海外情報  畜産の情報 2015年5月号


豪州の農畜産物需給見通し
〜2015年豪州農業需給観測会議から〜

調査情報部 根本 悠 
畜産需給部 需給業務課 山口 真功


【要約】

 豪州農業資源経済科学局(ABARES)による農畜産物の需給見通しの概要は以下のとおり。

牛肉:2015/16年度の牛肉生産量は、干ばつ後の牛群の再構築により減少するものの、
    2019/20年度にかけては緩やかに増加する見通し。2015/16年度の牛肉輸出量は、
    生産量の減少に伴い減少するものの、2019/20年度にかけては米国、韓国、中国や
    アジア諸国からの堅調な需要が続くことから増加する見通し。

乳製品:2015/16年度から2019/20年度にかけて、生乳生産量は、1頭当たり乳量の
     増加傾向を受けて、乳製品輸出額は、中国や東南アジアからの堅調な需要を
     受けて、ともに増加する見通し。

穀物:2015/16年度以降、2019/20年度にかけて小麦および大麦の生産量は作付面積の
    緩やかな増加傾向に伴いおおむね増加する見通し。2015/16年度から2019/20年度に
    かけて、小麦および粗粒穀物(大麦など)の輸出量はアジア諸国からの需要を受けて、
    増加する見通し。

1 はじめに

 2015年3月3日および4日の2日間、豪州の首都キャンベラで、豪州農業資源経済科学局(ABARES)による2015年豪州農業需給観測会議(以下「アウトルック」という。)が開催された。本稿では、アウトルックで発表された豪州の牛肉、乳製品および穀物の短中期の需給見通しについて報告する。

 なお、本稿中の「短期的」とは2015/16年度まで、「中期的」とは2019/20年度までの期間となる。また、特に断りのない限り、豪州の年度は7月〜翌6月であり、為替レートは、1豪ドル=94円(2015年3月末日TTS相場94.06円)を使用した。さらに、ABARESの見通しは、あくまで通常の気象条件を前提としたものである。

注:本稿における州名などの略称は以下のとおり。
   クイーンズランド州:QLD州
   ニューサウスウェールズ州:NSW州
   ビクトリア州:VIC州
   タスマニア州:TAS州
   南オーストラリア州:SA州
   西オーストラリア州:WA州
   北部準州:NT
   首都特別地域:ACT

ABARES農業需給観測会議(アウトルック)とは

 豪州農業資源経済科学局(ABARES)は、豪州農務省(Department of Agriculture)傘下の調査機関であり、農畜産物の需給見通しや生産者の経営動向、関連政策の動向などさまざまな情報を収集、分析し、HPなどで公表している。中でも、毎年3月に行われる豪州農業需給観測会議(アウトルック)と、そこで発表される需給見通しについては、国内外の農畜産業関係者の関心も高く、農業団体や農業関連企業はもちろん、大学などの教育・研究機関や海外の金融機関などが参加するものとなっている。

 また、アウトルックでは、本稿に取り上げた全般的な農畜産物の需給見通しのほか、その時々で関心の高い話題についても講演が行われる。今回のアウトルックで印象的な話題の一つは中国の動向である。講演のテーマが代わるごとにその分野における中国への輸出や投資拡大の可能性、あるいは中国資本の豪州への進出の可能性などが取り上げられた。

アウトルックの会場(ジョイス豪州農相)

2 牛肉需給見通し

(1)肉用牛飼養頭数
〜干ばつの影響や堅調な生体牛輸出により、減少続く〜

 2015年6月末時点の肉用牛飼養頭数は、2700万頭(前年比5.3%減)と前年に比べて約50万頭の減少が見込まれる(図1)。これは、干ばつに伴う雌牛のと畜頭数の増加や、堅調な生体牛輸出を要因としている。

 2016年の飼養頭数は、出生率の回復が見込まれるものの、生体牛輸出の増加がそれを上回ることから、2650万頭(同1.8%減)と減少が続くとしている。しかしながら、2017年以降は増加に転じ、2020年には約2720万頭までの回復を見込んでいる。

図1 肉用牛飼養頭数の見通し
資料:ABARES
注1:各年6月末時点
  2:2014年は推計値、2015年以降は予測値。

(2)牛肉生産
〜牛群再構築により、中期的には回復へ〜

 2014/15年度のと畜頭数は947万5000頭(前年度並み)と、2年連続で高水準での推移が見込まれる。これは、北部を中心に干ばつが続いていることや肉用牛価格の上昇を要因としている。牛肉生産量は、と畜頭数の推移とある程度連動するとみられ、前年度をわずかに上回る247万3000トン(同0.4%増)の見込みである(図2)。

 一方、2015/16年度のと畜頭数は、890万頭(同6.1%減)と減少に転じるとしている。これは、天候の回復により、繁殖雌牛のと畜が減少し、牛群再構築へ向けた動きがみられることによる。また、牛肉生産量は235万8500トン(同4.6%減)と、干ばつが解消し、枝肉重量が増加するため、と畜頭数よりも減少幅は小さくなるとみられる。

 2016/17年度まで牛群再構築が行われることから、と畜頭数の減少傾向は継続するが、2017/18年度以降は、と畜頭数は増加に転じ、2019/20年度にはと畜頭数が900万頭、牛肉生産量が239万4000トンまで回復すると見込んでいる。

図2 と畜頭数と牛肉生産量の見通し
資料:ABARES
  注:2014/15年度以降は予測値。

(3) 牛肉輸出
〜豪ドル安や関税引き下げにより、海外からの需要は堅調に推移〜

 2014/15年度の牛肉輸出量は、豪ドル安や日本および韓国の関税引き下げにより、海外からの堅調な需要が続くことから、120万トン(前年度比3.3%増)を超える見通しとなっている(図3)。国別で見ると、米国が最大の輸出先となり、全輸出量の約34%を占めるとしている(図4)。

 しかしながら、2015/16年度は、牛肉生産量の減少に伴い、輸出量は前年度から5.3%減としており、2016/17年度も減少傾向が続くとみられる。ただ、海外市場からの堅調な需要は続くことから、輸出単価は上昇見通しとなっている。2017/18年度以降については、輸出量の増加および輸出単価の上昇を見込んでいる。

図3 牛肉輸出量および輸出単価の見通し
資料:ABARES
注1:船積重量ベース
  2:2014/15年度以降は予測値。
  3:輸出単価の2015/16年度以降は実質ベース(2014/15年度の
    為替ベース)。
図4 主要輸出先別輸出量の見通し
資料:ABARES
  注:船積重量ベース

(1) 日本向け

 日本の牛肉市場では、2013年2月の輸入月齢制限の緩和以降、米国産牛肉の輸入量が増加する一方で、豪州産は減少した。しかしながら、2014/15年度は、日豪経済連携協定(EPA)に伴う関税引き下げにより、30万トン(前年度比7.1%増)までの増加が見込まれている。さらに、米国産牛肉に比べて豪州産牛肉の単価が安いことから、2015/16年度には32万トン(同6.7%増)、2016/17年度には33万5000トン(同4.7%増)と、増加傾向は継続の見通しである。2017/18年度から2019/20年度については、日本は低い経済成長が予想されており、総輸入量はほとんど増加しないとみられている。米国の牛群再構築が進むにつれて、米国産牛肉のシェアが徐々に増加する一方で、豪州産牛肉は高級部位を中心に減少すると見込まれている。

(2) 米国向け

 2014/15年度の米国向け輸出量は、42万トン(同57.9%増)と見込んでいる。これは、米国での牛群再構築の動きから、繁殖雌牛を中心に牛肉生産量が減少し、小売価格が記録的な高水準となっていることを要因としている。2015/16年度は、豪州産加工用牛肉への堅調な需要は維持されるものの、豪州の生産量が減少することから、輸出量は38万トン(同9.5%減)と減少に転じるとされている。2017/18年度以降は、堅調な需要が続くことから、増加に転じるとしている。一方、輸出単価は、日本や韓国よりも高く、2014年12月には、1キログラム当たり7.47豪ドル(703円)と、前年同月を30%以上上回る記録的な高水準となった。

(3) 韓国向け

 2014/15年度の韓国向け輸出量は、ほぼ前年度並みの15万5000トン(同0.4%減)と見込んでいる。これは、2014年7月〜翌1月の累計の輸出量が前年同期比8%減となったものの、国内生産量の増加や韓豪FTAに伴う関税引き下げによって、2015年2月以降の輸出量を増加見通しとしているためである。

 2015/16年度は、15万8000トン(同1.9%増)と増加見通しである。これは、韓国国内で、収益性の悪化により、肉用牛生産者の離農が進むことから、国内生産量の減少が継続し、豪州産牛肉への需要が堅調に推移するためである。韓国市場は他国と比べて収益性が高く、豪州の輸出業者にとって魅力的な市場となっており、中期的にも豪州からの輸出は増加が見込まれており、2019/20年度には17万5000トン(同2.3%増)に達する見通しとなっている。

(4) 中国向け

 2014/15年度の中国向け輸出量は、南米諸国との輸出競合により、12万トン(同25%減)と大幅な減少が見込まれている。さらに、中国政府は、2014年11月にブラジルからの牛肉輸入制限の解除に合意しており、ブラジルからの輸入が開始されれば、中国市場における豪州産牛肉と南米産牛肉との競合は、より激化するとみられる。一方、中豪FTAが締結されれば、豪州産牛肉の競争力はある程度維持されるとしている。また、中国の牛肉輸入量は、堅調な経済成長により、増加見通しとなっており、今後も、豪州にとって中国は重要な輸出市場になる。

QLD州のフィードロットの現状および見通し

 3月上旬に、主要肉用牛生産州であるQLD州南部ダーリングダウン地域に位置するフィードロットを訪れた。

 同地域は、フィードロット経営の中心地域であるが、ここ2年ほど厳しい干ばつ状態が続いていた。しかしながら、訪問時は、今まで干ばつが続いていたとは思えないほど、同地域の牧草の生育状態は良好であった。

 豪州のフィードロットの飼養頭数は、近年の厳しい干ばつにより、牧草肥育農家からの肥育もと牛需要が減少したことなどから、記録的な高水準となっており、同フィードロットも同様の状況にあった。同フィードロットによれば、今後は気象条件の回復が見込まれていることから、牧草肥育農家からのもと牛需要の回復が予想され、同フィードロットも含め、全国的にフィードロットの飼養頭数は減少するとみられている。

 それでも平年に比べれば高水準を維持するとのことであり、こうした見方は、アウトルックや牛肉産業全般に見られる見方と同様と感じられた。

 同フィードロットの主な輸出先は、日本を中心に、韓国、中国、香港、東南アジア、中東などであり、各社差異はあるものの、他のフィードロットもおおむね同様の傾向にある。同フィードロットによると、中国は需要の拡大が期待される魅力的な市場であるが、商習慣の違いなど課題も多いとしている。その一方、今後も日本は重要な輸出先と見ているとのことである。また、東南アジアについても、現在は低価格の品種・部位や生体牛の輸出が中心であるが、今後は所得水準の向上に伴い、高価格の品種・部位の市場拡大が期待できるとしている。

 アウトルックでは最大の話題は中国であったものの、肉用牛生産の現場では、中国一辺倒ではなく、安定的な輸出先である日本や、需要拡大が見込める東南アジア市場を重要視する見方もある。

フィードロットの様子

(4)生体牛輸出
〜東南アジアからの堅調な需要が続く見通し〜

 2014/15年度の生体牛の輸出頭数は、100万頭(前年度比0.4%増)と、2年連続で高水準での推移が続くと見込んでいる(図5)。これは、インドネシアやベトナムを中心とした東南アジアからの堅調な需要によるものである。

 2015/16年度は、直近2年間、と畜頭数および生体牛輸出頭数が高水準で推移したことから、輸出適期の牛が少なくなり、減少に転じる見通しとなっている。

 中期的には、インドネシアは、国内消費に国内の牛肉生産が追いつかず輸入に頼らざるを得ないこと、また、急速に経済成長しているベトナムやマレーシアなどからの堅調な需要が続くことから、2019/20年度には100万頭(同2.6%増)まで回復すると見込んでいる。

図5 生体牛輸出頭数の見通し
資料:ABARES
  注:2014/15年度以降は予測値。

(5) 肉用牛価格
〜牛群再構築や海外からの堅調な需要に伴い、上昇する見込み〜

 2014/15年度の家畜市場の肉用牛平均取引価格(加重平均、枝肉重量ベース)は、1キログラム当たり349豪セント(前年度比19%高、328円)と、大幅な上昇を見込んでいる(図6)。干ばつによってと畜頭数が増加しているものの、豪ドル安や海外からの堅調な需要が、価格上昇に大きく影響したものとみられる。さらに、2014年12月から2015年1月にかけては、広範囲の肉牛主産地で降雨があったことから、肥育もと牛への需要が高まり、価格が上昇した。

 2015/16年度以降は、天候の回復に伴う牛群再構築による肥育もと牛への需要の高まり、豪ドル安や、日本や韓国とのEPAやFTAに伴う関税の引き下げによって堅調な輸出が継続するとみられることから、取引価格は高止まる見通しとなっている。しかしながら、2019/20年度には、牛群が十分に確保され、と畜頭数が増加することから取引価格は下落に転じるとしている。

図6 家畜市場における肉用牛平均取引価格の見通し
資料:ABARES
注1:枝肉重量ベース
  2:2014/15年度以降は予測値。
  3:2015/16年度以降は実質ベース(2014/15年度の為替ベース)。
  4:5カ年平均は2009/10〜2013/14年度の平均。
豪州の気象動向と今後の見通し

 豪州の農畜産物の需給見通しを語る上で欠かせない要素が気象条件である。さまざまな農業技術が進歩した現在でも、いまだに需給を左右する最大の決定要因は気象条件であるといっても過言ではない。今回のアウトルックでも、豪州気象局(BOM)のデータを基に、気象条件に関する現状と見通しが報告された。

 まず、2014年11月から2015年1月までの降雨量の平年比を見ると、畜産の主要地域(以下「主要生産地域」という。)では、おおむね平年並みか平年を上回る降雨量となっている(図7)。このため、ABARESは、畜産農家は若齢牛や牛群再構築のための繁殖雌牛の確保に積極的になっているとしている。

 今後の見通しについては、2015年2〜4月の降雨量予測によると、主要生産地域において平年を上回る降雨量となる確率は35〜45%となっている(図8)。このため、同時期の降雨量の不足が、牛群の再構築に与える影響が懸念されている。なお、アウトルック時点では公表されていないが、BOMの直近2015年4月〜7月の降雨量予測によると、主要生産地域において平年を上回る降雨量となる確率は45〜75%となっており、短期的には気象条件は回復する見込みである。

図7 降雨量の状況(2014年11月〜2015年1月)
図8 降雨量の見通し(2015年2〜4月)

3 乳製品需給見通し

(1)生乳生産
〜緩やかな増加傾向により2018/19年度には1000万キロリットルに〜

 2015/16年度の生乳生産量は、959万キロリットル(前年度比2.0%増)と見込んでいる。これは主に経産牛1頭当たり乳量の増加によるものであり、経産牛の飼養頭数はほぼ横ばいとなる。また、州別に見ると、VIC州やTAS州など輸出仕向けが中心の南部の州が生産量の増加をけん引するとしており、その一方で、国内の飲用向けが中心のQLD州やSA州はほぼ横ばいとしている。

 さらに、2018/19年度には、生乳生産量は1000万キロリットルに達するとみている。これは引き続き、牛群の遺伝的改良や牧草管理、農場における技術の進歩などに起因する経産牛1頭当たり乳量の増加によりもたらされることによる。一方、経産牛飼養頭数については、乳製品国際価格の上昇に合わせて、2016/17年度まで緩やかに増加するものの、乳製品国際価格が下落に転じると予想される2017/18年度以降は、緩やかな減少を見込んでいる(図9、10)。

図9 乳用経産牛飼養頭数の見通し
資料:ABARES
注1:各年度6月末日現在
  2:2014/15年度以降は予測値。
図10 生乳生産量および1頭当たり乳量の見通し
資料:ABARES
  注:2014/15年度以降は予測値。

(2)乳製品輸出
〜中国、東南アジア向けを中心に増加傾向〜

(1) 全体概要

 2015/16年度の乳製品の輸出額は、24億豪ドル(2257億円、前年度比8.4%増)と見込んでいる。これは、為替相場における豪ドルの下落や乳製品国際価格の上昇、また、チーズや脱脂粉乳などの輸出量増加によるものとしている。その後、2017/18年度には25億豪ドルに達した後、乳製品国際価格の下落に伴い、緩やかな減少を見込んでいる。

 また、品目別に見ると、最大の輸出品目であるチーズに加え、脱脂粉乳の輸出が増加見通しとしている。これは主に中国や東南アジアからの需要を見込んだものであり、2017/18年度には、脱脂粉乳が最大の輸出品目になるとしている(図11)。

図11 乳製品輸出量の見通し
資料:ABARES
  注:2014/15年度以降は予測値。

(2) 中国向け

 2015年の中国の輸入乳製品に対する需要は、国内生産の増加見込みと高水準の在庫を反映して、低調な推移が続くとしている。一方、中期的には、都市化や家計所得の増加、人口の増加といった経済的要因や、資本や技術が不十分な小規模酪農家が多いという中国の酪農の産業構造を背景に、乳製品の輸入は増加見込みとしている。

 豪州は、2014年11月に合意した中豪FTAの効果に期待している。同FTAが発効すれば、豪州産乳製品に対する中国の関税は4〜11年かけて撤廃されるため、中国市場における豪州の競争力の強化が期待される。しかしながら、当面、豪州産乳製品に係る関税は、2008年にすでにFTAが発効しているニュージーランド(NZ)産に比べ高く、これが輸出拡大の一つの制約とみている。

(3) 東南アジア向け

 粉乳の主要輸出先である東南アジアの2015年の粉乳の輸入需要は、低水準の乳製品国際価格を背景に増加すると見込んでいる。その後も、気象条件に起因する生産への制約や、都市化に伴う個人消費の増加から、粉乳需要の増加継続を見込んでいる。その一方、豪州はこれまでの競合国であるNZに加え、米国やEUとの競合にさらされるとしている。

(4) 日本向け

 日本は、中国に次ぐ第二の乳製品輸出先であり、チーズに関しては圧倒的なシェアを占める最大の輸出先である。ABARESによると、2015年の日本のチーズ輸入量は、低水準の乳製品国際価格と国内の強い需要を背景に、前年をわずかに上回るとしている。また、今後も、日本はチーズの大きな市場であり、豪州にとって重要な輸出国の位置を維持すると見込んでいる。

酪農現場の現状および見通し

 3月上旬に主要酪農州VIC州西部の酪農家を訪れた。

 VIC州の他の地域の生乳生産は、良好な気象条件から増加傾向にある一方、VIC州西部においては、乾燥気候の影響から減少傾向となっている。しかしながら、訪問時の同地域の牧草の生育状態は良好であり、生乳生産に深刻な影響を与えるほどのものとは感じられなかった。同酪農家によると、豪州の生乳生産は、良好な気象条件からおおむね楽観的な見通しということである。また、VIC州西部についても、乾燥気候の影響は比較的軽微であり、楽観的な見通しを示している。

 さらに、同酪農家は、こうした見通しは気象条件だけでなく、乳価の上昇も一因としている。2013/14年度の乳価は記録的な高水準となり、2014/15年度においても、前年度に比べ下落したものの、平年と比べると高水準となっている。こうした乳価の上昇を踏まえ、酪農家の生産体系も変化しており、同酪農家は伝統的な放牧(牧草給与)に加え、牧草サイレージ、ソルガム、飼料カブなども給与している。

 これらの生乳生産の楽観的な見通しと生産体系の変化という見方は、アウトルックにおける見方と同様と感じられた。

酪農場の様子

(3)乳製品国際価格および乳価
〜短期的に上昇した後、緩やかに下落〜

 2015/16年度の乳製品国際価格は、中国の需要の緩やかな回復や、東南アジア、中東・北アフリカの需要増加により上昇を見込んでいる。その後も、これらの地域の所得増加や食習慣の変化、人口の増加により、乳製品の需要は増加が見込まれるものの、世界の生乳生産量の増加はこれらの需要を上回るペースで進むとみられ、2017/18年度以降、乳製品国際価格は下落見通しとなっている(図12)。

 一方、豪州の乳価は、おおむね乳製品国際価格と連動した推移を予測している。2015/16年度の乳価は、1リットル当たり46.0豪セント(43円、前年度比4.5%高)と、乳製品国際価格の上昇と外国為替相場における豪ドル安を背景に上昇を見込んでいる。その後は、緩やかに上昇した後、乳製品国際価格が下落に転じると予想される2017/18年度以降は、緩やかな下落を見込んでいる。

図12 乳製品国際価格および乳価の見通し
資料:ABARES
注1:2014/15年度以降は予測値。
  2:2015/16年度以降は実質ベース(2014/15年度の為替ベース)。
日本、韓国、中国とのFTAと今後の見通し

 2013年以降、豪州は韓国、日本、中国と相次いでFTAに合意しており、今回のアウトルックにおいてもこれらの影響が織り込まれている(表)。

 なお、本稿では、自由貿易に関する協定について総括的に言及する際は、EPAも含め単にFTAと称する。

表 FTAの概要
資料:ABARES、農林水産省

(1) 日豪EPA

 日豪EPAにおいて、豪州が最も関心の高い分野は牛肉である。ここ10年ほどおおむね減少傾向であった豪州産牛肉の日本への輸出量は、関税引き下げと外国為替相場の変動、さらに米国の供給力不足から、増加に転じ、2019/20年度には33万トン(2014/15年度比10.0%増)に達すると見込まれている。

 一方、乳製品については、より具体的な関税率の削減などの合意はないため、豪州側としては、あまり「果実の多くない」合意とみられている。アウトルックにおいても、乳製品の需給見通しに関し、日豪EPAへの言及はほぼ皆無である。ただし、日本は豪州にとって今後も変わらず重要かつ安定的なチーズの輸出先であるという見方をしている。

(2) 韓豪FTA

 韓豪FTAについては、2014年7月時の予測で詳細な見通しを紹介している。

 まず、牛肉については、FTA発効により2029年の韓国向け輸出額は2012年比で59%増としている。しかしながら、韓国の牛肉輸入市場に占めるシェアについては、FTA発効後も、先にFTAを締結している米国に比べ相対的に競争力が弱いため、2029年には2012年比で減少と見込んでいる。

 次に、乳製品のうちチーズについて分析しており、これによると、韓国向け輸出額は、FTA発効により、2034年には2012年の約4倍まで増加としている。また、韓国の輸入チーズ市場に占める豪州産のシェアについて、チェダーチーズを例に分析しており、FTA発効により、約半分の47%のシェアを確保するとしている。

(3) 中豪FTA

 東アジア3カ国とのFTAのうち、豪州が最も期待しているのは、中豪FTAである。

 牛肉については、2019/20年度の中国向け輸出量は14万5000トン(2014/15年度比20.8%増)と見込んでいる。大幅な増加である一方、中国の需要やFTAの発効を踏まえるとそれほど劇的な増加ではないという見方もできる。これは、豪州はすでに中国にとって最大の輸入先であるため拡大余地が限られているうえ、ウルグアイやNZなど他の輸出国との競合が予想されることなどが背景にある。

 一方、乳製品については、中国市場において圧倒的なシェアを持つNZとの競合が豪州側の懸念事項となっている。先んじて中国とFTAを結んでいるNZは、短中期的には豪州に比べ関税率が低く、豪州は相対的には不利な立場であるためである。それでも、将来的には中国の需要は粉乳に加え、チーズや飲用乳も増加すると見ており、NZからの輸入が主に全粉乳である中、他の乳製品を中心に輸出拡大を期待している。

4 穀物需給見通し

(1)生産
〜小麦、大麦ともに中期的に緩やかに増加〜

 2015/16年度の小麦の生産量は、2439万トン(前年度比3.3%増)と見込んでいる。これは、大麦よりも収益が見込めるため、作付面積が増加するとともに、単収も、東部の州を中心に増加するという見通しによるものである。一方、対照的に2015/16年度の大麦の生産量は749万トン(同5.8%減)としている。2019/20年度にかけては、小麦、大麦の生産量は、作付面積の緩やかな増加傾向に伴い、ともに毎年1%程度増加を見込んでいる(図13、14)。

図13 小麦の生産量などの見通し
資料:ABARES
  注:2014/15年度以降は予測値。
図14 大麦の生産量などの見通し
資料:ABARES
  注:2014/15年度以降は予測値。

(2)輸出
〜小麦が、中期的に増加傾向〜

 2015/16年度の小麦の輸出量は、1794万トン(前年度比5.9%増)と生産量の増加に伴い増加を見込んでいる。また、輸出額で見ると、61億豪ドル(5738億円、同11.8%増)と為替相場において豪ドルが下落した分、より増加率は大きくなっている。

 一方、2015/16年度の大麦の輸出量は、570万トン(同7%減)と見込んでいる。これは、国内生産量の減少見通しに加え、最大の輸出先である中国市場において、豪州産飼料用大麦の需要が、米国産のDDGS(穀物蒸留粕)との競合から減少するという見込みが背景にある。

 その後も、小麦の輸出量は毎年1%を上回る増加率で推移し、2019/20年度には1899万トンに達すると見込んでいる。輸出先別に見ると、中東・北アフリカ向けは黒海地域の輸出国との競合にさらされる懸念を示しているものの、アジア向けは増加が期待できるとしている。一方、大麦の輸出量は、特に飼料用大麦について、小麦と同様に黒海地域の輸出国との競合が増すと予想している(図15)。

図15 小麦および粗粒穀物(大麦など)の輸出見通し
資料:ABARES
  注:2014/15年度以降は予測値。

(3)国際価格
〜小麦、大麦ともに短期的に上昇した後、緩やかに下落〜

 2015/16年度の小麦の国際価格は、国際的な供給量の増加見込みに伴い、1トン当たり265米ドル(3万2065円:1米ドル=121円、前年度比1.9%安)に下落するとみる一方、2015/16年度の大麦の国際価格は、同226米ドル(2万7346円、同8.4%高)と上昇を見込んでいる。

 2019/20年度にかけては、小麦の国際価格は同235米ドル(2万8435円)まで下落を見込んでいる。世界的に小麦の生産量と消費量の増加率はほぼ同程度、期末在庫もあまり変化しないと見込まれる中、国際価格の下落は、生産性の向上と比較的生産コストの低い黒海地域からの輸出増加を反映したものとしている。一方、大麦の国際価格は、2016/17年度まで飼料用を中心に需要が増加するため上昇した後、2017/18年度以降は、生産量の拡大に伴い下落に転じるとみている(図16)。

図16 小麦および大麦の国際価格の見通し
資料:ABARES
注1:大麦は2009/10年度以前はデータなし。
  2:2014/15年度以降は予測値。
  3:2015/16年度以降は実質ベース(2014/15年度の為替ベース)。

5 おわりに

 豪州では、ここ2年の干ばつにより牛の飼養頭数は減少し、牛肉生産量は記録的な高水準となった。そのため、2014/15年度以降、牛肉生産量は減少するものの、2017/18年度以降、再び回復に転ずるとしている。一方、生乳生産量は、一貫して緩やかに増加する見通しとなっている。もちろん生産量の見通しは気象条件次第ではあるが、ABARESは、生産量の回復や増加に加え輸出市場の動向についても楽観的な見通しを示している。こうした見通しの背景には、アジア諸国の経済成長と日本、韓国および中国とのFTAがあり、今回のアウトルックでもこれらの市場アクセス拡大の可能性への強い期待が感じられた。

 豪州では、近年の経済を支えた資源ブームが終わりを迎えたと言われる中、新興国の経済成長と人口増加を踏まえ、今回のアウトルックは、改めて豪州経済の中で農畜産業が果たす役割の重要性が認識される場であった。


 
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