海外情報  畜産の情報 2014年9月号


タイ産生鮮鶏肉解禁による
日本への輸出見通し

調査情報部 西村 博昭、宗政 修平


【要約】

 2013年12月25日、日本向けタイ産生鮮鶏肉の輸入が解禁された。しかし、現在のタイの対日輸出は加熱加工品が主力であり、他の輸出国と比較して高価なタイ産生鮮鶏肉の輸出は、高品質な製品の需要に応じ一時的には増加するものの、中長期的には一定量にとどまると考えられる。

 タイの鶏肉企業は、付加価値のある加熱加工品での販売拡大を目指しており、すでに成熟した日本市場で、ブラジル産や中国産と価格競争をする意識はないことから、今後、現在の加熱加工品を中心とした輸出形態が大きく変わることは想定しがたい。

1 はじめに

 タイにおける高病原性鳥インフルエンザ(以下、「鳥インフルエンザ」という。)の清浄性が確認され、タイおよび日本の両国間で家畜衛生条件が合意されたことから、2013年12月25日付で、日本はタイ産生鮮鶏肉の輸入停止措置を解除し、10年ぶりに生鮮鶏肉の輸入を再開した。

 2004年1月の鳥インフルエンザ発生による生鮮鶏肉の輸出停止を機に、タイの鶏肉産業は、それまでの生鮮品を主体としていた輸出から、加熱加工品(から揚げなどの鶏肉調製品)主体の輸出に切り替えるべく生産体制を強化し、対日輸出拡大を図ってきた経緯がある。

 今回の生鮮鶏肉輸出解禁により、日本へのさらなる輸出拡大に向け、タイの鶏肉産業は、生産・輸出体制を強化することが予想される。このため、現地での聞き取り調査を踏まえ、タイ国内の鶏肉増産の見通しとともに、今後、日本向け鶏肉輸出が加熱加工品から生鮮品にシフトしていくのかといった観点も踏まえつつ、輸出動向の見通しについて報告する。

 なお、本稿中の為替レートは1米ドル=104円(7月末日TTS相場:103.85円)、1タイバーツ=3円(同3.3円)を使用した。

2 タイ産鶏肉の日本向け輸出の経緯

(1)日本とタイとの鶏肉取引の開始

 タイと日本との畜産分野での貿易は、1960〜70年代にかけて、家畜の飼料原料となるトウモロコシをタイから輸入したことに始まる。一時、タイは日本にとっての飼料原料供給基地としての役割を果たし、ピーク時には年間95万トンのトウモロコシが輸入されたが、その後、日本が調達先を米国にシフトしたため、90年代にはゼロとなった。

 タイ産トウモロコシに替わって台頭したのが鶏肉である。現在、アジア地域を中心に急成長を遂げているアグロインダストリーのチャルーン・ポカパン(CP)グループが、トウモロコシを原料とした配合飼料生産から発展し、素ひな生産、養鶏、食鳥処理まで一貫して事業を拡大し、1973年には日本向けの生鮮鶏肉輸出が開始された。

(2)加熱加工品の輸出開始

 90年代後半に入り、生鮮鶏肉に加え、加熱加工品の輸出が本格的に開始された。この背景には、日本国内での鶏肉処理・加工コストが上昇する中、より安価で、かつ、品質や重量、均一の味付けなど規格の厳しい日本の加熱加工品の需要に応えられる供給先が求められたことがある。このため、この時期には日本企業による技術提供も行われ、鶏肉処理工程におけるきめ細かなカット、多岐にわたる商品(味付け、衣づけなど)の製造、品質保持のための加熱および冷凍などの施設整備が行われるとともに、現在のタイの加熱加工品製造の基盤となる技術が培われた。

(3)鳥インフルエンザ発生以降

 2004年1月の鳥インフルエンザの発生により、輸出の太宗を占めていた日本およびEU向け生鮮鶏肉の輸出が停止され、タイの輸出向け生鮮鶏肉の生産ラインのほとんどが廃止されることとなった。この間、日本向けの輸出を伸ばしたのはブラジル産である。日本の生鮮鶏肉の輸入動向を見ると、2003年には16万9000トンと全体の37%のシェアであったブラジル産は、2013年は38万3000トン(シェア93%)となり、輸入量のほとんどを占めるに至っている(図1)。
図1 生鮮鶏肉の輸入量

資料:GTI社「Global Trade Atlas」
HS:020714(冷凍鶏肉カット品)

 一方、日本の鶏肉加熱加工品の輸入動向を見ると、2003年では中国産が13万3000トン(シェア58%)、タイ産が9万1000トン(同39%)と中国産がタイ産を上回っていたが、2004年以降、タイ産の輸入量は順調に拡大しており、2013年ではタイ産が21万4000トン(シェア49%)、中国産が22万1000トン(同50%)と日本市場を中国産と二分するまでに至っている(図2)。
図2 加熱加工品の輸入量および輸入価格(CIF)

資料:GTI社「Global Trade Atlas」
HS:160232(鶏肉調製品)
注1:鶏肉調製品は加熱加工品と非加熱加工品に概ね区分され、加熱加工品は、製品を蒸すまたは
   食用油で揚げるなどして、その中心温度が70℃以上になるように1分以上、加熱したもので、鳥
   インフルエンザ発生後は、すべて加熱加工品である。
注2:2000〜2004年のタイおよび2000〜2003年の中国の輸入量には、非加熱加工品も含まれて
   いるが、鶏肉調製品のうち加熱加工品だけを計上することは困難なため、鶏肉調製品を
   用いている。

 これは、生鮮鶏肉輸出停止から10年の間、タイがさらなる加熱加工設備拡充への投資、日本のユーザー向けの新たな商品開発、さらには高度な加工技術に対応できる人材育成などを行ってきた結果である。

 中国産と比較すれば、タイの加熱加工品の価格優位性は劣るものの、その付加価値の高い加熱加工品は、均一な品質の商品を求める大型小売店舗やコンビニエンスストアを中心に販売が拡大され、今や日本全体の鶏肉供給量の1割を占めるまでになっている(図3)。
図3 鶏肉(生鮮及び輸入加熱加工品)の国内供給量(2013年)
資料:農林水産省「食鳥流通統計」、財務省「貿易統計」
HS:020714(冷凍鶏肉カット品)、160232(加熱加工品)
  注:国産生鮮鶏肉は骨抜きベース。

3 タイ産鶏肉の輸出形態

 現在、タイの鶏肉輸出の7割弱が日本およびEU向けの鶏肉調製品である。日本向けの輸出主力商品は、モモ肉(カット製品)や手羽製品であり、いわゆる「から揚げ」や「フライドチキン」などの加熱加工品である。タイ産の鶏肉は、家庭用の冷凍食品や中食・外食用として提供されるほか、コンビニエンスストアのレジ横に陳列されるものなどさまざまなチャンネルで販売されている。

 また、外食やコンビニエンスストアで販売される商品は、既にタイで一次加熱・味付けされているが、その多くは日本国内で再度、短時間の加熱調理をすることを考慮して製造されている。ある大手鶏肉企業では、衣(小麦粉やパン粉など)の材料や調味料、加熱処理が異なる「から揚げ」の商品ラインナップは200種類もあるとのことで、ユーザーの要望に応じて多種多様な製品を製造していることが分かる。

 一方、EU向けの輸出主力商品は、ムネ肉(ブロックまたはカット製品)である。調理法も日本が「揚げる」のに対して、EUは、「蒸す」のが主体であり、EUでは鶏肉は脂肪分が少なくヘルシーな食材としてのイメージが強い。以下の写真4のようにサラダなどに混ぜて食されることが多いが、味付けも淡泊であり、写真3のように形状は統一されていない。製品の形状、重量、味付けなどの均一化が求められる日本向け(写真1および2)とは状況が大きく異なっている。

 タイ農業協同組合省畜産局によると、鶏肉加工工場の工員1名の1日当たりの生産量は、日本向けは効率性よりも均一性を重視するため3〜4キログラムであるのに対し、EU向けは形状よりも価格を優先するため20キログラムとの調査結果があるとしている。その生産性の格差は歴然としており、当然、日本向けは、EU向けに比べ製品の単価が高くなっている(表1)。
表1 タイ産加熱加工品の輸出価格(FOB)
資料:GTI社「Global Trade Atlas」
HS:160232(鶏肉調製品)
写真1 均一な形状のモモ肉のから揚げ(日本向け)
写真2 均一な形状の手羽のから揚げ(日本向け)
写真3 不揃いな形状のムネ肉(EU向け)
写真4 サラダなどに利用される

4 タイ産生鮮鶏肉製品の輸出競争力

 タイ産生鮮鶏肉の日本への輸出拡大の可能性を述べる前に、現在、日本向け生鮮鶏肉輸入量の9割以上を占めているブラジル産との比較をしてみたい。

(1)インテグレーションの進展

 タイ、ブラジル両国ともに、鶏肉産業は、生産と鶏肉処理・加工、流通、販売といった川上から川下までの部門が垂直統合(インテグレーション)した体系をとっている(図4)。これにより、各部門が統合された鶏肉企業は、生産から販売までを通じた独自の戦略を講じることができ、輸出国が求める厳格な衛生管理基準に対応した製品の大量生産が可能となっている。
図4 タイのインテグレーションの概念図
資料:聞き取りなどをもとにALIC作成
  注:飼科工場、卸売や小売業を所有していない鶏肉企業もある。

(2)生産コスト比較

 養鶏農家の農場出荷価格(2014年)を見ると、タイ産が1トン当たり1402ドル(14万5808円)であるのに対し、ブラジル産は同1071ドル(11万1384円)であり、タイ産がブラジル産よりも高い(図5)。

 これは、ブラジルのスケールメリットによる生産コストの差によるものであると考えられる。

 また、両国とも養鶏農家における生産コストの7〜8割は飼料コストである。一般的にブロイラー用配合飼料の大部分がトウモロコシと大豆かすであるが、ブラジルでは、トウモロコシ、大豆かすともに自国において十分な調達が可能である一方、タイでは、トウモロコシはほぼ自給できているものの、大豆かすについては自給できず輸入に依存している。具体的な数値を示すデータはないが、飼料調達の違いも生産コストの差として表れているものと考えられる。
図5 タイ産とブラジル産の鶏肉輸出価格(FOB)
資料:タイ農業協同組合省およびブラジル国家食料供給公社(農場出荷価格)、
GTI社「Global Trade Atlas」(鶏肉輸出価格)
HS:020712(冷凍丸鶏)、020714(冷凍鶏肉カット品)
注1:2014年は1月〜4月までの平均値。
注2:中東向け丸鶏輸出価格は、アラブ首長国連邦、オマーン、バーレーン向けの平均値。

(3)輸出に係る流通コスト比較

 両国が輸出している中東向け丸鶏の輸出価格(2014年)を比べると、タイ産が1トン当たり1616ドル(16万8064円)、ブラジル産が同1546ドル(16万784円)とほぼ同水準の価格で輸出できることが分かる(図5)。

 流通コストを示す指標として、これら価格から農家出荷価格を差し引くと、タイ産が1トン当たり214ドル(2万2256円)、ブラジル産が同475ドル(4万9400円)となり、タイ産がブラジル産を大きく下回っている。

 これは、ブラジルは主要鶏肉産地(養鶏農場および鶏肉処理工場)から輸出港(注1)までの距離が約600キロメートルと離れている一方で、タイの主要鶏肉生産地域はバンコク周辺にあり、輸出港(バンコク港やレムチャバン港)までの距離が約150キロメートル圏内と比較的短いといったメリットがある(図6)。

(注1)詳細については、畜産の情報2014年1月号「ブラジル鶏肉産業の優位性と課題〜サンタカタリーナ州を中心に〜 」を参照されたい。
図6 タイの主要鶏肉生産地から輸出港までの位置関係
資料:タイ農業協同組合省「農業統計2013」を基にALIC作成。

(4)日本向け輸出の分割整形コスト比較

 中東向けの丸鶏の輸出価格では差が生じていないが、日本向け生鮮鶏肉輸出価格(2014年)では、タイ産が1トン当たり3361ドル(34万9544円)に対しブラジル産が同2499ドル(25万9896円)と、その価格差が大きくなっている(図5)。

 また、日本向け生鮮鶏肉価格から中東向けの丸鶏の輸出価格を差し引いた額が、分割整形コストを示す指標となるが、タイ産が1トンあたり1745ドル(18万1480円)に対してブラジル産は953ドル(9万9112円)と約2倍の差が生じている。

 これは、タイの鶏肉企業は日本側が要求する厳しい衛生条件や製品規格に対応するため、ひとつひとつの製品を目で検品し、ピンセットで鶏肉に付着した羽や骨の屑を取り除くなどの処理を行っていることが要因である。このため、包装工程を資本集約型にするなどのコスト低減には取り組んでいるものの、多くの人手がかかる労働集約型となっており、コスト高の構造からの脱却は難しい。

 ある大手鶏肉企業の幹部の発言で印象に残ったのは、「タイは日本市場において、ブラジル産をライバルとして認識していない。鳥インフルエンザが発生し、代替としてシェアを奪われただけである。ブラジル産よりも品質の高い製品を提供できる自信がある。」という言葉である。つまり、低価格という同じ土俵でブラジル産と競争するつもりはなく、価格ではなく品質を求める日本の需要の高まりがあれば、自然とタイ産生鮮鶏肉のシェアは回復するであろうとの意識が伺える。

5 今後の鶏肉生産見通しと課題

(1)生産の見通し

 タイ政府は5年に一度、鶏肉産業の中期目標を作成している。現在の目標(2010年策定)では、消費の6割強を占める内需がけん引し、低所得者層(特に農村部)の質の高い生鮮鶏肉の潜在需要や、女性の社会進出に伴う加熱加工品の需要増加が見込まれることから、今後5〜10年程度においては、鶏肉生産は年5%の増加率を示す見通しとしている。

 また、近年の鶏肉生産量は2010年133万トン、2011年136万トン、2012年145万トン、2013年151万トンと順調に増加している。2014年前半も内需の増加に加え、日本向け生鮮鶏肉の輸出が好調であることから、2014年の生産量は166万トン(前年比9.6%増)になると予測している(図7)。
図7 食鳥処理羽数と鶏肉生産量
資料:タイ農業協同組合省農業経済局
  注:2014年は見込み。
 一方、タイの大手鶏肉企業の見解は、政府の見通しとは異なっており、以下に述べるさまざまな課題が障壁となり、これまでの鶏肉生産の伸び(2〜6%)は見込めないとのことである。

(2)増産に向けた課題

(1)鶏肉需要の見極め

 鶏肉の増産に不可欠となるのは需要の見極めである。特に消費の6割強を占める内需の見極めが重要であり、これを見誤り増産をすれば供給過多となる。

 鶏肉産業は「鶏1羽」の販売で収益性を確保しており、例えば、日本向けのモモ肉を中心とした需要が好調だとしても、残りの部位(ムネ肉、ガラ、もみじなど)の販路がなければ、これらの部位が値崩れを起こし、全体としての収益を損なうことにつながる。

 また、タイのインテグレートされた生産システムにおいて、タイ国内の養鶏農家は特定養鶏企業と契約を結び、契約養鶏企業から素ヒナや配合飼料の提供を受ける一方で、固定した価格で成鶏を出荷するといった形態をとっている。

 このため、国内の需給変動により鶏肉卸売価格が変動しても、農場出荷価格はほぼ一定であり、販売収益の減少による損失は、養鶏農家ではなく養鶏企業側が背負う仕組みとなっている(図8)。

 タイの大手鶏肉企業各社も政府と同様、今後、内需、外需ともに鶏肉需要は増加すると予測しているが、国内市場価格の動向は輸出価格とも連動するため、国内外の需要の増加度合いを見極めることに慎重である。
図8 農場出荷価格と鶏肉国内卸売価格
資料:タイ農業協同組合省(農場出荷価格)および国内取引局(鶏肉国内卸売価格)
(2)増産に対する環境規制の強化

 タイ国民の環境への意識の高まりにより、近年、新規農場施設(養鶏および養豚)設立に対し、周辺住民の同意を必要とする法令が整備されている。新規に農場を設立する場合には、住民との話し合いを経て、周辺住民の過半数の同意とともに、契約している鶏肉製造事業者(いわゆる鶏肉企業)の許可を得ることが必要である。その後、申請により、地方行政機関から設立許可証が発行されるが、これらの手続きには、1年以上かかるとのことである。周辺住民の理解を得られないため、規模拡大を断念せざるを得ない場合もあり、これが増産の足かせとなっている状況にある。

 また、既存の農場についても周辺住民から臭気などの苦情が出た場合、速やかに改善をしなければならず、環境整備に対するコストも上昇している。

(3)資材の確保および新たな施設整備

 増産のためには、資材となる飼料や素ヒナの調達が必要となる。大手鶏肉企業によれば、飼料の調達について問題は少ないとするものの、種鶏はEUからの輸入に依存しており、増産に見合った調達ができるかは不透明としている(図9)。
図9 輸入先国別親鶏の輸入羽数(2013年)
資料:GTI社「Global Trade Atlas」
HS:010511(185g以下の鶏)
  注:採卵用を含む。

 また、近年、国内のコールドチェーンの発達により、従来の伝統市場における温と体での販売は減少している。一方で、消費者のブランド志向が高まっており(注2)、新たな販売拡大を目指すには、高い衛生・品質管理基準に基づいた食鳥処理工場の整備と、これに応じた人材の確保や育成が必要になるため、増産体制を仕組むまでに最低でも3〜4年の歳月が必要とのことである。

(注2)高品質ブランド商品(日本向けと同じ品質)はモモ肉・ムネ肉とも1キログラム当たり150バーツ(450円)で、高級デパートの食品売り場だけでなく、一般的な量販店でも販売されている。処理度の低い商品の同80バーツ(240円)より70バーツほど高いが、高品質を求める消費者も多くなってきているとのこと。

写真5 国内スーパーで販売される高品質ブランド商品
(4)熟練労働者の確保

 タイの製造業は、労働力を国内で賄いきれず、ミャンマー、ラオス、カンボジアなどの外国人労働者に頼っている。国内の人件費は毎年5%ずつ上昇していると言われており、特に、2013年1月からの統一的な全国最低賃金の値上げ以降、労働力の流動性がさらに激しくなっており、鶏肉処理・加工など技術を有する職人の育成が課題となっている。また、食鳥処理場は、品質を保持するため室温を10℃程度に保っており、低温環境の中での作業を苦手とする者も多く、これが流動化に拍車をかけているとの見方もある。

6 今後の日本向け鶏肉輸出の見通し

 日本向けタイ産生鮮鶏肉の輸出が再開されることとなったものの、上記のさまざまな課題により、これまで以上のペースで生産を拡大していくことは困難であるとみられる。このことを前提に、今後の日本向けの鶏肉輸出の動向について、生鮮鶏肉、加熱加工品ごとに見通してみたい。

(1)生鮮鶏肉の輸出見通し

 昨年末にタイ産生鮮鶏肉の輸入が解禁され、今年3月から日本の輸入量は徐々に増加しているものの、2014年1〜6月の輸入量合計は、わずか1万トン(シェア5%)にとどまっている(図10)。
図10 生鮮鶏肉の輸入量および輸入価格(CIF)(2014年)
資料:財務省「貿易統計」
HS:020714(冷凍鶏肉カット品)
 タイ産生鮮鶏肉が輸入禁止になる前の2003年頃には、年間18万トンもの生鮮鶏肉が日本に輸出されていた。前述のとおりブラジル産との価格面での競合を考えていないことから、その頃の輸出量まで戻ることは、無いであろうという認識は、タイ政府、大手鶏肉企業ともに同じである。

 また、日本向け生鮮鶏肉輸出が禁止されていた10年間に、タイの鶏肉企業は加熱加工品製造ラインを強化してきており、今さら生鮮鶏肉の輸出にシフトさせることは、既存の加熱加工製造ラインを止めるとともに、作業員の配置も変える必要があることから現実的ではないとのことである。

 大手鶏肉企業によると、加熱加工品の需要も堅調である一方、増産にも限界があることから、日本向け生鮮鶏肉の輸出は、2014年においては最大で5万トン程度との見解を示している。

(2)半製品の輸出見通し

 半製品とは、生鮮鶏肉に味付けなどを施したものであり、現地ではマリネードと呼ばれている。日本向けには、醤油などの調味料に漬け込んだものや、バターや衣(小麦粉やパン粉など)などをつけた「バッタ付け」や「ブレッダー」と称される商品が代表的であるが、これらは加熱加工を行っていないことから生鮮鶏肉に分類されており、生鮮鶏肉の解禁に伴い日本への輸出が可能となった。

 一部の日本の鶏肉業界関係者は、タイの半製品が日本の生鮮鶏肉と競合して市場を拡大していく可能性を懸念しているものの、タイの大手鶏肉企業によると、半製品は、味付けなどでのオリジナリティーを出したい個別店舗には需要があるものの、大型小売店舗や大手外食チェーン店は調理工程の均一化や調理時間の短縮が図れる加熱加工品の使用を継続するとみられており、日本向け輸出は限定的との見解である。

 なお、半製品は、非加熱加工品であるが、日本財務省の貿易統計上では、加熱加工品とともに鶏肉調製品(HS160232)として計上され、この内訳が示された統計が存在しないことから、輸入動向をつかむのは困難である。

(3)加熱加工品の輸出見通し

 タイ大手鶏肉企業は、今後最も日本向け輸出の拡大を望むのは加熱加工品であるとしている。加熱加工品の生産については、これまで多大な資本と技術を投下するとともに、日本の消費者向け商品に関するノウハウを蓄積し、一貫して輸出を伸ばしてきた経緯がある。また、仮に、鳥インフルエンザが再発したとしても、加熱加工品の輸出への影響が限定的であることや、輸出向けには安定した需要があり、生鮮鶏肉に比べて価格変動が小さいことも理由である。

 現在、日本向け鶏肉加熱加工品は中国とタイでシェアを二分しているが、タイの各鶏肉企業は、中国との価格競争では勝てなくても、高い品質管理によるプレミアムでの販売により、輸出を伸ばしていくことは可能としている。

 また、ある大手鶏肉企業は、「クロスカルチャー・プロモーション(異文化紹介)」の取り組みを開始している。これは、健康志向が高まっている日本向けに「ムネ肉を蒸した製品」を、日本食文化が徐々に浸透しつつあるEU向けに「モモ肉のから揚げや焼き鳥」を販売するというものである。副原料や調味料を加えるとともに、調理法を変え、多種多様な商品開発により需要創出ができるのも加熱加工品の強みであるとしており、輸出拡大の機会はさらに広がりを見せている。

7 おわりに

 昨年末、日本向けタイ産生鮮鶏肉の輸入が解禁されたが、生鮮鶏肉の対日輸出は、価格よりも高い品質を求める需要に応じ一時的には増加するものの、中長期的には一定量にとどまると考えられる。

 これは、タイ側の鶏肉増産に制約がある中、タイの鶏肉企業は、生鮮鶏肉や半製品よりも付加価値をつけた加熱加工品での販売拡大を目指していることが理由である。実際に、日本の実需者ニーズをくみ取ってきた結果が、近年の加熱加工品の輸出量の増加として表れている。

 タイの鶏肉企業は、すでに成熟している日本市場で、ブラジル産や中国産との価格競争をする意識はなく、高い品質の製品を供給し続けるという立ち位置は変わらない。このことからも、今後、現在の加熱加工品を中心とした輸出形態が大きく変わることは想定しがたい。

 タイは、昨年10月のシンガポール、12月の日本向け生鮮鶏肉輸出解禁に続き、来年は韓国向け生鮮鶏肉輸出の解禁に向けた交渉を進めている。

 輸出先の選択肢が広がる中、タイの鶏肉企業の目下の課題は、鶏「1羽」としての収益を上げるべく、部位ごとに偏在化している各国の需要動向を見極め、増産に対する課題をいかに克服していくかということであろう。

 
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