海外情報  畜産の情報 2016年1月号


2015/16年度の米国のトウモロコシ需給と
需給に影響を与える諸要因

調査情報部 平石 康久


【要約】

 2015/16年度の米国のトウモロコシの生産量は豊作であった前年度より減少するものの過去5カ年の平均と比べ6%以上上回り、収穫期の天候に恵まれほ場での乾燥が進んだことから、品質も良好であるとの見通し。バージや鉄道、海上輸送にも問題は見られず、輸送コストも前年度に比較して低廉である。ただし、為替レートが米ドル高で推移しており、日本の輸入価格はシカゴ相場ほど下落しない。

1 はじめに

 日本の配合飼料の45%はトウモロコシで構成されるが、そのほとんど全てを輸入に依存している。輸入先国としては、大干ばつであった2012年および同影響が継続した2013年を除くと、米国が8割以上の高いシェアを占めている。

 2015/16年度(穀物年度は2015年9月〜2016年8月。貿易年度は2015年10月〜2016年9月。以下、特別の記載がない限り以下同穀物年度および貿易年度をいう。)の米国のトウモロコシの生産量は、前年度より減少するものの過去5カ年の平均と比べ6%以上上回る見通しとなった。現地価格(シカゴ期近価格)を比較すると2012/13年度や2013/14年度と比較して、2014/15年度以降は低下しているが、米ドルの為替高の影響により、輸入価格は日本の畜産農家にとってはいまだ高い水準で推移している。価格動向は生産量だけでなく、在庫量、米国国内の飼料やエタノール需要、日本以外の輸出先国の需要に大きく左右されている。

 今回、11月中旬にワシントンDCおよびイリノイ州を訪問し、米国の生産、輸出、需要動向について米国国内の関係者へのインタビューを実施したので、各種資料と併せて報告を行う。

 なお、本稿中のドルは全て米ドルであり、1エーカーは0.40469ヘクタール、1ガロンは3.785リットル、トウモロコシ1ブッシェルは25.4キログラムを使用した。

2 世界のトウモロコシ輸出市場に占める米国の地位

 米国農務省(USDA)によると、トウモロコシ輸出に占める米国のシェアは2005/06年度には68%であったものが、2015/16年度には35%に低下すると予測されている(表1)。これは、主に強いドルにより、輸出先国での米国産トウモロコシがブラジル、ウクライナ産などのものに対して相対的に高くなっていることが要因となっている。

 ウクライナでは、小麦に比べトウモロコシの収益性が高いことに加え、海外品種の導入、施肥量の増加、農業金融制度の整備による資金調達コストの低下などにより生産量が増加した一方、国内の主な需要者である畜産業の発展が遅れているため、輸出が増加している。

 ブラジルでは、中国への安定的な輸出が期待できる大豆について、亜熱帯から熱帯の生産地において第一期作の品目として作付けされるようになり、その輪作作物としてのトウモロコシの生産および輸出が増加した。

 2015/16年度の輸出量については、ウクライナについては、干ばつの影響による生産量の減少を反映して減少する一方、ブラジルは増加する見込みである。また、アルゼンチンについては、減少見込みとして予測されているが、11月に行われた大統領選で輸出規制に否定的な野党候補が勝利したことから、生産者は政策変更の期待感から作付けを増やす可能性がある。また、仮に、新政権下で通貨の切り下げが行われた場合には、短期的には輸出増加につながるとみられている(注1)

(注1)ただし、中長期的に見ると輸入生産資材価格の値上がりから生産抑制要因となる。

 日本の輸入量に占める米国産のシェアは、2005/06年度に96%であったものが、米国の干ばつで生産量が減少し、史上最高値となった2012/13年度および2013/14年度には大幅に減少したものの、2014/15年度には86%まで回復しており、引き続き重要な輸入先国となっている(表2)。これは、大量のトウモロコシを安定的に輸入する必要のある日本にとって、米国産トウモロコシが(1)生産量が多く品質が安定している(2)集荷から輸出までのインフラが整っている(3)政治的なリスクがなく、安定した調達が可能であることなどが要因となっているものと考えられる。

 なお日本の輸入価格は、2014/15年度には1トン当たり2万6962円となっており、高値だった2012/13年度の3万2602円と比較して17%しか安くなっておらず、シカゴ価格が1ブッシェル当たり6.52ドルから、3.77ドルと42%下落していることを比較すると、為替などの影響が大きいことが推察される。

3 2015/16年度の需給見通し

 2015/16年度の米国のトウモロコシ生産量は、前年度より作付面積が減少したものの、過去最高であった2014/15年度に次ぐ1エーカー当たり169.3ブッシェル(1ヘクタール当たり10.6トン)の高い単収となったことから、136億5400万ブッシェル(3億4681万トン)が見込まれている。生育期に主要生産州で多雨となったことにより、単収の低下などが心配されたものの、生育期後半および収穫期に好天に恵まれたことから、史上第3位の豊作となった(表3)。

 現時点で2016/17年度の見通しを立てるにはいささか時期尚早ではあるが、2015年11月現在、農業情報会社であるインフォーマ社は、(1)トウモロコシの収益性が大豆を上回っていることおよび(2)2016/17年度が平年並みの天候で推移することを前提条件とすれば、作付面積は前年比1.9%増の9010万エーカー(3646万ヘクタール)程度になると予測している。

 以下に、2015/16年度の国内消費および輸出面について概観する。

コラム トウモロコシ種子の購入について(イリノイ州エレベーター関係者からの聞き取り)

 毎年7月4日の独立記念日ごろから収穫時期まで種子会社による新品種の発表会(フィールドデイ)が各地で開催され、生産者はほ場を比較することができる。種子会社は9月〜10月に収穫が終わると、収穫実績をつけて種子の販売を開始する。割引率は10日ごとに減少し、また、人気の高い新品種は売り切れる可能性がある。そのため、農家は早い時期に翌年の作付け(トウモロコシと大豆の割合など)を決定しており、年内までに90%の農家が種子の購入(面積の決定)を済ませているという(このため、収穫後から年内までの各作物の価格は、業界関係者にとって、翌年度の作付を予想するために重要)。種子会社は販売する種子を当年2月までに決定し、種子の生産を行わなければならない。

 トウモロコシの遺伝資源である原種は、種子会社ではなく遺伝資源提供会社が所有しており、種子会社は遺伝資源提供会社から購入し、それを交配して種子を生産している(ただし、種子会社による遺伝資源提供会社の買収も行われている)。トウモロコシ種子の販売については、モンサント社とデュポン社の子会社であるパイオニア社の両社で7割程度のシェアを占めている。

(1)飼料等向け

 2015/16年度は前年度に比べ、中国向け輸出の減少で行き場を失ったソルガムが飼料用に転用されるなどする一方、豚肉や家きん肉の生産量が増加し(図1)、飼料需要が増加すると見込まれることから、飼料等向けは、2014/15年度並みの53億ブッシェル(1億3500万トン)と見込まれている。

(2)エタノール向け

 2014/15年度のエタノールへの仕向量は、52億900万ブッシェル(1億3231万トン)と見込まれており、2015/16年度は、52億ブッシェル(1億3208万トン)と予想されている。

 米国のエタノール消費量は、再生可能燃料基準(RFS)(注2)に大きな影響を受けている。例えば、2013年の従来型再生可能燃料(トウモロコシ由来のバイオエタノール)のRFSは138億ガロン(5223万キロリットル)であり、これはUSDAが公表している換算係数(注3)を用いれば51億1000万ブッシェル(1億3000万トン)のトウモロコシに相当する。米国では一部寒冷地を除きE10とよばれるガソリンにエタノールを10%混合した自動車燃料がほぼ行き渡っており、燃料用のエタノールについては混合割合を増加させない限り、消費拡大の余地が限られている(表4)。

 さらに、2015年11月30日付けで米国環境保護庁がRFSの修正を行った結果、トウモロコシ由来のエタノールのRFSは、2014年は136億1000万ガロン(515万キロリットル。従来基準に比べ7億9000万ガロン減)、2015年は140億5000万ガロン(532万キロリットル。同9億5000万ガロン減)、2016年は145億ガロン(549万キロリットル。同5億ガロン減)と従来基準より減少することから、RFSに対応するトウモロコシ仕向量はほとんど増加しなくなることが見込まれる。

 RFSを超える数量は、中国向けをはじめとする輸出に仕向けられている。2014/15年度以降、国際砂糖相場が堅調なことからブラジルが砂糖生産に重点を置き、エタノールの生産量を減少させていることから、米国からのエタノール輸出に追い風が吹いている。

 エタノール生産に伴い生産されるDDGS(トウモロコシ蒸留かす)は、不作であった2012/13年度を除き、3600万トンから3700万トン程度で推移している(表5)。

(注2)再生可能燃料基準とは、2005年8月のエネルギー政策法で定められた、一定量の再生可能燃料を自動車燃料に混合することを義務付けている基準。現在では2007年12月に成立したエネルギー自立・安全保障法(新エネルギー法)で改定されたRFS(RFS2とも呼ばれる)が施行されている。

(注3)1ブッシェルのトウモロコシから2.7ガロンのエタノールと、17.5ポンドのDDGS(トウモロコシ蒸留かす)が生産される。

(3)飼料向けおよびエタノール向け以外の用途

 表3の「食品・種子・その他工業向け」から「エタノール向け」を除いた量は、2014/15年度に約13億8000万ブッシェル(3500万トン)となっている。この分の用途は、前出インフォーマ社の推計によれば、異性化糖(3分の1程度)、ブドウ糖およびデキストリン(20%強)、でん粉(15%程度)、アルコール飲料(10%強)、シリアル(10%強)の原料とみられ、その他に種子としても利用されている。異性化糖原料としての消費量は、わずかに減少傾向にあるとみられるものの、全体としては消費量が維持され、ほぼ横ばいとなっている。

(4)輸出

 2014/15年度の輸出量は、約18億6400万ブッシェル(4736万トン)と前年度比2.9%減、2015/16年度の見通しは17億5000万ブッシェル(4445万トン)と同6.1%減が予想されている(表6)。海上運賃や国内価格は下落しているが、他通貨に対してドルの為替レートが高く推移していること、ブラジルなどとの競合やソルガムへの代替が減少要因とみられている。

 各国の状況は以下のとおりである(表7)。

ア 日本

 米国にとっても最も安定した輸出先である。ほぼ全てのトウモロコシを輸入に頼り、飼料用途が大部分を占めている。2012/13年度は米国の干ばつによる生産量の減少と価格上昇の結果、ブラジル、アルゼンチン、ウクライナからの輸入が大きく増加し米国のシェアは5割を下回った。2014/15年度には米国の作柄の回復により再び米国のシェアが8割以上を占めたが、2015/16年度は米国産の一部がブラジル産に置き換わり、若干シェアが低下すると予想されている。

イ メキシコ

 2011年には、トウモロコシの消費量の6割以上を国内生産で賄っていた。国内需要は、飼料用よりも食用の方が多い。輸入トウモロコシの多くは飼料用に向けられるが、輸入先国はほぼ100%が米国である。2015/16年度にはわずかにブラジル産が輸入される見込みである。飼料用需要の一部は、中国への輸出減少で過剰感のある米国産ソルガムに置き換わる可能性がある。

ウ 韓国

 日本と同様にほぼ全てのトウモロコシを輸入に頼っており、飼料用が最も多い。輸入先国としては米国、ブラジル、ウクライナが多いが、各国の輸出価格により輸入先国のシェアが大きく変動する傾向がある。

エ コロンビア

 ある程度国内生産が行われているが、輸入が供給量の3分の2を占める。2012年まではアルゼンチンが主要輸入先国であったが、2015年5月に発効した米国-コロンビア自由貿易協定(FTA)によりそのほとんどが米国産に置き換わっており、米国からコロンビア向けの輸出量が増加している。

オ 中国

 国産トウモロコシの政府による買い入れ価格が米国産トウモロコシの価格よりも高かったため、2013年まで、米国から一定量輸入していた。しかし、国内で未承認の遺伝子組み換え品種であるMIR162の混入が検出されたことから、輸入不許可によるシップバックなどの問題が発生し、その後、米国からのまとまった数量の輸出は行われておらず(注4)、2015年11月末現在でも中国向け米国産トウモロコシ輸出の見通しは立っていない。なお、ウクライナ政府との政府間協定により、2014/15年度以降ウクライナから調達している。

 2014/15年度以降、米国産はソルガムやDDGS(トウモロコシ蒸留かす)の輸入が多く行われていたが、ソルガムについては輸入手続きの厳格化により減少することが見込まれている。

(注4)米国で普及しているが、中国では承認していない品種が他にも存在している。

4 トウモロコシの品質

(1)2015/16年度の状況

 米国穀物協会が2015年12月9日に公表した、全米620点のサンプル分析結果に基づく報告書によると、2015/16年度の品質は良好とされている。これは、生育期間全般を通じて天候に恵まれたことで作物のストレスが低下したことや、収穫期の9月から10月に温暖で乾燥した天候となったため、ほ場での乾燥が進んだことが要因であるとされている。この結果、容積重(ブッシェル当たりポンド)は、58.2ポンドとなり、サンプルの94%以上が2等級(USNo.2)以上と非常に良好とされた。また、水分含量は15.7%と昨年より低下している(表8)。

 ほ場での乾燥が進んだため、収穫後に加熱乾燥を行う必要がほとんどなくなったことから、ヒートダメージによる穀粒の変色や破砕などが少なくなり、トータルダメージの割合(損傷あるいは品質が劣化したトウモロコシの割合)が前年度より低下している。

 穀粒の化学組成では、たんぱく質含量が低下しているが、これは窒素の施肥量当たりの単収が増えたためであるとされている。ただし、主な仕向け先によって収穫地域を3分類(北西部港湾向け、メキシコ湾向け、テキサス州など中南部向け)した場合、北西部港湾向けが中心となる地域のたんぱく質含量は、直近3カ年間で最高の8.7パーセントとなった。

(2)たんぱく質含量の減少および破砕粒の増加の要因

 日本の飼料産業は、米国のトウモロコシに含まれるたんぱく質含量の減少や破砕粒の増加を懸念している。トウモロコシのたんぱく質含量が減少すると、より高価な大豆かすなどの混合量を増やしてたんぱく質を補う必要があることから、飼料コストの上昇につながる。また、破砕粒の増加は配合飼料の質の低下やカビ毒の原因となりかねない。現地の聞き取りでは原因については確実なことは言えないが、以下の要因が影響しているとの意見が聞かれた。

ア 品種改良による影響

 生産者がトウモロコシの品種を選ぶ基準として、現地の集荷業者の言葉を借りれば「1に単収、2に単収、3にも単収」と、圧倒的に単収が重視されている。その結果、大豆ほど顕著ではないとしつつも、高単収の品種になるほど、たんぱく質含量が少なくなる傾向がある。

イ 栽培や気象による影響

 作付時期や施肥の方法、生育期間中の気象によっても大きく影響を受ける。今年は、生育中期にあたる6月の多雨により、ほ場の窒素肥料が流亡したことや土壌水分が多く、根張りが十分でなかったことから窒素肥料の吸収が十分に行えなかったことが影響して、たんぱく質含量が減少するのではないか。

 破砕粒については、今年については前述のとおりほ場での乾燥が進んだことから、大きな問題は発生しないだろう。

ウ その他

 日本以外の国はUSNo.2のトウモロコシを輸入している一方、日本はUSNo.3のグレードのトウモロコシを中心に輸入している。このため、他国に比べると破砕粒などがどうしても多くなることに留意する必要がある。また、米国においてトウモロコシの精選技術が進み、出荷されるトウモロコシが基準をぎりぎり満たすレベルで輸出されることが多くなったことも一因であると考えられる。

5 2015/16年度の輸送の状況

 米国の穀物については、大量の穀物を一度に輸送することができるミシシッピ川などの内陸水運を利用したバージ(はしけ)や鉄道による輸送が行われている(表9)。

 2015/16年度の穀物輸送に関しては、原油価格安の影響などにより新規のシェールガス、シェールオイル開発が一段落したことや、掘削量が減少したことで、原油などの輸送が減少したことから、前年度に比べバージ、鉄道とも余裕があり、コストも安くなっている。海上運賃についても中国の石炭輸入の大幅な減少により、安価で推移している(表10)。

 生産者はトウモロコシ価格が高騰した2012/13年度に得た収入で保管庫を整備したため、収穫のかなりの部分を自家保管できるようになっており、収穫直後に安くトウモロコシが出回り、現物価格が下落する事態は以前に比べて少なくなっている。

 穀物の輸出経路について、前出のインフォーマ社は、メキシコ湾経由でアジアなどに輸出されるルートが全体の52%、鉄道により西海岸に輸送されてから海上輸送されるルート(PNWとよばれる)が24%、その他、鉄道で直接、あるいはヒューストン経由で海上輸送されてメキシコに輸出されるルートが18%などと推計している(図2)。なお、PNWの鉄道輸送は、アジアから輸入されたコンテナ貨物が西海岸の港湾を通じて国内に運ばれ、帰りの空コンテナを利用することにより、コストの低減が図られている。

 そのため、聞き取りによれば、韓国や台湾に輸出されるトウモロコシについては8割以上がPNWによる輸送が行われているとされている(日本は全輸出量の4分の1程度)。

6 まとめ

 2015/16年度の米国のトウモロコシの作柄は良好であり、品質面でも高い水準である。米国内の飼料やエタノール向けの需要は、特段増加する状況にはなく、米国内や海上輸送も順調であり、為替レート以外は、米国産トウモロコシの国際競争力だけを見れば不利な条件は見当たらない。米国のトウモロコシの在庫が積み上がることが見込まれており、これにより、生産者の手取り価格は、前年度をさらに下回ることが見込まれているが、為替レートがドル安に動かない限り、日本の需要者の調達価格が前年度より大幅に安くなることは見込まれない。

 また、米国産トウモロコシのたんぱく質含量の減少は、生育時の気象や栽培方法の違いのほか、品種改良の結果といった長期的な傾向も影響しているものと考えられる。日本の飼料業界は、他国が輸入しているUSNo.2よりグレードの低いUSNo.3の規格のトウモロコシを使用しているが、トウモロコシのたんぱく質含量が減少すれば、現状の配合飼料の品質を維持しつつ、製造コストを維持、削減することは容易ではないものと思われる。このことは、日本の飼料業界が米国産トウモロコシの供給の安定性を認めつつも、その調達の一部を南米産などにシフトする可能性があることを示唆している。


 
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