調査・報告 畜産の情報 2015年5月号
鹿児島事務所 小山 陽平
【要約】サツマイモは、南九州(宮崎県および鹿児島県)における基幹作物として、重要な地位を占めるものの、その茎葉のほとんどは、裁断されて畑にすき込まれているのが現状である。鹿児島県ではこの未利用資源を飼料として生かすべく、従来よりサツマイモ茎葉収穫機の開発や、茎葉の家畜への給与試験などの取り組みが進められてきた。これまでの活動を通じて、茎葉飼料の実用化に対する課題も徐々に明らかになり、今後の展望も開けつつある。 1 はじめにサツマイモは、土地の痩せたシラス(火山灰)土壌での栽培に適し、台風に比較的強い特性から、南九州における基幹作物として重要な役割を担っている。鹿児島県におけるサツマイモの作付面積は減少傾向にあるものの、平成25年度は県全体の耕地面積の11.2%を占め、耕種作物部門における県内農業産出額において常に上位に位置していることからも、県内農業におけるサツマイモの重要性がわかる(表1、2)。
サツマイモの茎葉は、食用部分である塊根の収穫前に切り取られる。かつては畜産(肉用牛・豚)とサツマイモ栽培との小規模複合経営農家が多く、飼料としての利用も広く行われていた。しかし、現在では、畜産およびサツマイモ生産農家とも、規模拡大が進展するとともに、生産の効率化などのため専業化が進み、複合経営は衰退した。また、機械化収穫の進展に伴う茎葉処理機の普及により、大半の茎葉が裁断されて畑にすき込まれているため、茎葉の飼料利用はわずかとなっている。近年、飼料および資材価格の高騰が続く中、鹿児島県において年間36万トン(注)もの生産が見込まれる茎葉を飼料として活用することは、未利用な地域資源の活用という視点からも大いに意義がある。サツマイモ(耕種)農家においても、茎葉収穫機を活用することで、茎葉の除去作業が不要になるなどの収穫作業の負担軽減や、茎葉をほ場に還元せず持ち出すことから、病害予防などのメリットがあり、耕畜連携推進の観点からも、その利用普及が強く望まれている(写真1)。 鹿児島県では、これまで県内の広範囲に存在する未利用資源の茎葉活用を通じて、自給飼料の確保とともに、飼料輸送コストの削減などを通じた環境負荷低減を図るべく、茎葉収穫機の開発、家畜への給与試験およびそのコストなどの調査・研究が進められてきた。 本稿では、鹿児島県におけるサツマイモ茎葉の飼料化に向けた取り組み、肉用牛繁殖とサツマイモ栽培の複合経営農家における実証試験の状況および実用化に向けた課題と今後の展望について報告する。 注: 茎葉収穫機の利用対象であるでん粉原料用および焼酎原料用サツマイモの25年度の合計作付面積を基に、
2 飼料化への取り組み(1)飼料化のきっかけ 平成16年度から18年度にかけて、国内の研究機関などにおいて「バイオマス・ニッポン総合戦略」(14年12月閣議決定)に基づいた、未・低利用資源の有用物質への再資源化技術の開発などの研究が行われた。その中で、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター、宮崎県および鹿児島県により、サツマイモにおけるゴミゼロ型の生産利用システムの構築が検討され、従来農地にすき込まれていたサツマイモ茎葉を有用資源として活用すべく、飼料化に向けた茎葉収穫機の開発、サイレージ調製手法の確立、サツマイモ茎葉由来飼料の機能性の解明などをテーマに研究が進められた。 その後、鹿児島県では実用化に向けたさらなる取り組みとして、独自の茎葉収穫機の改良や生産コストの調査などが行われてきた。 (2)課題への対応状況 これまでの調査・研究で明らかになった課題については、現在、以下のとおり研究・開発が進み、茎葉の飼料化への取り組みは着実に進んでいる(表3)。
ア ハード面 当初、茎葉収穫機の開発は、鹿児島県農業開発総合センター大隅支場(以下、「大隅支場」という。)が大手農機メーカーと共同で行っていたが、地域が限定され、販売台数が見込めないことから、当該メーカーが撤退し実用化には至らなかった。その後、21年度から24年度にかけて、JA鹿児島県経済連が出資して、大隅支場が基本設計を担当し、地元農機メーカーが製造を行う体制で新型機の研究・開発を進め、25年度には受注生産が可能な体制が整った。その機械の概要を図1、2に示すとともに、作業能力を表4にまとめた。 大隅支場農機研究室の大村幸次室長によると、新型機の開発については、これまでの、完成まで非公開で取り組む開発手法から大きく転換し、生産者のほ場における稼働試験を繰り返しながら試作改良を施し、機能向上や改善を図り開発工程を短縮したとのことである。その背景には、当初の見込みよりも、地域で異なる畦形状やさまざまな品種への対応などの課題が多く発生し、従来の研究室内および支場内ほ場での開発では、実用化に10年以上要することが想定され、完成時には生産の現状に対応出来なくなるのではないかと危惧されたからであった。
年間の機械の稼働期間がサツマイモ茎葉のみに限定されることによる、高い機械利用コストの削減を図ることが課題の1つとなっていたが、これについては、26年度から、国の2カ年事業「攻めの農林水産業革新的技術緊急展開事業」を活用して、トウモロコシや飼料用ソルガムなどの立性飼料作物も収穫可能となるよう開発を進めている。具体的には、収穫部分のアタッチメントを着脱可能とし、立性飼料作物の収穫を実現するものである。既に26年秋季において、トウモロコシの収穫テストによる検証および課題のあぶり出しが行われ、改良機の早期実用化が待ち望まれている(写真2)。
イ ソフト面 サイレージ化に当たっては、サツマイモ茎葉の水分が80%以上と高く、水分調整剤の種類および添加量の検討が課題とされていた。鹿児島県大隅地域振興局農林水産部曽於畑地かんがい農業推進センター(以下、「曽於畑かんセンター」という。)では、24年度に、流通飼料として比較的農家が入手しやすい次の4品目、(1)オーツヘイ (2)ビートパルプ (3)トウモロコシサイレージ (4)デンプン粕を水分調整剤の候補に選定し、茎葉サイレージの水分率を75%にした場合の成分値を検証した(表5)。
成分値に関しては、いずれも飼料成分組成や栄養価の面で粗飼料として十分利用可能な結果となり、選定された4品目は水分調整剤としては全て問題が無いことが示された。それぞれの水分調整剤の特徴を考慮し、農家が水分調整剤を選択することが可能である。カロリーが不足気味であるため、乳用種に対しては適さないが、繁殖肉用牛に対しては、他の飼料と混合することにより十分実用化しうるとの結果が示された。引き続き茎葉サイレージの実用化に向け、それぞれの水分調整剤において不足部分を補うための検討が行われている。 生産コストに関しては、24年度にラッピングロールベールサイレージでのコスト分析を実施した。畜産農家側は現物で1キログラム当たり10円程度での流通を希望していたが、茎葉収穫機ほか、ロールベーラーなどサイレージ調製に必要な機械の減価償却費、ラップなどの資材費により、生産者の希望する水準には至らなかった。そのため、25年度以降はバンカーサイロでサイレージ調製を行い、作業の簡素化および資材負担の軽減を主眼に、コスト分析が行われている。 3 畜産農家での実証試験の状況曽於畑かんセンターは、これまでの研究成果を基に、現場での実証試験へ移行することとし、実証試験に協力が可能な生産者を探したところ、必要なサツマイモの作付面積と繁殖肉用牛の飼育規模の構成を有する有限会社長岡商店(以下、「長岡商店」という。)の協力が得られた。 長岡商店は、鹿児島県東部に位置する志布志市内の山あいの集落にあり、サツマイモの集荷、繁殖肉用牛の飼育、でん粉および焼酎原料用サツマイモの栽培、農業用資材の販売など多角的経営を行っており、現在、2代目となる長岡耕二氏が代表取締役を務めている(表6)。同社は、長岡氏の父がでん粉原料用サツマイモの集荷や仲買を始めたことが事業の基礎となっており、畜産部門は、21年に近隣の離農農家から農場を買い取ったことを契機として始められた。
(1)茎葉収穫からサイレージ調製まで 長岡商店は、実証ほ場を提供するとともに、茎葉の収穫およびサイレージ調製に協力した(表7)。 収穫に当たっては、大隅支場所有の茎葉収穫機2台を投入した。当日は2台とも順調に稼働し、予定通り3時間程度で収穫作業は完了した。ほ場面積が65アール程度であったことから、機械仕様上の1時間当たり10アール以上の収穫が行われたことがわかる。茎葉の運搬は、ほ場と牛舎の距離が片道5キロメートル程度であったことから、2トントラック1台によるピストン輸送を4回行い、搬入の都度、畜産部門の担当者がホイールローダーを用いて、水分調整剤としての稲WCSと茎葉を混合しサイレージ調製を行った。稲WCSは、近隣の農家からの購入が可能な水分調整剤として選定し、自己所有水田からのものも利用していることから、全て地元での調達となっている。なお、当日はサツマイモの収穫シーズンの後半であったこともあり、茎葉の水分、量ともに減少しており、収穫面積に対する収量は比較的少なかった(図4、写真3、5)。
(2)サイレージの給与状況 茎葉収穫作業から63日後の27年1月22日に、バンカーサイロの開封が行われた。開封後の香り、嗜好性ともに良好であったとのことであり、開封から7日後に訪問した際も、繁殖牛の食い込みは良好であった(写真4)。 今回の実証試験は、前年度より遅い時期(平成25年10月中旬)に実施されたため、茎葉の収量が少なく、水分量は減少していたと思われるものの、稲WCSの混合割合を前年より増やしたところ、サイレージの品質は良好とのことであった。なお、現在進められている品質分析により、25年度との違いなどが明らかになる見込みである。 生産コスト面では、機械の減価償却費を考慮しなければ、1キログラム当たり10円前後での生産が可能であり、現在自作している粗飼料よりも優位な結果になる見込みであるとのことであった。
4 実用化への課題と新たな取り組み調査を進めてきた中で、茎葉飼料化の普及・定着に向けた課題として、(1)耕種農家と畜産農家の連携、(2)収穫からサイレージ調製を行うまでの人員の確保および塊根の出荷を優先させることによるスケジュール調整(人繰りと日程管理)などが挙げられる。 (1)については、耕種農家は茎葉をサイレージ化するなど、飼料として扱うノウハウは当然持っておらず、今後もそれを耕種農家が担うことは現実的ではない。従って、茎葉の利用拡大においては、畜産農家からのアプローチと積極的なリードが必要であると考えられる。 (2)については、茎葉の収穫時期は塊根の収穫ピークと重なるため、茎葉の収穫に人員を割けないことが挙げられる。 耕畜複合経営を行っている長岡商店においても、茎葉収穫からサイレージ調製までの一連の作業に必要な人員を、繁忙期に常時確保することは困難であり、他の経営体との共同作業を行う場合はさらに調整が必要となると思われる。 また、地域を越えた茎葉飼料の流通を目指す場合、現状では茎葉収穫の日程がさまざまな要因に左右され、定時定量での出荷が困難であることから、計画的なサイレージ生産や在庫量の確保といった体制をどれだけ整備することができるか、近隣農家の理解と協力を得ることができるかどうかも、大きな課題の1つであろう。 さらに、茎葉利用そのものの課題として、サツマイモ畑は多く存在し、茎葉は廃棄処分されるものという認識が一般的であることから、畜産農家側において、茎葉飼料が有償で流通することに対して抵抗感があることも挙げられる。 長岡商店では、曽於畑かんセンターの指導により、茎葉飼料の実用化に向けた今後の展開として、26年度に2つの新たな取り組みを実施した。 1つ目は、フレコンバッグでの保管による保存性の検証である。これは、400キログラムのフレコンバッグに梱包した茎葉サイレージを、1カ月後に給与するもので、サイレージの品質や繁殖牛の嗜好性(食い込み)などに問題が無ければ、茎葉飼料の新たな保存方法としての検討材料になるものと考えられる。およそ1カ月後に給与したところ、食い込みに問題はなかった。 2つ目は、青刈り茎葉の給与である。長岡商店の場合、サツマイモの収穫は8月から11月まで行われ、サイレージ調製に労力が割けない時の選択肢として検討している。8月から収穫した場合、収穫期間も含めた8カ月程度、青刈りのままの茎葉も併せて、飼料の一部に茎葉を利用することが可能となるということであった。なお、青刈り茎葉については、飼料として給与されていた実績もあることから、嗜好性に支障はないものの、サイレージに比べて保存可能期間が短いため自家給与が基本となる。給与期間中の栄養成分分析などに基づく給与量などにも配慮が必要である。 長岡氏は、これまで茎葉は茎葉「処理」機により畑にすき込んでおり、サツマイモの裏作として、イタリアンライグラスやエンバクなどの飼料作物を栽培していた。茎葉が飼料として実用化された場合のメリットの一例として、これらの飼料作物より市場価値の高い冬野菜を裏作で生産することができるようになることを挙げ、茎葉の飼料化に大きく期待していた。 実証試験に協力した立場からも、茎葉収穫機の能力や茎葉サイレージの品質には問題はないと感じており、周辺農家にも声を掛けることで、主体的に飼料化に取り組める可能性があるということであった。 5 将来に向けてこれらの課題や現状から、今後の茎葉飼料の利用は、集落内もしくは中小規模の耕畜複合経営で行われることが取り組みのスタートになるものと考える。まさに長岡商店の事例は、地域内での茎葉利用の先例に成り得るのではなかろうか。このように、茎葉利用の推進において、まずは、地域内において茎葉の収穫や運搬を畜産サイドから働きかけていく動きが出現することが期待されるところである。 上述の通り、茎葉飼料は作業面を中心に課題はあるものの、栄養価においては、既存の粗飼料と遜色がなく、繁殖経営に適しているとの結果が示されている。コスト面では、茎葉収穫機の改良が進むことで稼働率の上昇が予想されることから、低下が見込まれる。また、地元農家の茎葉への意識に対しては、鹿児島県独自の地元産飼料としての付加価値を示すことで、消費者にもPRできるものとして、理解を求めることができるなど、茎葉の飼料としての潜在的利用価値は、十分に高いものであると判断することができる。これらのことから、基幹作物の副産物である茎葉は、今後も有望かつ大きな可能性を秘めている「優良畜産資源」であると言うことができよう。 そのような視点から、この取り組みを地域の営農体系の柱とするためには、コントラクターあるいはTMRセンターといった支援組織の活用(組織化・定着)が望まれる。規模拡大が続く畜産農家やサツマイモ農家がサツマイモ茎葉の飼料化に取り組むためには、コントラクターなどの専門機関がこの作業を請け負う必要がある。それにより、作業面積が拡大し、機械の稼働率も上がることにより、コスト低減が図られる。地域農協や市町村などの関係機関が知恵を出し合い、ぜひこのような体制の確立を実現してほしい。 6 おわりに調査を進めてきた中で、「サツマイモ茎葉を資源として地域内で循環させていくことにより、地域内での連携が密になり、集落営農の存続ひいては集落機能の維持を図ることにつながるのではないか」との意見があった。今回訪問した志布志市においても、畜産農家、サツマイモ農家ともに規模拡大が進む一方、中小規模の畜産農家においては、粗飼料の自給が困難であることから離農が加速しているということであった。鹿児島県全体を見ても、繁殖雌牛および肉用子牛の頭数が減少しており、飼養頭数の維持が喫緊の課題となる中で、地域を支える畜産農家の経営維持に向けた解決策の1つとして期待される。鹿児島県の基幹作物であるサツマイモの茎葉を利用した飼料化推進に向けた種々の動向について、今後も「優良畜産資源」として継続的に注目していく必要があると実感した。 本調査報告の執筆に当たり、現地調査の際にご協力いただきました有限会社長岡商店、鹿児島県農業開発総合センターおよび鹿児島県大隅地域振興局農林水産部曽於畑地かんがい農業推進センターの皆さまをはじめ、関係機関の皆さまに改めて御礼申し上げます。 (参考文献) |
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