調査・報告 専門調査  畜産の情報 2014年9月号


宮崎県下におけるJAによる
豚肉輸出の取り組みと今後の展望

鹿児島大学 農学部 准教授 豊 智行



【要約】

 本調査は、肉豚の国内有数の出荷規模を誇る宮崎県下における宮崎県経済農業協同組合連合会(以下、「JA宮崎経済連」という。)などによる豚肉輸出の現状と課題を明らかにすることを目的に実施した。

 本稿では、JA宮崎経済連の輸出用豚肉の差別化、販路開拓、販売促進、価格設定、計画的集出荷のそれぞれの取り組みと今後の輸出展開の課題を整理し、報告する。

1 はじめに

 国産食肉の輸出は、口蹄疫の発生などの影響から一時減少に転じたものの、海外における日本食ブームや肉質への高評価、アジア諸国における富裕層の増加などにより、今後の増加が期待される。牛肉と比較して少ないものの、国産豚肉の輸出量もこれらの理由により増加していく可能性があると考えられる。国産品の輸出促進は、国産品の市場価格の維持・上昇とともに、その国内生産量の維持・拡大に寄与するものの、輸出に際しては、国内展開とは違う、輸出先のニーズに合わせたマーケティングの構築が求められるであろう。

2 農畜産物のマーケティングにおける差別化の重要性

 商品の差別化が既に図られていれば、その商品のマーケティング主体が利益を増やすための取り組みは、高価格化と費用削減となる。差別化がなされていないと、マーケティング主体は、類似品質の競合商品との値下げ競争にさらされたり、それら類似商品を含めた需給バランスによって決定される市場価格を受け入れざるを得ず、利益を増やすためにできる努力は、費用削減のみとなってしまう。

 商品差別化の手段としては、他の生産者とは違う「商品」を生産すること、自己の商品を好む消費者がいる「販路」を選ぶこと、自己の商品を好んで買ってもらえるよう「販売促進」を行うことなどが考えられる。「商品」、「販路」、「販売促進」についてそれぞれ工夫し、上手く組み合わせることにより、商品の差別化が明確に図られ、商品の特徴・特質を前面に押し出すことで、競合他者とは異なる高価格帯での価格設定が可能となる。いうまでもなく、他国と比べコスト面で劣位にある日本の農畜産物の生産・流通において、輸出用豚肉の他国産との差別化を図り、品質優位を確保する意義は大きい。

3 宮崎県下における肉豚出荷の状況

 畜産物流通統計(農林水産省)によると、平成21年の宮崎県下における肉豚の出荷頭数は約150万頭であったが、そのうち約85万頭が宮崎県内、残りの約65万頭は県外に出荷された(同年の全国の肉豚の出荷頭数は約1700万頭)。この年、JA宮崎経済連は、宮崎県内への肉豚の出荷頭数の約半分の約42万頭の県内出荷に関わった。JA宮崎経済連の肉豚の出荷先の95%程度が、関連会社である株式会社ミヤチク(以下、「潟~ヤチク」という。)であり、残りは協力会社に出荷している。平成22年4月には宮崎県で口蹄疫が発生(同年8月に清浄化)したものの、出荷頭数は口蹄疫発生前の水準に回復しつつあり、平成25年、JA宮崎経済連の宮崎県下の肉豚出荷頭数は約39万頭、潟~ヤチクへの出荷が約35万頭(約90%)となった。

4 豚肉輸出の動向

 表1は、平成20年度以降の日本からの豚肉輸出量と主要相手国を見たものである。一貫して香港への輸出量が1位であるものの、輸出量の合計は年度によって変動していること、2位以下の相手国が年度によって入れ替わりがあることが分かる。表2は、同じく豚肉調製品について示しているが、豚肉輸出と同様の特徴があるが、輸出量の合計は豚肉を大きく上回っている。2位以下の相手国では、販路の新規開拓や需要の把握を目的としたスポット的なフェアの開催や試験的な販売の実施が多く、それらの頻度により輸出量が大きく左右されていると推察される。豚肉調製品の輸出量が豚肉より多い理由として、日本産の味付けが他国産との差別化要因となり、相対的に需要拡大が図られていると考えられる。

表1 日本からの豚肉輸出量と主要相手国
資料:財務省「貿易統計」
  注:HSコード:0203.12-000、0203.19-000、0203.21-000、0203.22-000、0203.29-000
表2 日本からの豚肉調製品輸出量と主要相手国
資料:財務省「貿易統計」
  注:HSコード:もも(1602.41-000)、肩(1602.42-000)、その他(1602.49-000)
 表3は潟~ヤチクからの豚肉輸出を示している。宮崎県下におけるJAを主体とした豚肉輸出は、再開されてまだ間もない。前述したように、平成22年4月に口蹄疫が発生したことにより同年度の輸出はなかったが、23年度は香港に1521キログラム、24年度には香港に733.1キログラム、マカオに28.6キログラム、25年度には香港に3487キログラム輸出された。なお、ハム・ソーセージなどの豚肉加工品も、24年度は180キログラム、25年度は2295キログラム、香港向けに輸出された。
表3 潟~ヤチクからの豚肉及び豚肉加工品の輸出量と相手国
資料:潟~ヤチク「輸出販売実績」
 JA宮崎経済連は輸出促進の意義として、少子高齢化などにより日本国内の農畜産物・食品市場は縮小傾向にある一方で、海外には今後ますますの拡大が期待される有望な市場が存在し、新たに海外市場に打って出ることで、宮崎県産農畜産物の新たな販路拡大や農家所得の向上が期待できることを挙げている。その内、JA宮崎経済連は、海外市場の中で香港を主要な輸出市場と位置付けている。これは、香港での輸入は原則無関税であり、輸出への障壁が低いことや、従来より香港では日本産食品への高い信頼性があり、かつ日本食ブームも定着しつつあり、日本食に対する需要のさらなる拡大が見込まれるためである。

5 豚肉の海外市場へのマーケティングの取り組み

(1)輸出用豚肉の他国産との差別化

 潟~ヤチク高崎工場は、平成2年に対米牛肉輸出工場として認定されたのを皮切りに、6年に香港向け牛肉・豚肉輸出工場、21年にマカオ向け牛肉・豚肉輸出工場として認定されるなど、これまで着実に海外展開を進めてきた(写真1)。
写真1 豚ヒレのカット作業(潟~ヤチク高崎工場内)

 潟~ヤチクは、香港向けに豚ヒレ、豚ロース、豚バラ、豚足、豚胃袋、マカオ向けに豚トロを輸出している。これらは国内市場向けと同じ商品であり、海外市場向けの特別仕様という類のものではない。しかし、輸出用商品にはロット番号シールが貼られ、ロット番号と枝肉番号は対応付けがされている。このロット番号から、枝肉、さらには生産者を特定すること、また、その逆方向に特定していくことが可能となっている。これにより、商品について食品衛生上の問題が発生した場合、過去に遡ってその原因を迅速に探ることができ、また逆に、製造後に商品に何らかの問題があることが発覚した場合には、その商品を特定し、出荷停止や市場に出回った商品の回収などの素早い措置ができる体制を整えている。

 豚肉は一般的に差別化が難しいと言われているが、現在、JA宮崎経済連では、新たに宮崎県産豚肉のブランド化を進めている。既存の「宮崎ハマユウポーク」は、平成22年の口蹄疫発生でハマユウ種豚の殺処分を余儀なくされ、養豚経営への種豚の供給が終了したことから、近い将来消滅することになる。そこで新たなブランド豚肉構築に向け、23年より、以下のブランドコンセプトに基づいて生産された豚肉を、「宮崎ブランドポーク」と総称する試みを進めている。

【「宮崎ブランドポーク」のブランドコンセプト】

(1) 宮崎県内で生産、肥育された肉豚で、潟~ヤチクなど指定された食肉処理工場で処理されたもの
(2) 生産性向上に向けた取り組みを実践するとともに、健康であること(例えば特定疾病フリー豚の導入、地域ぐるみの疾病排除など)
(3) 定時・定量出荷の原則に基づく流通の効率化に賛同する養豚経営などが出荷したもの(例えば出荷業者との間での週単位での出荷調整など)
(4) 安全、安心を消費者に対し担保できる養豚経営などが出荷したもの(例えば生産履歴の記帳と報告など)

 また、次の基準を別途クリアしたものを、「宮崎ブランドポーク」の中で「個別銘柄豚」と位置付けることとしている。

(1) 個別の銘柄豚として商標登録を完了したもの、または、同等の認知度があるもの
(2) 独自の特徴づけが消費者ニーズに照らし有効であると考えられるもの

 図1は「宮崎ブランドポーク」構想のイメージである。「宮崎は豚肉の産地」という観点から、まず、宮崎県産という地域ブランドを包含する基本的な共通基準を作り、低コスト化を図るものとなっている。次に、高付加価値化の取り組みとして、共通基準に加えて個別基準を設け、多様なニーズに対応するものとなっている。
図1 「宮崎ブランドポーク」構想のイメージ
資料:JA宮崎経済連「宮崎ハマユウポークの方向性と新たなブランド化に向けた考え方について」
  注:(1)機能性成分の表示:うまさを明確にするため、豚肉中にある成分(オレイン酸やアミノ酸)を
      数値化。
    (2)環境:未利用資源の活用など循環型の取組みや抗生物質未使用などの取組みを推進。
    (3)うまさ:飼料や品種を基準化することで特長づけ。
    (4)オリジナリティ:特定疾病フリーなど、その地域の個性で特長づけ。
 「宮崎ブランドポーク」の他の豚肉との差別化要素としては、生産性向上の実践、生産履歴の記帳、ポジティブリストの遵守といった共通基準をクリアすることにより、流通段階が求める量を計画的に生産・出荷できることがある。また、後述の販売促進にも関連するが、ネーミングや特徴を、小売段階で共に創りあげていく方法で、多様化するニーズに対応する点が挙げられる。「宮崎ブランドポーク」の共通基準をクリアしていれば、輸出に仕向けられるものにも基準をクリアしていることの証として「宮崎ブランドポーク」のシールが貼られることになり、他国産豚肉との差別化を図ることができることになる。

(2)販路開拓

 潟~ヤチクでは製造した輸出向け豚肉の全量を自らが販売しており、その大半が香港に仕向けられている(表3)。

 香港に輸出する場合は、直接または国内の輸出業者を通し、香港側の輸入業者を通じて販売している。香港では、後述するJA宮崎経済連の現地駐在員により販路開拓がなされているが、主な納品先は、豚肉は豚カツ屋など、ハムやソーセージの加工品は居酒屋、焼肉屋、ラーメン屋などが中心となり、その多くは日本から進出した店である。納品先がこのようになっているのは、飲食店サイドは、日本から進出した飲食店であるがゆえに、積極的に宮崎産の豚肉の消費者への普及・啓発に努め、輸出・供給サイドは、現地飲食店への後方支援をすることにより、宮崎県産豚肉の差別化や需要拡大への連携が相互補完的に図り易い環境にあったと考えられる。どこから輸出するかは香港の取引先あるいは国内の輸出業者の指示によるが、現在は冷蔵の豚足、豚胃袋、豚肉を中心に福岡空港から空輸されるケースが多い。積み出し地点までは潟~ヤチクが商品を外部委託したトラックで輸送している。平成25年度の調査時においては、月1回のペースで、1回当たり2品目か3品目の合計で200〜300キログラムの発注がきていた。

 なお、マカオにはスポット的に輸出された実績があるが、現状においても、同様な注文に対応する形式で輸出されている。

(3)販売促進

 JA宮崎経済連は、平成24年2月に同会企画広報室内に海外事業推進班を設置し、同班を輸出の窓口として、グループ会社の商品も含めた総合的な取引を目指した。一方で、青果物は既に仲卸業者が輸出を取り仕切っていたことから、同会で独自に管理できる畜産物の商流を新たに構築することを目的に、24年7月に香港の中心商業地区で日本企業も数多く進出するセントラル地区に香港駐在事務所を開設した。事務所開設の背景には、国内市場が飽和状態にある中、海外にも供給を拡大することで、国内の食肉価格も高位安定が期待できることとともに、「宮崎牛をぜひ売りたい。さらには宮崎産食肉の良さを産地の声として届けたい。」という同会の畜産物に対する強い思いがあった。

 同会香港駐在事務所にはJA宮崎経済連からの2名と食肉関連事業の経験の長い現地採用の日本人1名が常駐し、輸入業者とともに現地小売業者や飲食業者への販売促進と取引拡大を目指した展開が行われている。また、25年6月には宮崎県物産貿易振興センターの香港事務所が開設され、宮崎県産農畜産物の販売促進を図る組織が併存する形となり、今後、さらなる販売促進が期待される環境となった。

(4)価格設定

 輸出用商品の工場出荷価格は、固定化の傾向にある。それは、現地飲食店のメニュー価格は硬直性が強く、工場出荷価格も固定的・安定的であることを強く求められるためである。潟~ヤチクでは輸出業者からの商品の単価や量の問い合わせに対し、輸出認定工場の維持費や輸出関連書類の作成経費なども含めた単価を記載した見積を提示し、その上で輸出業者から要望される内容にできる限り対応する努力をしている。

 このように工場出荷価格を固定的・安定的かつ有利に設定するには、輸出先国において最終消費者への販売価格を高位で維持できていることと、産地間競争が激しい中では、輸出用商品が、輸出先国で特徴・特色が認められた高品質の商品としての評価を受け、他の商品との差別化が図られていることが望ましい。

(5)計画的集出荷

 肉豚の出荷頭数は、季節によって変動するが、JA宮崎経済連では年間を通じて出荷頭数ができるだけ安定するような取り組みが行われている。具体的には、期間や価格とその条件下での出荷頭数の目標設定などを行い、減少期の生産性を維持するような取り組みの「帯販売」と呼ばれる、生産と販売の両面を考慮した販売対策に取り組んでいる。生産者は帯販売となることを意識しながら、通年的に計画的な生産に取り組み、また、この供給責任と帯販売をセットにした方法は、産地としての供給量の調整と食肉処理工場の稼働能力に見合った効率的利用に結び付くものである。

6 おわりに

 JA宮崎経済連の担当者は、世界人口が増加し豚肉需要が高まっていく中で、特に日本産の安全性を評価する需要に応え得る生産を目指し、養豚経営の規模の拡充・拡大を図らなければならないと考えている。宮崎県下においては、養豚経営戸数が減少傾向を示す中、飼養頭数は維持されていることから、これからの養豚経営は、規模の拡大と同時に、販売力の強化が求められており、その一環として輸出にも取り組んでいる。JA宮崎経済連による豚肉輸出は緒に就いたばかりで、豚肉輸出の産地への効果や産地自体に海外に輸出するという意識の高まりは、まだはっきりと現れてはいない。しかし、マーケティングのあり方、人材の確保、初期投資の状況を踏まえて販路を鮮明にし、そこでの売り方が定まることで、量も増えていけばよいとJA宮崎経済連の担当者は考えている。

 宮崎県下における豚肉の商品ポートフォリオの観点からも、市場成長率は低いが、獲得シェアが高い国内のみに供給するのではなく、まだまだ市場拡大が期待できる東南アジアに向けた足掛かりとして香港やマカオへの輸出を行い、ブランドイメージの向上と存在感をアピールして、シェアを高めていこうという産地マーケティングの方向性は支持できるものである。

 一方でJA宮崎経済連は、農畜産物全般の輸出上の課題として、日本および輸出先国の法的規制への対応、代金回収リスクを軽減するための信頼できる取引相手の獲得、輸送途上のリスク負担などを挙げている。また、香港事務所を開設して2年が経過しようとしているが、現在は畜産物を中心に同行営業などに務め取引先との連携を強化しており、さらなる取引拡大に向け次の段階にきている。

 そのような中、潟~ヤチクは、現状のパーツ販売から豚1頭セットで販売したいという希望があるが、そのためには、これまで輸出していない部位の食べ方や調理方法の普及・浸透をいかに図ることができるかということが課題であるとしている。

 香港やマカオは、JA宮崎経済連の見込みの通り、今後、日本産豚肉の成長市場となる可能性が高いであろう。宮崎県下のJAによる豚肉の輸出量は年によって変動はあるものの、香港では安定的かつ継続的に取引できる相手が厳選されつつあるとともに、持続的な需要の拡大が見込まれることから、その変動幅は徐々に縮小し、輸出量は増加傾向を示すものと考えられる。

 なお、平成25年10月に日本で7年ぶりに豚流行性下痢(PED)の発生が確認され、それ以降、国内では肉豚のと畜頭数の減少や、枝肉や部分肉の価格上昇の傾向が見られている。潟~ヤチクにおいても、肉豚の頭数不足により海外からの突発的な注文への対応が難しくなってきている。しかしながら、これらの事象は、疾病の鎮静化とともに徐々に解消されていくものと考えられ、中長期的には宮崎産豚肉の輸出量は増加傾向を示すものと見込まれる。

 安定的かつ継続的な販路を構築するには、いかに安定的な供給を維持することができるかということともに、生産から消費に至る各段階の主体が生み出す総利益と、流通におけるリスクを、それぞれの主体間で適切に分け合うことが必要であろう。これらを達成する方法は、各輸出先国に存在する取引慣行により異なるため、輸出サイドにはこれらに適合した販路管理が求められる。また、日本産豚肉の成長市場と捉えられる国には日本の他産地からの豚肉も輸出されており、海外市場でこれらと競争すべきか、それとも協調すべきか、後者であればどのような点で協調するかということも併せて検討されるべき課題である。今後、JA宮崎経済連を中心に地域の連携がますます進んでいくことで、これらの諸課題が克服されることが期待される。


〔追記〕

 本調査の実施において、潟~ヤチクおよびJA宮崎経済連より多大なご協力、懇切丁寧なご教示、貴重な資料のご提供を頂いた。ここに感謝の意を表します。


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