調査・報告 学術調査  畜産の情報 2015年3月号


水田飼料作経営の展開方向
〜水田活用・飼料増産・経営安定の
視点から見た水田飼料作のあり方〜

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター 上席研究員 千田 雅之



【要約】

 転作田における飼料用米、発酵粗飼料用稲(以下「稲WCS」という。)、飼料用トウモロコシ(以下「コーン」という。)、牧草などの飼料作物の単収、作業労働、コスト分析を基に、線形計画法による経営計画モデルを構築し、従事者の所得および通年就労機会確保の観点から、水田飼料作経営成立の可能性と条件を検討した。

 その結果、水田飼料作経営の展開方向として、移植栽培による飼料用米や稲WCSなどの稲作中心の事業よりも、直播栽培による稲WCS生産に加えてコーンなどの畑飼料作を導入し事業の多角化を図る方が、少ない投資額と労働時間で所得が確保され、作業労働の季節偏在が緩和されることが明らかにされた。

 また、限られた財源のもとで水田利活用の推進や飼料増産を図るためには、コーンや牧草生産の推進が必要であることなどが明らかにされた。

1 研究の背景・目的

 主食用米需要減少下で水田の有効活用を図るためには、麦、大豆に加えて自給率の低い飼料生産の推進は重要であり、経営所得安定対策などにおいて転作田での飼料生産に対する手厚い助成が行われている。また、飼料生産を担う経営体の育成も重要であり、コントラクターなどへの機械導入や活動に対する支援が行われ、北海道や九州の畑作地帯では、コーンや牧草の収穫を請け負うコントラクターが増加している。水田の多い府県においては、稲WCSの作付けが増え、飼料用米の生産にも関心が高まっている。稲WCS生産では、収穫機械は高額のため収穫作業は組織化される事例が多いが、畜産経営では飼養規模拡大により出役は困難になりつつある。このため、府県においても畜産経営から独立した水田飼料作経営の創出が待望されている。

 しかし、農業労働力や財源の限られる中で、どのような飼料生産を推進することが水田の有効活用や飼料増産の政策目標達成に有効なのか、また、水田飼料作経営の成立に必要な事業構成・規模などについて十分検討されているとは言い難い。

 このため、コーンや牧草を含めた飼料作物間の収益性の比較やそれらを含めた経営体の可能性を検討する必要がある。

 そこで本報告では、線形計画法による水田飼料作経営の経営計画モデルを構築し、従事者の所得確保および通年の就労機会確保の観点から、経営成立に必要な事業構成などを明らかにする。また、飼料用米、稲WCS、コーン、牧草の生産コストの比較分析を行い、水田活用、飼料増産の視点から水田飼料施策のあり方に言及する。

2 水田飼料作経営の事業多角化と経営上の課題

 まず、稲WCSの収穫受託を主とする水田飼料作経営事例(表1)を分析し、モデルおよび試算に反映すべき事業範囲などを検討する。

表1 稲WCSの収穫受託を主とする水田飼料作経営の概要
注1:2013年調査。専は専用機、汎は汎用機、ロはカッティングロールベーラー、ラはラッピング機。
注2:事例Aは主食用水稲40ha、大麦15ha(裏作)も行う。

 4事例とも労働力を5人以上保有するが臨時雇用の割合も高い。水田約60ヘクタールの利用権を設定し水稲栽培も行うAは、育苗や田植作業時に最大11人を雇用するが、その多くは農機具販売店などからの研修を兼ねている。事業は稲WCSの収穫受託が主であるが、A、C、Dは、ほ場への堆肥運搬散布を行い、A、Dは稲WCSの栽培を手がけ、B、C、Dは汎用機を利用してコーンの収穫作業を請け負い、A、Bはカッティングロールベーラを保有し、牧草や稲わら、麦わらの収穫も行うなど、事業は多角化しており、飼料の延べ収穫面積は100〜200ヘクタールに達している。

 いずれも自走式細断型飼料稲専用収穫機(以下、「専用機」という。写真1)、汎用型飼料収穫機(以下、「汎用機」という。写真2)を2台以上保有し(投資額3000万円以上)、1台当たり年間30ヘクタール前後の飼料収穫を行う。稲WCSの収穫期間はいずれも2カ月以上に及ぶ。作業は収穫機1台の操作に1人、ラッピング機の操作に1人、補助員0〜1人の1組計2〜3人で作業が行われ、収穫面積は1台当たり1日1ヘクタール前後である。このため1台で30ヘクタールの収穫を行うには30日を要する。降雨などもあるため、作業期間は2カ月にも及ぶ。各品種の収穫適期は2週間程度のため、複数品種の栽培を地域に働きかけることなどにより品質確保と作業期間の分散、収穫機械の稼働率向上を図っている。特に、極晩生の茎葉型品種「たちすずか」は完熟期以降に収穫しても品質低下の影響が少ないことから収穫期間の延長を可能にし、面積の拡大にも寄与している。ただし、Aの活動地域では交雑の不安から専用品種導入の理解が得られず、単一の食用品種が栽培されている。

 このように先進経営では、複数品種による稲WCS収穫期間の拡大や事業の多角化が図られている。しかしながら、春秋の農作業集中の緩和や通年就業機会の確保、収益の拡大を課題として掲げている。ある程度の多角化を行ってもなお、農作業の季節偏在は解消されず、常雇は主要機械の操作に必要な人数に限られ、農繁期は臨時雇用で対応しているのが今日の水田飼料作経営の実情である。また、収益性や作付面積が助成金に左右される飼料用米や稲WCSについては制度の継続性を疑問視し、助成金に左右されない事業構成を模索している。主食用米生産も行うAでは、主食用米を卸売業者にJA概算払い価格より60キログラム当たり1500円高い価格で販売しているが、米価下落、米の直接支払交付金削減のもとで収益確保が喫緊の課題である。

 このため、早晩生品種導入による稲WCSの収穫期間の拡大、従来の飼料作に加え飼料麦なども加えたさらなる多角化、収穫受託にとどまらない借地による生産・販売、その際の直播などの省力栽培技術の導入などが検討されている。

写真1 自走式細断型飼料稲専用収穫機(専用機)
写真2 汎用型飼料収穫機(汎用機)

3 多角化による水田飼料作経営の収益性と作業労働

(1)作目・品種・栽培法・作付体系別の収益性と農作業時間の比較

 事例A、Bの分析より得られた各飼料作物の単収や生産資材投入量と費用、作業労働時間などの技術係数をもとに、水田飼料作経営の経営計画モデルを策定し、新たな作目や品種、栽培法、作付体系の導入(事業の多角化)による収益や作業労働時間などの変化を試算し、米価下落や交付金変化の影響も考慮しながら、水田飼料作経営の成立条件を検討する。

 試算に入る前に、各飼料作の生産資材投入量、単収、収益、労働時間などを整理しておく(表2)。次節の試算結果の解釈に関わる点について少し触れておく。肥料費は主食用水稲と比べて稲WCSと飼料用米は少ない。これは牛ふん堆肥の利用で化成肥料を減らしているためである。

表2 生産資材投入量と費用
注:専用種(たちすずか)の施肥量は広島県、コーン及び牧草の生産資材投入量は
   畜産草地研究所、専用種の種子単価(送料込み)は、畜産草地種子協会、その他の
   生産資材投入量及び単価は岡山県農業経営指導指標(経営規模:33ha)による。
   稲WCSおよび飼料用米の播種量、農薬費は主食用水稲と、飼料麦の播種量、
   農薬費はビール大麦と同額とした。

 稲WCSおよび飼料用米の種苗費は、専用種では食用種よりも高い。また、乾直栽培では移植栽培と比べ、は種量が多いため種苗費は高い。薬剤費は水稲で高く、コーンや牧草栽培では低い。水稲では除草剤使用の多い乾直栽培で薬剤費が多い。これらの費用を合計すると主食用水稲と専用種による稲WCSや飼料用米との差はあまりなく、移植栽培と乾直栽培の差の方が大きい。また、コーンや牧草ではこれらの費用が少ない。

 表2の生産資材投入量をもとに、表3に作目・品種・栽培法・作付体系ごとの単収、販売収入、費用(償却費、労働費、地代、利子を除く)、直接支払交付金を示す。計算の前提として、稲WCSの収穫は、「たちすずか」など草丈の長い専用種への対応、コーン収穫への汎用利用を考慮して汎用機を用いる。稲WCSの単収は食用種ではA法人とB法人平均の乾物840キログラム、専用種では1080キログラム、二毛作および乾田直播栽培では960キログラムとする。飼料用米については、穂重型の専用種「ホシアオバ」を用い、交付金が最大となる玄米収量680キログラムの仮定で試算を行う。その理由は、2013年度までの交付金水準(8万円/10アール)では導入される見込みが低いためであり、最大収益が見込まれる条件で、水田作経営にどの程度の飼料用米が導入されるかを検討するため、この仮定で試算する。

表3 各作目・作付体系、作業受託の収入、
費用(償却費、労働費、地代、利子を除く)、交付金等
注1:稲WCS、コーン、牧草の単収(乾物重または個数)は事例A、Bの実績、
   主食用米と大麦は岡山県農業経営指導指標による。
   飼料麦は、食用大麦の2倍と仮定した。飼料用米は交付金が最大となる単収水準とした。
   生産物単価は、A法人の現行販売価格に準じて、主食用米:215円/kg、ビール用大麦:
   140円/kg、稲WCS:5,200円/個(食用品種、汎用機収穫物、牧場渡)、稲WCS:5,500円/個
   (専用種、同)、飼料用米:27円/kg(玄米、JA出荷)、稲わら:30円/kg(牧場渡)、
   麦わら:20円/kg(ほ場渡)とした。
   この他の粗飼料の販売単価は、A法人の稲WCSの販売単価から粗飼料のTDN1kg
   あたり販売単価を83円とし、各飼料の重量とTDN率をもとに計算し、飼料麦:5,100円/個
   (ほ場渡)、コーン(単作および2期作の1作目):8,200円/個(牧場渡)、コーン
   (2期作の2作目):9,840円(同)、牧草:7,500円(同)とした。
   乾物当たりTDN率は、稲WCS専用種:55%、飼料麦:61.3%、コーン:65.6%、
   牧草:60.0%(日本標準飼料成分表)とした。
   飼料の収穫受託収入は、16,000円/10a+1,500円/収穫個数とした。
 2:種苗・肥料・農薬費は表2による。
   主食用水稲、飼料用米、大麦の生産、稲WCSの栽培に関わる光熱水費、諸材料費、
   建物・農機具修繕費、農作業時間は、岡山県農業経営指導指標の値を用いた。
   稲WCSの収穫、コーン、牧草生産に関わるこれらの費用は、A法人、B法人の
   分析値を用いた。修繕費は、取得価格の建物1%、農機具4%、負担面積35haで
   計上した。その他は、水利費、共済掛金、荷造・包装費、輸送費、保管費、販売手数料。

 作目間の生産物販売収入、変動費(償却費や労働費、地代を除く費用)、作業時間を比較すると、

 (1)主食用水稲(移植)と比べて、(4)稲WCS(食用種)の変動費は1万円ほど低いが販売収入を上回ってしまう。以下、販売収入から、変動費を差し引いた額を限界利益と表現し、単体表の利益係数にも反映させる。

 (5)多収の専用種は種子代が高く変動費は増加するが、限界利益はやや改善される。

 (8)専用種を用いた乾直栽培は単収が低いため、限界利益は低下するが、農作業労働時間は少ない。

 (10)飼料用米の販売収入は、(5)の稲WCSよりも3万円以上少ないため、限界利益は著しいマイナスとなる。

 (14)コーンや(17)牧草は、(1)主食用水稲ほど収入は多くないが、(5)稲WCSや(10)飼料用米より収入は多く、限界利益はプラスである。加えて、作業時間は水稲作と比べて非常に少ない。ただし、稲WCSや飼料用米の生産には直接支払交付金が多いため、飼料作物の選択にも影響する。また、主食用米や飼料用米と稲WCSや牧草の収穫機械は異なる上、各機械は高額であり、長期的な飼料作物の選択には機械施設の償却費を考慮する必要がある。

 そこで、経営計画モデルは、機械施設投資を含む長期的観点から水田飼料作経営のあり方を明らかにするため、表3の作目・作付体系を選択肢とするプロセスおよび直接支払交付金、地代(9000円/10アール)に、施設・機械の固定費プロセスを加えた単体表で構成する。主な機械1台あたり年間稼働上限は、田植機30ヘクタール、コンバイン20ヘクタール、汎用機(飼料収穫機)40ヘクタールとし、これらを超える場合は複数台用いることとする。なお、機械施設投資額(固定費)および減価償却費は補助金による圧縮計算を行わない。

 経営試算は、A法人を念頭に、まず専従者4人に加え農繁期に臨時雇用可能な経営を想定して行い、次に労働力最大6人のもとで試算を行う。これらの労働供給のもとで、作業技術面で可能であり、収益を最大化する作目などを、整数計画法(中央農業総合研究センターが開発した線形計画法プログラムXLP)を用いて明らかにする。

 試算は以下の順に行う。

 (0)主食用米の販売単価は、A事例の取引価格をもとに、2012年産のJA概算払い250円/キログラム(1万5000円/60キログラム)より25円/キログラム(1500円/60キログラム)高い275円/キログラム、米の直接支払交付金は1万5000円/10アール、飼料用米の交付金は8万円で試算を行い、A法人のこれまでの事業内容との整合性を確認し、構築した経営計画モデルの現実適合性を確認する。

 次に、経営体の労働力を通年6人とし、米価を2013年産のJA概算払い190円/キログラム(1万1400円/60キログラム)より25円/キログラム(1500円/60キログラム)高い215円/キログラム、米の直接支払交付金を7500円/10アールとして、順次、以下の条件を加えて試算を行う。

 (1)飼料用米に対する交付金は多収の専用種導入を前提に13万円(稲わら収穫による耕畜連携助成、産地交付金を含む)に増加。

 (2)稲WCS生産に「たちすずか」など多収の専用種を導入、飼料用米および稲WCS生産ほ場の裏作にも大麦生産を導入するとともに、水稲の乾田直播栽培技術の確立および飼料麦生産を導入。

 (3)コーンおよび牧草の生産・販売およびコーンの収穫作業受託を導入。

 (4)同じ選択各件下で飼料用米の交付金を食用品種で標準単収の場合9万3000円(耕畜連携助成を含む。)とするケース。

(2)試算結果

 試算結果を表4に示す。

表4 試算結果
注:「-」は選択できないことを、「0」は選択できるが採用されないことを示す。いずれの
  ケースでも選択できない、あるいは採用されない作目などは掲載省略。
  労働時間には機械の点検補修や事務作業は含めていない。
  また、所得は、借入金利子や保険、福利厚生費を差し引く前のものである。

 まず、(0)2012年産の米価水準および2013年産の交付金水準で最適解を求めると、主食用水稲約35ヘクタール(A法人:40ヘクタール)、うち大麦との二毛作15ヘクタール(同16ヘクタール)、稲WCS生産約18ヘクタール(同16ヘクタール、飼料用米と合わせて19.5ヘクタール)、稲WCS収穫受託約53ヘクタール(同64ヘクタール)、稲わら収穫約35ヘクタール(同50ヘクタール)、麦わら収穫約59ヘクタール(同50ヘクタール)であり、A法人の2013年の事業内容・規模に近く、モデルの現実適合性はおおむね確保されている。

 現行の主食用水稲、大麦、食用種による稲WCS生産では、約53ヘクタールの経営規模で、専従者1人当たり年間1772時間の労働で、約900万円の所得が得られると試算される。ただし、専従者の所得の約7割が補助金であること、主食用米生産も含む機械や施設に約1億7000万円の投資額が必要である。

 以下では、農繁期のみの臨時雇用が困難で労働力は通年6人の前提で、また、米価および米の直接支払交付金の削減、飼料用米の交付金増額のもとで最適な事業を試算する。

 まず、事業範囲を(1)移植栽培による主食用水稲、稲WCS、飼料用米生産に限定した場合、主食用水稲生産を中止し、飼料用米(一部大麦との二毛作)と稲WCSの生産、および稲WCSの収穫受託事業にシフトした方が所得は確保される。しかし、飼料用米20ヘクタール、稲WCSの収穫受託約39ヘクタール、わら収穫73ヘクタールの活動にとどまり、経営面積は約21ヘクタール、飼料生産量は約400トンに、専従者1人当たり所得は427万円にとどまる。

 (2)WCS用稲の専用種、飼料麦および乾田直播栽培を導入した場合は、この労働力のもとでも51ヘクタールの水田の経営管理が可能となり、1人当たり所得も800万円以上に増加する。しかし、作目は稲WCS(一部飼料麦との二毛作を含む)と稲WCSの収穫受託のみとなる。

 (3)コーンや牧草の生産、収穫受託を導入すると、74ヘクタールに経営面積の拡大が可能となる。1人当たりの労働時間は2000時間に増加するが、周年の農業就労が可能となり、1人当たり所得は1000万円を超える。

 (4)飼料用米の交付金が9万3000円の場合、機械施設の更新を含む長期的対応として、飼料用米を生産しないで、稲WCSとコーンの生産を拡大することが有利となる。

 図は、(4)のケースの作目別作業時間(棒グラフ)と、(1)の移植栽培による水稲生産のみを行うケース(折れ線グラフ)の月旬別の作業時間を比較したものである。

図 事業多角化による水田飼料作経営の農作業労働

 (1)と比べて(4)では農作業労働の季節偏在が緩和されることが明瞭である。すなわち、1月から3月はコーンや稲WCS作付ほ場への堆肥散布や整地作業、4月はコーンのは種と稲WCSは種ほ場の整地、5月は稲のは種と飼料麦の収穫、6月下旬〜7月上旬は稲の移植、8月はコーンの収穫と稲ほ場の管理、9月は他地域の稲WCSの収穫受託、10月から11月は自作の稲WCSの収穫と飼料麦のは種、12月は収穫物の運搬である。

4 結論と考察

 前章の試算結果を要約すると、(1)昨今の米価下落、米の直接支払交付金削減下では、飼料用米に対する現行の交付金水準が維持されれば、生産調整なしでも主食用水稲作よりも飼料用米や稲WCSなど飼料用稲生産の方が有利である。

 (2)しかし、移植による飼料用稲生産のみでは、農作業労働の季節偏在が顕著であり、農繁期に多くの雇用が不可能な場合、作付面積および所得は著しく減少する。

 (3)乾田直播栽培技術が確立できた場合は、稲WCSと飼料麦作でも経営面積の拡大と所得確保が可能になる。

 (4)コーンの生産、コーンの収穫受託など飼料作の多角化を図った場合、経営面積と所得増加は顕著であり、作業労働の季節偏在は緩和される。

 (5)飼料用米や稲WCS生産に対する交付金が削減された場合は、これらを中止し、コーンや牧草の生産を中心に事業を展開した方が有利である。

 従って、農繁期臨時雇用の困難な場合、従事者の通年就労機会及び所得確保の観点からは、水田飼料作経営の展開方向として、飼料用米や稲WCSの乾田直播栽培技術の導入・拡大やコーン生産の導入が効果的である。

 以上は、平均ほ場面積15アールの小区画ほ場を対象とした技術係数を用いていること、用水慣行から稲作の作業適期制約のある条件下での試算であり結果の解釈に注意を要するが、飼料用米は最も収益の高い条件、稲WCSやコーン、牧草は、試験場などで得られる単収と比べてかなり低い水準で試算しており、結論が大きく変わることは考えられない。ただし、試算結果につながるような効果を上げるために、以下の技術開発や取り組みが必要と考えられる。

 (1)収益向上につながる多収の稲WCS専用品種の導入にあたっては、主食用水稲との交雑が懸念される地域では、飼料用米や稲WCSの生産ほ場を主食用水稲生産ほ場から距離を置いて団地化するなどの地域的な取り組み。

 (2)乾田直播栽培は、試算の素材としたA法人の位置する岡山平野では比較的普及しているが、試算結果のように30ヘクタール以上も導入を図るためには、入水や落水の随時可能なパイプラインを備えたほ場の整備。

 (3)牧草やコーンの生産拡大に当たっては、これらの飼料作物の発芽や生育を促し、大型収穫機のほ場走行を可能とする排水条件の改善が不可欠なため、これらの飼料作付ほ場の団地化や畑地化の整備。

 (4)これらの飼料の販路開拓や稲WCSのような行政などによる耕畜連携の支援。

 (5)獣害の多い地域では、コーンの替わりに被害の比較的受け難いソルガムの導入、などである。

 最後に、各飼料の生産コストの比較を行い、限られた労働力や財源のもとで、水田の利活用を推進し、国産飼料の増産を図るために必要な施策などに言及する。

 表5は、前述の経営計画モデルを用いて、各飼料と作付体系ごとに同じく6人の労働制約の下で所得最大となる規模の生産を行った場合の生産コスト(地代、利子は含まない)などを試算したものである。ここでは専従者の労賃単価を1時間当たり2500円(年間1600時間の就労で400万円の所得確保)で試算していることに留意していただきたい。

 この結果から、まず、作付面積は飼料用米よりも稲WCSやコーン、牧草生産の方が多く、限られた労働力で水田の利活用を推進するには、後者の方が有効であることが示される。次に飼料生産量をTDNベースで見ると、コーン>牧草>稲WCS>飼料用米の順に多く、限られた労働力のもとで飼料増産を図ることにおいても、飼料用米よりも稲WCS、稲WCSより牧草やコーン、さらにはコーンと牧草を組み合わせることが効果的である。10アール当たりTDN生産量で見ても飼料用稲よりも牧草、コーンの方が多い。

表5 飼料生産コストなどの比較
注:乾物当たりTDN(可消化養分)率は、飼料用米:94.9%、稲WCS:55%、飼料麦:61.3%、
  コーン:65.6%、牧草:60%で計算した。
  労働費は労賃単価を臨時雇用者:1,500円/時間、専従者:2,500円/時間で計算した。
  その他は表3に掲載した費用であり、地代・利子は含めていないが、畜産経営までの
  輸送費は含む。
  輸入飼料価格は2014年の畜産草地研究所の購入価格。

 飼料生産コストをTDN1キログラム当たりで比較すると、飼料用米生産のみに取り組んだ時のコストは203円と計算される。これは輸入トウモロコシの輸送費込み購入価格の3倍以上である。なお、同表の参考に示すように、輸入飼料の購入価格は、濃厚飼料のトウモロコシよりも、粗飼料のチモシーやフェスクの方が高いのである。

 稲WCS生産のみに取り組んだ時のコストは201円であり飼料用米と変わらないが、価格の高い粗飼料と代替できる。さらに、コーンや牧草生産のコストは、90円前後で、飼料用米や稲WCSの2分の1以下である。地代や利子を費用に含めなければ、輸入飼料をやや下回るコストで国産粗飼料の生産は可能なのである。なお、飼料用米や稲WCSとコーンや牧草との生産コストの差は、労働費、償却費、その他(主に生産資材)のすべてで顕著である。

 従って、労働力や財源が限られる中で効果的に飼料増産を図るためには、比較的安価な輸入濃厚飼料と代替可能で国内での生産コストの高い飼料用米よりも、比較的高価な輸入粗飼料と代替可能で国内での生産コストの低いコーンや牧草生産を推進する方が効果的と言える。

 水田での水稲作は洪水防止機能などを有するが、農業労働力の減少する中で水田の利活用を推進し、自給率の低い飼料の増産を図る観点からは、コーンや牧草の生産意欲を高めることも必要と考えられる。

謝辞

 現地調査にあたり、(株)那須の農、(株)東部コントラクター、埼玉県農林部農業支援課、ユナイト農産(株)、岡山農業普及指導センター、アグリライフ岡山、津山農業普及指導センター、津山地域飼料生産コントラクター組合、アグリアシストシステム(株)より、ご協力いただき、多くの情報提供をいただいた。記して感謝申し上げる。

 なお、本稿は、「水田飼料作経営成立の可能性と条件−数理計画法の適用による水田飼料作経営の規範分析と飼料生産コスト−」(「農業経営研究」52(4)) を要約したものである。試算の素材とした事例における水田飼料作の単収、作業労働などの詳細については、同論文を参照されたい。

[参考文献]

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[4]恒川磯雄(2013):「水田利用型耕畜連携によるコントラクター組織の経営安定化に関する考察」、『農業経営研究』、51(2)、pp.31-36.

[5]千田雅之(2010):「飼料イネ多収技術の経済分析」、『農業経営研究』、48(2)、pp.1-10.

[6]千田雅之(2015):「水田飼料作経営成立の可能性と条件」、『農業経営研究』、52(4)、pp.1-16.


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