特 集  畜産の情報 2016年2月号

和牛の輸出拡大に向けて

全国農業協同組合連合会 畜産総合対策部 次長 小島 勝


 2015年12月8日、農林水産省は、2015年の農林水産物・食品の輸出額が過去最高を更新し、7000億円を突破する見通しであり、輸出額1兆円の目標を2020年から前倒しで達成する見通しであると公表しました。畜産物も1〜11月の輸出額が96億円(前年同期比35%増)であり、通年で予測すると110億円強となるもようです。特に牛肉はここ1〜2年、前年の3割から4割増加で輸出が拡大しています。

 これまで、全農グループの和牛輸出の歴史は比較的古く、26年前の1990年にさかのぼります。当時は、生産者団体「全農」として「和牛」を世界に認知してもらうことを第一義に、牛肉の輸出が解禁となった米国へ、和牛輸出を開始しました(日本全体で月間1トン程度の輸出で、全農がそのほとんどでした)。

 その後、海外での日本食ブームもあり、米国のみならず香港を中心とした東南アジア各国へも輸出が解禁となり、1999年度の日本全体の牛肉輸出は、年間約300トンに拡大してきました。しかし、2000年3月の口蹄疫発生、2001年9月のBSE発生、さらに2010年4月の口蹄疫の再発、2011年3月の東日本大震災による原発事故の発生(放射性セシウム汚染牛肉)と大きな災害に見舞われ、そのたびに輸出禁止になりながらも全農グループは、和牛輸出事業を継続してきました。2012年以降、輸出可能国の増加や国内の輸出認定食肉処理場の拡大により、全農グループの和牛輸出は日本全体の伸びと同様、飛躍的に拡大してきています。

 家畜疾病や原発の災害に見舞われながらも、こうした長い期間、全農グループとして和牛輸出を継続して取り組んできているのは、和牛輸出が国内の牛肉生産基盤にとって重要な意義ある取り組みだからです。その意義とは、今後、少子高齢化の進行により、国内の人口が大幅に減少し(2060年の45年後には現在から4000万人も減少し、8600万人と推計:年齢区分別将来人口推計参照)、国内での牛肉の販売市場の大幅な縮小が見込まれるなか、海外の富裕層をはじめとして、特に高級グレード・高級部位の市場を確保し、牛肉の総需要を伸ばすことにあります(図1)。そのことが、「国内枝肉相場の維持」や「牛肉生産基盤の維持・拡大」につながり、さらに海外で和牛の評価が向上し、多くの国への和牛輸出が拡大することにより、生産者の生産意欲の増大につながるからです。

 ここ1〜2年牛枝肉相場は高騰が続いていますが、上記のような日本の人口動向から、海外での和牛市場の確保・拡大は必要な取り組みですし、2013年の「和食」のユネスコ無形文化遺産登録や2015年の「地球に食料を、生命にエネルギーを」をテーマとしたミラノ国際博覧会も追い風になっています。

 また、和牛は、その食材自身の「希少性」(全世界の年間と畜頭数約3億頭のうち、和牛は50万頭のと畜頭数しかない)、「見た目、食味を含めた品質」は他の牛肉と明確に「差別化」できる商品であると確信しており、今が大きなチャンスだと考えています。

 一方、昨今の大きな変化として、訪日外国人旅行者の急激な増加があります。図2で示すように、訪日外国人旅行者は、2013年以降、急激に増加しており、2015年の予測では少なくとも1800万人を超え2000万人に近づく勢いです。こうした訪日外国人旅行者の方々に、日本の文化に触れながら和牛を堪能していただくことで、自国に帰っても「日本で食べた和牛がとてもおいしかった、自国でも食べたい」という和牛の口コミによる普及宣伝により、確実に需要が拡大すると考えており、今後、特に力を入れて取り組んでいきたい事項です。

 もう1点、全農グループの特徴的な取り組みとして、海外での店舗展開が挙げられます。和牛の海外での需要を拡大させるためには、和食および日本文化の普及は欠かせないものと考えています。全農グループ自らが、海外の消費者に和牛をはじめとした日本の食材を使用したさまざまな日本食料理を提供することにより、海外で主流であるロース、ヒレのステーキ中心の牛肉料理だけでなく、カタロースやモモ、バラなど他の部位も含めたすき焼き・しゃぶしゃぶなど日本独特の調理方法による和牛の食べ方と食味をじかに消費者に伝えられます。このことにより、和牛を輸出しやすい環境作りに貢献できると考えています。

 これまで全農グループは、2013年2月に香港に和牛焼肉店「純」を開店し、翌年の2014年4月に米国、ロサンゼルスのビバリーヒルズに創作和食店「Shiki」を、同年7月に香港の和牛焼肉店「純」2号店を開店しました(写真1、2)。そして、2015年11月に英国のロンドンに伝統的和食店「Tokimeitē」を開店させました(写真3)。今後も、世界の主要都市には、和牛をはじめとした日本食材と日本文化の普及・拡大を目的とした店舗展開を続けていきます。

 結びに、海外における和牛の認知度は徐々に高まっているものの、まだ国により温度差が大きいのが現状です。

 そうした中で、ALL JAPANを旗頭に和牛の認知度を上げていくための取り組みを国の施策とも連動させつつ、次の事項に注力していくことが大切だと考えます。

 1つは、各国ごとの和牛の普及度合いに応じたきめ細やかな輸出促進・販売活動を行うことです。

 2つ目は、ALL JAPANとしての国の施策に結集しつつ、インバウンドと連動させた各県行政(県産和牛振興)の輸出の取り組みや経済ベースでの民間企業の輸出事業を連携させ、それぞれにメリットある輸出促進活動を展開していくことです。

 また、まだまだ和牛の普及度合いは低いものの、全世界に約5億人以上いると言われるイスラム文化圏への和牛の輸出拡大も大きなテーマだと認識しています。しかし、一方で牛肉のと畜加工処理における宗教対応上(ハラール処理)の肉質に関する課題など、まだ解決すべき事項もあり、今後の課題です。

 これらのことも含め、全農グループとしても国の目標額である2020年の牛肉輸出額250億円の一翼を担えるよう和牛輸出を促進していきます。

(プロフィール)
小島 勝(こじま まさる)
昭和57年4月 全国農業協同組合連合会(全農)入会
平成16年1月 同近畿畜産センター事業管理部長
平成23年1月 同畜産総合対策部次長

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