話 題  畜産の情報 2015年9月号

畜産クラスター
〜「地域で支える畜産」と 「畜産を起点とした
地域振興」の実現に向けて〜

農林水産省 生産局 畜産部
畜産企画課 課長補佐(推進班) 飯野 昌朗


1 はじめに

 畜産業はそもそも1人の畜産農家の頑張りで産業として成り立つかと言えばそうではない面もあり、畜産農家を支えるさまざまな関係者との連携がうまくいって地域の畜産業が成り立つ、と言うことができます。

 「畜産クラスター」とは、畜産農家をはじめとする地域の関係者が連携・結集し、地域の収益性を高めることで、生産基盤の強化を図ろうとするものです。

 平成27年3月に策定した「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」においても「地域で支える畜産」、「畜産を起点とした地域振興」の両面から畜産クラスターの取り組みが重要であることを盛り込んだところであり、畜産クラスターの取り組みを継続的に推進していくこととしています。

2 畜産クラスターの取り組み

 平成26年度に畜産クラスターの支援を開始して以来、全国各地では、畜産クラスターの取り組みが進んでいます。

 例えば、(1)耕種農家と連携し、飼料用米や規格外の農産物を活用した飼料コストの削減、畜産物の高付加価値化の取り組み、 (2)地域に新たに酪農の哺育・育成部門を開設し、育成牛を預かり、和牛受精卵移植を集中的に実施することで、酪農家が搾乳業務に集中し、和子牛の生産を拡大する取り組み、(3)地域の核となる畜産農家を育成するため、農協が酪農家と共同で出資して、大規模酪農経営を設立し、その法人が地域の生乳生産の核となるとともに、研修生を雇用し、新たな担い手を育成しようとする取り組みなど、さまざまな取り組みが計画、実行されつつあります。

3 畜産クラスターで大切なこと

 上記のように、さまざまな取り組みが進みつつありますが、ここで改めて畜産クラスターの大切なポイントを3つ挙げます。この3つのポイントを畜産クラスター計画にわかりやすく書き込み、協議会構成員の共通認識を醸成していくことが、畜産クラスターの取り組みにより、地域がよくなるかどうかの大きなポイントであると考えています。

(1)現状を分析し、地域の課題を明確にすること

 それぞれの協議会においては、地域において解決すべき課題や目標があるはずです。しかしながら、現状分析が十分に行われていないと課題の所在が明らかにならないこともあります。例えば、離農がどの程度で進んでおり、その離農による生乳生産量の減少がどの程度進むのかを把握しておかないと、どれだけ生乳生産量を拡大すればよいのか、目標が立てられません。

 まずは、現状を捉え、どこに解決すべき課題があって、何を目指すのかを明らかにすることが重要です。

(2)目標達成のためのストーリーを描くこと

 次に、目標達成のためのストーリーを描くことが大事です。生乳生産量を拡大する目標を立てた場合、その目標を達成するためには、地域内の酪農家に生乳生産量を拡大してもらう必要があります。その際に、誰にどれだけ生乳生産量を拡大してもらうのか目標達成までのストーリーを明らかにすることが不可欠です。

 協議会に参加している酪農家全員に規模拡大をしてもらうのか、地域の中心となってもらう大規模酪農家を育成するのか、その手法は地域の事情により異なるはずですので、協議会内で議論していただくことが大切です。

(3)役割分担や手法を検討すること

 目標達成のためのストーリーができれば、ストーリー実現のための具体的な手法を検討することが大切です。

 例えば、地域の酪農家が分担して少しずつ生乳生産量を拡大しようとする場合であっても、その手法はさまざまあると考えられます。酪農家の規模拡大を支援するため、農協などが哺育・育成部門や飼料生産部門の外部化・分業化を支援する場合もあるでしょうし、良質飼料の生産や飼養管理技術の改善などを通じて拡大する場合もあるでしょう。これらの取り組みを組み合わせることも考えられます。

 具体的にどのような手法で誰が誰と協力して何をするのか、協議会構成員それぞれの役割を明らかにできるよう、協議会内での議論を深めていただきたいと思います。

 畜産クラスター関連の補助事業は、このような検討に基づいて、地域が畜産クラスター計画に定めた取り組みを後押しするためのものです。

 地域における継続的な検討こそが畜産クラスターの重要なポイントです。より良い畜産クラスターの取り組みが数多く生まれるよう、国としてもフォローアップに力を入れていく考えです。

(プロフィール)
飯野 昌朗(いいの まさあき)

 山形県山形市出身
 平成10年 農林水産省入省。畜産局食肉鶏卵課、家畜改良センター奥羽牧場、生産局総務課、競馬監督課、畜産振興課勤務を経て、大分県に出向。その後、畜産振興課家畜改良推進班(肉用牛担当)、大臣官房を経て、平成26年9月から現職。

元のページに戻る