調査・報告  畜産の情報 2015年7月号

「酪農及び肉用牛生産の近代化を
図るための基本方針」のポイント

農林水産省 生産局畜産部 畜産企画課


【要約】

 「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」(以下「基本方針」という。)は、「酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律」(昭和29年法律第182号)に基づき、今後のわが国の酪農、肉用牛生産の健全な発展と牛乳・乳製品、牛肉の安定供給に向けた取り組みや施策の方向を示すものです。農林水産省では基本方針の見直しをおおむね5年ごとに行っており、今般、新たな基本方針を策定・公表しましたので、そのポイントをご紹介します。

はじめに

 現在、わが国は、いまだ経験したことのない経済社会の構造の変化に直面し、大きな転換点を迎えており、変化に対応したスピード感のある取り組みが求められています。

 今般の基本方針のポイントは、酪農および肉用牛の生産基盤が弱体化している現状を踏まえ、「人」(担い手・労働力の確保)・「牛」(飼養頭数の確保)・「飼料」(飼料費の低減、安定供給)に着目し、畜産クラスターの取り組みも活用して地域の関係者が連携・協力することにより、畜産の収益性向上と生産基盤の強化を目指すことです。

第1 酪農および肉用牛生産の近代化に関する基本的な指針

T 近年の情勢の変化

○離農や後継者不足による人手不足

 離農や後継者不足による人手不足が深刻化しています。酪農では、重い労働負担により後継者の確保が困難なことなどを背景に戸数が減少しています(図1)。

図1 乳用牛飼養戸数
資料:農林水産省「畜産統計」

 肉用牛生産では、繁殖農家での後継者不在が目立ち、戸数が減少しています(図2)。

図2 肉用牛飼養戸数
資料:農林水産省「畜産統計」

○乳用牛・肉用牛飼養頭数の減少

 牛の飼養頭数は年々減少しており、酪農では生乳生産量が減少するほか、肉用牛生産では子牛価格が高騰し、肥育農家の経営を圧迫しています(図3、4)。

図3 乳用牛頭数と生乳生産量の推移
資料:農林水産省「畜産統計」、「牛乳乳製品統計」
図4 子取り用めす牛頭数および子牛価格の推移
資料:農林水産省「畜産統計」、農畜産業振興機構「肉用子牛取引状況」
  注:子牛価格は黒毛和種(雄、雌)の平均価格

○飼料価格の上昇

 酪農および肉用牛経営が輸入飼料に依存する中、世界的な穀物需給の変化などにより、配合飼料価格は高水準で推移しています(図5)。

図5 配合飼料工場渡価格の推移
資料:畜産振興課「流通飼料価格等実態調査」
  注:「流通飼料価格等実態調査」による実績値である。

○消費者の需要の変化、国際環境の変化

 消費者ニーズが多様化している中、チーズ、発酵乳などの需要が増加し、牛肉では、適度な脂肪交雑の牛肉への関心が高まっています。

 また、経済連携交渉の進展など、国際化が進み、外国産畜産物に対する競争力の強化が課題となっています。一方、海外での日本食への関心の高まりなどから、和牛肉など国産畜産物の輸出拡大の可能性が高まっています。

U 酪農・肉用牛生産の競争力強化

 わが国の酪農・肉用牛生産の競争力を強化するためには、「人・牛・飼料」の視点で生産基盤を強化させることが最優先の課題です。生産者と地域の畜産関係者は、畜産クラスターの仕組みなどを活用し、連携・協力して生産基盤の強化に取り組みます。

○人手不足を解消するために(担い手の育成と労働負担の軽減) 

 高齢化や後継者不足による離農が増加し、乳用牛飼養戸数、肉用牛飼養戸数は減少を続けています。飼養戸数の減少を抑制するためには、職業としての酪農および肉用牛生産の魅力を高め、後継者による継承や新規参入を促すとともに、離農農家などの経営資産を後継者などに円滑に継承することが重要です。また、農村での過疎化の進行などにより雇用の確保が困難になっている中、労働負担を軽減するため、外部支援組織の活用による分業化、放牧や機械化による飼養管理の省力化を推進します。

・新規就農の確保と担い手の育成

 新規就農には、施設整備や家畜導入などに多額の投資負担が生じます。このため、離農農場などの既存施設の貸付などが円滑に行われるよう、地域の関係機関は、新規就農希望者などと離農予定農家などとのマッチングを進めます(図6)。

 また、技術・知識の習得と向上が必要です。このため、地域の関係機関は新規就農者などへの研修機会の提供、国や地方公共団体は地域の農業大学校などの活用に努めます。

図6 離農農場などの既存施設の貸し付けスキーム

・放牧活用の推進

 放牧は、飼料の生産・給与や排せつ物処理など家畜の飼養管理の省力化が期待できるため、高齢化や労働力不足への対策として有効です。このため、地域住民の理解醸成と啓発、放牧技術の普及・高度化やそのための人材育成などの条件整備を推進します。

・外部支援組織の活用の推進

 酪農および肉用牛生産は、家畜の飼養・衛生管理、飼料の生産・調製など多岐にわたる作業が必要で、多くの労働力を要することから、飼養管理の分業化、省力化を図ることが必要です。このため、コントラクターやTMRセンターの構築の促進、キャトル・ブリーディング・ステーション(CBS)などの整備の推進、ヘルパー要員の技術向上を図ります。

・ロボットなどの省力化機械の導入推進

 搾乳、哺乳、給餌などの労働負担の軽減に資する省力化機械が普及・定着しつつあります。このため、各経営の飼養形態や飼養規模に応じて、過剰な設備投資とならないよう配慮しながら、計画的な省力化機械の導入を推進します。また、地域の関係機関は、これらの技術などの導入・普及に対応した飼養管理の方法について指導・普及を図ります。

・経営能力の向上

 経営者が経営の規模や形態を踏まえて、経営能力の向上を図るとともに、人材育成と円滑な経営継承に取り組み、経営を持続的に安定・成長させることも重要です。このため、各経営体が、法人化などを通じ、意思決定に係る責任者や手続を明確化するなど、高度な経営判断に対応した体制を整備し、その上で、後継者や雇用者の段階的な経営参画などを進め、人材育成と円滑な経営継承に取り組むことが重要です。

○乳用牛・肉用牛飼養頭数の減少を克服するために(飼養頭数減への対応)

 酪農経営・肉用牛経営のいずれも、飼養頭数は減少を続けています。その結果、酪農では乳用牛資源や生乳生産量の減少が続き、肉用牛生産では子牛価格が高騰して肥育経営を圧迫しています。

・生産構造の転換などによる規模拡大

 離農に伴う飼養頭数の減少を抑制するには、個々の経営における規模拡大とともに、地域全体での飼養頭数の拡大が重要です。このため、分業化・省力化を推進し、規模拡大を促進するとともに、CBSの整備を進め、地域で繁殖・育成を集約化する体制の構築を推進します(図7)。

 また、肥育・一貫経営への移行は、子牛価格の変動リスクを回避し、いわゆる「飼い直し」の回避による出荷月齢の早期化や生産性の向上が期待できます。このため、肉用牛の生産者に対して、繁殖・肥育一貫経営への移行を促進します。

図7 キャトル・ブリーディング・ステーション(CBS)を活用した繁殖基盤強化事例

・計画的な乳用後継牛の確保と和子牛生産の拡大

 乳用雄子牛よりも価格の高い交雑牛子牛の生産が増加していることなどから乳用後継牛が減少しており、性判別技術の活用により、優良な乳用後継牛の確保を推進します。乳用種肥育経営では生産コストが粗収益を上回る状況が続いています。このため、性判別精液の活用を促進するとともに、受精卵移植技術の計画的な活用を促進し、乳用雄牛や交雑種から和子牛生産への移行を推進します。

・乳用牛の供用期間の延長

 近年、乳用牛の供用期間は短縮傾向にあります。生乳生産量の確保・増加を図る上でその延長が必要です。このため、過搾乳の防止や栄養管理の徹底、適切な削蹄の励行、牛舎環境の改善など適正な飼養・衛生管理を推進します。

・牛群検定の加入率の向上

 牛群検定の積極的な活用により乳用牛の生産性を向上させることが重要です。このため、関係機関は酪農における飼養繁殖管理、乳質・衛生管理などに役立つわかりやすい検定データの提供に努め、酪農家の加入を促進します。

・飼料効率の向上などによる生産性の向上

 情報通信技術(ICT)の活用などにより、家畜の持つ能力を最大限発揮させることで、家族経営であっても収益性の向上が可能となります。このため、ボディ・コンディション・スコアに基づく栄養管理による適正な飼料給与などに取り組むとともに、分娩監視や発情発見のためのICTの活用などによる供用期間の延長・受胎率の向上を目指します(図8)。

・家畜の快適性に配慮した飼養管理の促進

 家畜を快適な環境で飼養することは、家畜本来の能力を最大限に発揮させ、生産性の向上にも寄与します。このため、わが国の実態を踏まえたアニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針を周知・普及します。

○輸入飼料への依存から脱却するために(国産飼料生産基盤の確立)

 わが国の畜産は、飼養規模の拡大に伴い、安価で調達しやすい輸入濃厚飼料への依存を強めてきましたが、近年、穀物価格は高水準で推移し、配合飼料価格は10年前の1.5倍程度となっています。酪農および肉用牛経営において生産費の約4割を飼料が占めることから、輸入飼料価格の上昇や変動は経営に大きな影響を及ぼします。

図8 ICTの活用

・国産粗飼料の生産・利用の拡大

 輸入粗飼料価格は、価格変動などが経営に影響を及ぼすことから、高品質で低コストな国産粗飼料の生産・利用の拡大を推進することが重要です。このため、優良品種を用いた草地改良を進め、青刈りトウモロコシなどの高栄養作物や稲WCSなどの良質な国産粗飼料の生産・利用の拡大を図ります。また、コントラクターなど飼料生産組織の活用により、良質な粗飼料を効率的・低コストで生産する取り組みを推進します。

・放牧活用の推進

 放牧は、飼料費の低減、牛の生産性の向上などに寄与することが期待されます。このため、酪農における集約放牧、荒廃農地などを活用した肉用繁殖牛の放牧を推進します(図9)。

図9 放牧と舎飼との経営効果の比較(試算)

・飼料用米など国産飼料穀物の生産・利用の拡大

 飼料用米の生産・利用の拡大は、畜産物のブランド化に資するほか、耕畜連携を推進する契機としても期待されます。このため、関係者が連携・協力し、耕種側と畜産側の需給マッチングを推進し、取引の円滑化を図ります。また、畜産農家における利用体制、配合飼料工場を通じた供給体制の整備などを推進します。

・エコフィードの生産・利用の促進

 品質の確保を図りつつ、エコフィードの生産・利用のさらなる拡大を推進します。

・飼料の流通基盤の強化

 国産飼料について、調製・保管体制を構築し広域流通を推進するための体制を整備するとともに、配合飼料工場の機能強化、港湾整備を促進します。

・肉用牛生産における肥育期間の短縮

 近年の飼料価格の上昇が肥育経営を圧迫している中、肥育期間の短縮などにより飼料費を抑制する必要があります。一部の肥育経営では、肥育期間の短縮により飼料費を抑制し、高収益を上げています。このため、肉質・枝肉重量の変化に留意しながら、肥育期間の短縮による効率的な生産構造へ転換を図ります。

○畜産クラスターの継続的な推進(畜産クラスターの取り組みによる畜産と地域の活性化)

 酪農・肉用牛生産の生産基盤の弱体化は地域の社会経済の存立に関わる重大な問題です。畜産クラスターの取り組みを推進し、地域の畜産関係者が連携・協力して、畜産を起点とする取り組みの成果を地域全体に波及させ、地域の活性化を図ります(図10)。

図10 畜産クラスターのイメージ

・地域で支える畜産

 近年、耕畜連携、地域特産品を活用した特色のある畜産物の生産、外部支援組織との分業化、農協などの出資による地域の生産拠点や研修センターの設立などが進められています。このため、畜産クラスターの継続的な推進により、地域の畜産関係者の連携・協力を通じて、地域全体で畜産の収益性向上を目指します(図11)。

・畜産を起点とした地域振興

 酪農・肉用牛生産の振興は、関連産業の発展などを通じて地域の雇用と所得の創出に資するものです。また、農村景観の改善、魅力的な里づくりに貢献します。このため、畜産クラスターの取り組みも活用して、地域における生産振興を図り、地域の雇用、就農機会の創出を図ります。

図11 畜産クラスターの取り組みの流れ

V 消費者ニーズを踏まえた生産・供給の推進など

○酪農・肉用牛生産の発展の好機を活かす(新たな需要の喚起と市場の開拓)

 酪農・肉用牛生産の競争力の強化のため、生産者と加工・流通業者が一体となって、安定供給、食品の安全、消費者の信頼を確保する必要があります。

・製造・加工段階でのHACCPの普及促進

 食品安全に関する国際的な考え方は、「後始末より未然防止」を基本に、「全工程における管理の徹底」へ移行しています。このため、畜産物や飼料・飼料添加物の製造・加工段階でのHACCPの普及を促進し、畜産物の安全と消費者の信頼を確保します。

・牛乳・乳製品の安定供給

 国内の生乳生産量が減少する中、ひっ迫傾向にあるバターや脱脂粉乳の安定供給には、これまで以上のきめ細やかな対応が必要です。このため、関係者一丸となった生乳生産基盤の維持・強化、牛乳・乳製品の需給・価格動向などの的確な把握・分析および緊密な情報共有、消費者ニーズに対応した牛乳・乳製品の適時・的確な製造などに努めることにより、安定供給を図ります。

・消費者ニーズに的確に対応した生産

 消費者ニーズの変化や多様化に対応して生産・供給するとの発想の下、生産者と加工・流通業者が連携して需要と供給を結びつけることが重要です。

 このため、牛肉については、霜降り牛肉に加えて、適度な脂肪交雑の牛肉など、多様な肉用牛・牛肉生産を推進します。

 また、牛乳・乳製品については、バターなどの安定供給の確保とチーズ・発酵乳などの魅力的な商品の提供を推進します。

・6次産業化による加工・流通・販売の促進

 6次産業化は、初期投資や生産と販売を両立する体制整備などを要するなどの課題がある一方、所得向上を図る有効な取り組みです。このため、酪農・肉用牛経営は、畜産クラスターなどの支援施策や、酪農家と指定生乳生産者団体との生乳取引の多様化を図る取り組みを活用して6次産業化に取り組みます。

・商品の特性に応じた付加価値の付与

 商品の付加価値が認められるためには、原料畜産物や商品の特性を積極的に訴求することも重要です。このため、認証制度の普及などを通じて、放牧やエコフィードを活用して畜産物の付加価値を向上させる取り組みを推進します(図12)。

図12 エコフィード利用畜産物認証マーク   放牧畜産基準認証マーク
              

・輸出の戦略的な促進

 新興国の所得水準の向上や日本食に対する関心の高まりなどから、国産畜産物の輸出拡大の可能性が高まっています。また、オールジャパンでの輸出体制の下、品目別の輸出戦略に沿って、国産畜産物の輸出を戦略的に促進することが重要です。このため、日本畜産物輸出促進協議会を中心に、牛肉は輸出戦略に沿って、市場の大きい米国・EUで重点的に輸出拡大を推進します。また、牛乳・乳製品は今後、輸出戦略を策定した上で、取り組みを推進します(図13)。

図13 牛乳・乳製品の輸出額の推移
資料:財務省「貿易統計」

W 本基本方針に関する施策の確実な実施と進捗管理のために必要な事項

○関係者が一体となった施策の推進

 本基本方針に盛り込まれた取り組みは、国、地方公共団体、生産者団体その他の関係者が緊密に連携・協力しつつ、計画的に推進することが重要です。このため、都道府県、市町村において、本基本方針を受けて、都道府県計画、市町村計画を策定するほか、生産者団体その他の関係者も、本基本方針の取り組みの具体的な実施の方針、進め方などを関係者と共有しつつ推進することが有効です。

○施策の進捗管理と評価

 国は、本基本方針の策定後、その施策を着実に推進するとともに、施策の推進状況、関係者による取り組みの実施状況について、随時、把握し、進捗管理を行います。その過程で、施策や取り組みの効果、問題点などを検証し、必要に応じて、施策の見直しや改善を図るとともに、関係者に対し、取り組みの見直しや改善を促していくものとします。

第2 生乳および牛肉の需要の長期見通しに即した生乳の地域別の需要の
    長期見通し、生乳の地域別の生産数量の目標、牛肉の生産数量の目標
    並びに乳牛および肉用牛の地域別の飼養頭数の目標

生乳の需要の見通し、生乳の生産数量と乳牛の飼養頭数の目標

○国産生乳の需要の長期見通し

 牛乳・乳製品の需要の長期見通しについては、人口減少などの影響により、飲用牛乳を中心に減少が見込まれるものの、多様な消費者ニーズに対応した新商品開発などの取り組みや牛乳・乳製品を利用した食事などの消費拡大やチーズの需要の伸びにより、現状とほぼ同じ水準の需要を見込み、平成37年度における国内消費仕向量を1150万トンと見込んでいます。

 このような状況を踏まえ、平成37年度における生乳の需要の長期見通しについては、飲用向け需要量を359万トン、乳製品向け需要量を385万トンと見込んでいます(図14)。

図14 国産生乳の需要の長期見通し
資料:農林水産省作成

○地域別の生乳の生産数量と乳牛の飼養頭数の目標

 平成37年度の生乳の生産量は、飲用向け需要量が低下する一方、乳製品向け需要の伸びが見込まれることから目標を750万トンと設定しています。この生乳生産量を達成するため、家畜改良の進展や生産性向上(1頭当たり乳量の増加や供用期間の延長など)を織り込んだ上で、平成37年度の乳牛の飼養頭数の目標を133万頭(25年度比▲7万頭・▲5%)と設定しています(図15)。

 この際、乳製品向け主体の北海道については、生乳生産量を現状より高い水準に設定しています。なお、飼養頭数については、1頭当たり乳量の増加などを織り込んで、現状よりやや低い水準の目標を設定しています。一方で、飲用向け主体の都府県については、飲用需要の低下が見込まれる中、生産基盤確保のための取り組みなどによる減少幅の縮小を加味し、趨勢より高い水準の目標を設定しています。

図15 地域別の生乳の生産数量と乳牛の飼養頭数の目標
資料:農林水産省作成

牛肉の需要の見通し、生産数量の目標、肉用牛の飼養頭数の目標

○牛肉の需要の長期見通し

 牛肉の需要の長期見通しについては、1人当たりの消費量は、現状とほぼ同水準と見込むものの、人口減少に伴い需要は減少することを考慮し、平成37年度における国内消費仕向量を113万トン(枝肉換算)と見込んでいます。

○牛肉の生産数量の目標と肉用牛の飼養頭数の目標

 牛肉の生産数量の目標については、牛肉の需要は減少すると見込まれるものの、肉用牛経営の収益性の向上を通じた生産基盤の強化や、消費者ニーズの多様化に対応した特色ある牛肉生産の推進などにより、可能な限り国産牛肉の生産を維持していくとの考えの下に、牛肉生産量52万トン(枝肉換算)と設定しています(図16)。

図16 牛肉の国内生産量(枝肉換算)の推移
資料:農林水産省作成

 平成37年度の肉用牛飼養頭数の目標については、家畜改良の進展や生産性向上(分娩間隔や肥育期間の短縮、増体量の増加など)を織り込んだ上で、現行の257万頭から252万頭(同▲5万頭・▲2%)と設定しています。この際、以下のような牛肉の生産構造の強化を図ることにより、国産牛肉の需要に対応した生産量の確保を目指します(図17)。

 まず、肉専用種(和牛)については、繁殖雌牛の増頭による繁殖基盤の強化を推進します。次に、酪農経営における性判別・受精卵移植技術の活用により、乳用後継牛を効率的に確保した上で、空いた腹を利用し和子牛の生産を拡大します。これらにより、肥育経営においては、乳用種(交雑種を含む)から肉専用種への転換が図られます。

図17 肉用牛の飼養頭数の目標
資料:農林水産省作成

第3 近代的な酪農経営および肉用牛経営の基本的指標

 わが国の酪農および肉用牛生産の生産基盤を維持・強化し、持続的な成長・発展を図るためには、地域の実情などに応じて、生産コストの低減や販売額の増加に資する取り組みを効率的に組み合わせ、収益性の向上を図ることが重要です。今まで通りの飼養管理を継続するのではなく、競争力の高い畜産経営のモデルとして、これらの取り組みを組み合わせた経営類型を例示し、各類型の経営概要や生産性について主な経営指標を示し、飼料費低減の効果や飼養管理時間の低減の効果を明らかにしています。

第4 集送乳および乳業の合理化並びに
    肉用牛および流通の合理化に関する基本的な事項

集送乳および乳牛の合理化に関する基本的な事項

○生乳生産者団体の在り方と集送乳の合理化

 地域の関係者の合意により、生産者の収益性の向上を図るため、農業協同組合連合会、単位農協などのさらなる再編整備を促すとともに、集送乳業務の指定生乳生産者団体への集約や一元管理への移行を進めるなど、指定生乳生産者団体の一層の機能強化と生乳流通コストの低減を図ります(図18)。

集送乳など経費の目標(37年度):現状の9割程度

図18 集送乳など経費の分布(例)

○乳業の再編・合理化

 安全で効率的な牛乳・乳製品の供給などを図るため、乳業者は、HACCP を導入した高度な衛生管理水準を備えた乳業施設で処理・加工を行うことが重要です。特に乳業施設の更新が遅れている中小・農協系乳業者を中心に、こうした高度な衛生管理水準を備えた乳業施設への再編・合理化に早急に取り組む必要があります。

製造販売経費の目標(37年度):原料用バター、脱脂粉乳、飲用牛乳とも、現状の8割程度
牛乳・乳製品工場数の目標(37年度):乳製品工場は現状の8〜9割程度、飲用牛乳工場は現状の8割程度
HACCP対応工場割合の目標(37年度):飲用牛乳工場、脱脂粉乳製造工場とも、9割以上

肉用牛および牛肉の流通の合理化に関する基本的な事項

○肉用牛の流通合理化

 家畜市場については、肉用牛の公正な取引と適正な価格形成を確保するとともに、地域において肉用牛繁殖基盤の維持・拡大などに重要な役割を果たしていることを踏まえつつ、周辺の市場も含めた上場頭数の実態に応じて再編整備を推進します。また、そのさらなる活性化を図る観点から、県域を越えた再編も考慮するよう努めるものとします。さらに、今後、性判別技術・受精卵移植技術の活用および肉用牛繁殖・肥育経営の一貫化などによる子牛の生産・流通状況の変化が見込まれることから、酪農から生産される和子牛などについても適正な価格形成機能を発揮するなど生産・流通構造の変化に対応することも必要です。

○牛肉の流通合理化

 地域の実情を踏まえつつ、都道府県、市町村、生産者団体や食肉流通団体の協力と支援の下、産地食肉センターを中心とした食肉処理施設の再編整備を促進します。食肉卸売市場は、適正な価格形成機能を最大限発揮できるよう、集分荷機能や決済機能を強化します。また、消費者に対して安全な国産牛肉などを安定的に供給していく観点から、食肉の衛生・品質管理に関する高度な知識、技術を習得した食肉処理従事者の育成を推進します。さらに、食肉処理施設などにおいては、消費者に対し、安全な畜産物を供給するとともに、国産畜産物への信頼性を確保するよう、HACCPの導入に取り組むことが重要です。

食肉処理施設に係る目標(37年度):1日当たり処理頭数620頭以上、稼働率80%以上

おわりに

 今後の10年間は、次世代のわが国の酪農および肉用牛生産の基礎を形づくり、方向性を左右する重大な期間となります。

 国、地域の関係者、生産者が一丸となった取り組みにより、酪農および肉用牛生産の成長産業化を促進し、これまでの努力により築き上げてきた基盤を将来世代へ確実に継承しなければなりません。強い意志と覚悟をもって課題に取り組むとともに、時代の変化と多様化する消費者ニーズに柔軟に対応し、創意工夫により価値の創出と市場の開拓に挑むことを通じて、酪農および肉用牛生産のさらなる発展を目指します。


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