乳用牛の |
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畜産・飼料調査所「御影庵」主宰 |
昨年10月に「乳用牛ベストパフォーマンス実現会議」が農林水産省生産局と(一社)中央酪農会議の連携で始まり、今年3月には、「乳用牛ベストパフォーマンス実現セミナー」が開催された。 ベストパフォーマンスとは、飼養されている乳用牛の泌乳能力と繁殖能力を最大限に発揮させていくことである。 会議とセミナーでの一連の技術に関する提案が、パンフレットにまとめられ、乳牛の健康と生産性の維持向上のための普及書として、これから、関係者に届けられる。 なぜ、今、乳用牛のベストパフォーマンスの実現なのか。昨年、新聞やテレビの報道で「バターの不足」が報じられ、(独)農畜産業振興機構は平成26年度に、国際約束に基づく3千トンに加え、2回にわたって、計1万トンの追加輸入を行った。これにより、多くの都市生活者は、日頃は必ずしも縁のない酪農界に何か異変が起こっていると感じたに違いない。 酪農界では、昨年あたりから牛乳の生産量に関して、直近と今後の減衰に対する懸念が盛んに論じられてきている。 生乳の生産量は平成8年度が約866万トンであったが、平成19年度は約802万トン、平成22年度が約763万トン、平成25年度が約745万トン(前年度比▲2.1%)、そして平成26年度の4〜翌年2月期が約669万トン(前年同期比で同▲1.7%)という値である。 なぜ、生乳の生産量はこのように低下してきたのか、一つには乳牛飼養頭数の減少がある。 平成16年の乳牛飼養頭数は約169万頭であったが、平成26年には約140万頭と10年で約29万頭減少している。 その背景には酪農家戸数の減少があり、その影響が大きい。それでは、頑張って経営を維持されている酪農家の牛舎の中はどのような様子か、つぶさに乳牛を観察すると、「疾病などによる廃用・除籍(乳牛の寿命の短期化)」、「繁殖成績の悪化」、「暑熱の影響」、「粗飼料(自給と輸入)の品質の停滞」、などが牛の数と生乳生産に大きな影響を及ぼしていることが分かる。状況はよくない。 このままでは、日本の酪農の状況は次第に悪くなってしまうだろう。牛乳と乳製品の国内生産を維持するためには、今、何をなさねばならないのか。こういった危機感が、今回の会議開催の背景にあると、筆者は考えている。 平成25年度の「乳用牛群能力検定成績のまとめ」((一社)家畜改良事業団)で、都府県の酪農における除籍(廃用)時年齢を見ると、表のようになる。
また、平均の除籍産次は3.28産、平均除籍月齢は70.3カ月(5.9歳)である。 昔は7産、8産という牛は多くいた。確実に寿命が短くなり、その結果、乳牛の生涯生産性が低下している。除籍の理由には、乳房炎などの乳器障害、繁殖障害、肢蹄の故障、消化器病、起立不能、低能力、死亡などが挙げられる。 繁殖の成績はどうであろうか。昔から、「酪農は繁殖さえ良ければもうかる。」と言われてきた。乳牛の分娩間隔は「1年1産」で、この繰り返しで、6、7、8産と長命連産が達せられるのが理想である。 しかし、平成25年度の全国の分娩間隔の平均値は437日(14.6カ月)で理想からは遠く、昔と較べて長期化している、ちなみに、昭和60年が402日(13.4カ月)、平成6年が407日(13.6カ月)である。分娩間隔の長期化は搾乳牛予備軍の数を減少させ、規模拡大を図ろうとしても、そのテンポを鈍くさせてしまう。繁殖成績悪化の理由には、何があるのだろうか。 米国でも、分娩間隔の長期化には悩んでいるらしい。米国の酪農雑誌を見ると、「乳量の水準」と「受胎率」の関係についての研究報告が多く見られる。 分娩後、しばらくの間の高乳量(1日45〜50kgというような)が続く間における摂取エネルギーと牛乳への排出エネルギーのギャップ、一般的には負のエネルギーバランスと言われているが、これが繁殖成績に悪影響を及ぼすというものである。この期間の飼養管理をどのようにするか、これも、今回の会議では種々の観点から議論が交わされた。 現在、作成が開始されている、「ベストパフォーマンスの実現のためのパンフレット」では、重要な実践課題として以下の7つの点検・改善のポイントが挙げられている。 (1) 優良な後継牛を確保する 地域の中で酪農家の皆さんを取り囲むような形の連携(酪農クラスターなど)の中で、このパンフレットが「技術指針」として酪農経営の中に取り込まれて乳牛の健康と生産性の維持のために有効利用され、酪農家の経営の向上と国内への牛乳供給量の維持・向上が図られることを祈念している。
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