年同期比15.7%増)と、好調に推移している。これは、韓国国内での牛肉や豚肉の生産量減少に加え、米国産に比べ豪州産の価格優位性がさらに高まっていることによる。

 韓米FTA(自由貿易協定)が発効した2012年から、米国産の関税率は段階的に引き下げられ、2014年の豪州産と米国産の関税率の差は8.0%となっている。しかしながら、豪州産と米国産の輸入価格(CIF)を見ると、米国産が減産で高騰しているため、豪州産との価格差は拡大傾向にある(図46)。2014年1〜6月の米国産の輸入価格は、冷蔵、冷凍ともに、豪州産を大きく上回り、図47のとおり関税率の差を相殺する形となっている。

 韓豪FTAは2014年4月に調印され、米国産と同様、現在の関税率40%は15年かけて撤廃される予定である。今年中に発効されれば、以降の豪州産と米国産との関税率の差は5.4%に縮小されることになり、豪州はこれが韓国市場での優位性につながるとみている。
図46 韓国における豪州産と米国産の牛肉輸入価格(CIF)の推移
資料:GTI社「Global Trade Atlas」
  注:HSコード0201、0202で集計
図47 韓国における豪州産と米国産の
関税課税後の価格比較(2014年1〜6月)
資料:GTI社「Global Trade Atlas」
注1:HSコード0201、0202で集計
  2:1トン当たり価格はCIF価格、関税相当額はCIF価格に対し、
   豪州産には関税率40%、米国産には同32.0%を乗じたもの
 (エ) 中国

 中国向け輸出量は2012年9月頃から増加し、2013年は前年の4.7倍となる15万4833トンと急伸した(図48)。内訳を見ると、冷凍牛肉が9割を占め、部位別ではばら、もも、すねが満遍なく輸出されており、日本向けでは約4割を占める加工向けは1割に満たない(図49)。特にばらは価格面で日本向けと競合し、輸出量の減少の要因になったとされる。
図48 中国向け牛肉輸出量の推移
資料:DAFF
  注:船積重量ベース
図49 中国向けの主要部位別牛肉輸出量推移
資料:MLA
  注:船積重量ベース
 2014年1〜7月は7万8978トン(前年同期比1.9%増)と、輸出の伸びはやや減速した。中国は、2013年9月に、品質管理上の措置として、豪州の食肉処理加工施設の冷蔵牛肉の輸出認可を取り消すとともに、今年5月には衛生条件の変更により成長ホルモン(HGP)の使用を禁じており、これが影響したとみられる。ただし、今年7月から一部施設からの冷蔵牛肉の輸出が再開されている。

 中国政府は現在、インドからの水牛肉の輸入開始や、ブラジル、米国からの輸入再開に向けた交渉を進めているとされるため、今後、他国産との競合が強まると見る向きもある。一方、豪州政府は、中国と年内のFTA締結を目指して交渉を進めるほか、生体牛輸出拡大のための協議も行っている。

 (オ) 東南アジア・中東

 東南アジア向け牛肉輸出量の約4割を占めるインドネシア向けの動向を見ると、2009年まで増加傾向で推移した後、2011年、2012年は牛肉輸入枠の縮小により大きく減少した。しかし、2013年は、国内の牛肉価格高騰を抑制するために、後半以降の牛肉輸入枠が拡大されたことから再び増加し、3万9418トン(前年比45.5%増)と4年ぶりに増加した(図50)。
図50 インドネシア向け牛肉輸出量の推移
資料:DAFF
  注:船積重量ベース
 MLAによると、中間所得層の拡大とともに、牛肉の販売が、パサールと呼ばれる伝統市場から高級スーパーでの小売りに移行しつつあることや、高級外食産業での消費が増えていることも、輸出量増加の要因になっているとしている。2014年1〜7月の輸出量は3万3152トン(前年同期比76.5%増)となり、2014年通年では2009年(5万1815トン)を上回り、過去最高を更新するとみられている。

 一方、中東向けの5割を占めるサウジアラビア向け輸出量は、2013年に3万1126トン(前年比5.9倍)と急増し、2014年1〜7月も2万2513トン(同11.7%増)と、これまでのところ好調に推移している(図51)。

 サウジアラビアは、2012年12月のブラジルでのBSE発生により、同国からの牛肉輸入を停止した。輸入の内訳を見ると、2012年はインド産が60%、ブラジル産が26%であり、豪州産は5%に満たなかったが、ブラジル産が禁止された2013年以降、豪州産は同国のシェアを奪った状況となっている。

 MLAは、ブラジル産の輸入が再開されれば、豪州産は冷凍を中心に減少するとみる一方で、堅調な需要が見られる冷蔵の高価格帯を中心に、サウジアラビアでの一定のシェアを保つとみている。
図51 サウジアラビア向け牛肉輸出量の推移
資料:DAFF
  注:船積重量ベース

(4)まとめ

 2013年の豪州の牛肉輸出量は、2012年後半から悪化した干ばつに伴い牛肉生産量が増加する中で、中国における需要急増や米国での牛肉生産量の減少、2012年末のブラジルでのBSE発生などが重なった結果、過去最高を記録した。

 豪州政府は、今年4月に韓国とのFTA、7月に日本とのEPAに調印し、中国とのFTA交渉も年内締結を目標としている。生体牛についても、今年に入りエジプトやカンボジアなど4カ国へのアクセスを獲得した。こうした動きについて、豪州政府は、長引く干ばつに苦しむ生産者に、出荷先の選択肢を広範囲に用意することが政府の重要な役割だとしている。

 南部では、気象条件が改善したことや好調な輸出需要を受けて、2014年に入って以降、肉牛価格は前年に比べると上昇基調で推移している。と畜頭数や生体牛輸出が増加し、肉牛供給力が低下しつつある中、北部での牛群再構築が進行すると、さらに供給量は減少し、肉牛および牛肉価格は急騰するとみられている。

 このため、豪州産への堅調な需要が引き続き見込まれる中にあっては、価格志向の強い市場を中心に、今後の日本における豪州産の手当てが困難になっていくものと考えられる。

〔伊藤 久美〕


NZの牛肉生産・輸出概況
○ 概要

 世界第5位の牛肉輸出国であるNZでは、豪州と同じく生産量に比べて国内の市場規模が小さい(人口:440万人)ことから、必然的に輸出市場を念頭に置いた需給バランスとなる。ただし、豪州との違いとして、NZ国内では穀物の生産基盤が非常に小さく、基本的には牧草肥育による牛肉輸出が中心となる。また、NZは世界的な主要酪農生産・輸出国であることで、輸出される牛肉は酪農部門から供給される乳用種の肥育や経産牛を多く利用していることが特徴的であり、飼養頭数の約7割は酪農が盛んな北島で肥育されている。このため、一般的に、低コスト生産による牛肉が中心となる。

 牛の飼養動向を見ると、世界的な乳製品需要の高まりを背景に酪農生産・輸出が伸びており、飼養頭数はこの10年間で乳牛が約3割の増加となる一方、肉牛は2割の減少となった(図52)。
図52 肉牛および乳牛頭数の推移
資料:Beef + Lamb New Zealand「Farm Facts 2014」
  注:6月30日時点
 これは、基本的に肉牛生産、酪農生産のいずれもが放牧を基本としており、農業生産者は、肉牛生産から、価格優位性のより高い酪農生産へ転換するケースが増えていることによる。NZでは、酪農生産も牛舎を持たない通年放牧が主流であることから、一定の放牧地があれば、酪農生産に移行するのはそれほどハードルが高くないとされている。また、酪農生産・経営などに対するさまざまな民間サービスも移行を後押ししている。

 なお、肉牛の生産・肥育に特化した生産者は少なく、一般的には羊との複合経営が多い。

○ 生産

 前述のように国内市場が小さいことから、牛肉生産量の約95%を輸出に向けなければならず、生産、価格ともに国際相場の影響を受けやすい。

 また、酪農生産現場からの供給が一定の割合を占めることで、例えば国際的な乳製品需要の高まりにより生産者乳価が高水準になると、酪農家の生産意欲が高まり経産牛の出荷などが少なくなる。一方、干ばつなどによる放牧環境の悪化や生産者乳価が低迷した際は、酪農家からの早期出荷が増えるなど、気候変動や乳製品相場も牛肉生産に影響を及ぼす。
写真9 肉用牛の放牧:北島
 ビーフアンドラムニュージーランド(BLNZ)は、2013/14年度(10月〜翌9月)の輸出向けの牛と畜頭数を225万頭と見込んでいる。このうち、経産牛の割合は酪農生産の拡大に伴い徐々に増加し、同年度には約4割となっている(図53)。
図53 輸出向けの牛と畜頭数の推移
資料:BLNZ
○ 輸出

 2012/13年度の牛肉輸出量を見ると、4割強が米国向けとなっている。米国向けは主にハンバーガーのパテなどに利用される冷凍の加工向けが主流である。これは、経産牛のと畜が多いNZの特徴を示したものであり、低コスト生産を武器に特定の分野で高い輸出競争力を発揮し、一方で米国側も、加工用として安定かつ低価格での数量を確保できることになる。

 このほか、中国向けの伸びも注目される。NZと中国は2007年4月に自由貿易協定(FTA)を締結しており、牛肉については2008年から段階的に関税率が引き下げられ、2016年にはゼロとなる。これを背景に、2012/13年度は米国に次ぐ輸出先であった日本を抜いて中国向けが2位となった。

 2013/14年度については、期中の実績(10月〜翌7月)であるものの、米国向けおよび中国向けで、旺盛な牛肉需要を背景に前年度水準を上回っている。一方で、日本向けは、両国への輸出が増加する中で、他の牛肉輸入国との競合などにより前年度水準をかなり大きく下回っている(図54)。
図54 牛肉の国別輸出量
資料:BLNZ
〔横田 徹〕


3 カナダ

(1)概況

 カナダの牛肉生産は、隣国の米国の牛肉需給と密接に関係しているとされる。1989年の米国との米加自由貿易協定(FTA)発効による牛肉生産・輸出部門への米国資本の参入と米国向け生体牛輸出の増加、また、2008年の米国で導入された農産物・食肉に関する原産国表示(COOL)による生体牛輸出の減少などは、カナダの肉牛飼養頭数や牛肉生産に対する大きな変動要因となっている。

ア 飼養経営体数

 肉用牛飼養経営体数は近年、一貫して前年を下回って推移しており、2014年1月は8万2515戸(うち酪農専業を除いた肉用牛飼養経営体数は6万8480戸)と、2000年と比べ3割減少した。

 カナダも米国と同様、繁殖経営、肥育経営、食肉処理・加工部門のそれぞれが専業化し、規模拡大や経営の集約化を図ることで、牛肉の生産コストを削減している。特に、米加FTAやその後のNAFTA発効により肥育や食肉処理・加工部門への米国資本の参入(現地資本の買収を含む)が増加してきたことで、大規模化がより加速したとされる。

 2014年の肉用牛飼養経営体数の内訳を見ると、繁殖経営が全体の67.1%(5万5350戸)、育成経営が同10.8%(8950戸)、肥育経営が同3.4%(2815戸)である(図55)。繁殖経営は1戸当たり飼養頭数が約120頭と、米国より専業化が進んでいる。
図55 カナダの牛飼養農家戸数の推移
資料:AAFC
  注:1月1日現在
 州別に見ると、穀物生産地帯であるアルバータ州が2万1235戸(全体の26.2%)と最も多く、次いで酪農生産が盛んなオンタリオ州が1万9385戸(同23.5%)、サスカチワン州が1万4770戸(同17.9%)と続いている。
写真10 繁殖経営:アルバータ州
 イ 飼養頭数

 2014年7月1日現在の牛総飼養頭数は、1333万頭となっている。飼養頭数については、2003年5月、BSEの発生に伴いカナダ産牛肉(生体牛を含む。)の輸入が相次いで停止された影響により、一時的に増加し、2005年には過去最高の1688万頭となった。 

 その後、米国が月齢制限など(牛肉は30カ月齢超、生体牛は1999年3月1日生まれ以降)を設けた上で、輸入解禁に踏み切ったことから、滞留していた牛が出荷され、2006年以降飼養頭数は減少傾向で推移した(図56)。
図56 種類別牛総飼養頭数の推移
資料:Statistics Canada
  注:7月1日現在
 2005年の米国向け生体牛の輸出解禁の影響により、2006年から2008年にかけて、米国からの子牛の引き合いが高まった。しかし、2年間の輸出停止の影響が響き、繁殖雌牛のと畜が進んでいたため、直ちに子牛の増頭ができず、子牛の飼養頭数は減少傾向で推移した。

 2008年に入り、米国向け生体牛の輸出は、カナダドル高(対米ドル)の影響により、生体牛に割高感が出てしまうなど、著しく落ち込むこととなる(図57)。

 このため、繁殖雌牛の頭数回復には至らなかった。
図57 米国向け肥育もと牛輸出量およびもと牛価格の推移
資料:AAFC
  注:もと牛価格は、アルバータ州の5〜600ポンド去勢牛の年間単純平均
 しかしながら、2011年以降、米国での肉牛生産地を中心に、米国の干ばつが深刻となり、米国での子牛の不足を背景としたカナダ産生体牛の需要が高まり、米国向けの肥育もと牛輸出が徐々に上昇することとなった。

 現在、カナダの飼養頭数はほぼ横ばいで推移しているが、米国の肉牛生産の回復にはさらに時間を要することが見込まれることから、繁殖雌牛後継牛頭数がCOOL施行前の水準に近づきつつある(図58)。
図58 肉用繁殖後継牛の推移
資料:Statistics Canada
  注:7月1日現在
 牛総飼養頭数を州別に見ると、経営体の分布同様、アルバータ州やサスカチワン州など西部諸州(東部諸州はオンタリオ州とケベック州)に集中しており、アルバータ州は全体の41.0%(547万頭)、サスカチワン州が21.3%(284万5000頭)と、この2州で国内の牛総飼養頭数の6割強を占めている(図59)。
図59 カナダの牛総飼養頭数の分布(2014年7月1日現在)
資料:Statistics Canada
 NAFTA発効以降、カナダ、米国の牛肉産業は、国境を挟んで分業化が進んでおり、カナダで出生した牛や豚が米国を拠点に置く肥育業者やと畜業者へ出荷され、米国で食肉となる割合が増えている。このことから、カナダの牛総飼養頭数を区分別に見ると子牛の頭数割合が最も多く、全国の32.7%(435万6000頭)を占めており、次いで、肉用繁殖雌牛が同29.4%(392万1600頭)となっている。大規模肥育(フィードロット)などで主に飼養されている去勢牛は、同12.1%(160万7500頭)にとどまっている。

 ウ フィードロット経営

 カナダの牛肉は、その大部分が大麦やトウモロコシなどの穀物肥育によるフィードロット経営から供給されている。一般的な生産サイクルは、まず、誕生した子牛は6〜8カ月間、繁殖経営の放牧地で飼養され、育成経営に移動する。そこで約1〜2カ月間、牧草などで飼養された後、フィードロット経営に移動する。フィードロット経営では約8カ月間、西部は大麦、東部はトウモロコシを中心とした飼料穀物が給与され、20〜21カ月齢で市場に出荷される。

 2014年1月のフィードロット飼養頭数を州別に見ると、アルバータ州が全体の64.6%となる93万4400頭、オンタリオ州が同16.8%の24万2900頭である。一方、経営体数ではアルバータ州が605戸となり、1経営体当たりの肥育頭数では平均約1500頭、オンタリオ州が1435戸で同170頭と規模の格差がみられる。アルバータ州などの西部諸州では、豊富な飼料穀物を背景に米国資本などによる規模拡大が進んでいるとされる。

 一方、オンタリオ州など小規模の経営体は、飼料コストが西部諸州に比べて高くなることから経営効率が悪いとされ、最近の飼料穀物価格の高騰などの影響を受け、戸数および頭数減少が進んでいる。
写真11 フィードロット:アルバータ州
冬期は、風よけのためペンを仕切る板塀のそばに
牛群が固まっているという。
 フィードロットの飼養頭数(収容頭数1000頭以上を対象)の動向を見ると、毎年9月の飼養頭数が底になっている。これは、子牛生産が、自然交配によるものが主流とされ、春先に誕生した子牛のフィードロットへの導入時期が、放牧環境が変わる秋口から冬場にかけて集中するためであり、カナダの肉牛生産には季節性があることがうかがえる(図60)。
図60 月別フィードロット飼養頭数の推移
資料 :CanFax「Cattle on Feed」
注1:アルバータ州およびサスカチワン州における収容能力1,000頭以上の
   フィードロットが対象
  2:各月1日現在
 エ 枝肉重量

 2013年の1頭当たりの平均枝肉重量は372キログラムとなり、飼料効率の向上や牛の遺伝的改良などにより増加傾向で推移している。このうち、去勢牛では、2000年の369キログラムに対して2013年は397キログラムと、この13年間で7.6%の増加となった(図61)。
図61 去勢牛の枝肉重量の推移
資料:Canadian Beef Grading Agency
  注:政府認定食肉処理場による加重平均
 オ 牛肉生産量

 牛肉生産量は、1頭当たりの平均枝肉重量が増加傾向で推移している中で、2003年のカナダでのBSE発生により米国向け生体牛輸出が停滞したことで、カナダ国内でのと畜頭数が増加した。2004年をピークに、それ以降は、米国向け生体牛輸出の再開とその後の増加や牛飼養頭数の減少などから減少傾向で推移し、2013年は、2004年に比べ約3割減の104万9000トンとなった(図62)。
図62 牛肉生産量およびと畜頭数の推移
資料:Statistics Canada、AAFC
 カナダの場合、米加FTA以降、米国の牛肉需給の影響を受けやすくなったことから、牛肉生産量は生体牛輸出に大きく左右される傾向が高まっている(図63)。
図63 生体牛輸出(と畜向け)およびと畜頭数の推移
資料:AAFC
 カ 輸出入

 2013年の牛肉輸出量は、29万3000トンであった。輸出量の約7割は、隣国であり世界最大の牛肉輸入国でもある米国に向けられている。次いで香港、また、NAFTA加盟国であるメキシコ、さらに日本、中国と続いている(図64)。
図64 牛肉輸出量(2013年)
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード0201、0202、020610、020621、020622、020629で集計
 生体牛輸出は、ほぼ100%が米国向けとなっている。2013年の生体牛輸出頭数は104万686頭であり、このうち、米国へのと場直行牛が全体の64.5%に相当する67万1500頭、フィードロット向けの肥育もと牛が同34.9%に相当する36万3000頭となっている。

 生体牛輸出は、米国で2008年に施行されたCOOLにより、2008年をピークに激減した。米国向け生体牛輸出の減少を補う新たな輸出先を確保できなかったことから、その後の肉牛飼養頭数は減少し、肉牛産業は大きな影響を被ったとされている。

 なお、2012年以降は、米国で牛肉生産量が減少しているため、牛肉需要を満たすべく生産に直結すると場直行牛として生体牛輸出は増加に転じている。

農産物・食肉に関する原産国表示
(Country of Origin Labeling:COOL)
 COOLは、消費者への情報提供の強化などを目的に、2002年米国農業法で牛肉や豚肉などの原産国の表示が義務付けられ、2008年農業法で規定の一部が修正された後、2008年9月30日より施行された。

 北米の牛肉・豚肉産業は国境を挟んで分業となっており、カナダで出生した牛や豚が米国に拠点を置く肥育業者やと畜業者へ出荷されている。COOLでは、米国産とされる食肉は「出生」、「肥育」、「と畜」のいずれも米国国内でなされたものに限るとされている。このため、(1)米国の食肉企業はカナダで出生・肥育した家畜、(2)カナダで出生・米国で肥育した家畜、(3)米国で出生・肥育した家畜を牛肉の生産・流通・販売段階で仕分ける新たな作業が必要となった。これら仕分けに係るコストを敬遠して米国の食肉業者は、カナダ産などの家畜に対し、受け入れの停止や、値引きを要求するようになったとされる。この影響で、生体牛輸出頭数は激減した(図65)。
図65 生体牛輸出頭数の推移
資料:AAFC
 なお、カナダおよびメキシコ両国は、COOLが世界貿易機関(WTO)協定に違反するとして訴え、WTOの紛争小委員会および上級委員会のいずれも、これを違反と判定し、米国に対して見直しを求めた。これを踏まえた米国の改善策に対する最終判断は、本年中に公表される見通しとされており、米加両国の食肉関係団体は、その結果に注目している。


 牛肉輸入量については、牛肉生産量の減少に伴い2005年以降は増加基調にあるが、2013年は前年比5.0%減の18万3552トンとなった。2013年の輸入量を相手先別に見ると、米国が75.6%を占め、次いで、豪州、NZ、ウルグアイと続き、この4カ国で全体の99.9%を占めている(図66)。
図66 牛肉輸入量の推移
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード0201、0202、020610、020621、020622、020629で集計

(2)牛肉生産を取り巻く状況

 ア 飼養品種と牛肉品質の優位性

 上述のとおり、カナダの牛肉生産は、米国の牛肉需給と密接に連動し、また、肉用牛の生産技術などについては、基本的に米国と同じであるが、牛肉の品質については、米国や豪州などよりも優位性があるとされている。

 カナダは、太平洋側の西海岸沿岸部を除き、ほぼ全域が亜寒帯、寒帯に属している。肉用牛が多く飼養されている西部諸州や、都市が多い東部諸州も亜寒帯気候に属する冷涼な気候であるため、米国南部や豪州で飼養されている暑さや乾燥に強い熱帯種(Bos indicus)は飼養されず、ヨーロッパ種(Bos taurus)のアンガス種などが基本となっている。ヨーロッパ種は、熱帯種に比べて肉が軟らかく、肉質も安定しているとの研究結果が出ている。現在のカナダで飼養されている品種は、増体や歩留まりなどを求めてヨーロッパ種の交雑種が主流となっている(図67)。
図67 品種別肉牛頭数割合の推移
資料:Statistics Canada
 これら品種から生産された牛肉は、カナダ牛肉格付協会(CBGA:Canadian Beef Grading Agency)がカナダ連邦食品検査庁(CFIA)から委託を受けて国の基準に基づき格付を行っている。等級は13段階からなるが、これらは、米国の牛肉格付基準をそのまま導入しており、「CANADA PRIME」は米国の「Prime」、「CANADA AAA」は同「Choice」、「CANADA AA」は同「Select」に相応している。2013年の格付結果を見ると、約8割が品質の高いとされる「CANADA AA」以上となった。

 イ 飼料生産

 カナダは、世界有数の小麦や大麦などの穀物生産国であり、給与される飼料のほとんどが自給可能となっている。また、寒冷な気候であるため、干ばつによる被害は少なく、安定した飼料供給が期待できることから、ほかの牛肉生産・輸出国に比べて優位性があるといえる。34年ぶりとされる干ばつの発生により、2002年の大麦の収穫量は低水準となったが、肉牛の飼養頭数に影響するまでには至らなかった。

 2012/13年度(8月〜翌7月)の主要穀物の生産量を見ると、小麦が2721万トン、大麦が801万トン、トウモロコシが1306万トンとなっている。

 なお、フィードロットで給与される飼料穀物は、その地域の飼料穀物生産・流通事情を反映し、東部諸州は米国のコーンベルトに近いことからトウモロコシが中心であるのに対し、西部諸州は大麦が中心となっている。

 大麦の重要性について、カナダ農務・農産食品省(AAFC)の資料によると、カナダのフィードロット生産のエネルギー源として最も経済的であるとした上で、生育期・仕上げ期の牛に必要なタンパク質の所要量に適合しているとしている。また、同資料では、大麦肥育の方が、トウモロコシ肥育よりも牛肉の霜降りの割合も大きく、また、脂肪の色も白いとしている。さらに、消費者に試食してもらったところ、大麦肥育の方がトウモロコシ肥育より好きという結果であった。和牛生産においても、大麦を給与した牛は、飽和脂肪酸が多いため脂肪融点が高く、風味豊かな美味しさのきめ細かな肉質に仕上がると言われている。なお、フィードロットでは、約8〜9割が大麦由来の飼料となっている。

 飼料穀物は豊富な一方で、飼料穀物価格は国際相場の影響を大きく受けている。米国のトウモロコシとカナダの大麦を年平均で比べてみると、ほぼ同じ値動きとなっている(図68)。2006年下半期以降、米国でのエタノール需要増加などに伴うトウモロコシ価格の上昇時も、カナダの大麦価格は連動して上昇し、また、2012年に干ばつにより米国のトウモロコシ価格が上昇した時も、同じく大麦価格は上昇するなど、米国の飼料穀物需給はカナダの肉牛経営に影響を与える大きな要因となっている。
図68 飼料穀物価格の推移
資料:Canfax
  注:大麦はレスブリッジ(カナダ)、トウモロコシはオマハ(米国)の年平均価格
写真12 大麦畑(アルバータ州)
 ウ 食肉処理場の減少

 国内の食肉処理・加工施設は、2007年には31施設あったが、BSE発生による出荷頭数の減少やカナダドル高で推移する為替相場などを背景とした収益の悪化、また、海外資本の参入による統廃合などにより、2013年1月現在、19施設まで減少している(表2)。

 施設の規模については、主要肉牛生産地であるアルバータ州には、週当たり2万頭を超えると畜能力を持つ外国資本の大規模食肉処理・加工施設が2カ所(2013年の国内と畜頭数全体の70.3%)存在するが、それ以外は比較的規模が小さいとみられている。
表2 州別食肉処理場の推移
資料:AAFCの公表資料を基に、機構作成

(3)輸出動向

 牛肉輸出は、生産量(製品重量ベース、と畜として出荷される生体牛を含む。)の約44%を占めており、食肉業界にとって非常に重要な位置付けにある。輸出相手先は、世界70を超える国や地域となっており、米国を中心に香港、メキシコ、日本、中国で全体の95%を占めている。米国でのCOOL以降、生体牛の輸出が減少したことで、輸出競争力を高めるために相手国のニーズ(部位やカット)に即した牛肉輸出体制を整えるなど、「牛肉」としての輸出強化が推進されている。

 ア 米国

 米国は、NAFTAによる恩恵もあることから、最大のパートナーであり、輸出量および輸出額ともに最大の取引先となっている。2003年はカナダでのBSE発生により停滞したが、同年9月には30カ月齢未満の骨なし牛肉の輸出が再開し、2005年7月からはすべての牛肉の輸出が可能となっている。

 しかし、牛肉輸出量に占める米国向けシェアは、カナダ国内の牛肉生産の減少やカナダドル高で推移する為替相場、また、米国での景気後退の影響などから年々、低下しており、2005年の86.2%から2013年は70.9%(19万6000トン)まで落ち込んでいる。

 2013年の輸出量を品目別に見ると、冷蔵牛肉が85.4%を占め、高級部位とされるテーブルミート向けとしての輸出が中心となっている(図69)。
図69 米国向け牛肉輸出量の推移
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード0201、0202、020610、020621、020622、020629で集計
 カナダビーフ国際機構(Canada Beef International Institute)によると、今後の米国市場の注目点として、カリフォルニア州などのヒスパニック(メキシコ系)市場の拡大を挙げている。ヒスパニックは、米国人口の約16%に相当する5000万人以上に達し、カナダの1人当たり年間牛肉消費量の2倍以上を消費するといわれる。ヒスパニックが主に消費する肉の部位として、「かた」、「ネック」、「内臓肉」などであり、この市場が拡大すれば米国向け輸出製品の幅を広げられるとしている。

 イ 香港

 2013年の香港への輸出量は、2万5000トンと全体の9.2%を占めている。香港向けは、安定した経済成長に伴う好調な牛肉需要から増加傾向で推移している。

 カナダでのBSE発生により一時輸出が停止されたものの、2004年12月に月齢制限を設け骨なし牛肉が解禁され、さらに、2009年12月には、米国産牛肉に先んじて輸入月齢制限が撤廃された。これにより、2010年以降、大きく輸出量を伸ばしており、2013年にはメキシコを抜いて第2位の輸出先となった。なお、2013年の輸出量を品目別に見ると、冷凍牛肉が70.3%を占めている(図70)。
図70 香港向け牛肉輸出量の推移
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード0201、0202、020610、020621、020622、020629で集計
 香港政府は2014年6月、米国産牛肉についても月齢制限を撤廃したことから、今後、米国からの牛肉輸出の増加が見込まれる。このため、香港向けを伸ばしてきたカナダにとって、輸出への影響が懸念されている。

 ウ メキシコ

 NAFTAに加盟するメキシコへの輸出量は、2013年に全体の6.4%に相当する1万8000トンとなった。2012年までの牛肉輸出量は米国に次ぐ第2位であったが、為替相場や経済の低迷などにより減少しており、2013年には香港に次ぐ3位に落ち込んだ。

 2013年の輸出量を品目別に見ると、冷蔵牛肉が63.6%、内臓肉が35.8%を占め、テーブルミート向けの輸出が主体となっている(図71)。ヒスパニックが主体の同国向けの主な部位は、「かた」、「ネック」、「内臓肉」となっている。

 なお、メキシコ向け輸出は、現在も月齢制限が維持されていることから、メキシコ向け輸出の減少要因の一つにもなっているとみられている。
図71 メキシコ向け牛肉輸出量の推移
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード0201、0202、020610、020621、020622、020629で集計
 エ 日本

 2013年の日本への輸出量は、全体の5.6%を占める1万5500トンであった。日本向けについても、BSE発生により輸出が一時停止したが、2005年12月から再開され、2009年以降、輸出量は1万トンを超えている。2013年2月には米国とともに月齢制限が緩和(30カ月齢以下に引き上げ)されたことで、高級部位の輸出拡大につながっている。

 2013年の輸出量を品目別に見ると、冷凍牛肉が58.1%、内臓肉が31.2%を占めている(図72)。また、日本向けは、ステーキ用の「リブロース」が主体となっている。

 カナダビーフ国際機構によると、カナダ産牛肉は、日本国内でメーカーを問わず西側の大麦主体の飼料で生産された牛肉を「ロッキー山麓牛」、東側のトウモロコシ主体の飼料で生産された牛肉を「楓牛」と、カナダのイメージによるネーミングを付して販売されている。現在、日本向けに輸出可能な認定食肉処理・加工施設(子牛肉の処理場を含む。)は5カ所にとどまっているが、マーケティング活動がうまく浸透してきており、対日輸出量は増加している。
図72 日本向け牛肉輸出量の推移
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード0201、0202、020610、020621、020622、020629で集計
 オ 中国

 2013年の中国への輸出量は、輸出全体の2.3%を占める6500トンであった。BSE発生により、中国向け輸出は一時停止したが、2012年2月に月齢制限を設け解禁され、また、2014年6月には月齢制限を緩和した上で骨付き牛肉の輸出が可能となった。牛肉需要が拡大する中国では、カナダからの輸入を拡大したいとの背景から、輸出認定食肉処理・加工施設を増やしており、現在、8カ所が認定されている。

 カナダの牛肉業界は、中国について、北米で唯一、輸出が解禁されていることや、牛肉需要が高まっていることなどから極めて重要な市場と位置づけている。業界関係者によると、今後、中国向けの牛肉輸出は、年間2億4000万カナダドル(232億8000万円)と、2013年の約10倍まで伸びると見込んでいる。2012年の輸出実績は、540万カナダドル(5億2380万円)、2013年は2500万カナダドル(24億2500万円)であった。

 2013年の輸出量を品目別に見ると、リブロース、かたなどの冷凍牛肉が86.1%、内臓肉が13.5%を占めている(図73)。
図73 中国向け牛肉輸出量の推移
資料:「Global Trade Atlas」
  注:HSコード0201、0202、020610、020621、020622、020629で集計。
 カ その他

 このほかの輸出先として、韓国向けへの輸出拡大が期待されている。カナダ政府と韓国政府は2014年6月、FTAの締結を発表した。この協定では、牛肉(冷蔵・冷凍)の関税について、韓国が豪州および米国との間で締結したFTAと同様に、現行40%を15年間かけて撤廃することとしている。また、内臓肉については、18%の関税を米国とのFTAでは15年で段階的に撤廃するとしたところを、カナダとのFTAでは11年で段階的に撤廃することとしており、業界関係者は、この部分での市場獲得に期待をかけている。

 韓国向け輸出実績として、BSE発生以前の2002年には1万4000トンを記録するなど、輸出先としては当時、第4番目の市場であった。2012年の輸出再開後は、先に韓国とのFTAを締結した豪州、米国の影響もあり、カナダからの牛肉輸出量は年間1000トン程度にとどまっている。

(4)まとめ

 北米の肉牛のキャトルサイクルは、10年程度と言われているものの、ここ数年のカナダの飼養頭数は、ほぼ横ばいで推移している。

 ただ、これまで、米国への肥育もと牛輸出を阻害していたCOOLについては、WTOの紛争小委員会および上級委員会は、米国に対して見直しを求めることとしており、米国の改善策に対する最終判断が、本年中に公表される見通しとなっている。これが、カナダの生体牛輸出に有利に働くことが期待されている。

 また、米国での子牛の不足によりもと牛価格は上昇しているが、カナダドルは、2013年以降、米ドルに対して、弱含みで推移しているので、米国向け肥育もと牛輸出の拡大の要因となることも考えられる。

 このような状況に加えて、中国向けの輸出が増加していることや、大麦を飼料とした生産管理による高品質な牛肉を前面に打ち出したプロモーションが行われていることを考慮すると、繁殖雌牛後継牛の保留が強まっているカナダの肉牛生産は、ほぼ横ばい状態から今後は上昇基調に転じるものと考えられる。

〔山ア 良人〕

元のページに戻る