調査・報告  畜産の情報 2014年9月号

肉用牛肥育経営における
法人化のメリットと課題

畜産経営対策部 肉用牛肥育経営課


【要約】

 現在の肉用牛肥育経営の大きな課題は、肥育牛1頭当たりの生産費の上昇であり、これを低減することが重要である。

 対応策の一つとして、生産費の変動に対処できる経営力、具体的には人材面や経営管理面といった経営力の強化が考えられる。

 こうした経営力を強化する手段の一つとして、法人化があると考える。このことから法人化を検討している肥育経営の参考に資するものとして、既に家族経営から法人化した肥育経営における法人化のメリットと課題を調査したので報告する。

1 はじめに

〜肉用牛肥育経営における課題〜

 肉専用種の肥育経営における生産費総額は、飼養規模を問わず、近年上昇傾向にある(図1)。生産コストの内訳は約5割をもと畜費が占め、次いで飼料費の占める割合が大きい。残りは、人件費などその他費用であり、これらも近年上昇する傾向にある。

 枝肉の価格は季節や月によって変動するため、必ずしも生産コストを上回る価格で販売できるとは限らない。このため、高値のもと畜を購入すればするほど、高値で販売できる枝肉に仕上げないと、利益を確実に確保することは、難しいものとなる。

 また、価格が高騰しているからといって、もと畜の購入を見合わせると、飼養頭数が減り牛舎に空きができて、肥育牛1頭当たりの生産費総額のうち人件費などの固定的費用の上昇を招くことになる。

 生産費総額のうち飼料費については、配合飼料の原料のほとんどを輸入に依存しており、国際価格の影響を色濃く受ける。また、繁殖雌牛が減少している現状において、もと畜価格は高止まりの様相を示している。

 生産費総額をいかに抑えるかが肉用牛肥育経営における大きな課題である。
図1 肥育牛1頭当たりの飼養規模別生産費総額の推移
資料:農林水産省「畜産物生産費統計(去勢若齢肥育牛生産費)」

2 肉用牛肥育経営における課題への対応

(1)生産費上昇への対応について

 飼養規模が大きいほど、肥育牛1頭当たりの生産費総額のうち飼料費や人件費などその他費用は低下するので、規模を拡大して経営の安定化が図られれば、1頭当たりの生産費総額の削減が期待できる(図1)。

 また、生産費総額のうち、もと畜費については、規模拡大で費用低減が見込まれないものの、肥育経営に繁殖部門も取り込んだ一貫経営への移行により、もと畜費削減の効果を期待できる。

 しかしながら、規模拡大には、頭数規模に見合った牛舎などの施設や人員の確保などが、また、一貫経営の実現には、繁殖技術の習得や繁殖技術を有する人材の確保が、それぞれ必要となる。また、当然だが、こうした規模拡大または一貫経営の実現のいずれにおいても、一定の資金確保が前提となる。

 このように生産費上昇に対応する方策として、規模拡大による肥育牛1頭当たりの飼料費などの抑制や、一貫経営によるもと畜費の削減などが必要だが、それを実現するには、経営力の獲得が必要である。

(2)販売頭数規模別の経営形態

 肉用牛肥育経営安定特別対策事業(新マルキン事業)の契約者について、販売頭数規模別の割合を見ると、年間販売頭数100頭以下の契約者が全体の約76%を占め、101頭以上の契約者は約24%である(図2)。

 一方、総契約者の約14%を占める法人経営においては、販売頭数規模101〜500頭の層が約44%と最も多く、次いで100頭以下の層が約36%となっている。また、販売頭数規模501頭以上の層は、法人経営の約20%を占めている。ちなみに、全契約者のうち501頭以上の規模の契約者数は約290者(約4%)であるが、そのうち約200者が法人経営である。

 このことから、飼養規模の大きな肉用牛肥育経営は、多くが法人であることが分かる。また、こうした法人経営は、法人であることのメリットを活かして経営力の強化を図り、飼養規模を拡大してきたものと考えられる。
図2 販売頭数規模別 新マルキン事業契約者の割合(平成24年)
資料:農畜産業振興機構

(3)法人経営におけるメリット

 農林水産省は、経営面や制度面はもとより、地域農業の維持発展においても、法人経営にはさまざまなメリットがあるとしている(表1)。
表1 法人経営のメリット
資料:農林水産省「法人化のメリット」
 肉用牛肥育経営において、飼養規模を拡大してきた法人経営は、次の2つのメリットを活用してきたものと考える。

ア 人材確保面におけるメリット

 法人経営では、社会保険料などを法人が負担することで、従業員の雇用環境が安定したものになり、飼養頭数の増加など規模拡大に取り組むための従業員の増加や、一貫経営に取り組むための繁殖技術を持った人材の登用といった可能性が広がるなど、新たな人材の雇用に有利なものとなる。

 また、営業や経理などの経験のある人材を雇用できれば、新たな事業に取り組める可能性も広がり、経営の発展を期待できる。

 さらに、地域の人材の雇用に努めることで、地域の雇用環境にプラスとなり、法人と地域の関係性の発展も期待される。

イ 経営管理面におけるメリット


 法人経営においては、財務諸表の作成が義務であるので、家計と経営を分離して経営管理を徹底する必要がある。この必要性から、経営責任者としての自覚やコスト感覚がそれまで以上に磨かれて、生産コストの合理化が図られるものと期待される。経営者の経営感覚がより洗練されて経営管理が徹底されることで、経営成績や資金繰りの向上につながれば、金融機関などからの信用が増すこととなる。

 確かな経営管理能力が強化されて社会的信用が増していくと、金融機関からの融資限度額が家族経営のとき以上に設定される場合が多い。調達できる資金が多くなると、牛舎の増設や飼養頭数の増頭も可能なものとなり、経営規模のさらなる拡大が現実的なものになる。

 上記より、肉用牛肥育経営が生産費総額の上昇傾向下で発展していくには、飼養規模の拡大などを可能とする、人材や経営管理といった経営力の強化のための法人化の検討が、一つの選択肢と考えられる。

 そこで、既に家族経営から法人化した肥育経営における法人化のメリットと課題を調査したので報告する。

3 調査対象の肥育経営法人について

 今回、法人経営のメリットと課題を調べるために、家族経営から法人経営へと移行した5法人を調査した(表2)。調査先については、肉専用種を飼養している経営であり、地域や法人化した年などに留意して選定した。

 調査内容は、法人化の経緯や法人化のメリット、人材確保の状況、農業関連融資制度の利用状況、法人の地域での位置付けおよび法人化後の新たな取り組みなどとした。
表2 調査先の5法人の概要
資料:聞き取り調査により農畜産業振興機構作成

4 家族経営の法人化におけるメリットと課題

 以下では調査先5法人について、家族経営から法人経営への移行とその後の発展について、(1)法人における人材の確保と育成、(2)法人における経営管理という視点から整理した。

(1)人材の確保と育成

【株式会社椋木むくのき畜産(島根県)】
〜福利厚生の充実と人材育成〜


 椋木畜産は、平成19年に前社長により法人化された。前社長の父が畜産経営を開始した当時は、牛を含むすべての資産が前社長の父の所有物であり、前社長への相続税が非常に大きかったという。この経験が、「同じ思いを後代にさせたくない」という前社長の考えのきっかけとなり、法人化に至った。前社長の夫人は、「法人化しなければ、現在まで経営継承できていなかったと考える。法人化によって後代に経営基盤を残すことができた」とコメントしている。

 椋木畜産では、低コストで牛を肥育するために、おからやしょうゆ粕および稲わらなどを地域関係者から購入してきた。この取引関係は前社長が構築し、現在も継続している。

 椋木 靖仁 現社長は無理に肉質を向上させることよりも、低コスト生産と資本の回転に重きを置いているとのことだ。事務担当を雇用していることもあり、現社長は自らの時間を飼養管理に専念できており、前社長が作った経営基盤を大きく変えることなく、低コスト生産という経営方針を現在も確実に継承している。
写真1 椋木 清子 取締役(左)と椋木 靖仁 現社長(右)
 椋木畜産では、社員に人工授精師の資格をとらせるなど、人材育成のための研修機会も設け、繁殖肥育一貫経営をさらに安定的に発展させていく体制を整えているということであった。また、正社員のうち1名は獣医師を雇用している。

 従業員の雇用を開始したきっかけとなったのは、近隣の農家から研修生として高校生の受け入れを打診されたことである。現在は、地元採用で正社員6名、臨時社員1名であり、従業員の中には牛の飼養の経験がなかった者も多いとのことである。

 法人であるため福利厚生が整えられており、従業員にとって法人化はメリットとなっている。一方、経営主にとっては、福利厚生を整えるためにはコストが発生するものの、従業員の獲得や人材の定着につながりメリットとなる。

 今後の展望としては、繁殖牛の増頭を行い、一貫経営の体制強化と規模拡大を実施していきたいという。また、加工販売などの6次産業化についても、人手の問題が解決できればやりたいと意欲がみられた。
写真2 椋木畜産では前社長が開発し、
現社長が工夫改良した 飼料を給与
【農業生産法人株式会社野元牧場(長崎県)】
〜従業員から地域の担い手を〜


 長崎県壱岐島の農業生産法人株式会社野元牧場の野元 勝博 現社長は、平成24年に家族経営を法人化した。周囲からの、「ある程度の規模になったら法人化した方がよい」という後押しや、県の農業会議所や市役所の助けもあって、法人化することができた。

 農業会議所に紹介してもらった税理士には、現在も年に2回、経営状況について正確な数字を出してもらっており、とても参考になっているという。
写真3 左から、野元 芳枝 取締役と野元 勝博 現社長と
野元牧場で働く松永 勇 氏
 野元 現社長の法人化の一番の理由は、「代表取締役社長」が魅力的であるためであった。魅力的な姿を若者に見せることで、島内に畜産業や人材雇用の場をつなげていきたい、というところが真意だという。現社長の長男は獣医師として他社で働いており、次男は野元牧場で授精業務をはじめとする繁殖担当として、今後の独立を見据えて、その技術に磨きをかけている。

 また、野元牧場では、将来、独立を考えている地元の若者も雇用しているとのことであった。

 畜産業には高額な初期費用がかかるためか、1人で畜産経営を開始するのではなく、「雇用され、給与をもらえるのであれば畜産を始めたい、という若者が島の中にはいる」と現社長は話す。野元牧場で技術を身につけ独立していくことで、地域のひいては島の畜産技術の向上につながることが期待される。

 また、野元牧場では、島内のスーパーマーケットと契約し、肥育した経産牛を市場価格よりも安い価格で出荷し、「華美牛はなみぎゅう」というブランドで販売しており、地域とのつながりも大切にしている。

 今後の展望は、繁殖牛のさらなる増頭と、地元スーパーに加えて焼肉店との直接取引の実現である。

 現社長の法人化の目的は、他力本願ではない、あくまで自力による地域貢献である。

 法人の存在意義は地域貢献であり、雇用創出の面において、法人の果たす役割は大きいと考えていた。

写真4 野元牧場では繁殖牛の増頭にも力を入れる

(2)法人における経営管理

【森川畜産株式会社(石川県)】
〜経営管理や生産コストに対する意識の向上〜

 森川畜産の現社長が家族経営から法人化したきっかけは、平成17年の牛舎新築の矢先に前代表が急逝したことであった。

 今後の経営方針を模索する中で、知人の会計士から、「規模拡大を目指すのであれば、法人経営の方が個人経営よりも金融機関の信用が得られやすく、税制上のメリットもあるから、法人化しておくとよいのではないか」との助言を受け、法人経営に転換した。

 前代表の急逝により経営を継承することとなった当初は、牛の飼養管理をはじめ、所有している水田の位置や面積の把握、近隣農家との稲わら交換の方法など、前代表が全般的に取り仕切っていた全ての作業が、手探りの状況であった。

 そのような状況の下、現社長は飼養管理の時間の合間を縫って、積極的に他の畜産農家の視察に赴き、近隣農家の助言を受けて、繁殖牛と肥育牛の管理技術を磨いてきた。

 また、決算書の作成のため、農業指導普及員や(公社)石川県畜産協会の経営指導を受けて、経理処理や会計の知識も深めてきた。現在は決算結果などをもとにコスト分析を行い、飼料コストの削減を図るため近隣の稲作農家から水田を借りて、購入に頼っていた粗飼料を自給する取り組みを進めている。

 法人化後は経営指導やコスト分析を通して、家族経営時に比べて生産コストに対する意識が高まっているという。

 今後は、前代表が遺した牛舎などの施設を最大限に活用しながら飼養管理技術をさらに向上させ、完全自家生産の繁殖肥育一貫経営の確立と、法人化した目的の一つでもある牛肉販売などの多角経営への展開を目指したいとのことであった。
写真5 生産と消費の現場に重きを置く森川畜産の社是
【株式会社上田畜産(兵庫県)】
〜経営の規模拡大と将来展望の実現に向けて〜

 上田畜産は、平成21年に上田 伸也 現社長により法人化された。法人化を進めた理由の一つに、家族経営で経営継承を行った際に多額の相続税が必要となったケースを知ったことが挙げられる。このため現社長は、次世代への経営継承の円滑化を念頭に法人化を選択した。

 また、皆が遠慮なく話し合いながら経営していくためには、家計と経営を分離し、経営成績を明確に把握することが必要と判断したのも、法人化の理由の一つだ。

 法人化当時の課題は、農業関係に強い税理士を見つけることであったが、以前から税務に関して相談していた県の農業改良普及センターに税理士を紹介してもらい、月日を重ねるうちに意思疎通が図れるようになったという。

 日頃は経理事務のために飼養管理の時間を削られるものの、税理士に月に一度決算状況などをチェックしてもらい、税理士の指摘を通して経営に関する正確な数字が見えるようになったので、経営の参考になっているという。
写真6 上田 伸也 現社長(手前)と上田 美幸 牧場長(奥)
「皆が遠慮なく話し合える会社にしたい」
 法人化によるメリットはさまざまだが、社会的信用が増すことで融資枠が拡がり、今後の経営に展望が開けたとのことである。実際に、法人化後に公庫資金などの融資を受けて、牛舎の新設や機械などを購入している。

 法人化後は、地元の道の駅に肥育した経産牛を契約販売し、道の駅が「お母さん但馬牛」とブランド化して販売するほか、最近は、自社ブランド「但馬玄たじまぐろ」を立ち上げて自ら販売するなど、地域経済の活性化にも貢献している。また、地域に貢献するためには、経営体の維持発展が不可欠であり、そのためにも都市部の消費地と直接提携して販売を進めているとのことであった。

 今後の目標は、精肉店を経営することである。そのためにも、繁殖牛は現在の頭数規模を維持しつつ、肥育牛を400頭程まで増頭したいとのこと。

 また、現社長は、多く稼ぐために肥育・販売するのではなく、少し安くなったとしても、地元で販売することで消費者を地元に呼び寄せ、地域経済の活性化に貢献するために肥育・販売したいと考えており、その信念があるからこそ、自社ブランド「但馬玄」の立ち上げや、今後の展望として精肉店の経営を考えていることが伺えた。

 現社長が法人化を進めたのは、地元経済の活性化への取り組みであり目標である「精肉店の経営」のために規模拡大などの地盤を固めることが一番の理由なのかもしれない。
写真7 きれいな敷料で牛への感謝
【有限会社三重カドワキ牧場(三重県)】
〜連携の取れた経営管理と肥育管理〜


 三重カドワキ牧場は、平成10年に前社長により法人化された。

 現在では、関連会社も含めて繁殖から肥育までの一貫経営となっているほか、「カドワキ牛」のブランドで、加工・販売も行っている。

 門脇 健司 現社長によると、法人化に取り組んだ前社長には、「経営を継承する家族や雇用している従業員が、今後経営の継続に不安を持つことなく畜産業に取り組んでいけるよう、経営安定のためには法人化が不可欠」との強い思いがあった。

 同社では、食肉の加工・販売部門を含め、全ての従業員を正社員として雇用しており、法人としての人材確保のために社会保険など福利厚生を整備し、法人化に取り組んだ前社長の思いの1つである「従業員が安心して働ける環境作り」を実現している。

 三重カドワキ牧場は、自身の経営とは別に、関連会社として北海道に繁殖牧場を立ちあげている。この経営は現社長の二人の弟が担当しており、三重カドワキ牧場と連携を取って生産コストの合理化を図っている。前社長は肥育経営を始める前に養豚業を営んでいたとのことで、その経験を踏まえて肥育経営においても養豚と同様に、子牛の生産から肥育牛の販売までを自社で管理できる一貫経営を目指していた。
写真8 門脇 健司 現社長(左)は、カドワキ牛を生産する4兄弟の長男
 また、関連会社を含め自社で生産した牛肉について、その生産工程を全て明らかにすることが可能であるので、法人として自信を持って消費者へ「カドワキ牛」を提供できる体制とのことだ。

 近年では、農場の周囲の宅地化が進んだこともあり、近隣の住民の理解を得るためにも、地元の小中高生を中心に農場の見学や試食を行って、「カドワキ牛」をPRしている。求人も地元での人材確保を基本としている。また、従業員とは定期的な食事会を開催することで、相互のコミュニケーションを積極的に図っている。

 三重カドワキ牧場は、法人化以前の家族経営においては、長い経験を踏まえた前社長の職人技によって高格付の枝肉を生産していたが、この技術は父から息子へ円滑に継承され、現社長が法人の代表となった後も、現社長自らによる肥育管理が続いていた。
写真9 従業員によるマニュアルに基づいた給餌
 しかしながら、法人として経営が軌道に乗ってくると、多忙を極めることとなり、やむを得ず従業員に肥育管理を任せる機会が増えたという。

 その結果、出荷直前の肥育牛の事故が多発したことから、現社長は、法人として経営を維持・発展させるためには、枝肉格付を落としても事故率の少ない安定的な生産体制の確保が重要と考え、肥育管理をマニュアル化した。

 このマニュアル化によって、A5等級の枝肉生産は減少したが、全ての従業員が事故のない肥育管理に努め、安定したA4等級の枝肉生産が可能となり、「カドワキ牛」という自社ブランドの確立に至った。

 また、マニュアル化することによって、畜産業の経験者だけではなく、広く人材を求めることも可能とした。
写真10 飼料給与も肥育ステージごとにマニュアル化し、牛舎内に掲示
 現社長には、飼養マニュアルによって品質が安定し「カドワキ牛」ができ上がったものの、A5等級の枝肉生産が減少したということに対して牛飼い職人として、歯がゆい思いがあるという。経営が今後より一層安定すれば、リスクを経営全体でカバーすることも可能となることから、A5等級の枝肉生産に再挑戦したいという希望があるとのことだ。

 また、東京都中央食肉卸売市場への出荷にも挑戦しており、現社長は近年「カドワキ牛」が認知されてきたとの手応えをつかんでいる。

(3)調査を通じての法人化のメリットと課題

 今回の5法人経営の調査を通じて解釈されることを、以下に「法人化のメリット」と「法人化に当たっての課題」としてまとめる。

ア 法人化のメリット

(1)人材確保面におけるメリット

 従業員の福利厚生が整備された職場になることにより、各法人の将来像に照らして、求める経験を持った人材を雇用できる可能性が広がる点が、法人化のメリットと考える。また、従業員離職の減少も期待できる。

 さらに「従業員が地域の中で家庭を持つようになることを通じて、地域に根付いた法人経営体となっていきたい」と考える経営者もいた。

 従業員の多くは、もともと経営者の知人であることや、知り合いの農家の紹介であることが多く、法人化は地域における雇用の増加につながっている状況であった。

 また、将来、独立を考えている者を雇っている場合もあり、経験を積み、技術を身に付けて独立していくことで、その地域の畜産の発展、畜産技術の向上にもつながるものと思われる。

(2)経営管理面におけるメリット

 法人化を通して普及センターや税理士から、経営指導やコスト分析を受けることになる。こうした第三者のチェックが経営面に入ることで、家族経営のとき以上に生産コストに対する意識が高まったケースや、それまで認識できていなかった経営上の数字が見えるようになり経営指標にできているとのことであった。

 家計と経営を分離することで経営状況が明らかになり、経営主以外による経営参加の余地が生まれる点についてメリットであるという話もあった。

イ 法人化に当たっての課題


(1)経営管理事務と税理士

 法人化に当たっては、自ら決算書を作成し、経営状況を把握できるようにすることや、社会保険など福利厚生面における整備が必要であること、資産を個人と法人に明確に分けなければならないこと、など対応すべきことが多数ある。さらに、新たな方向に経営展開を行う余裕が生まれるには、利益を出せる経営体質とする必要がある。

 こうした課題においては、税理士などによる経営アドバイスが助けとなっているケースが多く、税理士は農業会議所や普及センターなどに紹介してもらうケースが多いようである。

(2)飼養管理と経理事務の両立

 調査した経営体の中には、経営者自らが飼養管理と経理事務の両方を担っており、それが大きな負担となっているケースも見受けられた。

 経理担当者を雇用すれば、日々の事務処理や経理処理などを任せることができるが、それには当然ながら費用が必要となる。一方で、法人の経営者自ら経理事務を担えば、経営感覚が確実に養える側面もあるようだ。また、従業員の中から飼養管理の責任者が育てば、経営者が経理事務に携わる時間的余裕が生まれ、経営発展の方向性にも広がりを見せることも可能となる。

 法人化を実現するには、あらかじめ先を見通した計画を作成し、それに沿って計画的に法人化の準備を進めておくことが重要であるものと思われる。

5 おわりに

 法人化は家計と経営の明確な分離から始まり、日々の経営の積み重ねの中で経営者としての意識、経営管理能力が磨かれていく。経営状態が明確となり信用力が増すと、金融機関からの融資を得られ、規模拡大にもつながる。

 今回の調査では、法人化は、人材の雇用および育成の点においてメリットがより大きいことを挙げる経営者の方が多かった。地域の人材を雇用し、育成することで、地域に根付いた経営となる。

 今後、法人化を目指す経営において、本報告が少しでも参考になれば幸いである。


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