調査・報告  畜産の情報 2015年11月号

食肉の消費・販売動向調査の結果(27年度下半期)
〜豚肉、鶏肉の販売、小売業者で増加の見込み〜

畜産需給部 需給業務課


【要約】

 平成27年度下半期の食肉の取扱量の動向は、小売業者では、枝肉卸売価格の高値が続くその他国産牛肉では減少するものの、その他の品目ではおおむね増加する見通しとなっている。一方、卸売業者では、国産豚肉や輸入豚肉でおおむね堅調な見通しとなっている。

 日豪EPA発効後の小売業者における豪州産牛肉の動向は、小売価格は、関税率が引き下げられたものの、現地相場高や為替の円安基調により上昇したが、取扱量は、同様に小売価格の上昇が見られた米国産牛肉に対する価格優位性などにより、増えている状況がうかがえた。

1 はじめに

 当機構では、食肉の消費・販売動向を把握するため、年に2回、小売業者(量販店および食肉専門店(以下「専門店」という))や卸売業者の協力を得て、食肉の取扱割合や販売見通しに関するアンケート調査を実施している。

 今回は、27年度下半期(10月〜翌3月)の食肉の販売見通しについて、27年8月に調査を行った。本稿では、まず次項で27年3月〜8月の消費および販売に関する情勢について、統計資料やトピックスを交えて整理し、第3項で調査結果について報告する。

2 27年3月〜8月の消費・販売に関する情勢

 家計調査報告(総務省)によると、27年3月〜8月の牛肉の動向については、購入数量の減少は続いているものの、購入金額は相場高に伴い小売価格が上昇したことなどから前年同期並みとなった(図1)。豚肉については、購入金額は牛肉と同様、相場高に伴う小売価格の上昇などにより前年同期を上回り、購入数量も牛肉に対する価格優位性などから、前年同期を上回って推移した(図2)。鶏肉については、7月以降の購入数量は前年同月を下回っており、今までの伸びが見られなくなりつつあるものの、牛肉や豚肉に対する価格優位性や健康志向の高まりなどにより、購入数量・金額共に前年同期を上回った(図3)。また、ハム・ソーセージなどの加工品については、一部メーカーにおいて製品価格の値上げや内容量を減らして価格を維持する実質値上げが行われた昨年から需要の回復が見られておらず、購入数量は依然として落ち込んでいる。なお、食肉に限らず、食料品全般で小売価格の値上げが行われたことなどから、全国1人当たりの食料品支出は、おおむね前年同期を上回って推移している。

 一方、外食産業市場動向調査(一般社団法人日本フードサービス協会)によると、27年3月〜8月の外食産業全体の売上高の動向は、6月までは前年同月を下回る月が多かったが、7月以降は前年同月を上回った(図4)。これは、「ファストフード・洋風」の売上高が大きく影響しているとみられ、一部ハンバーガーチェーンにおいて、昨年7月の輸入食材などの品質・衛生問題に伴う影響が一巡したことが背景にあると考えられる。しかしながら、「ファストフード・洋風」の客数は、8月においても前年同月を下回っていることから、依然として消費者の不信感が拭いきれていないことがうかがえる。一方、食肉が多く消費される「ファミリーレストラン・焼肉」では、客数および客単価共に前年同期を上回っており、売上高も堅調に伸びている。さらに、「ファストフード・和風」では、大手牛丼チェーンにおいて昨年行われた一部メニューの値上げ以降、客数の回復が見られていないものの、客単価が堅調だったことから、売上高は前年同期を上回って推移した。また、大手牛丼チェーンにおいては、夜に居酒屋としても利用できる店舗の拡大、うどんやとんかつなどの他の形態の出店など、牛丼主体のビジネスモデルから転換し、多角化を進める動きも見られている。

3 調査結果(重量ベース)

(1)最近の食肉の取扱割合

ア 量販店・専門店

 量販店および専門店に対し、食肉の品目別取扱割合について、27年度上半期の実績と27年度下半期の見通しを調査した(図5、図6)。

(ア)27年度上半期(実績)

 27年度上半期の実績(図5−(3)、図6−(3))を26年度上半期(図5−(1)、図6−(1))と比較すると、食肉の種類別では、豚肉が上昇し、鶏肉が低下する結果となった。特に量販店では輸入豚肉が3ポイントの上昇となっている。これは、米国の豚肉生産が豚流行性下痢(以下「PED」という)の影響から回復し、相場が低下したことなどが挙げられる。なお、牛肉は大きな変動がみられなかった。

(イ)27年度下半期(見通し)

 27年度下半期(図5−(4)、図6−(4))を、26年度下半期(図5−(2)、図6−(2))と比較すると、量販店および専門店では鶏肉から牛肉へのシフトが顕著な見通しであることがわかる。

イ 卸売業者

(ア)牛肉

 同様に、卸売業者に対しても、食肉の品目別取扱割合について調査した。牛肉取扱割合の27年度上半期の実績を、26年度上半期と比較すると、国産品は3ポイント上昇の50%、逆に輸入品は3ポイント低下の50%で、それぞれ半数ずつとなった(図7−(1)、(3))。国産品の内訳を見ると、和牛肉が低下した一方で、交雑種、乳用種が上昇した。枝肉卸売価格が高値で推移する中で、高価格の和牛肉を敬遠し、和牛肉と比べて安価な国産牛である交雑種、乳用種へシフトしている状況がうかがえる。

 また、27年度下半期の見通しについては、26年度下半期に比べ、国産品と輸入品の割合は大きく変わらないものの、輸入品(冷蔵)が低下する見通しであることが明らかとなった(図7−(2)、(4))。現地相場高に伴い、冷蔵品輸入量が減少していることが背景にあるとみられる。

(イ)豚肉

 豚肉取扱割合の27年度上半期の実績を26年度上半期と比較すると、国産品と輸入品の割合は変わらないものの、輸入品(冷蔵)が上昇し、輸入品(冷凍)が低下する結果となった(図8−(1)、(3))。これは、輸入品(冷蔵)の主な供給国である米国において、PEDからの回復により、現地相場安となり、輸入業者にとって買い付けやすい環境となっていることが要因と考えられる。

 また、27年度下半期については、26年度下半期に比べ、国産品の割合が低下し、輸入品(冷蔵)が上昇する見通しとなっている(図8−(2)、(4))。本調査を行った8月時点では、枝肉卸売価格が高値圏にあったことや今夏の暑さの影響などから豚の供給減少が続いていたことから、国産品から輸入品(冷蔵)にシフトする見通しであったことが考えられる。

 なお、小売業者より流通の川上に位置する卸売業者では、国内外の需給動向が、より直接的に影響を及ぼすことから、小売業者に比べて取扱割合が大きく変動する傾向がみられる。

(2)27年度下半期の食肉販売見通し(量販店・専門店)

ア 牛肉

(ア)量販店

 量販店の品目別販売見通し(前年同期比)のうち、和牛肉については、「減少」が「増加」を上回った(図9)。「減少」の理由として、「仕入価格上昇分の価格転嫁」が多く挙げられた。次に、その他国産牛肉については、和牛肉と同様に「減少」が「増加」を上回っており、「減少」の理由として「豚肉、鶏肉への需要シフト」が最も多く挙げられていた。輸入牛肉については「増加」が「減少」を上回った。「増加」の理由として、「消費者の経済性志向」、「特売回数の増加」が多く挙げられた。

(イ)専門店

 専門店においては、量販店と異なり、和牛肉で増加の見通しとなった(図10)。「増加」の理由には「景気回復」が多く挙がった。また、輸入牛肉でも同様に「増加」が「減少」を上回った。その理由については、「仕入価格下落分の価格引き下げ」、「消費者の経済性志向」、「特売回数の増加」が多かった。専門店では、その他国産牛肉以外の品目で「増加」が「減少」を上回る見通しとなったが、「同程度」が最も高い割合であったことに留意いただきたい。

イ 豚肉

(ア)量販店

 量販店における国産豚肉の販売見通しは、「増加」が「減少」を上回った(図9)。「増加」の理由には、「牛肉からの需要シフト」が多く挙げられている。本調査を行った8月時点で枝肉卸売価格が高値圏にあった豚肉においても、割高感のある和牛肉やその他国産牛肉からの需要のシフトが見込まれている。また、輸入豚肉については、「増加」が「減少」を大きく上回った。「増加」の理由には、「特売回数の増加」が多く挙げられた。現地相場安となっている輸入品を販売促進の目玉として訴求している状況がうかがえる。

(イ)専門店

 専門店における販売見通しは、国産豚肉では「増加」が「減少」を上回った(図10)。「増加」の理由には量販店と同様、「牛肉からの需要シフト」が多く挙げられた。また、輸入豚肉は現地相場安のため、「減少」の見通しはなく、「増加」の見通しとなった。専門店では、国産豚肉、輸入豚肉共に増加見通しとなっているものの、「同程度」が7割以上と最も高くなっている。

ウ 鶏肉

(ア)量販店

 量販店における国産鶏肉の販売見通しは、「増加」の割合が高く、「減少」はなかった(図9)。「増加」の理由には「牛肉や豚肉からの需要シフト」が多く挙げられた。国産鶏肉は、卸売価格が上昇基調で推移しているものの、牛肉や豚肉に対する価格優位性から需要のシフトが期待され、堅調に推移するものと見られる。

(イ)専門店

 専門店における国産鶏肉の「増加」の割合は、量販店より低いものの、「減少」を上回った(図10)。専門店では国産鶏肉、輸入鶏肉共に「増加」が「減少」を上回る見通しとなったが、「同程度」が8割弱と最も高くなっている。

 小売業者の27年度下半期の販売見通しをまとめると、量販店と専門店では、和牛肉の見通しが分かれたが、輸入牛肉や国産豚肉、輸入豚肉、国産鶏肉など比較的低価格な品目が増加する見通しとなっている。

 「増加」または「減少」の傾向は、専門店より量販店の方が強く表れた。これは、専門店では全品目で「同程度」の割合が最も高く、半数を超えたためである。この背景には、量販店と比較して専門店は固定客が多く、食肉の銘柄、品ぞろえ、価格帯など大きく変更しない傾向が強いことがあると考えられる。

(3)27年度下半期の部位別等販売見通し(卸売業者)

ア 牛肉

 卸売業者の部位別等販売見通し(前年同期比)のうち、牛肉については、全体的に減少傾向であることがうかがえる(図11)。「減少」の理由として、「仕入価格上昇分の価格転嫁」や「豚肉や鶏肉への需要シフト」を挙げた卸売業者が多かった。

 部位別等に見ると、和牛肉は、「かた」および「ヒレ」を除いて「減少」が「増加」を上回った。

 国産品は「切り落とし」を除いて「減少」が「増加」を上回った。

 輸入品(冷蔵および冷凍)では「ばら」以外は「減少」が「増加」を上回っている。特徴的な動きとして、輸入品(冷凍)の「ばら」は「増加」が「減少」を大きく上回っている。これは、昨年高騰していた外食向けのばら肉の価格が低下していることが一因と考えられる。

イ 豚肉

 豚肉のうち、国産品については「ばら」を除きおおむね「同程度」あるいは、「増加」の見通しであった(図12)。「増加」の理由として、「牛肉からの需要シフト」と回答する者が多かった。牛肉(国産品および輸入品(冷蔵))の卸売価格上昇から、相対的に価格が安い豚肉への需要のシフトが見込まれていることがうかがえる。

 一方、輸入品(冷蔵および冷凍)では国産豚肉よりも、「増加」が多く見られた。「増加」の理由としては、「仕入価格下落分の価格引き下げ」、「牛肉からの需要シフト」、「国産豚肉からの需要シフト」が多く挙げられている。牛肉や国産豚肉と比べ、価格面で優位であることに加え、米国の豚肉生産がPEDの影響から回復したためと考えられる。

 卸売業者の27年度下半期の販売見通しをまとめると、和牛肉やその他国産牛肉から価格優位性のある国産豚肉や輸入豚肉へ需要のシフトが見込まれていることがうかがえる。

(4)食肉の販売拡大に向けた対応

 量販店および専門店における、販売拡大に向けた具体的な対応について調査した。

ア 量販店

 「特定の年齢層・家族形態を対象とした商品の品ぞろえ強化」(牛肉、豚肉)、「銘柄食肉の品ぞろえ強化」(豚肉)、「低価格部位や切り落としの強化」(牛肉、豚肉)、「少量パックの充実化」(牛肉、豚肉)、「総菜や味付け肉の販売強化」(豚肉、鶏肉)、「調理方法の提案」(牛肉、豚肉、鶏肉)において半数を超えた(図13)。小売価格が上昇する中、「特売回数の増加」は牛肉、豚肉、鶏肉いずれも10%台と、前回調査に比べて減少しており、価格以外の品ぞろえやメニュー提案などの販売促進の方法に変化がみられた。

イ 専門店

 牛肉、豚肉、鶏肉いずれも、「調理方法の提案」が最も多く、半数を超える唯一の項目という結果となっている(図14)。

 前回調査に比べて大きな変化は見られなかったが、小売価格が上昇する中、量販店と同様に消費者の食行動・購買行動に対応した商品作りの姿勢がうかがえた。

(5)日豪EPA発効後の対応

 27年1月15日に日豪EPAが発効し、冷蔵品・冷凍品共に38.5%だった牛肉の関税率は、発効当初に冷蔵品が32.5%、冷凍品が30.5%にそれぞれ引き下げられた。さらに、同年4月1日から、冷蔵品が31.5%、冷凍品が28.5%となった。ここでは、量販店および専門店に対して、豪州産牛肉の関税率引き下げ後の小売価格や品ぞろえの対応について聞いた。

ア 豪州産牛肉

(ア)取扱状況

 量販店、専門店共に「変わらない」が最も多くなっているが、「増やした」が「減らした」より多くなっており、おおむね増加傾向となっている。また、「取扱なし」が量販店では5%に対し、専門店では50%となっている(図15)。「増やした」理由についてみると、量販店では「米国産からのシフト」、専門店では「米国産からのシフト」、「特売回数の増加」が最も多い結果となった。豪州産、米国産共に現地相場高が続いているものの、豪州産は関税率が引き下げられたこともあり、相対的に価格優位にある豪州産にシフトしている状況がうかがえる。

(イ) 販売価格の動向

 量販店、専門店共に「上昇」が「低下」を上回った(図16)。特に豪州産の取扱が多い量販店では、「上昇」が7割以上を占め、「変わらない」よりも多い結果となった。関税率は引き下げられたものの、為替の円安基調、米国や中国からの堅調な引き合いなどに伴う現地相場高により、仕入価格が上昇したものと考えられる。

イ 国産牛肉(乳牛おす)の取扱状況

 豪州産牛肉と一定の競合関係にある国産牛肉(乳牛おす)についても同様に調査した。乳牛おすの取扱状況を聞いたところ、量販店では「変わらない」、「増やした」、「減らした」がそれぞれ約4分の1ずつとなった。一方、専門店は「減らした」が「増やした」を上回り、全体として減少傾向となっている(図17)。

 量販店および専門店の「減らした」理由は「仕入価格上昇」が最も多くなっている。一方、量販店の「増やした」理由は「和牛肉からのシフト」となっている。

ウ 米国産牛肉の取扱状況

 豪州産牛肉と競合関係にある米国産牛肉についても同様に調査した。小売業者に対して、米国産牛肉の取扱状況について聞いたところ、量販店、専門店共に「減らした」が「増やした」を上回っている(図18)。「減らした」理由は、量販店、専門店共に「仕入価格上昇」が最も多くなっている。また、量販店では「豪州産牛肉へのシフト」が次位となっている。

 日豪EPA発効後の量販店および専門店の対応についてまとめると、まず、豪州産牛肉は、関税率が引き下げられたものの、為替の円安基調や現地相場高により販売価格が上昇となった。しかしながら、米国産に対する価格優位性などから取扱数量は増加傾向となっている。一方、米国産牛肉の取扱数量は為替の円安基調や現地相場高から減少しており、比較的安価な豪州産牛肉にシフトした可能性が考えられる。また、国産牛肉(乳牛おす)の取扱数量はやや減少傾向となっているものの、豪州産牛肉へのシフトではなく、枝肉卸売価格の上昇に伴う仕入価格の上昇が大きな要因とみられる。

4 おわりに

 27年下半期の需給状況を見通してみると、国内生産については、牛肉は肉用牛の飼養頭数の低迷から、出荷頭数の減少が続くとみられる。また、豚肉についてはPEDの影響が下火になりつつあり、出荷頭数の回復が見込まれている。鶏肉は牛肉や豚肉に対する価格優位性に支えられ、引き続き堅調な需要が続く見通しであることから、今後も増産傾向が継続するとみられる。

 輸入においては、牛肉は主要輸入国の堅調な需要などにより、競合が引き続き強まることなどから、現地相場高は続くとみられる。豚肉については、米国のPEDが回復したこと、米国西海岸の港湾労使交渉問題が解決し、物流ルートの不安が解消したこと、さらに、ロシアの禁輸措置などによりEU産の輸入環境が改善していることなどから、輸入業者にとっては買い付けやすい環境が続くとみられる。一方、鶏肉は、輸入肉の太宗を占めるブラジル産が飼料価格の低下に伴う現地相場安や通貨安により、買い付けやすい環境になることが見込まれている。

 以上のことから、輸入豚肉および輸入鶏肉については需給がやや緩む可能性もあり、小売業者や卸売業者においては品ぞろえや売価設定の競争が一段と激しくなることが予想される。一方、国産牛肉は需給がひっ迫しているため、価格以外の販売促進の対応が求められている。

(参考)調査の概要

1.調査方法

 アンケート調査

2.調査対象先と回収率

 下表のとおり

3.調査期間

 平成27年8月1日〜8月31日


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