調査・報告  畜産の情報 2015年9月号

鶏肉調製品の輸入および利用実態に係る
アンケート調査の結果
〜鶏肉調製品輸入量は今後も増加と予想〜

畜産需給部 需給業務課


【要約】

 近年、食の外部化の進展により、コンビニエンスストアやファストフードなどで利用される鶏肉調製品の輸入量は増加傾向にある。

 鶏肉調製品を含めた鶏肉消費量は一貫して増加しており、コンビニエンスストアの出店拡大や冷凍食品の売り上げ増大が続く中、牛・豚肉に比べて価格優位性のある鶏肉調製品の中食産業(総菜、冷凍食品など)への仕向量の増加に伴い、鶏肉調製品の輸入量は今後も増加基調で推移すると予想される。

1 はじめに

 近年、女性の社会進出や高齢化などを背景とした食の外部化の進展により、コンビニエンスストアやファストフードなどで利用される鶏肉調製品の輸入量は増加傾向にある。特に、平成24、25年度は2年連続で鶏肉輸入量を上回っており、鶏肉調製品が国内鶏肉需給に与える影響は年々大きくなっていると思料される。

 当機構では、鶏肉需給動向の把握に必要な基礎資料の整備を図ることを目的として、本調査を実施した。

 本稿では、26年7月下旬に発生した中国産「消費期限切れ鶏肉」問題の影響を含め、アンケート調査で得られた鶏肉調製品の輸入および利用実態について報告する。

 なお、本稿では、「鶏肉調製品」は輸入品のみを指し、鶏肉加工品の内訳として「鶏肉調製品」と「国産品」と表記している。

 また、本稿でいう「鶏肉調製品の輸入量」とは、統計品目番号1602-32-290の実重量であって、肉、くず肉または血の重量が全重量の20%を超えるもの(以下同じ)を指し、鶏肉以外のもの(串、野菜、調味液など)を含むことに留意していただきたい。

2 アンケート調査の概要

 統計品目番号1602-32-290(表1)について、一定以上の取り扱いのある輸入業者を対象に、調査を実施した。調査対象期間は平成25年度(25年4月1日〜翌3月31日)である。

 その結果、輸入業者13社(商社6社・冷凍食品メーカー3社・食肉加工メーカー4社)から有効回答を得た。なお、25年度の鶏肉調製品の輸入量43万3932トンに占める調査対象先の輸入量合計(29万8812トン)のシェアは、69%であった(表2)。

表1 鶏肉調製品の定義
資料:財務省HP「輸入統計品目表(実行関税率表)」、農林水産省動物検疫所HP「日本国向け
    加熱処理家きん肉等に関する家畜衛生条件」に基づき、機構作成
注1:鶏肉調製品には、製品全体に占める鶏肉の重量割合が高いものが多いが、野菜と一緒に
    調理されたチキンカレーソースや、米・野菜などと調理されたチキンライスなども上記項目
    に含まれる。
  2:物品を2つ以上含有する調製品は最大の重量を占める成分が属する項に分類される
    (例えば、鶏肉と豚肉両方を含有する場合には、その含有率が高い方の関税分類に
    分類される)。
表2 アンケート調査対象先

3 鶏肉調製品の輸入動向

(1)鶏肉消費量の推移

 平成25年度のわが国の鶏肉消費仕向量は、純食料ベースで152万7000トン、1人年間当たりの消費量は12.0キログラムである(農林水産省「食料需給表」)。牛・豚肉と比較して価格優位性のある鶏肉の消費量は、漸増傾向で推移しており、24年度には豚肉を上回り、食肉の中で最大となっている(図1)。

図1 食肉の1人年間当たり消費量の推移
資料:農林水産省「食料需給表」

(2)鶏肉調製品の輸入量の推移

 中国やタイなど、主要輸入相手国における鳥インフルエンザの発生に伴う鶏肉輸出停止の影響や食の外部化の進展などを背景に、鶏肉調製品の輸入量は増加傾向で推移している(図2)。

 24、25年度は、2年連続で鶏肉輸入量を上回り、鶏肉の国内供給量の約2割を占める状況となっている(図3)。

図2 鶏肉および鶏肉調製品の輸入量の推移
資料:財務省「貿易統計」
図3 鶏肉の国内供給量(平成26年度)
資料:農林水産省「食肉流通統計」、財務省「貿易統計」
  注:鶏肉調製品輸入量は、製品重量をそのまま計上しているため、 鶏肉重量ベースでは
    シェアは低下する。

(3)鶏肉調製品の国別輸入量・単価の推移

 わが国は、原料肉・加工賃が安く、農林水産大臣が指定する加熱処理施設が多数存在する中国およびタイから鶏肉調製品の大半(98%以上)を輸入している(図4)。

 高病原性鳥インフルエンザの発生により、輸入停止となっていたタイ産の鶏肉が、25年12月以降、およそ10年ぶりに輸入解禁になり、鶏肉輸入量が増加しているほか、26年7月下旬に発生した中国産「消費期限切れ鶏肉」問題の影響により、26年度の鶏肉調製品輸入量は40万6308トン(前年度比6.3%減)と減少した。特に、26年9月以降の中国産の減少が顕著となっている。

 26年度の1キログラム当たりの輸入単価(CIF価格)は、中国産が492円、タイ産が538円であり、中国産に比べてタイ産が50円程度高い状況である。

図4 鶏肉調製品の国別輸入量・輸入単価の推移
資料:財務省「貿易統計」

(4)鶏肉調製品の流通経路

 わが国は、タイや中国などの輸入相手国から輸入業者(商社、冷凍食品メーカー、食肉加工メーカー)を通じて、鶏肉調製品を輸入している(図5)。

 鶏肉調製品の輸入形態は、以下(1)および(2)の大きく2つに分けられるが、(1)が主体である。

(1)日本企業の海外生産拠点(子会社、合弁会社など)で日本向けに製造した製品を輸入・販売する形態

(2)外国メーカーが自国向けに製造した製品を輸入・販売する形態

 上記(1)が主体となっている理由は、現地の加工食品を日本に輸入しているのではなく、日本企業が日本の技術をもって現地で日本の食品を生産して輸入していること、レシピや製法などの流出を防ぐため、現地での自社生産を選択したことなどによるものと思われる。

図5 鶏肉調製品の流通経路の概略
資料:聞き取りにより機構作成

4 アンケート調査結果

(1)鶏肉調製品の取扱状況

ア 取扱状況

 アンケート調査の協力が得られた輸入業者(全13社)の平成25年度における鶏肉加工品の取扱量は34万5567トン、うち鶏肉調製品は29万8812トン(シェア86.5%)、国産品は4万6835トン(同13.5%)であった。鶏肉調製品の内訳は、タイ産が15万1996トン(同50.9%)、中国産が12万9771トン(同43.4%)、その他(フィリピン、ブラジルなど)が1万7045トン(同5.7%)であった(図6)。

図6 鶏肉加工品の取扱状況

イ 鶏肉調製品を利用する理由(複数回答)

 鶏肉調製品を利用する理由(上位3つまで)を聞いたところ、「価格が安い」(84.6%)、「量の確保が容易」(61.5%)、「多様な商品の開発・製造が可能」(53.8%)、「国内では労働力の確保が難しい」(46.2%)の順に多かった(図7)。

 その他、「国産品は、もも肉の原料コストが高い」、「日本に生産・加工地がないため」といった理由が挙げられた。

図7 鶏肉調製品を利用する理由(複数回答)

ウ 取引相手国として選んだ理由

 鶏肉調製品の取引相手国として選んだ理由を聞いたところ、中国産を選んだ理由には、「価格競争力」、「焼き鳥などの加工度の高い商品の製造が得意」、「契約の柔軟性やスピード感」といった回答が得られた。

 一方で、タイ産を選んだ理由には、「顧客からの産地指定対応」、「5グラム刻みでの加工規格が整っており、新製品を開発しやすい」、「インテグレートの仕組みが整っていることから、鶏肉自体を味わってもらう商品はタイ産を使用」といった回答が得られた。

 両国の相違点として、(1)中国産は、コストメリットがより大きく、加工度の高い商品製造が可能なほか、対日輸出の歴史が長いため、柔軟な対応が可能である (2)タイ産は、中国産に比べてコストメリットは小さいが、大手インテグレーターにより原料の使用管理が徹底された輸出国として消費者イメージも良いため、顧客からの産地指定により購入される、といった特徴がそれぞれ挙げられる。

 なお、両国に共通する理由としては、「日本向け認定工場が多数存在」、「産地分散によるリスク回避」、「日本より人件費が安い」ことが挙げられている(表3)。

表3 取引相手国を選んだ理由

(2)代表的取扱品目の取引状況

ア 代表的取扱品目のシェア

 各社の取扱量上位4品目を聞いたところ、「揚げ物」(72.8%)が最も多く、次いで、「焼き物」(16.5%)、「蒸し物」(5.1%)、「その他」(5.7%)となった(図8)。

 このように、揚げ物のシェアが高いのは、もも肉嗜好の強いわが国においては、唐揚げ、フライドチキン、竜田揚げなどが定番の人気商品になっていることが背景にあるとみられる。

図8 代表的取扱品目のシェア
注1:シェアは、各社の取扱量上位4品目の25年度取扱量の合算により算出した。
  2:ラウンドの関係で合計は100%にならない。

イ 輸入形態

 代表的取扱品目(1品目)の輸入形態を聞いたところ、中国産については、「日本企業の海外生産拠点で日本向けに製造した製品を輸入」が61.5%、「外国メーカーが自国向けに製造した製品を輸入」、「外国メーカーが日本向けに仕様変更した製品を輸入」がそれぞれ7.7%であった。

 一方で、タイ産については、「日本企業の海外生産拠点で日本向けに製造した製品を輸入」が53.8%、「外国メーカーが日本向けに仕様変更した製品を輸入」が30.8%であった(図9)。

 EUや中東などにも鶏肉調製品を輸出しているタイにおいては、中国に比べて、外国メーカーが日本向けに仕様変更した製品の輸出体制が整っていることがうかがえる。

図9 代表的取扱品目の輸入形態

ウ 販売先

 代表的取扱品目(1品目)の販売先を聞いたところ、中国産については、「量販店」が15.4%、「コンビニエンスストア」が15.4%、「食肉加工メーカー」が7.7%、「外食産業」が7.7%、「中食産業」が7.7%であった。

 一方で、タイ産については、「コンビニエンスストア」が30.8%、「量販店」が15.4%、「外食産業」が7.7%であった(図10)。

図10 代表的取扱品目の販売先
注:ラウンドの関係で合計は100%にならない。

エ 仕入価格の決定方法

 代表的取扱品目(1品目)について、輸入業者が現地で鶏肉調製品を調達する場合の仕入れ価格の決定方法は、中国産、タイ産ともに「固定価格」が6割以上を占めており、次いで、「製造国の市場価格連動」が2割程度であった。

 「固定価格」の期間は、中国産については、「月ごと」および「四半期ごと」が最も多く37.5%、次いで、「半年ごと」および「年ごと」が12.5%であった。タイ産については、「四半期ごと」が最も多く33.3%、次いで、「半年ごと」および「年ごと」が22.2%、「月ごと」が11.1%であった(図11)。

 一般に、鶏肉調製品の取引条件は、数カ月から一年の期間での契約で決められていることがうかがえる。

図11 代表的取扱品目の仕入価格の決定方法

オ 今後の取扱量の意向

 各社の取扱量上位4品目の今後の取扱量の意向については、中国産は、「増加」が7.7%にとどまり、「減少」が35.9%と「減少」が「増加」を上回った。一方で、タイ産は、「増加」が52.5%と過半を占め、「減少」は2.5%にとどまっている(図12)。

 26年7月下旬に発生した中国産「消費期限切れ鶏肉」問題による消費者の中国産離れを受けて、中国産からタイ産へのシフトの意向を持つ企業が多いことがうかがわれる。一方で、中国産について、「現状維持」が43.6%、「増加」が7.7%となっており、消費者の経済性志向への対応や焼き鳥などの加工度の高い商品製造のために、中国産へのニーズは今後も存在していくものと思われる。

図12 代表的取扱品目の今後の取扱量の意向
注1:シェアは各社の取扱量上位4品目について品目別に意向を聞き取り、その合算により
   算出した。
  2:ラウンドの関係で合計は100%にならない。

(3)中国産「消費期限切れ鶏肉」問題の影響

ア 影響度合い

 中国産「消費期限切れ鶏肉」問題の影響度合いを聞いたところ、「ある程度影響を受けた」が最も多く69.2%、「大きな影響を受けた」が30.8%であった。「全く影響を受けなかった」と回答した企業は見られなかった(図13)。

 影響の具体的内容として、「顧客からの産地問合せが増加」、「中国産の取り扱いをやめる顧客の増加」、「顧客の工場視察の増加」、「(「消費期限切れ鶏肉」問題の発端となった)チキンナゲットの取扱量が減少」といった回答が得られた。

図13 中国産「消費期限切れ鶏肉」問題の影響度合い

イ 発生後の対応

 発生後の対応については、「産地表示の徹底」、「タイを中心に第三国(ブラジル、フィリピンなど)への生産移管」、「中国工場の管理体制の強化(視察頻度の義務化、定期的な記録の確認、監視カメラの設置、現地従業員のトレーニングの実施など)」、「国産品の利用を拡大」といった回答が多く得られた。

 一方で、「問題発生後、タイでの試作・切替えの検討をしたが、価格が現行品と折り合わず、切り替えていない」といった回答も見られた。

 消費者の経済性志向への対応、産地分散によるリスク回避を図る観点などから、中国産の製品の取り扱い自体は継続した上で、工場の監視体制をより厳格化する企業が多いことがうかがえる。

(4)安全性確保の取組状況

 鶏肉調製品の利用に係る安全性確保の取組状況について聞いたところ、中国産については、「安心・安全を輸入業者の自社監査により確認した指定農場の鶏肉原料を使用」、「輸入業者独自の工場査定基準を設け、年1回以上の工場監査を実施」といった回答が得られた。

 タイ産については、「飼育鶏・飼料から最終製品に至るまでの輸入業者の自社管理トレーサビリティを確立」、「カメラの設置、定期的な記録・管理書類の確認」といった回答が得られた(表4)。

 なお、中国産・タイ産に共通する取組としては、「現地駐在員による生産立会い」、「原材料品質規格書の提出を義務化」などの回答が挙げられている。

表4 安全性確保の取組状況

(5)国産品の利用拡大計画の有無

 国産品の利用拡大計画の有無について聞いたところ、「既に取り組んでいる」が23.1%、「今後取り組む予定」が30.8%、「取り組む予定なし」が46.2%であった(図14)。

 「既に取り組んでいる」および「今後取り組む予定」の理由として、「付加価値向上のため」、「安心・安全な農場拡大のため」、「国産鶏肉使用による価値の訴求が顧客に受け入れられている」といった回答が得られた。

 一方で、「取り組む予定なし」の理由として、「コストが顧客ニーズに合わない」、「輸入品のニーズが減ることはないため、あえて国産品の利用を拡大する予定はない」といった回答が得られた。

図14 国産品の利用拡大計画の有無
注:ラウンドの関係で合計は100%にならない。

(6)鶏肉調製品の調達・利用上の課題、今後の見通し

 鶏肉調製品の調達・利用上の課題としては、「顧客の中国産離れによるタイ産集中のリスク」、「中国・タイでの現行以上の製品安全性担保の仕組み作り」、「現地相場高や円安の進行による取扱量の減少」といった回答が得られた。

 今後の見通しとしては、「手軽に調理可能な商品(レディ・ミール)や、より加工度の高い、かつ1食当たりの量が少ない商品の需要が増大する」、「冷凍食品の需要増大に伴い、牛・豚肉と比べて価格優位性のある鶏肉調製品は主力商品であり続ける」、「コンビニエンスストアの出店計画の拡大が続く中、需要が増大する」といった回答が得られた(表5)。

表5 調達・利用上の課題、今後の見通し

5 おわりに

 最近では、女性の社会進出や高齢化などを背景に、家庭においても、手軽に調理可能な商品の需要が増加している。これに伴い、コンビニエンスストアなどでは、レジ周り総菜や冷凍食品の販売により売り上げを拡大しており、今後も中食産業への鶏肉調製品の仕向量は増加が予想される。

 また、食の外部化の進展や外食・中食産業の成長などを背景に、増加傾向で推移してきた鶏肉調製品の輸入量については、為替の長期的な円安基調や中国産「消費期限切れ鶏肉」問題による消費者の国産志向などに起因して、伸び率が低下すると見込まれるものの、中食産業への仕向量の増加に伴い、今後も増加基調で推移すると予想される。

 最後に、本調査の実施に当たり、ご協力いただいた輸入商社、冷凍食品メーカー、食肉加工メーカー、外食・中食・量販店など需要者の皆さまに、この場を借りてお礼を申し上げる。


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