【要約】
酪農経営の規模拡大を支えるコントラクター・TMRセンターは、その本格的な普及から10年以上が経過し、施設・機械の更新、組織・体制の継承、生産技術面や経営管理面の改善など、さまざまな課題を抱えている。
本レポートは、2012年と2013年の2年間において、独立行政法人農畜産業振興機構と共同で、両組織の現状を把握するとともに、将来に向かって解決すべき課題の整理とその解決方法について、調査を実施し、その結果をとりまとめた「北海道におけるコントラクターおよびTMRセンターに関する共同調査報告書」(以下「共同調査報告書」という。)の概要である。
はじめに
北海道の自給飼料生産面積は、59万6500ヘクタールであり、これは全国の自給飼料生産面積91万5100ヘクタールの65%を占める(2013年)。
北海道は自給飼料を基盤とした畜産基地である。現在の北海道の自給飼料生産を担っている飼料生産組織がコントラクターと農場TMRセンターである。
ここであえて農場TMRセンターとしたのは、全ての購入飼料を原料とする、道外に多い工場TMRセンターと区別するためである。
後者はすでに1970年代半ばに愛知県などで登場し、農地を所有していないのに対し、前者は飼料基盤に立脚し、自給飼料を主原料としている(注1)。
農場TMRセンターは、今後の自給飼料増産の観点から重要な役割を担っている。
1.北海道における自給飼料生産の展開
北海道における飼料生産組織の1950年代以降の展開過程を見ると、図1に見るように、個別農家から出発して機械共同利用組織、飼料生産協業組織、コントラクター、そして2000年に入り農場TMRセンターの登場を見ている。
こうした飼料生産組織の相次ぐ登場の背景として、家族経営単独の作業においては、以下のようなさまざまな問題が生じていたことが挙げられる。
(1) 労働力においては、夏期における搾乳と飼料生産の労働競合、家族の病気、ケガのリスクなどが存在した。
(2) 土地においては、農地の分散による作業効率の低下、また、ふん尿の投入が所有地に限定されることで、遠隔地の農地への投入制限があった。
(3) 資本においては、個人所有機械の能力の限界や減価償却費の負担があった。
(4) 技術においては、降雨による自給飼料の品質低下や農家間でサイレージの過不足が生じていた。
図1 北海道における飼料生産組織の変遷
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資料:筆者作成 |
そこで1970年代に入り、飼料生産協業組織が設立される。しかし、労働力問題における家族の病気・ケガのリスクはある程度解決されたものの、依然として共同作業出役による労働競合は残った。また、資本についての問題点も解決は図られたものの、農地の分散や生産物の品質低下、過不足の課題は、基本的には解決されなかった。
これらの問題を解決する方法として、1990年代に入り、自給飼料生産の作業請負組織であるコントラクターが、十勝地域を中心に登場した。
図2に見るように、2000年以降、コントラクターは急速に増加し、2005年には150を超えるまでになっている。労働力の問題は、出役がなくなることで完全に解決され、資本の問題も賃料料金の支払いは生じるものの、個人の負担は大幅に軽減された。
しかし、農地の分散など土地問題は解決されず、そのため生産物は個人所有であったことから、作業単位は収穫物を分散した農地からサイロに詰めることの繰り返しであり、作業効率は低下せざるをえなかった。
そこで1990年代末、コントラクターの延長線ではなく、むしろ協業組織の延長線上として登場したのが農場TMRセンターである。この組織の最大のメリットは、生産物を共有することで農地の個人所有意識が薄れ、構成員の全農地が一つの農場として利用されることである。農地問題や降雨リスク問題が解決されるという、北海道の自給飼料協業組織上の歴史においては、全く新しい画期的な組織である。2000年には、わずか1組織であったものが、2012年には50を超える数になっている。
図2 北海道におけるコントラクターと農場TMRセンターの推移 |
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資料: 北海道畜産振興課 |
2.コントラクターと農場TMRセンターの類型区分と機能
(1)コントラクターと農場TMRセンターの機能
酪農の飼料生産作業請負組織であるコントラクターと農場TMRセンターは、農家との間において独自の関係にある。コントラクターは市町村全体をカバーする経営体が多く、図3に見るように、農家とコントラクターはそれぞれ独立した経営体であり、農家は飼料生産作業をコントラクターに委託する関係にあるため、コントラクターへの依存度合によって農家の機械装備に差が出てくる。農家が機械装備を放棄してコントラクターに全面的に依存する場合には、一種の両者の経営複合体が形成される。
図3 各経営体と個別経営の関係図 |
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一方、農場TMRセンターの構成員である農家は、サイロなどの貯蔵施設も廃棄し、飼料生産と飼料調合作業を他の構成員と協業化するため、強固な経営複合体が形成される。さらに個別農家が担当する搾乳部門も協業化すれば、共同経営体としての法人経営となる。そのため、表1に見るように、アンケート調査T(2013年に本調査で実施した北海道TMRセンター連絡協議会会員を対象としたアンケート調査)では、構成員が離農などで離脱した場合には、新規就農や追加加入で規模の維持を図っている。
これは、多額の建物、施設、機械投資を行っていることから、規模の縮小はセンター経営の収益を悪化させるからである。
このことは農地面からも確認できる。農地異動を見たのが表2である。センター管理農地は増加が26件であるのに対し、減少はわずかに1件のみである。
表1 TMRセンター構成員の異動要因 |
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資料:共同調査報告書 P.178. 表7 |
これは、構成員から離農者が出た場合、「センターが借地」、「他の構成員が購入」、「他の構成員が借地」がそれぞれ10件、計30件であるのに対し、「他が購入」3件、「他が借地」6件と、離農跡地件数の約4分の3はセンターが確保しており、組織維持機能を見ることができる。
(2)コントラクターの企業形態と機能類型
北海道におけるコントラクターは、1977年に十勝地域の中札内村においてスタートしたが、本格的な展開は1990年代に入ってからである。当時は、さまざまな企業形態が登場した。
第1に農家グループが結成した有限会社
第2に農協直営組織
第3に農機具会社
第4に土木建設リース会社
第5に個人の土建業者
など多岐に亘っていた(注2)。
しかし、第3の農機具会社の形態は、採算割れしたことで多くが撤退した。
その後、第6として市町村が関与する公社組織も新たに登場している。
コントラクターの類型は、3つの観点から区分できる。
第1に作業機能から、作業部門の対象として、飼料収穫・調製とふん尿処理を行う酪農型と、畑作作業を併せて行う酪農・畑作型に分けられる。
第2に事業機能として、ほ場関係作業のみを行うほ場専業型と、ヘルパー作業や公共牧場などの作業も併せて行う他部門兼業型に分けられるが、後者の事例は少ない。
表2 TMRセンター管理農地面積の変化理由と離農地の処分 |
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資料:共同調査報告書 P.179. 表8 |
第3に自給飼料の販売活動の有無によって、作業限定型と、作業・飼料販売型に区分される。
表3は、アンケート調査U(2013年に本調査で実施した北海道コントラクター組織連絡協議会会員を対象としたアンケート調査)により、作業の実施状況を見たものであるが、牧草サイレージ、飼料用トウモロコシサイレージの調製作業および堆肥処理の実施比率が高くなっている。一方、自給飼料の販売比率は低く、10〜20%である。
表3 コントラクターの事業内容(複数回答)
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資料:共同調査報告書 P.190. 表4を改変
注:太字は50%を超える作業 |
(3)農場TMRセンターの企業形態と機能類型
日本におけるTMRセンターは、もともと本州で設立が始まり、全て購入飼料を原料としてきたのに対し、北海道の農場TMRセンターは、自給飼料と購入した配合飼料を混合することから、農地に基盤をおいた土地利用型TMRセンターといえよう。
最初に設立された農場TMRセンターは、作業効率を図るため農地の集約化を積極的に進めたことから、北海道においても農場制型農業の展開が期待された(注3)。
農場TMRセンターの企業形態は、農家グループ型、農協直営型、農協関与農家グループ型(農協支援型)の3類型に大きく区分される。
コントラクターの企業形態と違って、民間会社の参加は見られない。これは、農場TMRセンターの建設に当たっては、多額の補助金の支援が可能なものの、民間会社は補助金支給の対象にならないことから、運営を行っても採算に合わないためである。しかし、今後、耕作放棄地などが特定地区で多く出た場合、農協などの出資による会社組織がTMR製造に乗り出す可能性もある。
農場TMRセンターの基本的な機能は、図4に示すように、飼料生産協業組織とTMR製造所が合体したものである。構成員は自給飼料生産の作業に参加するとともに、農場TMRセンターからTMRの配給を受ける。ただし、農家の出役がない組織もある。このように農場TMRセンターは、あくまでも飼料生産については会社において共同で行うものの、搾乳などの飼養管理については家族経営で行うことから、家族経営と法人経営の結合組織という、全く新しい組織と見ることもできる。
この基本型をもとに、作業の分担や販売活動から、さまざまな稼動類型の農場TMRセンターが展開している。まず、第1に飼料生産機能から類型区分を行うと、表4に見るように構成員の出役で飼料生産を行う基本型、飼料生産作業を地区のコントラクターに委託し、自らはTMRの製造に専念するTMR製造専業型(TMR専門型)、逆に地区農家の作業を受託する作業受託型(コントラ型)に区分できる。また、コントラ型においても、地区の建設会社や運送会社などに一部作業委託を行うなど、地域内での分業体制が取られている。設立年次では、2005〜2012年が多く、参加戸数の少ないコントラ型が多くなっている。
図4 農場TMRセンターの機能図 |
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資料:共同調査報告書 P.141. 図6 |
表4 農場TMRセンターの経営類型別、規模および設立年次 |
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資料:共同調査報告書 P.174. 表1 |
第2に、TMR製造および配送機能における雇用形態から類型区分を行うと、作業を自社の雇用で行う自社雇用型(構成員が一部分担する場合もある)と、外部の会社に委託し、派遣された社員が製造を行う社員派遣型とに分けられる。
第3に、自給飼料およびTMRの販売機能から類型区分を行うと、地区農家へ自給飼料やTMRを販売することで、飼料の地域供給を担う販売型と、販売を行なわない自給型に区分される。自給飼料およびTMRの販売を示したのが表5である。
アンケート調査で回答のあった29センターのうち、23センターが自給飼料の販売を行っている。特に、作業受託を行うコントラ型の積極的な販売活動が読み取れる。販売されている飼料の種類を見ると、細断圧縮グラスサイレージ(以下「細断GS」という。)が16と、全体の半分以上のセンターで販売されている。また、最も流通している乾草に近いラップロールサイレージ(ラップGS)も13のセンターで扱われている。細断GSは、乾草とともに広域流通が可能な自給飼料であり、細断梱包されたトウモロコシサイレージ(細断CS)も、細断GSと同様に流通可能な形態をとっており、自給飼料の販売形態が多種に亘っていることが分かる。
また、注目されるのは、コントラ型16センターのうち7センターがTMRの販売を行なっていることである。従って、農場TMRセンターにおける自給飼料およびTMRの販売は、従来の余剰飼料の販売のレベルから、収益を目的とするレベルに大きく姿を変えてきていると言えよう。現在の農場TMRセンターは、以上の3つ農場類型の組み合わせで組織が稼動している。
表5 自給飼料およびTMRの外部販売(重複回答) |
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資料:共同調査報告書 P.183. 表16 |
3.農場TMRセンターの飼料構成と飼料自給率向上方策
(1)TMRの構成と価格
ここでは、畜産飼料調査所 御影庵 主宰 阿部 亮 氏の調査報告の一部を紹介する(「酪農家とTMRセンターの経営向上・維持のための方策」)。農場TMRセンターが供給するTMRの一覧が表6である。
表6 搾乳牛用TMRの製品の種類数と混合内容例 |
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資料:共同調査報告書より筆者作成
注:C、D、Eセンターは基本的な給与量がないため給与している飼料を○で表している |
TMRには、フレッシュタイプ、ドライタイプ、発酵タイプの3種類があるが(全国調査では、それぞれ47.3%、20.4%、32.3%)、生乳シェアでいうと、北海道ではフレッシュタイプが86%を占めている。フレッシュタイプは、「高水分の材料を含む原料を混合した後に、発酵処理することなく、直ちに酪農場に配送するTMRのこと」である。調査した5センター全てが、フレッシュタイプであり、配送方法は、毎日のトラックによるバラ配送(4センター)と隔日の圧縮梱包配送(1センター)であった。後者の場合、梱包密度が高いことから貯蔵期間が長くなる。
TMRの原料は、粗飼料では牧草サイレージとトウモロコシサイレージが使われているが、1センターでは牧草サイレージのみであった。濃厚飼料では、配合飼料を中心に、大豆粕やトウモロコシ単味がサプリメントとして使われ、さらにビートパルプが全てのセンターで利用されていた。これらの構成比は、サイレージが45%前後、配合飼料・サプリメントが45%前後、ビートパルプが6%前後になる。
これらのTMR価格は、日乳量30〜35キログラム前後の搾乳牛用で1日1 頭当たり1200円前後、TMR乾物1キログラム当たりでは51円前後であった。飼料原料の価格構成では、配合飼料60%、サイレージ34%、ビートパルプ6%と、配合飼料の占める割合が大きいことが分かる。配合飼料は、原料を海外に依存し、価格が高い水準で推移していることから、農場TMRセンターの経営を不安定なものにしており、飼料構造の見直しの議論が必要である。
飼料構造の見直しのためには良質粗飼料の生産が必要であるが、農場TMRセンターでは、表7のように土壌診断の徹底、スラリー成分の分析、バンカーサイロでのサイレージ品質向上のための取り組みなどが行なわれていた。
表7 各センターにおける良質サイレージの調製のための取り組み |
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資料:共同調査報告書 P33-34を要約 |
(2)農場TMRセンターの飼料自給率向上方策
ここでは、帯広畜産大学 准教授 花田 正明 氏の調査報告の一部を紹介する(「TMRセンターにおける飼料自給率向上方策」)。北海道の農場TMRセンターは、組織化前と比べても飼料構造に大きな変化はなく、依然として輸入飼料に依存している。その要因として、牛群の泌乳能力に対する自給飼料の栄養水準の低さ、農産副産物や食品残さの飼料化の遅れなどが挙げられる。
農場TMRセンターの草地管理における利点は、個々の農家においては管理がなおざりになるケースが出ていたが、組織化されることで草地の集中管理が行なわれ、草地の植生改善、自給飼料収穫調製作業の効率化やサイレージの品質向上が認められる。
例えば、大樹町にある拠島デイリィサポートでは、草地の生産性をほ場ごとに把握することで草地更新を行っている。
一方、現在の農場TMRセンターによる草地の採草地利用化は、傾斜地など採草に不向きな草地の利用率低下を招き、草地面積の減少につながりかねない。また、育成牛へのTMR供給についても、採草利用不適地の放棄が進み、飼料自給率向上を困難にしている。農場TMRセンターは、TMRの製造、供給のみの機能に限定されることなく、地域の資源を有効に利用する役割も担うべきである。
飼料自給率向上のための方策としては、第1に栄養価の高い3番草の利用がある。興部町のオコッペフィードサービスや秋里TMRセンターは、アルファルファ導入草地で3番草の利用が行なわれていた。
第2の課題は草地更新である。鹿追町でシバムギが繁茂した草地を簡易更新し、3回刈りにすることで、単収向上が図られている。
第3に、チモシーに代わりオーチャードグラス、ペレニアルグラス、アルファルファなどを栽培し、多回刈りすることで、自給飼料全体の乾物生産量および栄養価を向上させることができる。
これらの方法により粗飼料のTDN含量が向上することで、濃厚飼料を減らすことが可能になる。
表8は、粗飼料のTDN含量の違いが、TMRのTDN含量毎の飼料において、どのような粗飼料と濃厚飼料の配分比率になるか見たものである。例えば、TDN含量70%のTMRを調製するためには、原料となる粗飼料のTDN含量が58%の場合、TDNベースでの粗飼料と濃厚飼料の混合比率は46:54となるが、TDN含量が64%の場合、その比率葉65:35となる。従って、農場TMRセンターの飼料自給率を高めていくためには、粗飼料の栄養価を高めていかなければならない。
表8 TMRのTDN含量に応じた粗飼料と濃厚飼料の配合割合の比率 |
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資料:共同調査報告書 P.76. 表5より。濃厚飼料の含量は85%(乾物中)として計算 |
4.農場TMRセンターにおけるコスト削減方策
ここでは、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 藤田 直聡 氏の調査報告の一部を紹介する(「TMRセンターにおけるコスト縮減などの経営合理化」)。調査対象は、興部町にあるオコッペフィードサービス(以下「興部」という。)、網走郡大空町に存在する東もことTMR(以下「大空」という。)、上川郡新得町のJA新得町TMRセンター(以下「新得」という。)である。
経営規模(2011年度)は、興部が構成戸数9戸、耕地面積580ヘクタール、飼養頭数679頭、出荷乳量6333トン。大空が7戸、417ヘクタール、644頭、6378トン。新得が13戸、468ヘクタール、903頭、8590トンと新得の規模が大きい。
3センターの経産牛1頭当たりTMR製造費用を見たのが表9である。費用合計を見ると、興部が33万9000円、大空が46万6000円、新得が39万5000円である。この格差の要因は、労働費および固定費などを見ると、興部11万5000円、大空9万9000円、新得6万9000円で新得が低くなっている。これは、新得の場合、構成員のほ場がまとまっており、そこでの作業をコントラクターが効率的に行っているためである。一方、購入飼料費が興部18万6000円、大空が28万9000円、新得が24万2000円であり、大空の購入飼料費の大きさが目立つ。
表9 TMRセンターのTMR製造費用の内訳(経産牛1頭当たり) |
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資料:共同調査報告書 P.92. 表7より |
表10の農場TMRセンターにおける飼料構成を見ると、配合飼料量は、興部が5.3キログラム、新得が7キログラムに対し、大空は11.6キログラムと興部の倍以上の量になっている。その原因として、平均個体乳量が興部9365キログラム、新得9443キログラムに対して大空は9905キログラムと多いこと、それに対し、経産牛1頭当たり耕地面積(うち、トウモロコシ栽培面積)は、興部0.85ヘクタール(0.13ヘクタール)、新得0.52ヘクタール(0.24ヘクタール)、大空0.64ヘクタール(0.16ヘクタール)であることから、自給飼料の供給量が相対的に少ないことが、配合飼料量を多くしている理由と考えられる。
従って、農場TMRセンターがコスト削減を行うためには、トウモロコシサイレージの給与量を増やし、牧草の栄養価を高めることが重要になる。
表10 調査対象TMRセンターにおけるTMRの構成 |
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資料:共同調査報告書 表8を改変、興部、新得は11年度、大空は08年度数値 |
5.農場TMRセンターおよびコントラクターの経営管理と人材育成
農場TMRセンターおよびコントラクターは、経営規模が大きくなるため、経営管理の良し悪しが、TMRの価格および利用料金に跳ね返ってくる。そこで、道内5組織の経営管理と人材育成について、地方独立行政法人北海道立総合研究機構 金子 剛 氏の調査報告の一部を紹介する(「TMRセンターおよびコントラクターにおける経営管理・人材育成の改善および土地資源の有効活用」)。
表11は、2つの農場TMRセンターと3つのコントラクターの概況を見たものである。まず、泣Eエストベースは、固定負債の軽減を図るため、コントラクター部門を分社化している。また、経営管理においては、技術面ではコンサルタント、経済面ではJAと連携して構成員の経営改善を行なっている。また、人材育成では、若年層を執行役員として運営に参加させ、将来のリーダー育成を行っている。
級ェ崎機械興業では、コントラクター事業に加え農業機械の自社整備、飼料用トウモロコシの受注生産、草地更新、畜舎周辺の施設整備、顧客の余剰牧草サイレージの転売事業などを行ない、従業員の通年就業の場を確保し、長期雇用につなげている。これは、牧草収穫適期での作業によるサイレージ品質確保のためには、従業員数の確保が必要であるものの、一方で収穫期以外での就業の場がないと収益を悪化させる要因となるためである。カワダインターナショナルも同様に、コントラクター事業以外に機械の販売や修理、飼料の販売を行なって、年間の就業量を確保している。
表11 調査対象事例の概要 |
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資料:共同調査報告書 P.103. 表1より。
注:1)従業員は通年雇用のみ、2)コントラ部門は1名、3)利用者は出資 |
虚W茶町サポートセンターは、酪農ヘルパー事業を中心に、ヘルパーの就業の場の拡大としてコントラクター事業を設定している。そのため、重機免許の取得の費用負担や技術研修を実施している。また、人材確保のため、終身雇用制度、職階制度による待遇改善などを行なっている。拠標津ファームサービスでは、雇用の際にはミスマッチによる離職を防ぐため、関係者から求職者に対して作業内容の十分な説明を行なっている。
6.コントラクター委託の条件と成立条件
(1)コントラクター経営の特徴
コントラクターの場合には、農場TMRセンターと違って、委託農家との関係はより希薄になる。コントラクターが成立するための最低条件は、経済的に採算が取れることであるが、顧客である農家数の変動に対して、耐用年数の比較的短い農業機械を増減させることができるため、固定費は可変的である。また、中古機械を使うことでより一層、対応が可能となる。また、オペレーターの雇用形態で、正社員を多く抱えると固定費が増大するため、仕事量が限定される場合は、新たな仕事を開拓し、就業の場と収益を確保しなければならない。一方、農協系コントラクターの場合には、成立に際して政府からの多大な支援があり、また独立採算が困難な場合には農協などの支援があることから、支援のない民間コントラクターに比べて有利な競争条件に置かれている(国からの助成施策の詳細は共同調査報告書、P.19〜22、P.203〜205を参照)。
(2)委託農家の経営論理
コントラクターと委託農家との関係がドライであることは、農家の独自の経営論理による行動がコントラクター経営を左右することになる。作業委託する農家の理由は多岐に亘る。大きくは経済的要因と非経済的要因である。非経済的要因は労働的要因、土地的要因、機械施設的要因、技術的要因、生活要因が挙げられる(注4)。
そこで、具体的に経済的視点から、酪農家が支援組織に委託する行動類型を検討してみる。委託農家の行動には表12のようなパターンが想定される。第1に「一般型」である。コントラクター作業料金が農家の費用(労賃、機械減価償却費、修理費、燃料費など)よりも低い場合、コントラクターに委託することになる。第2に「節約型」である。第1の場合と同じ条件でも、農家の所得が不足する場合、コントラクター委託で浮いた労働力が生かされなければ、農家は自家労賃を低く設定するためコントラクターに作業委託は行わない。第3は「積極型」である。コントラクターの料金と農家の費用が同じでも、飼料生産で計算された自家労賃(40)よりも高い賃金(例えば50)が他の仕事で確保できる機会があれば農家はコントラクターに委託するであろう(場合によっては、機械減価償却費を加味した額との比較になる)。
表12 農家の行動類型と委託の判断 |
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資料:共同調査報告書 P.12. 表4
注:諸費用は個人=コントラクターと仮定。数字はわかりやすくモデル化したもの |
以上が経済的要因であるが、非経済的要因の典型として、第4は労働不足型である。例えば、牧草収穫期の牛舎作業との労働競合が起きるためコントラクターに委託せざるをえなくなるケースである。その場合、労賃の水準はある程度、度外視されるが、料金水準如何によっては、コントラクターへは委託せず、過重労働を前提に自家労働で乗り切る場合もある。第5に生活要因である「ゆとり型」である。十分な所得が確保されれば、生活のゆとりを確保するために、自家作業の費用よりも作業料金がはるかに高くても農家はコントラクターに作業委託するであろう。以上が、コントラクター委託の論理的考察であるが、実際の農家の行動原理がどのように働いているのか、浜中町酪農家のアンケート調査をもとに考察してみる。
浜中町の全農家179戸を対象に2013年1月にアンケートを配布し、117戸の回答を得た(回収率65%)。コントラクター利用農家30戸と非利用農家87戸の営農内容を比較すると、まず、経営規模は、利用農家が非利用農家に対して出荷乳量では636トン対525トン、乳牛頭数では85.8頭対68.2頭、経営耕地面積では58.2頭対50.2頭であり、ともに非利用農家を上回っている。しかし、家族労働力は、利用農家2.3人に対し非利用農家2.6人と非利用農家を下回っている。
次に乳牛の飼養形態を見ると、両者とも夏期放牧・冬期舎飼い方式が3分の2であるが、係留方式を見ると、利用農家はフリーストールが46.7%と最も多いのに対し、非利用農家は27.6%と少ない。利用農家はフリーストールでかつ夏期放牧を行っているのである。
牧草収穫作業体系および貯蔵方式を見ると、利用農家については、コントラクターによる自走ハーベスターを使ったサイロ貯蔵方式であるものの、ロールベーラを使ったラップサイレージ調製も同程度行われている。サイロサイレージ調製作業はコントラクターが主体的に作業を担っているものの、ラップサイレージ調製作業についてはコントラクターと家族が担い、乾草調製作業は家族が担っている。このことから、利用農家は、全面的にコントラクターに作業を委託しているわけではなく、家族でも作業を行っている。一方、非利用農家は、家族でロールベーラを使ったラップサイレージ調製が行われている。その他、共同作業による自走式ハーベスターを使ったサイロサイレージ調製も行われている。
以上の農家アンケート結果から委託の要因について、次のことが明らかになった。つまり、コントラクターへの委託、非委託を分ける最大の要因は、牧草の収穫作業体系にあることが分かった。また、コントラクター委託農家はサイロサイレージ体系が主体であるものの、ラップサイレージ体系も併せ持っており、牧草調製機械の「二重投資」が行われている。現在の浜中町の酪農家によっては、必ずしも経済的行動がとられていないことが明らかになった。その理由として、収穫適期に希望どおりの作業委託ができないなどのコントラクターに起因する問題と、酪農家自身が機械所有していることが要因として挙げられる。これらの要因をまとめたものが表13である。
表13 酪農家のコントラ利用に対する意識 |
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資料:共同調査報告書 P.17. 表14 |
コントラクターへの委託要因は、これまで想定した経済要因よりも、労働要因や高品質牧草の確保の牧草要因、また生活のゆとり確保のための生活要因が強く働いていることが分かった。一方、非委託要因は、すでに見てきた家族の作業体系が確立していることや、「自分の牧草は自分で調製」といった、酪農家の職業観が存在していることが確認できた(「農民意識要因」)。また、コントラクターへの作業委託は自由であり、いつでも止めることができることが、農家の機械所有や行動を不確定なものにしているものと思われる。このことは、非利用農家87戸中21戸が、委託経験があることからも推察される。
従って、コントラクターの成立は、あくまでも酪農家の委託需要のもとで成り立っていることから、酪農家が置かれているさまざまな事情を考慮して、コントラクター受託につなげる工夫と努力が必要であろう。
(3)コントラクター事業の発展方策
以上に見るように、北海道酪農の生産現場では、必ずしも合理的な経済論理が働いていない状況が明らかになった。そのため、コントラクターの選択を誘導することが顧客である利用者を増やし、コントラクター経営をより安定的なものにする。まずは、牧草調製における二重投資を解決する必要があろう。二重投資が存在する理由は、道外稲作兼業農家に見られた機械所有と共通する。短い期間の農作業を乗り切るために、零細規模農家がそれぞれワンセットの稲作機械を装備していたことである。そこでは、採算を度外視して兼業収入が投じられていたことから、機械の過剰投資を招いていた。
そこで、酪農において経済論理を働かせる工夫が必要になってくる。コントラクター利用農家でも、ロールベール作業機械体系を装備していることの採算性の悪さを認識させることである。例えば、ロールベール調製作業には、ロールベーラ、トラクター、モアコンディショナー、ラッピングマシーンが必要になってくる。そこで、コストを機械の減価償却費のみに単純化して、牧草サイレージのコストを1、2番草収穫と2番草のみの収穫を比較したのが表14である。
表14 牧草サイレージのコスト比較 |
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資料:共同調査報告書 P.18. 表15
注:コストは機械減価償却費のみに限定
50ha規模を想定 |
実態として、1番草のみをコントラを利用し、2番草は、自ら収穫する経営が存在することが明らかになったからである。
トラクターは他にも使用できることから全額負担にはならないものの、ここでは牧草サイレージのみに使用するものとして単純化した。1番草、2番草の両方に使用する場合の原物1キログラム当たりのコストは1.56円であるが、2番草のみでは5.46円と3.5倍の開きが出てくることになり、極めて高いコストのラップサイレージが作られることになる。
これらのコスト情報について農協や普及センターが農家に伝えていく努力をすることが、コントラクターの利用増につながり、また利用者である農家の利益にもつながっていくものと思われる。
また、農協系コントラクターは、設立時には機械導入の半額補助など多額の資金援助を受けているものの、アンケートでは機械の減価償却費を積み立てているコントラクターは20%以下でしかない。機械更新時には補助が受けられないことから、機械の利用率の向上、新たな作業の導入による顧客の確保、他組織との連携による投資の抑制など、経営努力が望まれる。
7.農場TMRセンターの成立条件と課題
農場TMRセンターの収支構造は、図5に見るように、TMRの販売収入と原料草代、出役料、機械リース料などの支出を基本とする。しかし、農場TMRセンターが独立した収支構造をもっているのではなく、構成員農家との間で一種のトレードオフの関係にある。
図5 農場TMRセンターにおけるマネーフロー |
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資料:共同調査報告書 P.10. 図3を改変 |
TMRの価格を高く設定すれば、センターの収入が増大する一方、構成員農家の負担が大きくなる。また、支出についても、地代(原料草代など)や出役労賃を高く設定すると農家の収入は増えるものの、センターの支出が増大する。
そのため、農場TMRセンターは、構成員である農家の減少や購入飼料の価格が上昇した場合、採算割れを起こすリスクが存在する。そこで、構成員ないしは管理農地を維持することや、TMRや自給飼料の外販によってTMR製造量の維持を図らなければならない。さらに、採算割れを防ぐ場合には、TMR価格の引き上げが必要になってくるが、その場合、農家経済を悪化させるという運命共同体の経営論理が働くことになる。つまり、構成員農家はTMR価格に縛られており、農家の経済合理的な判断が働かない場合が生じてくる。
そもそも、農場TMRセンターは設立時には増産を前提とした計画が立てられる。しかし、表15に見るように、生乳生産では計画通りか計画以上の生産が図られているものの、TMR製造では40%以上が計画以下となっており、苦しい状況になっているセンターが多い。
表15 計画出荷乳量および計画TMR製造量の達成状況 |
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資料:共同調査報告書 P.180. 表11 |
そこで、センターの経営悪化が構成農家の経済に連動しないよう、構成員農家はセンターの経営を絶えず注視して、経営改善を行なわなければならない。経営のチェックが疎かになれば、安易なTMR価格の値上げによって構成員の農家経済を苦しめることになる。表16に見るように、約半数のセンターで「赤字回避のためTMR価格に反映」しており、「毎年黒字」は1件(センター)しかない。
表16 農場TMRセンターの経営収支と減価償却費の積立 |
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資料:共同調査報告書 P.185. 表19 |
また、将来に備えて「機械、施設の減価償却費を積み立ている」はわずかに14%でしかない。農場TMRセンターは、配合飼料価格が高止まりの中にあって、飼料自給率を高めるとともに、固定費削減を行うなど、TMRのコスト低減を絶えず行なわなければ、厳しい状況に直面するであろう。そのため、センターの運営責任者の手腕が問われるとともに、指導機関の役割も一層重要になってきている。
そこで、求められるのが低コスト方策の要である農地の集積である。最初に登場したオコッペフィードサービスは農地の集約化に努め、欧米型の農場制農業が期待されたものの、それ以降設立された農場TMRセンターは農地の集約化の意識が薄れてきた。農地の集約化を図らなければ国際競争からはますます遠ざかってしまうであろう。
さらに、農場TMRセンターには巨額の投資が行なわれ、多額の補助金も投入されることから失敗は許されない。しかし、経営管理が不十分な農場TMRセンターも存在する。かつて、NZでは1990年代の後半から、投資会社が平均規模で搾乳牛500頭、164haの酪農場をNZ南島で69運営し、会社がコンピューターを使って数的集中管理をするとともに、技術や経営のコンサルタントを派遣して運営を厳しくチェックしていた。農場TMRセンターの規模がこれだけ大きくなれば、責任ある経営管理センターの設置も検討しなければならない。それだけ社会的位置づけが大きくなっていると言えよう(注5)。
(本稿の共同執筆者の部分については、筆者が勝手に要約したもので不十分な点があるものと思われる。
本報告書「北海道におけるコントラクターおよびTMRセンターに関する共同調査報告書」の全文は、独立行政法人農畜産業振興機構のホームページ(http://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_001040.html)に掲載しているので、是非、ご覧いただきたい。)
注1)高野信雄「酪農経営の支援組織」広瀬監修『日本酪農の歩み』酪農学園大学EXセンター、1998、PP234-237
注2)梅橋基悦「北海道におけるコントラクターの現状と補助事業制度の概要」『ぐらーす』北海道草地協会、1993
注3)荒木和秋『農場制型TMRセンターによる営農システムの革新』(日本の農業)農政調査委員会、2005、P13
注4)荒木和秋「酪農支援組織の類型とその発展条件」荒木監修『事例で学ぶ酪農支援組織とその利用』、
デーリィマン社、2005、pp8-10
注5)荒木和秋『世界を制覇するNZ酪農−日本酪農は国際競争に生き残れるか−』デーリィマン社、2003、
pp101-112
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