調査・報告  畜産の情報 2015年3月号

自給飼料活用で低コスト・高泌乳量を
実現する広島県和田牧場

畜産経営対策部 酪農経営課 須藤 瑛亮
飯島 麻衣子

【要約】

 わが国の酪農経営は、平成8年度以降生乳生産量が減少傾向で推移し、乳用牛飼養頭数も減少を続け、特に都府県における減少率が大きい。近年、生産費の約6割を占める飼料費などのコスト増加は著しく、コスト低減が酪農経営の最大の課題となっており、その対応の1つとして自給飼料生産が挙げられる。

 本稿では、平成25年度加工原料乳確保緊急対策事業による約1万7000戸の酪農家のアンケート結果から、わが国の酪農経営の実態を紹介するとともに、都府県において自給飼料の積極的な生産に取り組み、高泌乳量を実現して収益をあげている広島県庄原市の和田牧場の事例を紹介する。

1 はじめに

 わが国の生乳生産量は、長らく減少基調で推移し、酪農を取り巻く経営環境は厳しい状況にある。飼料や燃料などの生産資材価格が高騰する中、生産者の高齢化や後継者不足が顕著になっており、生産規模を維持・拡大することに対して多くの不安要素が存在している。特に、都府県における生産基盤の弱体化は著しく、平成8年度から23年度までの生乳生産量は約3割減少し、24年度は16年ぶりに増加したものの、25年度は再び減少に転じている。このような状況下で、配合飼料価格の高止まりは酪農経営を行う上で特に懸念される材料となっており、生産費の約6割といわれる飼料費の低減が、酪農経営においての最大の課題である。

2 最近の酪農の概況

(1)生乳生産量

 生乳生産量は、平成8年度の866万トンをピークに減少基調で推移している。24年度は前年度比101.0%の761万トンと増加したが、25年度は745万トンと再び減少に転じた。地域別に見ると、都府県の生乳生産量は、8年度に512万トンだったものが、25年度にはその約7割に当たる360万トンまで減少し、8年度に全体の約6割を占めていた都府県の生乳生産量は、22年度以降は北海道を下回っている(図1)。都府県の生乳生産量が減少した主な要因は、高齢化や後継者不足の他、都市化の進展や中山間地が多いなど、規模拡大が容易でない物理的な制約がある中にあって、飼料価格の高騰などによる収益性の低下で離農が進み、乳用牛飼養頭数が大きく減少したことが挙げられる。

図1 生乳生産量と国内シェアの推移
資料:農林水産省「牛乳乳製品統計」

(2)飼養戸数および飼養頭数

 乳用牛飼養戸数(各年2月1日現在)を見ると、都府県では平成18年の1万8000戸から25年には32.2%減の1万2200戸まで減少し、北海道では8590戸から同16.9%減の7130戸まで減少した。

図2 飼養頭数と国内シェアの推移
資料:農林水産省「畜産統計」

 同期間の飼養頭数は、都府県では77万9900頭から20.9%減の61万6600頭となったものの、北海道では85万6100頭から5.8%減の80万6800頭にとどまり、都府県の減少率が大きくなっている。なお、飼養頭数については15年以降、北海道が都府県を上回るようになった(図2)。

 また、こうしたことから同期間の1戸当たり飼養頭数は、都府県が43.3頭から50.5頭と16.6%増加し、北海道が99.7頭から113.2頭と13.5%増加した(図3)。

図3 1戸当たり飼養頭数の推移
資料:農林水産省「畜産統計」

(3)経営形態と生産計画

 畜産業振興事業の平成25年度加工原料乳確保緊急対策事業(以下「緊急対策事業」という。)において、酪農家に対する生乳生産に関するアンケート調査(注1)を実施した。この結果から、酪農経営の状況を見てみたい。

注1:回答数1万6797戸(うち、北海道6307戸、都府県1万490戸)。
   なお、設問により回答数に変動がある。アンケート調査結果の概況については61ページの別紙を参照)。

ア 経営形態:法人経営は全体の1割弱

 全国の法人経営は7.9%の1322戸、法人経営以外は92.1%の1万5331戸となった。地域別の法人経営の割合は、北海道が8.9%(560戸)、都府県が7.3%(762戸)となり、資金調達面や税制面で有利といわれる法人化は、1戸当たり飼養頭数の多い北海道でやや多いものの、大きな地域差は見られなかった(図4)。

図4 全国における経営形態の状況
資料:平成25年度加工原料乳確保緊急対策事業調べ

イ 飼養計画:増頭を計画するのは全体の4分の1

 今後、搾乳牛の増頭を計画していると回答した戸数は、全国では25.2%の4185戸となった。地域別では、北海道が28.2%(1766戸)、都府県が23.3%(2419戸)となり、1戸当たり飼養頭数の多い北海道と都府県の間で大きな差は見られなかった(図5)。

図5 全国における飼養計画の状況
資料:平成25年度加工原料乳確保緊急対策事業調べ

ウ 生乳出荷予定:増やすと回答した戸数は、増頭計画の戸数をわずかに上回る

 今後、生乳出荷を増やすと回答した戸数の割合は、全国では28.2%(4660戸)となった。地域別では、北海道が33.7%(2104戸)、都府県が24.8%(2556戸)と、いずれも増頭を計画している戸数の割合(北海道28.2%、都府県23.3%)をわずかに上回り、増頭以外による生乳増産意欲のある者がいることが伺える(図6)。

図6 全国における生乳出荷計画の状況
資料:平成25年度加工原料乳確保緊急対策事業調べ

3 都府県の生乳生産費と飼料費の状況

 生産の減少が著しい都府県の酪農経営における収支状況について見ると、都府県の平成24年度の搾乳牛1頭当たりの所得は、前年度と比べ0.6%増の21万2205円であった(表1)。粗収益も同89万1416円(前年度比1.2%増)と前年度をやや上回ったものの、生産費のうち飼料費が39万9630円(同3.9%増)と、2年連続で増加しており、その割合は生産費の約6割を占めている(図7)。

表1 都府県の収支状況(搾乳牛通年換算1頭当たり)
資料:農林水産省「畜産物生産費統計」
  注:生産費は、生産費総額から家族労働費、自己資本利子および自作地地代を控除したもの。
図7 都府県の生産費の割合(搾乳牛通年換算1頭当たり)
資料:農林水産省「畜産物生産費統計」(平成24年度)

 飼料費の直近5年間の推移を見ると、トウモロコシの国際価格高騰により、20年度は40万円に達した。21年度は国際価格の高騰が一服したことにより減少に転じたものの、22年度以降は国際価格の高止まりが続き、24年度は再び20年度並みの高い水準となっている。

 生乳生産費の約6割を占め、上昇基調にある飼料費の低減への対応の1つとして、自給飼料への切り替えがある。自給飼料の生産コストを見ると、輸入粗飼料価格に比べて価格面の優位性がある(図8)。しかしながら「飼料をめぐる情勢」(農林水産省)によると、24年度の酪農の飼料自給率は、全国で32.9%、北海道が49.8%、都府県が14.0%であった。こうした背景には、購入飼料には必要な種類を必要な量だけ買い揃えられる利便性や、飼料生産に要する労働時間の軽減にもつながることがある。

図8 自給飼料生産コストと輸入粗飼料価格の推移
資料:農林水産省「飼料をめぐる情勢」(平成26年11月)
  注:自給飼料生産コストおよび輸入粗飼料価格は1TDNキログラム当たりに換算したもの。

 都府県の平均労働時間を見ると、飼料調製などに要する労働時間は、都府県では酪農経営全体の25.2%と、搾乳などの作業時間に次いで多い(図9)。自給飼料への切り替えは、労働時間の制約などが高いハードルとなっており、都府県で自給飼料生産に取り組むには難しい状況にある。

図9 都府県の平均労働時間の内訳
(搾乳牛通年換算1頭当たり)
資料:農林水産省「畜産物生産費統計」(平成24年度)

4 生産コスト低減に向けての取り組み

 自給飼料の生産拡大がなかなか難しい都府県の酪農であるが、これに積極的に取り組み収益を上げている個人経営の事例を報告したい。

 今回、事例を報告する和田牧場は、広島県北東部の庄原市にある。平成22年広島県農林業センサスによると、庄原市は県内最大の酪農家戸数シェア(約2割:33戸)を有する酪農地帯であり、ブランド牛「比婆牛」でも有名な肉用牛生産の盛んな地域でもある(図10)。

図10 庄原市の位置

(1)和田牧場の概要

 和田牧場は、昭和39年に現経営者である和田慎吾氏(44歳)の父が酪農経営を開始し、平成2年に和田氏が就農、13年に経営を継承した(写真1)。和田牧場では父の代より自給飼料を生産しており、和田氏もその営農スタイルを踏襲している。継承時である13年当初は経産牛35頭程度を飼養していたが、規模拡大を目指して同年に土地を借り受け、飼料作付面積の拡大とロールサイレージの生産を開始するとともに、16年からはTMRの給与を開始した。18年にはフリーストール牛舎を建設し、現在の総飼養頭数は101頭(うち経産牛頭数61頭:平成25年12月時点)となった。育成牛は38頭飼養しているが、全て自家育成で、市場からの購入や預託は行っていない。

写真1 経営主の和田慎吾氏(和田牧場の飼料畑にて)

 現在、和田牧場は個人経営であるが、仕事と家計を分離するという考えから、和田氏と2名の従業員を雇用して作業を行っている。搾乳・給餌・飼養管理などは3名がローテーションで作業を行い、自給飼料の生産は、運搬作業などを除いて、作付から収穫、サイレージの管理まで全てを和田氏が行っている。酪農ヘルパーの利用はなく、1日の作業時間は概ね8時間、休日も平均して週1〜2日は確保しており、ゆとりのある作業体制となっている。

(2)経営の特徴

ア 自給飼料生産を主体にした低コスト酪農の実施

 和田牧場では、9.5ヘクタールの飼料畑で自給飼料を生産している。畑は、借地を除き牧場に隣接し集約されているので、移動などの手間が少ない(写真2、3)。

 作付品種は、イタリアンライグラス、ライムギ、スーダンであり、ヒエが自然発生するので一緒に収穫を行っている。収穫は5月の梅雨入り前から9月一杯まで続き、全てサイレージとして調整し、収穫量は約365トンになる。TMRに混合するルーサンおよびチモシーの乾草は購入しているものの、粗飼料の自給率は約9割に及ぶ(表2)。

表2 和田牧場の飼料収穫量、給与量および作付体系

 また、品質へのこだわりもあり、「牛が年間を通じて、同じ餌を食べられるように」をコンセプトに、収穫量確保のため早生品種を選んだり、嗜好性を高めるために糖分含量の高い品種を選んだりするなど、牧草の品種選定に試行錯誤を重ねてきた。また、生育状況の確認を日々行い、有効繊維含量と収穫量が最大になるよう、出穂期から出穂後期に収穫するよう常に心掛けている。収穫された飼料はラッピング保管されるが、1つ1つロット番号で細かく管理しており、いつ、どのほ場で収穫したものか即座に確認できる状態にしている。その理由は、前述のとおり適期収穫を目指しているものの、どうしても気象条件などの影響で収穫時期が前後してしまうことや、ほ場環境の違いにより飼料品質に差が生じてしまうが、ロット番号で管理することにより、牛にとって理想的な自給粗飼料の組み合わせを可能にし、有効繊維を年間通して一定に保つことができるからである。

 このように和田牧場では試行錯誤を重ねた結果、自給飼料の作付体系を確立し、収穫時期を平準化することに成功したことから、安定した自給飼料生産がTMR性能を一定に保つことをもたらし、結果として理想的な生乳生産を実現できているとのことである。

イ 給餌作業などの省力化

 給餌作業については、飼料生産に手間を割く分、可能な限り省力化を図ることで、作業時間のバランスを取っている。例えば、TMR調製作業を搾乳牛用であれば2日に1回、乾乳牛および育成牛用であれば4日に1回とし、1回の製造量を多くすることで飼料調製の省力化を図っている(写真4、5)。なお、TMR給与量は牛が食べたい時に食べられるのに十分な量を確保しており、調製間隔を開けても、夏場の臭気は気にならず、腐敗などの問題も無いとのことであった。

 また、いつでも牛舎内の様子を確認できるように、牛舎内に携帯端末から監視できるカメラを設置し、牛の状態をつぶさに把握できるよう体制を整えているほか(写真6)、各個体の情報を、繁殖管理ボードやカレンダーなどに詳細な記録として残し、過去の記録も確認しながら、きめの細かい飼養管理を実現している(写真7)。

ウ 高品質の自給飼料がもたらす高泌乳量

 農林水産省注2)によると、平成25年度の経産牛1頭当たりの年間搾乳量は平均8198キログラムであるが、和田牧場の平成25年度搾乳量は、平均1万1437キログラムと約1.4倍の搾乳量を実現している。しかも、25年度は一部の牛で繁殖障害が出たことにより、通常よりやや個体乳量を落としたとのことで、26年度はさらなる成績の向上が期待されているところである。

注2:最近の牛乳乳製品をめぐる情勢について(平成27年2月)

 この高泌乳量の要因として、和田氏は自給飼料の品質が影響していると言及する。購入飼料の場合、発育ステージや肥培管理を自らがコントロールできないため、購入時期によって品質に差が生じてしまうこともあるが、同じほ場で収穫する自給飼料であれば、通年でほぼ同じ品質を保てるので効果的な飼養管理ができ、搾乳成績の向上につながっているということである。

エ 自給飼料生産に応じた飼養計画

 和田氏によれば、今後、和田牧場の飼養頭数を大きく増頭することは考えておらず、自給飼料生産の拡大とそれに見合った飼養頭数の増頭を図る方針のもと、増頭しても110頭が上限と考えているということであった。これは、現状の給与体系を維持した自給飼料生産は限界にきていると判断していることに加え、現在の3名の労働力では飼養管理水準の維持に限界があるためとしている。むやみに増頭を図れば、きめ細かい飼養管理が行き届かずに搾乳成績の低下を招きかねないと考えており、今後も自給飼料生産に応じた牛の飼養管理に重点を置く方針であるとしている。

(3)今後の取り組み

 和田氏は、今後もさらなる生乳生産量の増加を目指している。現在の9.5ヘクタールのほ場に3ヘクタールを借り増して12.5ヘクタールとし、一層自給飼料生産に力を入れていく予定とのことである。調査中、和田氏は、「酪農はキングオブ農業」と表現し、畑を耕すところから搾乳に至るまで、多岐にわたる知識・技術を習得することが大事とした上で、単純に乳を搾る作業までをすればよいというものではなく、乳牛や牧場設備の増設・更新などへの投資を計画的に行い、戦略を考えて経営を進めていかなければならないと、自らの酪農経営への考えを示していた。

 また、和田氏は生乳の出荷先である広島県酪農業協同組合の理事も務めており、地元のTMRセンター新設に当たり、積極的に助言を行うなど地域の酪農生産基盤の維持に尽力している。

5 おわりに

 生乳生産の減少傾向が続く中、都府県では酪農生産基盤の弱体化が顕在化しているが、前述のとおり、緊急対策事業のアンケート調査結果では、回答者の約4分の1の酪農家が増頭・増産意欲を示しており、これが実現すれば都府県の酪農生産基盤の維持・発展に大きく貢献するものと期待されるところである。

 また、前述のとおり、生産コストの大宗を占める飼料費の低減への取り組みも都府県酪農の維持・発展に必要不可欠であり、積極的に自給飼料を生産し、高泌乳量を実現している和田牧場の事例は、今後の経営手法の参考となるものと考えられる。

 しかし、規模拡大等が容易ではない都府県では、和田牧場の事例をそのまま当てはめることができる環境は限定的であると考えられ、コントラクターやTMRセンターなどの外部委託組織をうまく活用して自給飼料への切り替えを進めることも必要である。飼料費の低減により経営が安定することで、今後の生乳生産量の拡大にもつながるのではないかと強く感じた。

 最後に、お忙しい中、現地事例調査にご協力くださった和田慎吾氏、広島県酪農業協同組合の櫻木課長補佐、中国生乳販売農業協同組合連合会の澤井課長および関係者の皆様に心から御礼申し上げます。


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