東日本大震災および原発事故による |
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福島県 農林水産部 畜産課 主任主査 矢内 清恭 |
1 はじめに 東日本大震災および東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)の発生から間もなく5年目を迎えるが、これまでの4年間には県内外ばかりか国外の方々からもたくさんの激励、支援をいただき、この場をお借りして御礼を申し上げたい。 県内の肉用子牛セリ市場価格が全国の平均を上回って推移するなど、福島県の畜産は、ようやく、少しずつではあるが回復の兆しが見えてきたところである。 しかし、東京食肉卸売市場での福島県産牛の枝肉取引価格は、いまだに全国平均より1割程度の差があり、風評の影響は復興の上に重くのしかかっている。 我々は復興を確実なものとするために、今できることにしっかり取り組むことが重要であると考え、失われた生産基盤の回復や安全・安心な生産物の提供と風評払拭への理解醸成にまい進している。 2 福島県の畜産 (1)畜産産出額 福島県の畜産業は、農業の主要部門であり、米に次ぐ産出額を野菜と競う位置にある。 震災前の平成22年の畜産産出額は、農業産出額2330億円の23.2%を占める541億円であった。 震災の影響を受けた23年は、農業産出額が前年比79.4%の1851億円まで低下し、畜産産出額は前年比77.1%の417億円まで低下した。 24年の農業産出額は、前年比109.2%の2021億円と伸び、畜産を除く米、野菜、果実、その他耕種作物は回復の兆しを見せ始めたが、畜産産出額は388億円で前年比93.0%とさらに低下した。25年になって全国的な子牛価格や牛の枝肉価格の上昇の影響もあり、畜産産出額は441億円とようやく回復傾向にある。 (2)家畜飼養戸数および飼養頭数 農林水産省の農林水産統計で、毎年、2月1日現在の家畜飼養戸数、飼養頭数などが公表される。 乳用牛では、飼養戸数が震災前の23年の548戸から24年には466戸に減少。その後も減少は続き、26年には438戸と23年と比べ110戸減少した。 飼養頭数では、1万7100頭から1万3600頭まで3500頭減少した。 同様に、23年から26年までに肉用牛では1320戸、1万9500頭、豚では36戸、5万3900頭、採卵鶏では15戸、1204千羽が減少した。 制限区域に設定された地域は県内有数の畜産地帯であり、県全体飼養頭羽数の内、乳用牛は約14%、肉用牛は約24%、豚は約25%、採卵鶏は約32%を占めていたが、これらの生産基盤が失われた。
3 震災・原発事故の子牛・枝肉価格への影響 震災前は、全国平均以上で推移していた子牛価格については、原発事故後、一時、大きく値下がりしたものの、半年ほどで回復し、現在では再び全国平均を上回っている。 牛の枝肉価格については、震災前は全国平均程度だったものが、震災直後から大きく値下がりし、出荷再開からしばらく経って徐々に回復の様子を見せるものの、いまだに全国平均より、1キログラム当たり200〜250円、1頭当たり10万円程度安く取引されている。 出生してから最も飼養期間が長い場所が産地となるため、一般的には肥育場所が産地として表示され、枝肉価格は直接的に風評の影響を受けてしまうためである。 4 モニタリング検査 福島県の農林水産物および牧草・飼料作物は震災・原発事故から5年目を迎える今も「緊急時モニタリング検査」を継続し、速やかに結果の公表を行っている。 自給飼料は農用地除染を前提とし、除染後収穫した飼料のモニタリング検査により給与の可否が決定する 原乳については、週1回、クーラーステーション単位でモニタリング検査を実施しており、23年5月以降、検出限界値未満を継続している。 肉用牛については、県の出荷・検査方針に基づき飼養された牛が例外として出荷制限を解除された。 今では、ほとんどの農家が適正な飼養管理の確認を受け出荷できるようになっているが、飼養状況は定期的に調査し、「全戸検査確認証」を出荷する牛に添付している。そのうえで出荷された牛は、全て流通前に放射性物質検査を実施している。
5 肉用牛の全頭検査 出荷制限を受けた肉用牛については、安全・安心確保を完全なものとして風評を払拭するため、緊急時モニタリング検査だけにとまらず、出荷する全ての牛について流通前の全頭検査を実施している。 県内でと畜された牛は、県の農業総合センターで放射性物質検査を受け、県外に出荷・と畜された牛は各と畜場の分析機関や福島県が指定する分析機関において放射性物質検査が実施されている。 23年8月25日の出荷制限一部解除後、26年12月末まで県内外に出荷された7万7714頭全ての牛について放射性物質検査を実施してきたが、基準値を超えたものは1頭もいない。 全頭検査の結果は、農畜産物のモニタリング検査結果とともに県のホームページで公表している。
6 福島県畜産業の復興対策 東日本大震災および原発事故の影響により、畜産業の生産基盤が大きく低下し、また、本県畜産物に対する風評の影響がいまだに大きいため、県では、乳用雌牛・肉用繁殖雌牛の増頭支援や避難・休業を余儀なくされた農家による共同経営牧場整備等の生産対策、「福島牛」の知事によるトップセールスや全頭検査をはじめとする安全性のPR、消費拡大イベント、ブランド復興対策等の流通対策など様々な対策を講じている。
7 おわりに 県内では、失った生産基盤を少しずつであるが取り戻しつつある。また、農地除染をはじめとした安全対策も進み牛肉の全頭検査をはじめ畜産物のモニタリング検査も基準値を超過する事例は出ていない。 しかし、いまだに風評は払拭できず、価格の格差や取引停止の事例がみられる。風評払拭が一朝一夕になし得ないことは承知している。 昨年11月に新知事が就任し「ふくしまから“チャレンジ”はじめよう」が県のスローガンとなった。福島県の畜産復興のためにさらなるチャレンジがはじまる。
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