乳和食 |
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料理家・管理栄養士 小山 浩子 |
一般家庭や学校給食で牛乳が飲まれるようになったのは、1940年代以降です。その後、牛乳は安価で栄養価の高い飲み物(食品)として、日本の家庭に定着していきました。ただ、欧米人のようにお料理に使うことは少なく、日本での利用は、飲用が中心で、お菓子作りなどに利用することはあっても、日常的に和食に利用する家庭は少なかったと思います。戦後、ずっと伸び続けていた牛乳の消費量は、1994年をピークに下降していきます。若い方を中心とする牛乳離れによるものだと思いますが、私は管理栄養士として、ただただ何もできず、残念に思う毎日でした。 その頃からでしょうか。お料理レシピを考えながら、なんとかして食べる牛乳レシピを日本に根付かせたいという思いが徐々に強くなっていきました。そんな中、頭の中をよぎったのが‘乳和食’というワードです。 和食のだし代わり、水代わりに牛乳を使うと何でもお料理がおいしくなることは、長年の料理研究で確認済みでした。そして、私は和食に牛乳を使うことにこだわりました。日本人ですから。このことが後に自分を苦しめることになるとは思ってもおらず、当初、何にでも牛乳を入れて、真っ白で牛乳味の和食を‘おいしいでしょ’と自慢げに披露していたのですが、生徒さんたちの反応はあまり良くなかったのです。大半の方が、わざわざ牛乳を和食に入れなくても、牛乳はそのまま飲めばいいとおっしゃいました。和食は和食として食べたいという意見も多かったです。 そんな中、行き詰った私が出会ったお料理が自著である「乳和食」(発行:社会保険出版社・発売:主婦の友社)の本でも紹介している、「かぼちゃのミルクそぼろ煮」です(写真)。 フライパンに材料を全て入れて煮るだけという今でいう簡単時短レシピ。5分ほど煮ると鍋の中で化学変化が起きて、牛乳はカッテージチーズ状のそぼろと乳清(ホエイ)に分離して、そのまま煮ているとまるでだしで煮たような煮あがりで、牛乳の色もなければ、味も全くしません。 ただ、おいしいのです。はじめて和食に牛乳を生かすということはこういうことなんだと実感したレシピでもあります。実際、生徒さんたちには大好評!お家で何度も作っていますとお手紙を頂くほど人気のレシピに。 どうして?と尋ねると、皆がそろって口にしたのが牛乳の味がしないから!という私が全く予想していなかった答えだったのです。以降は、これまで作ってきた全てのミルク和食のレシピを見直し、和食に牛乳を生かすこと、毎日、違和感なく食べられることを第一に考えました。その中で生まれたのが、乳和食をわかりやすく手法別に整理した5つのミルクマジックです。 ● マジック1では、和食のだし汁代わりに牛乳を使います。例えば茶碗蒸は乳和食では卵と牛乳を合わせて作ります。こうすると加える調味料は塩と醤油がほんのわずかで大丈夫です。それでも、薄味にならず、牛乳のコクとうまみでとてもおいしく食べられるのです。 ● マジック2は、水代わりです。和食では素材を水で煮たりすることが多いですが、和食の定番‘さばの味噌煮’も牛乳で煮れば味噌は通常の半分で済みます(図1)。先程紹介したかぼちゃのミルク煮はこちらに入ります。 ● マジック3は、乾物や素材を煮る際に使う水を牛乳に置き換えるという方法です。高野豆腐や切り干し大根、干し椎茸、ひじきをさっと洗って牛乳で戻し煮をしてみてください。後で加える調味料は驚くほど少なくて済みます。味付けに不安な場合は、めんつゆ(3倍濃縮)を少量加えてみてください。 ● マジック4は、粉と牛乳を合わせます。天ぷらを作る際、卵、水、粉で衣を作りますが、ここに牛乳を加えます。卵は使いません。衣に驚くほどコクが出て、素材への下味も天つゆも天塩も不要です。塩分はほぼゼロでおいしくいただけるのです。 ● 最後のマジック5では、牛乳はそのままではなく、加熱(80〜90度)し、お酢を加えて分離をさせて使います。分離させた水分(ホエイ)でごはんを炊いたり、漬物をつけたり、おでんを煮ることもできます。チーズは卵に混ぜたり、サラダにかけたりして活用してください。これらの方法で調理した乳和食は牛乳が苦手な方でもおいしく食べられると喜んでいただいております。 和食に牛乳を入れるなんて!きっとそう思われる方もいらっしゃると思いますが、是非、試してみてください。そして、日本一簡単で日本一おいしい!小山浩子の乳和食レシピが皆さま方の健康維持のお役に立てることを願っております。 そして最後に、毎日おいしい牛乳を搾ってくださっている酪農家さんに感謝の気持ちを込めて・・・。
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