調査・報告 専門調査  畜産の情報 2015年11月号


食品循環資源の共同調達による飼料コスト削減
〜「しげんさいせいネット」の取り組みを事例として〜

三重大学 人文学部 法律経済学科 教授 森 久綱



【要約】

 食品循環資源の飼料利用には、排出事業者の規模や経済的要因に起因する取引ロットの制約のほか、年次・季節変動への対応のための保管設備などの整備、安全性の確保など個々の中小酪農・畜産経営では対応が不可能な規模の制約が存在している。食品循環資源の飼料利用を促進するためには、物流コスト・時間などによって規定される「地域」内でいかに交錯的な物流を排除しながら多様な食品循環資源を活用するかが今後の鍵であり、個々の酪農・畜産経営では経済的・物理的要因から克服不可能な制約については、共同化によって克服することが求められよう。

1 はじめに

 本稿では、東海三県(愛知県、岐阜県、三重県)に立地する養豚経営、食品製造・流通事業者らによって設立された「一般社団法人循環資源再生利用ネットワーク(以下「しげんさいせいネット」という)」を事例として、食品循環資源(注1)の飼料利用における共同調達組織の機能について紹介するとともに、しげんさいせいネットの取り組みにおいて、なお克服が困難となっている問題についても整理することで、中小規模の酪農・畜産経営を対象とした食品循環資源の需給接合・調整システムのあり方を読者とともに考えたい。

(注1)食品廃棄物のうち飼料・肥料などへの原材料となるなど有用なもの

 食品循環資源は安価な飼料として位置づけられ、わが国の酪農・畜産黎明(れいめい)期より活用されてきた。しかしながら、1960年代以降は配合飼料を中心とした輸入濃厚飼料に置き換えられ、食品循環資源の割合は漸減していった。配合飼料を中心とした輸入濃厚飼料多給型のいわゆる「加工型」酪農・畜産は、酪農・畜産物の生産性および品質向上に大きく寄与したが、それ故に負の側面も大きくなっている。1973年の畜産危機、さらに2006年秋以降の飼料価格の高騰が、わが国の酪農・畜産経営に及ぼした影響については、ここで説明するまでもないだろう。

 一方、2013年度における食品製造副産物を含む食品廃棄物量は1900万トンに達し、飼料として輸入される穀物1400万トンを大幅に上回っている。食料の量的・価格的安定供給のみならず、食料輸入・廃棄にともなう環境負荷を鑑みれば、こうした事態を看過することはできない。食品循環資源を飼料として利用することは、酪農・畜産経営における飼料コスト削減のみならず、食品製造・流通に起因する環境負荷を低減することが期待できる。

 「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(以下「食品リサイクル法」という)」が2001年に施行され、2005年の法改正では飼料利用が最優先されるとされた。そのほか、廃棄物関連の法律・制度についても見直しが行われるなど、食品循環資源の飼料利用が政策・制度面から促進されている。これら諸政策・制度および飼料価格高騰への対応として、食品循環資源を飼料として利用する酪農・畜産経営は増加傾向にある。ただし、一般社団法人中央酪農会議が実施した「酪農全国基礎調査」の調査結果(2010年)から、その中心は大規模経営であり、中小規模の経営では規模の制約から、食品循環資源の調達が困難な状況となっていることのほか、供給量が豊富で通年供給される特定の食品循環資源に需要が集中していることが明らかとなっている。

 わが国の酪農・畜産経営を取り巻く環境を鑑みれば、飼料コスト削減は酪農・畜産経営において喫緊の課題であり、飼養規模に制約されず、多様な食品循環資源を飼料として活用できる環境整備が求められているといえよう。現在、食品循環資源の飼料利用促進を目的に、排出事業者(または処理事業者)と排出される食品循環資源についての情報提供のほか、エコフィードの認証制度などが整備されている。しかし、基本的には酪農・畜産経営の自主的な対応に委ねられていることから、飼養規模に起因する制約などについては、十分な配慮がなされていないと考えられる。本稿において、食品循環資源の共同調達組織の機能と克服すべき課題について読者と考える理由はここにある。

2 近年における飼料価格の動向と酪農・畜産経営の状況

 事例調査結果に触れる前に、ここで近年における飼料価格の動向と酪農・畜産経営の状況について、統計に基づきながら若干ではあるが確認しておきたい。図1は2006年第4四半期から2014年第1四半期までの全畜種平均配合飼料価格である。2006年第4四半期からのわずか2年間で全畜種平均配合飼料価格(基金補てん前)は、1トン当たり4万4300円から6万5400円、率にして52.6%も上昇している。配合飼料価格安定基金により補てん金が支払われるため、酪農・畜産経営の負担額はこれより低位ではあるが、2008年第2四半期には6万円を超える水準となっている。2010年に一時的な下落を示したものの、再び上昇に転じ、酪農・畜産経営の負担額は過去最高を更新している。

 配合飼料価格の上昇は、当然ながら、酪農・畜産経営に甚大な影響を及ぼしている。若干古いデータではあるが、表1に基づきながら、2005年から2007年の酪農・畜産経営における経営指標について確認しておきたい。

 畜種によって若干の違いはあるものの、生産費に占める飼料費の割合(C/B)は、おおむね3ポイント増加している。長期にわたる景気低迷により、生産費の上昇を生産物価格に転嫁することが困難であったことから、売上総利益に対する経常利益率は著しく低下している。とりわけ採卵鶏経営における低下が顕著であるが、全畜種において最も経常利益率の高い養豚経営においても4.2ポイント下落しており看過できる状況ではない。

 配合飼料価格の急激な上昇は、配合飼料価格安定制度の存続すら脅かす状況となっている。2006年以降の配合飼料価格高騰に伴い、価格安定基金からの補てん金の支払額が増加したことから、2008年第1四半期末には基金枯渇に直面した。銀行からの借入と政府からの資金援助により基金破綻の危機は回避されたが、こうした事態は、いわゆる「加工型」畜産の非持続性を財政面からも露呈している。

3 しげんさいせいネットによる食品循環資源の共同調達

 しげんさいせいネットは、食品循環資源の再生利用を目的に、食品製造事業者、廃棄物処理事業者、消費者団体および養豚経営によって2003年に設立された。食品循環資源の飼料利用のほか、コンポスト(注2)利用やエネルギー利用などにも取り組んでおり、事務局は名古屋市内に置かれている。しげんさいせいネットは78会員で構成されているが、食品循環資源を飼料として活用する畜産経営は4会員(すべて養豚経営(注3))にとどまっており、多くは食品製造事業者と廃棄物処理事業者となっている。

 本項では、食品循環資源の飼料利用におけるしげんさいせいネットの機能について、各会員の関係を示した図2に基づき確認していきたい。

(注2)食品廃棄物などの有機物を、微生物の働きによって発酵分解させ、堆肥にしたもの。

(注3)2015年10月現在、H農場は養豚経営から飼料製造事業に転換している。

(1)需給接合・調整のための情報交換

 しげんさいせいネット会員となっている食品製造事業者と廃棄物処理事業者は、少なくとも3日前までに食品循環資源の出荷計画(内容・量)を事務局に報告しなければならない。養豚経営も同様に需要計画を事務局に提出しなければならないが、需要量および内容に大きな変更がない場合にはこの過程は割愛されている。しげんさいせいネットの事務局(以下「事務局」という)はそれらの計画に基づき出荷先を決定し、それぞれに対して調整結果を連絡している。図3は事務局から調整結果を養豚経営に連絡するためのフォームである。フォームには食品製造事業者および廃棄物処理事業者、スケジュール、食品循環資源の内容と量などが記載されている。

 しげんさいせいネットでは、設立以降180種類以上の食品循環資源が取り扱われているが、そのうち60種類程度が中心的な食品循環資源となっている。2014年における取扱量は1万3456トンで、2005年における取扱量のおよそ2倍となっている。

(2)供給過剰・過小における対応

 供給量が需要量を超える場合には、事務局が養豚経営および廃棄物処理事業者との調整を行う。具体的には、一部の食品循環資源については養豚経営において貯蔵され、それ以外については廃棄物処理事業者へ提供され、会員以外の酪農・畜産経営に販売またはコンポストとして処理される。

 会員養豚経営において利用経験がない食品循環資源が供給される場合には、まず食品製造事業者または廃棄物処理事業者が事務局へ情報提供を行う。これに基づき事務局は図3に示されるフォームに基づき、養豚経営に対して利用意向の問い合わせを行う。フォームには食品製造事業者名、食品廃棄物の内容、状況が示されているほか、品質規格書も添付される。各養豚経営はこれに基づき、試験的または継続的利用の可否について判断し、事務局へ回答を行う。

 また、会員養豚経営は、リキッドフィーディング(注4)を採用しており、食品循環資源と配合飼料を混合して給与している。このため、食品循環資源の供給が十分でない場合には、配合飼料の混合割合を上昇させることで対応している。

 食品循環資源の供給量は、製造する商品の需要量によって決定される。換言すれば、一般的な商品とは異なり、飼料としての食品循環資源の需要量が増減しても、食品循環資源の供給量は飼料としての需要量の増減に反応することはない。しげんさいせいネットでは、これに対応するためにこれまで以下の点について取り組みが進められてきた。1つ目は、供給量の変動を緩和するための調整機能=保管設備の担保。2つ目は、保管でも対応できない場合における代替需要(コンポスト、エネルギー利用など)の担保。3つ目は、食品循環資源と配合飼料の混合割合の変更を容易にするための知識・技術の獲得と蓄積、さらにはそれを担保するための支援システムと代替原料調達先の担保である。これらが整備されてはじめて、供給量が不安定な食品循環資源を飼料として活用することが可能となっている。

(注4)飼料に水を加えて流動状にした液状飼料を給与する飼養方法。

(3)買い入れ価格統一

 事務局は、養豚経営者における事務作業の軽減を図るため、養豚経営者に代替して食品製造事業者や廃棄物処理事業者との買い入れ価格統一の協議を行っている。食品循環資源の価格は、一般的に飼料としての栄養価と保存状況などに基づき決定されている。平均的な農家庭先価格は1トン当たり3000〜9000円となっており、栄養価ベースでは配合飼料価格の半分以下となっている。

 食品製造事業者または廃棄物処理事業者から農家庭先までの輸送に15トン車を利用した場合、概ね7万円程度であることから、1トン当たりの平均輸送コストは5000円となる。つまり、平均的な食品循環資源の農家庭先価格では、食品製造業者や廃棄物処理事業者にとって輸送コストすら十分に賄えない状況となっている。

 改正食品リサイクル法により、年間100トン以上の食品廃棄物を排出する食品製造事業者には食品廃棄物の排出量抑制またはその再生利用が義務づけられているほか、最終処分場の枯渇や環境規制の強化により廃棄物処理コストが上昇していることから、飼料原料として再生利用を図ることが事業収益の側面から選択されている。換言すれば、廃棄物として処理することが経済的に有利となる場合には、食品リサイクル法の義務のみ果たし、ほかは廃棄物として処理することを選択する可能性が残されているといえよう。中小規模酪農・畜産経営が個別に食品製造事業者から食品循環資源を調達することが困難となっている要因の一つである。食品製造事業者が中小規模酪農・畜産経営の個別需要に対応した場合、ハンドリングコストが上昇するとともに、販売残の処理も必要となるため、食品製造事業者の負担するコストが上昇してしまうのである。なお、廃棄物処理事業者においては、食品製造事業者などから処理費用を受け取っているため、需要者である畜産経営への販売が赤字となったとしても、事業全体で利益が確保される価格であれば取引は成立する。

(4)安全性の確保

 食品循環資源の飼料としての安全性担保は、需要者である養豚経営においてもっとも重視されていることである。安全性を担保するため、事務局は食品製造事業者や廃棄物処理事業者に対して、(1)連絡票(食品製造事業者名、成分・菌類等の分析、保存状況など)の提出、(2)必要に応じて冷蔵保管・輸送をすること、(3)出荷ロット毎にサンプルを採取して保管すること、を求めている。また同様に、養豚経営者に対しても(4)受け入れ段階でロット毎にサンプルを採取して保管することを求めている。養豚経営において異常が確認された場合には、それぞれのサンプルを分析して原因を追究し、当該ロットの廃棄処理と発生原因の追究が行われるようになっている。

(5)規模による制約の解消

 事務局は、養豚経営における食品循環資源調達に際しての規模の制約の解消を図るだけでなく、食品製造事業者における食品循環資源供給に際しての規模の制約の解消も図っている。すなわち、規模の制約から直接取引が経営的に負担となる中小規模食品製造事業者に対しては、会員となっている廃棄物処理事業者への処理委託を勧めている。廃棄物処理事業者は処理委託を受けた食品循環資源を回収・分別した後、ほかの食品製造事業者から回収した食品循環資源とあわせて出荷している。当然ながら、廃棄物処理事業者から事務局に対して出荷計画が提出されている。

(6)情報提供および共有機会の提供

 中小規模養豚経営を支援するため、しげんさいせいネットでは技術的・経済的情報の共有を図るための機会を提供している。とりわけ、給与する飼料に占める食品循環資源の割合の向上と、生産物の生産性・品質の向上に注力しており、各養豚経営が給与した飼料と飼養成績の関係について情報などが会員間で共有され、活用されている。

4 しげんさいせいネットが直面している3つの課題

 前項で確認したように、しげんさいせいネットでは、食品循環資源の飼料利用に際して不可欠な要素について、事務局を中心とした組織内に具備することで、食品循環資源の飼料利用を拡大させてきた。それは「規模の制約をいかに克服するか」であったと言っても過言ではない。しかしながら、食品循環資源の飼料利用拡大という成果を得ながらも、依然としていくつかの課題を抱えているのも事実である。

(1)需給調整のための大きな負担

 しげんさいせいネットが構築した食品循環資源の需給接合・調整システムのほかに、食品循環資源の飼料利用における需給接合・調整を可能にした要因を指摘しておかなければならない。しげんさいせいネットの会員企業であり、養豚経営のR農場の飼養規模がほかの3農場のおおむね3倍でありながら、表2で確認されるように、R農場が利用量の90%以上を占めており、実質的に供給過剰時のクッションとしての機能を担っているのである。

 これは、R農場がほかの3農場よりも早くリキッドフィーディングに転換したことに起因する。飼料コスト削減を目的にR農場が食品循環資源を活用したリキッドフィーディングへの転換を図った当時、近隣には食品循環資源を飼料として利用する養豚経営は皆無であり、また現在のしげんさいせいネットによって構築された需給接合・調整システムも構築されていなかったことから、食品循環資源の供給過不足に対応するための貯蔵施設を農場内に設置する必要があったのである。現在、9個の貯蔵タンクが設置され、R農場における食品循環資源に対する利用量のおおむね半月分に相当する500トン程度の容量となっている。

 R農場がこれら大規模な貯蔵施設を活用してクッションとしての機能を担うことによって、ほかの3農場は食品循環資源の過剰供給への対応が不要となっている。しかしながら、しげんさいせいネットにおける事業の安定的継続という視点からは、R農場のみがクッションとして機能することのリスクがあるといえよう。すなわち、なんらかのトラブルによってR農場がクッションとしての機能を果たせなくなった場合、しげんさいせいネットの需給接合・調整システムそのものが機能しなくなる可能性があるのである。

(2)需要不足

 図4に示されるように、2014年における4農場全体の食品循環資源に対する利用量は1万3456トンで2005年と比較しておよそ2倍となっている。しかしながら、2007年以降、若干の変動を伴いながらも、この利用量はほぼ同水準で推移している。一方、農林水産省が公表している「食品循環資源の再生利用等実態調査報告」によると、食品循環資源の排出量そのものは2005年以降若干減少傾向にあるが、再生利用される食品循環資源の量は増加傾向にある。1つは、企業の社会的責任(CSR)の観点から食品製造事業者が食品循環資源の再生利用に積極的になってきたこと、2つは改正食品リサイクル法により、年間100トン以上の食品廃棄物を排出する事業者に対して再生利用が義務化されるとともに、飼料化が最優先に位置づけられたことによる。このため、しげんさいせいネットでは、飼料として再生利用可能な食品循環資源であっても、需要量の限界からコンポスト化事業者へ供給する状況となっている。

 コンポスト化も食品循環資源再生利用先の1つである。しかしながら、資源の有効利用という観点から、改正食品リサイクル法においてもカスケード利用(注5)が推奨され、コンポスト化は飼料利用よりも下位に位置づけられている。しげんさいせいネットにおいても、給与する飼料における食品循環資源の割合を増加させるほか、新規養豚経営の参加を図るなどの方法で飼料需要の拡大が不可欠となっている。

(注5)リサイクルを行った場合には、通常その度に品質の劣化が起こる。このため、無理に元の製品から同じ製品に
    リサイクルせずに、品質劣化に応じて、より品質の悪い原料でも許容できる製品に段階的にリサイクルを進めて
    いくことで効率的なリサイクルを行うことをいう。

(3)交錯する物流

 食品循環資源の再生利用では、排出事業者から需要者までの輸送距離が延びやすいことを指摘しなければならない。本稿第3項でも若干触れたが、食品製造事業者は食品循環資源販売による利益獲得を目的とはしておらず、廃棄物としての処理コスト(ハンドリングコストも含む)削減のほか、コンプライアンスやCSRなどの観点から処理先の選択を行っている。このため、食品製造事業者などの近隣に食品循環資源の需要者が存在していたとしても、その需要量が排出量に対して少ない場合や、コンプライアンスの観点から事務手続きが煩雑になる場合には、そこでの需給接合は図られず、遠隔地であってもそれらが克服される需要先の確保が優先される。図5で示されるように、これが交錯する物流を生み出すことになるとともに、物流コスト増加が食品循環資源を飼料として再生利用する上での経済的メリットを相殺することになる。しげんさいせいネットにおいてもこれは同様である。

 さらに近年では、飼料コスト削減を目的に多くの酪農・畜産経営が食品循環資源を飼料として活用している。このため、飼養成績が比較的好調かつ通年で供給されている特定の食品循環資源への需要が高まり、価格も上昇する傾向にある。

 しげんさいせいネットでは、物流コストの削減と調達する食品循環資源の多様化を図るために、数年内に新しい物流システムを構築することを計画している。図6は計画中の物流システムで、航空産業で確認される「ハブ&スポーク」システム(注6)となっている。廃棄物処理事業者の近く(または敷地内)に設置される混合・配送センターで食品循環資源を受け入れ、基本となるベースリキッドフィードに加工される。各養豚経営はベースリキッドフィードの状態で受け入れを行い、近隣から独自に調達する食品循環資源や配合飼料などを混合して経営戦略に合致した飼料を給与することになる。混合工程の一部をセンターに集約することで、季節変動や供給量といった制約のほか、混合作業の煩雑化などにより利用されてこなかった食品循環資源の利用が可能となるほか、物流のスリム化によって飼料コストの削減が見込まれている。

(注6)拠点となる場所に荷物を集中させ、各拠点に分散させる方式。当該事例では、混合・配送センターに食品循環資源を
    集中させ、中小規模酪農・畜産経営に配送する方法。

 しかし、計画後の新物流システムにおいても課題は残されることが見込まれる。図7に示されるように、食品製造事業者の立地によっては物流コストが上昇する可能性が残されるのである。しげんさいせいネットでは、三重県に立地する中規模養豚経営が参画する予定であるが、三重県南部から調達している食品循環資源の場合、愛知県に立地予定のセンターに集約されたのち、再び三重県の養豚経営に配送されることになる。現在のところしげんさいせいネットにおけるこのような重複・交錯物流はわずかではあるが、参画する畜産経営の増加や食品循環資源調達先の多様化によって、この問題が再び顕在化する可能性を内包したシステムとなっていることに留意しなければならない。

5 結論

 本稿では、中小規模の酪農・畜産経営を対象とした食品循環資源の需給接合・調整システムのあり方を展望するために、愛知県に立地するしげんさいせいネットを事例として、食品循環資源の共同調達組織の機能について整理するとともに、そこにおいてもなお克服が困難となっている問題について検討してきた。

 食品循環資源の飼料利用には、排出事業者の規模や経済的要因に起因する取引ロットの制約のほか、年次・季節変動への対応のための保管設備などの整備、安全性の確保など個々の中小酪農・畜産経営では対応が不可能な規模の制約が存在している。しげんさいせいネットでは中小養豚経営が組織的に対応することでその克服を図っている。

 しかしながら、構成する会員の地理的立地が広範囲となると、交錯・広域物流問題が再び顕在化する可能性も確認された。政府は、食品循環資源の飼料利用を促進するため、広域物流による需給接合を前提としたシステムを提唱している。また、技術的にも乾燥や発酵などの処理によって飼料としての価値と保存性の向上が図られ、広域物流が可能となりつつある。しかしながら、それは食品循環資源をいかに飼料として利用するかにのみ力点が置かれ、中小規模の酪農・畜産経営も需要者であることが看過されているのではないかと危惧される。地域に存在する中小規模の酪農・畜産経営の振興を図るための一つの手段として、安価かつ貴重な食品循環資源を位置づける必要があるのではないだろうか。

 当然ながら、地理的条件のほか、食品関連事業者や酪農・畜産経営の規模など、食品循環資源の飼料利用の条件は地域ごとに異なっている。しかしながら、少なくとも、食品循環資源の飼料利用においても、これまでの一般的な飼料と同様のスケールメリットを前提とした需給接合・調整システムでは、それほど遠くない将来に需給接合・調整の限界に達するのではないかと考えられる。地理的拡大ではなく、物流コスト・時間などによって規定される「地域」内でいかに交錯的な物流を排除しながら多様な食品循環資源を活用するかが今後の鍵であり、食品循環資源の性質に起因する制約で、個々の酪農・畜産経営では経済的・物理的要因から克服不可能な制約については、共同化によって克服することが求められよう。ここに、しげんさいせいネットの取り組みにおける成果と直面する課題からの示唆が意味を持つのである。残念ながら、世界的な人口増加と食料生産の現状から、我々の将来はそれほど明るくはない。「カネで買えない時代」が到来する前に、国内生産を維持できる仕組みの構築が急がれる。


謝辞

 本稿の執筆に際しては、一般社団法人循環資源再生利用ネットワーク:飼料化事業担当原豊司様、有限会社ロッセ農場:代表取締役栗木允男様、株式会社ワールド・クリーン:代表取締役長尾秀義様には、ご多忙のところ多大なるご協力を賜りました。ここに御礼を申し上げます。


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