調査・報告 畜産の情報 2016年1月号

養豚の生産性向上に向けた取り組み

畜産経営対策部 養豚経営課


【要約】

 養豚経営においては、母豚の繁殖性や肥育豚の事故率などの生産性は経営を左右する重要な要素である。今回、全国6経営について調査したところ、基本技術の忠実な積み重ね、各経営に適した飼養管理技術の確立、人材育成、新たな設備の導入を核とした生産性の向上の取り組みが展開されていた。これらの取り組みは、繁殖性の向上と事故率の低減による肥育豚の出荷頭数の増加だけでなく、それ以外の面で収益性を高めたり、コストの低減を実現するなど経営の収益性に良い影響を及ぼしていた。

1 養豚経営の概況と粗収益の状況

(1)飼養頭数2000頭未満の経営体が約8割

 わが国における肥育豚飼養戸数は年々減少し、平成26年は4754戸と5年の1万6960戸の約3割となっている(図1)。

 一方、1戸当たり肥育豚飼養頭数は、平成5年は1戸当たり426頭であったが、年々増加し、26年には4.6倍の同1942頭となっている。この1戸当たり肥育豚飼養頭数の大幅な増加については、5年から26年にかけて2000頭以上の戸数が約1.4倍に増え、逆に、2000頭未満の戸数は約2割に減少していることから、規模拡大の進展と中小規模層の廃業によるものであることが伺える。

 しかしながら、26年においても2000頭未満の経営体が占める割合は、約8割となっており、わが国における養豚は、依然として中小規模層が戸数の太宗を占める構造にある。

(2)配合飼料価格はコストの大きな変動要因

 平成26年度の肥育豚1頭当たりの生産費の内訳を見ると、飼料費が66%と生産費の大半を占める(図2)。肥育豚の飼料の9割以上は配合飼料であるが、その原料は輸入に依存しているトウモロコシや大豆かすなどが中心であることから、配合飼料価格は穀物などの国際相場や為替によって変動し、肥育豚の生産費に大きく影響する。

 配合飼料の工場渡価格の推移を見ると、17年以前は1トン当たり3〜4万円程度で推移していたが、18年以降には上昇基調となり、26年には同6万円を超える水準となっている(図3)。

 このような配合飼料価格の上昇が大きな要因となって、26年の肥育豚1頭当たりの飼料費は2万3100円と、17年に比べて21%増加し、これに伴い肥育豚1頭当たりの生産費も上昇している。

(3)生産性向上は経営の安定化に不可欠

 経営状況を示す所得は、粗収益から物財費などを差し引いて求められる。図4にあるように、肥育豚1頭当たり所得は、豚の枝肉価格の相場で粗収益が変動するのに加えて、配合飼料価格などによる生産費の変動もあって大きな変動を示している。

 このような環境下で経営を安定させるためには、物財費の低減と経営としての粗収益の増加に取り組むことが必要である。

 物財費の低減には、最も大きな飼料費について飼料自体の低コスト化(注1)や肥育豚の増体・飼料効率を向上させることが有効である。また、経営としての粗収益の増加には、母豚から多くの肥育豚の出荷を得る必要があり、そのためには出産頭数を増加させ、その後の事故率を改善させることが有効である。

 実際の生産現場では、飼料給与体系、畜舎環境、衛生対策などの飼養管理や種豚の能力向上について総合的に取り組んでいく必要がある。次章以降では、そのような生産現場での生産性を高めるための取り組みを紹介する。

(注1) 物財費の低減などの調査については、弊誌2012年4月号「養豚経営の現場でみられる飼料コスト低減への
    動き〜エコフィードの取組を中心に〜」および2013年8月号「養豚経営体における飼料用米活用に係る取り組み
    について」にて報告しているので、参照されたい。

2 生産性の向上に向けた取り組み

 養豚経営の生産性の向上を図るには、飼養・衛生管理の改善による家畜生産性の向上と、機械化・装置化による作業効率の改善により労働の効率化を図る労働生産性の向上といった二種類の方向性が存在する。本報告では1母豚当たり肉豚出荷頭数を増加させるための生産性向上の取り組みとして、(1)繁殖性の向上、(2)事故率の低減、(3)労働生産性の向上に着目した。

 (1) 繁殖性の向上については、養豚の一貫経営において、母豚の繁殖成績が優れていれば、離乳頭数の増加ひいては出荷頭数の増加につながり、経営の粗収益の増加に直結する。このため、まずは繁殖成績の向上が望まれるところであるが、繁殖性を左右する要因は、母豚そのものの繁殖能力や飼養管理、施設、衛生環境などさまざまである。

 (2) 事故率の低減については、子豚から肥育豚を通じて、呼吸器疾病や下痢などが発生すれば、発育遅延や飼料効率の低下につながるため、豚舎の清浄を保ったり、病気の侵入防止は常に必要とされる。最近では、平成25年からわが国でも豚流行性下痢(以下「PED」という)の発生が確認され、多数の農場で子豚の死亡など多大な被害がもたらされた。このため、今回調査したすべての経営体においても、病気の侵入防止対策に力を入れていた。繁殖成績の向上と相まって、子豚や肥育豚の事故率を低減させることができれば、出荷頭数を効果的に増加させることが可能となる。

 (3) 労働生産性の向上は、投下労働時間(人)当たりの畜産物生産量などの指標で示すことができ、労働の面からの経営効率を比較することができる。労働生産性は、飼養している豚の能力を引き出すことはもとより、機械化や装置化、人材育成など飼養管理方法の改善などによって向上することができる。

 本報告では、取り組みの内容や経営規模などを考慮して、6経営体を調査し(表1、表2)、取り組みの効果や収益性への影響を考察した。

(1)有限会社江原養豚(群馬県高崎市)

事故率の低減 〜無投薬豚の生産〜

 有限会社江原養豚(以下「江原養豚」という)は、農場全体の疾病浸潤状況を把握するため、飼料会社の検査センターに委託して、春と秋の年2回定期で血清抗体検査や細菌検査などを実施している。なお、肥育豚は、30日齢ごとに検査対象とし、母豚は、未経産、1〜3産、5産、6産以上と各ステージ3頭ずつ検査を行っている。

 また、従来から、台帳に記帳していた生産記録をデータ化したトレーサビリティシステムを採用している。これは、母豚は個体管理カードに繁殖成績など一般的な情報を記録し、肥育豚は1豚房20頭の群管理により、分娩日や離乳日、給与飼料などの出生から出荷までの生産履歴情報を管理するものである。

 さらに、治療を必要とする豚を出荷まで隔離飼養したり、オールイン・オールアウト(出荷の後、豚舎を空にした状態で、洗浄・消毒を徹底してから次の肥育豚群を受け入れる)方式を採り入れるなど、衛生水準を高く維持する取り組みも行っている。

 こうした取り組みにより衛生水準を高めた結果、可能となったのが、抗生物質、合成抗菌剤、駆虫剤などを含まない飼料を用いた無投薬豚の生産である。きっかけは、同社の高度な衛生環境を熟知していた担当獣医師からの紹介で、試験的に無投薬の飼料による生産を100頭から実施したところ、事故率15%(死亡豚5頭、病気の治療豚10頭)で出荷することができた。この事故率ならば継続可能と判断し、平成13年から本格的に無投薬豚の生産に着手している。その後、16年には、増体に優れるSPF(注2)種豚を導入し、無投薬による肥育期間の長期化などのデメリットを補いつつ、全体事故率5%を達成している。

(注2) 豚の健康に悪影響を与える特定の病気が存在しない豚のことを指し、日本SPF豚協会が定めた基準に基づき、
    徹底した飼育コントロールの下で育成された肉豚。

(2)有限会社大野ファーム(大分県豊後大野市)

(1)繁殖性の向上 〜ハイブリッド種とベンチマーキングの導入〜

 有限会社大野ファーム(以下「大野ファーム」という)の繁殖成績は、1母豚当たり年間出荷頭数が28頭、平均分娩回数が2.6回と高く、飼養する母豚約200頭に対し年間出荷頭数は5600頭、1母豚当たり枝肉出荷重量は2000キログラムを超える(表3)。このような高い成績を可能にしたのは、ハイブリッド種の導入とベンチマーキング(注3)の活用である。

 ハイブリッドの種豚導入によって、1母豚当たり年間出荷頭数は品種転換前の23頭から年々増加し、平成25年には28頭となった。また、受胎率を向上させるため、全ての種付けは自家採精の人工授精(以下「AI」という)で行っている。

 さらに、同社は約70戸の養豚事業者が参加するベンチマーキングに参加し、四半期ごとに自農場の立ち位置を確認し経営改善に役立てている。例えば、分娩回数に問題があると判明した際は、産次構成を見直している。また、増体重や農場飼料要求率に課題が見つかった際には、飼料をマッシュからクランブル(注4)に変更している。

(注3) 繁殖成績や肥育成績などの各種成績を経時的に測定し、自農場と他農場の数値を比較して経営改善に
    役立てる手法。現在では複数の飼料会社などがサービスを提供している。

(注4) 飼料原料を粉砕した粉状の配合飼料がマッシュであり、マッシュを蒸気加熱し、加圧整形したものがペレット
    (固形)である。クランブルはペレットを荒砕きしたもので、豚用飼料として殺菌効果と消化吸収に優れるとされる。

(2)事故率の低減 〜徹底した消毒管理〜

 大野ファームは、防疫対策として有効とされるオールイン・オールアウト方式については、豚舎の構造や農場の敷地面積などの制約もあり対応できていない。このため、ウイルスなどの侵入防止対策を徹底している。その成果は、平成26年に大分県内で約1万頭が発症したとされるPEDが同社でいまだ発生していない点にもみてとれる。

 具体的には、ヒトとモノの出入り管理を徹底しており、車両や機材は農場入口に設置された消毒ゲートで複数回消毒される(写真4)。また、豚舎内は随所が石灰に覆われるなど定期的な洗浄・消毒がなされ、日頃から衛生管理を徹底している(写真5)。同社のこれらの取り組みの全ては、PEDの侵入阻止を目的に始められたものではなく、以前から近隣住民への配慮や連続飼養の問題に対処すべく実践されたものである。こうした衛生面への配慮や基本的なルーチンワークを怠らない姿勢が事故率の改善につながり、離乳後事故率は3%となっている。

(3)ノグチファーム(茨城県神栖市)

(1)繁殖性の向上 〜三元豚からハイブリッド種へ〜

 ノグチファームは、三元豚(LWD)を飼養していたが、英国系のハイブリット種豚に切り替えた。これは、産子数の多い品種に切り替えることで、より安定した生産基盤を確保できると考えたためである。また、多産系のハイブリット種は、一般的な三元豚に比べて胴が長く、母豚のストールを長くする必要があったため、平成4年の豚舎建て替えの際に導入を決定した。現在は、日本市場をターゲットにさらに育種改良され、高い繁殖能力と強健性、連産性に富んだ特徴を持つハイブリット種を導入している。これによって、1腹当たり平均生産頭数は導入前の10頭から13頭と大幅に増加した。しかし、当該品種は、発育スピードが遅くなるというデメリットもあり、現在、肥育期間の短縮など改善の余地はあるとしている。

(2)事故率の低減 〜生菌剤の利用〜

 ノグチファームの野口昭司氏は、個人の生産者としては、日本初となるSPF豚の生産と肥育に成功した実績もあり、清浄性の高い農場を有している。また、SPF豚の作出に当たり、分娩後の子豚の飼料や薬剤の給与に粘り強く努力を重ねた経験を生かし、事故率は2%程度を達成していた。

 同農場では、事故率をさらに低減するため、平成26年から生菌剤を配合飼料に添加している。その効果は、離乳後の子豚の成長安定化作用と、腸内免疫の活性化による抗体生産の増強などであり、抗生物質を投与することなく、発育の向上と抵抗性の維持安定化が得られるとされる。

 生菌剤を子豚に給与し始めてから、常時飼養されている約300頭の子豚が下痢にかからなくなり、給与後の事故率は1%まで低下している。また、年2回の子豚の血液検査の結果を受け、獣医師からは「活力にあふれた子豚である」との評価も得ている。なお、生菌剤は通常4カ月齢(45キログラム)までの子豚用飼料として使用されるものであるが、同農場では、これを6カ月齢(70〜75キログラム)の肥育期まで使用している。この結果、給与前と比べ肥育豚の発育が向上し、肥育期間の10日ほどの短縮に成功している。

(4)株式会社山形ピッグファーム(山形県東村山郡)

(1)繁殖性の向上 〜AIによる適期交配の実施〜

 株式会社山形ピッグファーム(以下「山形ピッグファーム」という)は、繁殖成績を向上させるため、平成23年にAI舎を建設し、現在、原種豚を作る以外、全てAIで交配しており、その割合は9割となっている。また、25年から飼料の給与時間を変更し、毎朝の種付けを優先して行っている。これは、コンサルタントから早朝に発情確認を行う方が良いとのアドバイスを受け、朝に行っていた給餌を昼前にし、代わりに早朝に発情確認、種付けを行うように変更した。適期交配を重視したことで、見回り回数が増加したものの、平均分娩回数は取り組み前の2.3回から2.4回へと増加、1母豚当たり出産頭数も11.0頭から11.2頭へと増加した(表4)。なお、取り組みを開始してから日が経っていないため、数値的には微増にとどまっているが、今後より効果が表れてくるとしている。

 さらに、同社では、産子数向上のため、一部の出荷先用にオランダ系のハイブリット多産系種豚を導入し、専用豚舎も建設している。これにより、専用豚舎の1母豚当たり出産頭数は、13.2頭と他の豚舎より良い成績となっている。

(2)事故率の低減 〜ワクチン接種による事故率改善〜

 山形ピッグファームでも、基本に忠実な病気の各種侵入防止対策は施されているが、さらにサーコワクチン(注5)を使用した事故率の低減に取り組んでいる。具体的には、ワクチンメーカー4社のワクチン比較試験を行い、副作用や事故率、接種後の増体率、肥育期間などの項目において、それぞれの性能に総合的に特化したワクチンを使用している。これにより、取り組み前の平成21年の時点で、全体事故率は12%(子豚事故率3%、肥育豚事故率9%)であったが、取り組み後は同6.5%(子豚事故率2%、肥育豚事故率4.8%)にまで改善し、同社では副次的な効果として、病気の治療回数が減少したとのことである。

(注5) 豚サーコウイルスに感染すると、離乳後の発育不良や削痩などを引き起こす。わが国でも平成8年に発生が
    確認され、20年にワクチンの認可が下りた。

(5)有限会社菊間仙高牧場(愛媛県今治市)

(1)繁殖性の向上 〜AIの導入と暑熱対策〜

 有限会社菊間仙高牧場(以下「菊間仙高牧場」という)では、繁殖成績を向上させるために、平成9年からAIを導入したが、当初は結果が出ず、内部からの反対意見も多かったという。しかし、当時、分娩を担当していた森田社長の「継続することで職員の技術が向上し、結果につながる」という信念の下、粘り強く続けた結果、受胎率が安定し、26年からすべて自家採精のAIに移行した。また、作業スケジュールも見直し、一日2回行っていたAIを午後1回に減らし、母豚への負担を軽減させている。現在では、妊娠鑑定や発情予測も採り入れ、さらなる受胎率向上に取り組んでいる。

 さらに、夏場の暑熱対策として、23年に交配舎ミストファン、分娩舎ダクトファン(写真8)およびミストファンを導入している。なお、これらの購入経費は400万円程度であったが、十分な費用対効果があると見込み、実際に、60%程度に落ち込んでいた夏場の受胎率が、80%程度にまで改善された。

(2)事故率の低減 〜飼養管理の見直し〜

 菊間仙高牧場では、オールイン・オールアウトを徹底し、さらに平成24年に導入した発泡消毒用機材(写真9)で、出荷後に空となった豚房の洗浄消毒を行うなど、豚舎間のウイルス伝播でんぱ防止対策が講じられている。さらに、PED対策として、農場内への入場前後の消毒や、外部関係者との接触後の農場への立ち入り制限など、より一層のウイルス侵入防止対策を強化しており、ウイルスに対する総合的な対策が実施されている。

 一方、給餌機の更新による飼養管理の改善も図られている。これは以前、水飲み場と給餌場を別々に設置していたため、豚舎内における豚の動線が乱れ、衝突による事故が多発していた。給餌機などのメーカーの研修を受けた若手職員からの提案もあり、水飲みと給餌が一体化した給餌機(写真10)を試験的に導入したところ、事故率の低減がみられた。このため、25年に全ての給餌機を更新している。さらに、夏場の豚の増体にも好影響を及ぼしており、年間平均出荷体重106キログラムから、更新後は、同116キログラムまで増加している。こうしたさまざまな取り組みの結果、直近5年間で事故率の半減に成功している(表5)。

(3)労働生産性の向上 〜人材育成と労働環境の改善〜

 菊間仙高牧場は、従業員の平均年齢が37歳と比較的若く、かつ新人の離職率はほぼ0%という、若手職員の育成や終身雇用を可能とした労働環境を実現している。これにより、熟練度の向上や職場全体の士気の高まりが期待され、長期的には労働生産性の向上につながると考えられる。

 具体的には、飼育ステージ別人員配置によって、総務・繁殖(交配、分娩、子豚)・肥育・環境の各部門において、日々の作業は曜日別、豚舎別に明確化され、休暇も取得しやすくなっている。また近年、ベテラン職員の退職が進み、若手職員が多くなったことから、人員配置を見直し、若手職員を、まず分娩舎担当にし、その後各分野に配置するようにした。これは、生産のスタートである分娩に携わることで、養豚への興味を持たせるという狙いがある。また、5年程度の配置換えもあり、多くの職員が養豚に関する幅広い知識や技術を習得し、作業レベルの向上につながっている。なお、人事異動のサイクルを短くして、作業員が頻繁に変わると、豚に不要なストレスを与えるため、この点についても配慮されている。

 また、職員には、肥育技術にとどまらず、薬品メーカーや機器メーカーなどが主催する各種研修を積極的に受講させ、幅広い知識を習得できるようにしている一方で研修生の受け入れも積極的に行っている。職員は研修生の指導を担っているが、研修生の指導は、若手職員にとっても、刺激を受ける機会となり、技術向上の一助となっている。

(6)有限会社ビィクトリーポーク(北海道苫小牧市)

(1)事故率の低減 〜ツーサイトと換気システムの導入〜

 有限会社ビィクトリーポーク(以下「ビィクトリーポーク」という)は、北海道余市郡の仁木農場を繁殖部門、苫小牧市の樽前農場を肥育部門として分離したツーサイトシステムを採用している。繁殖農場から導入する子豚は、早期離乳を行い、同一日齢グループで飼養し、オールイン・オールアウトを徹底するほか、フェンスや消毒ゲートの設置で病原体の侵入を防いでいる。また、PED対策として、自社の防疫マニュアルを作成しているほか、養豚関係者に対しては、農場への入場制限を行っている。同社は、オールイン・オールアウトの徹底や衛生管理について職員の意識を高めることにより、PEDのコントロールは可能としている。

 さらに、肥育農場の豚舎は、臭気対策を徹底するためにウインドレスとなっており、安全性や管理のしやすさからデンマーク製の換気システムを導入している。これは、水の気化熱を利用した冷却システムで、換気装置と組み合わせて、風量、風速、風向を制御することもでき、年間を通じた適切な温度管理による快適な畜舎内環境によって、事故率の低減を図ることが可能となる。

 このように総合的な衛生・飼養管理により、事故率を6%(平成25年)から4%(平成26年)に低減させている。

(2)労働生産性の向上 〜リキッドシステムの導入〜

 ビィクトリーポークは、平成21年に、海外穀物相場に影響されない豚作りを目指して、肥育農場新設に合わせてリキッドシステムを導入した。本システムは、ドイツ製で、原料のエコフィードを一時保管する倉庫およびリキッド飼料製造システム、リキッド飼料給餌システムの3つの設備で構成されている。調製されたリキッド飼料はコンピュータ制御により、豚の飼料要求量に応じて給与量を変えることもでき、きめ細やかな給餌が可能となる(写真12)。この結果、肥育期間を1週間程度短縮することが可能となり、さらに、市販の配合飼料の使用量を抑えることで、農場全体で飼料費を大幅に削減することができた。なお、エコフィードの利用によって、リキッドシステム導入後の、同社の飼料費は1頭当たり約1万8000円から同1万4500円までの低減に成功している。

 また、飼料製造と給餌の機械化により、従来は1日当たり2人が飼料管理のため常駐していたところ、1人が半日作業を行うだけで管理できるようになった。このように、労働生産性の向上につなげているほか、飼料製造および給餌に係る人件費の削減にも成功している。

3 収益性への影響

 前述のとおり、繁殖成績を向上させ、子豚や肥育豚の事故率を低減させれば、1母豚当たり出荷頭数の増加につながり経営の粗収益の増加に直結する。これは、すべての事例に共通して見られたことである。さらに、事例の中には、生産性向上の取り組みによって、出荷頭数の増加以外の面で収益を高めたり、コストの低減を実現したりするものもあった。

 まず、無投薬豚を生産している江原養豚は、「えばらハーブ豚みらい」という独自ブランドを確立し、これによって、会員制宅配会社など独自の販路を確保し、市場平均価格を上回る販売価格の引き上げにも成功している。

 次に、受胎率の向上のために、自家採精のAIに取り組んだ山形ピッグファームや菊間仙高牧場は、精液コストの削減につなげているほか、これまで大きかった母豚への負担が減り、耐用年数が延びるといったメリットを享受し、生産コストの削減を可能にしている。

 また、事故率低減のために生菌剤を給与したノグチファームでは、副次的な効果として、肉質が向上し、上物率が20%から40%へ上昇して、粗収益の増加につながっている。

 リキッドシステムを導入したビィクトリーポークでは、飼料費や人件費などの生産コストの削減や、肉質の向上といったメリットも大きい。長期的には、導入による利益は十分に期待できると考えられる。

4 まとめ

 調査した事例から見られる生産性向上の取り組みはそれぞれ、(1)基本技術の忠実な積み重ね、(2)各経営に適した飼養管理技術の確立、(3)人材育成、(4)新たな設備の導入を核として展開されてきた。今後、養豚において足腰の強い経営が求められており、最後にそれぞれの視点で再整理した。

(1)基本技術の忠実な積み重ね

 江原養豚の事例で見られたように、無投薬豚の生産という困難な飼養管理の方法を採る中、事故率の低減に成功している。ただし、同経営では無投薬豚生産を開始してから、事故率が常に安定していたわけではない。豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)や浮腫病のまん延により、一時は月間事故頭数が100頭を超える月もあったという。しかし、それまで蓄積したデータなどを活用し、病気はすぐに終息させており、基本に忠実な徹底した衛生・飼養管理の積み重ねが、現在の結果をもたらしている。

 また、ノグチファームの生産技術について、全体事故率が1%と非常に低い。その理由に、経営者の野口氏は生菌剤の給与による免疫力強化と水洗および石灰散布による衛生管理を挙げているが、これは基本に忠実な飼養・衛生管理を徹底することで実現したものと考えられる。

(2)各経営に適した飼養管理技術の確立

 山形ピッグファームは、サーコワクチンによる事故率改善や種付け重視の管理体制への変更により、現在の生産性をさらに向上させ、肉豚の安定供給を図るために、多産系種豚を導入し、その管理技術を確立しつつある。

 また、大野ファームは、ハイブリッドの利点やベンチマーキングの効果を最大限に生かした経営戦略を展開し、飼養管理技術を確立しているといえる。

 これらの取り組みは、昨今の業界紙や専門誌などで盛んに薦められている手法であり、取り立てて特別なことではない。しかし、多産系品種や新技術を導入すれば、容易に高い繁殖成績を収められるわけではなく、ベンチマーキングなどによって浮き彫りとなった弱点に対し、確実に対処する必要があり、高度な情報収集能力や迅速な経営判断も求められる。

(3)人材育成

 菊間仙高牧場は、徐々に従業員の世代交代が進む中で、風通しの良い職場作りを目指して、各飼育ステージの担当や農場長が、積極的に研修に参加したり、社長に気軽に提案できる体制を整備している。また、現社長の判断は、単なる賭けではなく、先代から引き継いだ技術や、細やかな検証に裏付けられたものであり、従業員からの信頼も厚い。意欲に満ちた若い従業員を育成し、生産性の向上につなげて、受胎率の向上や事故率の低減など、確実に結果を残している。

(4)新たな設備の導入

 ビィクトリーポークは、ツーサイトシステムや換気システム、リキッドシステムなど新たな設備を順次導入し、効率的な肉豚生産を実現している。特に、リキッドシステムの導入は、飼料調製・給与に係る労働時間や人件費を削減している。これらシステムの導入には、初期の費用や労力が掛かるものの、導入後は飼料費の削減や労働生産性の向上など、より大きなメリットが得られている。

(5)おわりに

 1母豚当たり年間出荷頭数は、全国平均で20頭程度とされるが、多い経営では30頭近い成績を達成しているところもあり、生産技術に経営間で差が開きつつある。これまで見てきた事例には、産子数増加が見込まれるハイブリット豚の導入を進める経営も多く見受けられた。一貫経営における生産性向上を考えたとき、繁殖性の向上と事故率の低減は車の両輪に例えられ、どちらか一方のパフォーマンスを上げればいいというものではなく、両者の実現が必要であり、そのための高い飼養管理技術が求められる。

 また、規模拡大にはふん尿処理の問題から土地の入手が困難とされ、中小規模の養豚農家戸数が年々減少の一途をたどる中、今回取り上げた事例の中には、限られた施設内で、あまりコストや労力を掛けなくても生産性向上に取り組めるものもあった。それぞれの農場で有効な飼養管理方法を検証し、本報告の中で参考となる事例があれば幸いである。

 最後に、本報告において事例として紹介させていただいた各養豚経営者の方々はもとより、ご多忙の中、本調査にご協力いただいた関係者の皆様に心より感謝申し上げます。


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