調査・報告  畜産の情報 2016年8月号


養豚経営における若手生産者の取り組み

畜産経営対策部 養豚経営課



【要約】

 肥育豚飼養戸数が年々減少する中、当機構では次世代の担い手として養豚経営に取り組んでいる若手生産者を対象とし、経営の直面する課題や現在の取り組みなどについてのアンケート調査を行ったところ、労働力の確保などの課題が明らかとなった。これらの課題に対し、情報の共有を通じて労働力の確保および人材育成を行っている生産者や、6次産業化や銘柄豚の受託生産など積極的な取り組みを行う生産者の事例について調査を行ったので、その結果を報告する。

1 はじめに

変動する飼料価格や家畜疾病の流行などの影響を受け、肥育豚飼養戸数は、小規模飼養者層を中心とした廃業などにより平成5年の約1万7000戸から28年には74%減の4400戸となっている(図1)。今後、国際化が進展する中、「競争力のある強い養豚経営」が望まれている。



養豚経営課では、養豚経営安定対策事業に参加している生産者のうち45歳以下の若手生産者にアンケートを行い、養豚経営において直面している課題や今後の経営方針などについて調査した。

本稿では、このアンケート調査の結果を報告するとともに、現地調査を基に若手生産者が養豚業を経営承継するに至った経緯や経営上の課題に対して取り組んだこと、経営参画後に創意工夫したさまざまな取り組みなどについて報告する。

2 アンケート調査の結果

(1)調査対象および回答者数

養豚経営安定対策事業の参加者のうち経営者の年齢が平成26年4月時点で45歳以下の430者を対象とした養豚経営に関するアンケートを実施した。アンケート回収率は45.1%であった。回答者数の経営形態の内訳は表1に示した通りである。



(2)調査結果の概要

アンケートでは、養豚経営に関する以下の4つの質問を行い、現状の課題、現在の取り組んでいること、今後、肉豚生産で目指す方向性、今後の経営方針について調査を行った。

問1 経営が直面している課題(回答は3つ以内)

経営が直面している課題について、法人および個人経営別に回答数が多い順に5項目を示した(図2)。最も回答が多かった課題は、法人経営においては、「労働力の確保」であり、個人経営においては、「家畜排せつ物への対応」が挙げられた。上位3項目については、順位に違いはあるものの、法人および個人経営ともに同課題に直面していることがわかる。



問2 現在の経営ですでに取り組んでいること(複数回答)

法人および個人経営別に、回答数順に10項目を図3に示した。

法人および個人経営のどちらも「生産規模の拡大」や「エコフィード、飼料用米の利用」に取り組んでいる者が多く見られた。

一方、法人経営と個人経営で大きな違いが見られるのは、「ベンチマーキング(注1)への参加」や「豚トレーサビリティの実施」、「農場HACCPの取得」といった農場の点検および豚の飼養衛生管理の高度化などに関する項目であり、法人経営ではこれらの項目に取り組む者が多くいたが、個人経営では法人経営と比較して少なかった。

(注1) ベンチマーキングとは、養豚農場における生産成績(繁殖成績、肥育成績など)を経時的に測定し、他農場の数値と比較し経営の改善を図るもの



問3 今後、肉豚生産で目指す方向性(回答は1つ)

今後の目指す方向性として、法人経営の約6割、個人経営の約7割が「生産性向上による安定供給」を挙げている(図4)。続いて、法人経営の約2割、個人経営の1割が「高品質高付加価値生産」を挙げた。



問4 今後の経営方針について2年以内の着手を検討していること(複数回答)

今後の経営方針および2年以内の着手を検討している取り組みについて回答数順に図5に示した。この結果から、図4で示した生産性向上による安定供給や高品質・高付加価値生産に係る具体的な取り組みが検討されていることがうかがえる。



アンケート調査の結果、養豚経営の中で若手生産者が直面する課題や今後の経営方針、取り組み内容などさまざまなものがあった。それぞれの生産者が目指す養豚経営の方向性の中で課題となる事項とそれに対応する取り組み内容について図6にまとめた。



次項では、これら経営上の課題にどのような対処法を模索し実際に取り組んでいるか現地調査を行い、アンケートの問1で課題に挙げられた「労働力の確保」について、経営の見える化と社員へのフィードバックを通じた人材の確保と育成に取り組んでいる株式会社春野コーポレーション(以下「春野コーポレーション」という)の事例と、図3や図5で挙げられた各種取り組みについて、飼料用米の利用によるコスト低減や収益向上のため6次産業化や受託生産に取り組み新たな販路の開拓など積極的な取り組みを行っている有限会社浦ファーム(以下「浦ファーム」という)の事例について紹介する。

3 若手生産者の取り組み事例

(1)春野コーポレーション 〜労働力の確保と情報共有を通じた人材育成〜

ア 経営の概要

春野コーポレーションの前身は種豚会社であり、現在は種豚生産から肉豚販売まで一貫して自社で手がけている。主に静岡県で種豚の育種改良を行い、愛知県で肉豚の生産出荷を行っている。春野コーポレーションの経営の概要を表2に示した。



イ 経営参画の経緯

現代表取締役の鳥居とりいひでたか氏(36歳)は高校卒業後、愛知県内の配合飼料メーカーの農場での研修を行った後、平成13年に父親の経営する春野種豚牧場株式会社(以下「春野種豚牧場」という)に入社した(写真1)。



ウ 経営に参画して苦労した点・経営を改善した点

英剛氏は徐々に経営に参画し家族経営の脱却を図るため、平成19年にチロルブリード株式会社(以下「チロルブリード」という)を設立し、種豚および子豚生産をチロルブリードで、原種豚生産を春野種豚牧場で行うという経営方針に転換した。さらに、20年には近隣の養豚経営体を買い取り、ハマナピッグ株式会社(以下「ハマナピッグ」という)を設立した。これを契機に英剛氏は春野種豚牧場、チロルブリード、ハマナピッグの計3社の代表取締役に就任した。

25年、経営の合理化を図るためこの3社を合併し、春野コーポレーションを設立した。合併前の3社の株式のほとんどは父親である先代代表取締役が所有していたため、父親が実質的な経営権を握っていた。一方で、英剛氏は先代代表取締役の経営について人員管理やコスト管理が徹底されていないと感じており、経営を改善したいという強い思いを持っていた。そこで英剛氏は、株式を父親から譲り受けるのではなく、全ての株式を買い取った。30代前半という若さだったが、あえて自らが借金をしてまで全株式を買い取ったことは経営者としての自覚の強さと思われる。

子豚販売から肉豚販売へ

英剛氏は将来的な売上増と経営リスクマネジメントの観点により、種豚生産に伴って生産される子豚のうち去勢を肉豚まで仕上げて販売することとした(写真2)。



子豚販売から肉豚販売への切り替えに当たり肥育豚の生産を増やす必要があった。そこで、愛知県の柴田農場と杉山農場を買い取り、規模拡大を図った。子豚から肉豚へ販売を転換したことにより、利益率が向上し経営の安定化に一役買っている。

現在、春野コーポレーションの肉豚販売は売上の7割を占めており、売上額については、英剛氏の代表取締役就任前の平成23年の7億1000万円から、26年は9億5000万円と、わずか3年間で大きく増加した。

エ 課題への対応と今後の展望

(ア)労働力の確保と人材育成 〜女性および高齢者の積極採用と農場ミーティング〜

同社は、現在28人の役職員で構成されているが、今後規模拡大を目指しているため、労働力の確保に取り組んでおり、平成28年は女性2名を新規採用した。今後も女性を積極的に採用したいと考えている。また、社員の年齢構成は20代が5割、60歳以上のパート社員が3割となっており、性別や幅広い年齢の採用を行っている。60歳以上のパート社員の採用には経験は求めず、豚が好きかどうかを基準にしている。これは、豚が好きであれば豚が快適に過ごせるよう考え、日々の飼養管理に対する取り組み方が徹底されるためである。

また新規採用だけでなく、現在働いている社員に継続して働いてもらうためには、人材育成も重要な課題であるとしている。

事業を拡大し始めた当初は、社員の離職率が非常に高かったことから、英剛氏は経営セミナーに参加し、経営コンサルタントからアドバイスを受け始めた。セミナー受講前は、福利厚生の充実や、給与水準の向上が社員の喜びにつながると思っていた。しかし経営セミナーで「社員が業務に不満を残さず、楽しく取り組めるようにしなければ、社員のやる気をひきだせない」というアドバイスを受けた。そこで、社員が主体的に業務に取り組むことができるよう、農場ミーティングや研究発表の場を設けた。

ミーティング開始当初は、皆消極的で単なる現状報告だけだったものが、回を重ねるごとに、現在の繁殖・肥育成績とその要因、それに基づく半年後の目標値を提示するなど、発表の質が大きく向上している。

英剛氏はこのような取り組みを通じて社員の成長を促し、将来的には独立できるような社員が出てくることを期待している。

(イ)経営の見える化 〜決算書作成と社員へのフィードバック〜

英剛氏は、コスト削減による経営改善を課題としている。このため、英剛氏は毎月決算書を作成し全社員に公開し、自分が所属する会社の経営状態を把握させることに努めている。これは、先代の経営では人員管理やコスト計算、餌の管理などを長年の勘で行っていたが、これらをすべて数字で明確化し経営全体を把握する必要性を感じたためである。

英剛氏は「決算書は通信簿」と語り、自ら会計ソフトのプログラムを使用して、税理士とともに決算書を作成することで、毎月の収支が明確に見えるようになり、部門ごとに弱点を把握することができた。この結果を、農場単位の経営収支にとりまとめ、農場長へ送付している。農場長はこの農場単位の経営収支を社員にわかりやすいように加工して配布している。

決算書を分析するに当たり、1頭当たりの生産コストをどこまで下げられるかを重視し、種豚の産子数を増やすといった繁殖成績の向上だけではなく、給与飼料のロスを減らすよう意識している。会社として農場ごとの適切な飼料使用量を定め、月ごとそれを確認するという管理を徹底しており、英剛氏も農場視察の際はスノコの裏まで飼料がこぼれていないか確認するなど給与飼料のロス削減に役職員が一丸となり努めている。

飼料要求率(注2)は、飼料給与量や発育増体、事故率などが影響するが、飼料給与量のロス削減に努力したこともあり、肥育豚の飼料要求率は、英剛氏の経営承継前の3.0から2.5にまで改善した。今後も、引き続き飼料ロスの削減に取り組むよう社員に意識付けを行っている。

(注2) 飼料要求率とは、豚1キログラム増体させるのに必要な飼料量。農林水産省による家畜改良増殖目標(平成27年3月)によると、肥育豚の飼料要求率の全国平均は2.9となっている。

このように皆で努力した結果は毎月の経営収支に反映される。社員にフィードバックされる経営収支の変化から、社員の努力の結果が目に見えてわかるようになっ。英剛氏は、「10億円という売上を管理しているが、その中の100円単位まで経営者として自分が把握していなければ、社員の努力が見えてこない」と語り、経営者として毎月の決算書作成を大切にしている。

このような形でコストカットを行った分は、種豚改良部門での保有原種豚の大幅な更新や、海外の純粋種の導入といった積極的な投資につなげている。

オ 春野コーポレーションの特徴

英剛氏は、労働力の確保に対し女性と高齢者を積極採用している。また、人材育成については、農場ミーティングを行い社員が発表する機会を設けたことで、社員が仕事に対し主体的に取り組むようになった。

先代の代表取締役の経営においてコスト管理が十分でないと考えていた英剛氏は、事業承継後、この課題に対し毎月決算書の作成を行い、経営の見える化に取り組んだ。この決算書から分析される農場の成績を社員にフィードバックすることで、社員が会社の経営状況を把握できるようになり、社員1人1人が現場の改善にどのように取り組むべきか意識付けが図られ、経営が効率化した。

このように、社員のやる気を育み、チームとして経営への参加意識が生まれたことが、離職率の低下にもつながっていると思われる。

(2)有限会社浦ファーム 〜生産コスト低減と収益向上による経営の安定化〜

ア 経営の概要

浦ファームは福岡県糸島市東部の水田地帯に立地しており、糸島市は福岡市中心部から車で30分の好立地と豊かな自然を売りにし観光客が多く訪れる。浦ファームの経営概要を表3に示した。



イ 経営参画の経緯

浦ファームは、先代代表取締役の浦正克氏が60年程前に母豚1頭から養豚業を始め、今では年間出荷頭数5000頭規模まで拡大した。現代表取締役うらかつとし氏(45歳)は、正克氏の長男である。当初は養豚業を継がず他業種に就いていたが、家業の養豚業を手伝うこととなった。20歳ごろ(平成2年)には父親から、生活協同組合連合会(以下「生協」という)との大きな取引を任されるなどの経験を積み、徐々に経営へ参画した。また、青年会議所にも所属し、海外や日本各地を飛び回り、その中で異業種とのつながりやいわゆる営業マンに近い感性を育むことができた。

克稔氏は経営に参画した当初、安全・安心な肉づくりをモットーとした父親の経営方針を踏襲していた。ところが、38歳の時(20年)に、大きな交通事故に遭い、回復後は「残りの人生は色々なことに挑戦しよう」と決め経営方針を大きく転換させ、この頃から豚トレーサビリティの導入や銘柄豚の生産、6次産業化に着手した。父親の正克氏は、こうした息子の経営方針の転換に対し何も口出しせず克稔氏に経営のすべてを任せた。

27年、父である先代代表取締役の死去をきっかけに、克稔氏は浦ファームの代表取締役に就任した(写真3)。



ウ 経営に参画して苦労した点・経営を改善した点

浦ファームの経営の特徴は、(ア)飼養管理の徹底による安全・安心な肉豚生産、(イ)銘柄豚の受託生産、(ウ)6次産業化の3点である。

(ア)飼養管理の徹底による安全・安心な肉豚生産

「安全・安心な肉づくり」は先代代表取締役からの経営方針であり、食品の品質や安全性、環境への配慮、産直活動にこだわった商品を組合員に提供している生協と経営方針が合致したことから、25年以上前から「有限会社紅会(以下「紅会」という)を通じて取引を開始している。

紅会とは、生協指定の飼養基準に則って肉豚生産を行う生産者のグループであり、浦ファームを含む福岡県と佐賀県の5戸の生産者が所属している。紅会では、生協への出荷頭数(1月当たり1000頭)の各生産者の割り振りを決定するほか、配合飼料の購入や種豚の導入などを共同で行っている。

生協に出荷するにあたり、哺乳期間や抗生物質の使用、飼養密度、飼料(指定配合)などについて厳しい飼養基準が設けられている。この基準を順守することにより、飼養管理の徹底につながっている。

また、20年ごろから飼料用米の利用を始めた。克稔氏は、自社の経営理念や輸入トウモロコシ価格が高止まりしていることを踏まえると、輸入飼料を可能な限り国産に置き換えていく必要があると考え、生協と協力して九州中から飼料用米を調達し、飼料(指定配合)のうち1割を飼料用米に置き換えて給与している。飼料用米を配合し始めてからも、肉色に遜色はなく、かえって肉豚の増体は良くなっているため、27年12月からは、飼料用米の割合を2割に引き上げる試みを始めている。

(イ)銘柄豚の受託生産

浦ファームでは、各種銘柄豚の受託生産にも取り組んでおり、現在受託生産している銘柄豚には、「朝倉あさくらどんまい」、「ふうとん」、「01ゼロワンポーク」の3つがある。取引先の要望に応じて、肥育後期の仕上げ(出荷前の2カ月間)に与える給与飼料が異なり、「朝倉豚米」には福岡県朝倉市産の小麦を、「風豚」には竹炭を給与している。

こうした受託生産のメリットは、自社で銘柄豚を考案し新たに販路を開拓するよりも、売り先が確保できているため安定的な取引が可能な上、受託手数料を得ることができる点である。このように、取引先のニーズを汲み取った肉豚の受託生産により収益の向上を図っている。

(ウ)6次産業化

浦ファームでは取引の9割を生協と行っていたが、克稔氏は経営者として、生協以外にも販路を拡大することは経営の安定化につながると考え、平成20年に株式会社伊都の宝(以下「伊都の宝」という)を設立し、自社精肉の直売所「うらの牧場」をオープンした。浦ファームから伊都の宝への出荷は年々増加しており、現在では出荷頭数の約4割を占めている。

伊都の宝の顧客層は福岡市や北九州市の観光客が中心で、リピーターとなる人も多い。この他、福岡県内のゴルフ場やJA糸島の直売所「さいさい」でも同社の商品を取り扱っているため、浦ファームの商品に興味を持った客が直売店に足を運ぶ構図となっている。

また、県の6次産業化振興事業による認定を受けて加工施設を増設し、25年からは伊都の宝での加工品の製造・販売も始めた。

さらに、飲食店などに対する業務用取引にも対応しており、その取引量は年々増加傾向にある。業務用取引に当たり克稔氏が重要視していることは、対等な取引を行うということである。克稔氏は、商品の価値に理解なく買い叩くような飲食店と取引を行うと一次産業が日の目を見る日は来ないと考えており、商品の価値を理解してくれる者との取引を行うようにしている。

(エ)その他

現在、伊都の宝では、内臓のすべての部位と骨、豚足などの副産物を加工し販売している。販売当初は思うように売れなかった豚足はその認知度が徐々に広まり、最近では供給が追い付かないほどの売れ行きである(写真4)。このように、副産物を加工して付加価値を付けて販売することにより、収益のさらなる向上を実現している。



また、福岡市内の取引先であるラーメン店のフランチャイズ展開に伴い、これまで加工販売していたチャーシューやとんこつに加えて、フランチャイズ店舗用のスープを同社で製造することになり、これまで豚足や角煮の加工・製造だけに限られていた機械の稼働率を上げることができた。

伊都の宝では直売のほかに、インターネットによる新たな販路の拡大に取り組んでいる。平成28年1月からはソーシャルネットワークサービス(SNS)担当者を雇用して、宣伝活動を行いインターネット販売の増加につなげている。さらにイベント案内や注文受付ができるアプリケーションソフト(アプリ)の開発に取り組みたいとしている。

エ 課題への対応と今後の展望

自社農場の周囲には一般の住宅も点在しており、近隣住民に配慮する必要があるため、家畜排せつ物への対応という課題に対し、同社ではバイオガス発電(注3)を導入した。導入に当たっては、国内外のバイオガスプラントを3年がかりで視察を行った。

バイオガスプラント導入のメリットとして、糞尿の臭いを抑制でき、さらに必要な電気を自家発電できることにより熱動力費のコスト削減が見込めることが挙げられる。また、浦ファームでは尿処理に複合ラグーンシステム(注4)を使用しているため、バイオガスプラントから発生する残渣の処理にも対応可能である。

今後の展望としては、まず肉豚のブランド化の1つとして、近県にある緑茶の生産工場から出る緑茶の搾り粕を飼料に添加した肉豚の生産を考えている。

次に浦ファームでは取引先からの引き合いも強いことから生産規模を拡大し、肉豚の生産増を考えているが、近隣に住宅があることなどから、農場の拡大が難しい状況にある。このため、契約農場を増やし他農場への委託生産などにより規模拡大に取り組みたいとしている。

(注3) バイオガス発電とは、家畜排せつ物から発生するメタンガスを発酵させて可燃性のバイオガスを取り出す発電方式。

(注4) 複合ラグーンシステムとは微生物による汚水の浄化処理を半永久的に繰り返して行うことのできる廃水処理方式。

オ 浦ファームの特徴

克稔氏は経営を行う上で問題意識を持ち、その問題を解決すべくさまざまなアイディアを実行に移している。先代から続く生協との安定的な取引だけでなく、そこを主軸に置きつつ、販路の多角化を考え6次産業化に取り組み始め、直売およびインターネット販売や豚肉と副産物の加工品の業務用販売に取り組んでいる。また、銘柄豚の受託生産については、取引先が確保されているため安定取引を行うことができる。一方で、近隣の住環境に配慮し、家畜排せつ物への対応という課題に対しバイオガスプラントの導入といった新しい試みを行うなど、経営安定させつつ、攻めの姿勢というバランス感覚に優れた経営に取り組んでいる点が同社の特徴である。

4 おわりに 〜若手生産者の努力〜

アンケート調査の結果を見ると、今後の養豚経営の方向性は大きく(1)生産性向上による安定供給と(2)高品質・高付加価値生産による収益の増加の2つがあり、法人か個人かという経営形態や飼養規模の大小に関わらず、この実現が養豚経営の安定化につながると思われる。

しかし、一概に「生産性向上による安定供給・収益の増加」と言っても、これを実現するには、各経営体の状況に応じて、資金調達や設備投資に対して合理的な判断を行う必要がある。経営コンサルタントといった外部の専門家を活用し、アドバイスをもらうことも必要ではあるが、最終的な判断を下すのは養豚経営者自身であり、養豚経営者には、高い経営管理能力が求められる。このような状況を見ると、単に後継者だからと言って事業を承継することに対して不安を感じるのは当然である。

本稿で紹介した若手生産者も、養豚経営をとりまくさまざまな課題に直面している。春野コーポレーションは経営の見える化や人材育成といった工夫で、浦ファームは安定した販路を持ちつつ新たな販路を開拓するなどの工夫で、目の前の課題の解決に一つずつ取り組んでいた。また、若手生産者ならではの柔軟な発想と行動力で、さらなる事業戦略の推進に取り組んでいた。

ここに取り上げたのは、養豚経営上の課題に対する取り組みの一例ではあるが、養豚経営に携わって間もない若手生産者の方や、これから事業を承継したり、新規に養豚経営に取り組んでみようと思案中の方が、養豚経営を行う上でどのようなことが課題となるのか、それに対しどのように取り組み安定的な経営を継続するかのヒントとなれば幸いである。


				

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