【要約】アルゼンチンの牛肉および穀物・油糧種子の生産は、主にラプラタ川流域に広がる肥沃な土地のパンパで行われている。この地域で伝統的に行われていた肉牛の放牧肥育は、放牧地が収益性の高い大豆などへの転換や、消費者嗜好もあり、穀物肥育への転換など構造変化が起きている。一方、同国からの牛肉輸出については、EU向けの新たな枠の獲得や、衛生条件の改善による輸出先拡大で今後の拡大が期待できる状況となっている。こうした中、同国での農業政策は、牛肉や飼料穀物の生産、輸出に大きな影響を与えるものになっている。 1 はじめに南米の農業大国であるアルゼンチンは、世界第6位の牛肉生産国であり、飼料穀物生産では、大豆が同3位、トウモロコシが同6位となる。 牛肉および穀物・油糧種子の生産は、主に中部のラプラタ川流域に広がる世界3大肥沃土の1つといわれるパンパを中心に行われている（図1）。従来の伝統的な農業は、放牧による肉牛生産が中心であったことから、大豆、トウモロコシなどは飼料としての需要が小さく、その生産量も大きな変動はみられなかった。しかし、最近の同地域の農地利用の実態を見ると、肉牛の放牧のための牧草地が減少し、大豆、トウモロコシなど収益性が高いとされる品目への利用が増加傾向にある。これは主に、インフレにより国内の牛肉価格が高水準にある中、肉牛生産者が放牧肥育から飼養頭数の増加や回転率の増加が見込めるフィードロットによる穀物肥育へと経営を変化させたことによるものである。
米国では、肉牛飼養頭数減少による国産牛肉の供給が不足気味である中、口蹄疫などを理由に停止しているアルゼンチン産牛肉の輸入再開が特定の地域に限り検討されるなど国際市場では、同国産牛肉の位置付けが徐々に高まっている。ただ、政府は、牛肉や飼料穀物の生産、輸出を制限しており、このような政策が農畜産物の生産を抑制する要因となっている。 本稿では、まず、同国の農業政策を概観するとともに、粗放的な肉牛生産から集約的な肉牛生産へと生産構造が変化している牛肉生産の実態について、2014年11月に実施した現地調査の結果を踏まえて報告する。 なお、本稿中の為替レートは、1アルゼンチンペソ＝14円（1月末日TTS相場： 13.86円）を使用した。 2 アルゼンチンの農業政策アルゼンチンは、2001年に公的債務の返済を全面的に停止し、デフォルトに陥った。デフォルト後は、通貨の切り下げや国際価格の上昇による好調な穀物輸出を背景に、経済を再び成長軌道に乗せた。ただ、通貨切り下げは輸出の価格競争力向上に寄与したものの、インフレ率の上昇という副作用を残したデメリットをもたらした。このような経済情勢の中、政府は、農畜産物の国内供給を優先させることにより、国内の主要食料価格の安定を図っている。具体的には、輸出登録制度と輸出課徴金（輸出税）制度により輸出を管理している。食肉については、このほか、統計のシステム化という名目で、輸出業務登録制度も実施している。 （1）輸出登録制度 輸出登録制度は、主にトウモロコシおよび小麦を対象に輸出許可数量を設けるものである。本制度の導入目的は、国内供給を確保し、国内価格の安定を図ることである。これにより、たとえ、インフレ下であっても、国民が安価な農畜産物を安定して入手できることとなる。 輸出許可数量は、毎年度、政府が国内生産量から国内需要量を差し引いて定める。2013/14年度（10月～翌9月）のトウモロコシの輸出許可数量は、1600万トンであった。この数量は通常、作付け開始（9月）前に公表されるので、生産者の生産意欲に影響を与えるといわれる。 （2）輸出課徴金制度 輸出課徴金（輸出税）制度は、1994年に油糧種子に対して設けられたのが最初で、2001年のデフォルトの際、著しい外貨準備高の不足に陥った政府が、輸出の主力農畜産品であるトウモロコシや、牛肉なども対象に加えた経緯がある。現行の税率は、トウモロコシが20％、大豆が35％、牛肉が15％である。 （3）輸出業務登録制度 輸出業務登録制度は、2006年に、食肉に関する統計をシステム化するという名目で、新たに創設されたものであるが、実際は、国内の牛肉価格の抑制手段としての側面もある。EU向け高級牛肉枠（ヒルトン枠）の管理などを行う国内消費補助金調整評価ユニット（UCESCI）（当初は、国立農牧取引管理事業団（ONCCA）が管轄）がこの制度を管轄し、輸出業者が税関に提示するための輸出業務登録証明書を発行するが、その登録証明書の有効期限は30日間で、期限満了後は再度の手続きが必要となる。このため、当初は、これら手続の煩雑さから、事実上、多くの輸出業者が牛肉輸出を手控える傾向があった。なお、本制度は現在、（1）の輸出登録制度の下で集約的に運用されている。 このような農業政策により、牛肉やトウモロコシなどについては国内事情が優先されてしまう。このため、高品質なものを増産しても輸出には仕向けられず、外貨獲得の機会の喪失のみならず、輸入国からは安定した調達先として見られないといった、国内外からの批判がある。 3 牛肉生産・輸出の現状（1）肉牛飼養頭数 まず、飼養頭数について述べる。2014年の肉牛飼養頭数は、前年比1.3％増の5165万頭となった。飼養頭数の推移を見ると、2007年に過去最高となる5872万頭を記録したが、2006年に開始された輸出業務登録制度により牛肉輸出が停滞したことで国内需給は大幅に緩み、その影響で国内牛肉価格が低下した。その結果、生産現場では経産牛を中心に淘汰が進み、2008年、2009年と2年連続で全国規模の干ばつが発生したことで、繁殖雌牛の淘汰が加速し、2011年には4797万頭まで飼養頭数が減少した。その後は、放牧地の改善と需給の引き締まりによる肉牛価格の上昇により、繁殖雌牛の保留が進み、2012年から2014年まで飼養頭数は増加を続けている（図2）。 アルゼンチンの牛肉関係者によると、飼養頭数の今後の見通しを見る際、と畜頭数に占める雌牛の割合の44％が境になる。44％以上であれば減頭、44％未満であれば増頭局面にあるとのことであった（図3）。 干ばつとなった2008年頃は、この割合が44％を上回る水準でと畜が進み、2010年以降は44％を下回る水準でと畜、保留が進んでいることが読み取れる。
2014年（1～10月）の平均割合を見ると、肉牛価格の上昇により、繁殖雌牛のと畜が進み、この割合は45.8％となっている。今後もこの傾向が強まれば、2015年以降、4年ぶりの減頭局面になる可能性が高いものと考えられる。
（2）放牧肥育から穀物肥育へ 次に、肉牛生産形態が、放牧肥育から穀物肥育へ移行してきた背景（要因）について整理する。肉牛生産は、政府による輸出制限策や干ばつの影響を受け、生産者の収益が不安定で低迷していた。一方で、トウモロコシと大豆の生産状況は、（1）トウモロコシは、輸出登録制度の対象となっているものの、大豆は対象となっていないこと、（2）大豆の国際価格が堅調に推移していること、（3）生産コスト面でも、大豆の方が、トウモロコシに比べて種子代や肥料代などの初期費用が安価なこと、などから大豆の生産が増加している。このことから、生産者は肉牛生産から耕種農業に経営転換するか、あるいは肉牛生産を継続するとしても、パンパなど肥沃な土壌に、収益性の高い大豆の栽培を組み込んでいった。その結果、肉牛生産はパンパから放牧肥育に適さない北部地域へ移転するか、パンパでの放牧肥育を止め、肥育を集約化することによって生じた土地を、大豆栽培に割り当てていった。 ア 穀物生産の増加 穀物の生産地はパンパが中心であり、2013/14年度（3月～翌2月）のパンパが属している州（エントレ・リオス州、サンタフェ州、コルドバ州、ブエノスアイレス州、ラパンパ州）の主要穀物の作付面積に占めるシェアを見ると、大豆では86.5％、トウモロコシでは75.9％、小麦では95.6％となっている。これら3品目の作付面積は、ほぼ一貫して増加していることがわかる（図4）。
このように、飼料穀物の生産が増加したことにより、給与する飼料が充分に確保できるようになり、穀物肥育による肉牛生産の増加を支えることとなっている。 イ 消費者の牛肉の嗜好 また、若齢牛を好む消費者の嗜好も穀物肥育への移行を後押しした。 世界でも1、2位を争う牛肉消費量を誇るアルゼンチン国民は、軟らかい牛肉を好み、「若い牛ほど軟らかい」という認識があると言われる。このため、消費者のニーズに合った若齢牛を短期間で効率的に生産することが求められるようになり、伝統的な放牧肥育ではなく、集中的な管理が可能なフィードロットでの穀物肥育を指向する傾向がみられている。インフレにより国内の牛肉価格が堅調であり、政策的に飼料穀物価格が抑えられている状況下では、穀物肥育へ取り組む傾向が一層高まっている。 フィードロットに関する公式の統計はないが、アルゼンチン地域農業生産者連盟（AACREA）が実施した肥育期間の調査によると、雄牛の平均肥育期間は、2003年には約18カ月であったが、2013年には約12カ月と短縮している（図5）。アルゼンチン農牧漁業省（MINAGRI）によると、と畜頭数に占める若齢去勢牛（18カ月齢未満）の割合は、1990年の18.1％ に対し、2013年は36.8％と高まっており、効率的な生産による若くて軟らかい牛肉の供給が増加していることがわかる（図3）。
生体牛価格の指標となるリニエルス家畜市場の生体牛価格を見ると、若齢去勢牛の区分は、18～24カ月齢、12～18カ月齢、12カ月齢未満に分かれており、2014年11月の1キログラム当たりの生体牛価格は、それぞれ、15.28ペソ（214円）、16.86ペソ（236円）、17.41ペソ（244円）と、若齢去勢牛でも月齢が下がるほど価格が高くなっていることがわかる。 リニエルス家畜市場
リニエルス家畜市場は、1901年に国営の家畜市場として設立された。1992年の民営化以降、メルカドデリニエルス株式会社が運営管理を行っている。
（3）牛肉輸出の状況 2013年の牛肉輸出量は、前年比9.7％増の20万1688トンとなった（図6）。インフレにより国内価格が堅調に推移しており、輸出税（15%）が課せられる牛肉輸出の生産量に占める割合は年々減少している。
輸出相手先別に見ると、隣国のチリが最も多く、次いで、ドイツとなっている（図7、生鮮肉ベース）。また、アルゼンチンにはユダヤ系の人口が世界的にも多いため、イスラエル向けの輸出が多くなっている。2012年からは中国向けが再開されており、年々、同国向けの輸出量が増加している。
牛肉輸出の25%以上は、EU向け低関税枠（ヒルトン枠）が存在するEU向けとなっている。EU向けについては、新たな関税枠（高級牛肉無税枠）が承認されたため、さらなる輸出拡大が期待される。 ア ヒルトン枠 EU向けに牛肉輸出が多いのは、EU向けに1979年ガット東京ラウンドにおいて設定された低関税枠、いわゆるヒルトン枠が割り当てられていることによる。ヒルトン枠は、EU規則593/2013に基づくもので、骨なし高級生鮮牛肉を対象に、従価税20％で輸入されるもので、EU全体のヒルトン枠年間6万6750トンのうち、アルゼンチンは3万トン（2013/14年度（7月～翌6月））が割り当てられている。 対象となる牛肉は、放牧肥育され、牛肉格付け（※）の歩留まりが、去勢牛でU2以上、未経産牛でB以上であること、トレーサビリティが確保されていることとされている。その他、EUの輸入業者からは、22～24カ月齢の肥育牛であること、アンガス種やヘレフォード種などの高品質な肉用種であること、ヒレ、ロース、モモの部位であることが要求されている。このように肥育期間は、若齢牛が好みの国内向けよりも長くなっている。 ヒルトン枠の実績は、2012/13年度では、同国向け割当枠の81.1％の2万4336トン、2013/14年度では、同78.9％の2万3664トンであった。 ※ アルゼンチンでの格付け結果は、「歩留まり（骨と筋肉の割合、筋肉の量・形・輪郭）」と「脂肪等級（皮下脂肪の厚さ、
イ 高級牛肉無税枠 ヒルトン枠は、放牧肥育由来の牛が対象であるが、新たに穀物肥育由来の特別枠が2014年9月に設けられたところである。これは、高級牛肉無税枠（Tariff Quota for High-quality Beef：EU規則481/2012）と呼ばれ、EUが、ホルモンを投与された肉牛から生産された牛肉の貿易をめぐる米国との紛争を解決するため、成長ホルモンを使用していないことを条件に、米国産牛肉の輸入を念頭に高級な牛肉の無税枠を設定したものである。 本規則による高級牛肉の定義は、30カ月齢未満の牛由来であること、穀物飼料が100日以上給与されているなどの飼養形態に係る条件を満たすこと、政府が雇用した者により格付けされた牛肉であること、などである。この無税枠は、2013年7月1日以降、承認国全体で年間4万8200トンと設定され、2015年1月1日現在、米国、豪州、カナダ、ニュージーランド、ウルグアイ、そしてアルゼンチンの6カ国がこの枠の承認国となっている。この枠は、国ごとに設定されるヒルトン枠と異なり、四半期ごとに申請順に割り当てられる。 同国では、飼料など生産段階での条件を数年かけて整備し、ようやく輸出条件をクリアすることができたとのことであった。放牧主体の経営から、穀物肥育の経営が増加してきたことにより、当該枠の承認も得ることができたといえる。 対米輸出解禁による牛肉輸出の今後の展望
アルゼンチンにおける口蹄疫の発生は、一部地域でワクチン接種をすすめ、2006年2月の北東部コリエンテス州以降、確認されていない。現在、国際獣疫事務局（OIE）は、アルゼンチンの口蹄疫清浄国のステータスを地域により、ワクチン接種清浄地域とワクチン非接種清浄地域とに両立している（図8）。
米国農務省動植物衛生検査局（USDA/APHIS）は2014年8月、OIEから清浄地域のステータスを得たことを受け、アルゼンチンのパタゴニア地域（北部および南部）を口蹄疫清浄地域に向けた提案を行った。この提案が承認されれば、地域は限定されるものの、アルゼンチン牛肉が米国向けに輸出されることとなる。 （4）肉牛の生産現場の状況 ア ロス・リグストロス（Los Ligustros）農場～フィードロット～ 首都のブエノスアイレス市から北西に約170キロメートルのブエノスアイレス州サンペドロ（San Pedro）市にある、ロス・リグストロス（Los Ligustros）農場を訪問した。この地域は、元々、肉牛の肥育経営が盛んな地域であり、ブエノスアイレス市と国内で人口が3番目に多いロサリオ市のちょうど中間あたりに位置しており、国内の大消費地に近いという恵まれた環境にある。 15年前に家族でフィードロット経営を開始し、現在の面積は140ヘクタールで、そのうちフィードロットに25ヘクタールを使用し、残りはトウモロコシと大豆を栽培している。また、この他に農場から10キロメートル圏内に数カ所の合計2800ヘクタールの土地を借りて、自家用の飼料穀物を栽培している。これらの土地で使用する飼料穀物の50％程度を賄い、残りは近隣から購入している。飼料は、自家栽培のトウモロコシを主に、近隣のシロップ工場からのシロップかすと、トウモロコシ蒸留かす（DDGS）を配合している。 生産概況は、飼養頭数が約5000頭で、ヘレフォード種、アンガス種、ブラーマン種などであるが、季節により導入する種類を替えている。例えば、3～10月に導入すると、肥育時期が冬～春となるため、ヘレフォード種やアンガス種など温帯品種を、11～2月に導入すると、肥育時期が夏～秋となるため、暑さに強いインド系のブラーマン種などの熱帯品種を導入している。
もと牛は、150～200キログラム（5～8カ月齢）を一番多く導入する。もと牛は主に家畜商から調達しており、相対の信用取引が慣例である。導入後、約100～110日間肥育し、約300キログラム超えで出荷する。1日当たりの増体量にすると、平均で1.25キログラムとなる。生体牛は、契約パッカーに9割、残りの1割をリニエルス家畜市場に出荷している。 なお、本農場は、すべてを国内市場向けに出荷しているため、若齢牛の肥育が主体となっている。 農場経営者は、輸出に対応できる管理体制を確保しているとして、現行の輸出規制などの政策が変更されることを期待していた。現行制度が撤廃されれば、今の3倍に事業を拡大できるとし、輸出政策が国内の肉牛生産の制約要因となっていると指摘する。 イ アラス・エル・バギュアル（Haras El Bagual）農場～繁殖・肥育一貫経営～ ブエノスアイレス市から南東に約100キロメートルのブエノスアイレス州チャスコムス（Chascomús）市にある、アラス・エル・バギュアル（Haras El Bagual）農場を訪問した。ブエノスアイレス市南東部の大西洋岸に位置するチャスコムス市は、ラプラタ川の河口の低地であるため、降水量が年間約1000ミリメートルにすぎないにもかかわらず、上流で降雨があった場合には、この地域一帯が冠水してしまうなど、水はけが悪く、高台を除き湿地帯を形成することが多い。このため、栄養分に富んだ牧草や穀物の生産には不向きで、もっぱら繁殖主体の地域として発展してきた。
アラス・エル・バギュアル農場は、約50年前に2700ヘクタールを購入し、現在は、アンガス種を主体とした繁殖・肥育一貫経営で、6500頭ほどを飼養している。土地は起伏に富んでいるため、丘のように比較的高くなっている土地を改良し、穀物の生産も行っている。7年前からは、生産した飼料を用いて、フィードロット経営も手掛け始め、最近では年間2000頭ほどの牛を出荷している。 繁殖方法は、自然交配であり、およそ雌30頭に対して雄1頭の割合で、10～1月を交配時期に充てている。
フィードロットでは、約200キログラムの牛を導入し、100日間肥育する。体重が約320キログラムに達した後、リニエルス家畜市場に出荷する。飼料は自家生産したトウモロコシを中心に給与する。 農場経営者によると、飼料が自給でき、バランスのとれた経営となっている現在の規模が適正で、事業規模を拡大する意向はないという。ただ、輸出向けの自由度が高まれば、より収益性の高い輸出向けに生産する意向があり、政府には政策の見直しを期待するとのことであった。 4 まとめ米国農務省によると、現在、アルゼンチン国内で消費されている牛肉のほとんどが穀物肥育由来であるが、ほとんどの消費者は放牧肥育から穀物肥育にシフトしていることに気づいていないとのことであった。国民は、肥沃な土地のパンパで飼育されている牛は、放牧肥育がメインであると思っているかもしれない。しかし、集約して効率的な穀物肥育が増加し、国民が好む若齢の牛が、短期間の肥育で市場に流通することが可能となってきている。 また、穀物肥育が増加したことにより、EU向けの特別枠であり放牧肥育が条件となるヒルトン枠の他に、2014年9月には、穀物肥育を対象とした新たな特別枠を獲得し、今後、輸出の増加が期待されている。 このように、穀物肥育の増加により、国内外の需要にも対応できる生産形態となったため、放牧地が減少している中でも、牛肉生産量は引き続き一定水準が維持されると見込まれる。ただ、現在、インフレにより牛肉価格が高騰しており、雌牛のと畜が増加していることや、昨年初めに繁殖地域を襲った冠水により、繁殖雌牛や子牛が淘汰されたことから、2015年、2016年は肉牛頭数の減少が見込まれる。このため、今後、肉牛生産に好条件が揃ったとしても、牛肉生産の本格的な増加は2017年以降になるとみられている。 アルゼンチンからの大豆の輸入が増加している中国の企業がアルゼンチンの穀物企業に50％を出資するなど、調達ルートを確保している状況にある。穀物生産の潜在能力が非常に高いアルゼンチンであるが、政府による輸出管理政策が大きく影響し、諸外国からの投資も困難な状況にあるとの声も多い。 こうした中、アルゼンチンの次期大統領選が2015年10月に実施され、同年12月には新たな大統領が誕生する予定となっている。新たな政権となった場合、経済再建に向けて、輸出管理政策を見直すことも期待されている。関係者の多くは、自由な輸出が可能となれば、これまで以上にさまざまな国への輸出拡大が可能としており、牛肉産業などへの投資拡大や生産動向に変化が生じるとみている。同国の牛肉産業は、現在、輸出市場に乗り出すための機会をうかがっているといえよう。 |
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